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  • くぅにこ Link 人気作品アーカイブ入り (2022/07/03)
    2022/06/24 20:03:04

    彰冬まとめ①

    Pixivからの移植
    20.11~21.3

    #彰冬

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    彰冬まとめ①冬を纏う君は秋色がよく似合う。色褪せぬ思い出と君と描くミライだって俺たち健全な思春期男子だものWith明日にはきっと好きなだけ味わって。とある一ページ愛だとか恋だとかthe first,隠しきれてないぜ、My Friends!HIKARIユキノコカワイイコ今宵、うさぎとティーパーティーもしもが棲む部屋。Ring!Ring!アマイオモイゼロ・ディスタンスナイショのBestshot冬を纏う君は秋色がよく似合う。※モブJK目線のため注意


     同じクラスの青柳くんはどうも、ウチの学校だと浮いて見える存在だ。

     左右で分けられたツートンのヘアカラーだけ見ればそうでもないのだが、キチンと着こなされた制服や真剣な顔で黒板を見つめる授業中の姿は真面目であるが故に浮いている。別にクラスでハブられている様子もないけれど、休み時間は専ら読書に勤しんでいるし放課後は誰もやりたがらない図書委員のお勤めを果たしている。何故私がこんなに彼について詳しいのかと言えば、それは勿論彼のことが好きだからだ。はじめのうちはその真面目なのかそうじゃないのか曖昧な風貌が物珍しくて観察していただけだったのに、いつの間にかそういうのを抜きにして彼のことを目で追っていた。だから私も放課後図書室へ足繁く通うようになるのも、時間の問題だった。
    「冬弥、終わったか?」
     今日はハードカバーのミステリー小説を読んでいた青柳くんの下の名前を呼ぶ声が、図書室全体に響く。まるで時報のようなそれに合わせるように、私は来た時から全く捲られていない数学の教科書と真っ白なままだったノートを閉じた。オレンジ色の髪にさらに鮮やかな黄色のメッシュを入れている彼は、図書室が閉まる時間が近付くと青柳くんのところへやって来る隣のクラスの子だ。耳を彩るピアスやブレザーの下に着込んでいるパーカーは、まさにウチの生徒の模範のような印象を与える。不良のように見えるが、あの青柳くんが仲良くしているのだから見た目ほど悪い人ではないのだろう……怖いものは怖いのだけど。
    「今日は戸締りすればすぐ帰れる、もう少し待っていてくれ」
    「じゃあ廊下にいるから終わったら声かけろよ」
    「ああ……いつもすまない」
    「いいって別に、好きで待ってるだけだから気にすんな」
     ふわふわと揺れるオレンジが立ち去れば、図書室に再び静寂が訪れた。とはいえ彼が来たということは閉館時刻が近いということ、疎らにいる他の利用者たちも片付けを始めている。私はと言うと、何をしていたわけでもないのに──強いて言えば、一時間半ほど青柳くんが貸出カウンターで読書している様子を眺めていた──背中の筋肉が固まっているような感じがして、座ったまま軽く伸びをして解そうとしてみた。
    「あの、」
     腕を上げた瞬間に声をかけられて、思わず肩が跳ねる。それにつられるように声をかけてきた方──青柳くんの淡墨の瞳が丸くなった。
    「すまない、そこのカーテンを開いていいか聞きたかったんだ」
     驚かせるつもりはなかったのだと弁解され、私も気にしないでと返した。青柳くんは言った通りに私のすぐ傍にある、ちょっと年季の入った緑色のカーテンを端に寄せていく。寒くなるのに合わせて日が短くなってきたからか、窓の外は夕暮れというよりもう夜になっていた。
    「……あの、お節介かもしれないんだが」
     そのまま立ち去ると思っていた青柳くんがもう一度、私に話しかけてきた。今度こそ驚き、そして内心身構える私に対し青柳くんは私がまだ机に置いたままにしていた教科書を指さす。
    「いつもここで勉強しているから……よければ、俺の持っている参考書を貸そうか」
     同じクラスのよしみだから、そう微笑まれた途端私のなかに色んな感情が同時に芽生えた。私なんかのことを認識してくれていたという喜びと、別にここへ勉強しに来ているわけではないのに勘違いさせてしまったという罪悪感と、エトセトラエトセトラ。それらの感情を出来る限り表に出さないよう努力しながら頷けば、じゃあ明日にでも持ってくると言って青柳くんは隣の窓のカーテンに手をかけた。
     こんな展開、全く予想してなかった。今みたいに、ただ見ていられればいいと思っていたのに、こんないい思いをしていいのだろうか。そんな風に浮かれながら片付けをして図書室を出たからか、昇降口までやってきてから図書室にスマホを置いたままにしてきたことに気がついた。文房具くらいなら明日の朝にでもこっそり取りに行けばいいけど、スマホはそうもいかない。まだ開いていることを願いながらもう一度階段を上って図書室へ向かえば、『CLOSED』という看板が表に出てはいるものの中から複数人の声がする。そのうちの一つが青柳くんの声だと分かったから、スマホを忘れたことを伝えようと扉へ近付いた。
    「よせ、彰人」
     その声が呼んだ名前に、扉へ伸ばしていた手が止まる。思い浮かぶのは、今はもう見えない夕日の色をした頭。二人で談笑しているのだとしたら、もしそれを遮ったらあの冷え冷えとした目に睨まれてしまうのだろうか。しかしながらスマホがないと困るのも事実、私より先に誰かが見つけてくれたとしてその誰かが善人かは限らないし何よりスマホがないと帰りの電車の中で暇を弄んでしまう。少しだけ悩んで、結局腹を括ることにした私は扉を引こうとした。
    「誰かが来たらどうする」
    「閉館の看板、出したんだろ? だったら……」
    「いや、実はさっきスマホの落し物を見つけたんだ、その人が取りに戻ってくるかもしれない」
    「んだよそれ……もしかして、それでなかなか帰ろうとしなかったのかよ」
    「ああ、そうだ。まだ完全下校時刻まで余裕があるしな、もう少しここで待っていようと思っていた」
    「チッ……」
     微かに聞こえてきた舌打ちに、身体が強ばるのが分かる。話題に出ているスマホは九割方私のもので違いない、だけど今それを名乗り出られるほどの度胸が私にはなかった。もういっそ、二人が帰った後に学校に電話して取りに来たほうがいいのではないだろうか。少し先のスーパーには、時代遅れとも揶揄されている公衆電話があるから、そこからかければいい。私の葛藤なんていざ知らず、扉の向こうの会話は続いている。
    「忘れていったのは多分、俺のクラスメイトだと思うんだ。置かれていた席に座っていたからな」
    「ふーん……男? 女?」
    「女子生徒だが……どうしてそんなことを聞くんだ?」
    「別に……」
     先程まで威勢よく響いていた方の声が、徐々に歯切れ悪く萎んでいくのが私にも分かった。対する淡々と受け答えしていた方の声が、なんだ彰人と呼びかける。その声がやけに甘ったるく聞こえて、なんとも言えない嫌な感じがした。
    「ヤキモチを妬いてくれているのか」
     ああそうだ、今の青柳くんの声には恋慕とかそういうのが込められていたんだ。そう認識した瞬間、取っ手に触れていた指先が冷えていくのを感じた。
    「んだよ、悪いかよ」
    「悪くはない、彰人もそういうことを思うんだなと知れて寧ろいい気分だ」
    「お前、たまーにそういうとこあるよな……」
    「ふふ、悪いか」
    「悪くはねぇけどさぁ……」
     気がつけば私は、逃げるように学校を後にしていた。好きな男の子が男を好きになる人だったことに対する忌避感や嫌悪感は不思議となくて、ただ青柳くんは好きな人の前だとあんな風に自由に楽しげに笑うのかという事実が切なかった。


    (201115)

    色褪せぬ思い出と君と描くミライ

     彰人は洒落ている。センスがあるのだろう、四人で組むようになってからは小豆沢や白石の衣装も口出しするようになったが、どれも彼女たちによく似合っていた。
    「冬弥、新しいアウター買わないのか?」
     日曜日。WEEKEND GARDENでランチに舌鼓を打つ俺に、先に食べ終わっていた彰人が徐にそう言い出した。
    「ああ、特に状態が悪い訳では無いからな」
    「まあド定番のやつだし、流行り関係なく着れるけど……」
    「ん……? 何が言いたいんだ、彰人」
    「あー……実はさ、昨日バイト先に入荷したやつのなかに冬弥に着てもらいたいなと思ったのがあって、店長に取り置きしてもらってんだよ」
    「買うかも分からないのに、そんなことしていいのか」
    「いいんだよ、お前が買わないならオレが買ってプレゼントするだけだし」
    「それは申し訳ないんだが……」
    「とりあえず一回試着してくれよ、絶対似合うからさ」
     そうして慌ただしく謙さんの店を出た俺達は、そのまま通い慣れた彰人のバイト先へと向かった。ティーン向けのアパレルショップであるそこは値段も良心的で、休日の今日は同年代くらいの客でよく賑わっている。到着するなり彰人はカウンターにいた店長さんに声をかけてそのまま店の奥へと消えてしまったので、手持ち無沙汰になった俺は彰人が戻ってくるまで店内を物色することにした。彰人と二人で組むと決めた時も、所持金で買えるだけの服をここで買い揃えた。彰人にさっき指摘されたこのアウターだってそうだ、お前に似合うからって選んでくれた。
    「……懐かしいな」
     初めは正直、彰人がしているような格好が自分に似合うとは思えなかったけど、彰人が褒めてくれたから少しづつ自信を持つことが出来た。きっと俺独りだったら、この街に馴染むことすら難しかっただろう。
    「悪い冬弥、待たせた」
    「大丈夫だ……それか、さっき言っていたのは」
    「おう。どうしても髪色に合わせて寒色ばっか選んじまうから、こういう色が似合うのかどうか見てみたくて」
    「確かに……こんなに明るい色の服は、着たことないな」
     彰人が持ってきたのは、鮮やかなオレンジが目を惹くフリース素材のジップアップジャケットだった。あれよあれよと今着ていたブルゾンを脱がされ、差し出されたそれに袖を通す。触り心地もいいしサイズ感も問題なさそうだったが、普段身につけないような色味に内心落ち着かない。腕を引かれて鏡の前に立たされた俺は、やはり少しそわそわして見えた。
    「今年の冬は結構冷え込むって聞いたしな、一着くらいこういうのがあってもいいと思うんだよ」
    「そうか……なんだか、オレンジを着ている自分を見るのは変な感じがするな」
    「まあ最初は違和感あるかもしんないけど、すぐ慣れるだろ」
    「そうじゃなくて、なんだかお前に包まれているみたいだから」
     オレンジといえば、彰人の色だ。髪の色がそうだから、と言われればそうなのだけど、俺を導いてくれた光のような彰人にピッタリな色だと俺は思う。そんな色を自分が身に纏っているのは、どうにも不思議な気持ちになる。
    「……彰人?」
     いつもなら気持ちいいほど軽快に続く言葉のラリーが、いつまで経っても返ってこない。鏡に写る自分から、隣にへと視線を動かせばそこには見たことの無い表情を浮かべた彰人がいた。
    「おい、どうした」
    「いや……そういう下心が全くなかったとは言わねぇけど、それは反則だろお前……」
    「何の話だ……?」
     いつもと違う顔をしている自覚があったのか、彰人は何かを口にしながら両手で顔を隠すような素振りをする。一体何が反則なのかは分からないが、おかしくないのならこのまま買ってしまおうか。
    「なあ彰人」
    「……なんだよ」
    「これは俺に、似合っているだろうか」
     俺の問いかけに、彰人はぽかんとした顔を見せた後優しく笑ってくれた。
    「超似合ってるよ、オレが保証する」
     俺を無敵にしてくれるその声が言うのならば、間違いないだろう。じきに来るであろう寒い日が、もう少し駆け足で来ればいいのにと願ってしまった。


    (201117)

