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十二国記パロ(直白)
麒麟はその性、仁にして、流血を嫌い、争いを厭うという。
そう、麒麟は、白秋は、だめなのだ。たった今、眼前で起きたような流血沙汰を、こいつにだけは見せるべきではなかったのだと悔いたところで後の祭りだ。 血の気の引いた顔を見下ろしながら、己の麒麟をどう宥めたものかと頭を悩ませる。
青褪めながらも、何を無茶な王たる自覚が云々と叱る言葉は留まるところを知らぬようで、口を挟む隙もない。 抱き起こそうと震える身体に伸ばした腕は、余計に怯えさせるだけだった。
一刻も早く血の穢れから遠ざけなくてはと、わかってはいるのだが。
「王、死んだかよ!」
と、その時、何とも無礼な叫びと共にその場に乱入してきた若者を見て、志賀は不覚にも安堵した。白秋の声がぶつんと途切れる。 ずんずんと大股に、そのくせ足音一つ立てずに優雅に歩み寄る文官に、志賀はやれやれと肩を竦めてみせた。
「おあいにくさま、生きてるよ。おい、赤いの。お前、」
「あーっ!王、あんたバッカじゃないの!怪我人が宰輔に近寄るなよこの昏君!さっさと手当てを受けてこい」
歩み寄ってきた勢いをそのままに、むんずと襟を掴まれて、志賀は些かげんなりとする。
「わぁーってるから耳元で大声出すなよ。おい、俺はいいからお前は白秋を頼む」
「僕のことはいいから王を頼むよ。一人で出歩かれてはまたどこぞで頭をぶつけかねないからね」
志賀が言うと、すかさず白秋がそれに被せてくる。振り向けば、まだ青い顔に睨めつけれて言葉に詰まった。
白秋の顔色が悪いのは、血が流れたからというだけではない。他ならぬ主人が、白秋を守るために自らの命を危険に晒したためだ。ほんの擦り傷であっても、恐ろしい思いをさせてしまったことに変わりはない。
「……行くぞ、赤いの」
志賀がそう言って背を向けると、白秋はようやく肩の力を抜いて壁にもたれた。
#文アル
【腐】
#直白
##はるいぶ十二国記パロ
麒麟はその性、仁にして、流血を嫌い、争いを厭うという。
そう、麒麟は、白秋は、だめなのだ。たった今、眼前で起きたような流血沙汰を、こいつにだけは見せるべきではなかったのだと悔いたところで後の祭りだ。 血の気の引いた顔を見下ろしながら、己の麒麟をどう宥めたものかと頭を悩ませる。
青褪めながらも、何を無茶な王たる自覚が云々と叱る言葉は留まるところを知らぬようで、口を挟む隙もない。 抱き起こそうと震える身体に伸ばした腕は、余計に怯えさせるだけだった。
一刻も早く血の穢れから遠ざけなくてはと、わかってはいるのだが。
「王、死んだかよ!」
と、その時、何とも無礼な叫びと共にその場に乱入してきた若者を見て、志賀は不覚にも安堵した。白秋の声がぶつんと途切れる。 ずんずんと大股に、そのくせ足音一つ立てずに優雅に歩み寄る文官に、志賀はやれやれと肩を竦めてみせた。
「おあいにくさま、生きてるよ。おい、赤いの。お前、」
「あーっ!王、あんたバッカじゃないの!怪我人が宰輔に近寄るなよこの昏君!さっさと手当てを受けてこい」
歩み寄ってきた勢いをそのままに、むんずと襟を掴まれて、志賀は些かげんなりとする。
「わぁーってるから耳元で大声出すなよ。おい、俺はいいからお前は白秋を頼む」
「僕のことはいいから王を頼むよ。一人で出歩かれてはまたどこぞで頭をぶつけかねないからね」
志賀が言うと、すかさず白秋がそれに被せてくる。振り向けば、まだ青い顔に睨めつけれて言葉に詰まった。
白秋の顔色が悪いのは、血が流れたからというだけではない。他ならぬ主人が、白秋を守るために自らの命を危険に晒したためだ。ほんの擦り傷であっても、恐ろしい思いをさせてしまったことに変わりはない。
「……行くぞ、赤いの」
志賀がそう言って背を向けると、白秋はようやく肩の力を抜いて壁にもたれた。
#文アル
【腐】
#直白
##はるいぶ十二国記パロ
やたろ
カミサマと人間(直白)
「神様と呼ばれるのは、いったいどんな気分なの」
問いかけとも思われぬひそやかな声に、志賀は咥えていた煙草を離して傍らの男をまじまじと見下ろした。いつから目を覚ましていたのか、うつ伏せに寝転んだ姿勢のまま視線だけを志賀に向けている。
「どうした、藪から棒に」
「……君が小説の神様であるように、横光くんが文学の神様であるように、僕はきっと詩歌においてそう呼ばれるに等しい立場にあるのだけれど」
「国民詩人様だもんな、お前は」
けれどね、と言いさして、北原はあまり似つかわしくない重たげな息をつく。
僕にもおくれよと言うので、志賀はサイドボードに置かれていた敷島を渡してやった。
「お前、寝煙草は嫌いじゃなかったか」
「よく言ったものだね、その僕の隣で堂々と寝煙草をしておいて」
「起きてるだろ」
「そうかい」
煙草を咥えた北原がもそりと身を起こすので、志賀は黙って顔を近づけた。北原の煙草の先端にぼうっと赤い火がともり、ふっと解けるように煙が立ちのぼる。
うす紫の煙のあわいから、北原の詩は生まれるのだ。
「国民詩人、詩聖、言葉の魔術師……どれも北原白秋を指す言葉だよ。それらを与えられるだけのものを遺したという自負はあるさ。あの時代において僕以上に詩歌に挑み続けた者はそういないだろうね」
