夢ワンライログ「雨宿りさせてあげる」※SS(モノノ怪:薬売り) 照る日輪に地表は熱立って、路行く者を苛む。先の景色は揺らめいて、いや、この視界が揺らめいて? と、
名前は瞼の上に手陰を架けた。
「薬売りや、彼処に茶屋が見えるのは蜃気楼か?」
「……そう、ですね」
名前も然る事乍ら、その隣を連れ添う男の格好は確実にこの気候に不釣り合いであった。しかし汗ひとつ溢さずに涼しげな表情で応えた男に、
名前は「嘘じゃな」と目を眇めつつ言う。
「この日照りまっっったく敵わん!
私は干物ではないのだ、ひとやすみはその都度でとおやすみぐらい必要なんじゃ!」
「ハイ、ハイ」
吠え出す
名前へと手扇もとい手払いで済まし、先へと進もうとする男。その背を過熱し湯気すら出そうなにらみ顔で
名前は追う。
「嗚呼もうお前という男は! 色目を大安売りするくせに
私への愛想が品切れしておる……! もう、もー!」
「……程々にしないと、本当に干上がっちまうぜ?」
進路を塞ぐように地団駄を踏み始めた
名前の頭をぽんぽんと撫で、男はどこからともなく一枚の手ぬぐいを取り出すと慣れた手付きで
名前の頭へと巻き結い、自身と同じような頭巾を完成させた。
「……こんな程度では絆されぬ」
唇を尖らせながら満更でもない表情で照れる
名前に微笑みを溢す男。
――と、
名前の表情が変わる。
固まったように目を見開き、揺らぐ路の先へと振り向く
名前。その
名前の視線を追おうとした男の耳に届く、『カチャリ』と鳴る聴き慣れた音。
「――ふふ、ひとやすみではなく一仕事やってくるようじゃな」
目線を路の先から反らさずにそう呟く
名前は先程と打って変わり、非常に愉快といった表情を浮かべ口角を上げていた。
「実に良い機会じゃ薬売り。この忌々しい太陽を一時隠して、雨宿りと洒落込もうではないか」
「――雨宿りのお仲間は」
「モノノ怪、じゃな」
にせなにせな