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    無題(形裕) おれは男もイケるクチだ。それはおれの取り巻きであるレイコとアケミとヨシエも知っているし、チームでも知ってるやつらはちらほらいる。おれも隠すのは面倒なので訊かれたらそう答える。面白がって近寄ってくるやつもいれば、何を勘違いしてんのかおれを避けるやつもいる。そんなことはどうでもいいんだ、おれを受け入れてくれたやつと仲良くすりゃあ良いだけの話なんだからな。
     どういう形であれ、好意を向けてきた相手とは女とも男とも恋人っぽい関係を築いたことが数度ある。お互いに本気じゃないからそう長くは続かねぇが、相手の体温を直に感じてる時っつーのは心地が良いもんだぜ。おれの美しい外見にマジに惚れ込むやつもいたが、そういうやつはゴメンナサイっつってすぐに関係を切っちまうのが良い。痴情のもつれなんて面倒なことは避けて通るべきだ。痛い目見るのは双方なんだからな。
     しかしまぁ、こういうこともたまにある。

     なぁいいだろ、俺と寄りを戻そうぜ、そろそろ俺が恋しくなってきただろ?
     そういう類の言葉をべらべら喋りながらおれの隣を歩くのは、おれとは別のチームに所属している男だ。年齢は知らないがとっくに成人している。
     おれはそれを聞き流しながら、最低限の勉強道具とバイク雑誌が入ったペラい鞄を抱えて歩いている。大の大人がよぉ、下校途中の高校生捕まえてねちねち付きまとうのはかっこ悪いぜ、なぁ、あんたのことを言ってんだぜ、とっとと失せな。そう言って早々にサヨナラしたいところだが、面倒なことにこの男はすぐ手が出るタイプなのである。ケンカもシモも。殴り合いのケンカになるだけならまだ良い。おれ達2人で完結するからな。
     だが完結しようがしまいが、それはおそらくチーム同士の友好的な交流ってやつに溝が生じちまうわけだ。私情でチームに迷惑をかけるわけにはいかないからトラブルは極力避けたい。
     そうした考えがこの男と関係を持っちまったあの時のおれの中にもあって、男はそれを知ってか知らずか下手に出ている年下のおれで好き勝手に遊ぶようになっていった。双方のチームメイトの手助けもあって、事態は10日と立たずにおれと男が別れる(おれは付き合っていたつもりは無かったが)ことで終止符を打った。
     この男との問題は結果的にチームのみんなに迷惑がかかるってんで、おれはどうしたものか考えあぐね、今現在、結論を出せずにいるわけだ。
     おれがだんまりを決め込んでいるので、男はついに我慢ならずといった様子でおれの手首を掴んで捻り上げ、おれの足を止めさせた。強引に体の向きを変えられて、男の姿が眼中に入る。相変わらず体だけはデカい男だ。その図体と威圧的な態度でどれだけの女や野郎がヒデェ目にあったんだろうな。良い気になってんじゃねぇぞと男ががなる。良い気になってんのはどっちなんだ、大声上げりゃあ誰でも言うこと聞くと思ってんのか。そう言う意味を込めて睨んでやると、男は更に顔を近づけてガンくれてきた。
     しかしこの場にレイコ達がいなくて良かった。新台が出たとかでホームルームが終わって早々におれに声をかけて駆け足で下校していなければ、この場に居合わせたあいつらはおれの盾になろうとするだろう。ドスをチラつかせるだけならまだ良いが、この男を相手に本格的にケンカになっちまうのはヤバイ。あいつらの可愛い顔に傷が付いちまうのは悲しいぜ。
