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    キノロンパ 第一章「後ろの正面 逆さまの人」非日常編 捜査 その現場を見て、誰もが言葉を失っている。目を見開いて震えている子、泣いている子、険しい顔をしている人、微笑んでいる人、無表情の人……。みんな、この光景に見入っていた。一体何が起きたか、まだ、頭が追い付かない。今までの平和が何だったんだ、これはなんだと、いまだに事態を飲み込めない。
     そんな中、あのカミサマが、ふわりとみんなの目の前に立って、にこにこと笑った。くるりとターンをして、ルイスの遺体を見下ろしながらあの不愉快な歪んだ笑顔を浮かべて見せた。

    カミサマ「あーあ、起きちゃったねえ。殺人起きちゃったねえ。頑張ったのにねえ。みんなと交流して、互いを知ってだっけえ? あっはは、無駄無駄! これで無駄だってよーくわかったでしょ? 君らの努力なんて、カミサマの中ではぜーんぶ無、駄!! 何もかもが無駄だってよーくわかったでしょ?」
    フィオ「なんだっていうのよ……」
    舞々「る、ルイス君が……鳥子ちゃんが……うそでしょ……」
    ヤオ「相変わらず神経を逆撫でする人ですねぇ」
    菊「……ちぃと黙っとれんのか」
    カミサマ「えー? 黙っているなんて無理無理! だって今超楽しいんだもん! あんだけ頑張って、あんだけ色々やって、あんだけ殺さないために、殺されないために疑わないよう、疑われないよう頑張って頑張って頑張って頑張って!!! ……その結果が、これなんだからさ」

     その言葉を聞いた瞬間、心の底から冷えた。冷たくて鋭いその言葉が、心の奥底に深々と刺さる。痛くてたまらないのに、抜けそうにないその冷たさは、《恐怖》という言葉で表すのにふさわしかった。
     怖い顔でカミサマをにらみつける菊。それを見ながら彼は目を細めて薄く笑みを浮かべていた。
     また彼はくるりと向きを変え、わざとらしい手振りで再び口を開く。

    カミサマ「でもいいのかな、こんなところでぼーっとしていて? 裁判までの時間は刻一刻と迫っているんだよ? 仲間を疑いたくないっていうのは十分わかるけどぉ……ここで死んでいる2人が、何よりも誰かが殺した、って証拠じゃないか」
    セツナ「自殺という可能性も捨てきれないけどね」
    カミサマ「あっは、そうだね! そら十分あり得る可能性だね。でもね、でもね、もしかしたら、誰かが殺したかもしれないんだよ? 君らはこれが殺人か自殺か、それとも事故なのか、そして殺したのが誰かまで君らは知っているの? 見ているの?
     何で彼らは死んだ、何で彼らはこんなむごい死に方をした。誰が、どうして、何のために、どうやって殺した!! それを知らないような君らに、何かを語る資格なんてないんだよ!!」
    龍紀「っ少し、少し黙って頂戴」
    カミサマ「黙らないね!! だってこんな面白いことなんてあるかい!! 愚かで滑稽でどうしようもない諸君!! ……遊びの時間は終わりだよ。これからは、疑い疑われあう、殺し合いの始まりだ」

     死ぬつもりがないのなら、誰かの嘘を暴くことだね。

     そう言って、彼はゲラゲラと笑いながら姿を消していった。しばらく誰も何も喋らない。何をしたらいいかわからないのだとわかる。互いの顔を見合わせ、そして、深く、息を吸っては吐いてを繰り返す。
     スッとリーベがルイスの遺体に近づいた。そして、彼女はその遺体を見ながら、何か観察を始めた。

    リナ「……リーベ?」
    リーベ「……話しかけないでください。リーは、調べているんです。皆さんも、やるならとっとと始めてくださいよ。そうじゃないのなら邪魔だけはしないでください。
     死にたいのなら、せめて邪魔するな。生きたいのなら、捜査しろ。リー達が今しなければならないのは、どうして彼らが死ななければいけなかったのか、という真実なんですよ。
     悲しい? 怒りたい? そんなもんどっかに置いてきてください。今すべきことを、やってください! そうじゃなきゃ、2人だって報われないでしょうが!!」

     りんっとした彼女の声にハッとする。現実を見据えた彼女は、見たこともないほど険しい顔していた。そして、その言葉を聞いたヤオは相変わらず読めない表情でため息をひとつついた。

    ヤオ「そうですねぇ。では、やれることはやりましょうか」

     自分が生きるために。



    捜査開始
    舞々「……リナちゃんよろしくね」
    リナ「ああ」
    舞々「その……多分足引っ張ると思うけど……」
    リナ「こんなのやったことある奴の方が少数だ。あまり気にするな」
    舞々「……うん」

     舞々の表情は暗い。それはそうだ。今朝まで生きていた2人が、今、こうやって息をしていないのだから。落ち込むのは当然のことだろう。

    舞々「じゃあまず、何から調べよっか?」
    リナ「最初に調べることは決まっている。電子生徒手帳だ。モノクマファイルとやらの欄はずっと選べなかったが、恐らくルールを考えると、事件のざっくりとした情報を載せるものとして考えていいだろう」
    舞々「あ、そういえばそういう欄があったね」