    だって俺たち健全な思春期男子だもの※モブDKに台詞がある


    「なあ、東雲はどっち派?」
     今朝は冬弥が図書当番で早く登校する日でただでさえ気分が悪いのに、徹夜明けの絵名に絡まれて最悪だった。そんなオレに気付いちゃいないのか、前の席に集まっているよく助っ人を頼んでくるサッカー部の奴らが徐に俺へ声をかけてきやがった。
    「……何の話だよ」
    「これだよこれ、この表紙のアイドル!」
     漫画雑誌の表紙で笑っているのは、奴ら曰く最近出す曲全てがスマッシュヒットしているという大人数のアイドルユニットのうち、特に人気のある二人らしい。どうやらどちらのアイドルが好みかという話題を振られていたのだと察したから、とりあえずその二人の顔をよく見てみる。
    「……可愛いか?」
     あまりピンと来ない顔だと正直に伝えれば、雑誌を見せてきていた奴がげんなりした顔に変わった。隣に立つ奴からは、これだからイケメンは言いながらと首を振られる。
    「普段から可愛い女を侍らせてるから……」
    「いいご身分だぜ、全く……」
     自分たちから話を振ってきたくせに勝手に話を切り上げた奴らは、オレに背を向けてから一時限目の授業の話をし始めた。それをBGMにしながら、俺はスマホで検索アプリを立ち上げる。写真の下に書かれていた片方の名前を入力すると、サジェストで『エロい』という単語が出てきた。そういう担当なんだろうなと思いつつそれを選べば、いかにも男ウケを狙ったようなグラビアショットが大量に表示されたのでそれをスクロールで流してファンが集っているであろう掲示板のURLをタップする。『胸がデカい』『肉感たっぷりな太腿』『おっとりした目元についてる泣きぼくろ』……彼女のエロさを力説する文章を見ていると、予想通り泣きぼくろに関するコメントを見つけることが出来た。
    「……やっぱエロいよな、泣きぼくろ」
     思い浮かべるのはさっき見せられた彼女のグラビア、ではなく今日はまだ姿を見ることが叶っていない相棒兼恋人の顔だった。彼の左眦にも泣きぼくろがあって、大人しく真面目な印象を与える顔立ちなのにそれの存在のせいでどこか色気が漂って見える。泣きぼくろはエロい、それが世界共通だと知ることが出来てホッとした。ちなみに本人にも一度そう言ったことがあるが、それに対する返しはいつもと同じテンションで『ほくろなんて誰にでもついているだろう』というだけだった。
    「どうした彰人、今日はやたら顔を見てくるが……?」
     昼休みは委員会の仕事がないからといってオレの教室を訪ねてきた冬弥が、購買で買ったパンを食べ終わったタイミングで質問してきた。自分のことになるとどうも鈍感になりがちな冬弥ですら違和感を覚えるくらいには、今日のオレはずっとコイツの顔を見ていたらしい。間違いなく朝の一件のせいなのだが、今日の冬弥は一段とエロく見えるのだ。とはいえそんなこと言えるはずもなく、悪いと咄嗟に謝ればブンブンと頭を横に振られた。
    「特に嫌な気持ちになったというわけでもない。ただ、何か言いたいことがあるのならハッキリ言ってもらわないと分からない」
    「なんもねーけど……」
    「そう、か? それならいいんだが……もしかして、俺の顔に何かついているのか?」
    「ついてねーよ……ああいや、ある意味ついてんのか?」
     小首を傾げる冬弥の、そのほくろに直接触れれば墨汁を一滴水に垂らしたような神秘的な色をした瞳が分かりやすく揺らいだ。冬弥はいつまで経っても、触られることに慣れない節がある。
    「そのほくろ、やっぱエロいよなって」
    「……そんなこと言うのは、お前くらいだぞ」
    「そんなことねーだろ」
     だってほら、と朝方見たアイドルの話をしてみるも、冬弥はどうも理解してくれない。
    「そのアイドルグループの名前なら知っている、白石と小豆沢がそのグループの曲を自分たち風にアレンジして歌いたいとかなんとか言っているのを聞いたことがある」
    「へえ……オレなんて、この話されるまで全然知らなかったけどな」
    「俺も曲までは知らないんだが……それで、彰人はその子のことも、その……エロい、と思ったのか?」
     冬弥の薄い唇からエロという単語が発せられたことに生唾を飲み込んでしまったがために反応が遅れる、それを冬弥は是と判断したようでほんの一瞬だけその唇を噛んだのをオレは見逃さなかった。ストレートに言ってやらないと伝わらない、冬弥と付き合う上で一番大切にしてやらないといけない心構えだ。
    「お前だけだから」
    「……何がだ」
    「だから! エロいと思うのは、冬弥のことだけに決まってんだろ!」
     オレの弁解を聞いた冬弥の唇が、今度はやわやわとごく僅かに波打つ。それからその透けそうなほど白い肌を朱色に染めながら、顔を窓側に背けた。
    「声がデカい、彰人」
     そう指摘されると、隣で同じように昼飯を食べていた女子の視線を痛いほど感じてきた。確かに声がデカかった、しかも内容が内容なわけでどうしてもそちらを見ることが出来ない。わざとらしく大きな咳払いをしたオレは、いやでも冬弥の誤解を解くほうが優先だったのだから仕方ないと自分に言い聞かせ、もう一度冬弥の名前を呼ぶ。まだ顔の火照りが収まっていない冬弥は、こっちを見ないまま何も言わないでいいと呟いた。
    「今ので十分伝わったから……大丈夫だ」
     余程照れくさいらしい冬弥だけど、眦を赤くして泣きぼくろを見せつけるように横を向かれるとやっぱエロいよなあとどうしたって考えてしまうのだった。


    (201122)

    With

     つい最近まで7時になってもまだ夕焼け空を臨むことが出来たのに、今じゃもう図書当番を終えて学校を出るくらいの時間ですら街灯がないと隣を歩く人の表情すら伺えない。
    「っ、冬弥危ない」
    「わ……すまない、ボーっとしていた」
    「だからって、普通電柱にぶつかりそうになるかよ……どうした、熱でもあんのか?」
    「そういうわけじゃ……わっ」
     呆れた顔で俺の腕を引いてくれた彰人が、突然俺の額に手を当てるから驚いて大きな声を出してしまった。ひんやりとした掌が心地よくてそれ以上のリアクションが取れずにいれば、マジで熱はねぇなという彰人の声が耳に届く。
    「だからそう言っただろう」
    「お前、そういうこと言わねえときあんだろ」
    「そ、れは……」
    「心当たりあるよな?」
    「でも、今日は本当になんでもない。もう冬になるんだなと考えていただけで……」
     寒いのが特別苦手というわけではない。ただ、芽生えた生命が生き生きとした彩りを与える春や、太陽がその存在を一際強く示そうとする夏、そして木々が温かな色味を纏って揺れる秋と違い、冬になると外の世界が一気に色を失うように思えて寂しく感じる。小学生の時は年度末に大きなピアノのコンクールが控えていて、それに向けてひたすらレッスンに励む日々だったから、それを思い出してはなんだか億劫な気持ちになってしまっていた。彰人と一緒に歌っているときはあんなにも世界が鮮やかに見えるというのに、今から家に帰ると思うと途端に寒さを強く感じてしまって、それで考え込んでしまった。
     彰人は黙り込んだ俺に痺れを切らしたように、掴まれたままだった腕を引いて今歩いてきた道を引き返し始める。俺が何度か名前を呼んでも聞く耳も持たないようで、俺は結局いつもより広いその歩幅についていこうと無心で足を動かし続けた。さっきまで練習していた公園の、入口のすぐ近くにあるベンチに辿り着いてようやく彰人がこっちを見る。互いに息が弾んでいた。
    「来月の頭、テストあんだろ。期末テスト、だっけ」
    「は……? まあ、あるな」
    「それが終われば冬休みで、クリスマスとか年越しとか色々イベントがあるし」
    「……何の話だ?」
    「何って、オレとお前の冬の予定だよ」
    「彰人と、俺の……?」
     時々明滅する灯りの下で、彰人は真っ直ぐに俺の目を見て話してくれる。それに妙に緊張してしまって、彰人の話が上手く頭に入ってこない。どうして急に、そんな話をし始めるんだお前は。混乱する俺の手が、彰人の手に包まれる。さっきはあんなに冷たかったのに、今は少し汗ばんでいるくらいに温くなっていて、嗚呼彰人もきっといっぱいいっぱいなんだと伝わってきた。そんな彰人が伝えようとしていることを俺もちゃんと受け入れたい、普段口下手な俺の言葉を最後まできちんと聞いてくれる彰人のように。
    「オレはテスト勉強に付き合ってもらうのも、クリスマスにケーキ食うのも、初詣の列に並ぶのも、それ以外だって全部お前と一緒がいい」
    「彰人……」
    「お前がいれば今年の冬は最高に楽しくなるって思ってるし、冬弥にも同じ気持ちでいてほしい……これって迷惑か?」
    「……迷惑なんかじゃない。俺も、彰人と一緒ならなんでも楽しめるはずだから」
    「ああ、そうこなくっちゃな相棒」
     彰人の未来に当たり前のように俺の姿を描いてもらえることが嬉しくて、それなのに鼻の奥がツンとしてきて自分の感情が上手く言葉に出来ない。だけど俺以上に俺のことを分かっている彰人には何もかもお見通しだったようで、なんで泣くんだよとからかわれた。
    「まだ泣いてない」
    「まだってなんだよそれ、いずれ泣くのか?」
    「それは分からないが……でも、彰人と一緒なら嬉し涙だろうから、多分大丈夫だ」
    「……まあ、冬弥がそれでいいならいいけどよ」
     帰らなくちゃいけないのに、この手が離れてしまうのが惜しくて。気付けば俺は、歌を歌っていた。クリスマスが近くなると街やテレビから流れてくる、父さんや母さんが俺たちくらいの歳の頃に流行っていたという曲。彰人は俺の奇行とも言える行動に呆れるでもなく、寄り添うように優しく声を重ねてくれた。俺が英語詞で歌っているせいか、分からないところはハミングになっていたけど、それでもやっぱり彰人と一緒に歌うのは楽しい。
    「ありがとう、彰人」
    「別にオレはなんもしてねぇよ」
     そろそろ帰るか、と立ち上がった彰人はまだ俺の手を握ってくれたままで。どうすればいいか迷う俺に、彰人は悪戯っぽく笑った。
    「電柱にぶつかるような危なっかしい冬弥くんは、オレがちゃ〜んと駅まで送ってやんなきゃな」
    「まだぶつかってなかっただろう」
    「ぶつかりかけたのは事実だろ? ……だからこのまま帰るぞ」
     彰人の手はまだ少し温くって、だけどその体温が世界で一番愛しい。そう素直に伝えればきっと彰人は照れて手を離してしまうかもしれないから、代わりに指先を掴むので我慢した。
    (201122)

    明日にはきっと

     心臓がバクバクと暴れている。今にも皮膚を突き破るんじゃないかと不安になるくらい痛む胸元を押さえながら、俺は誰もいない教室で大きく肩を上下させながら呼吸を整えることだけに努めた。それはただ全力疾走したから、というだけではない。数分前に見た光景が、今も脳内をぐるぐると巡っている……それくらい、衝撃的なものを見てしまったという証拠だ。
    『好きです、付き合ってください……!』
     相棒が告白されていた。委員会の仕事が終わったけど家に帰りたくなくて、だけど今日はVividBadSQUADとしての活動がある日ではなくて。こんなことなら彰人に待っていてもらえばよかったと、遊びに行こうという誘いを断った昼休みの自分を恨みながら校舎を出たところだった。イベントの帰りに観客の女の子たちに囲まれるところに遭遇したことは何度もあったけれど、ああやって一体一で面と向かって好意を告げられている彰人を見るのは、初めてだった。俺は何故か咄嗟に近くの物陰に隠れていて、早く立ち去らなければならないと分かっていながらも聞き耳を立ててしまった。数十分にも感じる沈黙の後、彰人の出した答えはNOだった。
    『悪い、オレも他に好きな子がいるんだ。それなのに君と付き合ったら、君にもオレの気持ちにも不誠実だから』
     俺の前で見せる態度とは違う、物腰の柔らかな口調で彰人は告白を断った。それを聞いた俺は少しづつ呼吸をするのが下手くそになってきて、とうとう堪えきれずにその場から逃げ出した。やっぱり早く立ち去るべきだった、だってそうすれば、
    「……ただ、片想いしているだけでよかったのに」
     彰人と付き合いたいとか、そんなことは思ってなかった。ただ彰人に気付かれないよう、俺だけがこの想いをひっそりと大切に育てていられれば十分だった……筈なのに、いざ彼に好きな人がいるのだと知ってしまっただけでこんなにも胸が苦しい。彰人は俺と違って交友関係も広いし、お姉さんがいるからか女子への接し方も上手だ。色んな人と関わる中で、惚れてしまうような人と出会っていても何もおかしくはないだろう。どんな子なんだろう、俺も知っている人だろうか、出来れば知らない人のほうがいいけれど、彰人がその人といて幸せならばそれでいい……
    「冬弥!」
    「っ……彰人、なんで、?」
    「なんでって、お前が廊下走ってくのが見えたから……どうしたんだよ冬弥、顔真っ青だぞ」
     靴も履き替えてないし、と指摘され初めて自分の足元に意識がいった。少し草臥れてきた革のローファーは、室内で見るべきものではなかった。どれだけ慌てていたのだと自分のことを笑えば、教室の入口に立っていた彰人がこちらへと近付いてきた。
    「帰っていたんじゃ、なかったのか」
    「そのつもりだったけどよ……やっぱ練習してから帰りたいと思って、お前のこと待ってた」
    「でも、図書館の前にはいなかっただろう」
    「それは……驚かせようと思って、昇降口にいたから」
     告白されていたことを隠したいのか、それとも待っていてくれたというのは本当なのか、未だ混乱している俺はいつも以上に彰人の言葉の真意を掴み損ねている。
    「その、今日はダメだ、今から家に帰ると連絡してしまった」
    「つるむなって言われてるオレと一緒にいる時点で不良息子みてぇなもんだろ」
    「けど……無理だ、上手く歌える自信が無い」
     どうすれば彰人に嫌われることなく断れるのか、今この瞬間ほど自分が口下手であることを悔やんだことはない。今日だけはどうか、お前のことを思って独りで泣きたいんだ。明日からはちゃんと、お前の隣に立つに相応しい相棒としての俺でいるために。
    「……なんかあったのか、冬弥」
    「別に、何もない」
    「嘘つくなって。お前、嘘つくときが一番表情変わるからな」
    「そ、そんなことは」
    「そういうのはいいから! で、何があった……また親になんか言われたのか?」
    「そうじゃない、これは俺自身の問題で……」
    「困ってんならどんなことでもいいから相談しろって、前言っただろ。頭いいくせにもう忘れたのかよ」
    「頭の良さと記憶力の高さは別物だと思うが……いや、これも御託だな」
     彰人は頑固だから、きっと俺が本当のことを話すまで帰してはくれないだろう。俺だって本当は、彰人に嘘をつくのは心苦しい。だけど本当のことを言ってどうする? 彰人を困らせるのはもっと嫌だ、だからこの気持ちは絶対に彰人にバレてはいけないのだ。
    「少し色々あって、動揺してしまって……多分、今日はそれが歌にも出ると思う」
    「だから、オレはその色々の部分が知りたいんだけど?」
    「……気持ちの整理がついたら必ず話す、だから今はそっとしていてくれたら嬉しい」
    「冬弥……」
     俺の名前を口にした彰人は、分かったよと納得してない顔で折れてくれた。いずれちゃんと話す、その日がいつになるか分からないけれど彰人は『相棒』としての俺ならばきっとずっと傍にいさせてくれるはずだから。ゆっくり時間をかけて、俺しか大切にしてやれないこの思いを少しづつ捨てていけばいい。
    「ありがとう、彰人」
     彰人は優しいなと言えば、そんなことねぇよとぶっきらぼうに返された。語調が強くなるのは彼なりの照れ隠しだ、そういうところは可愛いと思う。そういう些細な彰人の好きなところを、今日は一晩中愛でて過ごそう。そうして明日にはまた、
    「明日は一緒に歌ってくれ、彰人」
    「言われなくてもそのつもりだっつーの」
     お前の隣に堂々と立てるようにするから。


    (201203)