けれどね、と北原はまた嘆息する。視線を動かすと、志賀が無言で灰皿を差し出してきたのでそこに吸いさしを擦りつけた。
「彼ならば、と思うひとがひとりだけいたのだよ。そうなる前に彼は僕を置いて逝ってしまったのだけれど」
決して届かないものに焦がれて血を吐くような声だった。一度死んで生まれ直しても、こいつは、北原は諦めきれないのだ。志賀ははじめて、北原のいっとう脆い部分に触れたと思った。
「他の誰になんと言われようと、どう思われようと構わないさ。けれど、彼にだけは、間違っても僕に劣るなどとは思ってほしくない。あんなところで終わるひとではなかった。僕の隣を、いいや、僕の先を行くべきひとだったのだよ」
彼、というのが誰を指すのか、志賀は薄々勘付いていた。今生においては北原がそのおとこにほとんど恋慕に近い感情を抱いているのではないかと、前々から思っていたのだ。北原自身には、その自覚がないようだが。
志賀が無言でいると、北原は話しすぎたとでも思ったか、表情を隠すように顔を背けた。矜持の高いおとこだ。恥じ入るというよりは、志賀にすがるような真似をしたおのれ自身に腹を立てたのかもしれない。
志賀はうす紫の髪に手を伸ばし、愛弟子にするようにくしゃりと無造作にかき混ぜる。
「俺を神様だと呼びたい奴はそう呼べばいい。否定したいならすればいい。けどな、」
と一旦言葉を切って、今にもぼろりと崩れて灰を落としかけていた吸いさしを灰皿に押しつける。
空いた両手で薄い肩を抱き寄せた。この少年のような未成熟な身体が二丁の銃を操るのかと、いつも驚かされる。
「俺もお前と同じただの人間だから、武者やなんかに神聖視されたらキツイだろうな」
「ばかだね、君は」
「ああ」
「人間でなければ何だというのだい」
「そうだな」
そうだな、と繰り返し、志賀は北原の肩に顔を埋める。志賀が顔を上げるまで、北原は黙ってされるがままになっていた。
#文アル
【腐】
#直白
「神様と呼ばれるのは、いったいどんな気分なの」
問いかけとも思われぬひそやかな声に、志賀は咥えていた煙草を離して傍らの男をまじまじと見下ろした。いつから目を覚ましていたのか、うつ伏せに寝転んだ姿勢のまま視線だけを志賀に向けている。
「どうした、藪から棒に」
「……君が小説の神様であるように、横光くんが文学の神様であるように、僕はきっと詩歌においてそう呼ばれるに等しい立場にあるのだけれど」
「国民詩人様だもんな、お前は」
けれどね、と言いさして、北原はあまり似つかわしくない重たげな息をつく。
僕にもおくれよと言うので、志賀はサイドボードに置かれていた敷島を渡してやった。
「お前、寝煙草は嫌いじゃなかったか」
「よく言ったものだね、その僕の隣で堂々と寝煙草をしておいて」
「起きてるだろ」
「そうかい」
煙草を咥えた北原がもそりと身を起こすので、志賀は黙って顔を近づけた。北原の煙草の先端にぼうっと赤い火がともり、ふっと解けるように煙が立ちのぼる。
うす紫の煙のあわいから、北原の詩は生まれるのだ。
「国民詩人、詩聖、言葉の魔術師……どれも北原白秋を指す言葉だよ。それらを与えられるだけのものを遺したという自負はあるさ。あの時代において僕以上に詩歌に挑み続けた者はそういないだろうね」
けれどね、と北原はまた嘆息する。視線を動かすと、志賀が無言で灰皿を差し出してきたのでそこに吸いさしを擦りつけた。
「彼ならば、と思うひとがひとりだけいたのだよ。そうなる前に彼は僕を置いて逝ってしまったのだけれど」
決して届かないものに焦がれて血を吐くような声だった。一度死んで生まれ直しても、こいつは、北原は諦めきれないのだ。志賀ははじめて、北原のいっとう脆い部分に触れたと思った。
「他の誰になんと言われようと、どう思われようと構わないさ。けれど、彼にだけは、間違っても僕に劣るなどとは思ってほしくない。あんなところで終わるひとではなかった。僕の隣を、いいや、僕の先を行くべきひとだったのだよ」
彼、というのが誰を指すのか、志賀は薄々勘付いていた。今生においては北原がそのおとこにほとんど恋慕に近い感情を抱いているのではないかと、前々から思っていたのだ。北原自身には、その自覚がないようだが。
志賀が無言でいると、北原は話しすぎたとでも思ったか、表情を隠すように顔を背けた。矜持の高いおとこだ。恥じ入るというよりは、志賀にすがるような真似をしたおのれ自身に腹を立てたのかもしれない。
志賀はうす紫の髪に手を伸ばし、愛弟子にするようにくしゃりと無造作にかき混ぜる。
「俺を神様だと呼びたい奴はそう呼べばいい。否定したいならすればいい。けどな、」
と一旦言葉を切って、今にもぼろりと崩れて灰を落としかけていた吸いさしを灰皿に押しつける。
空いた両手で薄い肩を抱き寄せた。この少年のような未成熟な身体が二丁の銃を操るのかと、いつも驚かされる。
「俺もお前と同じただの人間だから、武者やなんかに神聖視されたらキツイだろうな」
「ばかだね、君は」
「ああ」
「人間でなければ何だというのだい」
「そうだな」
そうだな、と繰り返し、志賀は北原の肩に顔を埋める。志賀が顔を上げるまで、北原は黙ってされるがままになっていた。
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