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    花茶土産花茶土産 外は暗く、しかしまだ夜中というにはやや早い頃、ガラガラと玄関の扉を開ける音がした。
     夫が帰ってきたのだろう。そう思い、テマリは玄関まで迎えに出た。
     その通り、上忍ベストを着た夫が、靴を脱いでいるところだった。
    「たでーま」
    「おかえり、父ちゃん。早かったね。」
     数日前から、火影補佐たる奈良家の当主は雷の国へ行っていた。
     世界の交流が増えた今、任務であちこちの国や里へ出ることも少なくない。
    「シカダイは…もう寝てるか」
    「ああ。」
     反して、まだ小さい息子の起きている時間に帰れることは少なかった。

     ほい、土産、とシカマルはテマリに紙袋を渡す。
     仕事で他国に行ったとき、シカマルはよく土産をくれる。
     それは大抵その地方の菓子だ。
     もっとも、シカマルは甘いものを好まないので、その場合はテマリが消費するのだが。
     そして土産の菓子が甘いものじゃないことはほとんどない。
     煎餅とかを買ってくればいいのに、とテマリは思う。
     そうすれば二人で食べられるのに。

     一度、「甘いものじゃなくてもいいんだぞ」と言ったことがある。
     夫は「アンタは、好きだろ。」と返した。
     それから、テマリは土産に注文をつけたことはない。
     シカマルと一緒に食べられないことは少しだけ寂しく思うけれど。

     今回はなんだろうか。
     渡された紙袋の中身をみると、ビー玉より一回りか二回りほど大きい丸いものがコロコロと中に入っていた。
     なんだか良い香りがする。…花の香り?
    「これ、なんだ?」
    「茶だとさ。」
    「お茶?」
     なるほど、よく見るとこれは茶葉を丸めたもののようだ。
    「へえ、変わってるね。何て茶だい?」
    「…あー……聞くの、忘れちまった。そういや、晩飯、残ってねぇ? 腹減った。」
    「ん、ああ。今用意するよ。」





     シカマルが晩御飯を食べ終えて、テマリは土産にもらった茶を淹れることにした。
     見た目も楽しむものだそうなので、通常のお茶のようにそのまま急須には入れないほうがいいらしい。
    「俺が出されたときにはガラス製のポットに入っていたな。」
     だが、生憎とこの家にはそんなものはない。
    「…どうすればいいんだ?」
    「あー…。確か、湯飲みに直接その玉を入れて、お湯だけ注いでも良い、って聞いた。」
    「なるほど。」
    「急須に湯だけ入れとくといいぜ。」
     テマリは言われたとおり湯を沸かして、急須に移す。
     底が深くない湯飲みを用意して、急須と、土産のお茶を一緒に盆に乗せ、居間へと運ぶ。
     畳の上に腕を枕に寝転がっていたシカマルは、テマリがやってくると身体を起こした。
     ちゃぶ台に盆を乗せると、テマリはシカマルの隣に腰を下ろす。
     紙袋から、丸められた茶の玉を摘み、一つずつ湯飲みにそのまま転がす。
     このままでも十分に芳醇な香りがした。
    「湯、入れてみ。」
     夫に言われたとおり、テマリは湯飲みへと急須の湯を注ぐ。

    「……ほう…」
     感嘆の息が漏れた。
     湯が注がれた湯飲みの中で、球となっていた茶葉がゆっくりとほぐれ、開いていく。
     まるで、花が咲くようだ。
     花びらのように開く茶葉の中には、実際の花も入っているようだった。
     中央の紅色が鮮やかに映え、揺ら揺らと湯飲みの中で揺らめく茶葉は、なるほど美しい。
     茶葉が開くと、香りもより一層強まっている。
     口をつけてみると、その香りが一切茶の味を邪魔しないのにテマリは驚いた。
     顔が自然と綻ぶ。
    「美味い。いいな、これは。」
     その様子を見ていたシカマルは、「気に入ったなら、よかった。」と自分も茶に口をつける。
    「飲みきったら湯を継ぎ足して、結構何回も飲めるらしいぜ。味なら3,4杯。香りだけなら7杯くらいまでいける、て聞いたな。」
    「へぇ。」

     その後テマリはシカマルが話す雷の国の話を聞いた。そしてシカマルは自分がいなかった間の息子の話をテマリから聞いた。
     湯飲みの中身が減ると互いに急須で継ぎ足した。
     二人は会話を楽しむ。