    好きなだけ味わって。

    『初めてのキスを交わしたとき、それは確かにレモンのような甘酸っぱさを伴った。』
     ミステリー小説のエッセンスとして恋愛要素が盛り込まれることはよくある。冬弥が最近読み進めているシリーズでは、主人公である探偵とその助手のようなポジションを務める幼なじみの女性とのじれったい恋模様が繊細に描かれていて、故に普段そう言ったジャンルの本を読まない層からも人気を博しているのだという。冬弥自身、この作家の緻密で無駄のない伏線が最後で鮮やかに回収されるストーリー展開が好みで読み始めたのでそのような事情は後から知ったのだが、とある一文がどうも冬弥の胸につっかえた。
     ──果たしてキスとは、甘酸っぱいものだっただろうか。
     冬弥がファーストキスを経験したのは、遡ること1ヶ月前のことだ。そんなに古い記憶でもない、それどころか未だにそのことを思い出しては胸が高鳴るくらい鮮烈で一生忘れることが出来ないと確信しているような思い出なのだ。だからこそ冬弥は疑問に感じる、キスというものはもっと濃厚でまるでまだ味わったことの無いアルコールを連想させるような酩酊感を与えるものではないだろうかと。
    「冬弥、悪い待たせた」
    「あ……いや、大丈夫だ。読みかけの本があったから、暇を潰せた」
    「そうかよ」
     教室の入口で冬弥が帰り支度を終わらせるのを待っている男こそ、冬弥のファーストキスの相手であり彼の恋人である東雲彰人であった。冬弥は互いの関係に恋人という名前を付けたことがまだむず痒く、彰人の顔を見ただけでどう表現していいのか分からない感情に支配される。それがマイナスの感情でないことは冬弥にも理解出来ているから、尚のことタチが悪かった。
    「面白いのか、その本」
    「ああ、この作家の本は王道のようでいてたまにトリッキーなことが起こったりするから、面白い」
    「ふーん……」
    「彰人も、読んでみるか?」
    「勘弁してくれよ、オレが読めるわけねぇだろそんな分厚い本」
     昇降口へ繋がる廊下を歩きながら交わされる会話の中身は、恋人関係になる前となんら変わらないと冬弥は感じている。あの日以来キスをしたことはないけれど、あの一文を読んだせいか冬弥の意識は喋る彰人の唇にばかり向いていた。
    「なあ彰人、一つ質問をしてもいいか」
    「あ? どうしたんだよ、そんな改まって」
    「いや、そんな大した話じゃないんだ。この本のなかで出てきた表現がどうにも腑に落ちないから、誰かに聞いてみたかっただけで」
     なんと聞けば正しく彰人に伝わるか、冬弥は少し悩んでから口を開く。
    「彰人のファーストキスは甘酸っぱい味がしたか?」
    「…………はあ?」
     悩んだ結果至極シンプルに問いかけた冬弥は、彰人の反応を見てこれ以上どう言えばよかったのだろうかと瞬時に反省した。渋い顔を見せる彰人に、一先ず冬弥は本のなかで出てきた表現であったことを説明することから始めた。
    「俺はあの晩、彰人とキスした時にそんな風に思わなかった。彰人が初めて誰かとキスした時はどうだったんだ?」
     暗がりの公園で、二人はキスをした。付き合ってから初めてのイベントの帰りで、冬弥は普段以上に熱が冷めやらない感覚に陥っていた。それは彰人も同じだったのか、通りがかった小さな公園で休んでから帰ろうと提案してきたから冬弥はそれに乗った。冬弥は無糖の缶コーヒーを、彰人はスポーツドリンクをそれぞれ買って適当なベンチに座って、気付いたらイベントの反省会のような流れになっていた。そんな中、ふと彰人が黙り込んで会話が途切れたのだ。どうしたんだ、そう冬弥が呼びかけようとしたそのとき、彰人との距離がぐっと詰められた。驚いて上がりかけた声を飲み込んだのは、彰人の唇だった。
    「……覚えてねえよ」
    「そんなものなのか? 俺はよく覚えているのに」
     ライブハウスのステージのカラフルな照明の下じゃなくて、頼りない街灯の白い光に照らされた彰人の瞳の色だとか。冷たいのに熱っぽい、少しだけかさついたところがある彰人の唇の触り心地だとか。全力で歌ったり運動をしたりした後とは違う呼吸の苦しさだとか、自分のものは違う唾液の温度だとか。
    「俺は一生忘れないと思う」
    「……お前、そういうの絶対他の人の前で言うなよ……あと、そういうこと聞いたりするのもナシだからな」
    「そういうこと……?」
    「だから、ファーストキスがどうこうとかそういう話だよ」
    「やはり聞き回らない方がいいのだろうか」
    「当たり前だろ……」
     結局彰人一人にしか聞けなかった挙げ句、その唯一の回答者は有効とは言えない答えしかくれなかったため冬弥の疑問は誰にも解決されることはなくなった。しかし冬弥とて、彰人が嫌がるようなことはしたくなかったから『味覚は個人差である』という風に無理やり納得することにした。
    「てか、わざわざ二人きりの状況でそんな話持ち出すとか、してほしいって言ってるようにしか聞こえねぇぞ」
     まるであの日のように彰人が突然顔を近付けてきたものだから、冬弥の痩身がびくりと跳ねてやや後ずさるような形になる。それを見て満足したように笑った彰人のブレザーの裾を引いていたのは、冬弥にとって半ば無意識の行動だった。
    「してほしいと言えば、してくれるのか?」
    「……ここは流石にマズイんじゃねぇの、お互い」
    「じゃあどこに行けばしてくれるんだ」
    「おい、どうしたんだよ冬弥」
    「……もう一度彰人とキスがしてみたい」
     そう口にした瞬間、ずっとそう願っていたのだと冬弥は実感した。きっとファーストキスの味なんてどうでもよくて、ただ『彰人と交わすキス』の味をもう一度味わいたかっただけなのだと、分かった。自覚したことで冬弥の薄墨色の瞳には明らかな熱が点って、それにあてられたように彰人の全身に熱が走る。自分の制服を掴む冬弥の手を取った彰人は、そのまま腕を引いて元いた教室へと足早に戻った。
    「彰人、あの」
    「ムードがねぇとか、そういうこと言うなよ」
     乱暴に教室の引き戸を閉めた彰人は、冬弥の背をそこに押し付ける。いつも見慣れているはずの教室が全く知らない場所のように見えてきた冬弥は、徐々に自分の呼吸が速くなっているのが分かった。また彰人とキスが出来るということにも興奮していたし、自分だけを写すギラギラとした瞳にも興奮していた。ただ、またあの快感に飲まれるのかと思うと怖くて、冬弥はぐっと両目を力一杯に瞑る。まるでそれが合図であったかのように、ちぅ、と冬弥の唇が啄まれた。次に角度を変えながら、軽く当てるくらいの口付けを何度も与えられる。冬弥にはそれが妙に擽ったく感じて少し身を捩れば、抵抗と見なされたのか肩を掴む手に力が入った。逃げる気は無いと伝えたい冬弥に、そんな隙は一切与えられない。
     ──嗚呼やっぱり、キスは甘酸っぱくなんてない。
     酸欠になりそうな頭の片隅で、冬弥は身をもって答えを得る。彰人がこの冬好んで飲んでいる自販機のカフェラテの味と、彰人がつけている香水のスパイシーなラストノートでクラクラとしていた。腰砕けになった冬弥が完全に扉に体重を預けるような体勢になったところで、漸く彰人は冬弥の唇を食らうのをやめる。そのままズルズルとしゃがみ込んだ冬弥の顔を覗き込むように、彰人もまた膝を抱えるようにして屈む。冬弥の、普段は透き通りそうなほど白い肌が今は朱を帯びていた。
    「満足したかよ」
    「……多分」
    「多分ってなんだよ……オレが聞くのもなんだけど、そんなんで帰れるのかお前」
    「少し、息を整えてから、帰る……」
    「ついでにもう少し顔引き締めてから帰れよ」
    「顔を、引き締める」
    「なんつーか……お前にしては、なんかあったなって顔してるぞ」
     指摘され、冬弥は火照った自分の頬に触れる。普段は無表情だの鉄仮面だの言われる自分がどんな顔をしているのか興味がある一方で、見てしまえば羞恥のあまり彰人としばらく話せなくなるだろうと冬弥はなんとなく分かってしまったから、それ以上は特に何も出来なかった。
    「……思い出したんだけど」
    「ああ、どうした彰人」
    「オレのファーストキスも、レモンみたいな味じゃなかったわ」
    「そう、か……」
    「お前、それはどういうリアクションなんだよ」
    「いや……じゃあ、どんな味がしたんだ」
     自分から聞いた手前言い出しにくかったが、彰人が見知らぬ誰かとの思い出を回想していることに冬弥の胸はチクリと痛んだ。そんな本心を隠すように質問を重ねれば、そうだなあと彰人はもったいぶったような口調であの『悪い顔』を冬弥に見せた。
    「ぬるくなったブラックコーヒーの味」
     今日も前と同じの飲んでたろ、と呟いた彰人に、冬弥はやや首を傾げてそれからはたと彰人の言わんとしていることを察した。
    「彰人、それはつまり、」
    「っし、帰るぞ冬弥」
    「おい彰人、待ってくれ」
     両膝を勢いよく叩いて立ち上がった彰人に言い逃げさせまいと、冬弥は珍しく慌てたように声を上げる。揶揄うように笑う彰人は、冬弥のよく知る顔をしていた。


    (201211)
    とある一ページ(微かに杏こは風味)


     ウチの高校の変人ワンツーフィニッシュの片割れにして冬弥の尊敬する先輩だという奴から貰ったチケットで、チーム仲良く遊園地に繰り出していた日曜の昼下がり。
    「冬弥、帰るか?」
    「平気だ……多分……」
    「ったく……お前ほど遊園地に向いてない奴を知らねぇわ」
    「……すまない」
    「いや、冗談だっつーの……そこで待っとけよ、適当に飲み物買ってくるから」
     チケットをくれたそいつは、この遊園地でキャストとしてアルバイトをしているらしい。ワンダーステージと呼ばれるショーのような催しに参加する奴は、確かに天職と言わんばかりに輝いていた。今回のこの集まりはこのステージを見ることが目的だったわけで、じゃあこれからどうするかと聞けばいつもは杏の後ろに隠れているこはねが突然矢継ぎ早に、ここでアレを食べたいとかこの時間のあの乗り物に乗りたいとか提案し始めた。その熱意に冬弥と二人で気圧されていれば、こはねはこの遊園地の熱狂的ファンなのだと杏に説明された。そんなこはねに先導されるまま遅い昼食を済ませてメリーゴーランドやらゴーカートやらに乗ったオレ達が次に向かったのは、終盤にある高いポイントからの落下が魅力だというジェットコースターだった。オレはすぐに、物珍しそうに遊園地の建造物を眺めているせいで若干遅れて着いてきていた冬弥の様子を伺った。こはねや杏に高所恐怖症のことを伝えているかどうか分からないから、とりあえず本人に視線だけでイケるのか尋ねるも不安そうに瞳を揺らすだけでどうしたいのかが伝わってこない。
    「ちょっと二人ともー!早く並ばないと、次のやつ乗れなくなっちゃうよー!」
    「……どうすんだよ、冬弥」
    「…………乗る、ここでせっかくの楽しい思い出に水を差すわけにはいかない」
     まるで何かを覚悟した武士の如く、物凄い形相で杏たちの元へ歩き出す冬弥。遊園地に来ること自体が初めてだと語っていた冬弥にとって、好奇心も勝ってしまった部分があるんだろうがアイツは真面目だから自分が断ったら場が白けると思っているんだろう。後のことはオレがフォローを入れてやろう、そう決心してオレも冬弥に続いた。
    「ほら、水なら飲めそうか?」
    「ああ、すまない……」
    「俺はお前に謝って欲しくて買ってきたんじゃねぇぞ」
    「……ありがとう、彰人」
    「どういたしまして。こはね達、観覧車乗ったら合流するってさ」
    「そうか……あとで小豆沢達にも、謝らないと」
     悪いことをした、と言いながらまだ休憩スペースの机に伏せたままの冬弥は、ジェットコースターを下りてからずっとこんな感じだ。こはねと杏は無理やり乗せてしまったと反省しているようだったが、止めなかったオレも同罪だからと言って残りのアトラクションに乗るよう促してきた。そうして二人、かれこれ一時間ほどここに座っている。
    「彰人も、」
    「あ?」
    「彰人も何か乗りたいやつがあったんじゃないか?」
    「別に。そもそもお前が行きたいって言うからついてきたんだから、お前がいないなら意味ねぇよ」
    「そうか……」
     億劫そうに身体を起こした冬弥が、ようやくオレの買ってきた水に口をつけた。下りてすぐのときより顔色はだいぶマシになってきているようだが、まだ視線はぼんやりとしているみたいだし口数も少ない……いや、それはいつものことか。
    「誘った時、白石が言っていたんだ」
    「なんて?」
    「その、Wデートだね、と」
    「あー……アイツ、そういうの好きそうだもんな」
    「だから、出来るだけ彰人と同じことをやりたかったんだ。せっかくの、デートだから」
    「冬弥……」
     失敗してしまったが、と目を伏せる冬弥にいじらしさが募る。きっと、こういうのを愛しいと呼ぶのだろう。気付けば俺は、角度によっては白銀のように見える瞳を覆っている前髪を撫でていた。
    「彰人……?」
    「今度はオレらもちゃんと計画立てて来ようぜ、デート」
    「今度?」
    「なんだよ、この一回きりだと思ってたのかお前」
    「俺と来てもつまらないと思われたと思っていた、し、そもそも彰人はここに来るのにあまり乗り気じゃなかっただろう」
    「デートは遊園地だけじゃねぇだろ、映画でも水族館でもどこだっていい」
    「そう、だな……確かに、彰人の言う通りだ」
     ネガティブ思考がデフォルトな冬弥の相手も慣れたものだと思う、微かに口許を緩めた冬弥にどこか行きたいところはあるかと聞けば鋭さを取り戻しつつある視線が虚空を見つめた。かなり真剣に悩んでいるらしいその様子に冬弥らしいとまた一つ愛しさを積み重ねたところで、冬弥は不意にふわっと優しく微笑んだ。
    「彰人と一緒ならきっとどこだって楽しいだろうから、すぐには決められないな」
    「そーかよ……」
     コイツたまに、こういうところあるんだよな……妙に男前というかなんというか。多分、そういうことを言っているという自覚もないだろうけど。
    「まあ次のことはまた今度考えることにして、今はここをめいっぱい楽しもうぜ冬弥」
    「だ、だが……」
    「もうちょっとしたら、パレードが始まるんだとよ。お前が動けそうなら場所取りしておくって今こはねから連絡が来た、どうする?」
    「い、行きたい、彰人と一緒に」
    「そうこなくっちゃな」
     調子を取り戻したらしい冬弥と共にこはね達の元へ向かえば、パレードにキャストとして参加していたあの先輩の姿が見れてしまったがために、今度もまたここがいいとお願いされるのはあと数十分後の話だった。


