さやねちゃんとたみくんのはなしコレクターズブティックの前の、木々が生い茂る広場。
そのうちの一本の木に寄りかかる明らかに苛立っているであろう黒い電波人間。
予想よりも大変怒っていらっしゃる。正直このまま逃げたい。うわぁ。
少しだけ気配を消して、近寄っていく。なるべくバレるならできるだけ遅くが良い。怖い。
「……たみやさんですよね」
こそこそと小細工をしているうちに、異様に落ち着いた穏やかな声が掛けられた。
「え、ええ、まぁ、そういう風に呼ばれている事もあるかもしれません」
「待ち合わせをしておきながら、予定を組んだ御自分が遅刻をなさるなんて。…結構失礼じゃ無いですか?」
腕を組んで不快そうに私を見つめる、というか睨んでくるさやねさん。
彼女は独特の眼力がある為、見つめられたり睨まれたりされると目を反らしたくなる。
そもそも私は目を合わせて会話することがとても苦手なので、やめてくださいしんでしまいます。こう見えて結構デリケートなんですよ私。
「こちらも一応、約束の時間の30分程前に到着しておいたのですが」
「30分も前からだなんて…。さやねさん、ひょっとして私の事好きなんです?」
冗談混ざりで言ったら睨まれた。こわい。
「約束の相手に失礼が無いように、ですよ」
彼女は遅刻の心配が無いようにと、15分前程度に到着を目安に時間を組んでいた。だがスケジュールを詰めすぎていた様で予定より早くついてその時間になってしまったそう。
自由な冒険とのんびり快適な島暮らしという、スケジュール皆無な生活を満喫している私と、同じ島でほぼ同様のスタイルで生活している生き物とは到底思えない。
ただし、凄いとは思うがそうはなりたく無いし見習いたくもない。間違いなく息が詰まる。
でも正直彼女のスケジュール表は一度拝見してみたいとは思う。何を書き込んで何を分けているのだろうか。
「『たみやさんの事ですし、寝坊されて遅刻をしてくるんじゃないか』と気付いたのが、予定の時刻を過ぎてからだったのは失敗でしたね」
「あなたの中で私は私のようでなによりです」
「ということはやっぱり寝坊されたんですか」
あ。
「いや、あの、寝坊もしましたけど、これも探していたので」
こっそり探して、見付けた物を慌てて渡す。
「こちらに向かう途中、あなたがあの島に来たのは五月だとかえでさんから丁度聞きました。なので、畑に落ちていたものですが、これを。
……珍しいでしょう?」
それは、たまに生えてくる三つ葉の葉っぱの植物が、奇形となって四つの葉となったもの。
幸せになる云々は信じていませんが。
「…え? ああ、ありがとうございます?」
突然の事で理解が追い付いていない様子だけども、口元が少しだけ緩んだ。
「遅刻したことはすみませんでした、今後もまた迷惑をかけると思います」
「せめて今後は気を付けますと行ってくださいよそこは」
後日、あの四つの葉の奇形が栞に加工されて本の間に挟まれる瞬間を丁度目撃した。
……私の記念日は来月なのでお返し期待していますよ、とでも言っておけば良かったやもしれない。