イラストを魅せる。護る。究極のイラストSNS。

GALLERIA[ギャレリア]は創作活動を支援する豊富な機能を揃えた創作SNSです。

  • 1 / 1
    しおり
    1 / 1
    しおり
    キノロンパ 第一章「後ろの正面 逆さまの人」非日常編 裁判開廷ノンストップ議論1ノンストップ議論2コトダマ選択1反論ショーダウン1コトダマ選択2ノンストップ議論3コトダマ選択3ノンストップ議論4ノンストップ議論5コトダマ選択4コトダマ選択5ノンストップ議論6ノンストップ議論7反論ショーダウン2コトダマ選択6コトダマ選択7ノンストップ議論8三択1三択2コトダマ選択8指摘議論一騎打ち閉廷おしおきその後開廷 寄宿棟と娯楽施設の間にあるカミサマを象った箱のようなもの。いつもいつも何て悪趣味なんだと思っていたが、今日みたいな日に来ることになろうとは。それが来ないことを願ったのに。
     そんなことを思いながらそこに行くと、もうほとんどの人が集まっていた。ショックが強くて立ち直れていない子もいれば、険しい顔のままの大人もいる。微かに笑っているのはヤオやセツナくらいで、他はみな、暗い表情をしていた。
     放送がガンガンと流れた。

    [さあさあ、皆さん!! この箱の中にどうぞお入りください!! まもなく裁判が始まるよ!! あ、トイレは行ったかな? 犯人もそうじゃない人も行っておかないと、後できつい思いするよー!!]
    セツナ「相も変わらず元気なひとだね。ひどく賑やかだ」
    浅葱「まったくじゃな。ったく……あやつはどうにかならんのか」
    レイ「どうにかなったら私が締め上げていますよ」
    ネロ「……皆様、どうかお気を確かに……」
    龍紀「……」

     そんな風に雑談をしていると、不意にゴゴゴと重い音がして、箱が開いていった。中から、籠のようになっている箱が現れ、その扉がゆっくりと開け放たれた。隙間から底が見えない暗い暗い空間に、背筋がスッと寒くなる。風の音がするのが、とても不気味で、怖い。入ってしまったらこの闇に飲み込まれるのではないかと錯覚してしまう。一歩、踏み出す勇気が出ない。
     そんなことを思っていると、スッと、最初に中に入った人がいた。その人は微笑み、ねえ、と無邪気にこちらを見る。

    セツナ「乗らないの?」
    リナ「……」

     それを聞いて、しばらくの沈黙ののち、今度は菊がそれに乗り込んだ。下を見て、うわぁ、と言わんばかりの表情をする。カシャカシャと安っぽい音が余計に恐怖を煽る。それをきっかけに順番にその箱の中に足を踏み入れた。乗らないわけには、いかないのだ。
     最後の一人となった。勇気を絞って乗った。すると、扉はキィッと音を立て、閉まる。外の箱が、閉ざされていく。それと同時に、乗っていたこの箱は、下へ下へとゆっくりと降りて行った。
     誰も何も話そうとしない。ただ、時が過ぎるのを待っている。目を開いて、いくら降りても暗いままの底を見ながら、早く着かないかと祈る。この空気の重さに耐えきる自信がない。じっとりと自身の掌に汗をかく。
     何分経っただろう。ずっとずっと下がり続けた気がする。不意に、ガコンッという音ともに、モーターが止まる。ハッとして前を見ると、箱が、扉を開けた。そこに広がる風景は、今まで見たものと全く異なるものだった。
     そこは円形の場所で、寄宿棟によく似ていた。赤い絨毯が敷かれ、赤に金色の装飾された壁には赤いカーテンが束ねられていた。天井は高く、首が痛くなりそうだ。声を出せばワンワンと響くだろう。そんな場所のど真ん中に、証言台のようなものが16個円形に並んでいた。そのうちの2つには、2人の遺影が掲げられている。
     ルイスの遺影には口元にインクがぶちまけられていて、顔に大きなバツ印がされている。鳥子の遺影には首に大きなバツ印と、天使の輪っかと羽が頭に描かれていた。2人の死を弄ぶような、2人の死を皮肉ったようなそんな遺影に思わず舌打ちした。相変わらず人の神経を逆撫でするのがうまい。
     そんなことを思いながらも、自分の名前が書かれた証言台に立った。その途端、後ろの階段から柵が現れ、そう簡単に降りれなくなった。
     証言台に立ったみんなの顔を見すえる。それと同時に、後ろからカミサマの声がして、振り向いた。大きな柱のようなものの上に、購買にいたイアルと、王様のように座っているカミサマがいた。ニタニタとあの嫌な笑みを浮かべながら、彼は口を開いた。

    カミサマ「さあて、全員が揃ったところで、ルールの再確認をさせてもらうよ!
     この学級裁判では、誰がクロかを炙りだしてもらう。君たちは話し合い、その結果、誰か一人を多数決でクロとして選定してもらうのさ。同数だった場合、クロを選べなかったと見なすから気をつけてね!!
     もし、クロを正しく選べたのであれば、クロだけがオシオキ、つまり処刑され、君たちは再び日常を送ってもらう。
     もし、シロをクロと間違って選んでしまったら、クロ以外の全員がオシオキされ、クロはおめでとう! 晴れて卒業となる!!
     さて、今回殺された空音鳥子ちゃんが3階で喉とお腹や胸に傷を負って発見、ルイス=サンジェス君が1階で胸に包丁が刺さった状態で発見された。
     最初から二人死んじゃったけど、頑張って二人の真相を、殺した犯人を炙りだそう!!」




    ヤオ「その前に一応、確認したいことがあるんですが、大丈夫です? 」
    カミサマ「んもー、せっかくカミサマ格好つけたのに、水差さないでよねー」
    舞々「格好つけてたんだ……」
    セツナ「そんなに普段と変わらなかった気がするけど」
    ヤオ「あはは、すみません。これはもしもの話なんですけど、ルイスさんが鳥子さんを殺した犯人で、その後彼が自殺していた場合のクロは、一体誰になるんですかね?」
    カミサマ「あー、なるほどねー。生存者にクロとなりうる人物がいないのなら、それはルールに明記した通りだよ」
    ヤオ「ああ、なるほど。最初に殺したクロが死亡した場合、次に死んだ者の犯人がクロとなる。つまり自殺した……自分で自分を殺したルイスさんがクロというわけですか」
    カミサマ「そういう事だねー」
    ヤオ「いやぁ、どうも。死亡者でも適応されるか確認しておきたくて」
    カミサマ「大事なことだねー。ま、質問コーナーはこれでおしまい! あとはルールに則って裁判を行ってね!」

     それじゃあ始め!

     パンっとカミサマの手が叩かれた。息を飲んだ。
     これから始まるのは殺し合いだ。疑い合い、お前が犯人かと揺さぶる。今日の今日まで友達で仲間だった人達を、地獄の底に突き落とさなければならないのだ。

    リナ「(……願わくば)」

     誰も犯人ではありませんように。
     そう祈るしかなかった。
    《裁判の読み方》
    コトダマ……議論を展開する上で必要となる証拠や証言。これらを使って論破する。

    ・ノンストップ議論
     みんなが話し合う中で論破できる点、賛同できる点をコトダマ、つまりは証拠を突きつけて議論を展開させていきます。
    『』内にあるのは論破点、【】内にあるのは賛同点です。

    ・反論ショーダウン
     ある事柄について反論をされるので、反論を斬り落とし、コトダマを使って反論してください。

    ・議論スクラム
     真っ二つにわかれた議論で同じ話題をぶつけて反論していきます。

    ・パニック議論
     疑われたりしてパニックに陥った人達が一斉に話し始めるので、その中にある嘘や真実を見つけ出してコトダマをぶつけて、反論、賛同を行います。

    ・理論武装
     クロがパニック状態で喋り出すので、それら1つ1つを論破していきます。最後にトドメとなる重要な言葉がアナグラムになっているので、それを解いて犯人に叩きつけます。
    レイ「それでは始めましょうか」
    菊「何があったんか、全部知らんとな」
    セツナ「そうだね、それじゃあ、何から話す?」
    舞々「えと……わかることから、でいいと思うよ」
    ネロ「そうですわね。それでは、各々の認識を一致させていきましょう」
    ノンストップ議論1《モノクマファイル1》《モノクマファイル2》《ルイスの遺体》
    ファル「《事件が起きたのは『23時20分と23時40分だ』》」
    フィオ「2人が亡くなっていたのは『娯楽施設だったね』」
    リーベ「『鳥子さんは3階』、『ルイスさんは1階で亡くなっていました』」
    舞々「えっと、鳥子ちゃんの方は確か、『出血多量によるショック死』、だったよね」
    菊「そんで『ルイスは刺殺じゃろ』」
    ヤオ「『見つけたのは龍紀さん』でしたね」
    セツナ「『リナと龍紀がルイスを見つけたんだよね』」

    リナ「(さて……不確実なのもそうだが、今そうだとはっきり言えないものを訂正しないといけないな)」
    コトダマ
    菊「そんで『ルイスは刺殺じゃろ』」

    リナ「待て、それは違うぞ!」
    コトダマ《モノクマファイル2》



    菊「……刺殺と違うんか? 包丁が、胸にしっかり刺さっとったやないか」
    リナ「いや、そうとは限らない。それはモノクマファイル2を見ればわかる。
     ルイスの死因は不明だ。つまり、現段階でルイスが何で死んだかはわからないんだ」
    リーベ「調べたところ、少し厄介な死に方をしていますからねー。今段階で刺殺かどうか、断定するのはまだ早いんじゃないですかー?」
    ヤオ「彼の死には不可解な点がいくつかありますねぇ」
    菊「そうじゃったか。すまんな、見たまんま思い違いしとったわ」
    サン「鳥ちゃんは出血多量で23時20分に、ルイス君は、原因はわからないけど23時40分に亡くなってて、最初に鳥ちゃんを見つけたのは龍紀君、だね」
    龍紀「まとめありがとう」
    ヤオ「それじゃあ、最初の議題を提案させてもらいますけどいいですかね。誰が包丁を持ち出せたのか、について、議論してみません?」
    龍紀「包丁を持ち出せた人?」
    ヤオ「はい。まず鳥子さん。彼女は数ヶ所刃物で刺された跡がありました。それからルイスさん。彼もまた、包丁が胸にグッサリ刺さって見つかってますよね。と、いうわけで、凶器は包丁であると考えてまあ、間違いはないと僕は思うんです。となると問題は、いつ、誰が、どうして、包丁を持ち出したか、ですよね」
    サン「じゃ、その包丁の謎について話そっか」
    ノンストップ議論2《包丁の本数》《首の骨折》《ルイスの遺体》《モノクマファイル1》

    菊「包丁なぁ……。夕飯の時にはどうやったんじゃ?」
    龍紀「ええ。【夕食準備段階では揃っていたわ】」
    フィオ「ごはんのあとは?」
    ネロ「確か【全て揃っておりましたわ】。少なくとも【食器を洗っていた20時頃までは……】」
    サン「その後くらいかな、僕らは『カラオケに行ったよ』」
    フィオ「包丁が揃ってるかなんて、普段気にしないし……『20時から事件までの間に誰かが持ち出した』ってことになるのかなぁ」
    ファル「……本当にそんな長い時間誰も把握してないとかあるのか」

    リナ「(20時から事件の時間まで、包丁のありかは把握していたのかどうか……。
    これはあの証言でわかることだな)」
    コトダマ
    フィオ「『20時から事件までの間に誰かが持ち出した』」
    リナ「待て、それは違うぞ!」
    コトダマ《包丁の本数》



    リナ「いや、そんな長い時間把握していないわけではなさそうだ」
    フィオ「あれ、そうなんだ?」
    リナ「あぁ。それに関してはレイが証言する」
    レイ「私が証言しました」
    舞々「そんな、農協の野菜に表示してある私が育てました、みたいに言わないでください……」
    セツナ「ということは、その間にレイは包丁の本数を確認していたんだね? 」
    レイ「勿論です。バー組がいなくなり、カラオケへは最後に入りました。そしてカラオケに入る前に私は包丁の本数を確認したのです。21時に調べたところ、全てそろっていました。もちろん、私には両方にアリバイがあり、殺害するのは不可能です。この証言の信憑性は十分だと思われます」
    浅葱「ふむ、確かに」
    星華「そうなると……包丁を持ち出せたのは誰でしょうね」

    リナ「(包丁を持ち出せた奴か。確か、あの証拠から誰が持ち出せたのかわかるはずだ)」コトダマ選択1コトダマを二つ選択せよ。
    コトダマ
    《カラオケ参加メンバー》《バーの参加者》

    リナ「確か、カラオケの参加メンバーは、フィオ、ファル、サン、セツナ、龍紀、鳥子、舞々、レイ、リーベの9人。バーの参加者は星華、浅葱、菊、ネロ、ヤオの5人だな」
    菊「それでいくと……。持ち出せたんはリナとルイスの二人だけか」
    レイ「そういうことになりますね」
    龍紀「そして、リナちゃんには舞々ちゃんとセツナちゃんと一緒に話していたというアリバイがあるから、包丁を持ち出したとは考えづらいわね」
    ヤオ「では……。消去法で、包丁を持ち出したのはルイスさん、ということで結論づきそうですね」

    舞々「あっ、ちょ、ちょっと待って……! もう一人、アリバイが無い人が……」

     声を張り上げる舞々。一体何が疑問なのだろうかと耳を傾ける。頭の中の情報を整理しながら、舞々が言うもう一人が誰なのか考察を始めた。
    反論ショーダウン1《浅葱の証言》《塗られた猛毒》《ルイスの遺体》《レイの証言》《様子のおかしいルイス》
    舞々「リナちゃんと調査したときに書いたメモを見返してたんだけど、包丁を持ち出せるのはルイス君とリナちゃんだけじゃないの。アリバイがない人がもう一人いて、自由に包丁を取りに行けた人には……星華さんもいるの」
    リナ「星華? 確かに星華は混浴場に行くし、変なことしてよくわからんちんちくりんではあるが、本当に包丁を取りに行くことができるのか?」
    舞々「あ、うん。アリバイは、ないはず。……うん、星華さんは『22時半にバーを抜け出していて』、『その後23時50分までアリバイがない』って言ってたから。だとしたら、【星華さんにも犯行はできたってことだよね】?」

    リナ「(確かに星華は途中でバーを抜け出しているし、その時間のアリバイはない。
     ……本当に、彼に殺人なんて起こすことができたんだろうか?)」
    コトダマ
    『その後23時50分までアリバイがない』
    リナ「その言葉、斬らせてもらう!!」
    コトダマ《レイの証言》