    (201213)
    愛だとか恋だとか

     放課後、外はすっかり日も暮れているにもかかわらず彰人のいる保健室は電気がついていなかった。項垂れたようにベッドの隅に座る彰人は、その清潔感のあるシーツに包まる冬弥の手を握ったままかれこれ二時間はそこから動いていない。養護教諭には自分が冬弥の親御さんが来るまで責任を持って近くにいると言って帰したため、保健室の鍵は彰人のスラックスのポケットにある──冬弥の親はきっと冬弥が授業中に倒れたことも知らされていないだろうけど、二人きりになりたくて咄嗟についた嘘だった。
    『彰人はいるか!』
     6時限目が終わり終礼が始まるまでの僅かな時間、彰人はこのあと冬弥と二人でやる予定の練習の計画を頭の中で練っていた。その思考を容易く断ち切るような伸びやかな声の持ち主を彰人はすぐに思い浮かべ、気付かないフリをしてやろうかと企んだ。
    『冬弥が倒れたらしい! 手を貸してくれないか!』
     それを先に言え、と言うより早く彰人は立ち上がった。そして呼びに来た司に案内されて階段を上れば、廊下の隅のほうで蹲る冬弥がいた。
    『っ、』
    『冬弥!』
    『司、せんぱ……?』
    『む、さっきよりも顔色が悪いな。恐らく貧血による立ちくらみだと思うが……最近寝ていないんじゃないか? 今先生にお願いして担架を持ってきてもらっている、オレと彰人で保健室まで運んでやるからな』
    『そんな、俺、自分で……』
    『こういうときに無理をしても仕方ないだろう冬弥。誰かに頼ることは悪いことじゃないんだ、なあ彰人?』
    『え、ああ……いいから楽にしとけ』
    『彰人まで……二人とも、すまない』
     司の言った通り、すぐに担架を持った教師がやって来て彰人と司を中心になんとか一階の保健室まで冬弥を運ぶことが出来た。冬弥はベッドに移るところまではなんとか起きていたようだが、横になるとすぐに寝息が聞こえてきた。養護教諭が冬弥の家に電話を入れようとしたのを止めたのは、彰人ではなく司だった。彼の両親は多忙で家を空けていることが多い、自分は家族ぐるみの付き合いで他の連絡先を知っているから自分が連絡を入れる、と言って教師を説き伏せたのだ。しかし一向にスマホを持ち出す様子のない司は、いつも以上に白い冬弥の顔を眺めながら声を顰めて当時の状況を彰人に教えてくれた。冬弥のクラスは6時限目が移動教室で二階の化学室にいたということ、冬弥のクラスから化学室に行くまでの道のりで必ず司のクラスの教室の前を通る必要があること、そのため冬弥は決まってその授業の度に司に挨拶に来ていたこと、しかし今日は来なくて司も不安に思っていたところ授業終わりに冬弥のクラスメイトで司のバイト仲間だという女子生徒が駆け込んできてクラスの子が倒れたから手を貸してくれと知らせに来てくれたこと、向かえば廊下に横たわっていたのが冬弥であったこと……
    『倒れた直後はもっと意識が朦朧としていたんだ、オレが呼びかけても殆ど無反応でな。ただ、お前の名前を呼んでいたのが聞こえたから、俺はウチの担任の先生にその場を任せてお前を呼びに行ったというわけだ』
     本人の眠っているうちに、養護教諭が体温や脈拍を測っていたがどれも正常であったため貧血だろうと判断された。昼間は確かにいつもより食事の量が少なかったかもしれないと彰人は思い返す、あのときは何も思わなかったのにあのときの行動一つ一つがSOSだったのではないかと思えてきてひどい後悔に苛まれてきた。
    『さて、ここからはお前の仕事だな彰人』
    『は……?』
    『冬弥のこれは恐らくただの寝不足だ、理由は知らんがな。学校が閉まるまでには起こさなければならないだろうが、それまで付き添ってやってくれ』
    『アンタに言われなくてもそうするつもりだっての……なんであんなに手際良かったンスか、センパイ』
     悔しかった。さっき、見るからにしんどそうな様子の相棒を見て、彰人はどうすることも出来なかった。そもそもあの場に司がいなければ、冬弥が倒れたということも知らなかったかもしれない。その上相棒の窮地に何もしてやれなかった、彰人にはその事実が重くのしかかっていた。
    『ただの経験則だ。妹は生まれつき身体が弱かった、だからああいう状況に慣れていただけだ』
     誰だって大切な人があんな風に倒れていたら驚くものだろう、そう話す司もきっと驚いて死ぬほど怖いと震えた日があったのかもしれないと想像するのは彰人にも容易かった。さっきまでの神妙な顔はどこへやら、それじゃあ先に帰るから頼んだぞと告げた司はいつもと同じように見えた。それを見送った彰人は、また冬弥の眠るベッドの脇に置かれた丸椅子に座って彼の手を取った。それからずっと、冬弥の雪景色を閉じ込めたようなあの瞳が見えるようになるまで待ち続けていた。
    「……流石に起こさねぇとマズイよな」
     寝相のいい冬弥はこの二時間、彰人の手を払うことなくこんこんと眠っている。ここまで音沙汰がないのだ、司があのあと冬弥の両親と連絡を取ったとは考えにくい。そう判断した彰人は、冬弥の身体を優しく揺すり始めた。ずっと天井を向いていた額が、起きたくないのか横を向いた。それがよりによって彰人のいない方向だったのが気に食わなくて、少し力を入れて二の腕の辺りを叩く。
    「ん………ぅ……」
    「起きろって冬弥、眠いならおぶって帰ってやるからとりあえず身支度だけでも整えてくれ」
    「ぅ……あ、きと……俺……」
    「おう、起きたか」
     こちらを見て自分の名前を呼んでくれた冬弥に安心した彰人は、まだ眠たそうな冬弥の額に自分の手を当てる。やはり熱があるとかそういった感じではないから、司の予想が正解なのだろう。
    「貧血で倒れたんだよお前、覚えてるか?」
    「なんとなく……授業が終わって教室に戻ろうとしていたとき、突然視界がぐるぐると歪んだことは覚えている」
    「元々眩暈があったとか?」
    「そんなひどいものではなかった、立ち上がったらちょっとふらっとするくらいで」
    「いや、それだけ自覚症状があればアウトだろ……アイツも心配してたぞ、司センパイも」
     その名前を出すのは癪だったが今回の一件の立役者は間違いなく司だったので、彰人はちゃんと説明しておいた。冬弥は案の定少し嬉しそうにその名前を復唱するから彰人はつまらなかったが、まずは一旦学校を出るべきだとなんとか苛立ちを抑えて脱がしていた冬弥のブレザーを渡す。
    「司センパイがお前の家には連絡を入れないように根回ししてたから、なんも言われねえと思うけど」
    「そうか……先輩には、助けられてばかりだな」
    「元気になったら礼言わねえとな」
    「ああ……彰人も、ありがとう」
    「オレは別に、なんもしてねぇよ」
    「手を、握ってくれていただろう」
     こちらの手だけ温かい、とブレザーに袖を通した冬弥がさっきまで彰人に握り締められていた方の手を揺らす。
    「起きてすぐ、お前の顔が見れるというのは……なんだか、擽ったい気持ちになるな」
    「そういえば、お前の寝顔ってレアだったかもしんねーな」
    「……そんな大したものじゃないぞ」
    「写真くらい撮っとくべきだったな、あ〜あ、勿体ないことした」
    「やめてくれ、恥ずかしい」
     それより早く帰ろう、と急かす冬弥がベッドから降りるのすらひやひやとして、彰人は肩を貸してやる。職員室に鍵を返してから昇降口で待たせていた冬弥の下へ駆け足で戻れば、まだ眠たいのかぼんやりと何処かを見つめていた。
    「……あのさ」
     背中から声を掛けられて驚いたのか、微かに肩を跳ねさせた冬弥。そんな華奢な肩に手を添えた彰人は、制服越しにほんのり伝わる体温に安堵の息をついてから、改めて話を切り出した。
    「頼りねぇかもしんないけどさ、なんかあったらすぐオレを呼べよ。今回みたいなのはもう勘弁だ」
    「彰人……」
    「それだけ、言っておきたくて」
     冬弥を助けてくれた司に嫉妬するなんて、情けないにも程がある。そう分かっていても、彰人はやはり悔しくて、それがさらに情けなさに拍車をかけていた。そんな彰人を見つめていた冬弥は、小さくすまなかったと呟く。
    「そんな顔をさせるつもりはなかったんだ。練習から帰ったあと興奮してなかなか寝付けなくて、それで本を読んだり予習したりしていたら夜明け近くになっていたりして……本当にそれだけなんだ。大した理由じゃないし言うほどでもないだろうと勝手に判断して、結局お前に迷惑をかけてしまった」
    「……それ、嘘じゃないんだな?」
    「あまり疑われると、流石に俺も傷付く」
    「分かった、もう聞かねぇよ。でも、次からはこんなんなるまで我慢すんなよ、弱ってるお前見たらマジで心臓止まるかと思ったから」
    「ああ、今度からは気を付ける」
     至極真面目な顔で頷く冬弥を見て、彰人は違和感を覚えた。それから自分の言葉を振り返って、思わず舌打ちしたくなる。これじゃダメだ、多分また同じことを繰り返すだろう。そう思った彰人は、本当に伝えたいことを正しく伝えられるような言葉を必死に探す。
    「冬弥、お前勘違いしてるだろ」
    「何をだ?」
    「弱ってるのが見たくないとか、そういうの見たら呆れるとか、絶対ねぇから」
     話を聞いている冬弥の目が、気まずそうに逸らされたのに彰人は気がついた。やはり勘違いさせていたということへの後悔と、冬弥にちゃんと自分の想いを知ってほしいという願いを乗せて次の言葉を模索し続ける。
    「寧ろそういうところ見せてほしいっつーか、ちゃんと知っておきたいっていうか……」
    「……つまり?」
    「だから、お前の全部をオレが一番理解していた、い……って」
     小首を傾げる冬弥に唆されるように彰人の口からぽろりと零れ落ちた言葉に、一番驚いたのは彰人自身だった。そして同時に腑に落ちもした、今日ずっと抱えていたモヤモヤに漸く名前をつけられたからだった。
    「あ~……そういうことかよ……」
     冬弥が尊敬してやまない司のことを好きになれないのはそういうことだったのかと、シンプルすぎる答えに彰人は思わず笑いそうになる。一体なんの話なのかついていけない冬弥は、戸惑いながら相棒の名前を呼ぶ。いつもと変わらない音の筈なのに、彰人には世界で一番輝いて聞こえてきた。


