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    第三章:This Is Not a Film高木 瀾(らん) (1)関口 陽(ひなた) (1)関口 陽(ひなた) (2)高木 瀾(らん) (2)関口 陽(ひなた) (3)高木 瀾(らん) (3)関口 陽(ひなた) (4)関口 陽(ひなた) (5)高木 瀾(らん) (4)関口 陽(ひなた) (6)高木 瀾(らん) (5)高木 瀾(らん) (6)関口 陽(ひなた) (7)高木 瀾(らん) (7)関口 陽(ひなた) (8)高木 瀾(らん) (8)関口 陽(ひなた) (9)関口 陽(ひなた) (10)高木 瀾(らん) (9)関口 陽(ひなた) (11)高木 瀾(らん) (10)関口 陽(ひなた) (12)高木 瀾(らん) (11)高木 瀾(らん) (1)「あの……眞木さん……。これ、マズいよ……」
     撮影チームの久留間さんは、そう言っていた。
    「けど……他に方法が有りますか?」
    『おい……今、良く知ってる名字が聞こえたけど……お前、そっちで、何て偽名を使ってんだ?』
     私のモバイルPC上で立上ってるビデオ・チャット・アプリで会話している相手は……「御当地ヒーロー」ネットワーク「世界の守護神ローカパーラ」の久留米支部の後方支援チームの中で最も古株の権藤さんだ。
    眞木まきらんです」
    『あのさ……もっと、頭使った偽名を使えよ』
    「ぎ……偽名?」
    「ええ、偽名です」
    「何が……どうなってんだよ?」
     白いダブダブのジャージにサングラスの三〇過ぎの男……広島沖に有る通称「渋谷区」の自警団「四谷Heads」のMC富三郎だ。
    「やるのはいいけど……これ……この島Site04の『自警団』の面子メンツを潰す真似だよ。……判ってるの?」
     そう言ったのは、和装で腰に大小二刀を挿している女性……同じく広島沖に有る通称「新宿区」の自警団「四谷百人組」の藤井詩織。
    「とりあえず……この混乱を収拾するのが先でしょう。御協力願えますか?」
    「気に食わねえが……正論では有るな……」
    「でもさ……」
    「どうした?」
    「いや……何か、今から引き返し不能地点を……あっさり通り過ぎようとしてる気がすんだよね……」
    関口 陽(ひなた) (1) 私と、さっきまで私の試合相手だった笹原ささのはら、「入谷七福神」の毘沙門天班所属の良く知らない3〜4歳ほど齢上の先輩パイセン、そして、その先輩パイセンと同じ位のキャリアの人らしい……「寛永寺僧伽」のもっと良く知らない誰か。
     その下っ端4人は、1人の術者を護るように取り囲んでいた。
     「門」から次々と出て来る悪霊や魔物も……多少は知能が有るのか、本能的なモノかは不明だが、この辺りに居る中で、最も強い「気」の持ち主である、その人物を狙って来ている。
    「オン・マカラギャ・バゾロウシュニシャ・バザラサトバ・ジャク・ウン・バン・コク……」
     私達が護っているのは、「寛永寺僧伽」の子院の1つの№2クラスの人物。
     ヤクザに喩えるなら、直参2次団体の若頭副組長と言った所だ。
     私達は、次々と押し寄せる悪霊や魔物達を撃退していた。
    「おりゃあッ‼」
    「クソッ‼」
     悪霊や魔物は一体一体は弱いが、数が洒落にならない。
     呪文を唱えたりする暇は無く、精神集中も「気」の煉り方も中途半端な簡易式の呪法を使うしか無い。
     私の「炎」も、笹原の「光」も、最初の内に比べて、明らかに弱くなっている。
     簡易式の呪法は、手軽に使えて、すぐに発動するが、効率はクソ悪い。体力や気力・霊力は、どんどん消耗していっている。
    「いくぞ……」
     私ら下っ端4人の中心に居るヤツの「気」は……極限まで高まっていた。
     だが、それに気付いたのは、私達だけじゃない。
     私達が担当している「門」の向こう側に居る「何か」も……。
     それは……巨大な腕に見えた。頑丈そうな爪が生えた鱗だらけの黒く巨大な腕。
     しかし、モノ凄い炎が放たれた。炎と言っても……私には炎に見えているだけで、実際には「気」だ。
     多分、下っ端4人全員の力を合せたものよりも、デカい「気」。
     腕に見えたモノは瞬時に吹き飛ばされ……それは悲鳴のように聞こえた。
     門から全身に大火傷を負い片腕を失なった人型の魔物が転がり出てきた。
     もちろん、これまた、私にそう見えてるだけで、実態は、単に力の大半を消耗した形の無い魔物だ。
     そして、その魔物は消滅してゆき……いや……「門」から更に「声」が聞こえてくる。もちろん、この声も、本当の音ではなく、気配として感じたモノを私の脳が「声」に変換しているだけだ。
     「門」からは次々とバカデカい……つまり、かなり強力な……だが、さっきの攻撃で多少の傷を負ってる魔物達が出て来るが……。
     次の瞬間、私達のすぐそばに張られていた「隠形結界」が解かれる。
     そして、その「結界」の中に居た者達の「気」があらわになった。
    関口 陽(ひなた) (2)「妙・法・蓮・華・経・序・品・第・一」
    「オン・マカキャラ・ソワカ」
    「オン・バザラ・アラタンノウ・オンタラク・ソワカ」
     3つの声が轟いた。そして、3つの「気」の「縄」が球形の「門」に巻き付く。
     肉体を持たない……つまり、「気配」や「霊力」を通してしか、こちら側を認識出来ない魔物達からすれば、突然、強力な「気配」が3つも出現した事になる。
     魔物達は、慌てて「門」の中に戻ろうとするが……「気」の「縄」に阻まれ……そして……。
     瞬く間に「門」は消えた。取り残された悪霊や魔物も段々弱っているようだ。
     私は「残党狩り」に備えて、呼吸を整える。
     消耗した「気」が少しづつ回復し……。
    「待て……用心しろ」
     5つ出現した「門」の内、4つは、既に消えたか……消える寸前だ。
     だが、今まで動きが無かった最後の1つから……。
    「くそ……この時を待ってたのか……」
     私が所属してる「入谷七福神・大黒天班」の親分で、急造チームのリーダーでもある「大黒天」が舌打ちをする
     「地面」の下に出現した、最も巨大な「門」から次々と悪霊や魔物が出現して、他の「門」から出て来て、こちら側に取り残された悪霊や魔物を食らってゆく。
     そして……。
    「来るぞ……デカいのが……」
     だが……。
     それは……漆黒の奔流に見えた。
     最後の「門」から出現しようとしていた巨大な魔物を天空から攻撃したモノが居たのだ。
     だが、攻撃を受けた魔物も、とてつも無い「量」の禍々しい「気」の塊を相手に投げ付けた。
    「マジかよ……」
     ほぼ四角形のこの「島」の一番対馬寄りの「角」。その上空三〜四〇mの高度に6つ目の「門」が開いていた。
     その時、耳に付けていた無線機に着信。
    『例のトラックから抜け出したヤツが、島の角に有る民営刑務所の方向に向っている』
     ランからだった。
    「おい、どう云う事だ? その辺りに……」
    『その辺りで、ドローンのカメラに映らない「何か」が起きてる訳か』
    「何者なんだ、そいつは?」
     どうやら……その何者かが、行く先々さきざきで「異界」への「門」を開け続けているらしい。
    『そっちの携帯に送ったURIを開け。そこに中継動画をUPしてる』
    「URIって何?」
    『……』
    「どうした?」
    『そっちの携帯に送った動画サイトへのリンクを開いてみろ』
    「あのさ……最初から、そう言ってくれよ」
    「おい、どうした?」
     「大黒天」の爺さんが私に声をかける。
    「何か……撮影チームのドローンが、この騷ぎの原因らしいモノを見付けたみたいです」
    「どう云う事だ?……ん? 何だ、これ?」
     動画サイトの中継画像に映っているのは、おどおどとした様子で人っ子1人居ない「アメ横」を歩く男。
     キョロキョロと辺りを見回しているが……。