    リナ「……いや、星華は包丁を取りに行けたかもしれないが、犯人である可能性は低いし、犯人じゃないなら、包丁を取りに行ったとは考えづらいんじゃないか?」
    菊「犯人とちゃう、と思う理由はあるんか? 頭ごなしに信じるわけにも、疑うわけにもいかんきんな、そこはハッキリさせとこうや。星華にアリバイはないんじゃろ?」
    リナ「それは、星華の行動と、レイの証言にあるんだ」
    リーベ「レイさんの証言ですか? なーんですかー、レイさん何か言ったんですかー?」
    レイ「いえ。リーベさんにおっぱいを揉まれたくらいしか心当たりが」
    リーベ「リーそんなことしてませんけど。印象操作するのやめてくれませんか?」
    レイ「揉んだじゃないですか」
    リーベ「してませんって」
    ファル「《脂肪の塊揉んだ揉んでないの押し問答は今はどうでもいいだろ》」
    フィオ「もお、ファル君言い方」
    サン「はいはいそれで? 星華さんの行動って?」
    星華「はあ……お風呂の後はマッサージチェアに30分捕まってまして、50分頃にレイさんに起こされたくらいで」
    レイ「ええ。確かにその位の時間に起こしましたね」
    龍紀「……あら? あのマッサージチェアって、まさかあれ?」
    菊「あれ?」
    龍紀「あれ、一回やり始めると30分は身動き取れない状態で揉まれまくるのよー。もはや拘束具と言っても過言じゃないわよ」
    菊「龍紀が動けんなるって、えらい危ないもん置いとんやのォ」
    サン「あー、あれかぁ。僕も身をもって知ってるよぉ。むりむり、むりだよあれは」
    セツナ「外からもどうにもならなくて難儀したよ」
    ファル「《そうか。あの時面白いから放置してたが、結局なす術がなかったのか》」
    サン「えっ、ファル君ちょっとは助けようという気概を見せてよ! 素振りだけでもいいんだよ!?」
    ファル「《むしろ素振りでいいのかよ……》」
    リナ「それじゃあ確認しよう。50分に星華はマッサージチェアでレイに起こされた。レイは星華がマッサージチェアのカプセルが解除されるのを見ている。それで、あのマッサージチェアは一度入って始めてしまうと30分は抜け出すことができない。
     と言うことは、20分に星華はマッサージチェアに座っていることがわかる。このことから、星華は誰かに会っていたわけではないが、アリバイが成立していると言えるだろう」
    舞々「なるほどぉ……。それじゃあ星華さんは犯人じゃなくて……。あ! ごめんなさい星華さん、疑っちゃって……。皆も的外れなこと言っちゃってごめん」
    星華「いえ、大事なことではありませんか。ちゃんとメモをとって聞いていたからこそ埋めるべき穴を埋めることができたのですから。ですから、あなたの推理は外れてはいますが、大事なのです」
    舞々「ありがとうございます……」
    サン「つまりやっぱり、包丁持ち出したのはルイス君だった、ってことだよね。1番高い可能性は」
    フィオ「そういうことになりますね……。……ルイス君は、一体どうして……」
    浅葱「それはわからん。ワシらはルイスではないからの。して、包丁を持ち出せたのがルイスとして、どうして鳥子とルイスが死んでおる?」
    菊「ルイスの死と鳥子の死、どう結びつけたもんか」
    セツナ「自殺の道連れに選ばれたのかもね」
    リナ「……冗談でも笑えねえよ」
    セツナ「そうかな? よくある話だよ」
    星華「では、ルイスさんは元から誰かを殺して自分も死ぬつもりだったんでしょうか?」
    ヤオ「さあ、どうでしょうねぇ。死人に口無しと言いますから」

    リナ「(ルイスが誰かを道連れに殺しをするような奴だっただろうか? そもそもアイツは、誰かを殺すつもりだったんだろうか。……それは、あの証拠でわかることだ)」コトダマ選択2 ルイスはどうして包丁を持ち出したのかわかるコトダマを選べ。
    コトダマ
    コトダマ《ルイスの遺書》

    リナ「……ルイスは誰かを殺すことは考えていなかったと思う。それは……アイツの遺書が全てを物語っているからだ」
    菊「遺書ォ!? 何でそんな大事なもん、最初から出しとかんかったんや!?」
    リナ「誰かが殺してそれを自殺に見せかけた、という可能性を考えたんだ」
    サン「石橋めっちゃ叩くぅ」
    レイ「なるほど。遺書の偽造は確かに可能性としてはありますからね」
    リナ「けど、包丁を持ち出したのはルイスだ。その時点で、どちらかというと殺意のある行動をしているのはルイスの方だ。アイツはただの被害者ではない。それなりの行動をしている。それならば、ルイスのこの遺書は、本物と考えていい」
    星華「なるほど。わかりました」
    ネロ「……遺書を……」
    フィオ「遺書なんか、よっぽどじゃないと書いたりしない……よね……」
    ファル「……」
    浅葱「……読んでみ、娘っ子」
    リナ「……ああ」

     懐にしまっていたルイスの封筒を取り出す。少し血で汚れた封筒から、紙を取り出した。そしてそれを読み上げた。

    『この手紙を読んでるってことは、僕は死んだってことだね。
     これは、僕の遺書だ。僕は自分の意思で死んだ。そのことをちゃんと表明しておこう。そして、みんなに伝えたいことを書こう。
     
     舞々ちゃん、好きな人への愛情は重いけれど、それでも、君のその愛は見ていて悪いものじゃなかったよ。もう少し話を聞いていたかったな。

     レイさん、君はここでもすごくおちゃめで、優しくて、強い人だったね。僕は君のそういう所が好きだったよ。

     龍紀君、君の料理、すごく美味しかった。とても優しくて、とてもポジティブで、一緒にいてとても心地がよかった。

     菊さん、豪快に笑うしよく話すあなたといると楽しかった。お酒を一緒に飲める年になれなくて残念なくらい。次会う機会があるのなら、その時また話したいな。

     リーベちゃん、君は厳しいけれど、努力家で、本当に賢くて、とても真面目でいい子だね。悪ふざけも、いたずらも、面白かったよ。

     ヤオさん、薬ありがとう。おかげでまだ体が楽になれたよ。お世話になりました。あなたの植物の知識、もっと聞きたかったな。

     セツナ君、色々ごめんね。ありがとう。とても器用で、賢い君のことだから、きっと生きていける。頑張って。

     鳥子ちゃん、お菓子とかくれてありがとう。のんびり屋さんの君といると心がとても安らいだよ。どうか、君は君のままでいて欲しい。

     星華さん、コーヒーとお菓子、とっても美味しかった。あなたはとても不思議な人で読めないところは多かったけれど、優しいのに変わりはなかったよ。

     浅葱さん、最も年上であるあなたにたくさんの弱音を吐いてしまった。それでも、僕を受け入れてくれて、慰めてくれてありがとう。

     サン君、君はいつも明るくて、みんなに笑ってもらおうとたくさんのことをしてくれた。おかげで僕は沢山笑えた。そして、仲良くなれた。ありがとう。

     ネロさん、僕の変化に気づいて、気遣ってくれてありがとう。あの時ひどいこと言ってごめんなさい。本当は気遣いが嬉しかったし、優しさが大好きだった。

     フィオちゃん、僕とお話ありがとう。君は才能通り優等生と言える子だったね。優しい君だから僕のことは負担になるかもしれないけど、ごめんね。

     ファル君、君の人形は素敵なものばかりだった。僕そっくりな人形を作ってくれてありがとう。君は器用な人だ。フィオちゃんと、仲良くね。

     リナちゃん、今までありがとう。これは僕のわがままで、もう支払うことが出来ないけれど、僕が死んだ後のこと、よろしくね。

     
     僕は博士に作られた普通の人間をもとに、アブノーマル魔族と呼ばれる人の高い身体能力を無理に詰め込まれた継ぎ接ぎだらけの合成人間、と言った存在なんだ。
     特殊な能力と、ある副作用を持たされた。その副作用は、自分の意思とは関係なく、誰かを殺したくなる衝動。これを、博士は殺人衝動と呼んだ。
     この衝動に抗うのはとっても辛くて、とっても苦しい。けれど、これは抗って当然なものなのだろう。
     殺人衝動に従えばとても体が楽になる。その代わり、とっても心が苦しくなる。薬が手放せない程に、僕は、この衝動に追われているのに、殺した僕は、ただの加害者になるしかない。そんな思いを、軍に入ってからずっとしてきたんだ。
     どうしてか、何でか、僕は、この殺人衝動に駆られる回数が増えたんだ。
     もし薬が効かなくなったその時、僕はルールも何もなく、誰かを殺し続けると思う。
     だから、睡眠薬を飲んで昼間も眠るようにしていた。眠ってしまえば、発作は起きないと思ったから。けれど、睡眠薬もだんだん体が慣れてしまって、効かなくなって、気がついたら部屋中が荒れ放題になって僕はわかったんだ。眠ることさえ、僕の発作は抑えられなくなったんだって。
     僕はみんなを殺したくない。でも、この衝動に抗い続けて生きるのは、全身を長くて細い針に刺され続けるように、内臓をぐちゃぐちゃにいじくり回されるように、頭の中がとっちらかって、誰が見えるのかさえわからないくらいに、辛いんだ。そしてきっと、いつか、抗えなくなって誰かを殺してしまう。
     結局、僕は殺す以外の選択肢がないんだ。だから僕は、僕を殺す。ちゃんと自殺する。裁判もすぐ終わるよう、ちゃんとわかる形で死ぬ。だから安心して。僕は、みんなを殺さない。みんなに生きて欲しいから、僕は死にます。
     どうか、みんなは生きて、おうちに帰って欲しい。僕の代わりにどうか、生きて欲しい。これが僕のお願いです。
     迷惑かけて、ごめんなさい』

     読み終わる。インクが滲んだ文字が、震えた文字が、乱れている文字が、彼が、どんな思いでこの遺書を書いたか物語っていた。
     しばらく考えて、言葉に出す。

    リナ「……なあ。アイツはさ、確かに頭の回転は遅かった。けど、一番さ、誰か困っている人がいないか、寂しい人がいないか、って周りに気を使って動いていた。優しすぎる奴だった。
     アイツはイベントに参加しなくなった。あたしらが笑って楽しんでいる間、アイツはずっと1人で部屋で眠って、誰かを傷つけまいとした。苦しいと言っている殺人衝動が、ずっとアイツの中で渦巻いていたら?
     アイツの部屋を見ただろ? 血だらけで、爪がもげる位壁ひっかいて、傷ついて! ずっと何も言わずに、1人で、独りぼっちで耐えてきたんだ。
     ……なあ、あたしは、知りたいよ。何がアイツを殺したのか」

     何でそこまで、苦しい思いをしなければいけなかったのか。それを知らないといけない気がする。

     そう言葉にする自分の声は、震えて、掠れていた。

    セツナ「それは議論が必要なこと?」

     静まり返った裁判場で、セツナの言葉が聞こえてくる。相変わらずの顔を見ながら、頷いた。

    リナ「ああ、必要だ。ここは裁判場。何で死んだか、何が殺したか、どうしてそんなことをしたかも含めて明らかにすべきだ」
    セツナ「君が知りたいことは遺書が教えてくれたじゃないか。ルイスは殺人衝動に悩んで自殺した。それで話は終わりでしょ?」
    リナ「いいや、あたしは納得がいかないな。ルイスは独りぼっちで苦しんで死を覚悟した。なぜ殺人衝動が暴走した? 前は大丈夫だったっていうのによ」
    セツナ「前は大丈夫でもずっと大丈夫とはいかなかったんでしょ。そんなに掘り下げたいの?」

     そんな風に押し問答していると、ぽつりと、龍紀が口を開く。

    龍紀「……私は、知りたいわね。どうして殺人衝動に駆られるようになったのか」
    セツナ「龍紀もか」
    龍紀「直接は関係しないことかもしれない。けれど……それがもっと根深くて、悪意のあるものが原因だったら、と思ったら……それも含めて考えなければいけない気がするわ」
    星華「しかし、話がそれることも考慮すると……」
    サン「まあ、いーんじゃなーい? 僕は賛成だよ。ルイス君の死には、なんというかー、悪意みたいな? そういうものを感じるし」
    菊「話しとこうや。全部知らんとスッキリせんじゃろ」
    ファル「……《好きにしてくれ。僕はそれに従おう》」
    フィオ「私も話し合っておきたいな。どうしてルイス君がそうなってしまったのか知らないままじゃ、この事件はちゃんと解決しないって、思うの」
    セツナ「皆が話し合いたいなら、留め立てはしないけど」
    ヤオ「そうですねぇ、時間には余裕がありますし、話しましょうか」
    リナ「……ああ。はっきりさせよう」

     何が、ルイスを殺したのかを。
    ノンストップ議論3《薬の注文票》《ルイスの遺体》《壊れた手すり》《購入履歴》《床の傷》

    セツナ「ルイスを何が殺したのか……ね。『遺書にある通り』でいいんじゃないの?」
    ファル「《アイツを殺したのは、確かにその殺人衝動とやらだ。けど、『最初から持っていたことで自殺するか?』》」
    フィオ「そうだよね、私も【殺人衝動だけが原因じゃない】と思う」
    ネロ「その殺人衝動を止める手立てはありませんの?」
    レイ「『抑えることはできます』が、【一度始まるとなかなか止まりません】」
    星華「抑えることができたのであれば、『抑えられるものがなかったのでしょうか』」
    サン「えっ、じゃあ【気合いでなんとかしてきた】の?」
    セツナ「根性論でどうにかできるものなら無いも同然だね」
    フィオ「じゃあ、その『衝動が起こるきっかけが増えたとか? 』」
    菊「きっかけなぁ……。レイ、お前は心当たりあるか?」
    レイ「すみません。私も殺人衝動の発作がある位しか。始まるきっかけは、【特にこれと言って心当たりがありません】」
    浅葱「ふむ。何故殺人衝動なんざ起きたんじゃろうなあ……」

    リナ「(何がアイツを殺した。……その一つ一つを丁寧に紐解かなければ、見えてこない)」
    コトダマ
    星華「『抑えられるものがなかったのでしょうか』」
    リナ「待て、それは違うぞ!!」
    コトダマ《購入履歴》

    リナ「……ルイスは対策を何もしなかったわけではないし、最初から変だったわけではない。それはこの購入履歴が物語っている」
    星華「それは……購入履歴、ですか?」
    リナ「ああ。ここには色んな奴がどんなものを買ったのかが載っている」
    星華「私が変なもの買っているのがばれるじゃないですか」
    舞々「変なものを買ってる自覚はあったんですね……」
    リナ「ルイスは初日から毎日のように買っているものがある。それが薬だ」
    ヤオ「……薬? 初日からですか? 他に飲んでいるものがあったなら、言ってもらわないと困るんですけどねぇ」
    リナ「ああ。レイは発作を抑える薬と言っていた」
    レイ「……ええ。これは彼の発作を抑える薬。……つまり、殺人衝動を起こしづらくする効果がある薬ということです」
    龍紀「レイさんは知っていらしたのね……」
    ヤオ「へえ、こんな薬は初めて知りましたが……。いやあ、興味深い」
    セツナ「その薬が効かなくなっちゃったんじゃないの?」
    レイ「そんなはずは。それはかなり特殊な薬で、我々を管理する博士にしか作れませんし、かなり強力でした」
    セツナ「環境の変化によるストレスで何らかの影響があったとかは?」
    レイ「いいえ、彼にとって逆のことでしょう。……ここの方が、地獄よりははるかにマシで楽しい場所ですから」
    龍紀「……でも、セツナちゃんの言っていること、間違っていない気がするのよね。ルイスちゃんは毎日飲んで殺人衝動の予防をしたのかもしれない。でも、現に彼は、殺人衝動が起こる回数が増えたせいで自殺を覚悟せざるをえなかったわ」
    菊「ほんなら、なんでルイスは殺人衝動に駆られるようなったんかの」

    リナ「(殺人衝動に駆られるきっかけとなったもの。……それは、あの証拠からわかるはずだ)」コトダマ選択3 ルイスがおかしくなった根拠となるコトダマを選択せよ。
    コトダマ
    《薬の注文票》

    リナ「……それはこの薬の注文票からわかるんじゃないか?」
    菊「薬の注文票……ヤオのか?」
    ヤオ「ああ、そうですね」
    ファル「《いや、なんで毒薬作ってんだよお前》」
    フィオ「えっ、毒薬……?」
    セツナ「ああそれ。僕があの人に飲んでもらおうと思って頼んだんだけど、効かなくて残念だったよ」
    カミサマ「あー、あれでしょー。飲んだとたんに喉の底から血があふれだす感覚と血管が沸騰するような痛みは最高だったよ。最高にまずい毒薬でなお興奮した」
    サン「毒の食レポかー。新鮮だねー」
    星華「毒のソムリエかなんかですか」
    リナ「まあ、それは置いておく。とにかく、もう一つの注文した履歴を見ると、5日目の夜からルイスは睡眠薬を注文し始めているんだ」
    リーベ「5日目と言いますと……あー、あれですか、カミサマがテーブルに乗って偉そうなこと言ってきた日」
    菊「そういやそんなこともあったなァ……けど、あん時ルイスは何とも無かったじゃろ? 自分から見せたくらいに、微笑ましい内容の……」
    リナ「けど、あれを見た時からルイスの様子がおかしかったのは確かだ」
    星華「……たしかに、彼は初日からとても友好的で積極的にイベントに参加しました。得手不得手関係なく、誰かと何かをすることを大事にしているように見えました。けれど、6日目から彼は参加せず、夕食以外で顔を見ることはあまりなかったも事実です」
    サン「つまりー? それが実はルイス君にとっては発作の原因になりうるものだったってこと? でも別に嫌な記憶じゃないってルイス君言ってなかった? 」
    ネロ「……思い出してしまったのですわ。恐らくですけれど、あの思い出をきっかけとして、数珠繋ぎに……思い出したくもないことを……」