    (201223)
    the first,

     クリスマスは比較的家の中の雰囲気が穏やかであったと思う。勿論レッスンがなくなるわけじゃないけれど、朝のレッスンをいつもより早く切り上げて家族みんなで珍しく遠出をする日だった。一時間ほど車に揺られてとある教会へ赴き、そこの聖歌隊の合唱を聴きに行くのが我が家のクリスマスの恒例行事だった。ご飯も豪勢で、いつもより時間をかけて食事を摂ることを許される日でもあった。ウチに来るサンタは俺のおねだりに耳を貸すことなくて新しいスコアしかくれなかったけど、それでも朝目覚めたら枕元にプレゼントがあるというワクワク感は一般家庭の子供並みに味わえていた。
    「冬弥、待たせたな」
    「大丈夫だ、ゲーセンで暇を潰していたし……それより彰人、バイトお疲れ様」
    「サンキュ。思ってたより客が多くてさ、正月に福袋売り出すらしいけどあれより来ると思うとゾッとするわ」
     彰人は軽口を叩きながら、俺の手を握ってきた。人通りの多い場所でこういうことをされたのは初めてで一瞬躊躇したけど、すれ違う人達は皆互いの連れのことしか見えていないようだったから俺もその手を握り返して応える。こっちだから、と鼻の頭を真っ赤にしている彰人からクリスマスデートに誘われたのは、12月に入ってすぐだった。イヴは学校の終業式と被っていてドタバタするかもしれないならと今日の夕方からになったものの、街は似たようなことを考えたらしい学生のカップルで溢れかえっている。そのうちのどれくらいの人達が俺たちに気が付くのだろう、ほんの少しのスリルと彰人と手を繋いでいるというドキドキで頭がポーっとしていた。
    「ここだ、冬弥」
    「すごい……綺麗だ」
    「だろ? 年を追うごとに派手になってんだけどさ、すげぇよな」
    「ああ、すごいな」
     神山通りからセンター街へ繋がる道なりにライトアップが施されているのは知っていたけど、クリスマス当日はさらにプロジェクトマッピングの手法を用いてより華やかになっていたことは知らなかった。めくるめく姿を変える街路樹たちから目を離せずにいたら、隣からクスクスと笑い声が聞こえてくる。
    「どうしたんだ、彰人」
    「いや、プレゼント貰った時の子供みたいな顔してたから」
    「……そうか?」
    「目がキラキラしてたぜ? そんな反応して貰えたなら、連れてきたかいがあったわ」
    「ああ、彰人と一緒にこういう景色が見られて幸せだ」
     きっと、あのとき親に反抗することなくいればこういった経験をすることは永遠に訪れることはなかっただろう。あれはあれでいい思い出だけど、好きな人と一緒に幻想的な街を歩くという経験に勝りはしない。
    「なあ、冬弥」
    「なんだ」
    「プレゼント、あるんだけど」
     このライトアップの中心地である広場にはモニュメントや特設ステージがあり、ちょっとしたクリスマスマーケットも催されていてお祭りのようだった。初めて経験した文化祭の空気を思い出す俺を飲食スペースとして用意されている一角へ引っ張ってきた彰人は、背負っていたデイパックから包みを取り出した。片手に収まるくらいのサイズのそれを、大事に両手で受け取ると案外重みがあって中身の検討がつかない。開けてくれと言われるまま、黒い包装紙を勢い余って破かないよう気を配りながらなんとか剥いていく。
    「これは……香水か?」
    「お前、ちょっと前にオレが香水変えた時すぐ気付いただろ? だから興味あんのかなって」
     香水のなかでも比較的持続時間が短く、香りも強すぎないものを選んでくれたという。丸っこいフォルムでほんのりオレンジに色付く瓶に顔を近付けると、甘すぎない柑橘系の香りが鼻を掠めた。
    「いい香りだ」
    「そりゃよかった。たまにでいいからさ、使ってみてほしい」
    「ありがとう、彰人。こんな素敵なもののあとに渡すのは、なんだか気が引けるのだが……」
     俺もポケットに忍ばせていた、細身の箱を彰人に差し出す。ラッピング用のリボンを紫にしてもらったのはちょっとあざとかっただろうかと心配していたけれど、彰人は特に何も言わずそれをシュルシュルと外していく。
    「お、ネックレスか」
    「彰人が付けているイメージがないから、選んだんだが……あまりセンスがなかったかもしれない」
    「そんなことねぇよ、トップも大ぶりすぎないから制服の下にも付けられそうだし」
    「それは風紀違反じゃないか?」
    「だから制服の下に付けんだろうが」
    「そう、なのか?」
     ただでさえピアスを付けて登校している彰人にとっては、大した問題ではないらしい。それよりも、普段から使うと言ってくれたことが嬉しくて、仕方ない。
    「でも、お前も大胆だな」
    「大胆?」
    「アクセサリーを贈るのは『相手を束縛したい』っていう願いがこもってるってよく言われるだろ」
    「そ、んなつもりじゃ」
    「分かってるよ、よく雑誌なんかに載ってるジンクスみたいなもんだから」
     そんなつもりは全くなかったから狼狽えた俺に、彰人は例の悪い顔を見せた。初めから俺がこういう反応をすると分かっていたのかもしれない、それがちょっと悔しくてじゃあ香水を贈ることに意味があるのか聞いてみる。すると彰人は一瞬だけ余裕のある顔を崩して、結局また悪い顔に戻った。
    「香水の意味は……『もっと親密になりたい』、だってさ」
     意味分かるか? と聞かれ、ゆっくりと頷きを返せば彰人は愉しそうに笑った。そして徐に手を引かれ、まだ全然見て回れていない会場を足早に後にする。心がザワザワする、子供の頃のクリスマスとは全然違う感覚だ。
     16歳のクリスマス、俺はまたひとつ新しい経験をする。


    (201225)
    隠しきれてないぜ、My Friends!(彰冬+瑞希)


    「弟くんさあ、」
    「その呼び方ヤメロ」
    「いちいち反応してくれるのが面白いからやめないってそろそろ気づいて欲しいんだけど……ってそうじゃなくて。そっちのピアス、変えたんだね」
    「だいぶ前の話だけどな」
    「え~? ボク、ここ最近は割と真面目に登校してたつもりなんだけどな~?」
     放課後。廊下ですれ違った弟くん、こと東雲彰人くんの風貌は一言で言ってしまえばチャラい。だけど髪型やアイテム一つ一つにこだわっていることは伺えたし、実際それが似合っているような人だ。チャラいと言われるのも、むしろ賞賛だと感じるんだろう。そんな彼はピアスをつけている、ボクの知り合いにもつけている人はいるしそれが特段悪いこととは思わないけど、気分によってつけるものを変えているといった感じでは無かったはずだ。両耳に揃いのシルバーのスタッドピアス、そして左の耳にだけその上にループピアスを常につけていたとボクは記憶しているのだけど、今彼の右耳で輝いているのはシルバーではなく紺色の石が埋め込まれていたスタッドピアスだ。弟くんはわざわざ自分の耳朶を指さして、ふふんと自慢げに笑う。
    「綺麗だろ?」
    「綺麗だけど……弟くん、寒色ってイメージがないからちょっと意外かな?」
    「別に、オレがつけたいからつける、ファッションってそんなもんだろ。イメージなんて、関係ない」
    「それは勿論、分かってるけどさ」
     これからサッカー部の紅白戦に助っ人参加するらしい弟くんは、またな暁山と言ってその場を去っていった。弟くんの言い分は勿論分かる、分かるけど。
    「あの色味はどう考えても……ねえ?」
     想像してしまった人物に会うため、昇降口を目指していた身体を方向転換する。階段を上ってすぐ、廊下の突き当たり側に見えた図書室を覗けば、カウンターにお目当ての人物がいて思わずにんまりしてしまう。
    「冬弥くん!」
    「暁山、今日は登校していたのか」
     図書室だから一応静かにしてくれ、と告げた冬弥くんは一旦部屋中を見回して用事があるなら廊下に出ると提案してくれた。ボクとしては寒いしこのままここで話したかったけど、きっと冬弥くんはそれを許してはくれないだろうからそれじゃあと廊下に出る。
    「わざわざ図書室まで来るなんて、何かあったのか?」
    「う〜ん、そんな大した用じゃないんだけど……冬弥くんって、ピアス開けてないよね?」
    「あ、ああ……痛いのはあまり得意ではないし、アクセサリーの類にもさほど興味が無いからな」
    「だよねえ~……じゃあ、たまたまなのかな」
     この二人仲がいいし、同じピアスを分けっこしたのかと思ったけど良く考えれば冬弥くんはピアスどころか制服も着崩さないような真面目くんだった。二人がやっているライブ活動はまだ観に行ったことないけど、そういえばどんな格好で出演しているのだろう。杏の私服から察するに、冬弥くんもああいうストリートファッションぽい服を着るんだろうけど……
    「……暁山、俺の顔に何かついているのか?」
    「え? あ〜ごめんごめん、ちょっと考え事してただけで……ってあれ?」
     ピンと糊の張ったシャツと緩められることなく締められたネクタイ。その奥に何かある、ような。じっと見つめていると、また冬弥くんから焦ったように名前を呼ばれた。
    「冬弥くん……ネックレスしてる?」
    「え、」
    「あ、やっぱり? 冬弥くん、嘘つけないタイプなんだね分かりやすい」
     半ば当てずっぽうで指摘したら、慌てたように自分の首元を押さえる冬弥くんに思わず苦笑いしてしまう。よ〜く見るとうっすらだけど細身のチェーンのシルエットが浮き出ている、ホントによく見ないと分からないだろうから普段は誤魔化せているに違いない。ボクだってきっと、直前に弟くんに会ってなかったら気付いてなかっただろうから。
    「もしかして、弟くんとお揃い?」
    「……そう、だが」
    「え〜! 見せて見せて!」
     冬弥くんはボクの圧に負けたのか、周りの視線を気にしながらネクタイを外し、次いでシャツのボタンを上から二つ外してみせた。そこから手を入れて引っ張りだされたチェーンの先端には、予想通りのモノが煌めいている。
    「これ、どっちがあげたの?」
    「その、初めは彰人が俺に買ってくれたものだったんだ。でも俺は、さっきも言った通りさすがに身体に穴を開ける度胸がなくて、貰った時にすぐにそのことを彰人に話した。そうしたら、数日後今度はこの形で渡された」
     ピアスをネックレスに加工してくれるお店は結構ある。冬弥くんの、普段はシャツの下で揺れているネックレスは多分そうやって作って貰ったやつだろう。そして残った片方を、自分の耳に付けた、と。
    「冬弥くんの髪の色に似てるね、これ」
    「ああ、彰人もくれたときそう言っていた。だから、お前につけて欲しかったと」
    「その色が弟くんの耳についてるのって、どんな気持ち?」
     ボクの好奇心100パーセントの質問に、冬弥くんはちょっとずつ顔を赤くしていく。そのまま自分の手のなかにある石を見て、小さく微笑んだのをボクは見逃さなかった。
    「悪い気はしない、かな」
     そのタイミングで、図書室の中からすみませーんと声が聞こえてきた。冬弥くんはハッとした顔をして、いそいそと身支度を整えてからまたあとでなと赤い顔のまま図書室へと戻って行った。言い逃げしちゃえばいいのに、律儀に戻ってくるつもりらしい冬弥くんはちょっと面白い。弟くんだってきっと、いや絶対、冬弥くんの色を身につけていることを嬉しく思っているんだろう。
    「……いい素材がないか、探しに行こうかな」
     今度予定があったら彼らのライブとやらを観に行こう、そして差し入れと称してボクが二人に何かプレゼントしてあげよう。いつでも身につけられるものがいいだろう、そして色は、弟くんの綺麗な瞳の色がいい。

    (210113)

    HIKARI(架空の親戚が出てきます)



     とある火曜、冬弥が学校を休んだ。
    「法事?」
    「ああ、母方の叔父が亡くなったんだ。それで、忌引扱いにしてもらった」
    「ふーん……お前の家、親戚付き合いとかあったんだな」
     昨日の夜に新幹線で都内から出発して、夕方には帰ってきてその足でWEEKEND GARAGEまでやってきたのだと話す冬弥は少し疲れた様子だった。
    「直接会ったのはもう、だいぶ前なんだ。その頃の俺はこのままクラシックをやり続けることに意味があるのか分からなくなっていて、そんなときその人が流行りのポップスや歌謡曲をこっそり俺に聞かせてくれたことがあって……世界は広いんだと、俺に教えてくれた人だったんだ」
    「……そっか」
    「あとからそのことが父さんたちにバレて、叔父さんとの関わりは希薄になってしまって……まさか、こんな形で再会するとは思わなかった」
     まだあまり実感がない、と冬弥は小さく漏らす。元々は冬弥の母親一人で参列するつもりだったらしい、だけど出発前に突然母親が冬弥にそのことを教えてくれたんだそうだ。今までの仕打ちはどうであれ、やはり思うところがあったのかもしれないなと語る冬弥に、謙さんがお冷とコーヒーを持ってきてくれた。そしてそのまま立ち去るかと思いきや、謙さんはその大きな手で冬弥の頭を撫でた。ポカンとする冬弥に、謙さんも何も言わずまたカウンターに帰っていく。謙さんの気持ちはよく分かる、叔父さんの話をする冬弥は泣きたくなるほど悲しいはずなのに上手く泣けない子供みたいな顔をしていたから。だからきっと、謙さんはあんなことをしたんだろう。
    「明日は学校来んのか?」
    「そのつもりだ。なんでも、三親等の忌引は一日しか適応されないらしい」
    「へえ……よく分かんねえけど、来るってことな」
    「そういうことだ」
     それからの冬弥は、いつも通りだった。謙さんのコーヒーをちびちび飲みながら、今度のイベントの話をしてちょっと先のテストの話をして、また音楽の話に戻って。そうこうしているうちに、辺りはすっかり暗くなっていた。そろそろ杏が帰ってくる、と謙さんに声を掛けられ店を出る。別に杏がいて困るなら最初からここを選ばないのだが、アイツはオレが今日冬弥がいなくて本調子じゃなかったことを知っているから、なんとなく顔を合わせたくなかった。そんなことは知らない冬弥も、一緒に会計をしてついてくる。
    「明日は四人で練習か、なんだかんだ全員揃うのは久しぶりだな」
    「ここ最近、各々用事があったからな……今日だって本当は、彰人と二人だけでもって練習するはずだったのに、すまない」
    「冬弥が優先したいって思ったことなら間違ってねぇだろ、まあその分明日はビシバシ行くけどな」
    「ああ、よろしく頼む」
     暗くなっても至る所から音が溢れてくる通りを歩いていれば、なあ彰人と呼びかけられた。街灯に照らされた、ほんのちょっとだけ高い位置にある横顔は、また寂しそうな色をしている。
    「俺は叔父さんがいなければ、きっとあの場所であの歌を歌っていなかったかもしれない」
    「……そうかもな」
    「例えば……聖歌とか、そういうのを歌っていたかも」
    「もしも聖歌だったらちょっと敬遠してたかもな、なんかの勧誘かよって」
    「だから、あの歌を教えてくれてありがとうと叔父さんに最期の挨拶が出来て、よかったと思う」
     初めて冬弥に会った時、確かに当時の流行りからしても少し前の曲を歌っていた。それはきっと、クラシックしか周りになかった冬弥が初めて触れた『外』の音楽。
    「叔父さんと、もっと色んな音楽の話がしたかった」
    「……ああ」
    「叔父さんのおかげで俺は今、大切な人と歌えていると見てもらいたかった」
     静かな月明かりを思わせる瞳が刹那、潤む。泣くなよ、と言おうとして止める、多分今の冬弥にとってこの涙は恥ずべきものじゃないから。だったら我慢せず、泣いたらいいと思った。
    「……今度のイベント、あの歌入れようぜ。ちょっと古いとはいえ有名な曲だし、ちょっとアレンジすれば四人でも歌えるだろ」
    「彰人……でも、いいのか?」
    「いいんだよ、お前が歌うあの曲は最高だってオレが知ってるから。それだけで十分、ステージで披露する理由になる」
    「そう、か……ありがとう彰人、すごく嬉しい」
    「練習、頑張ろうぜ冬弥」
    「勿論だ」
     まるで機械みたいに正確に音を合わせることしか知らないように歌う冬弥は、それはそれで素晴らしかったと思うけれど。今の、情感たっぷりに声を響かせることが出来るようになった冬弥が歌うあの曲が聞いてみたくなった。願わくばそれが、冬弥に外の世界を教えてくれた顔も知らぬ誰かへのレクイエムとなるように。もう一度、頑張ろうなとその背を軽く叩く。応えるように小さく頷いた拍子に、ころりと頬を伝った雫のことには触れてやらなかった。

    (210118)

