創作SNS GALLERIA[ギャレリア] 創作SNS GALLERIA[ギャレリア]
【お知らせ】メンテナンスは終了しました。ご協力ありがとうございました。

イラストを魅せる。護る。
究極のイラストSNS。

GALLERIA[ギャレリア]は創作活動を支援する
豊富な機能を揃えた創作SNSです。

  • くぅにこ Link 人気作品アーカイブ入り (2022/07/04)
    2022/07/03 2:12:57

    アイコトバ

    #彰冬

    2Microphonesにて公開していた展示作品です。
    騎士×王子パロです。

    more...
    1 / 1
    しおり
    1 / 1
    しおり
    アイコトバ 第三王子は変わり者、滅多に人前に姿を現さないのはいつだって本の世界を旅しているから。
     第三王子は麗しい御方、滅多に人前に姿を現さないのはその美貌で国が傾いてしまうかもしれないから。
     街の大通りにいた吟遊詩人が披露していた歌を本人が聞いたら、どんな顔をするだろうか。彼のために用意された高い白亜の塔の中の殆どは螺旋階段で、その最上段に彼はいる。変わり者で麗しい御方と歌われるのは大体間違っていない、そう思いながら重厚な扉を三回ノックして五秒待ってからその扉をゆっくり押して開けた。
    「王子、朝ですよ。カーテンをお開けしますね」
     奥の天蓋付きのベッドに横たわる彼に声をかけて、大きくはない窓に取り付けられた空色のカーテンを開ける。薄暗く、どこか冷え冷えとしていた室内に暖かな春の日差しが差し込み、それはまだ瞼を閉ざしている彼の真っ白な頬にも届いた。近くに来ないとその寝息は聞こえない、穏やかな寝顔を見るのも今日で百と九十五日目だ……その間、一度も起きていない。彼は呪いにかかってしまったのだ、いつ、どうしたら解けるのかも分からないそれはそれは古い呪いに。その呪いを受けたものは死んだように眠り続ける、彼は大好きだった読書の時間中微睡むようにして呪いをその身に受けた。自分の物にならないのならいっそ永遠に誰の物にもならないで欲しかった、王子に呪いを仕掛けた王宮の女中はそう白状して自らも地下牢の中で命を絶った。犯人がいなくなった今、解呪方法が分からないため王家は秘密裏に総力をあげて呪いを解く方法を探すしかなくなってしまった。そして彼のお付きの騎士であったオレは王子を危険な目に遭わせた罰として聖騎士を除名され、ただ眠り続けるだけの彼の世話係に降格した……それが国王の慈悲であり、一番の罰であるということは誰よりもオレが理解していた。
    「……今日も起きてはくれないんだな、冬弥」
     オレの父が国王の近衛兵団長であった縁で、オレと冬弥も昔からよく一緒に遊び学び剣を交えた仲だった。自分の近衛兵はオレがいいと直々に選んでくれたのも、冬弥だった。あの日もいつものように一緒に鍛練をした後、冬弥は本を読みたいと言ったから二人で城の書庫に籠っていた。精が出ますねとオレ達に紅茶と王家に代々引き継がれるクッキーを差し入れてきたのが、件の女中であった。一緒に休憩をしようと提案したオレに対して、冬弥は先にこの本を探してきてほしいと言ってきた。戻ってきたオレが見つけたのは、本を開いたまま午睡をし始めた冬弥の姿だった。はじめはなんと無防備なんだと思いながら、あくまで騎士としての態度を崩さないようにその華奢な肩を軽く揺さぶった。だけど一向に起きる気配のない冬弥に、オレは焦ってその名を何度も呼んだ。周囲を見回せば、冬弥の読みかけの本と一切手のつけられていないクッキー、それから冷めかけている紅茶の入ったティーカップが二つあった。そのうち少し嵩の減っているほうのカップを手に取ると僅かに禍々しい気配を感じた、戦場に魔法使いがいたときのようなそんな独特な気配をよく見れば冬弥の身体からも感じて、最悪の予想が思い浮かんだ。オレはすぐに宮廷魔術師を呼び出してその場を調べてもらった、その結果オレの予想は当たっていたことが立証された。肌寒い日の続いていた、秋の日のことだった。
    「あのときお前は、全部分かってたんじゃないか?」
     女中の本当の狙いはオレで、冬弥はそれに気がついてオレをあの場から引き離したんじゃないかと考えるようになったのは、世話役になってすぐのことだった。一緒に働いていた仲間が王子に手をかけたと知った城の女中達の心情は、正直計り知れない。そんな彼女達のうち、比較的歳の若い者達が城の厨房で内緒話をしている場面に偶然遭遇してしまったオレは、物陰に隠れてつい出来心で聞き耳を立ててしまった。曰く、あの女中が好きだったのは王子ではなくそのお付きであるオレだったはずで、その度合いは最早信仰に近いものであったと。だけど彼女が呪いをかけてしまったのはオレではなく王子だった、自害したのもそんな筈じゃなかったからじゃないかと。それ以来毎朝、目覚めない冬弥に向かってオレは同じ質問を繰り返している。第三王子は変わり者、アイツは勉強も出来て魔法に関する知識も人並み以上にあったから、女中があのティーカップを持ってきた時点で全てを察していてもおかしくはない。答えは勿論返ってこない、分かっていてもオレは問いかけ続けてしまう。だって本当にそうならば、冬弥はオレを庇ってこんな風になってしまったということになる。そうだとしたら、オレは……
    「本当に、国王は酷い罰を用意したものだ」
     お前は今日から第三王子が目覚めるその日まで、王子の身の回りの世話係になることを命ずる。それはつまり、自分のせいでこうなってしまった彼のことを毎日目に焼き付けておけということ。それはつまり、彼がいつか目覚めたとき一番近くにいてやってほしいということ。呪いの効果かは分からないが、冬弥は何も食べてはいないのにあの日から変わらず痩せることもなければ髪が伸びることもなく、まるで冬弥の周りだけ時が止まっているかのようだった。再びその時間が動き出すのはいつなのか……本当は今日伝えたかった言葉も、今の冬弥には不釣り合いかもしれない。それでもオレは、オレだけは、彼に伝えたかった。
    「冬弥、誕生日おめでとう……愛している」
     麗らかな春の日に生まれたにも関わらず冬と冠する名前をつけられている彼は、オレの祝福の言葉を受けてもその名の由来である氷のような瞳を未だ閉ざしたままだ。分かっていた筈なのに、こんなにも胸が苦しいなんて。それでもオレに泣く権利は与えられていない、厨房から持ってきた自分用の朝食をテーブルに広げ手早く済ませる。王子の誕生日だろうが、世話係の食事はいつもと変わらない固いパンと味付けが濃いだけで具の殆ど入っていないスープだ。去年の今日は、王子の誕生日だからと国民みんなが夜通し宴をしていて、そのきらびやかな明かりを城の部屋から二人で見ていた。国民達は今日もきっとそうやって過ごすのだろう、主役の王子がこんなことになっているとは露ほどにも思わずに。
    「……今日は、」
     スープでふやけさせてなんとかパンを食べきったそのとき、この塔に通うようになって初めて自分以外の声を聞いた。掠れてしまっても尚、凛とした美しさを持つその声音をオレは子供のときからずっと隣で聞いてきた。
    「今日は、彰人の、誕生日、だろう……俺じゃない……」
    「起きたのか、お前……」
     冬弥が呪いを受けた次の日は、確かにオレの誕生日だった。尤もオレ自身がそれどころではなくて、そのことに気がついたのは数日経った後のことだったが。本当に時が止まっていたらしい冬弥にとって、確かに今日はオレの誕生日にあたるのだろう……いやそうじゃない、そうじゃなくて。オレはお椀に残っているスープのことなど忘れて、ベッドに駆け寄った。オレは勿論、冬弥も混乱しているようで身体を起こしてポカンとしている。
    「彰人、剣はどうしたんだ……それに、格好も随分みすぼらしくなっている……」
    「冬弥、言いたいことがたくさんあるのは分かる……でも先に、オレから言わせてくれないか」
    「彰人……、!」
    「護ってやれなくてごめん……それから、おかえり」
     抱き締めた身体は冷たくて、でも腕の中でどうしたんだと困ったように呟く冬弥の声はあの日から何も変わっていない。帰ってきたのだと、実感できた。
    「俺も、お前の誕生日に伝えたいと思っていたことがあったんだ」
     これからは主人と従者としてじゃなくて、もっと身近な関係になりたいんだ。そんな甘い囁きは、どんな魔法より確かにオレに効いたのだ。