     格好からして変だ。
     頭の上半分は何かの機械に覆われている。目の箇所に有るのは小型カメラ……。だが……あくまでもヘルメット型の機械を被っているだけで、頭の上半分を機械に置き換えられた「改造人間」じゃないようだ。
     ヘルメット型の機械の後頭部からは太めのケーブルが延びている。そのケーブルの先端の様子を見る限りでは……本来はもっと長かったが、何かの拍子に千切れてしまったようだ。
     服装は……病院の入院患者みたいなパジャマに、安物っぽいサンダル。
     肌には……まるで昔話の「耳なし芳一」のように、到る所に何かの呪文らしき紋様が描かれていた。
    『頭に付けるモノが何なのかは判る。脳磁計だ』
    「何だそりゃ?」
    『脳の活動をリアルタイムで測定する機械だ』
    「それ、脳波計って言わない?」
    『原理が違う。言わば簡易式のMRIで、脳の活動を脳波計よりも高い解像度で測定する事が……おい、私の言ってる事が判らないなら、そう言ってくれ。他の説明のやり方を考える』
    「あ……ああ、MRIね。うん、知ってる……ちょっと待って」
     そう言って、私は耳の無線機を一端外す。
    「あの〜……MRIって何なのか知ってる人居ます?」
    「あのさ……」
     答えたのは、笹原だった。
    「今、話してるのが、あのお前のチビの科学技術顧問テクニカル・アドバイザーなら……あいつに聞けば済む話じゃないのか?」
     だが、「大黒天」の爺さんが、更に、とんでもない事を言い出した。
    「おい……この中継動画、変だぞ」
    「えっ?」
    「何で『アメ横』に、人っ子1人居ない」
     あ……そう言えば……。
    「あと……同時視聴者数3桁って……誰が見てんだ?」
    高木 瀾(らん) (2)『おい、ラン……お前、変な真似してないよなッ⁉』
     関口から通信。何故か動揺した声。
    「変な真似って何だ?」
    『ええっと……「アメ横」に人が居ない理由とか知らないか?』
    「避難させた」
    『……』
    「どうした? 用が済んだなら……」
    『ええっと……今、何て言った?』
    「避難させた。客も店の従業員も一切合切。島の中心部に誘導してる」
    『だ……誰が……避難誘導をやってる?』
    「現場要員は……見物に来てる他の東京の『自警団』の人達で、ルートの指示その他をやってるのは……『本土』の『御当地ヒーロー』の後方支援要員で手の空いてる人達」
     しばしの沈黙……。
    『お……お前……何やったか……判ってんのか?』
    「人助け」
    「ま……眞木さん……やっぱり、マズいよ、これ……」
     横から久留間さんが口を出す。
    「その話……何回目ですか?」
    『マズい。どう考えてもマズい。どれ位マズい事になるか見当も付かない程マズい……』
    「何で、人命救助したらマズい事になる?」
    関口 陽(ひなた) (3)「えっとさ……お前……何を言ってんだ?」
     後でバレたら、更にややこしい事になるので、上司である「大黒天」の爺さんに正直に自白ゲロしたが……問題が1つ。
     どう説明すれば良いか判らない。
    「で……ですので……私が、本土から連れて来た撮影のバイトが……いつの間にか、勝手に、住民の避難誘導をやってました……」
    「1人で出来る訳無いだろ」
    「えっと……見物に来てた、他の東京の『自警団』の連中に助けを求めて……」
    「いや、あいつらは前線要員がほとんどだろ……。避難誘導なんて手慣れてる筈が……」
    「……」
    「聞こえねぇよ」
    「…………」
    自白ゲロするなら、聞こえるように自白ゲロしろ」
    「『本土』の御当地ヒーローが、遠隔で避難誘導の指示を出してるようです」
     爺さんは、一瞬、唖然としたような表情になり……そして……。
    「おい、まさかと思うが……『本土』の御当地ヒーローをバイトに雇ったのか?」
    「……は……はい……」
    「まさか続きでアレだが……まさか、先月末のあの事件の……」
    「……は……はい……」
    「よもやとは思うが、『贋物の靖国神社』を焼いた馬鹿か?」
    「……は……はい……その馬鹿です」
     それも……「死んだフリをする」と云う、たったそれだけの為に、「紛物の東京」の自警団の中でも最大最強だった「英霊顕彰会」の本拠地にして聖地を爆破したのだ。
    「そいつの名前は……?」
    「知りません。『本土』の『御当地ヒーロー』は仲間にも本名を明かさないとか……」
    「知ってるよ。『御当地ヒーロー』としての名前だ」
    「『羅刹女ニルリティ』と……あと『ラン』って名前を使ってます」
    「あの化物の縁者か?」
    「えっ?」
    「名前からして……『護国軍鬼』の1人……『羅刹天ラーヴァナ』の関係者か?」
    「……すいません、そこまでは……」
    「今後、どうするかは……事が終ったに話そう……。この事態だ……立ってるモノは商売敵でも使うべきだろうな……」
     そうだ……。忘れてた。あいつも「役に立つなら敵でも使う」ようなヤツだった。そんなのがトラブルに居合せたら……何が起きるか……。
    「だが……明日から……この『東京』は……今日と同じでいられねぇかも知れんな……」
     横で聞いてた笹原は……まず、下を向いて額に手を当て……続いて、天を仰いで溜息。
    「お前……何で、魔法はピカイチなのに、他はイマイチなんだ?」
    「あ……もし、ここでの仕事、馘になったら、『渋谷』の連中に雇ってもらうってのはどうだ? さっきの台詞、ラップみたいに、ちゃんと韻を踏んでた」
    「あのな。馘の心配をする必要が有るのは……私じゃなくて、お前」
    高木 瀾(らん) (3)「状況は?」
     私は関口に連絡を入れる。
     どうやら、現場は小康状態のようだが……。
    剣呑ヤバい「異界」へのデカい「門」が2つ開いてる。小さいのは無数。あと、「御徒町」のあっちこっちで悪霊が出たり、式神や護法が勝手に活性化し出してる』
    「何だ、最後のは?」
    『「自警団」が町のあっちこっちに配備してるヤツだ。何か起きた時に、街頭監視カメラと併用して状況を確認したり、人間が現場に間に合わなかった場合に、遠隔操作したりとか……』
    「それにしては……」
     現場に出張った「自警団」は、小休止中のようだ。
    『ああ……違う2つの「異界」へのデカい「門」が開いたせいで……その2つの「異界」同士で冷戦が始まったみたいだ……。今は、一応、事態は治まってる……』
    「で……その『冷戦』は、いつ、本当の戦争に変って、核弾頭を積んだICBMが飛び交うんだ?」
    『おい……やめろ……。けど……本当に今は小休止だな……。ところで、この騷ぎの原因になったトラックが何か判るか?』
    「何となくは……」
    『じゃあ、ちょっと現場まで来てもらえるか?』
    「判った。お前のアパートの大家に連絡して、お前の部屋の部屋の鍵を開けてもらってくれ」
    『はぁっ?』
    「あと、この前のSite01千代田区の騒ぎの時に使ったあの2つは、どこに有る?」
    『あの2つって?』
    三輪バイクトライクと『水城みずき』だ」
    関口 陽(ひなた) (4)おせ〜ぞ、あと、何だよ、その格好は?」
     三〇分以上経って現場にやって来たランは……青っぽい迷彩風の模様のプロテクター付ライダースーツに、青いフルヘルメット。
     しかも、ヘルメットの目の部分はバイザーじゃなくて、小型カメラになっている。
     ご丁寧に脇にはガンホルダー、足には短剣。
     ついでに、しっかり防護系と隠形系の呪法がかけられてて、並の攻撃呪法なら4〜5発ぐらいは無効化出来そうで、そもそも術者からすると「気配」を補足とらえにくいので、攻撃呪法そのものが命中しにくくなっている。
    「そっちこそ、こっちがやったモノに、何、阿呆っぽいペイントをしてるんだ?」
     ランが、ここに来るのに使ったのは、この前の騒ぎの時に、本土の「正義の味方」からもらった三輪バイクトライクだ。