     自身の電子生徒手帳を起動させる。舞々がそれを覗き込む。電子生徒手帳はしばらくくるくると真ん中のマークが回り、そして自身の顔写真と名前を表示した。
     やはり想像通りモノクマファイルの欄が灰色から白色になっている。選べるようになっている。その理由に想像がつき、不愉快な気分になった。これからきっと、自分たちはここで彼らの死を背負って生きていかなければならないのだと、嫌という程思い知らされた。

    リナ「……あった。モノクマファイル1。被害者名空音鳥子。死因大量出血によるショック死。死亡推定時刻は23時20分頃。喉元に噛みちぎられたような跡がある。その他にも刺傷が数箇所。
     ……つまり、血が出過ぎて死んだって訳だな」
    舞々「ひどい、ね……。一体誰が……」
    リナ「さあな。それを今から調べるんだ」
    舞々「……。……ルイス君は?」
    リナ「ルイスか。モノクマファイル2だな。被害者名ルイス=サンジェス。死因は不明。死亡推定時刻は23時40分頃。胸に包丁が刺さっていて、その他怪我の痕跡あり、だと」
    舞々「死因不明って……包丁じゃないの?」
    リナ「さあ、どうだろうな。3階にいる鳥子、1階にいるルイス。……死に方は、1つじゃないってことだな」
    舞々「……」

     そう言いながら電子生徒手帳をしまった。

    コトダマ《モノクマファイル1》
    コトダマ《モノクマファイル2》
    舞々「他にどこを調べたらいいかな?」
    リナ「まあ……やっぱり遺体の周辺だろうな」
    舞々「う……やっぱりそうだよね……」
    リナ「……舞々、無理はしなくていいからな? 無理そうなら休んでていいぞ。ここはあたし一人でもどうにかできそうだから」
    舞々「が、頑張ってみる……私も……ちゃんと知りたいから……」
    リナ「……そうか」

     そう話しながらルイスの遺体を調べているリーベに近づく。彼女はヤオと一緒に何か話しているようだった。

    リナ「よ、捜査の方はどうだ?」
    リーベ「リナさんですか。まあ、どうもこうもないと言いますか。殆どはモノクマファイルの通りですよ」
    リナ「と言うと、怪我の痕跡が残っていたのか?」
    ヤオ「ええ。恐らくですが、彼は高いところから落下し、首を折っていると思われます」
    舞々「……! 首を……」
    リナ「高いところから落下か……」
    ヤオ「ほら、3階を見てください。あそこの手すり、壊れてなくなってますよね?」
    舞々「本当、あそこだけ無いね」
    ヤオ「これは僕の憶測に過ぎないんですけど……3階で起こった何事かで、手すりが壊れてそこからルイスさんが頭から落下、首を骨折した……というのがおおむねの流れかと。まあ、何があったかまでは知りませんけどね」
    リーベ「脊髄損傷している可能性が十分ありますよ。いくらルイスさんがアホみたいに再生能力が高いとしても、意識は一気に吹き飛ぶか、即死もの、運が良くても自由には動けそうにはないでしょうね」
    ヤオ「僕も同じ見解です。死因はもう少し詳しく調べないとわかりませんけど、外傷はそんな感じですかね」
    リナ「そうか、さんきゅ」

     いえいえ、とヤオはにこりと、いつもの食えない笑顔を浮かべて言った。

    コトダマ《首の骨折》
    リナ「ところで、ヤオ達はこのモノクマファイルの時間帯、アリバイとかあるか?」
    ヤオ「おやおや、リナさんってば、さながら探偵のようですね?」
    舞々「刑事ドラマみたいだ……」
    リナ「何言ってんだ? 情報屋として当たり前のことしてるだけだが」
    舞々「情報屋って、そういうこともするんだ」
    リナ「証拠からの推理は時々だがあるな」
    ヤオ「23時20分と、23時40分ですね。20分にはあったと思いますよ。庭で野草の採取をしていたときに浅葱さんと顔を合わせたので、確認お願いできます?」
    舞々「20分、ヤオさんは庭にいて、浅葱さんと会ってて……。40分はなし、と」
    リナ「ちゃんとメモとってて偉いな」
    舞々「えっ、ありがとう。リナちゃんはとらないの?」
    リナ「あたしは覚えていることが得意だから下手にメモ取るとわからなくなるんだ」
    舞々「へえ……。あ、それで、リーベちゃんは?」
    リーベ「リーですか?リーにもちゃんとアリバイはありますよ。その時間、レイさんとお風呂に入っていましたから」
    舞々「なんか、珍しい組み合わせだね」
    リーベ「たまたま入る時間があった感じですよ。で、23時から40分くらいまでお風呂で、髪の毛乾かしてから50分にお風呂の外に出ましたね」
    リナ「なるほど。それは立派なアリバイだな」
    リーベ「はい。念の為、レイさんにも聞いてみてください。確認が取れるはずですよ」
    リナ「わかった。後で確認をとる。
     ……ところで、遺体を少し調べてもいいか?」
    リーベ「……あまり見ていい気持ちになるものじゃないですけど、それでもいいのなら見ればいいんじゃないですかね」
    リナ「サンキュ」