     ──第三王子は変わり者、春に生まれたのに名前に冬と入っている。
       第三王子は変わり者、せっかくの王位継承権より大事なものが出来たと城を飛び出した。
       そのお付きの騎士様も変わり者、偉大なパラディンの地位を捨てて第三王子についてった。
       二人は変わり者、でも二人は幸せ、だってお互いが一番だったから。


    Love ステキと思ったらハートを送ろう!ログイン不要です。ログインするとハートをカスタマイズできます。
    200 reply
    転載
    NG
    クレジット非表示
    NG
    商用利用
    NG
    改変
    NG
    ライセンス改変
    NG
    保存閲覧
    NG
    URLの共有
    OK
    模写・トレース
    NG
    • 彰冬まとめ①Pixivからの移植
      20.11~21.3

      #彰冬
      くぅにこ
    • セカイの自由研究 #彰冬

      0612OurUntitledにて公開していた展示作品です。
      くぅにこ
    • 彰冬まとめ②Pixivから移植
      21.4~21.7

      #彰冬
      くぅにこ
    • ぼくらの三重奏 #彰冬

      Pixivから移植

      ──俺の声を、覚えていてください。

      あの日あのイベントに出会えなかった彼と、あの日路上で歌うことを選べなかった彼が、『彼ら』になるための可能性の話、つまりかなり特殊設定なパラレルです。ハッピーエンドです。
      話に沿って関係性が変わっている他キャラやモブも出てくるのでご注意ください、作者はロボット工学や医学に精通していないため設定に関してはふわっと読んでいただけると幸いです。


      アイデア使用の許可をくださったフォロワー様と、ついった掲載時に評価をくださった皆様へ最大限の感謝を。
      くぅにこ
    • 彰冬まとめ③Pixivから移植
      21.8~21.12


      #彰冬
      くぅにこ
    CONNECT この作品とコネクトしている作品