     さてどうするべきか。おれは今、駅前の商店街にいる。この男を連れて自宅まで帰れるわけがねぇから、ぶらぶら歩いてどうにか男を穏便に引き離す手段を考えていたんだが、捕まっちまってはもう穏便になんて言ってられない。しかしおれはあまりケンカが得意なほうではないし(大型バイクに乗るためと、自身の美しさを保つために必要な筋肉しか付けてない)、殴られるのももちろん嫌だし、うっかり殴られて気絶なんてしちまったらどうなることやら。考えるだけでゾッとする。しかたねぇ、これだけは本当に嫌だったが、ポリ公の世話になるしかねぇな。駅前なら交番があるはずだ。いつもはおれらを追い回す厄介なやつらでも、市民の危険とあっちゃあ仲介にくらい入ってくれるだろ。
    「おい」
     そう男に声をかけたのはおれではなかった。
     おれのすぐ後ろから聞こえた、聞き覚えのある低い声。振り返ると、そりゃあ聞いたことあるはずだ、同じクラスの男子生徒が立っていた。ぴっちりとセットされた金髪に、学ランが不自然に見えるほどのガタイの良さと、耳元に揺れる特徴的なベクトルマークのピアス。
     虹村形兆。
     なんだぁ、てめぇは。男はおれの腕を掴んだまま、挑発的に虹村を見やる。
     おれは予想外な人物の登場にぽかんと口を開けていた。なにせ同じクラスだと言っても顔と名前を知っている程度の知り合いだった。虹村が転校生として教室に入ってきたときにおれが声をかけて以来、会話なんかしていない。その短ランいかしてんな、前の学校の制服か? そんなことを訊ねた記憶がある。虹村はああとかうんとか曖昧な返事だけをしてさっさとあてがわれた席に着いてしまっていて、こいつはあまり他人と馴れ合わない人種なのだな、としかその時のおれは思っていなかった。
    「邪魔だ、どけ」
     虹村が淡々と言う。男に対して喧嘩を挑むだとかそういう攻撃的な雰囲気は虹村には無い。どちらかというと道端の猫を脚でしっしと追い払うような、お前そのものには興味ありません、みたいな素っ気ない目で男を見ている。苛立っている男の顔は赤いのに、虹村の顔色は勝機があると最初からわかっているかのように不思議と変わらない。
     しかし邪魔とは言葉選びが微妙だな。ここは夕方の商店街、社会人の帰宅ラッシュにはまだ早く、人通りはそこそこ。道なら十分空いている。男も揚げ足を取った。
    「なら道の向こうを通りな。俺らに構ってんじゃあねぇぜ」
    「いいや、邪魔なのはお前だけだ。こいつの前からどけと言っているんだ」
     そう言うや否や、虹村はおれの腕を掴んでいた男の手首をがっちりと掴んだ。すると体格は虹村とさほど差がないはずの男が力負けして、ぎゃあと短い悲鳴を上げておれの腕を放す。
     おれを庇うかのように通学鞄を持っている虹村の左手が動き、おれはそれに従って男から数歩離れる。虹村は男の手首を掴んだまま大きく放物線を描くように右腕を移動させ、男がうっと声を漏らして体を仰け反らせた瞬間に足払いをかける。支えを無くした男がレンガ畳みの歩道に尻餅をついたと同時に、虹村の足が男の腹を力一杯踏みつけた。ぐええ、なんてカエルのような声を上げた男が虹村の脚を退かそうと足首を掴んだが、もう一度体重をかけられると指の力も緩み、その隙に虹村は男の上からさっと離れる。
     そのまま虹村は、踏まれた腹を押さえながらうずくまる男には目もくれず、当事者のくせに流れるような展開について行けずに置いてけぼりになっているおれの手をひいて、早足で歩き出した。