     しゃがみこんでルイスの遺体を覗き込む。舞々は青い顔しているが、やがて意を決して隣にしゃがみこんだ。
     ルイスの遺体は目は開かれたままで、胸には包丁が刺さり、彼の血塗れた両手は包丁を握っていた。そこから服にドス黒い色が滲んでいるのがわかった。

    舞々「ルイス君……」
    リナ「……やっぱり不可解なのが、血の飛び方だな……」
    舞々「え、血の飛び方?」
    リナ「ああ。これはルイスの血じゃない。ルイスの血だったらこの包丁の部分と……もしかしたら頭も傷があるかもしれないけどこんな部分に血は飛ばないと思う。それに、口の周りにたくさんの血が飛んでいるっていうのが1番わからないところだ」
    舞々「確かに……。どうして口の周りにこんな血が飛んでいるんだろう」
    リナ「……この飛び方、少し心当たりがある」
    舞々「え? どんなの?」
    リナ「……(よく似ているんだ。血肉を食いちぎった時の獣に)」

     重要なところ話してくれない、と舞々が少し残念そうに話すのを聞きながら、その言葉は自分の中にしまい込んだ。

    コトダマ《ルイスの遺体》
    リナ「……ん?」
    舞々「どうしたの?」
    リナ「ポケットから何か出ているな……」
    舞々「あ、本当だ。これは封筒かな?」
    リナ「……」

     封筒を出してみる。その表には丁寧な文字が綴られている。舞々をちらっと見ると、息をのむような声が聞こえた。

    舞々「ねえ、これって……」
    リナ「……そうだな……。……あまり鵜呑みにするな。誰かの罠の可能性もなくはない」
    舞々「でも……これが本当なら……」
    リナ「……そうだな。これが本当なら……」

     そう言って中身を取り出す。そして、血がにじんだせいか少し読みづらくなったそれに目を通す。眉を寄せ、途中から読むのをやめた。辛くなってくる。紙を畳んで、また封筒に入れた。

    リナ「……これは、本当にアイツがそうしようとしていたってわかった時に読むことにする。……考えが偏らないためにも。……本当なら、こんな真似、したくはないんだけどさ」
    舞々「……」

     舞々の目に涙が浮かんでいた。自分の声も、震えていない自信がなかった。
     これは、この手紙は、彼がなんで死んだのか、彼の行動を示す鍵の一つとなるだろう。大事に、それはしまい込んだ。この思いが本当なら、無駄にはしてはいけないのだ。

    コトダマ《ルイスの遺書》
    舞々「他に気になるところは……う……」
    リナ「舞々、本当に無茶すんな。もう限界だろお前」
    舞々「ご、ごめんね……ちょっと休む……」
    リナ「まあ、いいさ。ちょっと離れたところで休んでいな」
    舞々「うん……」

     青い顔した彼女はふらふらとフィオとファルのところに行き、共に休み始めた。人の遺体に慣れてない、しかもそれが友達だった人の遺体であれば、無理はないだろう。
     ルイスの体をくまなく見て、嗅いでいく。強い血の臭いと、ルイスの臭いがした。

    リナ「……ん?」

     包丁から何か変なにおいがする。何だか薬臭くて、嗅ぐと気持ち悪いと感じる。そっと触れてみると、何か、ネトリとした紫色の液体が包丁に塗られているのがわかった。

    リナ「……(何か塗られている……? 一体何が塗られているんだ?)」

     ふと、同じような臭いがふわりとどこからか漂ってくるのを感じ取る。クンクンと嗅ぎ、注意深くその場所をたどる。そして、遺体から少し離れた場所からするのがわかった。上を見ると、ちょうど手すりが壊れたところで、そこには壊れた手すりが落ちていた。そこを注意深く観察していく。

    リナ「(こんなところから臭いがするなんて、どういうことだ? そもそもあの包丁に塗られている臭いは何なんだ?
     それに……よく見れば床に傷がついてるな。手すりが落ちたにしては随分と細い気がするが……ここからも僅かに臭いがするな)」

     細い傷を指で触れて存在を確かめる。そして、臭いのもとがそこからであることも確認をした。

    コトダマ《床の傷》
    リナ「(他に調べることといえば……)ヤオ、聞きたいことがあるんだがいいか?」
    ヤオ「はいはい? なんでしょうか」
    リナ「お前のところに、何か、薬を頼みに来た奴はいるのか?」
    ヤオ「ああ、いますよ。詳細は控えているので、後でお持ちしますね」
    リナ「わかった。その時に見せてくれ」
    ヤオ「はい、では後ほど。それで、進展はありそうですか?」
    リナ「あぁ、色々とな。とりあえず他の場所も調べたいし、全員分のアリバイも集めたいから移動する。後で聞きに行く」
    ヤオ「そうですか。では、僕もこれで失礼します」

