ほのぼのな日常 第5話 作戦準備、完璧ですっ!先に記しとく設定。
草津命(くさつ みこと):女性
衣笠律(きぬがさ りつ):男性
田辺京志(たなべ けいし):女性
今出川一司(いまでがわ かずし):男性
藤沢慶子(ふじさわ けいこ):女性
と言うことで。
こんにちは、私は命、草津命です。
今、私は大学4年生です。
私は今、恋をしています。
それも絶対に『運命の恋』です。
……でも、今はまだちょっと悩ましいです。
もしかしたら、『運命の片思い』かもしれませんから……。
でも、いつか絶対に両思いになりたいです。
そうなれたらとっても嬉しいな、って思っています。
私の『運命の人』は衣笠先輩。
いろんないきさつから始まって衣笠先輩に出会ったとき、私はすぐに分かりました。
この人は私の『運命の人』だ、って。
ただの思いつきとか、何か良い人っぽいって思った、とかじゃなくて、本当に心の奥底からの直感が『運命』を知らせてくれました。
衣笠先輩と出会ったとき、私にはお付き合いしている彼氏がいました。
とっても楽しい人で、とっても優しい人で、とっても魅力的で。
もしかしたら、私には贅沢すぎる人だったかもしれません。
それくらい素敵な人でした。
でも、衣笠先輩に会った瞬間、彼氏の魅力が全部なくなりました。
衣笠先輩がどんな人なのか全然知らないのに、衣笠先輩に「魅力」なんて言葉では表せない特別な感情が生まれました。
だからその日のうちに、彼氏に『ごめんなさい』をしました。
それからは、心理情報研究室、衣笠先輩の研究室、にいろんな理由をつけて訪れるようになりました。
4年になる、進む研究室を決める、とき、私は迷わず心理情報研究室を希望しました。
もちろん、希望しても応募多数だったら入れるか分かりません。
でも、心理情報研究室は全然人気がなくって、毎年、定員割れとのことで、私の希望はあっさりとかないました。
大学院に進んだ衣笠先輩。4年生になった私。
衣笠先輩に会いに行く理由を考えなくても良くなりました。
今日も朝から、衣笠先輩は『精神情報実体化装置』のメンテナンスをしています。
私は衣笠先輩のお手伝いです。
この装置、ずっと前から研究されていて、理論は十分にできあがっています。
でも、実証実験がなかなか上手く行かなくて、衣笠先輩の代でやっと動作に成功しました。
ですが、まだ動作がかなり不安定。
と言うことで、衣笠先輩は毎日、装置の設定を変えてみたり、装置の部品を替えてみたりして、安定化を目指しています。
「草津さん、3番お願い」
「はいっ」
装置の下に潜りこんでいる衣笠先輩に答えます。
それから、3番の部品、ガラスでできた何か、を手渡します。
「よ……、よっと……。
次、7番お願い」
「はいっ」
今度は7番、金属板がぎっちりとならんでる部品を手渡します。
「……んっ、よっ」
カチッカチッ、と金属音。
ちょっと間が空くと、後ろから聞こえる楽しそうな話し声に意識が向きます。
話をしているのは、田辺先輩と今出川先輩。
お二人で何気ない話をしています。
それだけなのにすっごく楽しそうです。
田辺先輩と今出川先輩は立派な恋人です。
それだけじゃなくって、お二人はお互いが特別な存在です。
私も衣笠先輩とあんなふうに話せるようになりたいです。
「……津さん、
草津さん?」
「あっ、はいっ」
衣笠先輩の言葉にあわてて答えます。
「6番お願い。
草津さん、疲れた?
ちょっと休憩しよっか?」
「あ、あの、大丈夫ですっ」
そう言ってから、6番、これもガラスでできた部品です、を衣笠先輩に手渡します。
午前中はこんな感じの作業が続きました。
お昼前。
藤沢先輩が研究室に来ました。
「あー、やっぱ、ここに集まってた。
昼ごはん、食べに行こっ」
藤沢先輩の声に、まず装置の下にいる衣笠先輩が答えました。
「これ、もうちょっとかかるから、その後でメシにする。
みんなで先に行っててくれ」
「どれくらいかかる?
