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    1 クロの話黒色


    「お腹が、すいた」


    遠い昔のお話です。
    ある村に『黒』という、村で唯一の青年がいました。彼は誰にでも優しく、それでいて活発な青年でした。彼の家族は父親1人で、母親は彼を産んですぐに死んでしまいました。
    当時村では雨があまり降らず作物があまり取れませんでした。なので飢餓で死んでしまう人がたくさんいました。
    彼はとても父親思いで、隣といっても4里(1里=約4km)ほど離れた村で働いては、父親のために食材を持ち帰ってくる。そんな青年でした。
    父親はそんな彼を愛していました。
    彼もまた父親を愛していました。

    飢饉がひどくなり、村ではどんどん人が餓死していきました。
    『これでは村が全滅してしまう』
    それを恐れた村人は、神に生贄を差し出すことにしました。
    この村は昔の文化を重んじ、神を信じあがめていました。なので周りの村からは気味悪がられていました。
    若い女か子供を一人神に差し出し、そして雨が降るのを願う。典型的な方法でした。
    しかし若い女などはこの村にいません。子供もいません。
    ですが1人だけ、思い当たる人物がいたのです。
    それが黒でした。

    「親父さん気持ちはわかりますが、このままでは村が…」
    「それはわかっている!だがたった1人の家族を失いたくはない!!」
    「黒。お前もわかるだろう。村を救うためだ」
    「僕が死んだら父さんは一人ぼっちだから、死にたくないです」

    村人はどうにかして黒を生贄にしようとしました。黒は青年にしては小柄で、母親の血を濃く引いたのか少々女らしい顔つきでした。
    これなら神も納得はするだろう。
    それに女だけとは限らない。若い男でもきっと平気だろう。
    大勢の村人が二人の住む家に行き、説得しようとしましたが二人とも断固反対でした。
    父親は黒を家に閉じ込め、一切村人に合わせないようにしました。

    「父さん、お腹は減ってない?」
    「大丈夫だ。お前は?」
    「僕も大丈夫。でも食料が尽きたでしょう」
    「お前が頑張ってくれたからまだあるよ」

    食料もまだある。徐々に来る人も少なくなった。二人はすっかり安心していました。

    「少し俺は畑を見てくる」
    「どうせ枯れてるよ」
    「何を、最近雨が少し降ったんだ。1本ぐらい残っているかもしれない」
    「そっか。うん分かった」
    「誰が来ても決して開けるんじゃないよ。鍵は掛けてあるから、大丈夫だと思うけど」
    「すぐ帰ってきてね」
    「あぁ」

    畑は歩いて五分くらいのところにありました。黒の父親は必死に生きている数本の苗を見たあと、すぐに帰りました。
    家を見た時、父親は驚きました。
    家の扉が斧で壊されていました。中を見ると黒がいません。
    遠くの方で騒ぎ声が聞こえます。必死になってその場所に走っていきます。

    「嫌だ!!離せ!!」
    「うるさい!大人しくこい!!」
    「おい!!黒に何をしている!!」
    「くそ、親父が来たか!抑えろ!!」
    「やめろ!!黒を殺すな!」
    「父さん助けて!!死にたくない!!」
    「黒!!黒!!くそっ!!」
    「仕方が無いことなんだ、神を呼ぶためだ」

    無理やり祭壇に挙げられ、縛られ、皆が見ていました。
    父親が泣き叫びながら数人の村人に抑えられていました。
    黒の必死の抵抗も虚しく、心臓に深々と古びた刀が突き刺さりました。


    『かわいそうな子だ』
    誰かが僕に話しかけている
    『男の子。可愛そうに…意味の無い命が消されていくのは実に悲しい』
    僕の名前のように、目の前は闇しかない
    なのにどこかから声が聞こえる
    あれ、僕何があったんだっけ
    『そなたは死んでしまったのだ』
    そうなんだ
    死んじゃったんだ
    『だがそなたを殺すのは非常に惜しい。父親のために働き、隣の村を助けた。純粋無垢なその心。消えてしまうには非常にもったいない』