     そう言ってヤオは頭を少しだけ下げ、すぐにリーベと話し始めた。
     舞々のところに行き、声をかける。

    リナ「舞々、大丈夫か?」
    舞々「だ、大丈夫……」
    リナ「うん、そうか。そこの二人はどうだ?」
    フィオ「……ごめん……。……もう少ししたら、ちゃんとするから……」
    ファル「《……もう少ししたら僕らも捜索する。それまでは進めていてくれ》」
    リナ「そうか。とりあえず、お前らのアリバイってあるのか?」
    フィオ「……アリバイ……? ああ、そう……だね、必要だよね……」
    ファル「《アリバイならある。僕とフィオはずっと家庭科室にいた。そこから出ていないし、鍵もかけていた。それ以上は特にこれといってない》」
    リナ「なるほど。アリバイは成立しているわけだな。あたしらも舞々のケイのいいところTOP100を100位から90位まで聞かされてたおかげでアリバイが成立している」
    舞々「えへへ……つい……」
    ファル「《ご苦労なこった》」
    リナ「他に何か気になることとかあったら言ってくれ」
    フィオ「気になった、こと……。そういえば12時前、龍紀君がピアスを探しに来たっけ」
    リナ「ああ、らしいな。あたしらも探すの手伝ったから知っている」
    ファル「《見つかったのか?》」
    リナ「いや。大事そうなものだったし、探していたら鳥子を発見してしまった、って感じじゃないかと思う」
    フィオ「そう……なんだと思う。私達が着いたとき、龍紀君が、鳥子ちゃんを……ぐすっ……」
    ファル「……無理すんな」
    リナ「すまん、辛いこと思い出させてしまって。
     他に気になることとかあるか? あと、今日のカラオケって誰が行っていたかわかるか?」
    ファル「《気になるって言ってもな……。40分くらいと12時過ぎに学校エリアの扉の音が鳴ったくらいか?
     カラオケに行ったのはフィオ、僕、サン、セツナ、龍紀、鳥子、舞々、レイ、リーベの9人だな》」
    リナ「なるほど。ありがとう。参考にさせてもらおう」
    舞々「フィオちゃん……大丈夫……?」
    ファル「《フィオならもう少し僕と僕と休んでいるから、調べに行けよ。うるさい》」
    リナ「相変わらず可愛くねえ野郎だ。だがまあ、無茶だけはすんなよ」

     そう言って2人から離れ、3階へと登った。

    コトダマ《カラオケの参加メンバー》
     3階に登ると、龍紀とセツナがいた。彼らは鳥子の遺体を調べている様子だ。その遺体の損傷は一目でひどいとわかり、舞々は口元を抑えた。彼女に見えない場所で待機していろ、と言い、龍紀達に近寄った。

    龍紀「……リナちゃん」
    リナ「鳥子の遺体か……やっぱり、喉元は食いちぎられている感じだな……」
    龍紀「ええ。刺傷もそれなりにあるし……恐らく見つけても助けることはできなかったとは思うわ。でも、誰がどうしてこんな惨い殺し方をしたのか……」
    セツナ「鳥子は何のために死んだんだろうね」
    リナ「そうか。ところで龍紀、お前、アリバイとかってあるのか?」
    龍紀「それがねえ……私、自分の部屋でずっとリングピアス探していたから特にこれと言ってアリバイらしいアリバイがないのよねえ。ごめんなさいね」
    リナ「いや、夜だし、そういうこともあるだろうな。他に何か気になることとかあるか?」
    龍紀「気になること……気になることというか、私がここに入ってからのことを言えばいいかしら? 第一発見者は私だし」
    リナ「そうだな。その情報はほしいところだ」
    龍紀「私は学校棟からこの娯楽施設に3階の通路を使って通ったわ。そして、ここに入ったら、ここに鳥子ちゃんが倒れているのが見えて、放送が鳴ったわ。
     ……それで、手すりが壊れていることに気づいて下を見たら、ルイスちゃんが倒れているのも見つけて、ちょうどその時にリナちゃんが入ってきて放送が鳴ったわね。リナちゃんが上がってくる間に、三階にフィオちゃんとファルちゃんが来て、後にサンちゃんが来たの」
    リナ「なるほどな……」
    セツナ「ルイスのことも鳥子のことも、龍紀が1番初めに見つけた、ということだね」
    龍紀「そういうことになるわね」

    コトダマ《死体発見アナウンス》
    リナ「で、これが壊れた手すりか」
    セツナ「そうだね」
    龍紀「気を付けてね、リナちゃん。吹き抜けになっているから危ないわよ」
    リナ「そうだな、気を付ける。あたし猫じゃないからこういうところで着地なんてできないからな」

     そう言いながら壊れた手すりの付近を調べる。下を覗くと、かなり高く、ここから頭から落ちたのであればひとたまりもないと感じた。手すりの付近に血がいくらか飛んでいるのがわかった。鳥子が持っていたお菓子のいくつかは踏まれていて、ぐちゃぐちゃになっているのがわかる。

    リナ「(踏まれている……手すりの付近も血が少し飛んでるみたいだし……誰かがここで揉み合いになったのか……? 争い合った形跡と言っていいのかもしれないな)」

    コトダマ《壊れた手すり》
    リナ「(ここでわかることはこれ位か。案外、わかることっていうのは少ないもんだな……舞々のこともあるし、少し他の場所でも調べてみるか……)」
    セツナ「ああ、そうだ。リナ、鳥子とルイスの部屋を調べるつもりはある?」
    リナ「ん? ……ああ、そうだ。特にルイスの部屋を調べたいな」
    セツナ「じゃあこれ、あげるね。さっき拾ったから」
    リナ「これって……2人の部屋の鍵か?」
    セツナ「そうだろうね。必要でしょ? 僕らはもう少しここを調べてみるから、先に行って調べてて」
    リナ「……お前……あたしらと一緒にいたアリバイがなかったらまず疑うレベルに胡散臭いな」
    セツナ「アリバイがあって良かったよ」
    リナ「でもサンキュ。これで調べたいことが調べられる」
    セツナ「それなら良かった」

