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電話の呼出音は5回程で切れ、受話器の向こうからは『ヴァニラさん?』と私の名を呼ぶホープの声が聞こえてきた。
「ホープ。仕事中にごめんね?」
『大丈夫ですよ。どうかしたんですか?』
「うん...実はこれからセラとレブロが遊びに来るんだけど、冷蔵庫のチーズケーキ出してもいいかな」
そんなことで電話を掛けてきたのかと呆れられたかな?と、少しだけ不安になるけれど、数秒の間の後、受話器の向こうから小さな笑い声が聞こえてきた。
『構いませんよ。いいですね、女子会ですか?』
「うん!セラがね、話したいこと沢山あるんだって。主にスノウへの不満みたいだけど」
『それは延々と続きそうだな...』
「セラ、怒ると恐いのに。スノウ、一体何したんだろう」
『さあ、スノウの場合思い当たる節がありすぎて...なんて、人のこと言えないな。僕も貴女には色々言われそうだ』
「私がホープへの不満を?どうして?」
思い当たる節が見つからなくて、首を傾げていると、ホープは苦笑しながら言葉を続けた。
『...仕事で帰りが遅くなることも多いから、寂しい思いをさせてるんじゃないか、って』
なんだ。そんなこと。
ホープはそんなことを気にしてたんだ。気にしてくれてたんだ。
でも、私は寂しいなんて思ったこと一度もない。むしろ
「......幸せだよ」
『...え?』
「会えない時間も、この部屋でホープを想うだけでドキドキするんだ
帰って来たらあれを話そう、これをしようって考えながらホープを待ってる時間もワクワクして、すっごく楽しいの」
『......』
「だから、ホープが気にする必要なんてないんだよ?」
『......』
「...って、ホープ?もしもーし。聞いてる?」
返事が返ってこなくて、ホープ側の電波が悪いのかな?と思ったけれど、そうではないらしい。
ホープさん!大丈夫ですか!生きてください!ホープさん!などと、なにやらホープの周りが騒がしい。
「ど、どうかしたの?」
『......いえ、何でもありません。え...っと、今日はなるべく早く帰りますから』
「?うん...待ってる。あ、ねぇ、ホープ」
『はい?』
「...だいすき」
『......っ』
「ホープ?」
おかしいな。また黙ってしまった。
『......すみません、仕事中なのでまた後で』
「ん...わかった......またね」
『ああ、いやーー違うんです......その、』
ちょっと寂しいと思ってしまったのが声に出てしまったのか。ホープの言葉の歯切れが悪くなる。
『僕も』
「うん?」
『......僕も、愛してる』
小声で囁かれた途端に胸がぎゅうぅっと締め付けられて、顔が熱くなる。
次の瞬間、受話器の向こうからヒュー!ヒューヒュー!と研究員たちが野次を飛ばす声と同時に『ちょっ...聞き耳立てないでください!』と、ホープの慌てた声が聞こえてきた。
思わずクスクスと笑ってしまう。
ホープ。
いま、ホープの顔も絶対真っ赤だね。