【新ゲです?】金目鯛「ホムラ、魚の煮つけってできる?」
「ん?」
ある日、異世界にログインするとどこか思いつめたような表情でペテロがそう言ってきた。
まぁ材料があれば問題なくできるぞ。と言えば、差し出されたのは多分金目鯛。名前は『黒黄金鯛』。全長三十センチはありそうなほど立派なものだ。ランクは高い。扶桑で手に入れてきたものらしい。豆知識だが、キンメダイは「鯛」とついているが鯛――マダイとはまた別の種類らしいな。
ともかく、それを受け取って【料理】しながらいったいどうしたんだと尋ねる。あまりペテロからこれが食べたい。と言うのはあまり聞かないのだ。まぁ食のストライクゾーンが狭すぎるせいで食べることが苦痛で、食に興味がなかったので料理を知らない。というのもあるんだろうが。
ペテロは作業中の私が見える位置に椅子を出すと、背もたれを抱えるように座った。そこにのそのそと黒天と白虎がやってきて「どうしたの?」と言うようにペテロを挟むように座る。
「ペテロ」
「ん」
二匹用にアイスと鶏のから揚げを差し出す。二匹に好物を上げるペテロの横顔はやはり疲れているようだった。
それを横目で見ながら作業を進める。ショウガを利かせて生臭さを減らし、味付けはちょっと濃い目。ついでに日本酒をば……。
菊姫曰く、大吟醸や吟醸酒はつまみと一緒に飲むもので、料理と一緒に飲むなら醸造アルコールで調整してある方がすっきりとして酒と料理、どちらも楽しめていいそうだ。酒が飲めない私は「そーなのかー」としか思えんのだが。まぁ菊姫は塩で飲むやつだからな。うん。生粋の酒飲みの一意見です。
まぁともかく、あれこれと日本酒の説明を読みながらどれがいいかと思いながら、二匹に餌を上げつつぽつぽつと呟かれたペテロの話を聞いたところによると、リアルでどうやっても断れない用事で外食する羽目になったそうだ。
「接待か?」
「まぁ似たようなものかな」
珍しく心底うんざりとした表情。どうやらあまり楽しい相手ではなかったようだ。
食べ終えた二匹に、もうない。と、二匹に向かって手のひらを差し出すとベロンと、黒天がその手を舐める。そしてまた仲良く寄り添って去っていった。
ペテロが連れていかれた店は魚料理を出す所だったようなのだが、どうにもペテロの口には合わず。かといって一緒に食事をしている相手の手前、残すわけにもいかず。大変な時間を過ごしてきたらしい。
「それは、それは」
実にご苦労なことだ。と、言って、煮つけを皿に載せる。よしよし煮崩れてないぞ。豆青色の釉薬がかかった丸い陶器の皿は扶桑の食器市で買ったものだ。
それに尾頭付きで『黒黄金鯛』の煮つけを乗せ、煮切った汁をかけて、彩に白髪ネギを添えれば出来上がりである。
「ほい」
「ありがとう!」
皿を手に振り替えると、ペテロが椅子から立ち上がる。ガタガタとダイニングのテーブルに椅子を戻し、いそいそと座った。木綿の生成り色のテーブルクロスを出し、【寄木細工】で作ったランチマット――と言うか、プレートの上に皿を乗せる。
煮つけだけなのもなんなので、おひたし、根菜の味噌汁、それから軽めのご飯をよそって一緒に出す。ちょっと豪華な定食だな。箸置きは【陶芸】で作った黒猫だ。黒天を目指して失敗して妥協したなんて事実はない。ないったらない。
ぱんと、手を合わせてさっそく箸を手に取るペテロ。
「ん~~~これだよ、これ! 生臭くなくて、身がほんのりと甘い。しょうがの風味がふわっとするのもいいね」
「それはよかった」
どうやらお気に召したようだ。そうこうしているうちに他のメンバーもやってきた。ペテロが食べているの見て他の面々も食べたくなったらしい。
「美味しいでし!」
「煮魚って苦手なんだが、ホムラが作るやつは美味いよなぁ」
「わかる」
菊姫は他のおかずはいらないとのことで、日本酒のみ。他の面々は定食風。ただしペテロ以外はレオが釣った『千金目鯛』の切り身の方だ。
シンのボヤキに深くうなずくペテロはよほど外食で食べたのが口に合わなかったようだ。まぁ刺身や焼き魚は平気だが、って人は一定数いるな。
まぁ褒めても料理しか出せんのだがな! 私は追加の魚料理を出しつつ、今日は何をするかなぁと考えるのだった。
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サブスクで金目鯛の煮つけがきまして。どうすんだこれ。ってなったのを何とかしました。
魚の煮つけ、苦手って程ではないけど、外ではまず食わない料理の一つですね。(当たり外れが。なぁ)