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    転げ回ってまで望む未来 もしもこのまま明日が来ないならどうするべきだろう。朝が来る前に世界が終わってしまったら、我は何処へ向かうと言うのか?
     
     空が学校帰りに立ち寄ってくれたお陰でまともな夕食を共に出来たが、明日も学校があるからと一人暮らしをしているアパートに帰ってしまい、いつも通りに戻った筈なのにガランとした部屋の中。
     我も今日は特にこなすべき仕事もなかったので何となく眠ろうとベッドに横たわった辺りまでは何も問題なかった、しかしどれだけ目を閉じてもシーツを被っても一向に眠気が訪れる気配はなく、ただ何もしない時間が過ぎていく事に焦りすら覚える。これなら興味もない映画でも流しておけば良かっただろうか?
     足元が見えれば良い程度の明るさに設定しておいたものの先程から点けっぱなしの電球が切れかかっているのかチラつき始め、不規則に輝くフィラメントを眺めながら特にやることもないので最近見た夢での出来事をつらつらと思い出してみる。その夢は妙に現実味を帯びていて、起きた時すぐに地図を開いて何処かに該当する地名や地形がないかと必死に探してしまった程だ。
     しかし夢の中で我は妖魔退治を生業としているなど現実と異なる点も非常に多い上に夢だと言う認識はなく、何をそんなに必死になっていたのか判らないが守ると決めた地に群がる妖魔どもを蹴散らす度に耐え難い苦痛に苛まれていた。かつては苦楽を共にする同僚も居たのだが、文字通り気が狂う程の痛みや苦しみに耐えきれなくなった者からいなくなってしまった。それも随分昔の話、次の時代に国の未来を託したものの使命が変わる事はない。命尽きるまでは闇を祓い続ける事を決めた我の前に現れたのが宙に浮かぶ白い少女を連れた旅人と呼ばれる、恋人である空によく似た少年だった。
     妹を探しながら旅をしているのだと語った奴は何かに付けて我が拠点としている場所を訪れては手土産やお使いと銘打って軽食や高地の過酷な環境だけで咲く花や痛み止めの散薬を持ってきたり、そう言った物がなくともふらりと立ち寄り他愛ない話をする事もあれば何も言わずにただ寄り添うだけと言う時もありつつ積極的に我と関わってくる。
     奴の行動に共通する事と言えば、共にいる時だけはこの身の内に抱える苦痛が和らぎ心穏やかに過ごせる時間が増えると言うくらいだったか……しかし長い生を送る中で一番安らいでいると感じていたのは間違いないだろう。
     それらは全て夢の中の話でしかないのだが現実とは異なり、いくら突き放しても懐いてくる少年と仲睦まじく過ごしていた己を妬ましく感じるのもまた事実。あんな風に空と寄り添い笑い合えていたならどんなに報われるか……もしかしなくとも、あの光景は我の願望そのものなのかも知れない。
     だがこれ以上チラつく電球を眺めながら夢での出来事をなぞっても時間の無駄でしか無いと理解していても、尚なぞらずに居られないのはやはり本能が彼を欲しがっているからか、空との未来を渇望して止まないのは本当に彼がオメガで我の運命だからと言う理由だけなのだろうか?
     あの時、路地裏のゴミ置き場で擦り傷だらけで倒れている空を見つけた我は初対面にも関わらず発情しかけている奴を見過ごす事も出来た筈なのに手を差し伸べて連れ帰り、アルファ用の抑制剤をガブ飲みしながら擦り傷の手当をしたのだ。ほんの気まぐれで助けてしまったとは言え今まで出会ったオメガを思い出して辟易としていた我に向け、空は精一杯の笑顔を向けてくれたことを覚えている。
     
    「貴方みたいな優しいアルファも居るから、この世界が愛おしい」
     
     その一言だけだった。今まで必要以上に他人と関わる事なくこの先も必要ないとすら考えていたにも関わらず、このオメガの事をもっと知りたいと望んでしまった。我の事を何も知らない少年が少し助けられた程度で愛おしいと言う世界を見たくなってしまったのだ。その後頻繁に会って話をする様になってからそれとなく聞いてみたものの、肝心の当人は全く覚えていない様子。深く気にする事でもないだろう。
     あれこれ思考を飛ばしていたものの、やはり一向に訪れる気配のない眠気に痺れを切らして無理矢理瞼を閉じるとジリジリと言う独特な音を立てながら再び光がチラつく。横着せずに新しい電球を買って来るべきだったか、それとも今からでもスイッチを落として来るべきか。
     使い込んだ電球の不規則な光に理不尽な苛立ちを覚えながらカーテンを少し捲るが闇が広がるばかりの夜空には未だ朝が訪れる気配はなく、まるで世界全体が止まって死へと向かっているような錯覚さえ覚えてしまう。
     果たしてこのまま本当に世界が終わってしまうと言われたら今の我は一体どうするのか。以前の我ならば架空の話に興味なぞ持たず、淡々と日常をこなして消えていくだけできっと満足していたのだろう。では今はどうだ?
     少々考えを巡らせて真っ先に浮かぶのは淡い金色の髪を緩く纏めた少年の姿。その肌に触れられずとも良い、ただ彼の側で穏やかに終わりたいのだと願って止まない。
     そんな中でパチン、と音を立てて何かが弾ける音と共に世界が文字通り暗闇に包まれ思わず考えを中断する。あぁ、遂に電球が切れたのかと気付くまでにさして時間は掛からなかったが部屋が暗くなった所で相変わらず眠気は訪れる気配はない。
     ならばいっそ考えていた事を実行してしまえば良いと飛び起きて、スマホを手に取って時計を確認すればもうすぐ日付を超えるらしい。そのまま操作して相手の名前を辿り、電話を掛けながら貴重品を掴むとそのまま家を飛び出す。夜道を駆けているとスピーカー越しに驚いた声が聞こえて来たので簡潔に用事を伝えると困惑しながらも待ってると言う短く力強い答えが聞こえた。声だけじゃなく一刻も早く会いたいと言う気持ちを込めて、そう離れていないアパートへ向けて全力で夜道を走り抜けていく。
     
     もしこのまま明日が来ないならどうしようか? それならお前の隣で星空でも眺めながら、笑いながら二人きりで終わりを見たい。
     すぐに会いに行こう。
    ツナ缶@細々原稿中 Link Message Mute
    2022/06/25 9:40:51

    転げ回ってまで望む未来

    支部の移植です
    もしかしたら7月のイベントに空受けオフ本を出すかもしれません、どういうこと……??

    #原神 #原神BL #二次創作 #魈 #空 #魈空 #オメガバース #現パロ

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