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    からの星にひとりぼっち 突然現れた男は「ベジット」と名乗った。
     第7宇宙の界王神が所持するポタラを両耳に付け、ふたつの魂が重なった戦士。剣を振るうサイヤ人の青年を遥かに超えた強さで、神を殺し人類を絶滅させたブラックをものの数秒で易々と捩じ伏せた。瀕死の状態から回復すると戦闘力が大きく上昇するサイヤ人の特性をもってしてもベジットの桁違いな強さには程遠く、そもそも受けた攻撃のダメージに回復の速度が追いつかない。ブラックはほとんど反撃出来ないまま地に身を横たえ、目前に迫る己の死を確実に感じ取っていた。
     しかしベジットは、彼にとどめをさすことはなかった。



     人類がいなくとも惑星に溢れる生命のサイクルは変わらない。産まれ、生き、死に、また産まれ……、絶えず循環している。しかし神も人間も環の中には元々存在しない。神は世界を管理するために環の外に居なければならないが、人間は神から知恵を授かったことで環を飛び出した。
     人間は環を破壊する害獣であるからこそ神の手で絶滅させなければならない。――少なくともザマスはそう考えていた。
     人間の身体を持つブラックが存在する限り、人間の完全な排除は完了されない。人間ゼロ計画は初めから破綻しているとわかっていながら、宇宙唯一の界王神となったザマスは人間が絶滅した世界でブラックを生かした。役目を果たして自由の身となったブラックに生死の選択を委ね、片方のポタラをブラックの左耳に残したまま界王神界へと帰っていった。
     残されたブラックは自分で命を絶つことが出来ず、肉体の寿命が尽きる時を待つしかなかった。

     そんなブラックの前にベジットが現れた。
     悪足掻きをする人類の生き残りかと思われたがそうではなかった。ベジットも自身が置かれている状況を理解しきれていなかったらしい。戦闘を仕掛けたブラックを動けなくなるまで叩きのめした後、一度は西の都を去った。そして幾月か経って再びブラックの前に現れたベジットは、つまらなさそうな顔で後ろ頭を掻いて「マジでお前しか残ってないんだな」とわざとらしいため息をついた。
    「私を殺さないのか」
     ブラックは言った。
     ベジットにとどめをさされなかったことが、ブラックはずっと引っかかっていた。ブラックは全ての人間にとって最恐最悪の脅威であったのに、この人間からは憎悪や恐怖、殺気はおろか警戒心さえ伝わってこない。強さ故の自信と余裕は、この状況ではいささか異常だ。
     ベジットはブラックの問いに、片眉をぴんと跳ね上げて答えた。
    「殺す理由がねぇし、オレが戦う意味もない。
     あのときはお前が向かって来たから相手してやっただけ」
     でもさ。とベジットは続ける。
    「お前、退屈してるだろ?
     こんな廃墟でひとりぼっち。ただ無意味に時間を潰してるだけだなんてもったいないぜ。
     本当はお前だってオレと闘いたいはずだ。お前の身体はサイヤ人なんだからな」
     お前、と白い手袋に覆われたベジットの指がブラックを指す。
     ベジットが言うように、ブラックの心境に反してサイヤ人の細胞は戦闘による刺激を求めて騒いでいた。計画が完了してからは大人しいものだったのに、ベジットとの戦闘があってから全く落ち着かなくなってしまったのだ。武者震いのようにざわつく身体を咎めてブラックは拳を強く握り、「サイヤ人め」と恨めしく呟いた。噛み締めた歯が音を立て、ブラックの頭蓋に響く。
    「我慢してないで、オレと楽しいことしようぜ」
     ブラックの反応を見たベジットは無邪気に笑うと、ぱちんとウインクをひとつ飛ばした。拳を構えて腰を落とし、戦闘の態勢に入ったベジットの意に反するようにブラックは伸ばした背筋を崩すことはなかったが、ベジットにつられて自身の気が高まり、周囲の空気が揺れているのをブラックは肌で感じ取っていた。

