【新げです?】満月の夜に降る星たち
「月見バーガー食べたい」
「毎年なんだかんだ言って食べたくなるんだよな」
レオとシンがそんな会話をしているのを聞きながら最後の敵を倒す。ドロップしたのは『月光砂糖』、『天の川ミルク』……。
はい、中秋の名月にかこつけたイベントでのドロップ品でございます。月の神はヴェルナの眷属か現身だって話だが、そういうことでしょうか。
普通に団子の材料がドロップするわけじゃないんだぁ。いやモンスターのトビウサギや角ウサギが団子やススキを落とすようになったり、杵を担いだ二足歩行するウサギの敵MOBとして出てきたりもしていたが。天の川はどちらかというと七夕のような気もするが。まぁいい。
「あれだ。狸にやたらと敵意をあらわにするうさぎどんを思い出すな」
シンの言葉にクランメンツから「あ゛ー」というなんともいえない声が出る。あれが持っていたのは船のオールだったがな。
うさぎからドロップする団子とススキを教会にもっていくと、特殊エフェクトがもらえるのでいつものようにクランメンツで集めてサクッと交換。団子は一応食べられるらしい。アイテムや魔法での回復量が+10%になるデバフが約30分ほどつくものだった。
「ボス戦とかにいいかもね。むしろレオとシンに常時食わせておきたい」
「でもこれ、ポーチに入れていても劣化するアイテムだね」
「というか消費期限が決まってる奴だな。リアルで9月10日までに使い切れって感じだな」
「効果が高いから仕方ないでし」
二垢に振り回されているお茶漬がぼやくが、残念ながらそううまくはいかない模様。金平糖の『ティガルの星屑』同様に、賞味期限的なのがあるアイテムのようだ。しかし逆に言うと、住人から似たようなレシピがもらえる可能性もあるんだが……。
それはそれとして、評価とランクが高い食材はいっぱい欲しいです。クランメンツやソロや雑貨屋の面々とハムハムしてストックを溜めていく。
さて、いまさらだがこの中秋の名月のイベントだが、イベント名が「満月の夜に降る星たち」である。今のところ「降る星」要素がないんだが、これは慣用句的なアレでいいんだろうか。
「というわけで、気になったので星降る丘まで来たんだが」
「考えることは皆同じ、かな?」
「ビンゴ、って感じだね」
夜。クランメンツとともにアイルの星降る丘までやってきました。同じようにあたりをつけてきたのか星降る丘にはほかにもプレイヤーの姿がある。そしてどうやらイベント空間に移っている模様。そこそこ広い場所だがサーバーのプレイヤー全員が集まれるほどの広さはないからな。
クランメンツしかいないイベント空間でしばらく待っていると隕石が降ってきました。正確に言えば隕石姿の魔物、か? いや確かに降ってくる星だけど! サイズは運動会の大玉転がしぐらいだろうか。そしてその上には昼間見た杵を持ったうさぎの色違いが乗っている。
普通に考えるとあのサイズの隕石が落ちてきたらこの辺一帯大惨事ですら済まないはずなのだが、魔物だからなのかなんなのか普通に着地して、地面に降りたうさぎとともに襲い掛かってきた。
「だいぶ意味が分からないんだけど」
「わははははは」
「いまさらでし」
そんなわけでバトルと相成ったのだが、途中で被弾が多くてお茶漬けだけじゃなく私も回復に回るしかなかったりと一時バタバタした。どうもうさぎの攻撃がデフォルト多段ヒットかつ割合ダメージらしくて回復量が足りん!
全員で精霊による回復と、私の持つスキル、【影の領域】でギリギリレオとペテロが間に合っているレベルだ。
「あ、これあれだ、団子、団子食べて!」
「そういうこと!?」
「もってねぇ!」
「わはははは、忘れた!」
「ばかぁぁぁ!!」
ペテロが叫ぶとお茶漬が納得したように叫び、二垢が叫び、とどめに菊姫が叫ぶ。通常営業です。
あぁもう、だから荷物の整理はちゃんとしろと!! 私とペテロが【投擲】で、二人の口に団子を放り込んで準備完了。あとは危なげなく倒せました。
隕石の魔物からドロップしたのはそのまま『隕石』で、【鍛冶】に使える素材だそうだ。その他、色違いうさぎからは『隕石芋』、『星屑黒胡麻』、『満月粉』がドロップしましてね。『満月粉』は団子粉でした。
シルに目がくらんだお茶漬と、食材に目がくらんだ私によってイベント期間中は毎晩星降る丘で隕石退治になりました。あ、ちなみに隕石の、というかうさぎの魔物はこの星降る丘で振られた男女の負の感情が凝ったもので、毎年この時期に憂さ晴らしとしてやってくるのだという。この時期はここでデートなり告白なりはしないようにという話を翌朝に町の人に聞きました。隕石はうさぎの騎獣的なサムシングらしい。
――妖怪か何かかな?