     ネロがポツリと言う。彼女の顔は悲しそうだった。何かを知っている。そんな表情に、思えた。

    フィオ「思い出したくないこと、ですか……?」
    ネロ「ええ。……わたくしは、研究棟でルイスさんのことを調べておりましたの。何か隠していらっしゃるようでしたから、少々気になりまして。……そうして一冊の本を見つけたのですが……。……そこには彼の、過去と発作について書かれておりましたわ。……惨憺たる、害意にまみれた……文字通り記憶から消し去りたいような過去でした。痛ましく、筆舌に尽くしがたい……ルイスさんは恐らく、過去を忘れることで発作を抑えていたのですわ。そして薬は、思い出さないためのものだったのだと思うんですの」
    リナ「……ネロ?」
    ネロ「もっと早くに気付けていたなら……あの時見るのを制していたなら……。もしかしたら、違った結末であったかもしれないなどと……今更仮の話など、無駄であるとは思うのです。けれど……」

     つうっとネロの目から一筋の涙が零れ落ちた。彼女は彼の死に酷く胸を痛めているのがわかった。とても悲しんでいる。何を見たかわからないが、口にできないほどのものだということが察せた。彼女は言葉を続ける。

    ネロ「彼の発作の引き金となるのは、大きなストレス。強い怒りや悲しみをきっかけに、発作を引き起こすのですわ」
    フィオ「強い怒りや悲しみ……」
    星華「……」
    レイ「……」
    ネロ「……わたくしの考察を述べさせていただきますわね。ルイスさんの薬は記憶に蓋をしておくためのもの、あるいはストレスを和らげるためのもので、これによって、事の発端となる5日目まで、彼は発作に悩まされることはありませんでした。けれど5日目の夜、カミサマに配られたものはそれぞれの思い出で、それをきっかけに、ルイスさんは思い出したくもないことまで思い出してしまったのですわ。……だからもう薬は役に立たなくなってしまった。蓋をされていた中身を、知ってしまったのですから。……これが彼を殺したものの正体であると、わたくしは思います」
    リナ「……。……思い出が、人を殺すのか」
    ネロ「あくまで憶測であるということをご理解くださいませ。……できれば間違っていたほうが良いのですけれど。幸せな思い出が、彼にとっては猛毒であったなんて、あまりにも……」
    舞々「そんな……」
    菊「惨い話じゃな」
    ヤオ「なるほどなるほど、そういうわけですか。確かに短期記憶障害の方がひとつのきっかけから全てを思い出す、というのはよくあるケースですねぇ」
    セツナ「……君はこうなるとわかってて渡したんでしょ?」

     セツナの言葉に、カミサマはにっこりと笑う。悪意がこもっていて、ぞわっとする瞳を見て毛が広がるのを感じた。椅子をギイギイ言わせながらカミサマは言う。

    カミサマ「ばっかだよねー、カミサマだよ? 殺し合いさせたがっているんだよ? ただの無害なものなわけないじゃんか
     大多数はこんなもんじゃ殺人はしないとわかっていたよ。ただの思い出だもの。これは、思い出だよ? その人の楽しかった、愛おしかった思い出だ。
    『弟との思い出』を彼は忘れてた。弟のことすら忘れてた。だって、弟のことと一緒に思い出しちゃうからね! 幼少期の大好きな弟に対しての差別も、村人達の自分に対しての異常な崇拝も、実験体にされたことも、顔がいいからイタズラされたことも、弟を庇った分ひどい仕打ちを受けたことも!
     痛かっただろうなあ、怖かっただろうなあ。まだ小さい子供だった彼を、大の大人たちがよってたかっていじめてさあ!! 弟庇った分余計にひどい目にあっちゃってさあ!! 泣いたって誰も止めてくれないのに泣いちゃってさあ!! それなのに弟はお兄ちゃん置いて逃げちゃうしさー! あーあー、なーんて可哀想なんだろうねー、悲劇なんだろうねー、忘れたいねー!!
     ……そんなことをせっかく忘れたのに思い出すなんて馬鹿だよねー。思い出した分、心の痛みがぜーんぶ置き換わっちゃうのにさあ」

     だから言ったでしょ?
    『見ない権利もあるよ』って。

     その言葉が吐かれたとたん、ガンっと強い打撃音が響いた。見ると、浅葱が怖い顔をしてカミサマを睨んでいる。証言台が浅葱の煙管によって焦げ、いつもの甘い香りに混ざって木が焦げる臭いが漂った。
     低い声で浅葱は口を開いた。

    浅葱「……なんちゅう地獄を見せとるんじゃ、主は」
    カミサマ「えー? 彼が勝手に見た地獄のことなんてカミサマ知らなーい。なーに怒っているのかなー」
    浅葱「ルイスの心を殺したのは、主が渡したその動機のせいじゃないか! こうなるとわかっておってわざと見せたんか!!」
    カミサマ「だーかーら。カミサマは強制的に見せたわけでも、みんなの害にしかならないこと言ったわけでもなくてー、たまたま、ルイス君にとってこれは思い出したくない思い出までぜーんぶ思い出しちゃうものでー……。カミサマなーんも悪いことしてないモーン」
    サン「ヤバぁい、こんな悪意ある言い方、誰にでもできる芸当じゃないよ」
    龍紀「……こんな凶悪な人、初めてだわ」
    レイ「……」
    菊「おいレイ、お前えらい顔色悪いぞ。大丈夫なんか?」
    レイ「すみません……。彼の煽り聞いていたら……私も嫌なことを思い出してしまって……」
    菊「……聞かんでええ、アレの口からは悪意しか出てこんけんな」
    リナ「……っ」

     なんて言葉にしたらいいかわからない。もっと警戒すべきだったという後悔と、全てわかっていた上で配布したという悪意に対しての怒りが入り混じる。
     ルイスを殺したのは、ルイスの思い出だ。楽しかった思い出にくるまれていた、たくさんの悪意と、彼自身の心の痛み。彼を殺したものは、彼の思い出であるとこの男ははっきりといった。わかってて寄こしたことも。
     ああ、胸が痛い。痛くてたまらない。あの時、もっと警戒すべきだったんだ、もっと考えるべきだったんだ。そう思っても、悔やみきれない。何故なら、もう彼はこの世からいなくなってしまっているのだから。

    リナ「……わかった。もういい、わかった。アイツを殺したものが何かわかった。……お前だ、GM。お前が、アイツの心を殺したんだ。
     ……いい、納得した。アイツに包丁を手に取らせたのが誰かわかっただけいい」
    カミサマ「え? 本当にそう思っているのなら違うよ? カミサマは確かに動機は配ったよ。でもね、でもね、この中に、本当に彼に包丁を手に取らせた人がいるって言ったら?」
    菊「ええ、ええ、黙っとれ。1番の原因がお前にあるんは確かやからな」
    カミサマ「わーん」
    イアル「……お前、裁判に口出しし過ぎだ。もう少し黙っておけ」
    カミサマ「えー、けっちくっさー。まあいいよ。いずれわかることだしさ」
    リナ「……」

     カミサマのにたにたと笑った顔が不気味で、ゾッとした。唾を吐き捨てたくなるような悪意に、舌打ちをした。
     こほん、とヤオが咳払いをする。

    ヤオ「さて、ルイスさんの行動の要因には皆さん納得いきましたよね? 次の議題に移りましょっか」
    フィオ「……鳥子ちゃんを殺したのが誰か、ですか?」
    菊「包丁持っとったルイスじゃろ」
    セツナ「そうとも言い切れないね。もしかしたら、もっと別の真実とやらが隠されてたりするかもしれない。考えられることは考えておけばいいんじゃないかな」
    舞々「……包丁を持ってたからって、ルイス君が殺したとは限らない、ね。確かに……」
    ファル「《しょうがない。次はそれについて話し合おうじゃないか》」
    ノンストップ議論4《首の骨折》《壊れた手すり》《モノクマファイル1》《様子がおかしいルイス》《死体発見アナウンス》

    星華「つまり、こういう可能性があるのではないですか? 『ルイスさんが持っていた包丁を奪い取って鳥子さんを殺害し、ルイスさんも殺害をしたのではないかと』」
    菊「そりゃあ、えらい無茶苦茶な奴じゃな」
    サン「普通のひとが【そんなことをしようと思うはずない】けどねー」
    セツナ「とはいえ『自殺するはずのルイスと一緒に鳥子が死んでいた』ことは事実だけどね」
    龍紀「どちらかといえば……『ルイスちゃんが鳥子ちゃんを何らかの理由で殺した』のが自然だと思うのだけど……」
    ヤオ「まあそうですねぇ。僕もそう思うんですけど、【ルイスさん以外に鳥子さんを殺せる人がいる】現状では、そのまま進めるわけにもいきませんから」
    リーベ「そんな人物いましたかね」
    ヤオ「いるじゃないですか。【龍紀さんとネロさん】が」
    龍紀「え、わ、私!?」
    ネロ「……そうですわね、疑われても仕方がありませんわ」
    リーベ「はあ? 何を根拠に言っているんですか」
    ヤオ「根拠もなにも、単純に、【お二人にはアリバイがありません】から。『龍紀さんは1人で探し物をしていて、』『ネロさんも1人研究棟で調べもの』でしたっけ? 証明してくれる人がいなければ、『その時間本当にしていたことはわからない』んですよ、困ったことに」
    ファル「《2人には確かに『鳥子が死んだ時間のアリバイがないな』》」
    サン「あっ、じゃあ可能性でいえばさ、【鳥ちゃんがルイス君から包丁奪い取って刺した】こともありえちゃうよね」
    菊「どういう状況なんじゃ、それは……」
    レイ「胸や腹を刺した後に首を裂く……。【私であればギリ可能かと】」
    菊「いやちょっと『流石に無理』やと思うぞ」
    リーベ「あの食べること以外考えてなさそうな人がそんなことできるとは思えませんけど」
    星華「どちらにせよ、『可能性としては考えるべきではありますね』」

    リナ「(今の会話……本当にそんなことが言えるんだろうか?)」
    コトダマ
    ファル「『鳥子が死んだ時間のアリバイがないな』」
    リナ「待てよ、それは違う!!」
    コトダマ《死体発見アナウンス》



    リナ「……龍紀にははっきりと鳥子を殺した犯人じゃないと言える証拠がある。それは死体発見アナウンスだ」
    サン「死体発見アナウンスかぁ、あれでしょ? 死体が発見されました! ってやつ。あれ流れたとき心臓がキュッ! ってなったんだよね……」
    ファル「《そのまま止まればいいのに》」
    サン「ファル君辛辣ぅ」
    菊「そのアナウンスで龍紀が犯人と違う言えるんは何でや?」
    リナ「あのアナウンスは3人が死体を発見すると流れるとルールに明記されていた。
     もし、龍紀が何らかの理由でその時間にその場にいたとするなら、鳥子の死体を見ることとなるだろう。彼が23時40分に鳥子の死体を見ていたとするなら、時間が経った0時半近くに、彼単体で見つけて放送が鳴るってことはないだろう? 彼が最初に見つけたのに、彼が三人目に見つけた人にもなっているのはおかしいだろ? だとすると、単体で見て鳴ったのなら事件当時、彼はその場にいなかった、と考えるのが当然なんだ」
    舞々「そっか……。龍紀君が犯人だとすると、そこで矛盾が起きるんだね」
    セツナ「あの人がミスを犯してなければね」
    カミサマ「疑り深いなあ。カミサマは間違えていないもん、放送はちゃーんと、死体発見から5秒以内にかけているからね!!」
    ヤオ「なるほど。それじゃ、確かにアナウンスは流れたので、龍紀さんは潔白だとしましょうか」
    龍紀「よかったわ……アナウンス無しで証明しろと言われたら何も無かったから……。運が悪かったのかよかったのか……」
    セツナ「よかったね、龍紀」
    龍紀「ありがとう、セツナちゃん……」
    フィオ「でもそうなると……」

     フィオは不安そうな目をネロに向ける。ネロは静かに、悲しそうな顔をしながら立っている。こくりと頷いた。

    ネロ「……ええ、わたくしには自らの潔白を証明する手立てはありませんから……疑われて当然ですわね」
    リーベ「……ネロさんは違うと思うんですけど」
    浅葱「普段の人柄等を除いて考えよ、娘っ子。残念じゃが、ネロは充分怪しい人物として検討する必要がある」
    龍紀「でも……ネロさんそんなことするとは思えないのよね……」
    ファル「《あんたは殺す理由を表に表すのか? 案外人ってもんは腹の中に何を隠しているかわからないものだぞ。秘密を守るためなら、笑顔の仮面をつけて、殺すまでする、ってことはよくある話だ。表の顔だけしか知らないのなら、あまり安易に感情論を入れるべきじゃない》」
    サン「ファル君の考えるよくある話ってめちゃめちゃ怖いね。ファル君は、もうちょい人を信用していいと思うよ」
    ファル「《僕はフィオ以外信頼しないし、石橋は叩き壊すタイプだからな》」
    サン「あちゃあ」
    舞々「でも……本当にネロさんにできたのかな……」
    リナ「……さあな。だが、言えるのは、ネロだけがその時間にアリバイがなかった。それだけだ」
    舞々「……」

     これが真であろうとなかろうと、生きるためには全ての可能性を考えなければいけないのだ。
    ノンストップ議論5《床の傷》《薬の注文票》《モノクマファイル1》《ルイスの遺体》《首の骨折》《現場に入れないネロ》
     
    ヤオ「誤解のないよう言っておきますが、僕は別にネロさんが犯人だと断言しているわけじゃないんですよ。あくまで【ネロさんも犯人である可能性がある】と言ってるだけなんです」
    フィオ「じゃあ、ネロさんには犯行は無理だったって言えれば……」
    菊「ネロに犯行な。『無理じゃわ』」
    リーベ「そうですよ。『大体ネロさんがルイスさんから包丁を奪い取れると思いますか?』」
    レイ「ルイス上等兵程度の戦力でしたら、【ネロさんでも包丁は奪い取れたのではないかと推測できます。】彼は、脳筋なので」
    星華「脳筋だったんですか」
    舞々「んん……ルイス君が鍵かけちゃってたとかで……【ネロさんは娯楽施設に入れなかったとか……?】」
    ファル「《『娯楽施設に鍵はついていなかっただろ』》」
    サン「【ネロさんに刺す理由なんかないよね】」
    星華「刺す理由がないかどうか、【他人の我々にはわからないものです】」
    菊「【実はアリバイがありました】とかいう、わかりやすい証明ができたらええんやけどのォ」
    浅葱「そんなもんがあったなら、『とっくに考えているの』」

    リナ「(ネロに犯行は可能だったかどうか、それはこのことからわかるはずだ……)」
    コトダマ
    舞々「【ネロさんは娯楽施設に入れなかったとか……?】」
    リナ「それに賛同しよう」
    コトダマ《現場に入れないネロ》