     夜が更けて日付が変わろうとする頃。急須の中身はすっかり冷めていたが、シカマルは最後の一杯を望む。
     もう、僅かな香りのついたぬるい白湯でしかなかったが、シカマルはそれを大事そうに飲んでいた。
     どうやら、今回は夫が気に入ったものを土産にしたらしい。
     見た目でも楽しめるものだったが、おそらく気に入ったのはそこではない。
     香りもテマリには好みのものだったが、どちらかというと甘さがあり、強めのそれをシカマルが特別気に入る、というのもなんだか腑に落ちない。
     おそらく、こうしてゆっくりとした時間を楽しめるからだろう、とテマリは推測した。
     雲を眺めたり、じっくりと先を読む遊戯を好む夫らしい。
     それはテマリも気に入るものだった。
     一緒に同じものを飲むことができる。
     このお茶の土産を、テマリはとても気に入った。
     特に注文をつけてはいないのだが、それから時々、シカマルはこのお茶を土産にしてくるようになった。






    「やー、テマリ。いらっしゃい。」
    「お邪魔する。」
     テマリは今日、秋道家へとやってきた。
     今お茶準備するから、その辺座っててー、とカルイに言われ、ダイニングキッチンに通される。
     代々引き継がれてきた奈良本家の屋敷にそのまま輿入れしたテマリと違い、チョウジとカルイは新居を持った。雷の国風の家電やインテリアもあって、随分と“今風”だ。最新の電気機械には詳しくないテマリからすると、秋道家には物珍しい物がたくさんある。 

    「これ、なんだ?」
    「ああ、それ? ホームベーカリー」
    「ホー…なんだって?」
    「えーと、パン焼き機? 生地捏ねるとこからやってくれるから、便利だよー。朝食にパンが増えて、チョウジもチョウチョウも大喜び。」
    「…うちは、朝はご飯と味噌汁じゃないと、二人とも嫌がるからなあ。」

     他里から嫁いできた猪鹿蝶の伴侶、という共通点を持つ二人は、木の葉に来た頃からこうして交流を深めていた。
     子どもたちもアカデミーに入ると、暇を持て余すというわけではないが、こうした時間が増えている。

     カルイはダイニングテーブルに二人分のティーカップと、茶葉の入ったポットを置いた。
    「この間、オモイが任務で木の葉に来ててさー、なんか色々土産もらったんだ。お菓子は旦那とチョウチョウが全部食べちゃったんだけどさ。」
     実家の特産なんだ。口に合うといいけど、と
     蒸気を噴き出すやかんから中身を注ぐと、甘い香りが広がった。
     甘さの中にも、爽やかさと上品さがきちんと含まれている。
     テマリはこの香りを知っていた。夫がくれる、あの土産の茶だ。

    「これは…」
    「あ、ダメだった?」
    「いや、そうじゃない。シカマルが、雷の国に行くと時々これをお土産にくれるんだ。」
    「へー。ジャスミン茶を?」
    「ジャスミン茶? そういう名前なのか。」
    「え、名前知らなかったわけ?」
    「あいつ、毎回聞くの忘れた、って言うんだよ。自分が気に入ってるくせに。」
    「へーえ。火影補佐様のお気に入りかい。そりゃ、出身としては嬉しいね。じゃあいくらか持って帰る? たくさんあるし。」
    「いいのか?」
    「いーよ。いーよ。うちじゃお茶ってなかなか減らないからさ、むしろ助かるし。」
     そう言ってカルイは大きなジャスミン茶の茶筒を開け、中の茶葉を密閉瓶へと移そうとした。
     テマリはそれを見て、口を挟む。 
     
    「それは、普通の茶葉なんだな。」

    「ん? なんか違った?」
    「ああ、いや、いつもくれるのは…こう、茶葉が球状になってるやつなんだ。」
     テマリの説明に、カルイは思い当たるものがあった。おやおやそれは。
    「……それってもしかして、お湯入れると、こう、花みたいに開く?」
    「ああ。」

     へえ、カルイは言って、テマリを見る。その顔はにやにやと笑っていた。

    「…なんだ、気持ち悪い。」
    「いやいや、なんでもないよ?」
    「なんでもない、って顔じゃないだろう。」
    「いやいや、たいしたことじゃあないさ。」

     顔をしかめるテマリに、カルイはくくく、と笑う。
     そして言う。それもジャスミン茶だけどね、と。


    「そういう、茶葉を紐でくくって球状にしたやつ。雷の国でそれのことを、」 




    「手鞠茶、って呼ぶんだよ。」


     手鞠茶。てまり。


     あの茶を飲んでいるときの夫を思い出した。
     妙に大事そうに湯飲みを持つ手。出涸らしになるまでおかわりをして。そう、名前が、同じだけだろ?
     忙しいのに、次の日も朝早いこともあるのに、飲みきるまでは二人の時間を終わらせない。
     夫は何を思ってあの茶を飲んでいるのだろう。どんな顔で、あの茶を買うのか。
     名前を聞くのを忘れた、そう答える夫の、子どもっぽい照れ隠し。不器用な。
     ああ、なんだか顔が熱い。