     結果的に、これは本格的な戦闘には発展しなかった。
     というのもベジットはブラックを本気にさせつつ軽傷を負わせる程度の攻撃だけを続け、確実に体力のみを削っていったからだ。ブラックは闘牛士が振るうマントに突っ込む闘牛のように攻撃をひらひらとかわされただけだった。これではサイヤ人の特性による戦闘力の上昇はあまり期待できないだろう。高い戦闘力を持つベジットはそういったギリギリのラインを見極めるスキルも高かったらしい。
     純粋な疲労によって指一本動かせずに仰向けで倒れ込んだブラックの体を跨ぐように立ったベジットが、ブラックの顔をひょいと覗き込む。
    「お疲れさん! 楽しかっただろ?」
     忌々しいほどに爽快な顔で笑ってみせるベジットに負け惜しみを言うほどの気力も残っていない。酸素を求めて激しく呼吸する喉は痛みを覚えるほどカラカラに乾いていて、声を発したとしても正しい言葉にはならなかっただろう。
     悔し紛れにベジットにギロリと鋭い視線をくれたものの、ブラックが戦闘中に高揚していたのは紛れもない事実であった。

     それから幾度となくブラックはベジットと戦闘を行ったが、必ずブラックの体力切れで終了した。廃墟に拳を打ち合う打撃音が響き、気弾が地面をえぐっても、血飛沫がコンクリートを汚すことは一度もなかった。



     ぐったりと四肢を投げ出して荒い呼吸を整えようとしているブラックの横に、ベジットが降り立つ気配がした。
     いつも適当に別れの挨拶を二言ほどブラックに投げかけてとっとと立ち去っていたのに、今回はなかなか声がかからない。気怠げにまぶたを開いたブラックが眼球だけを動かしてベジットを見ると、ベジットはブラックの隣にすとんと座り込んだところであった。長時間の戦闘を行った後とは思えないほどの軽々しい動作にブラックは若干の苛立ちを覚えたが、それよりもこの場からベジットが去らないことのほうが気になった。
     ベジットは座ったまま仰向けになったブラックの顔を覗き込み、滴る汗で濡れて額に張り付くブラックの前髪を指先でそっと払った。
     ブラックはぎくりと体を強張らせた。拳は数え切らないほど交えたが、真綿で撫でられるような接触は今まで一度も無かった。この行動は己の理解を超えている。振り払おうにも、体力を消耗しきったブラックの身体はどの部位も全く動かない。ベジットの顔をじっと見つめて、静かに警戒する他なかった。
     当のベジットはというとその行動に何か意図があったわけではない。ブラックの額にぺたぺたと張り付いた黒髪が鬱陶しく見えたから除けてやっただけだ。ブラックが自身の行動に困惑していたのはわかっていたが、中途半端に止めてはどうにもスッキリしないだろうし、と中断しなかった。ベジットの脳内に残る孫悟空の記憶が、発熱に苦しんで寝込む家族の姿を映し出していたものの、それが行動の引き金になったのか、行動したから思い出したのかはわからない。
     ブラックの目に映るベジットの表情には戦闘中の鋭さはどこにも見えない。表情から正しく感情を分析できる知識は、今のブラックには備わっていなかった。
    「じゃあ、またな」
     ベジットはブラックの前髪を整え終えると、衣擦れの音と共に立ち上がり、地面をひと蹴りして晴天の空へと姿を消した。

     ――人間は不可解だ。
     ブラックは疲れ切った頭でどうにかそれだけの結論を出した。
     ほっとため息を吐いたと同時に強張っていた体の力が抜ける。心地良い脱力感を感じながらそのまま眠りにつこうと目を閉じた。体にまとわりつく汗と冷たいコンクリートが火照った身体から熱を奪っていく。細胞に酸素を運ぶために忙しなく鼓動する心臓の音が、その時はやけに煩わしく感じた。




    ◆◆◆
    オチの付けどころを見失ってしまった。
    Mz Link Message Mute
    2019/05/01 9:24:18

    からの星にひとりぼっち

    ##ジトロゼ
    ジトロゼ未満。ふたりぼっちのちょっと前をブラック視点で。短い。
    2019-04-15

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