     私のアパートの裏に置いてたんだが……もらった後にやったファイアー・パターンのペイントが気に入らないらしい。
    「うるせ〜、こっちの勝手……」
    『がじっ♥』
    「何だ、今の声は……」
    「車載コンピュータのAIを入れ替えた。私が使ってる同じ型のヤツの車載AIのバックアップにな」
    「おいっ……」
    『がじぃ……』
    「ガジくん、このお姉ちゃんは君の事が嫌いなようだけど、気にする必要は無いよ」
    『がじっ?』
    「わけがわからん……」
    「あと久留間さんに頼んで、そっちの『自警団』から、あれを持って来てもらってる」
    「あれか……」
    「今後、要りそうなんでな」
    「あとさ……その服、わざわざ、持って来たのか?」
    「何が有るか判らんしな……」
     どうして、単なるバイトなのに、そんなモノを持って来たのか良く判んないが……それはともかく……。
    「ところで、これ、何だ?」
     そう言って、私は、トラックのコンテナ内の大量のコンピューターを指差した。
    「GPUだな」
    「ああ、なるほどGPUか、うん知ってる」
    「本当に知ってるのか?」
     横から笹原ささのはらが余計な口を出す。
    「ああ、あれだろ……SNSのゲーム中毒者のコミュニティで使われてるネット・スラング」
    「……」
    「……」
    「どうした?」
    「私の知ってる中で、一番重症のゲーム依存症の奴でも、もっとマシな答を返すだろうな」
    関口 陽(ひなた) (5)「GPUって言うのは、早い話がコンピュータの部品の中でも、単純な計算を同時に万とかそれ以上の単位でやるのが得意なモノだ。元々は、コンピュータのモニタに何かを写す為の部品だ。コンピュータの画面は、HD解像度でも約二百万画素……それを制御するには、並列計算が必要になる」
    「な……なるほど……」
    「で、それが、何百万・何千万の単純な計算を同時並列でやると効率的に出来るような計算問題に使われるようになった」
    「じゃあさ、コンピューターで出来る事は全部、そのGPUだか何だかにやられりゃ良くね?」
    「計算やプログラムの内容に依る。もの凄い高速動作が可能なCPU1つにやらせた方が効率が良い計算も有るし……あ、CPUって意味は判るか?」
    「CPUぐらい判るわい」
    「意味は?」
    「えっと……PCとか携帯電話ブンコPhoneに使われてる部品だろ」
    「何をやる為のモノだ?」
    「あ……だから、今、お前が説明してるGPUの従兄弟いとこか伯父さんか姪か祖父じいさん・祖母ばあさんか何かだろ」
    「……まぁいい。あと、並列計算をさせたくても、1つ前の処理が終らないと次の処理が出来ないように作るしか無いプログラムも有るし、ついでに、並列計算の方がプログラムが複雑になるんで、バグが出た場合に原因を特定したり、バグを治すのが難しくなる」
    「つまり、これは、向いてない計算も有るし、プログラムを作るのが難しいが、巧くプログラムを作りさえすればバカ速い計算が出来るコンピューターって事か?」
     そう訊いたのは笹原ささのはら
    「貴方は理解が早くて助かる」
     おい、何だ、この扱いの違いは?
    「で、そんなモノをトラックに積んで、何の計算をやってたんだ?」
    「どこでかは言えないが……似たモノを見た事が有る。それも……例の『霊が写ってる動画』を中継してたQ大の学者が関わってたモノだ」
    「例の『霊が写ってる動画』って、その……駄洒落?」
     ランは私の方を向き……。
     向いただけだ。
     表情かおは隠れてる、
     しかも、ヤツの来てる服には「隠形」の呪法がかかってるから気配も読みにくい。
     でも、1つだけ確実な事が有る。
    「おい、お前、ヘルメットで顔隠してるからって……私が気付かないと思ったか?」
    「今頃になって気付いたか。ああ、御推察の通りだ。ずっと、お前を阿呆を見る目で見てた」
    「お前、くびになったら、そいつと漫才やったらどうだ? ウチの地区に有る寄席よせを紹介してやるぞ」
    「こいつのボケにツッコミを入れ続ける自信が無い」
     笹原ささのはらの余計な一言に、ランが更に余計な返事を返す。
    「で、話を戻そう、似たモノってのは……」
    強化服パワード・スーツの制御システムだ」
    「はぁ?」
    「ちょっと待て……ええっと……『国防戦機』みたいなデカいヤツか?」
     私と笹原ささのはらは同時に疑問の声をあげる。
    「いや、人間サイズの強化服パワード・スーツだ」
    「おい……人間サイズの強化服パワード・スーツの制御コンピューターがコンテナ1つ分って、どう云う事だよ?」
    「簡単な話だ。人間サイズの強化服パワード・スーツの制御コンピュータがコンテナ1つ分なんて事態になったから……試作機1つ作って開発は中止された」
    「しかし……普通の強化服パワード・スーツの制御コンピューターなんて……その……」
    「ああ、例えば、高木製作所の『水城みずき』なら携帯電話ブンコPhoneの2〜3倍程度かな?」
    「じゃあ、これは……何だ? 小型コンピューターで済む事に、何で、こんだけのモノを作った?」
    強化服パワード・スーツは、着装してる人間の動きに合わせて力を増幅するものだ……。でも、人間の動きと、力の増幅には、ほんのわずかだが、時間的なズレが出る」
    「へ……? あ……あぁ、そう言う事か……。人間が動いてから、力を増幅するんで……力の増幅が始まるのは、動き出した一瞬後か」
    「お前にしては理解が早いな」
    「『お前にしては』ってどう云う意味だ?」
    「だから……少しは高級な強化服パワード・スーツには、着装してる人間の動きを予測する機能が付いてる……大概は、予備動作や筋電位の変化や周囲の状況などからな」
    「じゃ……これは……?」
    「多分……人間の脳内の状態をリアルタイムでモニタして……」
    「おい、こいつは横文字に弱いみたいだから……」
    「うるせ〜、どう云う意味だ?」
    「あ、判った。英単語はなるべく使わずに説明しよう。元々、あのQ大の学者は、人間の脳内の状態を計測・解析し続けて、その人間が次にどう云う動きをするかを予測するシステムを作った。作ったは良いが……」
    「この大きさになった、と」
    「『人間サイズの強化服パワード・スーツの制御』と云う目的からすると……『ふざけんな』としか言えないほど、非実用的な代物が出来上がった訳だ。結局、強化服パワード・スーツの着装者の動きの『先読み』は従来方式を改良する事で行なう事になった」
    「……じゃあ、これは、人間の脳の状態をず〜っと、調べ続ける為のモノで……」
    「しかも、人間の脳の状態を測定する機械を取り付けられてる人間が、このトラックに乗ってた……。つまり、このトラックでは、そいつの脳を、ずっと調べ続けながら……『霊が写ってる動画』の生配信をやってた」
    「そこから先が判らん……だが、ひょっとして……」
    「何だ?」
    「あの、ネットで中継されてた『霊が写ってる動画』は……このトラックには霊が見えてる人間が乗ってて、そいつに見えてる光景を再構成したものかも……いや……想像だが……」
     嫌な予感がしてきた……。
    「えっと……つまり……人間の脳の専門家が……霊的・魔法的なモノが『観える』人間の脳波みたいなモノを元に、そいつが観てる霊なんかを映像化する仕組みを作ったと……言い……たい……のか?」
    「お前、本当は……頭がいいのに、馬鹿のフリしてんじゃ……」
     私をからかおうとしたランだが、私と笹原ささのはらが青い顔になってるのに気付いたようだ。
     脳ミソに詳しい学者が、霊的・魔法的なモノが『観える』人間を使って……「実際に居るが肉眼では見えない霊的・魔法的なモノを映像化する」仕掛けを作る……そこまではいい。
     だが……その仕掛けを作った奴らの中に、霊だの魔法だのに詳しい奴が1人も居なかったとしたら……?