     商店街からふたつ向こうの通りまで移動した。賑やかな大通りとは違ってこちらは静かなもんだ。おれの心臓は緊張だか焦りだか恐怖だかでどきどきしっ放しだったが、ここでようやく落ち着けたようで自然と安堵の溜息を吐く。それを聞いてかそうでないのか、おれの手首を掴んでいた虹村の手の力が緩んだ。
     そこで初めて気付いた。虹村の右手の甲に赤い色が派手に散っている。
     おれは離れていく虹村の手を咄嗟に掴んだが、驚いた虹村が振り向きざまにそれを振り解いた。結構な勢いだ、こっちも驚いた。
    「待て待て、待てって。あんた怪我してんじゃあねぇのか」
    「怪我? そんなもんしてねぇ」
    「ばか、気付いてないのかよ。ほら……」
     再び虹村の右手を掴んで甲を見る。赤い飛沫が点々と散っていた。どう見てもそれは付いたばかりの血だ。しかしそれは本当に飛沫だけで、傷ではない。あれ?と首を傾げる。
    「なんだこりゃ」
    「おい、もう離せ」
    「だから待てってば。礼ぐらいさせろ」
     今度は振り払うことはなかったが、おれに遠慮でもしているのか居心地が悪そうにしている虹村の手を取ったまま、おれは持っていた通学鞄を脇にはさんで固定し、ハンカチを取り出すためにポケットに手を突っ込んだ。しかし目的のものは入っておらず、そこで昼間アケミに貸してそのままだったことを思い出す。しょうがねぇな、と首元のスカーフを解いた。鞄から取り出したペットボトルのミネラルウォーターをスカーフに染み込ませて汚れを拭い取る。固まりかけた血は水気にふやかされ、数度撫でるだけで綺麗に落ちた。
    「それ」
     おとなしく終わるのを待っていた虹村が、さっきと違って少々困惑したような声色でおれに話しかける。それってどれだ。顔を上げると、虹村の視線はおれの手元にあるスカーフに向けられていた。黒い糸で刺繍がしてある白いスカーフには、今は拭き取った赤色が追加されている。おれの持ち物を汚してしまったとでも思ってんのかな。
    「気にしなくて良いぜ。面倒事から助けてもらっちまったからなぁ」
     ありがとな。そう言って笑って見せたが、虹村はまだ何かを納得していない様子で口を開く。
    「大事なもんじゃあねぇのか」
    「え?」
    「いつもしてるだろ」
    「そりゃあ、まぁ、してるけどよ」
     華やかに改造した学生服の首元に、スカーフはいつもあった。ゆらゆら揺れるリボン結びが白い蝶のようで気に入っていた。最初は無地だったのが、取り巻きの女達が面白がって、おれの顎にあるタトゥーに合わせて単語と模様を刺繍した。それでますますお気に入りになったのだ。あいつらイッパシのスケバンのくせに刺繍なんて可愛らしいことしやがるんだぜ、ほんと、愛おしいったらないぜ。あんまり気に入っちまったもんで、予備にと持っていたもう1枚の白いスカーフにも同じ刺繍を頼んだくらいだ。
     虹村は「いつも」と言った。身なりの派手なおれが目に付くのはわかるが、虹村にはいつもおれの姿が目に付いてんのか?
    「あのさぁ」
     質問しようとして一瞬、礼を言ってとっととさよならすりゃあいいのではとためらったが、切り出してしまったものはしょうがないので言うことにする。
    「なんで助けてくれた? 無視したって良かったんだぜ」
    「てめぇは良くなかったんだろうが」
    「そりゃあな。でもあんたはおれのこと、なんとも思っちゃいねぇんだろ」
    「考えるより先に体が動いちまったんだから、しょうがねぇだろうが」
     おお、これは。なかなかかっこいいセリフを貰っちまったな。ちょっと感動してるおれの前で虹村は苦虫を噛み潰したような顔をしている。本当に不本意だったらしい。思ったよりわかりやすい奴だったんだな、虹村形兆。
     転校初日、この世の全てが敵だと言わんばかりに眉間にしわを寄せていたクラスメイトが、今こうしていろんな表情を見せているのが何だかおかしくなって、たまらず吹き出してしまった。ますます怪訝な顔をした虹村に、わるいわるい、と形だけの謝罪をしておく。
    「そういうのは可愛い女に言ってやれよ、色男さんよ」
     笑い出してしまいそうになるのを堪えながら言う。にやける口元に空いた手を添えていたら、もう片手に持ったままの汚れたスカーフを虹村が引ったくるように奪っていった。あ、と思った頃には、スカーフは虹村のボンタンのポケットにしまわれてしまっていた。
    「汚したのはおれだ。洗って返す」
    「律儀なやつ」
    「なんとでも言え」
     ふん、と不機嫌そうに鼻を鳴らした形兆の前で、おれはとうとう堪えきれずに笑い出してしまった。