    「…カルイ。」
    「ん?」
    「やっぱり、その茶を持って帰るのは止めにする。」
    「へえ?」
    「…う、うちにはまだあるし。」
    「無くなったら、ウチに言えば取り寄せてやるけど?」
    「…いや、いい。」
    「ホントに?」
    「…………また、買ってきてもらうから。」

     カルイはとうとう噴き出した。

    「ふ、あははははははははははは!」
    「…笑いすぎだぞ。」
    「だ、だって、名前がおんなじでお気に入りなんて、火影補佐様も結構カワイイとこあるけど、」 

     お腹を抱えて、ひいひいとカルイは笑う。

    「アンタも相当カワイイよ、テマリ。」
    「うるさい。」

     淹れてもらったジャスミン茶は、大分濃くなってしまっていた。











     夫がまた、任務でしばらく家を空けるという。今度は雷の国らしい。
    「シカマル。」
    「ん?」
    「土産は、あのお茶がいいな。」
    「……おう。」
     テマリは、夫が雷の国に行くときだけ、土産に注文をつけるようになった。


    花茶土産




    ナガツキ9 Link Message Mute
    2022/07/05 23:58:16

    花茶土産

    pixivからの移行。

    #シカテマ

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    • ボーイミーツガールが起きても日の出はまだ遠くて #宗かな
      2020/2/23 HARUCOMICCITY26で頒布した『おは宗かな!~宗かなSS短編88本!~』の書き下ろし短編の一つです。(PIXIVからの移行)
      ナガツキ9
    • 35宗かなSSまとめ2 #宗かな

      ツイッターに上げていたSSまとめ。画像2枚以上あるやつ。
      小説機能の方でまとめようと思ったのですが、テキストデータが残っていないものもあったので、画像で上げちゃいます。
      書いたのも数年前ですし、正直ネットの過去に流してしまいたかった。しかし恥を忍んで残しておきます。

      1枚目:諜報員2人の雑談。
      3枚目:NOTとSBMのアニメ円盤限定版特典にこのオーディオドラマがついてきたんですよ!という妄想の具現化。
      6枚目:こどものうた
      8枚目:例の三日間は何度でも煎じてもいい。
      11枚目:例の三日間は何度でも煎じてもいい。
      18枚目:三題噺に挑戦。結構お気に入り。
      20枚目:ハッピーバースデーちどり。
      23枚目:子どもがいる未来IF。さべーじ。
      27枚目:たこパ。書いてた当時も今も、自分でかなり解釈違いおこしているのですが、こういうやり取りができるくらいの、日常もあってもいいのかなと。
      31枚目:タイトルがお気に入り。
      33枚目:金沢のおじいちゃんとおばさんが娘(妹)と孫(姪)に向ける感情が好き。
      ナガツキ9
    • He's home.PIXIVからの移行。

      #宗かな
      ナガツキ9
    • 140字シカテマ詰め合わせ #シカテマ

      PIXIVからの移行。
      元は二回に分けて投稿されていましたが、一つにまとめました。
      読み返して正直このまま消したいほど恥ずかしいことこの上ないものもあるのですが、当時楽しんでいただけた方、もしかしたらこれから楽しんでいただけるかもしれない方のため、残しておきます。

      設定・時間系列はバラバラ。アンハッピーエンド有。夜なお話も有。1個だけサイいの有。
      ナガツキ9
    • 10宗かなSSまとめ1 #宗かな

      ツイッターに上げていた画像1枚SSまとめ。
      時系列バラバラ。SBM後は大体めがっさイチャついてる。

      1枚目:SBM後。ゲーム「戦うフー・デアーズ・ウィンズ」ネタ。
      2枚目:浮かれポンチ介。
      3枚目:ITBあたり。
      4枚目:甘えた介。
      5枚目:暗闇のペイシェントとOMO
      6枚目:私の中で、金沢のおじいちゃんは孫を溺愛してることになっている。
      7枚目:スーツ介を目の前で描いていただいたときに書きました。
      8枚目:落書きを描くように小説のスケッチってできないかな、と書きました。
      9枚目:あっついあっつい。
      10枚目:捨てるもの。まだ捨ててないもの。捨てるつもりで残るもの。
      ナガツキ9
    • tiredpixivからの移行。

      #堀鹿
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