     もし、そうなら確実に言える事は2つだ。
     1つ。危険ヤバい事になる。
     2つ。危険ヤバい事になるのは確実だが、どこまで危険ヤバい事になるかは想像も付かない。
    高木 瀾(らん) (4)「どうした?」
     関口と「寛永寺僧伽」所属の女性の顔色が変った。
    「何ってったら言いか……そうだ……言っただろ、『魔法使い』の『気』や『霊力』を『観』たら、相手に『観』てる事を気付かれる可能性が高いって」
    「……ええっと……何か嫌や予感がしてきたな……」
    「霊とか魔法的な存在を『観』たら……『観』た相手にも影響を与える。だから……悪霊や魔物なんかは『観』える人間に寄って来るんだ」
    「ちょっと待て……だとしたら、その……悪霊なんかに寄って来られた人間は無事で済むのか……?」
    「ああ、普通は、ちゃんとした修行をせずに『観』えるようになった奴は、悪霊や魔物にり殺されかける。まぁ……その内の何割かは、私らの同業者の所に担ぎ込まれて助かり、更に、その何割かは……助かる為に修行なんかをやった結果、私らの同業者になる」
    「じゃあ……あの脳磁計を装着つけた奴を追うか……悪霊を呼び寄せる可能性が高い奴が、何故か悪霊にり殺されもせずに、そこらを歩き回ってる可能性が高い訳か」
    「ちょっと待て、こっちは勝手に動く訳には行かないんで、上に連絡する」
    「ま、こっちも一応な……」
     そう言って、関口と「寛永寺僧伽」所属の女性は、どこかへ無線で連絡し……。
     私の説明を聞いて以降、あまり良くなかった顔色が更に悪くなった。
     それも2人揃ってだ。
    「どうした……?」
    「すまん……うっかり、一番の偉いさんに直接連絡を取っちまって……」
     関口は、困ったような顔でそう言った。
    「それがどうした?」
    「ウチの一番の偉いさんの内、2人が『面白そうだから、俺達にも手伝わせろ』って言い出してきやがった」
    「心強いな」
    「あのな……私は、ウチの『自警団』の一番偉い奴に監視されながら仕事する事になるの」
    「すまん……私達は、そんなに上下関係にうるさくないんで……何が嫌なのか、イマイチ、理解出来ん」
    「いいな……本土の『正義の味方』は……」
    「こっちはもっと悪い」
     そう言ったのは、「寛永寺僧伽」所属の女性。
    「何だ?」
    「ウチの『自警団』の中で、最近、失敗続きの連中に汚名返上のチャンスを与えろだとさ……」
    「はぁ?」
    「どう云う事だ?」
    関口 陽(ひなた) (6)「お前……『護國院』と何か有ったのか?」
     応援に来た連中が私を見た瞬間、表情が変ったのを見て笹原ささのはらがそう訊いた。
     「寛永寺僧伽」の「2次団体」は、「本物の東京」に有る(もしくは有った)「本物の寛永寺」の子院の名を名乗っている。
     やって来たのは……その2次団体の1つ「護國院」の連中が二十名ほど。
     ほぼ全員が、ガタイのいい二〇代〜三〇代の男だ。
    「あいつらの面子メンツを潰した」
    「えっ?」
    「先月末にウチとあいつらが千代田区Site01で『決闘』をした事が有っただろ」
    「『秋葉原』の『自警団』を怒らせて、全員、捕虜になったアレか?」
    「あん時……結果的にだが……私があいつらを助けた事になってしまって……」
    「やれやれ……うかつに人助けなんてやるもんじゃないな……。特にひがみっぽい馬鹿男どもを助けるなんて、もっての他だ」
    「すまん……私は……あいつらをブチのめした」
     横からランがとんでもない事を言い出した。
    「はぁっ?」
    「おい……8月に千代田区Site01で、あいつらを叩きのめした『本土』の『正義の味方』って……」
    「私と私の兄貴分だ」
    「あいつらは汚名返上をするつもりだったのに……その『汚名』の原因が、ここに揃ってる訳か……」
    「あまり使える連中に思えないが……何で出て来た?」
    「おい……奴らに聞こえる所で言うなよ。今のウチのトップが、あそこの先代の『院主』だ」
    「そう云う事情か……そっちのトップの子飼の部下の評判がダダ下がりなんで、手柄を立てさせないと……」
    「ああ、言いたかないが、ウチの『自警団』内の『政治問題』だ」
    「おう……揃っとるな」
    「目標の場所は判っとるのか?」
     続いてやって来たのは、私達「入谷七福神」の「制服」であるスカジャンを着た六〇ぐらいのおっさんが2人。
     1人は背は高めでスマートな体格……もう1人は背は低くて小太り気味。
     2人とも歩道でも走行可能な電動スクーターに乗っている。
     背の高い方は、私が所属する「大黒天班」のリーダーで、小太りの方は、同じく「入谷七福神」を構成する7つのチームの内の1つ「恵比寿班」のリーダーだ。
     私達「入谷七福神」の7人のトップの内の2人にして創設者。血の繋りが有ると云う話は聞いた事が無いし、体格は全然違うのに、顔は兄弟のようにどことなく似ている……ように見える。
    「非常時にトップがわざわざ現場に出るのか? 何か有ったら指揮はどうする気だ?」
    「お……おい……」
     違う「自警団」とは言え、体育会系気質らしい「護國院」の連中が、十代の小娘のクセに六〇ぐらいの男に向かって思った事をズバズバ言うランを見て、更にピリピリした表情になる。
    「あんた……久留米の『羅刹天ラーヴァナ』のチームもんだろ」
    「ああ」
    「なら、おいら達も、あんたの先輩パイセンと組んで『仕事』をした事が有る。あんたのチーム風天ヴァーユも、確か、おいら達より齢だが現場に……」
    「あの人は、九月に他界した」
    「へっ?」
    「マジかよ……」
    「あの齢で自分が現場に出るような真似を控えれば、もう少し長生き出来たかも知れないな。貴方達も気を付けた方がいい」
    「お……おい……。お前……少しは……」
     私より先に、そう言い出したのは……「護國院」の院主だった。
     だが、大黒天の爺さんが片手を上げて、それ以上言うのをやめさせる。
    「若いの……あんた、『羅刹天ラーヴァナ』『風天ヴァーユ』『伊舎那天イシャーナ』の内、どいつの弟子だ?」
    「3人全員が、私の師匠だ」
     ランのその答を聞くと、「大黒天」と「恵比寿」は顔を見合わせ……。
    面白おもしれえ……口の悪さも師匠3人分か……」
    「みてえだな、兄弟きょうでえ
    高木 瀾(らん) (5)「おい、チビ、お前、何を言ってんだ?」
     夏にブチのめした「寛永寺僧伽」の大男(顔は隠してるが、どう考えても、私がこいつをブチのめした奴だと気付いてる)は、いきなりそう言った。
    「だから、目標を居場所を知らせる必要が有るから、2つの『自警団』で共通して使える連絡手段は無いか? と言ってるんだ。もう少し噛み砕いた、小学生でも判る説明がお望みなら、少し時間をくれ」
    「てめぇ、俺を阿呆だとでも……」
    「ああ、そう言ってる」
    「あ〜……すまん、ウチと『寛永寺僧伽』では使ってる無線機の規格が違う」
     「入谷七福神」のリーダーの御老体2人の内、小太りの方がすまなそうに、そう言った。
    「じゃあ、複数の『自警団』が共同作戦をやる場合は、どうするんだ?」
    「……携帯電話ブンコPhoneか……あとは……通信アプリMeaveで……」
     次は背が高い方の御老体。
    通信アプリMeaveのグループ機能を使うか?」
    「わかった、今、グループを作る」
     そう言って、「入谷七福神」の御老体2人は携帯電話ブンコPhoneを操作し……。
    「おい、携帯電話ブンコPhone通信アプリMeave入れてる奴は、全員、このグループに入れ」
    ひなた、あと『護國院』の大将、ドローンを操作してる奴らに、このグループを連絡しろ」
    「は……はい……」
    「あ……ああ……」
    「じゃあ、説明します。対象は霊的・魔法的存在を『観』る能力は持ってるけど、魔法や超能力のたぐいを使えるかは不明。行く先々で悪霊を呼び出してます」
     「寛永寺僧伽」の女性がそう言うと、ほぼ全員の携帯電話ブンコPhoneから通信アプリMeaveの通知音。
    『対象らしき人物を発見。御徒町刑務所の付近』
    「なあ……私、霊感は、ほぼゼロ何だが……」
     私は関口に訊いた。
    「何だ?」
    「御徒町刑務所の辺りに……何か『観』えるか?」
     私のその一言を聞いた、ほぼ全員が、ほぼ同じ方向を見付ける。
    「えっと……」