    『一つだけ願いを叶えよう。』

    …父さん
    『うん?』
    父さんが、一人ぼっちだ
    『そなたの父親か?彼もまた非常に優しい心を持っておる。そなたの亡骸の横で泣き叫んでおる』
    父さんを一人にさせたくない。

    死にたくない

    『…』
    死にたくない、です
    『…ふっふっふ。そうかそうか』
    ?
    『そなたの願いはそれで良いか?死にたくない。でよいのか?』
    はい
    父さんのそばにいたい
    『そうかそうか。よしよし、願いを叶えてやろう』


    『そうなれば、新しい神が必要だ』


    『名前は…黒、お前がつけてくれ』




    あぁなんて優しくて哀れな子だ


    「…う」
    「、?、え、」
    「と…う、さん」
    「く、ろ…!!!黒!!!生き返った!!黒が生き返った!!!」

    なんとも不思議なことが起こりました。
    生贄に捧げたはずの人間が生きかえってしまったのです。
    周りの人は驚きました。

    ですが、これでは生贄の意味がありません。
    神も力を貸してくれません。

    「なぜだ、なぜもう1度殺さないといけない!」
    「いいからそこをどけ!」
    「父さん!危ない!」
    「黒!大丈夫か!?」
    「大丈夫、ただかすっただけだか、ら…って、え」

    黒はもう1度自分を殺そうとした村人から父親を守ったところ、頬に小さな傷がつきました。
    するとまた奇妙なことが起きたのです。

    「血が…」
    「見ろ、傷が治っていく…!」
    「どういうことだ」
    「何が起こってるんだ!?」

    ぽたぽたと垂れた血が、みるみるうちに黒に戻ってきます。傷が塞がります。跡は見当たりません。

    「おい、あいつの頭を見ろ」
    「角だ」
    「真っ黒な角」


    「化け物だ」


    誰かがそう言いました。
    その一つの声は、徐々に大きな声に変わっていきました

    「生き返った」
    「化け物だ」
    「殺せ」

    「化け物には死を」


    だけど、死にません。
    どんなに刺してもどんなに殴っても、瞬く間に治ってしまいます。

    「なぜだ」
    「もう1度心臓を刺せ」
    「死なない」

    「やめろ、やめてくれ!!」

    「ならば燃やせ」
    「殺せ」
    「殺せ」

    「助けて、助けて…!!」

    村人たちに白い眼を向けられ、遊び半分に何度も黒は殺されました。
    いくら生き返るといえども、痛みは消えません。黒は必死になって誰かに手を伸ばしました。
    そこにいたのは、黒の父親でした。
    父親はただ黒を見下ろしては、その重い口を開きました。

    「もうやめろ」

    黒はその言葉を聞き、思わず涙しました。
    この地獄からようやく抜け出せるのだと。

    「と、うさん、父さん…助けて」


    「どうせ死なないんだ、どこかに閉じ込めておけ」


    黒にはもう誰もいませんでした。

    黒は村の奥底に閉じ込められました。
    身体中縛られ、両手は無理矢理合わせられて、足は地面に向けて、それぞれ無数の杭が打たれました。
    目玉はくり抜かれ、何も見えません。
    最後に見た景色は、父親が片方の目玉を瓶に詰めている姿でした。
    生きてるか死んでいるのかわからない。
    ですが確かに黒は生きていました。


    お腹がすいた


    黒はよく自分の体のことを知りませんでした。


    おなかが すいた

    憎い
    難い
    悪い
    にくい


    黒は自分がどれほどの存在を知りませんでした。


    殺してやる
    ころしてやる
    ころして やる


    目が見えた
    「っ」
    とつぜんの光に てをおおった

    あれ なんでぼくの手
    くいが なくなってた
    足のくいも すこししか ささってない
    だれかが ぬいた ?