     彼から鍵を二つ受け取る。番号が書いてあるそれを見ながら、鳥子とルイスの部屋へと向かうことにした。階段で休んでいた舞々を連れて、寄宿棟へと向かった。
    舞々「それで、ルイス君と鳥子ちゃんのお部屋を調べるんだよね」
    リナ「ああ。鳥子はともかく、ルイスは前々から少し様子が変だった。だから、それもあって調べたいことがあるんだ」
    舞々「でもなんか、他人の部屋に勝手に入るのって罪悪感あるね……。私だったら、ちょっとやだなぁ」
    リナ「お前の部屋は情報量多そうだからできる限り死なないように頼むぞ」
    舞々「それってどういうこと?」

     そんなこと言いながら外に出ると、菊とネロがいる。ネロは悲しそうな顔をしていて、菊も険しい顔をしている。だが、2人ともこちらに気が付くと、ネロは少しだけ笑みを浮かべた。

    リナ「ネロ、大丈夫か? 中に入れないって言ってたけどよ」
    ネロ「ご心配ありがとうございますわ。……わたくし、どうしても血が苦手で……。ご迷惑をかけるわけにも参りませんから、もう暫く休んだら現場以外を調査いたしますわ」
    舞々「ちょっと、キツイもんね、あれは……」
    菊「ネロはな、いかんわ。色々事情もあってな、血ィ見せるわけには、絶対にいかん。ワシャ、全力で止めるで」
    舞々「それほどまでに……?」
    菊「それほどまでに」
    リナ「遠い目をすんな。まあ、人の体質って色々あるもんだしな。駄目な奴は一滴の血でもダメだったりするしな」
    ネロ「申し訳ありませんわ……。本当に、駄目で……。お二人の最期に手を合わせることも……ごめんなさい……」
    リナ「そういうこともあるさ。
    (優しいしキチンとしているネロがここまで現場に入ろうとしない程血がダメなのか。それに、菊も言っていたな、色々あってって。何か、血を見てはいけない理由があるのか?)」

    コトダマ《現場に入れないネロ》
    リナ「ところで、2人はアリバイはあるのか?」
    菊「ああ、そうじゃなあ、20分の方はあるんやけどな、40分の方はないわ。20分頃にワシはサンに会うたわ。学校棟の3階の……家庭科室前じゃな。フィオとファルが人形作っとる様子を見とったみたいやぞ。そん後は学校棟の、図書室を重点的に調べたわ。ほんで12時過ぎに寄宿棟に戻ったきたんじゃ」
    リナ「そん時に菊に会っているんだな、あたしは」
    菊「そういうことになるの」
    ネロ「……疑われても仕方ないのですけれど、わたくしにはアリバイと呼べるものはありませんの。研究棟で少々調べものをしておりまして……。その後、夜風にあたりたくなってベンチに座っていたところに、リナさん達にお会いしましたの」
    リナ「なるほどな。いや、全員が全員アリバイあるとは限らない。犯人以外でもアリバイが成立しないなんてことも十分あり得る話だ」
    菊「まあ犯人とちゃう、としか言えんの」
    リナ「そうだな。犯人じゃないことを祈るさ」
    菊「逆に嬢ちゃん達のアリバイはどうなっとるんじゃ?」
    リナ「コイツのケイのいいところトップ100を100位から90位までずっと聞かされていた」
    舞々「だってだって、慧君の魅力をもっと広めたくて」
    菊「そりゃこれ以上ないアリバイやの」
    ネロ「それは何よりですわ。……わたくしは……。これ以上に犠牲が出ないこと、犯人が誰でもないことを祈ります……」
    リナ「……そうだな」

    コトダマ《菊とネロの証言》
    リナ「他に気になったこととかあるか?」
    菊「気になったこと、といえば……。ルイスが死んでしまう直前じゃな。11時過ぎに、寄宿棟で、ワシとヤオはルイスに会っとるぞ」
    舞々「え……!! 会ってたんですか!?」
    菊「おう。今考えたらちぃと様子が変やったけど、具合が悪いんか思ってな。受け答えもしっかりしとったし……休め、くらいしか言えんかったわ。何があったかは知らんけど、あん時もう少し突っ込んんで聞いたらまた違うかったかもしれんなぁ、とは、今やから言えるんやがの」
    リナ「……様子が変って、どんな感じに変だったんだ?」
    菊「こうな、フラフラしとるというか、フワフワしとるというか。熱でもあるんかと思っとったわ」
    リナ「そうか……。……まあ、でも、死ぬ直前にあったとなると、ちょっと……後味悪いな」
    菊「……そうじゃの」

    コトダマ《様子がおかしいルイス》
    リナ「それじゃ、後でな。十分休めよ」
    ネロ「ありがとうございます」
    リナ「よし、部屋に行くぞ」
    舞々「あ、うん。……リナちゃんって、優しいよね」
    リナ「……そんな軽口たたいていないで行くぞ」
    舞々「あ、ちょっと照れてる」