    「ああ、刑務所の上空に剣呑ヤバい『異界』へのデカい『門』が開いてる」
    「じゃあ、その刑務所の職員や受刑者は……?」
    「……多分、無事じゃない」
    高木 瀾(らん) (6)「だから、対象ターゲットは、どこだ? はぁっ?」
     「寛永寺僧伽」の「護國院」とやらのリーダーが無線通話でどなり散らしていた。
     携帯電話ブンコPhoneの画面を観ると……。
    『対象の位置は判りますが、そちらの位置が不明です』
     しまった……。
     今使っている通信アプリのMeaveは、あくまで一般向けの携帯電話ブンコPhoneアプリだ。
     当然ながら、プライバシー保護その他の観点から、こちらの携帯電話ブンコPhoneに搭載されてるGPSの情報が他人に送信される訳じゃない。
    『俺の携帯のGPSは登録されてる筈だ。それで俺達の位置を特定しろ』
     続いて「入谷七福神」の御老体の片方からのメッセージが表示される。
    『すいません。私ら、元々は、イベントの撮影チームなんで、その手の機密情報を知らないんです』
     ドローン操作チームから更に返信。
    「何で、こうなった……?」
    自警団この稼業を始めた頃を思い出すな、兄弟きょうでえ……」
    御徒町ここは、3つの『自警団』が共同で治安維持活動をやってる区域だって聞いたが……」
     私は、ある疑問を口に出した。
    「それが、どうした?」
    御徒町ここを管轄してる共同チームだったら、他の『自警団』のメンバーとの連絡網を持ってんじゃないのか?」
    「俺達が出しゃばってきたから話がややこしくなった、とでも言いたいのか?」
     また、デカブツがブチ切れる。
    「ああ、その通りだ」
    「ブチのめすぞ、チビ」
    「またブチのめされたいか、デカブツ?」
    「やっぱり、てめえ、あの時の……」
    「とっくに気付いてると思ったが……」
    「うるせえぞ、チビ。相手の言ってる事を鸚鵡返しにして論破した気になるのは阿呆の証拠だ」
    「なら、事実だけを指摘させてもらおう。あんた達は私達をブチす事が出来なかった。私達はあんた達をブチのめすのに成功した。あと何回、あんた達をブチのめせば、この事実を御理解していただけるのかな?」
    「もういい。『護法』を使える奴は、全員、飛ばして、対象ターゲットを探せ」
     先行きには不安しか無かった。
    関口 陽(ひなた) (7) 護法童子を呼び出し、私の感覚と護法童子の感覚を同調させる。
     まだ、慣れない。
     数日前まで英彦山ひこさんでやってた「修行」は、主にこれが出来るようになる為だったが……「魔法」の多くが「センスの有るヤツなら二十はたち前で出来るようになるが、センスが無いヤツは、どんなチート級の霊力量を持っていようが、何十年修行しても出来ない」モノであるように、これをちゃんとやるのにもセンスが必要らしい。
     周囲の光景が一変する。
     私達人間は、視・聴・臭・味・触の五感で世界を認識している。
     しかし、霊体である護法童子は魔力・霊力・気と言った……要は「気配」で世界を認識している。
     同じ世界、同じ時、同じ場所に居るのに認識しているモノは全く違う。
     だから、護法童子が認識しているモノを理解するには、脳内での翻訳作業が必要になる。
     なので、私は少し前までそれが出来なかったせいで、護法童子を「目で見える範囲」の外まで飛ばす事が出来なかった。
     そして、翻訳に喩えるなら、まだ、私はバイリンガルには程遠い。
     精神を集中させ続け、頭をフル回転させ続けないと、護法童子から送られて来る情報を理解する事が出来ない。
     今は……まぁ、何とか、護法童子に「前に行かせる」つもりだったら、本当に前に行ってくれる程度には……いや、冗談抜きで、護法童子にとっての前が、私の意図した「前」なのかさえあやふやなのだ。
     周囲には……人間らしきモノの「気」が「観」える。
     更に悪霊や魑魅魍魎のたぐいが「観」える。普通は非活性化状態にある筈のそれらがやたらと目を覚ましている。
     その中に、かなりの数、人間の「魔法使い」に使われている「霊体」に特有の「パターン」が有った。
     その「パターン」を私の脳は「霊体に描かれた梵字」に「翻訳」していた。
     多分、一緒に行動してる「寛永寺僧伽」の連中の「護法童子」なのだろう。
     それ以外の活性化している霊体を追う。
     活性化している霊体が多い場所……クソ……それらしい場所は有ったが……物理的にどの方向かまでは……判らない。
     だが、その中心に……。
     ……神代文字で構成された人間の形をした「何か」……。
     もちろん、「神代文字」の多くは、後の時代に捏造されたモノで、本当に太古の日本で使われてた文字じゃない。
     だが、人間が使う「魔法」の産物がそこに有る……もしくは居るらしい事だけは確実だ。
     神代文字に「観」えたのは……その「魔法」の「術式」の「パターン」からして「自称・古神道」系の術の可能性が高いから、私の脳が、そのような「姿」に「翻訳」したのだろう。
     危険だが……より詳しく「観」てみる。
     「観」ると云うのは……こちらの気や霊力を送り、その反応を確認する事。
     「観」る事で詳しい情報を得ようとすればするほど……相手に気付かれる可能性が高まる。
     神代文字で出来た人型の表面に、いくつもの細波さざなみ
     どうやら……私以外にも、こいつを探ってるヤツが居るらしい。
     多分、今、一緒に行動してる連中の誰かだろう。
     神代文字の正体……それは……人間を守っている防御魔法。
     そこまでは判った。でも……中の人間の情報もまた、その「防御魔法」で隠蔽されている。
     年齢は? 性別は? 健康状態は?「魔法使い」か一般人か? 気や霊力の量はどの程度か?……それらは何も判らない。かろうじて、生きた人間らしい事だけが……。
     その時、強力な光が、そいつの「目」から放たれた。
     いや、これも、私の脳が、そう「翻訳」した結果だ。
     単に、そいつは、周囲に居るモノを認識しようとしただけだろう。だが、それに伴なって、強力な「気」が……。
    「うわあッ‼」
    「お……おい、大丈夫か?」
     声をかけたのはランだった。
     相手からすると「認識」だが、こっちからすれば「攻撃」にしか思えないモノを食って、私の意識は……えっと、途切れたと言うべきか、目覚めたと言うべきか……。
    高木 瀾(らん) (7) どうやら、対象ターゲットの位置は何とか把握出来たらしい。
     しかし、関口から護法童子とやらで対象ターゲットを探している時に、何が起きたかの説明を聞いて、ある疑問が浮かんだ。
    「なぁ……対象ターゲットは、私をどう認識すると思う?」
    「へっ?」
    対象ターゲットは物理的な世界と『気』だか『霊力』だかの世界を同時に認識してるんだろ。なら、『隠形』の呪法がかけられた服を着てる私は、対象ターゲットにどう認識される?」
    「どうって?」
    「例えば、姿は見えるのに足音はしないようなモノか、逆に、足音はするのに姿は見えないようなモノか、どっちが近い?」
    「なるほど、そう云う事か……わからん。大まかな居場所だけはつかめたけど……ええっと……その喩えだと……」
    「相手が視覚がメインで聴覚がサブか、逆に聴覚がメインで視覚がサブかまでは不明な訳か」
    「あ……まぁな……」
    「じゃあ、あくまでプランBかプランCだが……」
     そう言って、私は三輪バイクトライクの荷物入れから、あるモノを取り出した。
    「おい……何だ、そりゃ?」
    「有効射程は一〇mって所かな。余程、当たり所が悪くなければ、対象ターゲットは眠るだけで死なない」
    「い……いや、待て、何で、そんなモノまで持ち込んでた?」
    「万が一の場合の為だ」
    「ちょ……ちょっと待て、何を勝手な事……」
     「寛永寺僧伽」のデカブツが何か言うのを、「入谷七福神」の御老体が手を上げて止める。
    「あくまでプランBだ」
     さて、プランをやる羽目にならなければ良いのだが……。
    関口 陽(ひなた) (8) 対象ターゲットは「御徒町刑務所」前の通りをうろついていた。
     私とランは近くの雑居ビルの2階のベランダから対象ターゲット見下みおろしていた。
     と言っても、対象ターゲットの周囲には、無数の悪霊・魑魅魍魎がうごめいていて、霊感が無いヤツなら対象ターゲットを目視出来るだろうが……逆に私からすると、対象ターゲットの姿は悪霊・魑魅魍魎どもに隠れてしまっている。