    リナ「……そうか、ネロはそもそも現場に入っていないんだ」
    舞々「へっ? でも鍵は……」
    リナ「いや、そんな方法ではなく、もっと単純に、入っていたらおかしいことがいくつかあるんだ」
    セツナ「ふーん?」
    リナ「ネロは捜査の時、現場に1歩も入らなかった。……いや、入れなかったんだ」
    ヤオ「入れなかったとは?」
    リナ「ネロは血が大の苦手なんだ。菊が止める程に、ダメなんだ。どのくらいダメかはあたしは知らないが」
    菊「ああ、いかん。絶ッ対にいかん。ネロに血ぃ見せたらいかんぞ。命かけてでも止めるぞ」
    サン「そんなに?」
    菊「そんなに」
    レイ「……思い返せば、過去にクマを狩った時も、菊さんにネロさんに血を見せるなと強く言われた覚えがありますね」
    舞々「クマを……?」
    ネロ「調査のお役に立てないのは本当に心苦しいのですが……本当に血だけは……」
    リーベ「ネロさんにそんな弱点があったんですねー」
    ネロ「弱点……。そうですわね……詳細はお伝えできませんけれど、血を見れば大変な迷惑をかけてしまうでしょうから、見るわけにはまいりません」
    リナ「まあ、そんな感じで、血を見ないように気をつけているってわけだ。そんなネロが、わざわざ包丁を奪って刺し殺す、という手段を選ぶとは思えないんだ」
    浅葱「ふむ……そこまでだというのであれば、刺し殺すは手段として不適切じゃろうな」
    セツナ「……よく考えてみたんだけど、もう少し簡単にわかることがあるね。あれだけ刺して返り血を浴びてないのはおかしい。誰にも見つからないように処理しないといけない」
    サン「あー、そうだね。処理するとなると、焼却炉は使われてなかったし違うと思う。洗ったってわけでもなさそうだし……」
    レイ「血液はそう簡単に落ちませんからね。10分そこらで落ちませんし、血の匂いは付着し続けます」
    リナ「おう、おかげでお前の臭いのイメージは血液だ」
    星華「なるほど。
     では、お二人には無理だったと結論付け、整理しましょう。
     リナさん、舞々さん、セツナさんは食堂で会話をしていました。
     ファルさん、フィオさんは家庭科室でお話をしていました。
     サン、菊さんは家庭科室前で会っていました。
     龍紀さんはお部屋でリングピアスを探していました。
     ネロさんは研究室で探し物をしていました。
     ヤオさんと浅葱さんは庭にいました。
     レイさん、リーベさんはお風呂に入っていました。
     私はマッサージチェアに捕まっていました」
    セツナ「そこから言えることはひとつだね」

     微笑むセツナの顔を見て、ため息が出た。そうだ。言えることは一つしかない。

    「鳥子を殺したのはルイスで間違いない」

     その結論は、あまりに救いがないと思った。だが、考えれば考えるほど、その結論に至るのだ。シンっと静まり返ったその裁判場に、セツナの声が響く。

    セツナ「殺した理由を直接聞くことはできないけど、ここまで来ればある程度推測できそうだね」
    リナ「……」
    コトダマ選択4 どうしてルイスが鳥子を殺したのかわかる証拠を提示せよ。
    コトダマ
    《ルイスの遺体》

    リナ「……アイツの体は……血だらけだった。口元にも血が飛び散っていて……あれは、アイツがケガをしてついたもんじゃない。誰かの肉を、噛みちぎって飛んだ血だ」
    舞々「……」
    ヤオ「確かに、ルイスさんの口腔内は真っ赤でしたね。ただの吐血などであればあれほどには至らないと思いますよ」
    菊「ルイスは鳥子の喉を噛みちぎり、包丁で何度も刺した……ちゅうことか。つまりアイツは……」
    浅葱「……我慢、できなくなってたんじゃろうな。自身が死ぬという覚悟の前に、死ななければならないと思っている悲しみの前に、その悲しみで発作が起きておって、そこに誰か、おったのであれば……」
    セツナ「我慢って、良くないよね。カップにギリギリまで入れた紅茶がちょっとした衝撃で溢れちゃうみたいにさ。積もりに積もったルイスの我慢も、崩れちゃったみたいだね。鳥子がそこに来たってだけで」

     かわいそうだね。
     そう、セツナは微笑んだ。
     笑う彼の顔を見て、心底ぞくっと何か得体のしれないものに対しての恐怖が走る。なんとなく、顔がよくて、何でもできて、気に食わないし親に似ている何かを持っている気がして避けていた。けれど、それはなんとなくで、彼はいつだって、無害な子供だった。
     違う。
     何かが、違う。
     そして一つ、あることを思い出した。コトダマ選択5 セツナが関係する証拠を選べ。
    コトダマ
    《塗られた猛毒》

    リナ「……セツナ」
    セツナ「どうしたの?」
    リナ「何でお前がヤオから買った毒薬が包丁に塗られていた? なんでお前がGMに飲ませた毒薬の小瓶がルイスの部屋にあった?」
    セツナ「なんでって……」
    リナ「答えろ、セツナ。お前は、いつ、ルイスに毒薬なんてものを渡した」
    セツナ「そう捲し立てないで、ちゃんと答えるよ」

     セツナはにっこりと、微笑んだ。その笑顔は子供らしく、かわいらしく、耽美で、それでもって、水を上からぶっかけられたように冷たかった。

    セツナ「昨日の夜の話だよ。誰もいないはずの食堂で誰かの呻き声と変な音がしてたから、気になって少しだけ覗いてみたんだ。そうしたら、ルイスが1人で蹲っていた。口の周りは血に濡れていて、左手はぐちゃぐちゃになっていて……自分で自分の左手を食べていたんだ。
     驚いていたら、ルイスが僕に気付いてね。泣きながら身の上を話してくれた。苦しいとか、殺したくないとか、どうしたらいいかわからないとか、何度も何度も言っていたから、だから僕は僕なりに考えて、教えてあげたんだ。どうしたらいいのかを。
     殺すのも嫌で、苦しいのも嫌なら、死んだらいいんじゃない? って言ったら、ルイス、ひどく驚いていたな。でも僕にはそういう解決策くらいしか見つけてあげられなくてね。それから部屋に毒薬があったのを思い出して、使うならあげるよって、渡したんだよ。それだけ」

     何も悪びれる様子もなくセツナはそう言った。彼が言っていることが理解できそうでいて、理解ができない。星華は眉を寄せた。

    星華「……自殺を促した、というわけですか」
    セツナ「そうだね、可哀想だったから」
    リーベ「……なーんでセツナさんが買ったはずの毒薬をこの人持っているんだろう、と思ったんですけど、あなたがあげたんですか」
    菊「何で言わんかった?」
    セツナ「どうして言ってあげなくちゃいけないの? ……それに悪いんだけどね。君達がそんな顔をする意味がわからないんだ。ルイスに殺されたかったというのなら話は変わるんだけど」

     ニコニコとしたままのセツナを見たまま、皆黙り込む。間違ったことは言っていない。結果的には間違っていない。けれどそれは結果的にあり、もし、自分がその場にいたのであれば、苦しいと泣いてる彼に対して、「死ね」と言えるのだろうか。そう考えてしまう。
     浅葱が甘い煙をため息と共に吐き出す。呆れたような、その緑色の目でセツナを見たまま口を開いた。

    浅葱「……主はまだ子供。善悪、そしてそれが正しいかどうかが問題ではないということを言ったところでまだ理解ができないのじゃろう。
     じゃが、それを飲み込むには……あまりにも残酷じゃな、その言葉は」
    セツナ「残酷。……うん、君達にとってはそうなのかもね」
    浅葱「……傷ついたとしても、我慢しておったのかもしれん。主を傷つけぬよう。それはルイスにしかわからんことじゃ。
     どいつもこいつも、黙っとったらわからんじゃろ、言葉にしないとわからんじゃろ……」

     浅葱のため息混じりの声がだんだん小さくなる。目を伏せ、彼女は煙管を吸った。菊は腕を組んだまま渋い顔をしている。

    菊「……ルイスはセツナの言葉で自殺を思い立ち、毒薬を受け取って、包丁用意して、それにもらった毒塗って、娯楽施設で死のうとしとったとこに鳥子が来て……鳥子を殺して、自分で自分刺して、落っこちた……。こんなとこか?」
    レイ「……救いようのない、話ですね」
    フィオ「……」
    ファル「……」
    サン「相談……してくれたならさ……もしかしたら、何とかできたかもしれなかったのに……僕らの魔法とかでさ……。ままならないね……」
    ネロ「……」

     誰もが、口を閉ざした。誰もが、救いのない話にため息をついた。フィオや舞々は涙を滲ませている。星華達は眉を寄せ、渋い顔をする。

    リナ「……(何か、ひっかかる……。この事件、本当にそれだけで終わるのだろうか……。それに……何か、誰かに違和感があるんだ……そう……いつもと何か違う気が……)」
    セツナ「リナ、まだ何か言いたそうだね? 気になることでも?」
    リナ「お前に対してひっかかるのは人間的な疑問の方だ。そうじゃない。あたしは、この事件で気になることがあるんだ。だが、それが何かわからないんだ」
    龍紀「私も……こう、ひっかかるわ……」
    リーベ「奇遇ですね。リーも、そんな単純なもんじゃないって本能的に思っていたところですよ」
    ヤオ「はてさて、何についてでしょうねぇ」
    セツナ「気が済むまでどうぞ」
    星華「では、納得いくまで整理していきましょう」
    舞々「ま、まだ何かあるの……?」
    フィオ「……何か、が……」

     フィオの震えた声が、まだこの事件が奥深くて惨いことを示していた。
    ノンストップ議論6《首の骨折》《浅葱の証言》《死体発見アナウンス》《菊とネロの証言》《床の傷》《モノクマファイル1》

    星華「それで、あなた方は何が気になるのですか」
    リーベ「具体的にと言われても、なんとなくとしか言いようがありません。ただ、【ルイスさんの死はそう単純じゃない気がします】」
    ヤオ「なるほどぉ、『では次はルイスさんの死について掘り下げることになるんですね』」
    ネロ「ルイスさんの死について、ですの? けれど『死因がわからなくては何故彼が亡くなったのか知るのは難しいのではありませんの?』」
    龍紀「こう……大きな違和感があるのよ……」
    ファル「《さっきから抽象的だな。色々言っていくから気になったことを言うのはどうだ。めんどくさいな、お前ら。
     死因》」
    舞々「えっと……【死因は不明ってことになってるよね?】」
    ファル「《死亡時間》」
    菊「【その時間にアリバイが無いやつは何人かおるな】」
    ファル「《アナウンス》」
    星華「【鳥子さんは龍紀さんが見て鳴り】、【ルイスさんは龍紀さんとリナさんが見た時に鳴りましたね】」
    ファル「《発見者》」
    セツナ「ルイスを見つけたのは【リナと龍紀でしょう?】」
    ファル「《だー、もう!! 『違和感なんか見つからねえじゃねえか!』》」
    龍紀「ご、ごめんなさいね、ファルちゃん」
    リーベ「うるさいですよ、陰キャ」
    フィオ「ファル君落ち着いて」
    菊「ひょっとすると、『今まで話してきた中にあるかもなァ』」
    浅葱「ふーむ……1度、話し合ってきた中を見直してみるかの」
    セツナ「『それは随分骨が折れそうだね』」
    リーベ「セツナさんは黙っててくださーい、このド鬼畜美少年」
    セツナ「ひどい言い草だね」

    リナ「(違和感の正体……そいつは一体なんだ……)」
    コトダマ
    星華「【鳥子さんは龍紀さんが見て鳴り】」
    リナ「それに賛同しよう」
    コトダマ《死体発見アナウンス》



    リナ「わかった! 死体発見アナウンスに違和感があるんだ!」
    龍紀「え? どういうこと?」
    リーべ「……あ、そういうことですか」
    ネロ「そこから何かわかりますの?」
    リナ「ああ。死体発見アナウンスは3人が死体を発見すると鳴る仕組みになっているというのはさっきも説明したな? 龍紀が殺していたとするなら、龍紀単体で見た時に鳴るわけないって。
     ここに、もう1つ、おかしなことがあるんだ」
    フィオ「おかしなこと? ええっと……」
    リーベ「まーだ気づかないんですかー? あったま悪いですねー、本当に勉強しているんですかー?」
    フィオ「リーベちゃんは頭の回転がはやくってすごいよね。……あ、わかったぁ! そっか、見つけた人の数が、ルイス君を入れても足りないんだね」
    リーベ「ちっ」
    舞々「リーベちゃん……」
    リナ「ああ、そういうことだ。死体発見したのがルイス、そして龍紀。ほら、2人しかいない。それならなんで、鳥子を龍紀が見つけた時に鳴るんだ?」
    セツナ「あの人が間違えたんじゃないかな」
    カミサマ「あのねー、セツナ君。オレを殺したいがために間違えさせようとしているけどぉ、カミサマは一切殺人自体に関与していないし、間違えてもいないんだよねえ? 諦めてくれるかな?」
    サン「間違えていない……ってことは……」
    リナ「……そうだ。もう1人、ルイスが殺した後、そして、龍紀が発見する前に、鳥子の死体を見た奴がいる。鳥子が殺されたことを言わずに、黙っている奴がいる、ってことだ」

     自分で言葉にしておきながら、ゾクッとする。誰かが意図的に鳥子が死んだことを黙っていた人がいる。何故だ。それを考えると、自然とひとつの考えにたどり着いた。

    リナ「……なあ、黙っている奴はさ」

     何で黙っているんだろうな。

     そう問いかける。しんっとまた静まり返った。また黙るのか、と思いつつも、溜息をつき、言葉を続ける。

    リナ「なあ、黙っていてもわからないんだ。頼むから誰か答えてくれよ。じゃないと……」
    セツナ「ルイスを殺したと思われても、仕方ないね」
    リナ「……」

     いつもと変わらぬ淡々とした口調のセツナ。言いたくもないし聞きたくもなかった。そうだ。自分は犯人がこの中にいないことを願った。けれど、名乗り出ないというのであれば、その可能性も示唆していると言っても過言じゃない。

    星華「……それでは、本当に殺人だったのか、もう一度鳥子さんを刺し殺した後のことを追っていきましょうか」

     星華がこほんと咳ばらいをしながらそういった。
    ノンストップ議論7《首の骨折》《浅葱の証言》《混浴のごみ箱》《様子がおかしいルイス》《床の傷》《壊れた手すり》

    舞々「殺人って……。鳥子ちゃんを殺した後、『ルイス君は自殺したんじゃないの?』」
    ヤオ「そうですねぇ。死因が特定できてませんから、『決めつけるのは早計かと』」
    菊「つまり【ルイスは誰かに刺された】と?」
    フィオ「刺されたんだとしたら、ルイス君が一階で倒れてたのはどうしてなんでしょう?」
    リーベ「それに、【包丁を奪い取った】なら、どうしてルイスさんを刺したんでしょうね」
    レイ「ルイス上等兵は『包丁を胸に刺され、足を滑らせて落下して死んだ』のでしょうか」
    サン「パッと見そんな感じだよねー」
    星華「『揉み合いになったような状況』……何か【揉み合った末に刺されて落とされた】のか、【自ら落ちていったのか】……」
    浅葱「どちらにせよ、【ルイスは刺されて落ちたのは確かじゃな】」
    ヤオ「はてさて彼は、他殺だったのか自殺だったのか、どちらなんでしょうねぇ」

    リナ「(他殺か、自殺か……。それをはっきりさせるためにも、あのことについて追求しないといけないな)」
    コトダマ
    レイ「『包丁を胸に刺され、足を滑らせ落下して死んだ』」
    リナ「それは違うぞ!!」
    コトダマ《床の傷》