    ―――――

    舞々「ここが鳥子ちゃんの部屋かぁ……」
    リナ「……まあ、予想通りというか、お菓子だらけだな……」
    舞々「鳥子ちゃんお菓子大好きだったもんね……。……」

     舞々は黙り込んだ。その気持ちもわからなくはない。空音鳥子の部屋は、ごく普通だった。お菓子がたくさんある以外、ごく普通の女の子部屋で、そして、彼女の食べかけのお菓子や、捨てようと思ってお菓子の空袋や空き箱を詰められた袋があって、ベッドのへこみ具合や、半開きになってたクローゼットが、彼女は死ぬつもり何て全くなかったんだということが伝わってきた。
     ぐすっ、と舞々が泣きそうになっている声が聞こえた。周りを見ても、特にこれと言って何かありそうな気配はない。彼女は死ぬつもりなかっただろうから、死ぬと思っていなかっただろうから。

    リナ「……出るか」
    舞々「……うん」

     外に出て、深く息を吐いた。何だか、息がしづらい。胸がつまる。これは悲しみという感情なのだろう。けれど、泣いている暇がないことはわかっていた。
     ルイスの部屋の鍵を開けようとした。その時、後ろから咳払いが聞こえた。振り向くと、ヤオとリーベが立っていた。2人の顔を見て、何の用事か何となく予測がついた。

    リナ「あれか、注文票か」
    ヤオ「はい、持ってきました。ご覧になりますよね? 僕もこれ、関係してくると思ってますので、証拠として提示させてもらいますね」
    リナ「サンキュ」
    リーベ「この人、毒薬とか普通に作っているんですよ、ありえなくないですかー?」
    舞々「え、毒薬……!?」
    ヤオ「ええ、まあ。必要らしかったので」
    リーベ「だからと言って普通、この状況で作りますかー?」

     そんな話をしているのを聞きながら注文票を見ていく。確かに毒薬を二日前にセツナが発注して、彼に昨日の昼に渡している。

    リナ「なんっでお前毒薬作ってるんだ……」
    ヤオ「あはは、セツナさんがカミサマに飲ませたいと僕に声をかけてきて。なのでまあ、ものは試しと作ってみたんですけどね、皆さんも見たでしょ? あの通りピンピンしてらしたので、失敗ですね」
    リナ「いや笑いながら言うことじゃねえよ」
    リーベ「意外と毒を飲まされたせいで死んだとかありそうで」
    ヤオ「毒殺された形跡はなかったじゃないですかぁ」
    リーベ「それもそうですけど」

     そのほかに気になることが一つある。

    リナ「……ルイスはこんなに睡眠薬を注文していたのか」
    ヤオ「ええ。まあ少量ですけどね、ほとんど毎日来てましたよ。よく眠れてなかったみたいですね」
    リナ「……」
    リーベ「この状況で睡眠薬ですか。よく飲めますね。それに、注文そんだけ受けて止めようとか相談しようとか思わないわけですか?」
    ヤオ「思いませんねぇ。眠れなければ眠りたいのが人間というもので、それに応じるのが薬師ですから。何週間も眠れないとなれば僕も考えますが、数日のことですから」
    リナ「……ルイスが注文を始めたの、5日目からだな」
    舞々「5日目って……カミサマが慧君のご尊顔を踏みつけやがったあの日……」
    リーベ「動機が投下された日ですよ、なんでそっちメインになってるんですか、この人」
    リナ「もし、仮にあの動機のせいだとするならば……あの日、もしかしたら……アイツだけは動機を見るべきじゃなかったのかもしれないな……」
    舞々「あれ、でもルイス君、普通に見せてくれたよね? 内容も普通だったし、普通に幸せそうだったし……」
    ヤオ「まあ、人の都合というものは様々ですからね。背景に何があったのか、それは彼のみぞ知ることです」
    リナ「……」

    コトダマ《薬の注文票》
     この注文票も何かしらで使えるだろう。そう思い、しまいこむ。そして、ルイスの部屋の鍵を差し込み、回す。かちゃりと音がした。ドアノブをゆっくりと押し、ドアを開けていく。
     舞々が小さな悲鳴をあげたのが聞こえた。眉が寄る。中に入ることさえためらわれた。入らないといけない。調べたいことがあるのだ。一歩、その中に入った。
     その部屋は、血だらけだった。あちこちに血が飛び散っている。そして、布団が引き裂かれていて、その中身が散らばっている。壁にも大きな傷がつけられていた。人の指で、爪がもげるもの気にせずにひっかいたらこんな傷ができるだろう。血がにじんだ壁の跡を見ながら、そんなことを思った。
     彼は、誰にも聞こえないここで、もがいて、苦しんでいたんだ。それを嫌というほど感じ取ることができた。

    ヤオ「これは、凄惨ですね……」
    リーベ「うっわ……ホラーみたいな部屋じゃないですか。ここ殺人現場かなんかですか」
    舞々「やだぁ……何この部屋ぁ……」

     血の臭いと、そして、あの薬のような臭い。臭いがした先を見ると、机の上に、小さな瓶が置かれていた。それは紫色の液体が入っていたらしく、机の上にこぼれていた。おや、とヤオが声をあげる。

