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    「2062/2/15[救世主達の隠れ里]」

    「指揮官は、後ろに控えるのが鉄則では?」
    「何をいまさら?」
    「……すみません、王」

     これも、獅子王が自分に支持を集める為の、方法の一つだ。

    ――偉大にして、戦争の天才たる獅子王は、今日も兵卒達と、苦楽を共に、してェ!!――

     魅力的、かつ陳腐極まる、偉大な統治者としての、宣伝。

    「……私は、自分の目で見たことしか、信じない男だよ?」

     だが。

    ――しかし、はたして――

     それだけかと、彼は。

    ――本当に、私は宣伝、それだけの為に、危険を受け入れているのか?――

     時おり、ふと思う。

    ――まあ、一応は――

     そう、万が一に、自分に何かあった時の為に。

    ――AI、メガコントロールシステム――

     統治用コンピュータ、それは製作してある。

    ――実力だけならば、この片腕、チャラに匹敵する――

     優秀な人間、それは確かに相当な数が、獅子王の配下には、いる。

    ――だが――

     有能さは、野心を導く。

    ――人間は、私は信用できん――

     そして、このTYOには、もはや内乱。

    ――そう、有能どもの、権力争いに耐えられるだけの――

     耐えうるだけの余力は、無い。

    ――能力がありながら、何も求めない、コヤツのような――

     獅子王の後ろに、そっと控える側近、彼のような人間は、極めて珍しいのだ。

    「……私は、市民を苦しめる訳にはいかん」
    「獅子王」

     そして。

    「苦しめる位なら、人間は機械の奴隷でいい……」
    「王!!」
    「ん!?」

     その当の片腕本人、いつの間にか王の真横に来ていた、側近が。

    「あ、ああ何だ?」
    「連中のリーダーがあの地点、エリアにいます、王」
    「ン……」

     その側近が指差した先、獅子王には、彼の目でもさすがに見えないが、この「人類側能力者」には、見えているのだろう。

    「……私に似た、リーダーか」
    「狙撃班を用意しますか?」
    「……いや」

     さすがに、この腹心は気が利いている。

    ――腹が、立つほどに――

     獅子王の、私的な部分に踏み入り、気にしてくれる。

    ――それが、たまにうっとおしい、がな――

     もちろん、その彼の内心など、欠片も顔には出さずに、彼獅子王は。

    「私は、いつもより前に出る」
    「……またですか」
    「不満か?」
    「いえ、兵の士気も高まるでしょう」
    「……フン」
    「兵の不満も高まっているので」
    「……」

     獅子王、彼は部下の行いに、かなりの「自由」を認めさせている。

    ――殺戮、略奪、そして……――

     それは、彼らの「ストレス」の捌け口とさせるためだ、もはや、この世界では。

    ――そう、生きているというだけで――

     圧迫感、それを常に感じる程の、人の生きづらい、終わる世界。

    「ただ、救世主どもの中核には、誰も入れるな」
    「……ハッ」

     とは言っても、この側近は常に「万が一」に備えて、王の為に部隊を隠すだろう、それはいい、ただ。

    ――一度は、自分の息子たる男、彼の顔を見なくては――

     で、なければ彼の、獅子王の気は収まらない。



    ////////////////



     考えれば、当然の事だ。

    「我々、統治軍の方が、圧倒的に数が多いのだから、な」

     ゆえに、隠れ里の者は、指揮官である彼。

    「……お前が、獅子王か」
    「……初めまして、だな?」

     ノコノコと最前線に出た、獅子王にリーダー、すなわち最大戦力を叩き込むのは、極めて適切。

    ――しかし、な――

     たしかに、本当に。

    ――私と、似ているな――

     いや、その声、その姿は。

    ――そして、彼女にも――

     そう、僅かな望郷、それにも似た気持ちを抱きながらも、獅子王はその利き手に。

    「……こい、若造」

     グゥ……

     愛用の銃、やや旧式の「能力者防壁・貫通弾」を装填している、ライフルをだらりと、無造作に下げる。

    「……いくぞ、暴君!!」
    「……ハハッ」
    「何がおかしい!?」
    「いや、失敬……」
    「……この!!」

     だが、本当に笑わせてくれると、獅子王は思う。

    ――声が、威勢を駆ける時の声、それが昔の俺と、全く同じか――

     ゴゥア……!!

     まず、獅子王は相手に撃たせる。

    ――よりに、よって――

     そして。

    ――このコヤツの焔、本当に彼女のそれに――

     獅子王、彼の能力は一度受けた攻撃を、完全に無効化する事こそは、出来ないが。

     ボゥア!!