    だれでもいいや

    こうつごう
    ぴちゃんと、顔に何かが落ちた。
    「っ…?」
    雨だ。久しぶりの雨だ。
    あれ、僕…なんで外にいるんだ。
    むくりと体を起こすと、ズキンと痛む頭。
    「っう…ここ、どこ…」
    だって僕は、小屋に閉じ込められて、杭を体に打ち込まれていたはずだ。
    なのになんで外にいるんだ?
    「全く思い出せない…」
    そういえばお腹がすいていない。不思議なことばかり起こっている。
    ふらふらと立ち上がったあと、ようやく周りの景色を確認して絶句した。
    辺り一面、血の海。
    転がっている見知った人間達。らしきもの。
    よく見れば自分の服も血まみれになっていた。
    「う、うわっ!!」
    べしゃっと尻餅ついたところには、誰かの胴体が落ちていた。
    「っ!」
    なんだこれ
    なんだこれ!!!
    僕が縛られていた間に、何があったんだ。
    胴体は鋭利なもので切られたわけではなく、潰されて擦り切れたといった感じだった。それに腹部には食い散らかしたような穴が空いていた。
    要するに、酷い死に方。
    「ば、化け物がやった…?」
    死体から離れようと無理矢理立ち上がって後ずさり。思わず口からこぼれた『化け物』という言葉。
    自分の足が止まる。

    『化け物が』
    『化け物には死を』
    『殺せ』

    さんざん言われた言葉。
    自分を痛めつけ
    自分を縛り付け
    自分を笑い飛ばした人間達が、無残な姿で死んでいった。
    今更可哀想や悲しいなどの感情は出るはずがない。
    「…」
    …かといって、ざまぁみろなんて言えるほど、僕の心は単純ではない。全く心が晴れなかった。
    「…父さん、は」
    ふと、自分の唯一の家族を思い出した。
    父さんは一体ーーーー

    「くろ」

    「!!」
    声の方を振り向いた。
    生き残りがいたのかと思ったが、そこにいたのは見知らぬ子。
    白い髪をした不思議な子。
    「くろ?」
    こてんと首を傾げる頭には、白い角。
    自分と同じように角が生えていた。
    「…え、と。君は…」
    僕を知っているようなのでとりあえず名前を聞こうとしたら、その子は嬉しそうに僕に飛びついてきた。
    「くろー!」
    僕の膝に抱きついて笑いながら僕を見上げた。
    「わわっ、えっと…君は誰かな」
    「わからない」
    「わ、分からない?」
    「きづいたら ここにいた わからない」
    「そう、なんだ」
    「みんな しんでいる」
    「え」
    「みんな いきしてない なんで?」
    その子は純粋な目でこちらをじっと見ていた。
    僕はその質問に答えることなく、しばらくした後その子と一緒に僕の家に向かった。
    扉は壊され、中が丸見えだった。
    そこには、

    「…父さん」

    首を失くした死体が転がってた。
    抵抗する暇もなかったのか、綺麗な死体だった。
    「…」
    「ね みんなしんでる」
    その子の声は聞こえなかった。
    父さんが死んだ。
    いろんな感情が湧き出る。

    唯一の たった一人の家族が

    何言ってるんだ 僕を見捨てたんだぞ

    でも父さんは父さんだ

    僕の目をくり抜いたのは誰だ

    死んでしまった 父さんが

    閉じ込めろといったのは誰だ

    そうだ


    全部父さんが言ったから、僕はこんな目にあったんだ。


    様々な葛藤の末、父さんの自業自得だと割り切った。
    「くろ?」
    白い角の子が首をかしげた。
    「…なんでもないよ」
    そうだ悲しむ必要なんてない。ないんだ。
    死体を暫く見つめたあと、僕は父さんの手に何かがあるのを見つけた。
    なんだ?
    「ちょっとまってて」
    彼を玄関のところに待たせて、父さんに近づいた。そしてそれを拾い上げる
    「…空箱だ」
    なんでこんなものを持っていたんだ?
    それに、こんなの家になかったはずだ。
    なのに
    どこかで、見たこと、が、

    『目玉はどうするんだ?』

    「あ、」

    『この箱に入れて、鍵でもかけておけば2度と見えないままだろう』

    そうだ、僕の目玉を入れた箱だ


    かかってない


    鍵は開いていた。


    僕の記憶が蘇る。
    僕が地面に寝転ぶ前の、空白の時間に入る前の、小屋にいた時の記憶。
    僕、目が見えるようになったよね。


    なんで?