    リナ「どうした、ヤオ」
    ヤオ「いやぁ、その小瓶。私がセツナさんにお渡ししたもの、つまり毒なんですよね」
    リナ「これ毒薬かよ。あたしちょっと吸っちゃったりしたぞ」
    ヤオ「飲んだり傷口に入ったりしなければ問題ありませんよ」
    舞々「なんでセツナ君の毒薬がこんなところに……?」
    ヤオ「さあ? 僕の手元を離れた後のことはわかりかねます」
    リナ「ところでこの毒薬ってどれくらい強い毒なんだ?」
    ヤオ「ふむ……。成人男性程度であれば、それを塗ったナイフでかすり傷を負えば、ゆっくり動けなくなってやがて死にます」
    リナ「誰がそこまで具体的に語れといった」
    舞々「毒塗った武器って、慧君が読んでる漫画に出てきそう……」
    ヤオ「とはいえ、解毒薬も勿論作ってますし、大量に飲まない限りはすぐに死んだりしませんよ」
    リーベ「今、サラッと不穏なこと言いましたよね? 絶対セツナさん大量に入れて飲ませてますって」
    ヤオ「うーん、大量に飲んだら即死してしまうでしょうねぇ、普通は、ですけど」
    リナ「ふーん……。そうか、そんな感じか」
    ヤオ「リナさんはどこでこれ、吸っちゃったり? したんです?」
    リナ「いや。……この臭い、ルイスの胸に刺さった包丁から臭ってきてさ。もしかしたら、あの包丁に、毒が塗ってあったのかもしれないと思って」
    リーベ「包丁に毒、ですか。ですが、毒薬を塗った包丁に刺されていたのはルイスさんの方で、毒の小瓶があったのもルイスさんの部屋ですよ?」
    舞々「……どういう、ことなんだろうね。……もしかしたら、さ……」
    リナ「……」

    コトダマ《塗られた猛毒》
     リーベ達はまだ他に調べることがあるといい、他の場所に行った。どこを調べようかとルイスの部屋の前で悩む。

    リナ「他に調べるところはあったかな……」
    舞々「うーん……私、セツナ君にあの毒の小瓶のことについて聞いてみたいなぁ」
    リナ「あぁ、そうだな。聞かなきゃいけないな」

     そんな風に悩んでいると、そこに星華と浅葱がやってくる。2人はこちらを見て、軽く手を挙げた。

    浅葱「おや、娘っ子達。捜査は進んでおるかい」
    リナ「おかげでな。そっちはどうだ?」
    星華「まあまあな進み具合だと思います。何か、気になることとか情報交換しませんか」
    舞々「情報交換……。どうする?」
    リナ「まあ、そうだな。等価交換といったところで」
    浅葱「ほんにしっかりしとる娘っ子じゃな。して、その時間主ら何をしておったか、という情報でどうじゃ」
    リナ「コイツの話を延々と聞かされていた」
    星華「ご愁傷さまです」
    舞々「星華さん?」
    星華「私はこれと言ってありません。22時半に一旦バーを抜け出し、23時頃混浴等でお風呂してました」
    リナ「何故お前混浴選んでんだよ……」
    星華「どんなものか気になったもので」
    浅葱「これで下心が本当にないのが不思議なんじゃ……」
    舞々「それで、星華さんはそれ以降は何を……?」
    星華「23時20分頃にお風呂あがったので、前々から試してみたかったマッサージチェアをやってみました」
    リナ「お前それ」
    舞々「え」
    星華「地獄を見ました」
    リナ「あー……あれはなあ……」
    星華「30分も動けなくなるとは思っていませんでした……」
    舞々「あ……あれってそういうやつなんだ……」
    星華「そんなわけで私にこの30分間のアリバイというのは存在しません」
    リナ「胸張って言うな」
    星華「まあ、気が付いたらレイさんに起こされていた状態でしたかね」
    リナ「なるほどな」
    浅葱「ワシもアリバイらしいアリバイはないが、20分のだけはあるぞ。ヤオがそん時おったからの」
    舞々「あ、それ、ヤオさんからも聞きました」
    浅葱「おや、それなら話が早いね。ヤオは草木採取して25分には研究棟に戻っておったの。ワシは寄宿棟と学校棟の間にあるベンチに座って研究棟を見ておったが、ワシがいる間に出てくることはなかったの」
    リナ「いつまでいたんだ?」
    浅葱「40分頃まではおったかの。そして、そのあとは学校棟に入ってカミサマに話をしに行ったの。まあ、その間に、ルイスと鳥子は……」
    リナ「……」
    浅葱「そうそう。もう一つ情報じゃ。ワシはバーを出てから学校棟に入るまで庭におったが、その間に寄宿棟から学校棟に移動したものはおったぞ。サンと菊じゃな。2人とも、時間をずらして渡り廊下を通っていったわ」
    舞々「学校棟の方に……」
    リナ「そうか、ありがとう」
    星華「他に何か聞きたいことがあればお答えしますが」
    舞々「あ、えーっと、そういえば、バーに行ったのって誰でしたっけ」
    星華「バーに行った大人、ですか。そうですね……私、ババア、菊さん、ネロさん、ヤオさんの5名ですね」
    浅葱「闇小僧、頭を下げんか」
    星華「ババアこそ、背が小さい癖に態度がでかいんですよ」
    リナ「喧嘩すんな、本当にお前らってやつは」
    舞々「星華さんと浅葱さんって仲いいんだか悪いんだか……」

