束の間の手持ち無沙汰に口をすぼめて、なぞるあてのない旋律を吹いてみたりする。
と、急に間は埋まるし悪くもなるしで対面したのは我が頼もしくも危ういアヴェンジャー、アントニオ・サリエリ。
「死に際の雛鳥でも抱えているのかと」
なんて白けた赤い目で見られたら、こちらの顔のほうが赤く染まるわ。私がすぼめた口を尖らしていけば、サリエリは黙ったまま鍵盤を出現させてほろほろと何かを奏で始めた。
「? ……あ、」
訝しみつつ耳を傾けていたら気付く。さっきの、と小さく呟いてしまえばサリエリがフッと笑う吐息が聴こえた。
「破綻したように深淵の縁から落ちたかと思えば、思い出したように音階と拍子を掴む。貴様の命令を思い出させる運びだ」
「……ちょっと聞き捨てならない」
結局頬まで膨らませてムスッと顔になってしまった私を見て、サリエリは演奏を止めると外装を解いた。
「では、公演の幕を開こうか。マスター」
戦場へのエスコートを買って出る死神の招き手。
「……お手柔らかに」
と右手を重ねて、私の唇は懲りもせず有象無象の旋律を奏するのだった。