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    題名未定(未完)庭師は何を口遊む 現行未通過✖
    完成したら整えます
    https://iachara.com/view/3041097
    https://iachara.com/view/3041126
     パタ、と何かが倒れる音がした。ちょうど、文庫本サイズくらいのものが倒れる音だと直感が告げた。
     緊急の書類との対戦舞台としていたノートパソコンから顔を上げ、辺りを見渡してみる。多少だが、普段よりも開いている窓と目が合った。今日は誰が開けたんだっけな、と一瞬思案するが、思い出せずに諦めた。確かにちょっと肌寒いかもしれない。少し閉めよう、と立ち上がると、関節がパキ、と音を立てる。気付かないうちに数時間が経っていたらしい。時計を視界の内に入れ、八王子は内心驚いた。緊急性の塊が舞い込んでくる時に限って他の班員が出勤時から不在だったり、出払って帰ってこなかったりするものだから、全く気が付かなかった。他の人がいることの些細な重要性を噛み締めた。本当に噛み締めることができれば空腹の腹に溜まるのになあ、とぼんやりと考える。
     カララ、と窓を普段通りにまで戻し、全員のデスクをざっと眺めた。今日も成瀬さんのデスクには筋骨隆々の好青年の毎日カレンダーが置いてあるし、いっさんのデスクにはいかにも多趣味といった風に色々なものが細々と置いてある。毎日カレンダーが倒れたのではないかと考えたが、筋骨隆々の好青年は風に当たってもなお倒れてはいなかった。ただの紙だというのに、写している好青年の魂でも宿しているんだろうか。つくづく不可思議に思えた。
     不図チーフのデスクを見遣ると、伏せてある写真立てが目に入った。以前成瀬さんと見つけた写真には合わない大きさだと直感する。ああ、これだろう。それにしたって、チーフはいつの間にこんなものを置いていたのだろうか。根拠のない確信と少しばかりの興味を胸に、八王子は写真立てに手を伸ばした。
    「……八王子」
    「はいっ!?」
     見事に飛び上がった。その様は宛ら猫のようであった。町田はそう思った。八王子当人はそんなことを思われているとはつゆ知らず、驚愕を映す心拍音で頭が埋め尽くされていた。
    「い、いつの間に……」
    「つい先程だ」
    「理解が早くて助かります」
     昼食を済ませたから戻ってきたのだが、と町田は言った。ああ、昼食。すっかり食べ損ねたものに思いを馳せていると、ぐう、と腹の虫が元気よく鳴いた。午後に入って早二時間半が経とうとしている。腹の虫が元気になるのには丁度いい時間である。八王子は穴があったら入りたいと心の底から願った。
     頼むから何も聞かないでくれ、と冀いながら我らがチーフの顔をおずおずと見る。町田は、というと、それはそれは可哀想なものを憐れむかのような穏やかな目で八王子を眺めていた。聞かないでくれそうで全く構わないんだけど、それはそれで辛いものがある。八王子は内心そう独り言ちた。
    「……焼鮭と明太子は好きか」
     何とも言えない気持ちになっていた八王子に投げかけられたのは、脈絡のない町田からの問いかけだった。当たり前だが、八王子は面食らった。面食らいながらも、どうやらおにぎりの具について聞かれているらしいということを直感した。
    「あ、え? おにぎりの具の話ですか?」
    「ああ」
    「だったらどっちも好きですね。塩が一番好きですけど」
    「そうか、良かった」
     あ、もしかしたらくれるのかな。チーフ、運よく買ってきていて僕にくれたりおごってくれたりしないかな。細やかな期待と数年間の経験が告げる勘は、そう述べていた。
     実際、その希望はその通りに叶えられた。夜食用に買ってきたものだが、と町田は左手に持っていた小ぶりのビニール袋を八王子の机に置いた。
    「そんなに多くはないが、夜までもつだろう。今、コーヒーを淹れるが、茶の方がいいか」
    疲労と空腹を併せていた八王子には町田の気遣いが非常に喜ばしいものとできる。僕はコーヒーの方が好きです、と答えた声は嬉しさを映し出し、これ以上なく弾んでいた。彼には、ビニール袋内の焼鮭おにぎりと明太子おにぎりが不意に差し込んできた光明に思えていた。
     アルコールを含んだウェットティッシュで手を拭き、ピリピリと明太子の方のフィルムを剥く。今日は綺麗に剥けて嬉しくなった。コト、という音で、コーヒーがやってきたのだと理解する。いつもの薄紫色のマグカップが温かいコーヒーを伴って机に置かれていた。マグカップにプリントされた黒猫も、今日はどことなく嬉しそうに見えた。そんな風に、包み隠しもせずにウキウキしている八王子を微笑ましく眺め、町田もコーヒーを啜った。
     ふ、と机に伏せられた写真立てに目が留まる。この写真立ては倒れたものではなく、自分で倒したものだ。とはいえ、ずっと倒し続けるのも如何なものだろうか、と。写真立てを立てなおそうと手を伸ばすが、触れることはなかった。差し出した右手が所在なさげに空を切る。否、意図的に、無を握った。
     怖いのだ。それに触れるのが、怖いのだ。町田自身、幾度となく自らを押し殺してきた自覚はあるし、それによって何度も事件の早期解決に繋げてきた。自分を知るものは皆、口裏を合わせたかのように自分が善人であると言う。町田知暖という男が善人であるが故に、平気で自我を殺し、より多くを救う「正義」を確実に選び取ることができるのだ、と。
     果たしてそんなものだろうか、と彼自身は思う。町田にだって触れたくないものはあるし、触れられたくないものもある。それを静置し、何もなかったかのように振る舞うことが、果たして自らを押し殺すとでも言うのだろうか。彼は、自分の評価に対してどことなく違和感を抱いていた。
     今だって、ただ一枚の写真に触れることすら意図的に避けているというのに。
    机上で伏している写真立てには、相模原の墓の写真が収められている。ただ、それだけだ。決して彼女が生存していたころの写真ではないし、墓以外に誰かが写っているというわけでもない。ただそんな一枚だと言うのに。それすらも自ら進んでの接触を拒む己が、真に自らの評価に似合っているのだろうか。彼には最早分からなかった。

    「まぁた吸ってるんすか? 禁煙するって言ってませんでしたっけ?」
    「それはお前が酔って言っただけだ。特にする気はない」
    「ちぇっ、僕としては早く禁煙して欲しいんすけど」
     今日も、煙草の重い苦みは普段通りに体を磨り潰していく。町田はと言えばこの感触を好み、そうして縋っていた。彼は以前より、それこそ警察官として駆け出しであった頃から煙草を好んでいた。警察官としての地位が高くなっていくにつれて、煙草を吸う必要がなくなったとぼんやりと感じ始めたために一度は禁煙をしていたのだが、庭師事件を境に以前よりも多くの量を吸うようになっていた。そのことは当然、彼自身も自覚していることである。
     相模原涼という女性は、まさに町田の心の拠り所であった。そのことに気付いたのは彼女を喪ってからであり、しかも煙草の消費量によって気付かされたというのは、とんだ笑い話だ。

     ……。
    「知暖くん、今日はどこに行くの?」
     君はどこに行きたい、と尋ね返してその名を呼ぶ。彼女はその対応に「君はいつもそうなんだから」と少し呆れたように笑った。

    未完
    睢水 Link Message Mute
    2023/11/24 10:48:08

    題名未定(未完)

    手が止まってしまった。

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