「ほら、フローラ。あのへんが……綺麗だと、思う」
「本当、とても綺麗だわ」
メーメットはフローラの言葉にぎこちなく微笑む。だ、だよね。よかったなどと多少挙動不審になりながらも受け答える。
二人は城下から離れた場所へ休日を利用して馬車でやってきた。
「ねぇ、メーメット。おなか空いていない?」
フローラがそう問かけると、メーメットはぎこちなくお腹が空いているという旨を伝えた。
「ランチ、作って持ってきたの!」
フローラは持ってきたバスケットを開けてメーメットに見せる。メーメットはすごいね、と素直に喜び褒めてくれた。
「これ、はい!」
フローラはサンドイッチを手で掴み、メーメットの口元に持っていく。すると、明らかに困った顔をしてメーメットが笑った。
「フローラ……あの、自分で……食べられる……から。だから」
「もう、誰も見てないわ。城下からもずっと遠いのよ?」
メーメットの言葉にフローラは言葉をかぶせた。メーメットは恋人らしい行動を嫌がるから、普段なら絶対に断られる自信がある。
しかし、今日は違う。城下から離れたこの場所なら知り合いの誰かに会うことはないだろう。
有無を言わせぬ彼女の強引さにメーメットも折れたのか、何度か周囲を見渡して口を開けた。フローラは満足そうに微笑む。
「たまには恋人らしいことを、外でするのもいいと思わない?」
フローラがそう言うと、メーメットはそっと顔を背ける。フローラが彼の顔を覗きこもうとすると、またメーメットはくるりと向きを変えた。
どうしても顔を見られたくないらしい。
「……うん」
彼の小さなつぶやきは風の音に消されてフローラには聞こえなかったが、フローラは嬉しそうに笑っていた。