    「……どうだ、獅子王!?」

     その無効化を行った時の「経験」は。

    ――推進、威力、まさしく――

     すなわち、データとして、身体に覚えさせる性質もある、そして。

    ――そう、往年の彼女のそれに――

     隠れ里のリーダーの放った焔、それは。

    ――全く、同じだ――

     あの「彼女」の、カグツチ刀を使った技でこそない、しかし。

    ――異能には、遺伝性が極めて強い――

     確か大昔の、怪異との「聖戦」の時の上官、とっくのとうに、獅子王が自ら「粛清」した、その彼の言葉。

    ――のだよ、オダギリ君?――
    ――……?――
    ――あっ、いや深い意味はないが、な――

     なぜ、そんな事を彼が、昔の小僧であった時の、獅子王に言ったのかは解らないが。

    ――まあ、間違ってはなかった――

     彼、王も数々の捕らえた能力者達、そのサンプルを使用した「実験」によって、同じ結論を出した。

    「……ん?」

     そして、この「リーダー」が放った、焔は。

    ――……何?――

     火焔そのものは防ぎきっている、しかし獅子王は、歴戦の戦士は。

    ――俺の、異能無力化が、抑えられている?――

     獅子王の能力は「ランク外-異能無力化」であり、すなわち。

    ――やはり、この作戦前に俺が想像した、私的な仮説――

     彼の能力、それが働かない、抑えられた、という事は。

    「俺の息子である、という、その仮説……」

     再度の、昔の上官の言葉。

    ――異能には、遺伝性がある――

     嫌な、実に皮肉な形での、あらゆる意味での、証明。

    ――だが――

     この目前の「息子」が、自分に対して、火花が出そうなほどに強く、叩きつけている。

    「……さすがに、獅子王だな」
    「……そうかい、若造?」
    「それで、今まで何人の、我ら救世主を、選ばれた者を殺してきた!?」
    「……」

     憎悪に満ちた、言葉と視線。

    ――まあ、当然だ――

     それだけの事を、彼は。

    「だが、貴様に狩られ、モルモットにされた同胞!!」

    ――私は――

    「我々、救世主たちに仇なす悪魔、貴様はこの私が!!」

    ――そう、俺は――

     人類の為、善の為に、獅子王は罪を重ねた、行った。

    ――異能者ではなく、人間の味方――

     ガォウカ、カァ……!!

     睨み合う彼らの周囲から聴こえる、銃声と。

     ウォ、オォ……!!

     怒声、そして悲鳴が。

    ――私は、TYOの、王者――

     この二人を、包み込んでいる。

    ――死ね、下等な劣等人間ども!!――
    ――こっちの台詞だ、人の姿をした化け物!!――

     何か、それらの声、同じ人間」達の声を。

    ――そうなのだ、私は――

     聴いている内に、彼の相眸が。

    ――私は、人間の側の王――

     獅子王、彼の瞳が、鋭く、まさしく、その名を冠する「獣」のように。

    ――その道を、選んだのだ――

     強く、狂暴に、熱を帯びる。

    ――やるか――

     決断、それを何度、この獅子王は繰り返してきた事か。

    ――許せ、神楽――

     人を何度裏切ったか、そして。

    ――俺は、正義をやらなくてはならない!!――

     その正義を執行する為に、どれ程の人間を、蹴散らしてきたか。

    ――俺は王なのだ、市民の安全を、彼らの人生を、保護する義務がある!!――

     ボゥウ、アァ!!

     その決意を固めた獅子王、彼に向かって跳ぶ、追撃の火焔。

    ――ムッ!?――

     本来なら、この程度の異能など、防げるはずではある獅子王の能力だが。

    ――遺伝性があるのだよ――

    「……やはり!!」

     防御が出来ない、ならばと、煤に覆われた獅子王は。

    「長期戦は不利か!!」

     ドゥウ、ドゥ!!

     まずは、例の愛用銃を、この「相手」にフルオートで放ち。

    「ムッ!?」

     そして、相手が結界を、対銃撃結界を張らせ。

    ――昔の、小僧の時の私と同じ位に、駆け引きを知らないな!?――

     わざと張らせ、そして王は、銃を脇に構えたまま連射しつつ、己の身体の出力を。
     
     グゥオ!!

     一気に、引き上げ。

    「まさか、この単なる!!」

     腰のカグツチ・コピーを、すでに「焔」を失った、鞘入りのそれを刀と見なさず。

    「骨董品が、役に立つとは、な!!」

     鈍器として、野蛮にして明解なる武器とみなし、相手の頭上高く飛翔し、そのまま。

    「け、結界属性を!!」
    「遅い!!」

     この「息子」の脳天に振り下ろそうと。

    「許せよ、許せよ!!」

     した、したのだが。

    「……!?」

     ザゥウ……!!

