雨が降ればいいのに
雨が降ればいいのに。
そう思ってしまう私は子供っぽいなぁと自嘲気味に笑ってしまう。明日は雨かもしれないよ、とハルお兄様が自分の髪をいじりながら言っていたのを思い出す。ぼうっと窓の外を眺めている私は、どんな顔をしているんだろう。窓に映る自分の顔には焦点が合わない。雨ひとつ降っていない星空ばかりを見ていた。
「あ、フローラ。そろそろ……帰るね」
私がぼうっとしていたからか、メーメットがいつも以上に遠慮がちに声をかけてくれた。もうそんな時間だ、きっと夕刻の鐘が鳴る。
別に今日はなにか特別なことをしたわけではない。二人で他愛もない話をして、私の家で――お兄様がいなかったから――食事をしただけ。それでも私にとってメーメットと過ごす時間は特別に愛おしい。けれど、そんな時間ももう終わってしまう。
「ええ……気をつけてね」
「うん……」
メーメットが何を考えているのか、私にはわからない。私はメーメットを笑って送り出す。もう少しいっしょにいたいけれど仕方がない。夕刻の鐘が鳴ったら一気に治安も悪くなるし、メーメットの家の夕食に彼が間に合わなくなってしまうだろうから。
玄関先で見送って、彼の背中が見えなくなってから小さくため息をついた。
やっぱり少し、寂しい。
子供っぽいなぁ私、とまた自嘲気味に笑う。
「明日から仕事だけど、運が良ければ見回り中に会えるわ。どちらにせよ仕事が終われば会えるもの!」
わざと声を出して、自分の両頬をぱんと叩く。
大丈夫、明日も頑張れる。 【Fin.】