    ユキノコカワイイコ

    「わあ……雪だよみんなっ」
     朝からライブハウスでイベントに参加していて、お開きになって漸く外の景色を見に行ったらこれである。まだ積もるような段階ではないものの、かなり大ぶりな雪が分厚いねずみ色の空から絶えず降ってきていて、恐らく明日には交通に影響が出るだろう。
    「こはね、帰りはどうするの?」
    「えっと……あ、駅までお母さんが迎えに来てくれるって」
    「どうせならウチで待たない? ココアご馳走してあげる!」
    「ありがとう杏ちゃん、お母さんに連絡してみる!」
     隣でワーキャーしている女子二人はほっといて、スマホをチェックしている冬弥を見る。まだ外に出てほんの数分しか経っていないのに、鼻の先端はもう赤らんでいた。
    「お前はどうやって帰るんだ、冬弥」
    「まだ電車は止まっていないようだし、このまま駅に行こうと思っている」
    「でも、だいぶ薄着じゃね?」
    「大丈夫だ、カバンの中に……ほら、マフラーとそれから折り畳み傘もある」
    「お前のその重たそうなカバン、そういうのばっか入ってんのかよ」
    「備えあれば憂いなし、と言うだろう」
     緑のタータンチェック柄のマフラーを巻く冬弥に、そういう彰人はどうするんだと問われた。オレも電車が止まっていないならさっさと帰るべきだろう、正直明日のバイトに出勤できるかどうかの方が今は不安だ。
    「てか、前から思ってたけどマフラー巻くの下手すぎんだろ」
    「……そうか?」
    「もっと簡単で洒落た巻き方なんていくらでもあるから……チッ」
     首だけやたら膨張している冬弥のそれを巻き直そうとして、身長差のせいで非常にやりづらいことに気がついた。どうにもならないことを嘆いたり妬んだりしても仕方あるまい、一度の舌打ちだけ許してもらって屈むように冬弥にジェスチャーで頼んだ。それに大人しく従った冬弥の首からマフラーを一旦外して、さてどう結んでやるか考える。重ための素材で出来た長すぎない丈のマフラーは通学の時によく目にしてきた、しかし制服に合わせて選んだアイテムだからか今日着ているストリートファッションとはやや相性が悪い。
    「彰人、この体勢を続けるのはちょっとキツイんだが」
    「ああ悪い……よし、決めた」
     冬弥は嫌味なんて滅多に言わないから多分本心でキツイんだろう、ちょっとムカつくけど。だけどこちらも同じく滅多に見られない上目遣いで文句を言われると溜飲が下がったので、自分の現金さに呆れた。その可愛さに見合った結び方をしてやろうじゃないかと、冬弥の後ろに回ってからマフラーを首にかけてやる。
    「後ろで結ぶのか?」
    「結構多いぞ、そういう結び方。自分でやるときは前で結んで、それからマフラーごと後ろに結び目を回してやればいいだけだし」
    「なるほど……」
     感心したように頷く冬弥に、動くなとその丸っこい後頭部をつつく。あまり触る機会がないけれど、コイツの髪はサラサラでなかなかに手触りがいい。
    「アンタ達、帰る支度出来てるの……って何それ、可愛い!」
    「東雲くんって器用だね、私そんな綺麗に結べないかも」
    「な、何が起きてるんだ彰人……?」
    「気にすんなって、女子はなんにでもすぐ可愛いって言うだろ」
     家にいる姉が分かりやすい一例だ、暁山もすぐカワイイって連呼するし。オレの言葉にすぐ納得したらしい冬弥が若干心配になりつつ、最後に微調整してその背中を軽く叩けばありがとう彰人と振り返った冬弥が笑う。その動きに合わせて、揺れるマフラー。
    「それで、一体どうなっているんだ? 俺は彰人みたいに器用じゃないから、真似出来ないかもしれない」
    「あとで結び方送っといてやるよ、ついでに写真も撮っといてやる」
    「ああ、助かる」
     後ろ姿をスマホにばっちり収めてから冬弥の真正面に戻れば、さっきよりも随分首周りがスッキリして見える。その分後ろがかなりボリューミーなことになっているが、暖かいなと本人が嬉しそうだから問題ないだろう。変なところで肝座ってるし、あとでネタばらししたところであまりいい反応が返ってくるとは思わない。
    「オレだったらそれで外歩くの、だいぶダメージあるけどな……」
    「どうかしたのか、彰人」
    「なんでもねぇよ。杏たちも帰るらしいし、オレ達も駅向かおうぜ」
    「そうだな、早くしないと本当に電車が止まってしまうかもしれない」
     少し迷って傘をまたリュックに戻した冬弥と二人、まだ雪に隠れきれていないアスファルトの上を歩き出す。雪に負けないくらい白い冬弥の首の後ろには、でっかなリボンが揺れている。

    (210116)

    今宵、うさぎとティーパーティー(みずえなの香りがする)


    「悪いな冬弥、こんな頼み事しちまって」
    「寧ろ誘ってもらって助かった、今日はあまり家にいたくなかったから」
     父さんが日曜日なのに珍しくなんの予定も入ってないから家で過ごすのだと母から聞いたのは、昨日の夕食のこと。練習は午後からだけど一人だけ先に『セカイ』に行っていようか悩んでいたら、まるで狙ったかのように彰人から朝から暇じゃないかと連絡が来た。俺の言葉で色々察したらしい彰人が話を逸らそうと、それにしてもいつ来ても騒がしいなと苦笑いする。いつもは一人で来ることが多いゲームセンターに今日は彰人と来ていた、場所を指定したのも彰人だ。
    『姉貴が欲しいぬいぐるみがあるから取ってこいって』
    『悪いけど、付き合ってもらっていいか?』
     プライズ限定品と書かれた筐体のなかに転がっているうさぎさんのぬいぐるみは、彰人のお姉さんが好きなファッションブランドが監修しているものだと彰人が説明してくれた。俺達が店に着いた時にも先客がいて、かなり苦戦した後取れないまま帰っていった。彰人がお姉さんから持たされたという五千円札のうち、一先ず二千円分を小銭に替える。1プレイ200円でこの配置の仕方ということは、店的にも稼ぎ頭ということになっているんだろう。とはいえ、先にやっていた人がいたおかげでどこが重心なのかとかアームの力加減だとかは大体把握出来ているので、意外とあっさりいけるかもしれない……いけなかったときが恥ずかしいから、彰人には宣言しないでおく。
    「お姉さんはゲームセンターに来るの、苦手なのか?」
    「そもそも引きこもりだからな」
    「彰人とはよく一緒に出かけているのに、か?」
    「そ。気まぐれに生きてんだよアイツ、人遣いも荒いし」
     でも今日はデートの口実くれたから感謝しねぇと、となんでもないことのように放たれた彰人の呟きに、動揺して予想よりもアームを奥へと動かしてしまった。中途半端な位置で止まったアームはうさぎさんの頭にぶつかってしまい、コロンと横に倒れてしまう。
    「……場所を戻してもらおう」
    「自力で立て直せねぇの、これ」
    「耳まで綿が詰まっているせいで、頭もかなり重たい。横になられていると、狙う場所がかなり難しくなるんだ」
    「あ、ついでにぬいぐるみの種類も変えてもらえたりするのか?」
    「ぬいぐるみの、種類?」
    「絵名……あー、姉貴が、黒じゃなくてピンクがいいって」
     いつの間にか筐体の写真を撮ってお姉さんに送っていたらしい彰人が、二人のトーク画面を見せてきた。確かに筐体のなかには黒のうさぎさんが一匹で転がっているが、奥にはディスプレイとしてピンクや水色のうさぎさんも待機している。それならば尚更頼むべきだということで、近くを通りがかった店員さんにお願いした。
    「お姉さんはピンクが好きなのか?」
    「さあな、アイツの好みなんざ興味ねぇけど……」
    「でも、前にお姉さんへのプレゼントを買いに行った時はピンクの小物を選んでいただろう」
    「お前、余計なこと覚えてんな……外しはしねえだろピンクなら、安牌っつーか」
    「なるほど、女性とはそういうものなのか」
     白石はあまりピンクを好んでいるように感じないなと考えながら、セッティングしてくれた店員さんに礼を言ってまた百円硬貨を二枚投入した。今度は慎重に、狙いを定めてアームを動かしてゆく。うさぎさんの頭に対してアームの開き方が微妙に足りないので加減が難しい、掴むと言うよりは転がす方に作戦を変えるべきだろうか。筐体から流れる、喧しいくらいのBGMに耳をすませると冷静になれる。三回ほどチャレンジして、なんとなく道筋が見えてきた気がした。
    「彰人、つまらないんじゃないか?」
    「あ〜……まあ、つまらなくないって言ったら嘘になるけど、でもお願いしたのは俺だし、それに百面相してるお前見てたら案外飽きねぇよ」
    「俺が?」
    「ライブ中より表情豊かなんじゃねえかってくらい、コロコロ変わってるぞ」
    「そう、か……あまり自覚はないが、なんだか恥ずかしいな」
     綺麗に磨かれたアクリルボードに反射する自分の顔を見るも、いつもより筋肉が動いているかどうかは判断に迷う。でもまあ、彰人が楽しそうなのでいいかとまた次のプレイに挑む。
    「そういえば、ずっと疑問だったんだが」
    「何が?」
    「彰人は今日、電車で来ていてこのあと俺と練習に行くんだよな?」
    「ああ、そのつもりだけど……」
    「うさぎさんも一緒に連れていくのか?」
    「…………あ」
     失念していた、という顔でアクリルボードの向こうのうさぎさんを見つめる彰人に、ちょっと笑ってしまう。景品袋は有料ではなかったはずだが、ここのお店のものはクリア素材を使っているから袋に入れたところで中身は周囲の人から丸見えになる。ぬいぐるみはぬいぐるみなのだからと俺は気にならないのだが、彰人は俺が持ち歩くことにすら嫌な顔をしていたから自分が持つ側に回るなんて以ての外のはずだ。そんな彼が残り半日このうさぎさんをどうするつもりなのか気になっていたのだが、この様子だと無策だったようだ。
    「小豆沢たちを呼ぼうか、違和感はないと思う」
    「それはそうだけど……もうちょい二人でいたいっつーか……」
    「それもそうだな。ならば俺が持っていよう、俺は別に恥ずかしくないから」
    「お前すげぇな……こんなファンシーなうさぎ、オレなら絶対持ちたくねぇ……」
    「お姉さんへのお土産なんだし、後ろめたさは何もないだろう」
    「それはそうなんだけどよ……いっそその辺の駅まで、自分で回収に来させるか」
    「インドアな人をわざわざ外出させるのは気が進まないが……」
    「インドアじゃなくて引きこもりな。いいだろ別に、元々はアイツの買い物みたいなもんなんだし」
     ちょっと連絡してくるわ、と言って、彰人はスマホ片手にスタスタとゲームセンターの出入口へと歩いていってしまった。まだ現物が取れていないのにお姉さんを呼び出されては、変なプレッシャーを気負うことになるのだが。
    「……なんとしても取らないと」
     あと五回やればゲット出来るはずだ。脳内でシュミレーションして、うさぎさんの投げ出されたようなポーズになっている脚を狙っていく。そういえば、このピンク色は暁山の髪の色に似ているように思う。彰人のお姉さんと暁山は友人らしいし、もしかしたらピンクを欲しがったのはそのせいなのかもしれない。俄然取ってやらなければ、と気合いが入る。
    「……あ」
     取れた。結局二千円も使い切らなかったなと、彰人から預かったままの千円札三枚と残った小銭を一度自分の財布へ仕舞う。彰人はまだお姉さんと連絡が取れないのか、戻ってくる様子がない。とりあえず袋を貰いに行こう、と片腕で抱けるくらいの大きさのうさぎさんと共に店員さんを探す。日曜とはいえまだ早い時間帯だからか、店内も閑散としていて店員さんも少ない。やっと見つけ出した店員さんに事情を説明すると、にこやかにおめでとうございますと声を掛けられうさぎさんがすっぽり入るくらいの袋を貰えた。間近で見ればますます暁山の髪色にそっくりだ、お揃いのものを暁山にあげたら喜ぶだろうかといらぬ気を回してしまう。
    「お前どこ行って……って、もう取ったのか?!」
    「ああ、お金も結構余ってしまった。袋に一緒に入れておけばいいだろうか?」
    「駄賃代わりに貰っとけよ。はじめから、残ったお金は昼飯代にでもしろって言われてたし」
    「だが……」
    「そのうさぎ、ネットオークションでかなりの高値付けられてるんだぜ? それに比べりゃ、五千円なんて安いもんなんだろうよ」
    「そ、そうなのか?」
    「そーそー。だからなんか食いに行こうぜ、姉貴も今さっき起きたとかで準備に時間かかるらしいから」
    「お姉さん、来てくれるんだな」
    「前に暁山から聞いた弱味チラつかせたら、行けばいいんでしょって逆ギレされた」
     まだ耳がキーンとする、と大袈裟に耳を痛がる彰人に暁山はうさぎさんを欲しがらないか聞いてみる。すると彰人は間髪入れずに、いらねえだろと返してきた。
    「何故だ? 暁山もこういうの、好きそうだと思うんだが」
    「だからいらねえんだよ。暁山にもあげたら、絵名が持っとく意味がねぇから」
    「……?」
    「いいな~って言われたくて欲しがってんだから、あげなくていいってことだよ」
    「そうか……なんというか、難しいな」
    「難しいんじゃなくて、めんどくせえんだよアイツ」
     ワケわかんねえよな、と言いながらも彰人の目は優しい色をしている。彰人が理解してくれているなら、きっとそれが最善の策なのだろうと俺たちはゲームセンターを後にした。

    (210122)

