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    2022/06/25 22:26:59

    真夜中のプールで、もう一度。

    (21/6 執筆)URA編グッドエンド後、真夜中のプールに誘うタキオンと、巻き込まれるトレーナー♀。タキモル♀既刊(21/10 発行)『すーぱーすいーとさいえんす!』の加筆修正版です。
    #タキモル#女トレーナー

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    真夜中のプールで、もう一度。 
    「参考書籍で見たんだ。真夜中に二人きりの秘密を共有すると、気分が高揚して相手のことしか考えられなくなるとね」
     そう言ってタキオンに呼び出されたのは、誰もいないプールだ。
     寒天でできた和菓子のように静かな水面。塩素の匂い。午後は色んなウマ娘達がトレーニングとして泳いでいる賑やかなプールも、真夜中はしんとしていて非日常的だ。
     懐かしいな。いつか、水圧を上げる薬剤(失敗)を入れた実験で、二人で朝まで後片付けに追われたっけ。
    「さて……ここで相手にドキドキやトキメキを感じさせるため、何をしていたか、と」 
     彼女はぶつぶつと何かを呟きながら、軽く準備体操を終えてプールに飛び込む。ざば、と顔を上げるタキオン。手招きされたので、私はサイドを歩いて水着姿の研究者さんに近付く。私が近付くと、ニヤリと彼女の口角が上がった。
     嫌な予感。この顔は、実験に私を巻き込むときの顔だ。
    「こうだな!」
    「ひゃっ!?」
     逃げようとしたが、もう遅い。タキオンは私の腕を軽く引いて、プールの中へ引きずり込んだ。
     どぼん。上がる水飛沫。この科学者さんのやろうとしていることの目的もわからず、服を着たままの私は水中にダイブさせられる。寒天のようだと思うほど静かな水面は、あっという間に元の形を失った。
    「……ぷはっ! タキオン!? 私ずぶ濡れなんだけど!」
    「アハハ! 資料で見た通りだ! さぁ、泳ぐぞトレーナー君!」
     タキオンはけらけら笑って、怒る私から逃げるように悠々と泳ぎ始めた。これは、彼女を追いかけないと叱れない。私も渋々泳ぎ出す。濡れたジャージやシャツがまとわりついてきて重い。水に浮かんで進むのが精一杯だ。
     相手は水着姿のウマ娘。こちらは着衣の人間。スピードもスタミナも、段違いだ。水をかき分けてもかき分けても追いつかず、寧ろ背中はどんどん遠ざかって行く。
     速い。彼女は芝の上だけじゃなくて、水の中でも速い——!
    「やぁ、君。遅すぎるよ!」
     私を突き放して、50メートルプールのずっと先で彼女の笑い声が聞こえる。
     そして——いつかと同じ言葉を、振り向きざまにタキオンは口にした。
     無邪気な、女神にも悪魔にも見える笑顔で。


    「はぁ、はぁ……貴方ねぇ……」 
     シャワーを浴びて塩素を洗い流した。タオルで顔と髪の毛を拭いても、服はびしょ濡れで気持ち悪い。
     私が睨みつけても、何の悪びれもなさそうにタキオンは笑っている。
    「いやぁ、なかなかにいいデータが取れたよ! 追いかけ回されるのには慣れているが、二人きりのプールというシチュエーションは初めてだ!」
    「ターキーオーン? 今回の実験は何がしたかったわけ?」
     おしおきとして、彼女の頭にタオルを被せ、乱暴に髪の毛を拭いてやる。耳に触れても、今日は止めてやらない。
    「ククッ、アハハハ! こら、トレーナー君! もっと丁寧に拭きたまえって、み、耳、耳はやめろぉ! ひゃんっ!」
    「やーめーまーせーん!」
    「ひゃうぅ! ごめん、ごめんよってぇ!」
     やっと謝ったので、私は彼女をタオル攻撃から解放してやった。乱暴に拭かれて、彼女の頭はすっかりボサボサだ。
     そんな頭を気にせず、タキオンは今回の実験内容を語りだす。
    「感情の実験だよ。参考書籍にあったシーンを再現することで、君の心拍数やドーパミン、エンドルフィンはどう変化するのか、というね」
     つまるところ、『デート』と似たことをタキオンは実験していたらしい。
     というか、参考書籍って何だろう。少女漫画……とかなのか、もしかして。
    「君の呼吸は荒く、心拍数も増加している。これは慣れない服装で泳いだことからだろう。しかし、このエンドルフィンの放出量からすると、感情面も何か変化があったはずだ。トレーナー君、高揚感や満足感は? ドキドキやトキメキは? 君、私に夢中になってただろ」
     ドキドキやトキメキ……? いや、泳いでいるタキオンを追いかけるのに精一杯で、そんな感情はなかった。
     懐かしさは……あったかもしれない。三年前、トレーニング初日にVRで並走させられたことを思い出す。ヘトヘトで、めまいがして、それでも追いかけ続けて、遠ざかって行く背中。ターフとプール、土埃と水飛沫の違いはある。けれど、タキオンの走る姿だけじゃなくて、泳ぐ姿も素敵で、その背中に魅入ってしまったから。
    「……つくづく、貴方は唐突だね」
    「答えをはぐらかすなよー。これで君は私に夢中になるはずだぞー?」
     私は、もう一度彼女の頭を両手でくしゃくしゃにした。耳に触れても、やっぱり止めてやらない。
    「まったくもう、大人をからかうんじゃありません!」
    「うわ、やーめーろー!」
    「明日は一緒にお説教だからね! 覚悟しなさい!」
    「いーやーだー!」
     相変わらず、この子には振り回されてばかりだ。出会ったときも、三年が過ぎた今も。結局、タキオンがこの実験で何をしたかったのかわからないが、楽しくなかったといえば嘘になる。
     認めよう。私は、彼女に振り回されるのを楽しんでいると。この日常に、満足していると。そう言うとタキオンはきっと調子に乗るから、まだ言ってやらないが。
     まったく……私はずっと昔から、貴方に夢中なのにね。
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