    リナ「包丁でルイスの胸を刺し、落下した……いや、それはありえないことなんだ」
    ネロ「有り得ないとは、一体どういうことですの?」
    リナ「これがあり得ない理由……それは、ルイスの遺体の位置と、包丁が実際に落ちた位置がずれていることにあるんだ。少なくとも、ルイスが寝ていた状態では手が届くことは無い位置にはあった」
    菊「位置がずれとることなんか、何でわかるんじゃ?」
    リナ「ああ。あたしは鼻が良くてな。包丁の臭いと全く同じ臭いがしていた場所があったんだ。それが、手すりが落ちてきた場所だ。そこには手すりが落ちて付いた傷の割には細い傷があって、そこからあの臭いがしていたんだ。そして、それは遺体から少し離れている」
    サン「おんなじ臭いね……。あ、毒薬か!」
    レイ「毒薬がついた包丁がもしルイス上等兵に刺さったままで、落下した場合、その様な臭いと傷が遺体とはずれた場所にあるとは考えづらいですね」
    リナ「そうだ。つまり、ルイスは包丁が刺さって落ちたんじゃない。何らかの理由でルイスは三階から落下し、落下時に包丁を手放して、ルイスと包丁はバラバラに落ちたんだ。そして、鳥子の死体を見ていたであろう誰かが、その落ちた包丁を拾い、ルイスの胸に包丁を……」

    菊「ちょい待てや、話が飛躍しとらんか?」

     菊が訝しむ表情でそう口を開いた。
    反論ショーダウン2《浅葱の証言》《様子がおかしいルイス》《混浴のごみ箱》《サンの証言》《首の骨折》《壊れた手すり》

    菊「落下地点が違うっちゅう話はホンマやろう。そしたらルイスが刺される前に落ちたっちゅうんも、合っとるじゃろうな。しかし、鳥子の死体を見た奴が、なんでルイスを刺すんじゃ? ちょい、ぶっ飛んだ話やと思うんじゃがな」
    リナ「包丁とルイスの遺体の落下地点が違う、鳥子の遺体を誰か見たのに誰も言わない。このことから、鳥子の遺体を見た奴はルイスを刺した可能性が著しく高いと言える」
    菊「高いっちゃあ高いかもしらんが、ホンマにそうか、わからんじゃろ。他に言えん事情が……なんかしら、あるんかもしれんし、それにあんだけ再生能力が高いんじゃ、『死にきれんかったルイスが自分で包丁を取りに行った可能性も、捨てきれんじゃろ?』」

    コトダマ
    リナ「その言葉、斬らせてもらおう!!」
    コトダマ《首の骨折》

    リナ「ルイスが立ち上がって包丁を取りに行くことなんかできない。何故ならアイツは、ケガをしていたんだ」
    菊「やから、その怪我も治ったんちゃうか、って話じゃ」
    舞々「あっ、でも、リーベちゃんが言ってた話だと……」
    リナ「……死んだアイツはケガをしていた。治ってないケガだ。手や足なんかじゃない。首の骨を折る大けがを負っていたんだ」
    ヤオ「そうですねぇ。彼の頚椎は骨折、損傷しているように見受けられました」
    リーベ「そうそう。あれだけの骨折、運が悪くて即死、運が良くても動けないでしょうね、ってヤオさんとお話しましたよ」
    星華「首の骨折、ですか。最悪即死くらい酷い骨折だったんですか」
    サン「そりゃあ3階から落ちたんだもんね、骨折はまぬかれないよね……」
    セツナ「つまりは、頭から落ちたってことだよね。自らか、意図せずかはわからないけど」
    リナ「そんな大けがして動くことができないルイスが、自分で立ち上がって包丁を抜き取って、自らの胸に包丁を突き立てることなんかできるはずがないんだ」
    菊「確かにそれ聞いたら、無理じゃと思うわ。……そうすると……。落ちて動けんくなっとるルイスんことを、誰かが、わざわざ、刺したっちゅうことか?」
    リナ「……そういうことになるな。そして、そいつはきっと……鳥子の遺体も見ている奴だろう」コトダマ選択6 その根拠となるコトダマを選べ。
    コトダマ
    コトダマ《壊れた手すり》

    リナ「3階の手すりの1部が壊れていたな。そして、その下にはルイスがいた。鳥子を見つけた奴がまだ手すりが壊れる前にいたとしたら、その時には正気を失ったルイスがいる。そうなった彼に見つかったら、きっと無事じゃ済まなかっただろう。揉み合いになったはずだ。そして、壊れた後であれば……あとは言わなくてもわかるな」
    サン「本当に、鳥ちゃんを見つけた人が犯人なの? 鳥ちゃんを見つけた人はルイス君に遭遇してなかったーとかで、殺人とは無関係で、1階から入ってきた全然別の人が殺したって可能性も、なくはなくない? そうなると目的とか全っ然わかんないけど」
    浅葱「それはありえないの。忘れとるのか。庭にはワシがおるんじゃぞ。渡り廊下は学校と寄宿エリアしか見えんが、さすがに誰かが外に出たらワシじゃって気づくわい」
    サン「じゃあ、新しくもう一人渡り廊下使ってきた人がいたら……」
    レイ「そうなると放送の辻褄が合わなくなります。3階にたどり着く以上、鳥子さんの遺体を見ることとなるでしょう。そうなれば、その時点で鳴るはずなのです」
    サン「あっ、そっか。じゃあやっぱり、鳥子ちゃんを見つけた誰かさんが、ルイス君を刺したってことになるのか」
    セツナ「ところで、何故その人はルイスを殺したんだろうね」
    舞々「え……」
    ヤオ「……状況から見るに……。揉み合った形跡がありましたから、ルイスさんと犯人は3階で出会っていたと思いますよ」
    星華「そうなると……自身が落としたと思い、ルイスさんの息があるので下手なことを口走る前にトドメを刺した……と言った所でしょうか。鳥子さんを殺した犯人がルイスさんであるのであれば、彼が死んだ後、彼を殺した人がクロになるのですから。下手に生き残った方が厄介と思うかもしれません」
    フィオ「そんな……そんなことを、本当に誰かがしたんですか? ルイス君にもし息があったなら……普通なら助けようとすると思うんですけど……」
    ファル「……人ってそんな良い奴ばかりじゃない。焦っているなら、尚更な」
    菊「何とも言えん話やのォ」
    リナ「……」
    舞々「……? リナちゃん、どうしたの?」
    リナ「……まあ……。……なあ、誰か、これについて知っている奴、いるか?」
    フィオ「これ?」
    コトダマ選択7 気になる証拠を選択せよ。
    コトダマ
    コトダマ《混浴のごみ箱》

    サン「あ、それ混浴場に捨てられてたやつ!」
    リナ「ああ、関係するかもしれないと思ってな」
    ネロ「それは……一体なんですの?」
    レイ「それは我々もわかりません。破かれているうえに水で濡れてインクが滲んでしまって読めないものなのです」
    菊「読めんかったら何もわからんやないか」
    リナ「読めないものを、と言うより……気になるだろ。なんでわざわざ混浴のごみ箱に、見られたら困るようなものを処分してあるんだ」
    サン「えー、わかんないなー、混浴場だから! とか?」
    星華「混浴だから捨てることがあるんですね、サンは。今度から混浴のゴミ箱に捨てられたごみは全てサンが捨てたものと思うことにします」
    サン「うわあ、えげつない誤解だ」
    フィオ「……リナちゃんは、見られると困っちゃうものを皆が見られる場所に捨ててることが気になってる、ってこと、かな?」
    リナ「そうだな。見られて困るのであれば、どうして個人的に処分をしなかった。自身の部屋で、タイミングを見計らって捨てれば良かった話だ。それなのに、わざわざ混浴のごみ箱なんていう場所を選ぶなんて、まるで、誰かに見られたら困るけど、誰が捨てたのかもわかっちゃいけないような感じじゃないか」
    ファル「……《そうだな。なんとなく、そんな感じがする》」
    舞々「そうなると、内容が気になるね……」
    サン「ほっとんど読めないからわかんないけどね」
    リナ「……多分、遺書だ」
    レイ「遺書?」
    ネロ「何故遺書だと思うんですの?」
    リナ「何とか読めた最後の文字が、『ぼくは、生きたかった。』だったんだ」
    菊「……」
    フィオ「……」
    ヤオ「へえ、遺書の続きですか。何故捨てたのか、何となく想像がつきますねぇ……」
    リーベ「潔く死ぬ、って言いながらも、最期まで未練たらたらじゃないですか。そんなんだから……いっぱいいっぱいになっちゃうんですよ、本当に」
    セツナ「まあでも……。他にもわかることがあるね?」
    星華「わかること、ですか……そうですね」

     セツナに言われ、うなずいた。そうだ、ここからわかること、単純だが大事なこと。それと同時に、頭の中で全てのパーツがかちりとはめ込まれた感じがした。誰に、どんな違和感があったのかも。
     あぁ、考えたくなんかない。そう思いながらも頭をフル回転する。

     どうやって、この人に真実を話してもらおうか。それがその人の命と引き換えであると、もうとっくの昔に知っていたんだ。
    リナ「……鳥子はルイスに喉を噛まれ、刺されて死亡。ルイスは何らかの理由により落下し、それらを見てた奴が落ちた後、ルイスを刺して殺害した。そしてそいつの後の動きは、ルイスの遺書から紙を抜き、混浴でその紙を読めないようにして捨てた。
     ここまでわかったんだ。次にやることはハッキリしているな」
    セツナ「ルイスを殺せたひとを絞るんだね」
    リーベ「ま、そうなりますよね」
    ノンストップ議論8《レイの証言》《浅葱の証言》《菊とネロの証言》《モノクマファイル1》《サンの証言》《モノクマファル2》

    浅葱「ルイスの死んだ時間か……確か、パッと聞いた感じでは、【龍紀、ヤオ、ワシ、菊、ネロ、サン、闇小僧の7人がアリバイがないんじゃな】」
    ヤオ「あ、星華さんは『マッサージチェアに捕まっててアリバイが成立している』んでしたよね」
    リーベ「龍紀さんも、『鳥子さんの遺体を発見してアナウンスが鳴ったため、成立しているといっていいですね』」
    サン「ということは、『僕と、他の4人のアリバイを証明しなきゃいけないんだね』」
    ネロ「そうですわね。【何度も言うようですが、わたくしにアリバイはございませんわね】」
    リーベ「ネロさんは【除外できるんじゃないですか?】【血が苦手であれば、ルイスさんの殺害方法的にしないと思うんですが】」
    ネロ「リーベ、擁護してくださってありがとう。けれど……。血を見ながらでも『わたくしには殺害が可能ですの。』完全な証明にはなりませんわ」
    リーベ「いみわかんなーい」
    菊「お前が鳥子が殺されよるとこ見てしまったんやったら、『ルイスを殺した可能性は否定できんのォ』」
    ヤオ「つまりネロさんは、血液を見たとき【意識を失うわけではない】んですか? 」
    星華「『正気じゃいられなくなる』、とか?」
    ネロ「そのようなものですわね。『わたくしにはアリバイはありません』けれど……誓って殺しておりません」
    星華「そうなると……【ヤオさん、浅葱さん、菊さん、ネロさん、サンがアリバイないと言えますね】」
    フィオ「皆のお話をちゃんと整理したら、【1人くらいアリバイが成立してたり……】しないかな?」
    ファル「例えばどんなアリバイだ? 誰かに会っている訳ではないんだぞ」
    フィオ「ええ……。例えばってなると、難しいんだけど……」
    サン「閃いた! 『マッサージチェアみたいな時間的に無理だよっていう証明方法とか!』」
    セツナ「例えば?」
    サン「例えばってなると、難しいんだけど……」
    フィオ「先輩真似しないで」
    ファル「《似てない真似するな、手ぶりやめろ》」
    リーベ「もう少し犯人になりうる人を絞りたいところですね」

    リナ「(今のところ怪しい人物は5人……それらを絞ることはできるのだろうか?)」
    コトダマ
    フィオ「【1人くらいアリバイが成立してたり……】」
    リナ「それに賛同しよう」
    コトダマ《浅葱の証言》

    リナ「浅葱の証言で1人は除外できるんじゃないか?」
    フィオ「浅葱さんの証言で……。あっ、ヤオさん?」
    ヤオ「おやぁ? 僕ですか?」
    リーベ「絶対この人わかってて黙ってましたって」
    ヤオ「あはは」
    サン「えー? ヤオさんイチ抜けぇ?」
    レイ「浅葱さんの証言を整理しますと……20分頃にヤオさんを庭で見かけ、5分後、彼が研究棟に入っていくのを見ていました。そして、40分に学校に入るまで、誰かが通るのを見かけていません」
    菊「嬢ちゃんはどこん座っとったんじゃ?」
    浅葱「ずっと研究棟の方向を向いとる長椅子に座っておったぞ。だから、研究棟から誰かが出ようもんなら、ワシが気づくじゃろうな」
    ネロ「ヤオさんが入ったところを浅葱さんが確認し……。その後もその場にいたという浅葱さんが出入りを見ていないというのであれば、ヤオさんは証言通り中にいらしたのでしょうね」
    サン「ヤオさん無罪放免かぁ、いいなあ、おめでとー」
    ヤオ「どうも」
    リーベ「少しも助かったとかありがたいって顔してませんけどねー。全く、図太い神経の人ですよ」
    ヤオ「人聞きが悪いですねぇ」
    舞々「他にアリバイ成立する人、いるかな?」
    リナ「それは……浅葱だろう」
    サン「ん? なんで?」
    リナ「だってその時間……」
    三択1 正しい選択肢を選べ。
    1 学校の中に入ったのは浅葱だけ
    2 庭にいたのは浅葱だけ
    3 ヤオの証言をしたから
    1 学校の中に入ったのは浅葱だけ

    リナ「学校の中に入ったのは浅葱だけだったからだ」
    サン「えー、でも誰も見た訳じゃないなら断言はできなくなくなくなーい? 」
    リナ「浅葱はわざわざ学校の中に入った、といった。そして、他の連中の動きは学校の中に入ったり出たりするものがなかった。それなら、浅葱が入ったのは確かだろう? だって、あたしらは聞いているんだから」
    舞々「聞いている……?」
    三択2 聞いているものが何か、選択せよ。

    1 浅葱の声
    2 カミサマの声
    3 扉の音
    3 扉の音

    舞々「もしかして、扉の音?」
    リナ「そうだ。あそこの扉はさび付いているのか、開けるたびにすごい音がするんだ。だから、静かに開けることなんてできない。だから、そこを通ったってことでアリバイは成り立つんだ。
     あの時、あたしらは食堂にいて、一番あの音がよく聞こえた。その時にその音を聞いたってことは、その時間に誰かがそこを開けたってこと。そして、その時間に開けたことについて言及していたのは浅葱だけだ。しかも、言っている時間と実際に扉が鳴った時間も一致している。よって開けたのは浅葱で間違いないってことだ」
    舞々「そんな些細なこと、よく結びつけられるね」
    浅葱「そういうことかい。やれやれ、なんでも言っておくもんだねえ」
    菊「良かったのォ、浅葱。……さて、残るはワシ等か」
    サン「僕マジでアリバイ無いからなー、どうしたもんかなー」
    フィオ「……先輩、もっと真面目に考えられないんですか!?」
    サン「えー、これでも考えてるよ? めっちゃ真面目に真剣になんとかなんないかなーって」
    ファル「《笑っているからふざけているようにしか見えねえんだろ。真顔やってみろよ》」
    サン「こう?」
    ファル「……《違和感すごい、やめてくれ》」
    フィオ「いつも通りでいいです」
    サン「えーっ、なにその反応。先輩、ちょっと傷付きました」
    龍紀「笑っている顔が素敵だから、真顔だとちょっと違和感あるかもしれないわね」
    サン「えっ、龍紀君やさしい……すき……」
    星華「調子のいい人ですね、本当に」
    リナ「……絞れる情報はこんなものか……。……ここからは、3人を問い詰めるしかないのか」
    ネロ「わたくしは殺してなどおりません……信じていただけたら、良いのですけど……」
    サン「僕もやってないよ!」
    菊「アリバイがないっちゅうんは、痛いのォ」
    セツナ「この中の1人は嘘をついているってことだね」
    龍紀「……一体誰が……」
    星華「どうやって絞り込むつもりですか、ここから?」
    レイ「1人1人……締め上げるしか方法が……」
    セツナ「拷問か、脅迫か?」
    リナ「物騒な情報の吐かせ方するんじゃねえ。
     ……これは、あたしの独断だが……いいか?」
    ヤオ「ええ、どうぞ」
    レイ「締め上げる以外の方法であるのなら」
    サン「レイさんのやつマジで痛そうだからそれ以外で頼むよー」
    レイ「まず最初に肩を外すことから始めます」
    リーベ「ガチじゃないですか」
    リナ「……あたしは、サンは違うと考えている」
    サン「僕? なんで?」
    コトダマ選択8 サンが犯人じゃないと思う根拠を選べ。
    コトダマ
    コトダマ《サンの証言》