    もしもが棲む部屋。

    「冬弥、昼飯行かねーの?」
     昼休みに入ってすぐ、隣の教室を覗きにいけばいつもの位置に座っていた冬弥の机の上が珍しく散乱していた。すぐに片付ける、と言った冬弥は手早くそれらをまとめると机の引き出しに仕舞い込み、財布片手にこちらへとやってきた。
    「すまない、課題を終わらせようとしていて」
    「言ってくれりゃ待ってたけど」
    「いや、大丈夫だ。多分、時間をかけたところで終わるものでは無いから」
    「ちなみになんの課題だったんだよ」
    「家庭科の課題だ、さっきまでやってたんだが終わらなくて。明日までに出しに来いと言われた」
     家庭科の課題なんてそんなに難しいものが出されただろうかと考えていれば、あの、と遠慮がちに冬弥が俺を呼び止める。
    「よければ手伝って欲しい……一人だと、なかなか思い浮かばないんだ」
    「ああ、オレでよけりゃ付き合うぜ」
    「助かる、ありがとう彰人」
     果たしてあの冬弥が悩むほどの課題とは、一体。疑問を抱えたまま購買でパンと飲み物を買って、再び戻ってきた教室。早速冬弥はさっき仕舞ったばかりの教科書やワークブックを机に広げる。
    「これって……間取り図、か?」
    「一人暮らしをするならどんな部屋がいいか、というのを書く課題なんだ。彰人のクラスはまだやってないのか?」
    「ウチのクラスは飯の話しかしてねぇぞ、再来週あたりに調理実習だって」
    「俺のクラスはまだ調理実習をやっていないから、順番が違うんだろうな……そうか、彰人がやったことあるならコツを聞きたかったんだが」
    「コツも何も、実現出来るかは度外視で好き勝手書いていいってやつだろこれ。中学の時似たようなことやったわ」
     あれも家庭科だっただろうか、と昔の記憶を手繰ろうとする俺に対し冬弥はそんな簡単に言われても、みたいな顔でこっちを見ている。要は住居に対するこだわりがないんだろう、出来れば家に帰りたくないってタイプだから『実家から出られるならば、どんなに安くて古くて曰く付きの家でもいい』とか思ってそうだ。そんなんじゃこの課題は進まないに決まってる。
    「例えば……そうだな、ペットが飼いたいとかは?」
    「特にないな、彰人は飼いたいペットとかあるのか?」
    「オレも別にないけど。あ、風呂はおっきい方がいいとか、そういう希望はねぇの?」
    「最悪シャワーだけでも構わないが……彰人の家のお風呂は大きいのか?」
    「どうだろうな、他人の家の風呂場なんて覗いたことねぇし……まあ、狭いってことはないな」
    「じゃあ広くしておこう」
     配られたらしい方眼紙に、几帳面に定規を使ってバスルームを書き記す冬弥。それから実際の物件情報サイトを頼りに、ああだこうだと言い合いながらなんとかそれっぽい部屋を作っていく。二人で物件探しするのって、まるで同棲するみたいで妙に緊張した。あくまで冬弥の課題を早く終わらせるため、そう念じてみても冬弥と暮らすなら寝室は分けるべきかどうかとか関係ないことばかり考えてしまう。
    「ここの部屋は防音にしたい、そうすればいつでも練習が出来る」
    「それがいい、深夜の公園で一人で練習されるよりよっぽど安心出来るし」
    「……それに、」
    「ん?」
    「彰人を誘う口実になる、だろうから」
     普段涼やかに響いている声が、絞り出すようにこの辺だけに転がった。照れているのか顔は俯いたままだけど髪から少しだけ覗いている耳が赤くて、それが伝染したみたいにオレまで顔が熱くなる。
    「……さっきからオレの希望ちょいちょい聞いてきたのも、そういう理由なのか?」
    「それはその、二人の将来のことを考えているみたいで、勝手にどんどん楽しくなっていたんだ……すまない」
    「別に謝んなくていいけど……俺もそんな感じだった、し」
    「彰人も……?」
     ようやくこちらを見た冬弥の目が、それはそれは大きく見開かれている。伝わってなかったのか、まあバレたら恥ずかしいとか引かれるかなとか考えて冷静なふりはしていたけれど。
    「俺はあまり家事を手伝ったことがないから一緒に住むには適して無いかもしれないが……いつか彰人と暮らせたら、きっと楽しいと思う」
     優しい顔で話す冬弥は一体どんな景色を想像したんだろう、そこまでは分からないけど多分俺が考えたのと似たような感じだろう。
    「卒業したら、一緒に暮らせるようにするか」
    「……本気にするぞ?」
    「いいぜ、絶対叶えてやるから」
     楽しみだ、と赤い顔のまま冬弥がはにかむ。そんな浮かれた二人で書いた間取り図が、『一人暮らしだから寝室は一つで十分です』という評価を貰うのは数日後の話だ。

    (210127)

    Ring!Ring!

    「彰人、今日はデザート買わないのか?」
     購買のレジに並んでいる彰人の手元には、いつもならサンドイッチの他にプリンやケーキが添えられているのに今日はそれが見当たらない。俺の質問に対し、彰人は別にいつもは買ってないだろとちょっと拗ねたように言った後、教室にあるんだよと付け加えた。
    「教室に……家から持ってきたということか」
    「母さんが結婚式に出席したら引き出物っつって色々貰ってきてよ。適当につまんできたから、お前も食えるのあったら貰っていいから」
    「ありがとう、楽しみにしてる」
     会計を済ませて彰人の教室に向かえば、さっき言った通り彰人の鞄からは大量の焼き菓子が出てきた。
    「こんなにお菓子を入れて、教科書は入っていたのか?」
    「入ってたっつーの……で、どれか食えそうなのあるか?」
     マドレーヌやバウムクーヘン、同じワッフルでもプレーンとチョコなど色々なお菓子に彰人の机が占拠されている。その中にコーヒー味のパウンドケーキを見つけたので、それを一つ貰うことにした。
    「好きだな、コーヒー」
    「俺の中の王道みたいなものだからな、それに他のものを選んで甘くて食べきれなかったら申し訳ない」
    「もう一個くらいあるんじゃないか、コーヒー味……あ、ビターチョコのラングドシャもあるぞ」
    「それも貰っていいのか」
    「さすがにこんだけの量オレ一人じゃ食えねえよ」
     いざとなれば放課後の練習のときに白石達にも配るつもりで持ってきたという彰人は、買ってきたサンドイッチもそっちのけでガトーショコラと書かれた小袋の封を開ける。
    「結婚式に参列するとこんなにお菓子が貰えるんだな」
    「結構多いぜ、そういうこと。まあこれは、中身よりパッケージが凝ってたみたいだけどな。オレは中身だけ寄越されたから見てねえけど、新郎新婦の似顔絵が描かれてたとかなんとか母さんが言ってた」
    「そうか、焼き菓子なら日持ちもするし記念品にはピッタリというわけだな」
     俺自身はそういったものに参加する機会に今まで恵まれなかったからどういった品物が普通なのか分からないけれど、彰人が美味しそうに頬張っているから相当美味しいお菓子なのだろう。俺も食べているクロワッサンよりも貰ったパウンドケーキが気になってきて、その結果一緒に買ったコーヒーで半ば流し込むようにしながら食べてしまった。可愛らしいデザインの包装紙を丁寧に破き、厚めにカッティングされているケーキを早速いただく。
    「ん……ちょうどいい苦さだ、すごく美味しい」
    「そりゃよかった。帰ってまだ残ってたら、明日も持ってきてやるよ」
    「そんなに貰う訳にはいかないだろう」
    「どうせ姉貴も母さんも自分の気に入った菓子しか食わねえだろうし、寧ろ食ってくれたほうが助かる」
    「そういうことなら、まあ……」
    「じゃあ明日も持ってくるわ」
     片手にサンドイッチを持ち、もう片手でスマホを操作していた彰人が徐に、そういえばさと話をし始めた。
    「さっき冬弥が焼き菓子は日持ちするからいいって言ったけど、ちゃんと意味があって選ばれた菓子もあるんだぜ」
    「意味のある菓子?」
     あっという間にサンドイッチを食べきった彰人は、その空いた手でお菓子の山から半分にホワイトチョコがかかっているバウムクーヘンを選び取る。一体どういう意味があるのか分からない俺が首を傾げると、彰人は少し得意げに笑う。小豆沢がまだイベントの仕組みを理解していなかった頃にも感じていたが、彰人はこういう相手が知らないことがあると分かったときにお兄さんぶる傾向があった。怒るだろうから本人に直接伝えたことはないが、そういうところはすごく可愛いと俺はこっそり思っている。
    「これって切り株の年輪っぽく見えるだろ? それに因んで、長寿とか繁栄とかそういう意味があるらしい」
    「なるほど、おせちみたいだな」
    「よく考えるよな、こういうの」
    「しかし、結婚する側が何故そういうものを配るのだろうか? 普通ならそういう願掛けをしてもらう立場だろう」
    「そこまでは知らねえけど……ブーケトスみたいに幸せのお裾分けみたいな、そういうノリなんじゃねえの」
    「受け取った人が次に結婚出来るというジンクスがあるやつだな」
    「そう、それ」
     それなら知っている、小説で結婚式のワンシーンを描くときに必ずと言っていいほど出てくる描写だから。結婚式一つやるにしても色々な決まり事があるんだなと感心している間に、彰人はどんどんお菓子の封を開けてゆく。今はベイクドチーズタルトと書かれた袋に手を伸ばしていた。
    「よく食べるな」
    「まあな。6限に体育あるし、腹減るからし」
    「だったらサンドイッチをもう一つ買った方がよかったんじゃないか?」
    「たまにはいいだろ、こういうのも……あ、これ美味いな、甘くねえし冬弥でもイケると思う」
     そう言いながら彰人がお菓子の山をかき分けるも、どうやら同じものはなかったらしい。それでも俺に食べてみてほしいらしい彰人は、食うか? とタルトを差し出してきた。俺は勧められるがまま、まだ彰人が口にしていない部分に齧り付く。サクサクしたタルト生地に塩気のあるチーズがとてもマッチしていて、俺は咀嚼しながら彰人に数回頷いてみせた。意図は正しく伝わったようで、そりゃよかったと彰人が笑う。
    「披露宴にもこういうのあったよな、確か」
    「こういうの?」
    「ケーキをお互いに食べさせるみたいなやつ……ファーストバイト、だっけ」
    「そうなのか……そんな風に言われると、なんだか急に恥ずかしくなってきたな」
    「冬弥、もう一口食うか?」
    「う……貰う」
     別にここは結婚式の会場ではないし、俺たちはまだ永遠の愛を誓い合ったわけではないからと誰に伝わるでもない言い訳を心で繰り返しながらさっきよりも慎重に齧る。そんな俺の態度に満足したように笑いながら、彰人が残りを一口で食べてしまう。俺も食べさせてみたかったな、などと淡い希望を抱いたと同時に学校中に響き渡ったのはチャペルの鐘ではなく午後の授業の予鈴だった。


    (210213)
    アマイオモイ
     
    練習後、彰人が家族からお遣いを頼まれたからコンビニに寄りたいと言ってきた。このあと予定もなかった俺は、スマホのメモを確認しながら入店する彰人に続いてコンビニへ足を踏み入れる。彰人といなければ殆ど立ち寄る機会もないのだが、だからこそ来た時はつい色々と目移りしてしまう。入口すぐの催事スペースのようなところには、クッキーの詰め合わせやキャンディの入った缶詰などが飾られていて、その隣に水色のペンで書かれた『ホワイトデー』の文字を見てピンときた。と、同時に先日小豆沢と白石から連名でチョコチップの載ったカップケーキを貰ったお礼を用意しなければならないことも思い出す。ホワイトデーはもう二日後に迫っていた。
    「冬弥、なんかあったのか?」
    「彰人は小豆沢たちへのお礼、もう買ったのか?」
    「……用意してねえな、てかアイツら失敗作押し付けてきただけだっただろ」
    「それでも、プレゼントを貰ったことに代わりはないだろう」
    「真面目だなあお前も……」
     必要なものを全て見つけたのかカゴ片手にこちらへやって来た彰人に相談するも、あまり乗り気ではなさそうだった。確かに渡された時、白石からクラスメイトにあげる分を作ったら焦がしたからお裾分けする、と言われていたのは事実だ。だけどそれは食べられないほどではなかったし、きちんとラッピングまでされていたから『バレンタインにチョコを貰った』という認識で間違ってはないだろう。
    「あのな、ホワイトデーのお返しっつーのは三倍返しが基本なんだと」
    「三倍返し……」
    「そ。自分の渡したものが市販だろうが手作りだろうが、女子はみんなそう言うんだよ」
     心当たりのあるらしい彰人は実に嫌そうに顔を顰め、それから俺と並んで商品をじっくり観察し始めた。
    「なあ、オレ達も連名で渡そうぜ。それなら多少高くても問題ねぇし」
    「それは勿論、構わないが」
    「よし、じゃあこれにすっか。俺レジ行くけど、冬弥はいるもんねぇの?」
    「ああ、大丈夫だ」
     じゃあ待っとけよ、と言って空いていたレジカウンターへ向かった彰人が選んでいたのは、数種類のラスクが入ったセットだった。春らしく桜をイメージしたパッケージは可愛らしいしそこまで高くないから選んだんだろうなと棚に残っている同じ箱をよく見てみれば野菜味のものも入っているようで、その中には前に白石が苦手だと話していたトマト味も含まれていたから思わず溜息が出た。彰人にはあとで注意しておこう、そう決めて俺は他の商品も物色する。会計に間に合えばさっきのラスクと交換してもらえばいい、二人が気に入るものがないか若干焦りつつ真剣に探す。
    「……チーズケーキ」
     そのはずなのに、見つけたのは何故か彰人の好物だった。一口大のチーズケーキタルトが五個入っていると書かれた紙袋には、有名なパティスリーが監修したのだという説明まで添えられていた。俺は知らないお店だけど、美味しいに違いないだろう。少し迷って、俺は彰人の並んでいない方のレジの列に加わる。すまない白石、トマト味は小豆沢がきっと食べてくれるはずだ。
    「買うものあったならまとめて払ったのに」
    「……あとから欲しくなったんだ」
     結構な量を購入した彰人より先に会計を終えてしまった俺は、丸々と膨れた見るからに重そうなレジ袋を持っている彰人に、鞄で隠すように持っているこれを今渡すべきか迷っていた。当日も練習で顔を合わせる予定だし、恐らくそのレジ袋からちょっとだけ顔を覗かせているラスクの箱もそのときに小豆沢たちへ渡されるはずだ。だけど俺は別に彰人からバレンタインの贈り物を貰ったわけじゃないし、これは殆ど衝動買いに近い。普段滅多に行かないコンビニで浮かれていたというのもあると思う、子供みたいで恥ずかしい。
    「おい冬弥、何してんだよ」
     考え込んでいるうちに足が止まっていたようで、彰人が少し先でこちらを呆れたように見ていた。どうするか、なんと言って渡せばいい。こういうとき、己の口下手具合に辟易してしまう。
    「冬弥?」
    「あの、彰人……小豆沢たちへのお返しは、俺が預かっておく」
    「そうか? まあ、ウチだと姉貴に狙われかねないから助かるけど……」
    「その代わり、これを持って帰ってほしくて」
     ずいと差し出したそれを、彰人は驚いたように見た。
    「どうしたんだよ、これ」
    「さっき買った、彰人好きそうだと思ったから」
    「あ、そう……?」
     まあ確かに美味そうだな、と呟いた彰人にホッとする。
    「それで、これにはどういう意味が込められてるんだ?」
    「意味……は、特にないな」
     本当にただ、彰人が好きそうだと思っただけだから。それじゃダメかと聞けば、彰人は困ったように笑う。
    「オレ、バレンタインデーにお前になんかあげたわけじゃねぇし」
    「そうだな」
    「しかもこれ、結構高いだろ」
    「まあ、安くはなかった」
    「……こんな値段の三倍返しはさすがにキツイんだけど」
    「別に、見返りを求めて渡すわけじゃない」
     彰人に喜んでほしかっただけなんだと説明したら、とりあえず受け取ってはくれた。貰ってくれてありがとうと言えば、それはこっちの台詞だと笑われる。
    「もっとあっさり受け取ってくれると思ったから、少し焦った」
    「いや深読みするだろ、このタイミングだと……」
    「深読み……?」
    「あ〜……こっちの話だ、気にすんな」
     渡されたラスクの箱を鞄に仕舞っていれば、彰人が俺のプレゼントを大事そうに見つめてくれていたから胸が擽ったくなった。