    「お前さ……あんなズバズバ言ったら後で……」
    「相手が先輩でも自分のチームのリーダーでも言いたい事をズバズバ言うのが、私達の流儀だ」
    「でもなぁ……あそこまで言ったら、その内……」
    「もう1つ理由が有る。あそこまで言ったら、その内に、闇討ちにでも遭うって言いたいんだろ?」
    「まぁな……」
    「私達は『正義の味方』と呼ばれてて、自分達でもそう名乗る事が有る。でも……多分、私は、ある理由から、自分が目指す『正義の味方』に成れないだろう」
    「何の事だ?」
     そう言いながら、私は携帯電話ブンコPhoneに、あるメッセージを入力し送信する。
    「どうやら、私には、ある感情が欠けているらしい」
     私が送ったメッセージに返信が来た。
     下では、ウチのトップ2人と「寛永寺僧伽」の連中が、悪霊・魑魅魍魎の群れを撃破しながら、少しづつ対象ターゲットに近付いている。
    『やんなきゃ駄目?』
    『やるしかない。タイミングは、そっちが指示してくれ』
     携帯電話ブンコPhoneの画面には、そんなやりとりが表示されている。
     私は片手を上げる。
     ランは私に簡易型のガスマスクと防護ゴーグルを投げる。
    「これでいいか?」
     ランはうなづき……。
    「来たか?」
    「ああ……」
     念の為に、簡易式の結界を張っていた。
     防御用の結界じゃない。
     何者かが、その結界内に侵入したら、私はその事を感知出来る。
     そして、生きた人間数名が、ここに近付きつつ有る。
     でも、何か変だ。
     予想通り相手も「魔法使い」系なら、結界の存在を感知出来る筈。
    「5・4・3・2・1……0っ‼」
     ランが窓ガラスを叩き割り、中に有るモノを投げ込む。
     そして、私達は、ベランダから飛び降りる。
     一応、簡易式の命綱を付けてるので、落下速度は小さくなってる……筈だ。
    「えっ⁉」
     次の瞬間……予想外の音がした。
     銃声と悲鳴が同時。
     悲鳴は、ランが投げ込んだ催涙ガス筒によるモノだろう。
     でも……銃声は……まぁ、「魔法使い」系が銃を使っちゃ駄目なんて戒律きまりは聞いた事が無いが……。
     悪霊・魑魅魍魎の一部が私達がさっきまで居た雑居ビルの2階に向かう。
     多分、私達の狙ったヤツが催涙ガスによる苦痛のせいで、気配を隠しきれなくなったのだろう。
     だが、周囲の悪霊・魑魅魍魎は、私とランには気付いていない。
     私とランは「隠形」の呪法で気配を隠している。霊感は有っても、視覚・聴覚は無い悪霊・魑魅魍魎にとっては、私達は居ないも同……いや、視覚・聴覚を持ってるヤツが居た。
     目の部分がカメラになってる鼻から口にかけてだけが剥き出しになってるヘルメットを付けた男がこちらを向く。
     私の目には……そいつの肌に彫られているタトゥーが光っているように見える。
     だが……それは……そいつを護る防御魔法が活性化している為で……多分、霊感が無いヤツにとっては、タトゥーが光っているように見えないだろう。
     近くに小さな「異界」への「門」が開く。
     なんてヤツだ。「観」るだけで「異界」への「門」を開けるのか……。
     だが、私の力でも、その「門」を閉じる事は……。
    「待て、今、何か『魔法』を使おうとしたか?」
    「あ……ああ……」
    「そんな事をしたら『隠形』が解ける可能性は無いのか」
    「あ……そうか……でも……この状況だと……」
    「私には見えないから良く判らないが……余程の事が無い限り、何もしなければ、当分、私達は無事なんだろ?」
    「ああ……」
     だが、次の瞬間、地面に激突音。
    「ぐりゅっ‼」
    「ぎゃうッ‼」
     B級ホラーのゾンビ……ただし死にたてで、まだ腐ってないの……に見えない事もない、スキンヘッドの男が2人。
     首には、「寛永寺僧伽」の「制服」代りであるゴツい数珠を付けてる。
     どうやら……私達を狙ってたヤツが悪霊・魑魅魍魎に取り憑かれ……凶暴化したようだ。
     と言っても……飛び降りて地面に激突したせいで、足を折ってしまったらしい。
    「あの状態で、奴らは『魔法』を使えるのか?」
    「多分、無理。凶暴化して暴れるだけ」
    「そうか……」
     ランは両脇のガンホルダーからテイザーガンを取り出して、一発づつ撃つ。
     ゾンビもどきと化したスキンヘッド達は……大人しくなった。
     ただし、一瞬だけ。
     ごぎゃっ‼ ごぎゃっ‼ ごぎゃっ‼ ごぎゃあああっ‼
     ゾンビもどきの体中の関節と言う関節から嫌な音がする。
    「何が起きてる? 判るか?」
     ランの声は、おそろしく冷静。
    「た……多分だけど……筋肉が麻痺してんのに、取り憑いてる悪霊が無理矢理体を動かそうとしてる……っぽい……」
    高木 瀾(らん) (8) 私は背中からバタフライ・ナイフを大きくしたような「刀」を抜く。
     しかし、刃を出さないまま、柄でソンビもどきになったヤツの片方の頭を殴り付ける。
     手応えからして、脳震盪が起きている筈なのに……まだ、動き続けている。
    「なぁ、こいつら無視してても、私達に害は無いのか?」
     私は関口にそう訊いた。
    「害って?」
    「怪我してる上に麻痺してる体を無理矢理動かそうとしてるから、動きがにぶい。放っておいても大丈夫な気がするが……それで問題無いか、確認してるんだ」
    「あ……ああ、大丈夫だと思う」
     私達「御当地ヒーロー」「正義の味方」が顔を隠しているのは、身元がバレるのを防ぐ為だけじゃない。
     そして、私の父方の伯父は日本最初の「御当地ヒーロー」「正義の味方」の1人にして、その組織ネットワークの創設者。
     私の両親と近接戦闘術の師匠は、その伯父が最初にスカウトしたメンバー。
     父方の親類達と母方の大叔母が、その組織ネットワークを支援するシステムを生み出した。
     つまり、私は、「御当地ヒーロー」「正義の味方」の文化にどっぷりと漬かって育った。
     なので、私達とやってる事は似ていても、文化が違う「NEO TOKYO」の「自警団」達が、顔も隠さず、頭部・目・呼吸器などを保護する為の防具も付けていない事に関しては……イマイチ理解出来ない。
     だが、関口は、今、私が渡した防護ゴーグルと簡易式の防毒マスクを付けている。しかも、ゴーグルはミラーグラスタイプのヤツだ。
     顔を隠すのは、頭部の防御や正体を隠す以外にも、多くの利点が有る。主に近接戦闘においては。
     例えば、表情や視線の向きは、戦っている相手に多くの情報を与えてしまう。それを隠すだけでもメリットは大きい。
     だが……。
     関口は何かを気にしているようだが……防護ゴーグルと簡易式の防毒マスクのせいで、視線の向きや表情が判らない。
    「まあ、いい。とっととケリを付けるぞ」
    「お……おい、待て……」
    関口 陽(ひなた) (9) 私達の周囲では、悪霊や魑魅魍魎どもが大喧嘩を始めていた。
     「寛永寺僧伽」の2人に取り憑いた悪霊は、人間の目や耳を通して、私達の存在を認識出来てはいる。
     そして、私達の存在を、仲間の悪霊に教えている……らしい。
     だが、肝心のその他の悪霊どもは「隠形」の術のせいで、私達を認識出来ない。
     認識出来ない私達を何とか攻撃しようとした結果……別の悪霊や魑魅魍魎を攻撃してしまい……更に攻撃されたヤツは反撃し……悪霊同士の小競り合いがどんどん拡大していっている。
    「なぁ、こいつら無視してても、私達に害は無いのか?」
     その時、ランは寛永寺僧伽のヤツらの片方を殴り付けた後、私にそう訊いてきた。
     普通なら気絶してる所だろうが……悪霊が取り憑いてるので体は動かせる。
    「害って?」
    「怪我してる上に麻痺してる体を無理矢理動かそうとしてるから、動きがにぶい。放っておいても大丈夫な気がするが……それで問題無いか、確認してるんだ」
    「あ……ああ、大丈夫だと思う」
     私からすれば「何呑気な事言ってんだ」って感じだが、こいつは霊感がほぼ0みたいなんで、周囲まわりでどんどん拡大してる騒動に気付いてない。
    「まあ、いい。とっととケリを付けるぞ」
     そう言って、ランは腰の背面に背負っている革のケースから小型の弓と、麻酔薬付の矢を取り出した。
    「お……おい、待て……」
    「何だ?」
     ランがそう言ったのは、矢を放った後だった。
