ひねくれ治すちゃんと祈祷師の話足元がよろけて転んでしまった。
いつの間にか蝋燭が消えたようなので新しいものを、と手探りで日用品を備蓄している戸棚に向かう途中の事だった。
しかし、わたくしに来るであろう地面との衝撃は無く、腹部に鈍く柔らかい感触があったのみで無傷。
わたくしの日頃の行いのお蔭、もしくはわたくしの神の御加護…と思えたらなんと幸せな事だったろうか。
「戸締まりはしっかりとしたハズなのですが」
「ごつごつの洞窟内でサンダルでも充分に危ないのに、暗い中で手探りなんてほぼ確定じゃないですかー」
非常に聞き慣れた不快な声が、腹の辺りの黒いものから聞こえる。
この声の主は、近頃わたくしの洞窟に何処からともなくやって来ては神を崇めず教えも聞かず、しこたまわたくしを構っては茶菓子を食べて帰る、あの迷惑な電波人間で間違いない。
そして、この返答はわたくしの質問に答えてはいない。
「支えて下さった事には礼を言いますが、離れなさい」
「……替えの火を取ってくるまでくっついてちゃ駄目です?」
「そんなご冗談を」
体制を建て直し、引き剥がそうとする。
…が、黒いものは剥がれない。
剥がれるどころか頭を押し付けているらしく、胸にアンテナがぶつかり痛い。
「いやですー」
「…では、茶菓子を出すとでも言えば離れて下さいますか」
「……」
今度は無言で頭を埋め、もう答える気も離れる気も無いという態度を見せた。
いつもの事ではあるが、この子供はわたくしを助けたいのか邪魔をしたいのか。
電波人間ひとりぶん、重い体重を動かして移動する。
「ここ、木箱が置きっぱなしです」
「数歩先、地面から石が出てますのでご注意を」
「ここ、たまに金歯が散歩してますよ」
ひねくれた声の案内で、再び躓く様な事態は起こらなかった。
まぁ、離れてくだされば、もっと楽で安全なんですけども。
無事に戸棚にたどり着き、取り出した蝋燭を近場に置いておいた燭台につけ、火を灯す。
「電灯でも使えば良いのに」
へばりついたままの子供がぼやく。
「電気によるあの眩しく刺々しい光は、どうも好きになれないのですよ」
「ああ、なるほど」
燭台と替えの蝋燭を持ち、消えてしまった明かりの元へ。
「おや、」
てっきり燃え尽きて消えてしまったと思っていたのだが、途中で火が掻き消されただけの様だった。
「もしかして、私がテレポーターで転移してきたとき、ちょっとした風が起きていたので、それで……」
テレポーター?
その言葉につい顔を見返す。
腹に付いていた電波人間は私を見て、ハッとした顔をして私の腰から飛び離れた。
「…じゃ、じゃあまた遊びに来ると思うので、お茶菓子は次回に取っておいてくださって結構ですー!」
バタバタと洞窟の入り口の方へ走り去っていく。
呆気にとられて「もう来なくて結構ですよ」とも「あなたが全ての元凶じゃあ無いですか」ともいう隙も無く。
「………もう、今日は、疲れました」
テレポーターをも防ぐ結界は後日張ることにして、今日はもう眠ることにしましょう。