    リナ「それはサンの証言にある」
    サン「えっ、僕なんかそんな重要なこと言ってた?」
    リナ「サンは何回か扉の音が鳴った、と証言している。そう証言していること自体が信用してもいいんじゃないかと思ったんだ。
     たしかにてきとうなこと言うことはできる。けど、それなら、最初から扉の音について言及しない方が安全じゃないか。犯人だった場合、下手に嘘をついているかどうかすぐわかりそうなことを言わないだろ?」
    舞々「確かに……娯楽施設にいたら扉の音は聞こえないよね。そんな不確かなこと、犯人なら言わないだろうし、私たちも言われなくても気にしない……ね」
    リナ「ああ。それなのに、サンはそれを何となしに言った。だから、サンは本当に学校内にいたと思ったんだ。
     たしかにアリバイとしては弱い。けれど、可能性として他の2人より低いと思う根拠としては充分だと思う」
    サン「それじゃあ、僕のこと信じてくれるんだ……?」
    リナ「あくまで可能性だけで考えた時だがな。てきとうなこと言っている可能性はなくもないからあくまで可能性が低いってだけだ。あくまでお前はまだ容疑者だ」
    サン「それでも超嬉しいね! ありがたいよ」
    セツナ「確かに可能性は低そうだね。じゃあ……。残りの2人についてはどう考えてるのか、君の考えを聞いても?」
    リナ「この二人なら……そうだな……まだ、確証を得ることができない」
    菊「この空気、何とも言えんのォ」
    ネロ「気分が悪くなってきましたわ……」
    リナ「……」

     聞きたいことはある。だが、それを追求してもいいのかどうか、わからない。自分の気のせいであることを祈りたいが、どちらかは本当にルイスに手をかけたのであろう。どちらにしても、何故、と問い詰めたい気持ちでいっぱいだ。

    リナ「(誰も、犯人じゃないこと、祈ったのにな……)」
    舞々「……リナちゃん?」
    リナ「……みんなは、どう思っているんだ?」
    リーベ「……」
    龍紀「……」
    フィオ「……」
    レイ「……」
    リナ「……はー……そうだよな。そうなるわな。誰が疑わしいとか、誰が怪しいとか、言いたくはないよな。……いいさ、あたしが言えばいいんだ。……無くはないんだ、根拠ってやつも、可能性としてしかないけれど」
    ファル「……《そういうつもりじゃない。ただ、思いつかないんだ》」
    リナ「思いつかないならいい。あたしも、戯言として言わせてもらおう。可能性に過ぎない、根拠だけどな」

     溜息をつきつつ、言葉を続ける。

    リナ「……あたしは、ネロは違うと思っている」
    ネロ「!」
    リナ「これはあくまで可能性を突き詰めただけの話だ。本当に……そうだという確証があるわけじゃない。
     一つ、ネロのドレスは綺麗なままであること。みんなで長時間かけて様々な箇所を調査した。個室も、焼却炉も、処分できそうなところは一通り調べられている。そして、ルイスともみ合いになったとしたら血だらけの手のルイスともみ合って、更にルイスの胸を刺して、血が付かないことは考えづらい。血がついていた可能性が高いこと、処理がほぼ不可能だったことを考えると、ドレスが綺麗なままなのはやっていないと思う。
     次に、あの時間に外にいたことだ。40分に彼を殺したとして、一番近いルートは庭を経由して寄宿エリア三階に行き、帰りにそのまま庭に出るルートだろう。だが、実際は寄宿エリア二階には星華、そしてレイ、リーベがいる。行きは時間的に避けて通れるだろうが、帰りはどうだろうか? 娯楽エリアを渡り廊下で戻って外に出る移動時間含め考えると、庭に出る時間はだいぶ遅くなったはずだし、忙しない。そこまでして庭に出て座っているだろうか?
     ……それに、ネロの匂いはいつもと変わらない、海を思い出す匂いがした」
    舞々「言われると……何となくわかる気が……」
    ファル「《流されてんじゃねえ。リナの独断と偏見が詰まりに詰まっているだろうが、特に最後》」
    舞々「ご、ごめん……でも説得力あるなって……」
    フィオ「……でも、それじゃあ……」
    リナ「……だから、消去法としてあたしは……お前が怪しいと思っている」

     そう言って1人を指さした。
    指摘怪しい人物を指摘せよ。
    「菊花飛廉」

     その人は腕を組み、こちらを見てる。頭をかきながら、渋い顔をしている。そして、口を開いた。

    菊「ホンマに、可能性でしかないなァ」
    リナ「……あたしもそう思う。いや、そのはずだ。だって、犯人は……殺した以外に何もトリックを作ったわけではないからな。何もしていない分、わからなくなるのは当然のことだ」
    菊「リナ……お前が言うたことは全部不確定なもんじゃろ? それでワシが犯人じゃとホンマに言えるんか?」
    リナ「だったら菊……お前が犯人じゃないと言える証拠を提出しろ。あたしだって……お前を疑いたくなんかないんだ」

     なんのために罪を犯したのか、考えるなんてしたくなかった。
    議論一騎打ち《処理》
    《扉の音》
    《走る》



    菊「血ィがかからんかったんやったら、そもそも処理がいらんじゃろ」

    菊「20分もあるんじゃ、走りゃあ遺書の処分してから庭に出るんも無理な話ではないしな」

    菊「サンは扉の音を聞いとった……やけどそれだけでは学校んおったとは言えん。わかっとんじゃろ?」
    菊「血ィがかからんかったんやったら、そもそも処理がいらんじゃろ」
    《処理》
    リナ「ネロのドレスは丈が長くてひらひらしている。そんなドレスで血だらけのルイスともみ合いになって、血痕が付かないとは考えづらいだろう」
    菊「……」



    菊「20分もあるんじゃ、走りゃあ遺書の処分してから庭に出るんも無理な話ではないしな」
    《走る》
    リナ「さっきも言ったがネロがそこまで急いで何かをする理由がない。会わなかったら会わなかったまでで、殺人が起きた時のアリバイがない限り、誰かに会うメリットがそうない。それなのにわざわざ人に会いやすい外に出ようと急ぐ理由は?
     あたしだったら、タイミングを見計らって何食わぬ顔で下に降りてしまうけどな」
    菊「……!」



    菊「サンは扉の音を聞いとった……やけどそれだけでは学校んおったとは言えん。わかっとんじゃろ?」
    《扉の音》
    リナ「したかどうか定まらないものを口にした時点でその場にいた可能性は高い。それに菊、お前は学校にいたはずなのに、何で扉の音に関して言及しなかったんだ?」
    菊「……!!」



    菊「そうかそうか、そんなにワシが犯人じゃと思うんやったら……。証拠がいるじゃろ。証拠になるようなこと、言うてみぃ」

    《ののきそもす》
    《きもののすそ》
    リナ「だったら、菊、説明してくれ。なんで《着物の裾》がいつもと違うのかをな」
    菊「!!」

    Break!!



    菊「……着物の裾か? いつもと同じ、無地の藤色じゃろ」
    リナ「……気のせいだったらよかったな。あたしはずっと誰かに何かの違和感を抱き続けていた。そしてそれがさっき、確信に変わった。菊、お前の着物の裾はもう少し長かったはずだ。それなのに、今、脛が半分以上見えている状態だな? 何か、裾を上げなきゃいけない理由があるのか?」
    菊「こりゃあバーに行った後、酔っぱらいながら着たけぇじゃ」
    リナ「だったら……菊、もう少し裾を下げて見せろ。下げられるだろ?」
    ネロ「菊花……」
    レイ「菊さん……どうか、疑念を……」
    菊「……しゃあないな。ほれ、見ぃ」

     菊は大きな溜息をついた。そして、着物の裾を伸ばしていく。藤色の着物に、赤黒いシミが、帯の付近から見え始めた。菊の顔は穏やかで、いつもの長さまで出し切ると、また大きなため息をついた。決定的な証拠が現れた今、皆、息をのんだ。

    菊「丈や誰っちゃ気にせんと思っとったが甘かったの。リナ、お前の言う通りじゃ。いつやか知らんが、腰の下のあたりに血ィがついとってな。ちょいと上げたら隠れるところやったけぇ、こうやっとったんじゃ」
    フィオ「どうして……」
    セツナ「ふーん」
    菊「今の今まで騙しとったことはまあ、堪忍してくれや。ワシもタダでは死にとうないけんの。……しかしちゃんと真実に辿り着いてくれて、嬉しいような、困ったような……」
    浅葱「……小僧……」
    菊「……そしたらいっぺん、これまでのことをまとめてみよか」
    レイ「……」
    菊「……なァ?」
    リナ「……」

     そう言われ、一瞬言葉を失う。だが、黙っていても仕方がない。菊がそういうのであれば、と口を開いた。

    リナ「……事件を振り返ろう。
     事件の本当の始まりは五日目の夜、カミサマから動機を配布された時だ。あの時配られたものは、『待っている者達』、『自分が愛している者達』の思い出の映像だ。ここからでなくてはいけない、そのために誰かを犠牲にしなくてはいけないと思わせる常套手段だと思ったんだ。全員、ここにいる全員を犠牲にする道を選ばなかったけどな。
     ……本当は違ったんだ。あの動機は、ルイス1人に絞られた、とんでもない動機だったんだ。
     ルイスはその動機を見て、かつて愛していた弟の姿を思い出した。そしてアイツにとってそれが、発作の原因となるものだったんだ。
     ルイスは自主的に薬を飲んで発作を起こさないようにしていたが、発作の原因となるものが強すぎた。だから薬が効かなくなっていた。ヤオに頼んで睡眠薬を買うようになり、部屋で眠って発作を抑えようとした。それによってルイスをみかけることは格段に減ったんだ。
     だがそれにも限界が来た。ルイスの発作はやがて、眠っていても起きるようになった。それに気づいたルイスは、それでも耐えようとして、次の手を探した。
     そして昨日の夜、ルイスは発作によってここにいた。その現場をセツナに見られたんだ。セツナは、ルイスの訴えを聞いた。そして、死んだらいいんじゃないかと言い、猛毒を渡した。……きっと、遅かれ早かれルイスはその結論に至っただろうがな。おそらく、ルイスが死ぬことを決意したのはそこだ。
     これが、今日に至るまでのルイスの行動の流れだ。そして今日の夕飯後からおっていこう。
     まず、みんながカラオケやらバーに行ったりやらしている間にルイスはキッチンから包丁を1本取り出し、セツナに貰った猛毒を塗った。確実に死ぬためだ。
     11時過ぎ。ルイスが寄宿棟3階から娯楽エリアに移動した。そして、そこでヤオと犯人がルイスに出会い、言葉を交わした。その時から、ルイスの様子がおかしいと犯人は気づいていたんだ。
     ……ここからは証拠からの想像だ。3階に着いたルイスは、死のうと準備をしていた。自分が正気でいれるうちに、遺書とかを残してな。だが、運悪く、アイツは鳥子に会ってしまったんだ。鳥子は声をかけたんだ。
     ルイスは発作に負けた。そして正気じゃなくなったアイツは、ルイスの発作を知らない鳥子の首に噛みつき……殺した。そうだ。アイツの発作は殺人衝動。発作が起きれば誰彼構わず殺したい衝動に駆られる。コップの淵まで溜まった今までの発作の我慢が、その瞬間、最悪なタイミングで溢れだしてしまったんだ。
     そこに今回犯人となってしまった奴がやってきたんだ。鳥子の首を噛みちぎって殺したその姿を見て、止めようとしたんだ。発作で正気を失っていたルイスは、犯人を殺そうとした。そうやって揉み合って……ルイスは手すりに当たって、そのまま手すりと共に頭から落下した。凶器だった包丁を手放して、首を折った。それを見た犯人は、1階へと降りたんだ。
     脊髄を損傷した彼は動けなかった。手足を動かすこともできなかった。そんな彼を見た犯人は包丁を拾い、彼の力が入らない手に包丁を持たせ、彼の胸を刺した。そして、彼が死ぬつもりだったと遺書で知った。……何が書いてあったか知らんが、最後の1枚だけ抜いて、元に戻したんだ。
     すぐに犯人は寄宿エリアに戻った。そして、誰があの場にいたかわからないよう、そして変な疑いをかけられないように3階の混浴に行った。あそこは誰でも入れるからな。そこでルイスの遺書の最後の1枚を、読めないように処分したんだ。
     そこで犯人は鏡を見て自身に血痕がついていることに気づいた。運良く、何とか隠せそうな位置にあった。だから犯人は着ていた着物を少しだけあげ、見えないようにした。裾が少しだけ上がっても、違和感はあっても何でかなんてなかなか気づかないしな。そうやって犯人は放送が鳴ってから、何食わぬ顔で娯楽エリアに来て死体を発見し、驚いたフリをしたんだ。

     ……これは、ほとんど事故としかいいようがない。けど……どうしてお前はルイスを殺そうと思ったんだ? あの状態であれば遅かれ早かれ助からなかった。放っておけば死んだ。それなのに自分の命をかけてまで、どうしてあの時のお前はルイスを刺してしまったんだ。
     ……教えてくれよ。超高校級の武人、菊花飛廉!」

     しばらくシンっと辺りは静まり返った。菊は、腕を組んだまま言葉を探しているようだった。ふう、と溜息をついた後、彼は話し始めた。

    菊「何故ワシがルイスを殺したのか。知りたいか、知りたいじゃろうなァ。……たられば言うとっても仕方ない。もしもの話に意味はない。ワシは後悔はしとらんで。……全部ちゃんと話したる。投票が済んだらな」

     そう言って彼はパネルに手を伸ばした。その姿は、何一つ後悔なんてしていなかった。
     それを見ていたカミサマはにんまりと、あのいやな笑顔を浮かべ、そして言った。

    カミサマ「裁判の結論が出たようだね」

     それじゃあ投票タイムといこうか。
    閉廷カミサマ「おめでとう!! 投票の結果、見事みんなはクロを指摘できました!!
     今回、被害者でもあり加害者でもあるルイス君は自殺を図ろうとし、そこに鳥子ちゃんがやってきて殺人衝動を我慢できずにルイス君が鳥子ちゃんを殺害。その後、菊さんは彼を止めようとして揉み合った結果、ルイス君は落下し、動けなくなったところを菊さんが包丁で胸を刺して殺したよ!!
     大当たり!! 一番しなさそうな人が、しちゃったねえ!!
     いやあ、でも、予想ががはずれちゃったなー。意地でもカミサマの予想通りになってやるか! っていう強い意志を感じるよ。おかげで予想大外れ!
     おめでとう! ルイス君がめちゃくちゃ頑張ってくれたおかげで、10日以内に裁判をするだろうとかいう予想はハズレだ! ギリギリ一日ずれちゃったね!
     あー、でも、結果的に2人も犠牲にしたね。自分のエゴのために生きちゃって。とっとと死んだらこんな被害なんかなかったのに、バッカだなー。本当、おバカな人だ。みんなを殺さないため? みんなを生かすため? 誰にも迷惑をかけたくない?
     よく言うね、生きているだけでくっそ迷惑な怪物のくせに、一丁前に人間のように死にたいとかいうからこんなことになるのさ!」