     虹村の手の甲に散った血飛沫の出処は、随分後になってから知ることとなった。
     バイク事故を起こしたおれにとどめを刺さんとばかりに射抜かれた金色の矢は、結果的におれを生かし、奇妙な縁を作ってくれた。それはおれが人質に取った露伴先生だったり、おれをめっためたにぶちのめした仗助だったり、おれが自分の安全と引き換えに助け出した康一だったり。そして、仗助と康一の友人である億泰だったり。
     放課後、通りがよく見えるカフェのテラス席で紅茶を飲んでいると、通りかかった仗助が億泰を紹介してきた。自己紹介する億泰が口にする苗字に覚えがありまくっていておれは目を丸くする。聞けばいきなり死んじまったクラスメイト、虹村形兆の弟だって言うじゃあないか。似てないな、弟。
     同じクラスだったんだぜ、別にダチってわけじゃあなかったけどよ。億泰はおれの言葉にへえとかほおとか、強面に似合わず間の抜けた返事をしていたが、突然あっと大声をあげた。隣に立っていた仗助がなんだどうしたとかけた声を聞いているのかいないのか、億泰は慌てた様子でおれにここで待っているように告げ、すぐ戻ってくるからよォ~!と言いながらばたばたとガニ股で駆けて行ってしまった。わけもわからずぽつんと取り残された仗助に相席を促したのは、億泰の姿がすっかり見えなくなった頃だった。
     仗助が注文したアイスコーヒーの氷が溶けきってしまいそうになる頃、去って行ったときと同じような慌て様で億泰が戻ってきた。息を切らせていたので水をすすめようとしたが、それより先に億泰が拳をおれに突き付けた。あまりに勢いが良すぎて殴られるのかと思ったが、強く握られた何かを手渡そうとしただけだったようで安心した。億泰が握っているそれは、白くて小さな紙袋。
    「兄貴の遺品だ。どうしてこんなもんを持ってたのか不思議だったけど、やっとわかったぜ」
     これ、あんたのだろ。そう言った汗だくの億泰が真面目な顔をしてよこしてきたそれを、おれはそっと受け取った。軽くて、億泰が握っていたせいでシワになってしまった紙袋。開けると中には確かに、おれのものが入っていた。
     洗って返すと言われたまま結局帰ってこなかった、刺繍入りの白いスカーフ。
     手に取ったスカーフをじっと見ているおれに、億泰が言う。形兆はおれたちと同じスタンド使いだったこと、弓と矢を使ってスタンド使いを作っていたこと、別のやつに奪われたその矢でおれが射抜かれたこと。形兆はスタンドに殺されたこと。無駄なものを一切置かない形兆の部屋に、なぜかこの紙袋があったこと。
     こんな洒落たものを兄貴が持っているわけないから、誰か別のやつのもんだとは思ってた。あんたが今首に巻いているやつと全く同じだったのをさっき思い出したんだ。渡せて良かったぜ~、と億泰は大きな安堵のため息を吐く。
    「でもよぉ、なんで形兆兄貴の部屋に裕也の私物があんだよ?」
    「おお、そりゃあおれも聞きたいぜ。裕也サン、兄貴とはダチじゃあなかったんだろ?」
    「あ、ああ、ダチじゃあなかった」
     成り行きでトラブルを解決してもらって、そんで成り行きでおれがこれを虹村に預けることになって、それだけだ。たった数秒の説明で事足りるエピソードに、あの形兆が人助け?とふたり揃って首を傾げていた。
     あの血飛沫はスタンドで攻撃された男のものだったのだ、きっと。

    「帰ってこないのはスカーフだけで十分だったのになぁ」
     丁寧に洗いあげられたスカーフにはあの時付いたシミなどひとつも残っていなくて、おれは柄にもなく虚しさを感じていた。
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    2019/05/05 15:47:05

    無題(形裕)

    虹村形兆×噴上裕也(未満)。始まりもせずに終わる。裕ちゃん突然のカミングアウト注意。

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