    (210314)

    ゼロ・ディスタンス
     最近このストリートに本拠地を移したという、ハデなこと好きなボーカルグループが主催しているというこのイベントには『ステージの板の上に立てるのは女子だけ』というルールが敷かれている。女性でももっと気軽にライブハウスやイベント会場に出入りして欲しい、危険な場所でないと知って欲しいという願いが込められているようで、観覧するにも女性はチケット代だけでドリンクが無料でついてくるのに対し男性はチケット代自体が女性より高いしドリンク代もきっちり取られた。それでも俺たちがここへ足を運んだのは、Vividsの二人が特別ゲストとして参加するからだ。
    「二人ともよかったな、調子よさそうだった」
    「だな。同世代の女子が盛り上がってくれるってのを肌身で感じられる機会って、なかなかないだろうし」
     圧倒的に女性客が多い会場の最後方で、ステージから捌ける二人に最大限の賛辞を込めて拍手を送る。本当はもう少し前列で見たかったのだが、後ろの人が見えないかもしれないと思うと気が気じゃなくて結局ここを陣取るしかなかった。
    「……」
    「どうかしたのか冬弥、すげぇこっち見てるけど」
    「ああ、普段はあまり感じることはないが彰人も背が高いんだなと思っていた」
    「……冬弥、お前それ喧嘩売ってんのか?」
     彰人の纏う空気が一気に冷え込んだのを感じてすぐに謝れば、何が悪いか分かってねえのに謝るなと肩を小突かれる。そこで初めて、彰人が俺達の身長差を気にしていることを知った。確かに俺のほうが少し高いけど服のサイズが違うわけではないし、前に一度体操服を忘れたという彰人にジャージを貸したことがあったが問題なく着こなしてグラウンドを走り回っていた。だから俺にとっては、とても些細な差だったのだ。
    「まあ、まだ伸びる可能性がないわけじゃねえからな」
    「そうだな、俺も多分ちょっとは伸びている気がする」
    「いや、お前も伸びたら意味ねぇんだよ……」
    「そうなのか?」
    「ステージで格好つかなくなるだろ」
    「そんなものだろうか」
     それこそいつも彰人が言っているように、実力で黙らせればいいというやつじゃないだろうか。だから気にすることはないと言おうとしたけど、さっきみたいに怒らせるわけにいかないと口を噤む。多分俺が言っても逆効果だろう、それはなんとなく察することが出来た。
    「それに……」
    「それに?」
    「……キスする時とかも格好つかねぇなって思う、し」
     ぐっと顔の距離を縮められて、思わず息を飲む。簡単にこの間合いに入れるのだからやはり大した差じゃないと思うけれど、彰人なりに何か思うところがあるんだろう……俺が引っかかることがあるのと同じように。
    「俺は、背伸びしてでも自分より背の高い男にキスしてくれる彰人が好きだから、そんな風には思わない」
     小豆沢や白石や、今目の前で各々好きなように音楽に身を任せている女の子たちのように、俺は小さくないしか弱くも見えないだろう。それなのに彰人は、キス一つするにも壊れ物を扱うかのように恭しく俺に触れて優しく唇を重ねてくれる。それが照れくさくて、でもとても嬉しい。
    「それとも本当は、俺みたいなデカい男よりやはり小柄な人の方が好みなのか?」
    「っ、そんなわけねぇだろーが……」
    「ならよかった」
     さっきはすまなかった、ともう一度きちんと謝れば別に気にしてねぇからとぶっきらぼうに返されてしまった。
    「でも絶対お前の背は抜いてやる」
    「ふふ、それは楽しみだな」
    「やっぱ馬鹿にしてんだろ……余裕ぶれるのも今のうちだからな、冬弥」
     生まれ持った性や志向や才能なんかを恨んだり僻んだりくらいなら、それらを最大限に生かして人生を謳歌した方がきっと楽しいに決まっている。例えば今、ステージ上で気持ちよさそうに歌っている彼女たちのように。例えば今、同じような大きさの手を重ね合わせて笑い合っている俺たちのように。


    (210318)
    ナイショのBestshot
     まだ少し肌寒さの残る今日、三年生の先輩方が卒業式を迎えた。俺は部活に所属していないのもあって先輩との接点が希薄だが、委員会でお世話になった先輩たちともう話すことがなくなるのだと思うと少し寂しい。そんなセンチメンタルな気持ちを引きずったまま、閉館作業を行う。今日は卒業式だけで授業も行われなかったから最終下校時刻もいつもより前倒しにされていて、部活動も大会が近いなどの理由があるところ以外は休みになっていると聞いた。両手で抱えられるくらいしかない返却本を棚に戻してから、換気のために開けていた窓を閉めていく。窓から見える校門のあたりには、記念撮影をしていたり何故かブレザーを宙に投げていたりと思い思いに卒業に浸る人達が集まっているようだった。あそこを何食わぬ顔で通り抜けるのは勇気がいるな、と思いながら手を止めてその風景を見ていれば、見知った鮮やかなオレンジ色の頭が見えた気がした。彰人は顔が広いから恐らく知り合いの先輩に挨拶に行っているのかもしれない、そう思いつつよく見てみれば彼は女子生徒数名に囲まれているようだった。あの中にお姉さんはいないし、暁山も見当たらない。一体誰なんだろう、と思って視線を彷徨わせると徐に彰人がピースサインを作る。ああ、と合点が行く。どうやら彰人は卒業生たちから写真をせがまれていたらしい、顔が広いと大変だなと思った。その様子を見ていると吹き付ける風が段々冷たく感じてきたから、そっと窓を閉める。ここが最後だったから、あとは入口の鍵を施錠して職員室に返せば今日の当番の仕事はおしまいだ。彰人がもう少しかかるようならここで待っていた方がいいかもしれない、とブレザーのポケットに入れていたスマホを取り出す。
    『図書室で待っとけ』
    『迎えに行く』
     聞こうとしていた質問の答えが先回りで届いていて、なんだか変な気分だった。校門にいるなら俺が下りたほうが早い気がするけど、そうしたほうがいい理由がなにかあるんだろう。俺はカウンターに戻って、読みかけだった本を開く。でも、なかなか集中出来ず数ページも読まないうちにまた栞を挟んだ。
    「……どんな顔で写っていたんだろう」
     写真を撮られていたとき彰人は校舎に背を向けていたから、嫌々ながら撮られていたのかそれとも満更でもなかったのか俺には分からない。でも基本的に彰人は人当たりがいいし、好き好んで場を盛り下げるようなマネはしないだろうからノリのいい後輩として撮影に参加していたんだろう。女の先輩とくっついて笑う彰人を想像すると、さっき以上に気分が沈んでいくのが分かった。
    「悪い冬弥、遅くなった」
    「彰人……もう、いいのか?」
    「あ? もうってなんだよ」
    「さっき下で先輩たちと話しているのが見えたから……もう少し時間がかかると思っていた」
     素直に白状すれば、そういえばここから下丸見えだなと彰人が笑う。心なしかその額には汗が滲んで見えた。
    「撒いてきたっつーの、青柳くんと写真撮りたいから口利きしろってサッカー部のマネやってた先輩に囲まれてたんだよ」
    「俺……?」
    「絶対嫌だって言ってたらじゃあオレの写真で譲歩するとか言われたから、一枚だけ撮られてきた」
    「なるほど……もしかすると先輩方は最初から、彰人と撮りたかったんじゃないのか?」
     見る限りかなりくっついているように見えたし、とこれは心の中だけで呟く。そもそも俺と撮りたいと思う理由もないだろうし、俺の名前を出せば彰人が釣れると思ったんじゃないだろうか……当事者が言っていいのか分からないが、彰人は俺の名前を出すとチョロいのだと白石が言っていたし俺もそれには同意してしまうくらいには経験があった。だが彰人はそれはありえねえと一蹴する。
    「目がガチだった、マジで図書室にまで乗り込んでくるつもりだったぞアレ」
    「それで下りてくるなとメッセージを寄越したのか」
    「そういうこと。お前、帰れなくなるところだったぞ」
    「それは困るな……ありがとう彰人、助かった」
    「別に構わねえよ、半分はオレのためでもあったし」
    「彰人のため?」
     どの辺に彰人の利益があっただろうか。分からず眉を顰める俺に、彰人は悪い顔を向けた。
    「知らねえ奴のスマホに冬弥の写真が残るとか、絶対許せねえから」
     彰人の言葉の意味が初めは分からず、徐々に噛み砕いてようやく理解したとき風に当たって冷えていた身体が一気に熱くなった。だってそんなの、あまりにも熱烈だ。
    「だが、それを言うなら彰人の写真が先輩のスマホにあるということだろう」
    「まあ、そうなるな」
    「……俺もあまりいい気分じゃないと言ったら、どうする」
     俺の質問に対し、彰人はあ〜……と言いながら頭をかいて、それから小さな声で悪かったと謝られた。
    「悪いと思うなら、俺とも写真を撮ってくれ」
    「は? なんでそうなるんだよ」
    「何故って……先輩たちが羨ましかったから」
     だから撮りたい、と言えば彰人はまた頭をかいて目を逸らした。今のは照れているときのポーズだ、唇もちょっと尖っているし間違いない。それから吹っ切れたように、さっさと撮るぞと言われたからスマホを差し出す。俺は小豆沢のようにカメラに造詣はないし、白石のように自撮りが上手い訳でもない。だから俺よりは技術のありそうな彰人に撮ってもらおうと思ったのだが、彰人は頑なに受け取ってくれないので結局俺が撮ることになった。言い出したのはこちらだし、仕方ない。専用のカメラなんてものが俺のスマホに入っているわけもなく、初期装備のなんの変哲もないカメラを起動させた俺はカウンターを出て彰人の隣に立ち、画面を見ながら画角を調整する。
    「さっきはどんな風に撮ったんだ?」
    「見てたんだろ、お前」
    「上からだったから、彰人がピースしていたことしか分からなかった」
    「……みんなと同じの写真でいいのかよ」
     意地の悪い笑みと共に提案されて、少し悩む。彰人はみんなと同じじゃない俺に、果たして何をしてくれるのだろう。期待と好奇心に突き動かされて小さく首を横に振れば、満足そうに鼻を鳴らした彰人に画面見とけよと促された。言われた通りに顔を真正面に向け、俺達二人を写し続ける画面に視線を集中させる。刹那、彰人の唇がまだ火照っている俺の頬を掠めた。驚いた拍子にシャッターを切っていたことは音で伝わったものの、一体どんなタイミングで押したのか、そのとき自分がどんな顔をしていたのか知りたいような知りたくないような、そんな気持ちでとりあえず突然そんなことをしてきた彰人を睨む。
    「……学校だぞ、ここ」
    「分かってる」
     ただ、ヤキモチ妬いてくれたのが嬉しくてチョーシ乗った。
     いつにも増して甘く蕩けて見えるハチミツ色の瞳にじっと見つめられて、息が詰まる。声も表情だっていつもより甘ったるくて、お前だけが特別なんだと、彰人の全身で訴えられているようで恥ずかしくなってきた。
    「……疑って悪かった」
    「なんの話だよ」
    「彰人、普通の写真も撮りたい」
     いつでも見返せるようなやつがいい、と言えば彰人はワガママだなと可笑しそうに笑った。


    (210320)
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    • アイコトバ #彰冬

      2Microphonesにて公開していた展示作品です。
      騎士×王子パロです。
      くぅにこ
    • セカイの自由研究 #彰冬

      0612OurUntitledにて公開していた展示作品です。
      くぅにこ
    • 彰冬まとめ②Pixivから移植
      21.4~21.7

      #彰冬
      くぅにこ
    • ぼくらの三重奏 #彰冬

      Pixivから移植

      ──俺の声を、覚えていてください。

      あの日あのイベントに出会えなかった彼と、あの日路上で歌うことを選べなかった彼が、『彼ら』になるための可能性の話、つまりかなり特殊設定なパラレルです。ハッピーエンドです。
      話に沿って関係性が変わっている他キャラやモブも出てくるのでご注意ください、作者はロボット工学や医学に精通していないため設定に関してはふわっと読んでいただけると幸いです。


      アイデア使用の許可をくださったフォロワー様と、ついった掲載時に評価をくださった皆様へ最大限の感謝を。
      くぅにこ
    • 彰冬まとめ③Pixivから移植
      21.8~21.12


      #彰冬
      くぅにこ
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