     その時。

    ――同じ!?――

     先の焔と同じく、獅子王の力を減衰させて。

    「……クゥア!?」

     そのまま、吹き飛ばされた王。

    ――同じ焔、攻撃!?――

     獅子王の感じた、身体で観測した異能、すなわち「データ」では、それは自分の「息子」と同じ異能。

    ――いや、それどころか!?――

    「彼女」の力、それと全く同じ、同質なのだ。

    ――ならば、もしや!!――

     グゥ!!

     身軽に地面に着地し、軽く「たたら」を踏んだ獅子王は、軽く頭を振り、新手の姿を探ろうとした、その刹那。

    ――……!!――

     近くの、バラック小屋が、火に。

     サァ、アァ!!

     舞い上がる、焔の翼に、包まれる。

    ――……アッ!!――

     瓜二つ、まさに。

    ――バッ、バカな!?――

     同じ顔、同じ黒髪。

    ――……小田切君、私と――

     同じ声、そして。

    ――……って下さい、小田切君――
    ――よ、喜んで、新宮さん!!――

     同じ、焔の羽根、しかも。

    ――カグツチ!!――

     同じ、刀。

    ――あの日に見た、ボクのカゾクが、燃えた、日のホノオ……!!――

     獅子王が、その、冷酷無比たる、独裁者の顔が。

    「あっ、あっ、あっア……!!」

     歪む。

    「ニイ、ミヤ、さん……!!」

     どんな怪異も、どんな困難に会っても、強固な意思を保ち続けていた猛獣の、獅子の顔が。

    ――……神楽さん、新宮、さん!!――

     無様に、醜く狼狽している。

    「神楽、下がれ!!」

    ――……カグ、ラ!?――

     シャ、アァ!!

    夕暮れ、夕陽を背に浮かぶ、焔の。

    ――名前マデ、そうなのか!?――

     燃える翼の、少女。

    「父さん、ここは私が獅子王を!!」

    ――……!!――

     そして、その言葉、それで全てが。

    「この悪しき獅子王、独裁者を倒す!!」

     解った。

    「や……!!」
    「覚悟、独裁者獅子王!!」
    「やめてくれ、新宮さん!!」
    「戯れ事を!!」
    「神楽さん、やめて!!」
    「貴様に、悪魔に私の名を呼ぶ資格など!!」
    「助けてくれ、お願いだァ!!」

     が、それが。

    ……シュ!!

     完全な隙、彼が今まで生き延びる為に、決して見せなかった、それが。

     ドッウ、プ……!!

    「……グゥウ!?」

     致命傷、即座に視界がシャットダウンし、そして人工心臓が、動きを停止したのが、解る。

    ――これは、誰の攻撃だ?――

     痛みはない、ただ。

    ――息子、か?――

     身体の機能が、ほぼ完全に停止したのは、解る。

    ――まさか、孫の、カグラによって、か?――

     もはや、確認など、出来る物ではない。

    「……王!?」

     それは、腹心の声、だとは思う。

    「……小田切、しっかりしろス!!」

    ――オダ、ギリ……――

     懐かしい、名前。

    ――……ハハ!!――

     やめてくれよ、チャラ。

    ――独裁者が、笑顔で死んだら――

     世間様に、申し訳がないだろう。

    ――……でも、これで――

     終わったようだ、全てが、本当に、何もかも。

    ――いや、しかし――

     その、脳裏に浮かんだ言葉、今まで、自分が散々、駆逐してきた者、異能者にして救世主として生きた。

    ――俺達の息子、孫……――

     その、彼らに今さら。

    ――生きろ、元気でな、と言えるものか……――

     そして、獅子王は。

    ――……あれは?――

     スゥ……

     その、獅子の手は。

    ――……焔の羽根?――

     死に行く彼が、伸ばしたその手は。

    ――焔を纏った、娘……――

     誰に向けて。

    ――この、イマのボクの腰の刀を帯びた、あの日の、カグラさん?……――

     伸ばされた手だろうか、シワだらけの、傷だらけの。

    ――結婚しようね、小田切君――
    ――……ああ、神楽さん!!――

     血塗れの、独裁者の、獅子王の手だろうか。

    ……トゥ

    ――……ホウ、まだ?――

     トゥ、ン……

    ――私に――

     ポトゥ、ン……

    ――俺に――

     トゥ、ン……

    ――僕に、涙が、残っていたのか……――

     彼が、独裁者が最後に流した、枯れ果てたはずの涙。

     トゥ……

     それが、彼の、小田切の「護り刀」に落ちた時。

     ウゥン、ン……

     淡い、あかね色の光が、夕陽と共に。

    ――新宮、サン――

     茜色の焔が、彼を。

    ――神楽、サン――

     シャ……

     優しく、強く。

    ――ボクは……――

     暖かく、そして。

    ――……ボクは――

     美しく、覆った……


    早起き三文 Link Message Mute
    2023/04/09 7:11:06

    「2062/2/15[救世主達の隠れ里]」

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