Amy.雪は止まない。窓の外の色彩は、もう白と灰色しか残っていない。
薄暗い部屋の中は、とても冷えている。薄い毛布は何枚重ねても、かじかんだ指先をあたためてはくれない。
今日もまた、熱が出そうな気がする。胸の奥が重く、息をするたびに肺が軋む。でも、そんなことはどうでもよかった。壁にかけた時計を見る。「彼」が帰ってくるまで、まだ時間がある。私はベッドの上で膝を抱え、壁に寄りかかった。壁紙の剥がれかけている部屋の隅を、ぼんやり見つめる。
この家は、もう何年も時が止まったままだ。父が死んでから。母が死んでから。義理の兄である「彼」が私を引き取ってから。
「彼」はいつも、疲れた顔で帰ってくる。
着古したコートの雪を払い落としながら、決まって「今日はダメだった」と呟く。
その声が、少し震えているのにも気づいている。そう、私は「彼」の負担なのだ。
わかっている。私の身体は嫌になるほどひ弱で、病弱だ。ただでさえ薬代がかさむと言うのに、私は「彼」を支えるための、日々の簡単な家事をすることさえままならない。毎日の料理も掃除も洗濯も、ほとんど「彼」の仕事なのだ。
「彼」は、私を苛むようなことは決して言うことはない。それどころか、自分の身を削るようにして、何もできない私のために尽くしてくれる。ただ時々、私の咳が止まらなくなる時。「彼」の眉が寄り、暗い瞳で私を見やるのだ。憐れみと苛立ちが混じった、悲しそうな眼で……。
でも、それなのに、私は「彼」を離せない。離れられない。父も、母も、私を置いて逝ってしまった。私にはもう「彼」しかいないのだ。冷たく暗いこの世の中で、側にいてくれたのは「彼」だけだったから。血も繋がっていない「彼」との、まるで硝子のような脆くて儚い糸。私は決して独りではないのだ。
雪は止まない。遠くで、晩餐の時を告げる鐘が鳴っている。もうすぐ「彼」が帰ってくるだろう。疲れた足音が、そろそろ聞こえてくるはずだ。
私は毛布を握りしめ、一つ大きく息を吐いた。頭の芯が熱いと言うのに悪寒がする。どうやらまた熱を出してしまったみたいだ。私はまた、「彼」を困らせてしまう。
……それなのに、私はまだ、生きていたいと思ってしまうのだ。
雪は止まない。街を覆い尽くす純白の雪も、醜くて身勝手な私の心を染め上げることはできない。
やがて、ドアの向こうから、かすかな足音が聞こえてきた。重い鍵の音。奥の部屋で、雪まみれのコートを脱ぐ気配。
私は思わず毛布に潜り込む。熱っぽい頰が、自然と緩むのがわかる。今日もまた、「彼」は帰ってきた。私のせいで疲れ果てているのに、それでもここに帰ってきてくれた。
私の部屋の扉が開き、疲れた、だけど優しい声が、そっと落ちてくる。
「……ただいま」
その一言だけで、胸の奥が温かくなる。
毛布から顔を出し、私は答えた。心の底から。
「……おかえりなさい、お兄ちゃん」
fin.