    「あ……あのな……私達はプランBだっただろ」
    「まぁ、そうだが……」
    「あのさ……私達を恨んでる奴の面子をこれ以上潰したら……」
     ドテン。
     何者かが倒れる音。
    「まずかったかな?」
    「……と思うが、もう遅い……」
     対象ターゲットは、あっさりと、麻酔薬で眠っていた。
    「あのさ……お前は『本土』の人間だからいいだろうけど……私は、この東京に住んでて……しかも、奴らに身元がバレてんだぞ」
     私の声は……自分でも意外な事に、妙に冷静だった。
    関口 陽(ひなた) (10)「そうだな……」
     ランは対象ターゲットが頭に被っている機器を取り外しながら、何かを考えてるようだった。
    「ここに居る限り、僻みっぽい阿呆どもに狙われるんなら、ウチに来るか?」
    「へっ?」
    「ここの『自警団』辞めて、ウチのチームに入るか? 丁度、久留米チームには『魔法使い』系が少ないんでな」
    「んな、簡単に……」
    「待てよ……。他の組織からの足抜けを手伝う事業を始めるのも悪くないかも知れないな」
    「おいおい、そんな……えっと、まさか、お前、そのとしで『本土』の『正義の味方』中では大物なの?」
    「そんな訳、有るか。私が二〇はたち以上に見えるか? このとしで大物なら、私は幼稚園か小学生の頃から『正義の味方』をやってたとでも言うのか?」
    「じゃあ、そんなアイデアが有っても……」
    「いや、ウチは面白いアイデアを出せば、出した奴が新人だろうと採用される」
    「どう云う組織だ?」
    「組織であって組織じゃない」
    「へっ?」
    「私達は自分達の『組織』を『組織』とは呼ばない。どうしても、『組織』に相当する呼称を使う必要が有る場合は『ネットワーク』って言い方をする。そう表現するしか無いモノだからだ」
     だが、その時、ランの手が止まった。
    「嘘だろ……」
    「何が有った?」
    「今回の騷ぎの元凶は……Q大の学者らしいって事は言ったよな……」
    「ああ……」
    「だが、研究費は大学から出たモノじゃない。確実に大学の倫理委員会からNGが出る。下手したら、やろうとした事がバレただけで懲戒処分だ」
    「どう云う……おい……これ……まさか……?」
     ターゲットの顔は……男性だが、二十代〜四十代のどれにも思えるような顔。
     やや、痩せ気味。髪は短め……少し前までスキンヘッドだったのかも知れない。
     顔の感じからは……異様なまでに「どんな性格で、これまで、どんな人生を辿ってきたか?」が推測出来ない。
     対象ターゲットの肌には、見える範囲内で「防御魔法」らしき呪紋が描かれていた。
     特徴は、それ位だ。
     町中で見掛けたら……肌の呪紋が無かったとしても、特徴が無さ過ぎて逆に違和感を覚えるような……そんな顔だった。
     ただし、額にだけ、呪紋では無い刻印が入っていた。
     数字とアルファベットの羅列。
     まるで、大量生産品の製造番号のような……。
    「先月末の事件で見ただろ……これ……。こいつは『従民Subject』……『正統日本政府』が作った脳改造人間だ……」
    高木 瀾(らん) (9) 倒れた男の頭部の脳磁計を外すと、私にも理解可能な……そして「魔法」とは明らかに何の関係も無い文字列が描かれていた。
     ……「LJG Subject:」……そして、何桁ものシリアル番号。
     「本当の関東」を中心に活動するテロ組織「正統日本政府」(もちろん、わざわざ「正統」と名乗ってる時点で、自分達を「正統な日本政府」だと認めてる人間は居たとしても絶滅危惧種だと云う事は自覚している)が兵士や労働力として、作り出した「脳改造人間」だ。
     なお、脳改造と言っても、脳の機能が改造前より上がる訳では無い。
     むしろ下がっている。
     早い話が……脳内の「自由意志」に関する部位を破壊された人間こそ……この「従民Subject」と呼ばれる者達だ。
     「正統日本政府」は、自由意志を持つのは一部の特権階級のみで良いと考えている。
     もちろん、いくらテロ組織でも、そんな思想の組織が巧く運営出来る訳が無い。
     それでも、「正統日本政府」が富士の噴火以降、十年にも渡って、存続しているのは……この「従民Subject」を他のテロ組織・犯罪組織に販売しているお蔭だ。
    「しかし、どう云う事だ? 脳を改造したら、霊視が出来るようになるなんて話は聞いた事が無いが……」
    「あ〜、私に訊いてんなら……知らん。どんな極悪な『魔法使い』でも『脳改造したら、変な能力が得られるか?』なんて実験は、多分、やんないし、普通は思い付かない。ただ……」
    「ただ、何だ?」
    「元から『観』えてる奴に、たまたま、脳改造をしちまったら……『観』える能力が暴走したの……かも…‥。いや、確実じゃないけど……」
    「なるほど……たまたま、その手の能力が有る人間を脳改造したら、次々と、今、ここで起きてるのと似た事が起きた。そして……逆に『脳改造した結果、心霊現象を起こすようになった人間』を何かに使えないかと実験をした訳か」
    「そんな所だろうな……この呪紋は……こいつ自身が起こす心霊現象から、こいつを護る為のモノって所か……」
    「なら……一件落着ミッション・コンプリートか? じゃあ、残った問題は『目が覚めたら心霊現象を次々と起こす奴をどうするか?』と『僻みっぽい馬鹿どもから、どう逃げるか?』だな」
    「いや、全然」
    「はぁ?」
    「お前、霊感が、ほぼゼロだって言ったよな……。なら、気付いてなくても、仕方ないけど……何1つ解決してない」
    「お……おい……まさか……」
    「こいつが活性化させた悪霊どもや、こいつが開いた『異界』への門は、まだ残ってる」
     その時、関口の声にある感情が籠っている事に気付いた……。
     そうだ……私に欠けている感情だからこそ、気付くのが遅れたのかも知れない。
    「お前には、『観』えてねえだろうけど……悪霊・魔物・魑魅魍魎……何て呼んでもいいけど、その手の剣呑ヤバい化物どもが……今、そこら中で大喧嘩を始めて……あ……まずい……」
     やはり……私は……自分が目指す「正義の味方」には成れない……。
     私には恐怖と云う感情が欠けている以上、恐怖心を抱いている者の気持ちを完全には理解出来ないのだから。
    関口 陽(ひなた) (11)「なら、とっとと逃げるか。こっちのアパートに置いてあるモノは、後で取りに来るか大家に送ってもらえ」
     ランは、あっさりとそう言った。
    「いや、簡単に言うけど……」
    「ダミーの送り先も有る。そこに送ってもらえば本当の住所はバレないだろう」
    「待て」
    「どんな大騒ぎが起きてるか判らんが、話を聞く限り、お前が居ても居なくても大勢に影響は無さそうだが……」
    「そうだけどさ」
     だが、その時……。
     ドデンっ‼ ドデンっ‼ ドデンっ‼
     次々と何かが落ちる音。
     「御徒町刑務所」の塀の上から人間が降ってきた。
    「あの刑務所、魔法系の『自警団』が運営してる割に、心霊現象への防御が甘くないか?」
     ドデンっ‼
    「一応は結界は張ってあるけど……破られちゃったらしい」
     ドデンっ‼
    「なるほど……私が思ってたより、洒落にならん事態のようだな」
     ドデンっ‼ ドデンっ‼
    「だから、さっきから、そう言ってる」
     ドデンっ‼ ドデンっ‼ ドデンっ‼ ドデンっ‼
     塀から落ちてくる人間が来ているのは……オレンジ色の囚人服に、看守の制服に、出入り業者の作業着に……あ……ウチの「制服」である「七福神のスカジャン」を着てるのや「寛永寺僧伽」の「制服」であるゴツい数珠を首にかけてるのまで居る。
    「あれじゃ……マトモに動けそうにないな」
    「あ……ああ……って何やってる?」
     悪霊や魑魅魍魎に取り憑かれた奴らは、塀にのぼって……までは良いが、その塀からダイブ。
     地面に叩き付けられ……生きてるか死んでるかは不明。
     とりあえず、取り憑いてる悪霊や魑魅魍魎どもによって、まだ、体を動かされ続けてはいるが……その体は無茶苦茶な事になってるので、マトモに動けない。
     ランは、そのゾンビもどきに近付き……。
    高木 瀾(らん) (10)「がうっ‼」
     刑務所の看守……もしくは刑務所の看守だったモノは、私を……えっと、どうやら、頭から落ちたらしく……いや、目玉の片方は飛び出ていて、頭蓋骨陥没と脳挫傷は確実な状態だが……視認なのか、これ?
