もう少しこのままでこんな夢を見た。
幼い頃から暮らしていた一族の館。いつも通りに日課をこなし、日が暮れたならば兄弟三人で夕餉を囲む。互いに他愛もない会話をしながら腹いっぱい飯を食べる。特別に豪勢な食事と言う訳では無いが、愛すべき兄弟と食べる飯は格別だった。
食事の後。いつものように酒を飲んでいた次兄は早くも酔いが回ったようで、顔を朱に染め大声で歌を歌っている。読書家の長兄は炉の前に座り、次兄の下手な歌など聞こえていないかのように分厚い書物に目を落としている。
何の変哲も無い日常。他愛もない会話。
もう二度と会うことができぬ兄達との平穏な日々。これは夢だ。わかっている。物静かな長兄も酒好きの次兄も、最早この世の何処にもいない。これは夢だ。わかっている。だが、あと少し、このままでいたい。
兄達が俺を呼ぶ。優しい微笑みを浮かべながら。
お前なら大丈夫だ、がんばれよ。
いつもお前を見守っているからな。
懐かしい兄達の微笑みと声は、柔らかな光の中に消えていった。
終