    汗が止まらなった。
    震えた手から錠前が外れた箱がコト、と落ちた。
    「父さん、」
    掠れた声で呼んだ。
    返事はない。
    ぐるぐると回る頭と目。様々な言葉が頭をガンガンと揺らしている。
    そして回りすぎた目は、ひとつの本を見つけた。
    なんだこれ。
    震えた手で机の上に置いてあった本を拾う。
    「日記…??」
    父さんはそんなのをつけていなかった。
    パラパラとめくると、5、6ページほどしか書いていなかった。最近書き始めたのか。
    1つ1つ読んでいく。
    〇月△日
    私はとてつもない過ちを犯した
    自分の命が惜しいあまりに、命よりも大切だったはずの息子を見捨てた
    見て見ぬふりをして、日々を過ごそうとした
    だがもう限界だ
    息子は死なない
    一生村人に嬲られ続ける姿は見たくない
    私だけにしか救えない
    今度こそは救う
    たとえ私が殺されても

    △月◇日
    息子を山奥の小屋に閉じ込めることに成功した
    これで誰も近寄らないだろう
    久しぶりに見た息子の姿は酷い姿をしていた
    身体中を杭で打たれていて…見るに堪えない
    私は村人たちと同じ考えだということを証明するために、息子の…黒の目をくり抜いた
    黒の叫び声が耳に刺さった
    私も一緒に叫びそうになるのを我慢した
    許してくれ
    いや、許さなくてもいい
    ただお前が助かってくれさえすれば…

    ◇月〇日
    ついに腕の杭をすべて取り外せた
    思った以上に誰も近づかない。だが念の為夜中に行動する
    杭を抜いても息子はなんの反応もしなかった
    痛みを与え続けられたせいで、逆に痛覚がなくなっているのかも知れない
    あともう少しだ。あともう少しで黒を解放できる

    今日
    先程目玉の箱を開けた
    目玉は意志を持ったように家から出ていった
    これで黒は見えるようになる
    そして私はこれから最後の杭を抜きに行く
    黒は私を殺したいほど憎んでいるだろう
    それでいい。それでもいい
    殺してくれたって構わない。それ以上の行いをした
    だけどこれは言わせてほしい

    私はお前のことを愛している
    「くろ?」
    後ろから声が聞こえた。
    「だいじょうぶ?」
    後ろには父さんの死体。
    僕は日記を机に置いた。


    「とうさん」


    僕今、どんな顔してるんだろう。
    「行こうか」
    「どこに?」
    「…どこか」
    「そっか」
    「君の名前はないんだっけ」
    「うん」
    「じゃあ…白。でどうかな。ってちょっとおかしいかな…どう?」
    「うん!」
    「そ、それでいいの?はは…変わった子だな」
    手を繋いで、隣の村へと歩いていく。
    僕も小さいころ、父さんとよく手繋いだっけ。

    『転ぶなよ。黒』

    『今日は一緒に散歩しようか』


    もういない
    父さんはもう居ない



    「転ばないでね。白」
    白は僕のほうを見て大きく頷いて笑った。


    (すべて真っ黒になった)
    キャラクター紹介
    【黒】
    性別:男
    年齢:19
    身長:167
    体重:50
    種族:元人
    ・生贄に差し出され生きることを強く望んだため不死者に。そのせいで真っ黒な角が生えている
    ・お人好しでどこか人を魅了する力がある。だが切り捨てる時は潔く切り捨てる

    【白(仮名)】
    性別:不明
    年齢:不明
    身長:不明
    体重:不明
    種族:不明
    ・全滅した村に突然現れた謎の子供。黒と同じように白い角が生えている。
    ・黒のこと以外は記憶がなくなっており、自分の名前すら知らないというが…?
    白菫 Link Message Mute
    2018/08/21 21:52:16

    1 クロの話

    クロ、というキャラクターを説明した話です
    #オリジナル #創作 #オリキャラ

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    作者が共有を許可していません Love ステキと思ったらハートを送ろう!ログイン不要です。ログインするとハートをカスタマイズできます。
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