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    無題「ねえ、お兄ちゃん。夜ご飯出来たって。お母さんが呼んでるよ」

     その声に、アイソ・カールは読んでいた本に栞を挟み閉じた。顔を上げ、声のした方を向けば、開いた扉から双子の弟であるイソップ・カールが顔を覗かせている。

    「今行くよ。今夜は何かな」
    「お兄ちゃんの好きなクリームシチュー。僕も手伝ったよ」
    「へぇ、そうなんだ。偉いね」
    「うん。お兄ちゃんはずっと部屋で本を読んでたけど」
    「ふふっ、ごめんね。明日は僕も手伝うよ」

     本を机の上の小さな棚にしまい、席を立ちイソップの元へと向かう。一緒に行きたかったようで、近付くと手を取られた。
     早く行こ、と。早足で進むイソップに、待ってと笑いながら、小走りでついていく。
     リビングの扉を開くと、ふわりと夕食のいい匂いがした。


    「さあ、座ってお食べなさい」

     迎えた母がそう言って、イソップとアイソの頭を撫でて微笑む。優しく、暖かな母の慈しむような両の手。父もこちらに顔を向け、おいで、と言う。

     これ以上ないほどの、しあわせ。

     はーい、と返事をして。顔を上げると母と、目が合った。優しく微笑む母の瞳に映った自分。それを、見て―――



    「……………違う」



      ✕  ✕  ✕



     夢の魔女、イドーラから招待状が届いた。一瞬、イソップ宛なのかとも思ったが、この荘園において、それも招待状ともなれば届く相手が間違うことは無い。ならば、本当に……

    「一体、何の用なのでしょうか」

     イドーラはつい最近、荘園に来た(という表現はおかしいのかもしれない)ばかりのハンターだ。戦ったことは、まだ一度しかなく、言葉を交わしたこともない。姿を見たことすら……。では何故。
     疑問は、抱くだけ無駄だろうか。この招待をなかったことにして、行かないという選択肢もない訳では無い。その場合、少しあとが怖い気もするが。

     暫く悩んだ末、イソップは夢の魔女、イドーラの元へ向かうことを決めた。幸いか分かっていてなのか。今日明日、イソップが参加しなければならないゲームはない。
     では早速行こうかと。少しの支度を整え部屋を出る。途中、占い師のイライ・クラークにすれ違いざま、何処へ行くんだと問われたが、少し行くとこがあって、と。濁した。



     ハンターの館は外から見ると相変わらずしんとして、ここで何人もの人ならざる者達が住んでいるとは思えない。扉を小さく叩くと、招待状のおかげか。鍵が開く。
     お邪魔します、と誰に言うでもなく呟いて、足を踏み出す。ここへ来たのはこれで2回目が、それでもやはり、普段のゲームを思い出して緊張してしまう。

     今日は誰も廊下に出ていないようで、まるで気配がなかった。少しの安心感を抱く。
     赤々とした灯火の続く廊下を歩けば、やがて目的のハンターの部屋へとたどり着いた。場所を知らなくとも招待状さえあれば分かってしまう。そういうものなのだ。

     控えめに小さく扉を叩けば、すぐに来ることを知っていたかのように「入りなさい」と、声がした。

     言われるまま、扉を開けて。記憶は、そこまでだ。



      ✕  ✕  ✕



    「あら……夢から覚めてしまったの」

     残念そうな女性の声に振り返ると、そこには初めて見る、恐ろしくもうつくしい、ハンターの姿があった。一瞬で、彼女こそが夢の魔女、イドーラであると察する。
     振り返ると同時に消えてしまった淡く、幸せな幻想。少し惜しいと感じてしまったのは、許して欲しい。

    「なんのつもりですか」
    「あなたに幸せになって欲しかったのよ。なのに、目覚めてしまって。……大丈夫。もう一度、夢を見せてあげるわ」
    「やめてください」

     どうして、と。心底不思議そうに魔女は言う。幸せになりたいのでしょう?今の夢は、貴方の望みでしょう?

    「幸せを求めることは罪ではないのよ。現実から目を背けて。夢を見ることで人は救われるの」

     イソップ・カール、と。名前を呼び、魔女はイソップを抱きしめる。慈しむ、母のようなその手に悪意は微塵も感じない。
     一度だけ交えたゲーム。その時魔女は、自分の過去でも覗き見たのだろうか。だから、同情をして…。

     魔女が見せた、しあわせな夢を思い出す。何不自由なく、両親に愛され、イソップと共に在る生活。平凡なそれこそが、イソップに想像出来る最上の、しあわせ。けれどもう二度と戻れない。
     魔女の優しい抱擁に、目を閉じる。戻りたい気持ちを押し殺して、それでも、と。呟いた。

    「それでも、僕は夢を見る訳にはいかないんです。……僕の何よりも大切な人は、夢の世界にはいないから」

     そう言い、魔女の抱擁を振り払うように腕を使い、身を引く。

    「僕の心を覗いたあなたなら、分かりますよね」
    「……そうね。残念だけれど」

     もし、また夢を見たいと思ったら、いつでもいらっしゃい、と。微笑む魔女に、確かにあの頃の母が向けてくれていたような愛を感じて。やはり少しの心残りを感じながらも、部屋を出た。
    黒須樹 Link Message Mute
    2019/02/02 22:59:58

    無題

    ワンライ。夢の魔女さまと、兄弟世界のアイソくんの話。Twitterで少し話したものをまた少し広げてみただけ。
    タイトル思い浮かばないからとりあえず無題

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