     ゲラゲラと笑い転げるカミサマを睨みつつ、菊は呆れたような溜息をついた。そして、言葉を探すように話し始める。

    菊「なんや、すまんかったな。最初っから言うときゃ無駄な問答もせんで済んだんやろうが……まあさっきも言うた通りな、勝手な話、ここでお前らが気付かんようなら、それまでやと思ってな。ワシかてタダでは死にとおないけんの」
    星華「……どうして……」
    フィオ「……なんで……」
    サン「……話してくれるんでしょ? 全部」
    浅葱「……」
    菊「ああ。……しかしどこから話したもんか……ちょい長なると思うけどええか?」
    カミサマ「んー、いくらでもどぞー、話せば話すほど、どうにかできなかった後悔でみーんな悲しくなるけどねー」
    菊「そりゃどうも。お前に聞いたわけとちゃうかったけどな」
    浅葱「……言うてみ、小僧。主がなんで殺人に至ったのか。……保身のためか、誰かのためだったのか。それだけでもワシらは知りたいんじゃ」
    菊「……そしたら、聞いてくれや。はじめっから、やな。ワシが……ヤオと馬鹿笑いしながらな、寄宿棟に戻ったとき、ルイスに会ったんじゃ。はじめはなんも思わんかっけど、ふと変やなあ思て。無理して笑とるところとか、妙に上の空なところとかな。別れた後も気になって」
    リナ「……それは、調査の時に聞いたな」
    菊「実際はその後にな、追いかけたんじゃ。なんや嫌な予感というか、虫の知らせというか、勘が働いたというか……。とにかく体の底が冷えるような感じがしてな、酔いもすっかり覚めてしもて、いてもたってもおれんで……。学校を暫く探して、おらんかったから次ん娯楽施設を見に行った。そしたら……。そしたら、ルイスはおった。事切れた鳥子と一緒にな」

     その表情は静かで、どこか遠くを見ているようだった。言葉を選ぶように瞼を伏せて、暫くの沈黙の後、またゆっくりと口を開く。

    菊「正気を失ったままのルイスは、鳥子んことを何度も何度も……。止めないかん、そう思ったらすぐに体が動いたわ。そん時のルイスは……理性もクソものうて、言葉も通じん。……ありゃ獣じゃ。こりゃ力ずくじゃな思て、包丁を叩き落として、そっから押さえ込もうとした。けどまあ、大人しい従ってくれるわけものうて、揉み合いになって……」

     そんな時に、突然、ルイスが飛び降りた。

     菊はそう言った。は? と思わず聞き返すと菊は頭をかいた。

    リナ「突然飛び降りたって……」
    菊「これはワシの主観じゃ。そう見えた。かなり激しく揉み合っとったけぇ、確証はないんじゃけどな。ただワシが突き落としてしまっただけかもしれんし、単によろけて落ちただけかもしれん。そこを証明することはできん。……とにかく、ルイスは落っこって……暫くしてから鈍い音がした」
    リーベ「……どうして……」
    菊「?」
    リーベ「どうして……落ちたの見たんですよね?」
    菊「ああ、見た」
    リーベ「落ちたのだったら、ほっとけばよかったじゃないですか! 事故じゃないですか!」
    ネロ「リーベ……」

     リーべが眉を寄せて、怒っているとも悲しいとも言えない表情をしている。いつもの貼り付けたような笑顔が歪んでいた。それを見ながら、菊はまた少し黙り、そして、また静かな声で話し出す。

    菊「殺す気は無かった。息があれば助けたかった。……けどそうもいかんかったんじゃ。1階に落ちて動けんくなったルイスは、正気に戻っとった。ほんでな、ワシに、遺書の最後の一枚を捨てて、そんで殺してくれって、言うたんじゃ」
    フィオ「殺して……って……」
    菊「か細い声でな。よう聞いてわかるぐらいの声やった」
    リーベ「それで言われた通りに殺したってわけですか。バーっカじゃないですか! わざわざ自分から死にに行くなんて!!」
    菊「言うとるじゃろ。ワシに死ぬ気はなかったし、ホンマやったら殺しとォもなかった。けどなァ……。アイツに、あんな必死にな……殺してくれ、言われたら、まあ、揺らいだわな。……ルイスは自分自身を恐れとって、それが何でなんかは遺書読んでから知ったんじゃ。アイツはワシ等を、誰かに襲いかかることを、誰かが傷付くことを恐れとったんじゃ。……めっちゃ考えたわ。こんなに考えることが、またあるとは思っとらんかった」
    リーベ「考えた結果がこれですか!? 愚かじゃないですか!!」
    リナ「リーベ、落ち着け」
    リーベ「っ……殺す必要なんか、ないじゃないですか……」
    菊「……」

     リーベの言葉に菊はまた口を閉ざす。渋い顔をしたまま、なんて言えばいいか迷っているように見えた。
     カミサマはぎいぎいっと椅子を鳴らしながらゲラゲラと笑い、まあまあ、と喋りだした。

    カミサマ「そう責めないで!! 仕方がなかったんだよ、そう仕方がなかった!! 今殺さなかったらお前ら全員殺すぞって脅されたら、そりゃ殺しちゃうって!! ねー、菊さーん!!」

     そう言われた途端、菊は低い声でカミサマを睨んだ。

    菊「そんなことは言われとらん! お前のその、悪意しかない言葉は聞きとおないけぇ黙っとれ! 大体そもそもの元凶はお前なんじゃ。ちっとはしおらしげにしとけや。
     …………ルイスを殺した理由な。1番はルイスに頼まれたからじゃ。でもそれだけとちゃう。考えたんじゃ。ルイスに高い再生能力があるんは皆知っとったじゃろ。それでルイスがもし、そのまま回復したら……。どうなったと思う? そのまま回復して、鳥子を殺した時みたいに正気無くしたら? 手に負えたかわからんし……結局ルイスを殺すことになったかもしれん。あるいは、それこそ他に死人が出たやもしれん。
     ……それからな。もし正気で生きとったとしても、ルイスは鳥子を殺した罪で裁かれて、ほんで最期はそこのふざけた男に処刑される。……介錯するって聞いたことあるじゃろ。切腹した人間はそれだけじゃ死ねんのよ。切腹した奴の首を切り落とすことで、苦痛やらを軽ぅしてやることじゃ。……ルイスは生きとる限り、色んなものに怯えないかん。ワシが今ここで殺してやらんと、やり直す機会も無く、最終的に待っとるんはクソみたいな死のみ。見捨てられるか? 」

     ワシにはできん。

     菊はそう言い捨てた。カミサマが無理やり飲み込ませた悪意を、全て吐き捨てるように。その言葉にリーベは言葉を失う。でも、と言いつつも、もう、何も言えないようだった。その彼の思いは強くて、何て言葉にしていいか、誰もがわからなくなっていた。
     そんな中、レイが口を開いた。

    レイ「……菊さん」
    菊「なんじゃ」
    レイ「……我が帝国のものが大変……ご迷惑をおかけしました。……何と言って、何をして責任をどうとればいいか私にはわかりません……。すみません……せめて、殺人衝動についてだけでも説明をすればよかったです……。軽率な判断をしてしまい、申し訳ございません……」
    菊「かまん。レイを責めるんは門違いやし、説明せんのにも理由はあったんじゃろ」
    レイ「……」
    菊「言いたいことも言いとおないことも、当然ある。そこを気に病むこたあない。ワシは全く気にしとらん」
    レイ「……。……すみません」
    菊「そんな顔せんでええ。レイ、お前は無表情やが、なんやわかりやすいのォ」

     苦く笑う菊。それを見ていたレイはいつもの無表情で彼を見た後、うつむき、そして、再度顔を上げた。姿勢を正し、彼女はあの、と言葉を続ける。

    レイ「……これは個人的な感情で、失礼を承知で述べさせていただきます。
     彼を、救ってくださったことを感謝します。あなたが、ルイス上等兵の心を守ってくださったことを感謝します。……彼は、寂しがり屋で……あなたが、側にいて……救われたと思います……。感謝、します」
    菊「……そうか」

     菊は目を細め、優しい顔で頷いた。彼女は無表情のまま敬礼し、そして、ぺこりと頭を下げた。
     突然カミサマがゴホンゴホンとわざとらしく咳をする。それを聞いた途端、また菊の表情が変わり、不機嫌そうに眉を寄せた。

    菊「なんじゃお前。しおらしぃしとけ言うたじゃろ」
    カミサマ「まあまあまあ! だあってカミサマ、悲しみに暮れるみんな、犯人の死にたくないって思いを聞きたいのにさあ、なあに、この空気!! 悲しみには暮れているけど、当の本人がなーんにも悪いことしてませーん、って顔してんだし? 何なら感謝されていて? はあ? こんなんじゃ殺された子は報われませんよ!! って感じなわけですよ!!」
    ヤオ「さてさて、報われたか報われないか、それは貴方を含め、我々には知る由もありませんからねぇ」
    セツナ「カミサマは思ったより無能なんだね」
    カミサマ「セツナ君さー、カミサマをなんだと思っているわけー? ただのGM様よー? カミサマってだけで、思い通りなわけじゃないわけですよ。その一個、菊さんがまーったく絶望していないってことだよ! なあんで? どうして? これから処刑されるっていうのにさあ!!」
    菊「はっ、何を絶望することがある」
    カミサマ「あー、もう! そういうとこがムカつくなあ!! もういいもん、絶望してくれないんだったらね、オレにだって手はあるもんね!! 死にゆく菊さんにだけは見せてあげるよ、さあ、絶望をしてね!!」

     何を言っているのかわからない。菊の顔もそう言いたげな表情だった。だが、パチンっと指を鳴らした瞬間、菊の表情が変わる。ハッとした表情になり、周りを見渡す。

    菊「……お前……リナか……? 」
    リナ「……は?」
    菊「リナが……生きとる……」
    セツナ「……何を言ってるの? リナは殺されてないんだから、生きてるのは当然でしょ」
    菊「なんじゃこの記憶は……確かに今回死んだんは鳥子とルイスじゃが……どうなっとんじゃ、リナが死んだ記憶が……鮮明に……」
    リナ「……どういうことだ、菊」
    菊「よお説明せん……。しかしこれが……幻の類いとはどうも……確かに覚えとるんじゃ、リナが……死んだと……。これは……どういうことじゃ……」
    リーベ「一体何を見せたんですか?」

     何って、とカミサマはニタニタと笑ったまま答える。

    カミサマ「この舞台の正体だよ」
    リナ「……は?」
    カミサマ「そうだ、君は死んだ。菊さんの記憶が正しければね。この舞台の正体が何か、菊さんに見せただけだよ。もっとそれが何か知りたかったら……菊さんが生き残ることを祈るしかないね」

     キキキっと笑い、カミサマは意地悪く笑った。そして、再びごほん、と咳をした。菊は混乱しているようで、頭を抱えている。だが、その咳を聞いて、ハッとした表情になった。

    カミサマ「さあて、もうこの辺りで幕引きと行こうかな!
     では、ルイス君を殺したクロとなった菊花飛廉さんに」
    菊「何が何やらわからんが……。まあええわ。ええか、何度も言うがワシに死ぬ気はない」
    カミサマ「スペシャルなオシオキを」
    菊「ええか、信じろ、お前等の心の芯たるものを」
    カミサマ「用意しました!!」
    菊「決して絶望するな。……あいつらのためにもな」
    カミサマ「では、張り切っていきましょう!! ドッキドキわくわくのオシオキターイム!!」
    菊「前向け! 生きろ! 信じたいもんを信じろ!」

     菊の心からの叫びと、カミサマがゲラゲラと楽しそうに笑う声が、裁判場いっぱいにわんわんと響いて入り交じった。
     赤い大きなボタンがカミサマの前に現れた。そして、それをカミサマは、いつの間にか持っていた大きなピコピコハンマーで押すと、大きなモニターにゲームのドット絵のようなものが映し出された。そこにはカミサマと、カミサマと向き合った菊らしきキャラクターがいて、カミサマは菊を縄で括って引っ張っていった。
    おしおき「キッカ ヒレンさんがクロにきまりました。おしおきをかいしします」

     その文字が表示されると同時に、大音量で音楽が流れた。ワンワンと響くその音楽に気を取られ、耳をふさぐ一瞬だった。菊の背後から首輪が飛んできて、その一瞬で菊の体は首輪に囚われ、引っ張られていった。何が起きたのかわからず呆然としていると、菊が扉の向こうに消えていくのが見えた。

     菊。

     その名を呼んでも、声は、音楽に全てかき消されてしまった。バタンっと扉が閉まると、モニターにまた、何かの映像が映し出されていた。

    ネロ「赤い山……」
    フィオ「……何なの……あそこ……!?」
    星華「……地獄……ですか……?」

     星華の言葉に、誰もが納得する。赤い山。黒い空。真っ赤な大地。熱そうな炎。それらの中にいるのは、黒と白のクマのぬいぐるみのようなモノクマの鬼が、何体も何体も、様々な凶器を持っていて、その中心に、菊は落とされた。
     よろけ、ゲホゲホと咳をする菊。暑いのか、顔が真っ赤になっている。そんな菊の目の前に、一本の短い刀が降ってくる。それを見た菊は驚いた顔をした後、忌々しそうな表情を浮かべ、その刀を手に取った。
     モノクマ達と、菊のにらみ合いが始まり、音楽が鳴りやんだ。そして、再び音を奏で始めると、タイトル画面のようなものが画面いっぱいに表示される。赤い山に噴火する火山の絵が描かれたそこには、筆で書いたような達筆な字が書かれていた。

    「菊花飛廉のオシオキ
    超高校級の武人の処刑
    《地獄道中膝栗毛》」
     
     それを読み切ると、画面が再び切り替わる。その途端、モノクマ達は一気に彼に襲い掛かった。菊は睨むようにそれらを見た後、刀を抜いた。
     鋭い刀筋。モノクマの腕が飛ぶ。菊はそのまま隙間を走り抜ける。次のモノクマが襲い掛かりそうになると、また鋭く斬り、走り抜けた。汗がだくだくと流れ、地面に落ちる。ふと彼が山の上を見ると、そこには出口と書かれたこの風景には異質な扉が用意されていた。
     どこもかしこも燃える山だらけでどこに行けばいいか見当もつかなかっただろう。とにかくそこに向かおうと思ったのか、菊は走りだした。その後ろを、モノクマたちが追いかけた。
     息が上がっている、心臓がバクバク鳴っているであろうこともモニター越しにも伝わってくる。後ろから追いかけてくるモノクマ達から逃れるように山を登っていく。
     登り切り、あともう少しで着く。そんな時に現れたのは大きな谷だった。そこには一本の太くて真っ黒なロープがかけられていた。下を見るとくらっと来るほど高く、後ろを見るとモノクマ達が追いかけてくるのが見えた。ためらっている暇はなかった。
     彼はロープの上に乗る。その上を走り抜けようとした。それを見て、モノクマ達は後を追いかけた。次々にロープに乗ってはロープが揺れ、バランスを崩したモノクマが落ちる。ガシャーンと固い音が響きながら、次のモノクマが乗り、また大きく揺れた。
     ロープを揺らされ、菊はバランスを崩す。咄嗟にロープを掴む。背筋がサッと冷たくなったが、彼は足を持ち上げ、ロープにまた乗り、進んだ。
     モノクマが飛び乗る。次のモノクマが飛び乗る。モノクマが落ちる。次のモノクマが飛び乗る。モノクマが落ちる。飛び乗る。落ちる。飛び乗る。
     その繰り返しに菊の体が何度も傾いた。悲鳴を上げそうになったが、菊はまだ、そのロープをしっかりと握っていた。汗だくのまま、必死になってしがみついていた。そして、また進もうとした。

     その瞬間、重さに耐えきれなくなったロープがぶちりと千切れた。
     流れる曲が変わる。かごめかごめと子供が遊ぶような歌が聞こえてきた。
     ぐらりと揺れ、モノクマたちが次々と落ちていく。菊はそのロープを掴むも、体重を支えるにはロープの摩擦は足りなかった。手から血が流れる。何とかロープにしがみつこうとしている菊の前に、蝙蝠が一匹やってきて、そして、彼の手をがぶりと噛みついた。
     一瞬力が抜けたんだろう。その一瞬で、彼の手から、ロープが、すっぽりと抜けてしまった。
     落下していく。高い谷を、その奥深くまで、どんどん加速して。落下していく。もう山のてっぺんは見えない。

     モノクマたちが散乱した地面に叩きつけられる直前、ふと、彼の表情が変わった。
     汗だくで、真っ青なのに、ニヤリと口角を上げ、挑発するように笑った。

     後ろの正面、だあれ?