    コトダマ《浅葱の証言》
    コトダマ《バーの参加者》
     そんなことを話し、星華達と別れた。他に調べられるところがないだろうかと2階に上がってみる。

    サン「あ、リナちゃんと舞々ちゃんじゃーん」
    リナ「調査は進んでるか?」
    サン「うーん、進んでいるような、いないような」
    レイ「あまり進んでいませんね。予測はつきますが、不可解な点がいくつかあったりしています」
    サン「そうなんだよねー。購買調べたり、焼却炉調べたりもしたけど、特にこれと言って変わったことはなかったんだよねー」
    リナ「購買履歴でも調べたのか?」
    レイ「はい。ですが、ルイス上等兵が毎日同じ薬を服用していた位で」
    舞々「薬? あれ、ルイス君ってさっきも睡眠薬飲んでいるって……」
    サン「えっ、そうなんだ? 眠れてなかったなら、言ってくれれば僕が子守唄でもなんでも歌ってあげたのになあ」
    レイ「彼は少し特殊な発作を持っていたものでして。普段の生活を行うには薬を飲んでいれば問題ない程度だったんです」
    舞々「病気だったのかぁ……元気そうに見えたんだけど」
    サン「人って見かけによらないねぇ」
    リナ「……」

    コトダマ《購入履歴》
    リナ「ところで、2人はアリバイはあるのか?」
    サン「残念だけど、僕は20分に菊さんに会ったくらいで、そのあとは一人で2階ウロウロしてたからなーんにもアリバイがないんだよね。あっ、学校棟の音聞いたっていうのは、アリバイになる?」
    リナ「どうなんだろうな……誰にも会っていないとなると、ちょっと弱いんじゃねえか?」
    サン「何回か鳴った、くらいだけどね。わかるの。やっぱ弱いかあ、アリバイになってほしかったけど」
    レイ「あの音でしたら、学校棟の付近にいた人なら誰だって知っていますからね。何時になったか、が言えないのであれば弱いですよ」
    サン「うーん、やっぱりそう? じゃあ、僕にアリバイはありませーん、残念」
    リナ「潔くてよろしい。そんで、レイの方はリーベから聞いてる」
    レイ「ならば話が早いですね。そうです。23時から40分、私はリーベさんにおっぱいを揉まれていました」
    サン「なんて」
    舞々「待って」
    リナ「おい、お前」
    レイ「おっぱいを、揉まれてました」
    リナ「二度も言ってんじゃねえ、大事なことじゃねえだろ」
    レイ「その後、お風呂から出たところで星華さんがマッサージチェアのカプセルから誕生していたので起こしたくらいですね」
    リナ「情報量、情報量もう少し考えろお前……」

    コトダマ《サンの証言》
    コトダマ《レイの証言》
    リナ「他に気になることとか、あったか?」
    レイ「そうですね……包丁の本数を確認したところ、やはり一本なくなっていましたね」
    リナ「まあ……あそこ以外から持ち出すことってそうそうないだろうな」
    レイ「しかし、私は念のため、カラオケに行く直前、バーに行った方々を見送ってから確認を行ったところ、その時間には包丁は存在しました」
    リナ「お、何時からだったっけ」
    レイ「9時ですね」
    舞々「じゃあ、そのころにはまだ包丁はあったんですね」
    サン「持ち出すとしたら、その時間、アリバイがなかった人だろうねえ」
    リナ「……」

    コトダマ《包丁の本数》
    レイ「あと、気になるものといえばこれなんです」
    リナ「これ?」
    レイ「はい。これは、混浴のごみ箱に入っていたものです」
    サン「一応頑張って組み合わせたけど、インクも滲んじゃってるし、紙もふやふやぐちゃぐちゃだし、よく読めないと思うよ」
    リナ「……」

     それは、びりびりに破かれ、ふやけた紙の塊だった。誰かが意図的に、何か書かれた紙を水で濡らしたうえで破いて捨てた。そんな風に思える紙の塊。それを目を凝らしてみる。よく見れば、読めそうなそれを目をこすっては読んでみようとした。

    [ピンポンパンポーン!!
    捜査時間終了!! 捜査時間終了!! 全員、外の学級裁判場に来てね!!]

     大音量で突如流れたその放送に、びくりと肩が震えた。そして、その放送を聞いたみんなの顔がみるみるうちに険しくなっていくのを感じる。ゲラゲラと笑う不愉快なその声を聞きながら、ぼそりと、サンが言った。

    サン「……行こうか」
    レイ「……ええ」
    舞々「……はい」
    リナ「……」

     そう言って、寄宿棟の階段を降りて行った。

    リナ「(あの紙に書いてあったこと、少しだけ読めたんだけどな。
    ……言わなくてもいいだろうな、『ぼくは、生きたかった。』なんて)」

    コトダマ《混浴のごみ箱》


    捜査編 終
    山林檎 Link Message Mute
    2020/06/25 22:18:32

    キノロンパ 第一章「後ろの正面 逆さまの人」非日常編 捜査

    #キノロンパ

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