クリスマスの贈り物この本丸の主はクリスマスという行事がたいそう好きで、本丸のあちらこちらに年中クリスマスツリーやリースが飾られている。
クリスマスの時期にはそれらにいっせいに電飾が灯され本丸中がきらめく。
ありふれた緑のもの、白や桃色、ものによっては七色などそれは色に溢れた大小さまざまなクリスマスツリーがきらめく様は見ごたえがある。
その中でもいっとう大きなクリスマスツリーは師走に入ってから広間に飾られる。そのツリーを用意して飾り立てるのは初期刀である国広の役目だ。
主の好みで毎年飾りつけが変わるツリーを、出来るだけ見栄え良く美しく飾らなければならない。
「こういうものは加州あたりの方が得意そうだが」
毎年そうぼやきながらも丁寧に飾りつけるのが恒例だった。
飾りつけられた大きなクリスマスツリーを見上げながら、国広はさてどうしたものかとため息をついた。
天辺の大きな金色の星が落ちてしまったのだ。
間の悪いことに薙刀などの大柄なものがいない。大きなツリーだからつけ直すにも脚立が必要だ。
確か脚立は倉庫だったか……と考えながら金色の星を掌でもてあそんでいると、広間の出入り口から刀がひとふり入って来た。
「やあ偽物くん」
ご機嫌いかがかな。などと言いながら近寄ってきた山姥切長義に国広も「写しは偽物ではない。何か用か」と返す。
「主に頼まれてね。広間にヤドリギを飾ることになったんだよ」
と手に持ったヤドリギを見せる。長義の持つそれはなかなかに大きくて立派なヤドリギだった。
「それを探して採ってきたのか?寒い中ご苦労だったな」
「まさか。採ってきたのは小竜殿だよ」
前々から目をつけていたのがあったようでね。と微笑む長義は妙に上機嫌なように国広には見えた。いつも余裕ある笑みを見せている刀ではあるが、本当に機嫌が良いことは珍しいのだと南泉一文字が言っていたのを思い出した。
「ちょうどいい。脚立を持って来ようと思っていた。少し待っていろ」
手にした星を示して言えば長義も頷いた。
「取れてしまったのか。イヴは今夜だし早めにつけ直さなければね」
「ああ。主をがっかりさせたくない」
倉庫から脚立を持ち出して星をつけ直していると、作業を眺めていた長義が「今年は薔薇とは主もロマンティックだね」とつぶやいた。
大きなツリーは今年は造花の薔薇とリボンで飾られている。
「なかなか華やかで良いじゃないか」
「そういうものか?俺にはよくわからない」
「偽物くんは情緒がないな」
「写しは偽物ではないが、毎年色々な飾りつけを見すぎてもうよくわからない」
「食傷気味ということか。なるほど、この本歌が口直しをしてやろう」
降りておいで。とやけに優しげな声音で呼びかけられて、国広は首を傾げながらも脚立を降りて長義のそばへ行った。
長義は国広を壁際に誘導すると、壁に手を突いて国広を腕の中へ閉じこめた。そうして顔を近づける。
「なんだ?」
「いいから目を閉じなよ」
「なぜだ?」
「そういう作法だ。ほら」
言われるままに目を閉じた国広の唇に柔らかく温かな感触が伝わる。そっと触れて、離れて、また触れる。何度かくりかえした後に目を開くと長義の顔が目の前にあった。
長義は満足そうに微笑んでいた。深い青色の瞳が見たことがないほど柔らかい色に輝いている。初めて見る表情に国広は思わず魅入った。
「……くちづけをしていいのはヤドリギの下ではなかったのか?」
「まあいいじゃないか」
嫌ではなかったのだろう?と問われて国広は我知らずこくんと頷いていた。
「山姥切」
「なにかな?」
「もう一回」
「一回でいいのかな?」
クスクス笑いながら再びくちづける長義の背中に国広は腕を回した。
今年のクリスマスは一足早くとても特別な贈り物を貰ってしまったな。そう思った。
窓の外では静かに雪が降り出していた。