再会
「いっそ消えてしまえばよかった」
何度思ったのだろうか。
覚えている限りだと一度目が異能なんて力を手にしてしまった時。
二度目が女狐なんぞに目を付けられてしまった時。
三度目が「さよなら」も言わずに去ったはずなのに奴が目の前に現れた時。
会うこともないと思っていた。会うつもりもなかった。
どれもこれも俺の心を掻き乱す。そっとして欲しかったのに。
大事にしてた唯一の友人からも逃げ出したのに。まさか異能力者対象の診療所なんて開いてるとは思わなかったんだ。神様を恨みたくなったね。
意に沿わない再会をしたのは偶然女狐からの指示でで過激派に潜入してたときだった。
「きな臭いしー男だったら連れてきて♡」
廃屋に呼び出された俺は目の前の女狐に呆れ返っていた。そんな事はうまく隠せたはずだった。
「なんて顔してんのよ」
と俺に氷のナイフを投げつけてきた。俺の力より格段に上なので逃げる事も出来ない。
「よろしくね♡」
「わかった」
そう言うしかなかった。
いつもの様に過激派に潜り込んだ。どことなく雰囲気が暗く息苦しい。
話をつける為にリーダーがいる部屋に通してもらう。部屋はいたって質素だ。よからぬ事をしでかさない。
女狐が言うきな臭い奴が嫌な空気を蔓延させてるのかもしれない。実践部隊に配属を願い出た。奴がそこに居るらしい。そいつは頭が回る奴なのに先走りがちだった。襲撃する際も前のめり。しわ寄せが来るのは俺たちばかりだ。
今回も抗争が始まりかけた時
「新入り。中の様子チェックして来い」
と言い出した。
それは他の部隊の仕事だと言っても聞かない。どうせ向こうの部隊とつるんで俺たちを殺すかなんかするのだろう。
……案の定だ。奴は密告者だった。しかも過激派にもバレてやがる。その上で俺たちを先行させやがった。この部隊もろとも皆殺しにするつもりだったのだろう。あんのクソリーダめ。
やってられるかよ。
下を見るとターゲットが呻いて転がっていた。無性に腹がったので足蹴りすると呻きが止まった。一応腕と足を縄で縛って見つかりにくい所に転がしておく。
後はあの女狐に連絡して終わりだ。携帯を取り出してメールを打つ。
『くっそ』
割に合わねえとかイライラしながら携帯に八つ当たりのように荒くフリックをする。…ここでも用も済んだから、ずらかるとするか。
ふと後ろから妙な気配がする。
「はぁぁっ」とか言いながらナイフをもって突進してきた奴がいる。
少し反応が遅れたか腹にかすってしまった。そんな事気にしていられない。腕をつかんで捻り上げると持っていたナイフを落とした。床に落ちる前にナイフを掴み腹に差し込む。床に投げ捨て顔を見ると過激派の一派だった。やはり殺す気だったか。
ムカついて、ひと蹴りして早くこの場を後にしなければ。忌々しい事に刺された所が深かったのか血が止まらない。このままでは後を追われてしまう。熱で焼いて止血しとくかと急場しのぎで能力使う。
『あっつ』
とりあえず血は止まった。
止まったと言事にしておく。
コートも真っ赤になってしまった。
ここか。いたって普通のアパートの一室だ。ただし他の部屋に人の気配は一切ない。本当に人が住んでいるのだろうか。訝しみながらも呼び鈴を押す。中から音がする。扉が開く。こんなに簡単に開けていいのだろうか。
「はい、中に入って下さ…い…」
聞いたことある声がする。気のせいかと思い顔を上げる。
「こんにちはー。ここで傷治してくれるってー…」
「…千振…旭?」
「…伊織」
そこには”俺”が忘れたと思っていた懐かしい奴が目の前に立っていた。「さよなら」も言わなかった。会うことも一生ないと思っていた。そんな奴が立っていた。
反射的に回れ右をして逃げ出すが奴が腕を掴む方が早かった。
「旭!」
「…今は千代倉」
「何だそれ…」
「ま、色々あった訳で。伊織には…会いたくなかった」
「俺は、会いたかった」
伊織は腕を放さず部屋の中に引き入れた。
どうせ怪我しているから来たのだろうと言う。確かにそうだ。
「そこの椅子に座って」
「…」
道具を持ってきて俺の治療を黙々を始める。
「はい。終わり」
「どーも」
伊織は表情が読めない顔で俺を見てくる。 無言で玄関に向かい靴を履く。伊織も付いて来る。
「またサヨナラも言わずに行くのか?」
「さぁ。お代払ってないから、また来なきゃな」
ようやく伊織は笑みを見せる。そして、扉を開け出ていく。
勿論、さよならは言わなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
千代倉目線で、女狐が侑子、医者が伊織幼。