「運営のリア充爆発しろという強い強い念を感じる」
「そもそもここ作ったの運営だけどね」
そんな会話をしながらイベント期間中は夜毎に通い詰めて、いよいよイベント最終日。星降る丘にはサーバ中のプレイヤーが集まっているんじゃないかというほどの大盛況だった。
何しろ住人からイベントが始まってからずっと空に巨大な影が見え、それが徐々に近づいてきているという話があったからな。そして実際昼間にぽっかりと空に浮かぶ穴のような黒い影が確かに見えていた。サイズはかなり大きい。
「イベント空間に移動した、かな?」
ある程度丘に近づくと、ふっと人口密度が減った。ざっと見たところ百人ちょっとぐらいの人数しかいないように見える。おそらくはパーティやアライアンス単位でイベント空間に振り分けられているのだろうという。相変わらずスムーズな移行でさっぱりわからん。
そして始まるレイド戦。対象はやはり巨大な隕石です。さすがにこれが落ちたらあたり一面火の海になるだろうという事前情報もあり、タイムアタックでもあるようだ。
プレイヤーたちは一番大きな隕石が落ちないように風をはじめとした魔術で押し戻しつつ、遠距離攻撃で攻撃。接近戦メンツは他にも落ちてきた隕石と隕石から降りてきた杵を持ったうさぎを倒す役目がある。
「ホムラ、【浮遊】たのむ!」
「わかった!」
「っおらっぁ!!!」
宙を蹴り、隕石に肉薄したシンの拳が見事隕石を粉砕する。今まで他のメンツがダメージを入れていたが、あまりの見事な割れっぷり。あとで判明したが、どうやら打撃や斬撃にはすこぶる弱かったようです。おそらくプレイヤーが空を飛んだり、飛ぶ騎獣を手に入れるようになったら軽く倒せる相手なんじゃなかろうか。他会場ではアキラくんが『掃討の大剣』で粉砕したそうだしな。
そうして『羨望隕石』というランクの高い素材を入手した。したのだが、これで作った武器って大丈夫なのか? デフォルトで呪いが付与されてそうなんだが……。
私と菊姫は【鍛冶】を持っていないのでペテロとお茶漬、レオに譲る。シンも【鍛冶】は持っているのだが、レベル上げはそんなにしてないということで、自分の分だけでいいとのことだ。そして食材は全員分が私に来た。
「とりあえずプリンでも作るか……」
今回ドロップした素材だけで作ったプリンは普通の奴と、ミルク多めのミルクプリン、裏ごしした『隕石芋』のさつまいもプリン、『星屑黒胡麻』の黒ゴマプリンは『庭』の大樹に無事に格納された。今回ドロップした食材をメインにすると『星屑の』とか『流星の』とか『満月の』とかいう固有名が付く模様。効果は評価10で入るLUKの補正の効果時間がちょっとだけ伸びる。
「うわ、『星屑砂糖』で作った『金平糖』はやばい」
「え、うわー……」
もしかしてと思て作ったやつが、お茶漬がドン引きする効果があったので、そっと専用瓶に入れて【ストレージ】へしまい込む。これはまだ出しちゃダメな奴です。
一番すごかったのは、全素材を使う『流星の大学芋』の『満月アイスクリーム添え』でした。それを食べてカジノに行ったシンが大勝ちしたそうだから、効果は推して知るべし。これも封印だな……。
他にも各種アイスクリーム、スイートポテト、タルトなど秋のスイーツになって雑貨屋やクランハウスで楽しめることになる。他にもごま油とかも作れたしな。
「焼き芋やろうぜ、焼き芋!」
「次は栗がいいな。リンゴもいいな」
焼き芋やりたいというレオと、次も食材が手に入るイベントがないかという私に、クランメンツがあきれたように首を振ったのだった。
「あ、菊姫、芋焼酎があるんだが」
「よこすでし」
『隕石芋』で作った『芋焼酎・流星』、『星屑のリキュール』は、雑貨屋裏の酒屋で絶賛発売中です。はい。
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秋らしいいつものイベントを、と考えたらこんな感じに。
多分焼き芋の味変用に『天の川ミルク』で作ったバターとかが添えられたりするんだろうなぁ。