     とりあえず、どの感覚を使ってかは不明だが私の存在を認識しているらしく、私が近付くと吠え……。
     なんとか這いずり回っているが……動きが鈍いので拳銃とスタンロッドを奪取するのに、それほどの手間はかからなかった。
     テイザーガンは使い切った。
     麻酔薬付の矢は、残り4本。
     奪取した拳銃には……弾丸が二〇発弱。
     その時、近くから何かが地面に激突する音。
     刑務所の塀から、人間が降って来る頻度が上っている。
    「おい、危ないだろッ‼」
     関口が、そう声をかける。
     運良く、さっき近くに落ちてきたのも看守だった。
     更に拳銃とスタンロッドを奪取。
    「『浅草』港まで逃げるなら、どのルートがオススメ……いや、待てよ」
    「おい、また、ロクでもない事を考えてるだろ」
    「この『島』が出来た時、四隅に『港』が作られて、たまたま最大規模になったのが『浅草』港だっただけだよな?」
    「だから、何を考えてる?」
     私は携帯電話ブンコPhoneで、あるモノのリストを確認。
    「私達の仲間が使ってる船が有る。この刑務所の向こう側の『港』に」
    「おい……まさか……。『本土』の『正義の味方』が、ここに……」
    「ウチの組織ネットワークのフロント企業の事務所が、この『島』の4つの地区に各1つか2つづつ有る。こっちの『自警団』ともめた時の脱出手段もな」
    「運転出来るのか?」
    「自動運転と遠隔操作の両対応だ」
    関口 陽(ひなた) (12)「えっと……1つ問題が有るんだが……」
     私は、ある当然の事を指摘した。
    「何だ?」
    「この『御徒町』の港って、どう言う場所か知ってるのか?」
    「えっ?」
     台東区ここを含めて、Neo Tokyoは基本的に約2㎞×2㎞の4つの区画からなる正方形の人工島。
     その4隅には「港」が作られているが……ただし、この「台東区」の「御徒町」地区の場合……。
    「あの刑務所が有るのはどこだ?」
     私は「御徒町刑務所」を指差す。
    「どこだと言われても……御徒町地区の……おい、刑務所を通り抜けないと港まで行けないのか?」
    「ああ、早い話が『御徒町港』は『御徒町刑務所』の物資搬入口だ」
    「そんな……馬鹿な……」
    「そもそも、何で、そんな所に『正義の味方おまえら』の船が有る?」
     ランは携帯電話ブンコPhoneで何かを調べ……。
    「あ〜……」
    「まさか……」
    「バレたら、ここの『自警団』と『本土』の『正義の味方』の戦争だな……」
     どうやら……「本土」の「正義の味方」が、この「島」の「自警団」が運営してる筈の「御徒町刑務所」の出入り業者の中に居たか……下手したら運営に秘かに入り込んでいたらしい。
    「まあ、いい、この『島』の他の港にも船は用意してある筈……」
    「お……おい……お前ら……何をした?」
     その時、聞き覚えが有る事がした。
    「あ……どうも……」
     私が所属している「入谷七福神・大黒天班」のリーダーである通称「大黒天」だ。
     その後ろには……「寛永寺僧伽」の「護國院」の連中が十数名。そして、笹原ささのはら
    「え〜っと、まさかとは思うが、そこで、寝てんのが対象ターゲットか?」
    「は……はい。そのまさかです……」
    「お前らはプランBだったよな? 何で、あっさり対象ターゲットを確保してる?」
    「あ……その……それは……」
    「成行きだ」
     横からランがいらん口出しをしやがった。
    高木 瀾(らん) (11)「ずいぶん、絞られたようだな」
    「誰のせいだと思ってやがる」
     関口は……控え目に言っても、かなりゲッソリしていた。
    「大体、何で、お前はいつもやり過ぎる?」
    「そう言われても……」
    「超化物チート級の『魔法使い』の魔法を暴走させて『秋葉原』に心霊スポット作りかけたし……」
    「向こうが勝手にパニックになって『魔法』を暴走させた」
    「わざと泳がせといて『本命』の目を引き付けとく予定の相手をあっさり倒したし」
    「私も人間サイズの強化装甲服パワードスーツで4m級の軍用パワーローダーを、あそこまであっさり倒せるとは思ってもみなかった」
    「『贋物の靖国神社』を焼き払ったし」
    「タチの悪いストーカーから逃げる為の死んだフリだ。あそこまでやらないと私が死んだとは思ってくれないだろうしな」
    「お前の行行く先々で、何故か、何かとんでもない起きてないか?」
    「何か起きてる所に行くのが仕事みたいなモノなんでな。大体、そう思うなら、何故、ここに呼んだ?」
    「ウチの親分が久留米チームがどうのこうのとか言ってたけど……お前、まさか、3月に久留米で起きた大騒ぎにも関わってんじゃ……」
    「……ああ、あれが私のデビュー戦だ……」
    「おい」
    「あ〜、いいかな?」
     その時、午後一の試合で関口と戦った相手の声。
    「お前らの御目付け役をしろと言われてな……。私達3人でチームを組めとさ」
    「で、これから、どうなるんだ?」
    「『御徒町刑務所』の中に居た人間ほぼ全てが悪霊に取り憑かれた。そいつらの掃討だ」
    「私は外部の人間だが……参加したらバイト代は出るのか?」
    「上の人間と交渉してくれ」
    「あと、『異界』への『門』が開いてるそうだが……」
    「それは、この『東京』の3つの『自警団』の幹部クラスが何とかする。私ら下っ端は……雑魚どもが、『門』を閉じる為の修法の邪魔しないようにブッ殺し続ける事だ」
    「ブッ殺していいのか?」
    「除霊するには、この『東京』中の『魔法使い』を掻き集めても足りない。ブッ殺すしかない」
     成行きとは言え……どうやら刑務所内には入れそうだが……さて……刑務所の物資搬入口に有る船と、他の港の船、どれを使うのが得策だろうか?
    便所のドア Link Message Mute
    2022/04/27 12:08:28

    第三章:This Is Not a Film

    「霊的・魔法的なモノを撮影出来るシステム」によって魔法使い同士の決闘の様子を勝手に動画配信していた者達。
    しかし、その撮影システムのせいで、何故か、次々とヤバい異界への門が開いてしまい……?
    そして、東京の名を騙る人工島に更なる大騒動が巻き起こる。……主に「人命救助の為なら社会を大きく変える事もいとわない」暴走少女ヒーローの手によって……。
    ※諸般の事情により、本章からジャンルが「ゾンビもの」に変りました。御了承下さい。

    #伝奇 #異能力バトル #ヒーロー #ディストピア

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