     歌が終わりを告げる。その直後、画面が暗くなり、ぐしゃりと言う嫌な音が響いた。

     静まり返った地獄。燃え盛る炎。陰でよく見えない彼の体らしきもののところに一本の懐刀が落ちてきて、そのままざっくりと、胸の部分に突き刺さった。
     もう音楽は鳴りやんでいた。

    舞々「ああ……」

     舞々が声を漏らしてへなへなと崩れ落ちる。それと同時に、フィオが口を押え、リーベがしゃがみこんだ。画面から目を逸らしながら涙を流すネロに、画面をにらみつけたまま動けないでいる星華。龍紀は震え、レイは頭を下げ続けていた。
     みんな、菊の死にショックを受けている。みんな、あまりに惨い景色に言葉が出なかった。何ていったらいいかわからなかった。

     心のどこかで、戻ってくると信じていた。あの状態になっても、なお、戻ってくると信じていたんだ。なのに、今自分に見えている映像は、菊は、とてもじゃないが生きているとは思えなかった。パチパチと燃え広がる炎の映像を見ながら膝をついた。
     カミサマは棒付きのキャンディを舐めながら手を叩いてゲラゲラと笑った。

    カミサマ「いやあ、あんまりにもルイス君が見たもの語るからさあ、本当の地獄でも見たいのかなあ、って思って用意しちゃったよ。
     ……でもちょっと残念だなあ。あーあ、クソが。心が折れないなんて、想定外だったよ。折角用意してやったのに、絶望して死ねよ。絶望して、絶望しきって死ねよ」

     ムカつくなあ。笑顔だけどため息交じりで苛立ちを隠しきれないカミサマの言葉。がりがりと噛み砕かれる飴の音が、泣いている声と、言葉を失った人々の忘れかけた吐息が入り混じる裁判場に響いた。

    リナ「……。
    (お前は何を見た。それすらも教えてくれないで……死ぬのか……。
     どうやって絶望しないと言うんだ菊。絶望するなと言った、強いお前が目の前であっさりと殺されたあたしらに、どうして絶望するなと言えるんだ。
     ……どうしてお前は……絶望しなかったんだ……)」

     答えてほしい相手はもういない。つうっと涙が、頬を伝ってきて、息が詰まる。これが、「悲しい」という感情であることは、もうとっくに理解していた。
    その後 外に出るともう既に日が昇っている。朝日が眩しく、目が痛くなる。誰もが何も言わずに降りていく。泣いている女の子たちや、龍紀やセツナ、ヤオなどは学校に行く。他も殆どがフラフラとどこかに散っていった。
     庭に残っているのは自分と、リーベ、サンの3人だった。
     溜息をつき、ベンチに座る。目が痛くなりそうな、光の霧に覆われた朝日を見る。はあ、とため息つくと、2人は何も言わずに空いてるスペースに座った。

    リナ「……なんだよ」
    リーベ「……別に。どこに座ろうがリーの勝手じゃないですか」
    サン「まあまあまあまあ、いいじゃんいいじゃん」
    リナ「あー、そう……」

     そう言いつつも、またみんな黙り込む。あの光景が、菊が死んだ光景がまだ目を閉じると浮かんでくる。あの生きていた時の息遣いが、一切しなくなった瞬間を思い出す。手の動きも、瞼の動きも、呼吸する胸の動きも、何もかもが鮮明に覚えている。それなのにそれらが一切動かなくなったんだ。
     今ほど、この記憶力を呪ったことは無い。忘れてしまえたら、どれほど楽になれるだろう。深い深いため息が出た。

    リーベ「……結構ムカついていたんですよ、ゲンコツ落とされた時」
    リナ「……?」
    リーベ「他人に言ったことでこんな怒ることないじゃないですか、大体手を出すなんて最低。今思えばあまりに幼稚なことを考えていました」
    リナ「……」
    サン「……」
    リーベ「……自分的には、ちゃんと謝れてはいないんです。形ばっかり反省しているように見せて……心の中では不貞腐れて、心の中で舌出して菊さんに謝罪して、それでも菊さんは許してくれたんです」
    リナ「……」
    リーベ「……どうしてか、今、それを後悔しているんです。とても……とっても。何でちゃんと謝らなかったんだって、心の奥底でずっと思っているんです」
    リナ「……」
    リーベ「鳥子さんには悪いと思っていたんです。でも、菊さんにはどこか反発したくて……ちゃんと謝れなかった。悪かったのは、リーだったのに」
    サン「……リーベちゃん」
    リーベ「ちゃんと謝ればよかった。こうなるってわかっていなくたって、謝ればよかった。とってもとっても後悔して……どうしようもなく胸が痛いんです。謝ればよかった……謝れば……。……っいなくなるなんて、思っていなかった……!」

     ボロボロとリーベは涙をこぼす。いつも笑顔を貼り付け、明るい彼女が、小さくうずくまって泣きじゃくっていた。その背中を、サンがポンポンとさする。泣いてはいないけれど、目は、とても悲しそうだった。
     リーベの肩を軽く叩く。何ともいいようがなかった。言葉にしようがなかった。この何とも言えない悲しみを、どう表現したらいいかわからなかった。あるのは喪失感だけだ。
     ふと前を見ると、ネロが立っていた。涙を流し、悲しんでいる。彼女は屈み、リーベの頭をそっと撫でた。
     リーベは顔をあげる。ネロの顔を見つめた。ネロは両腕でリーベを抱き締めた。リーベの顔がくしゃりとまた歪み、声をあげて泣き始めた。リーベの子供のような泣き声に、色んな想いがこみあげてきた。
     立ち上がる。どこに行くの、とサンに聞かれるが答えるつもりはなかった。どこに行くのかさえ、自分でもわからないのだから。
     娯楽施設に入る。開けた時、ルイスの遺体があることを警戒したが、そこは何も起きてなかったかのように何もなく、息を飲んだ。上を見ても、3階の手摺は壊れていない。むせるような血の匂いすら消え去っている。まるで、ここで誰かが死んでいたことすら嘘だったというように。
     甘い香りがふわりと漂ってくる。匂いの元を辿ってみると、その先には浅葱が立っていた。煙管でスパスパと吸いながら、じっと、薄暗いそこで事件現場を見つめていた。そして、こちらに気づくと、軽く手をあげた。

    浅葱「リナか。どうした、こんなところに」
    リナ「……別に。浅葱こそ、何をしているんだ」
    浅葱「事件現場がどうなっているか気になってね。……ここまで何もないとは思わんかったがの。……本当に、なんにもないとはの」
    リナ「……」
    浅葱「……遺体なら、ワシらが最初にいた部屋にあった。あの棺桶の中にの。……万が一を思って調べたが……息はしとらんかったよ」
    リナ「……そうか。……やっぱりアイツ、ここで会うことを望むと言っただけあってそういうことするんだな」
    浅葱「ああ。……本当に、3人は逝ってしまったんじゃなあ……」
    リナ「……ああ」
    浅葱「……つい、考えてしまうの。考えたって無駄なのにの。もしもなんて、存在せんのにの。……助けられたんじゃないか、と思ってしまうんじゃ」
    リナ「……」
    浅葱「ルイスの様子にもっと早く気づいていれば、何とかできたのかもしれないのにねえ。セツナを責めてしまったが……ワシだって気づかなかった責任がある。サインは出ていたんじゃ。イベントに参加していない、眠そう。そうじゃ、サインは出ていたんじゃ。
     ……それなのに、軽く聞くだけで済ませてしまった。もっと深く聞くべきじゃった。それを怠ったのはワシじゃ。あの子のせいじゃない」
    リナ「……誰のせいでもねえよ。あたしらだって同じだ。気づけなかったんだから。セツナは……あれは死ぬことが救いと思っている類の奴だ。その考え方はあたしは大っ嫌いだが、それでも、あることは理解できる。……だから、セツナも悪気があったわけじゃない。悪いのは……このゲームそのものだけだ」
    浅葱「……。……主は、優しい子じゃなあ」
    リナ「本当のことを言っているだけだ。……本当に、誰かが悪かったわけじゃない。運が、悪かったんだ」
    浅葱「……」

     浅葱は静かに溜息をつく。またすうっと煙管を吸い、ぷかぷかと煙を吐き出した。しばらく沈黙が続く。その間、ただただ上を見て、耳を澄ませた。やがて浅葱はゆっくりと口を開いた。

    浅葱「……のう、リナ」
    リナ「なんだ」
    浅葱「……主は、生きるんじゃぞ。ワシより先に逝くな」

     それは静かで、悲しみに満ちた言葉だった。それに、思わず言葉が詰まる。しばらく黙り込んでしまった。ゆっくりと言葉をまとめていき、上を見つめたまま答えた。

    リナ「……浅葱、それは約束できないな。安全を保証されていない世界だ。……いつ誰がどんなことをしてしまうかなんて、あたしには想像がつかない。
     それに……あたしは、誰の死だって望んじゃいない。誰であろうと、嫌いな奴だろうとな」
    浅葱「……。……すまん。そうじゃな。主の言う通りじゃ。……生きたい者が、生きられんようなそんな場所にせんよう……ワシらはまた考えねばならんの。……3人の死を、無駄にしてはならんの」

     若い子が先に逝くのは、いつだって慣れないものだ。
     彼女はそう言って、目を伏せ、甘い煙を吐いた。事件なんか起こっていなかった。そう嘲笑っているようなこの場所で、彼らの存在をしっかりと認識しながら。その隣でただただ、上を見ていた。
     ボーっと下を見つめ続けた。相変わらず高い場所だ。落ちたらひとたまりもない。ここから、彼は飛び降りたのかと考えると、背筋がぞくりとする。ここにいるのは自分一人だけだった。もうどれくらい見ていたかわからない。
     不意に花が視界に入ってくる。びっくりして花の先を見ると、視界に桃色の目の少年が入ってくる。その少年はいつも通りの笑顔をしていた。

    サン「リナちゃんみっけー!」
    リナ「……サンか。この花どうした」
    サン「こないだ皆で植えたやつだよ。綺麗に咲いたでしょ。僕ちゃんと咲かせてあげられたの久しぶりー。折角だからリナちゃんにあげる」
    リナ「……そうか、サンキュ。フィオ達のところにはいかないのか?」
    サン「フィオちゃんには今ファル君がついてるだろうし、邪魔するとすっごい睨まれるからね。今はいーの。それより、僕はリナちゃんが心配だなぁ」
    リナ「……心配?」
    サン「そう。1人だし、すっごく落ち込んでるみたいだったし」
    リナ「……そうか。……まあ、あんなもん知って、見て……落ち込まないわけねえよ」
    サン「それはわかるなー。僕もね、どうにかできたんじゃないかって……思っちゃうよねー。もう遅いのはわかってるんだけどね」
    リナ「……無駄でも、考えてしまうのが、人間ってもんだからな」
    サン「リナちゃん、おっとなー。なんか達観? ていうか悟り開いてない? 僕なんかフィオちゃんにすぐ怒られちゃうのに」
    リナ「あー、うん……想像がつくな……。
     ……お前、裁判の時もそうだったが、随分と明るくふるまうんだな。何というか……場違い?」
    サン「そりゃあね、僕は明るいのが取り柄だし……」
    リナ「何というか、卒業式にピエロがいるみたいな感じで」
    サン「なにそれほんとに場違いだね。いやでも卒業式にピエロか、なしよりのありじゃない? 」
    リナ「……別に悪いって言ってるんじゃないんだ。ただ……何でそんな元気に笑っていられるのか、気になってな」
    サン「そりゃあ、僕は皆に笑ってほしいからね」
    リナ「……やっぱりそういうとこ鬱陶しいな」
    サン「つれないなぁ、リナちゃんてばマジ塩対応」
    リナ「……」

     ふっと口から笑いがこぼれた。そのおどけた姿を見て、なんとなく、いつもの感じだと思った。それと同時に、何かが、弾けた気がした。抑えていた糸のようなものがプツンと切れたように、不意にボロボロと涙が溢れた。それを見て、サンが驚いたような顔をした。大丈夫? と聞く。涙が手すりに落ちる。

    リナ「……あたしはさ、生まれながら結構ドライな家庭で育ったおかげでさ、大体のことは我ながら達観しているって思って生きてきたんだ。昨日依頼で会ったやつが今日は死んでるなんて日常茶飯事で、死んでも、興味なかったんだ。
     ……たった10日だ。たった10日過ごしただけの連中だ。それなのに、何を思って、どう死んでいったのか追って、その死に様を見せつけられるっていうのが、こんなにも辛いことだと思わなかったんだ。
     興味ないで終わらなかったんだ。興味ないで終わらせるには……あまりにも知っているんだ。ルイスがゲーム弱いのも、押しに弱い癖に何かと気を使っていたのも、優しすぎるほど優しかったのも。鳥子がよく食べることも、甘いものが好きなことも、何も考えてなさそうで考えていることも。菊がハゲと呼ばれるとキレることも、酒に目がないのも、筋が通った意思を持っていることも!! ……全部、知っているんだ。あまりに知っているんだ。関わりすぎたんだ。
     この目で見て、何が起きたか知って、死んだってわかっているのに、まだ生きている錯覚に陥るんだ! そして、もう死んだ、って思い出して……それで、それで……!」

     誰も悪くなかったじゃねえか。
     そう声を絞りだした。胸を掴んで、握りしめる。胸の奥がぎゅうっと締め付けられる感覚がする。息がうまくできなくて、ただただ、しゃくりあげる。言葉がもう出てこない。嗚咽が吐き出され、しゃがみ込んだ。しっぽがだらんと垂れ下がったのを感じる。
     サンの手が背中をさする。うんうん、と頷きながら、彼は聞いていた。

    サン「つらいねぇ……仲良い人が死ぬのって、つらいよねぇ……」

     そう言って彼は背中をさすり続ける。微笑みつつも、悲し気な目をした彼の手は温かくて、彼が生きているということを、嫌というほど教えてくる。あの温もりを失った彼らの姿を、今は、知らなければよかったと強く思った。
    [学園長室]

    「やあやあ、おめでとう。第一回学級裁判を切り抜けれたようだね」

    「君もだいぶ慣れてきたようだね。随分様になっていたよ」

    「今回の動機? あー、そうだねえ……弱いといえば弱いけれど、悪くはないと思うけどね」

    「この舞台の秘密? 明かすのはまだまだ早いんじゃないかなー?」

    「だってまだ人はいるんだ? 今段階で知っちゃうのもったいないじゃーん」

    「とりあえず、まだまだ悲劇は続く予定だし、今回はここまでにしておいた方がいいんじゃないかな」

    「……ね、”君”も、”カミサマ”も」
    第1章の花 カンパニュラ
    花言葉は 「ごめんなさい」「救えなかった命」





    第1章 「後ろの正面 逆さまな人」 終
    山林檎 Link Message Mute
    2020/06/25 22:55:05

    キノロンパ 第一章「後ろの正面 逆さまの人」非日常編 裁判

    #キノロンパ

    more...
    作者が共有を許可していません Love ステキと思ったらハートを送ろう!ログイン不要です。ログインするとハートをカスタマイズできます。
    200 reply
    転載
    NG
    クレジット非表示
    NG
    商用利用
    NG
    改変
    NG
    ライセンス改変
    NG
    保存閲覧
    NG
    URLの共有
    NG
    模写・トレース
    NG
  • CONNECT この作品とコネクトしている作品