年下の彼を捕まえて
「恋人といる時の花見も雪見も"特別な気分に浸れて"私は大好きですよー。ね、比企谷くん?」
暦の上では春になり、桜の花も咲き乱れ世はまさにお花見ざかり! ……な筈なのだが──そんな雪が舞い落ちる桜並木を俺は自身で決して望んでしてもらっている訳でもない腕組みをされて引っ張られながら歩いている……と、よくもまあこんな天候の時にまで外に出てやりますねと思う一団に捕まった。捕まってしまった。
端的に言うとテレビ局の今年の花見状況のリポートだった。そのメイクに時間を掛けて作り上げたであろう顔に接客スマイルをのせてリポーターが寄りにもよって俺たちにマイクを向けながら話し掛けて来た。まあ……十中八九、陽乃さんが目についたからであろう。この人の見た目は芸能人の女優すら裸足で逃げ出すレベルである。目立ち過ぎなんだよなあ、何せ真横に太陽がある状態なんだから……他の花見をしている男どもからの増悪に嫉妬、羨望の眼差しを一身に受けている俺の身にもなってください。いや、本気で。
俺の腕を取り"絶対に逃さない"をしながらテレビのリポーターの質問に誰もが見惚れる笑顔で答える、俺が所属する部の部長の姉こと雪ノ下陽乃さん。取り敢えず、腕組みを止めてくれませんかね……なんかさっきからポケットでスマホがブルブルしては止まるを凄い勢いで繰り返しているんですけれど。
「彼氏さんは、年上のこんなお綺麗な彼女さんをどうやってお作りになられたのですか?」
どう答えろって言うんだよ……本当は彼女じゃないのに、この人のお巫山戯け──って、痛い痛い! この人周りに気づかれないように組んでいる腕を密かに極めてるんですけれど!? これはアレですか? ちょっとでも余計な真実を話したらこの片腕とバイバイと言うことでしょうかね? 怖い、怖過ぎる、この魔王──イタっ!? だから心を読むの止めてくれませんでしょうかね?!
今日は厄日だ……休日だからと本を買いに出て中々良い物を見つけたからと調子に乗って、うっかりと店内を色々見て回って……すっかりと長居をしてしまい外に出れば春なのに空から雪が降っている有り様。当然傘も無くどうしたものかと唖然としている俺、これだけでも不運マックスなのだが……そしてそんな俺は、こんな時に限って出会いたくない魔王と偶然出会い拉致られたのだった……。
「テレビなのにすみません上手く答えられなくて。彼、比企谷くんはとても照れ屋さんなもので♡」
「まあ、そうなんですね! 彼氏さんのことをよく理解してらっしゃるほど深い仲──ラブラブで羨ましい限りです!」
このリポーターの人何言ってくれてんの!? すっかり陽乃さんの手の上でコロコロされてるじゃん! お陰で、スマホのブルブルにブッブッブってパターンまで加わってしまったじゃないですか(白目)
「では最後に、お二方はご結婚とか考えてらっしゃいますか?」
ぶふあっ!? いやいやいやいや! どう見ても学生にしか見えないでしょう俺、結婚とか早いですから! そう思いながらチラリと陽乃さんを見ると……。
「そうですねー……彼が結婚出来る年齢になったらすることに決めています♡」
────え? pardon? Really?
「それはそれは、おめでとうございます! その時は是非とも私どもにリポートさせて頂きたいですね!」
「クスッ♪ ではその時はテレビ局の方にお知らせしますね♡」
「ええ、是非とも! いや〜本当にラブラブで実に羨ましい、お熱いカップルでした。雪と花の舞う、現場からのリポートは以上です〜!」
*
リポーターのインタビューが終わり、これ以上絡まれたくないしその場をそそくさと離れる俺……と確りと付いて来る陽乃さん。
「何てことしてくれるんですか……雪ノ下さん」
「えー、面白かったからいいじゃない♪」
「良くないですよ、見てくださいよ……このスマホの着信件数」
「うわぁ……凄い数字だね。えと、しずちゃんに、知らない子に、ガハマちゃん、それに小町ちゃんと……あ、この番号は雪乃ちゃんからだね♡」
「ダネとか語尾をフシギダネ見たいな風に言っている場合じゃないですよ……どうしてくれるんですかこれ……俺、明日から学校行けませんよ……」
俺は深い深い溜め息を吐いた。……マジでどうしよう。この時間のニュース番組のお天気コーナーに出たとか、ゴールデンタイム前だからかなりの人数の人が見ている筈……明日は周りから常に見られ、嫌な視線に晒され続けて、放課後は部活仲間とか後輩とか顧問とかから絶対に尋問されるよ……。
「大丈夫大丈夫、大丈夫だって。何か言われたら──」
「何か言われたら?」
陽乃さんの言葉に聞き返した俺に振り返った彼女のその顔は、まるで今より数カ月先の季節の中に咲き誇る向日葵のような眩しい笑顔であり──
「恋人とは俺が18歳の誕生日を迎える日に結婚しますって言えば良いよ♡」
(おわりん)