待つけど?」
田辺先輩が尋ねます。
「んー、15分くらい……、かな」
衣笠先輩の言葉を確認した田辺先輩は、私を見て、次に藤沢先輩に視線を向けます。
二人でこくり、とうなずきました。
藤沢先輩が言います。
「じゃあ、3人で先に行ってるから、
衣笠くんは草津ちゃんと一緒にお昼ごはん、ね」
決まりました。
藤沢先輩と田辺先輩、それに今出川先輩が部屋を後にしました。
藤沢先輩、田辺先輩、ありがとうございます。
お二人の心遣いで私は衣笠先輩と二人でお昼ごはんを食べに行くことになりました。
えっと、作業再開です。
「次は……、12番」
「はいっ」
衣笠先輩に部品を手渡します。
こんなのが何回かあって……。
「9番を付けて……、
これでできあがりっ」
メンテナンスが終わりました。
装置の下から衣笠先輩が出てきました。
「草津さん、ありがと、助かった、
けど、手伝わせてごめん、
みんなとメシ食いに行ったら良かったのに」
衣笠先輩は済まなさそうに言ってくれました。
「あっ、その、
この装置、私の研究でもありますから……」
私は素直になれません。
『衣笠先輩と二人が良い』
そう言いたいのに言えません。
「じゃ、行こっか?」
「はいっ!」
研究室を出て、二人で食堂に向かいます。
食堂。
ちょうどお昼時、大混雑です。
でも、二人分の席はありそうです。
お昼ごはん。
衣笠先輩はラーメンを選びました。
私もラーメンにします。
『衣笠先輩と一緒のが良い』
なんて、もちろん言えません。
ラーメンが乗ってるトレーを持って、会計を済ませて。
二人で空いている席を探します。
「あ、あそこ空いた」
衣笠先輩が示す方にテーブルに向かい合ってふたつ、席が空いていました。
誰かに座られてしまう前に、二人でちょっと急いで席を確保しました。
衣笠先輩と向かい合ってお昼ごはんです。
二人で話をしながらラーメンを食べます。
こんなときって何も話せなくなってしまいそうですが、衣笠先輩と私は話が弾みます。
でも、研究の進め方、装置の改良の方針、そんな話で盛り上がります。
とっても楽しいのですが、ちょっと残念です。
硬い話ばかりで恋愛っぽい話は全然ありません。
真面目な話ももちろん楽しいです。
でも、『男女の仲』みたいな話もしたいです。
お昼ごはんを食べ終わって。
研究室に戻ってきました。
藤沢先輩、田辺先輩、それに今出川先輩が先に戻ってきていました。
藤沢先輩と田辺先輩が私を見ます。
お二人、にこっ、と笑顔を見せてくれました。
衣笠先輩は机から分厚いファイルを取り上げました。
「気になってる論文がいくつかあるから、図書館に行ってくる」
そう言って部屋から出て行きました。
「これ、良い機会ね」
藤沢先輩の言葉。
「うん」
田辺先輩がうなずきます。
「んじゃ、一司はちょっと外でねー」
田辺先輩が今出川先輩を部屋から押し出しました。
今出川先輩は素直に研究室の外に出ます。
「さて、
草津ちゃん、座って」
藤沢先輩が言います。
部屋にある小さなテーブル。
藤沢先輩と田辺先輩がならんで座ってます。
私はテーブルをはさんで、お二人の正面の椅子に。
初めに田辺先輩に尋ねられました。
「命ちゃん、律が好き、で合ってるよね?」
「はい、もちろんですっ!」
ちょっと強い口調で言ってしまいます。
だって、本当のことで、大切なことですから。
次に藤沢先輩から尋ねられます。
「衣笠くんにはどう思われてるのかな?
えっと……、分かる範囲で」
私、これには自信を持って答えられます。
「『良いパートナー、最高のパートナーかもしれない』って言ってもらったことがあります!」
私の言葉に藤沢先輩と田辺先輩は、『ふう』となんだか安心したみたいです。
「なんだ、もう決まってたか」
「心配することなかったね」
田辺先輩と藤沢先輩が、それぞれ言いました。
ですが、これには続きがありまして……。
「あの、でも、『研究のパートナーとして』です」
「「……」」
お二人、何も言いません。
「これ、まだだめだね」
「先、長そう」
言ってくれましたが、あきれられました。
「あ、でも、衣笠先輩に『好き』って言ったこと、あります。
思いっきり遠まわし、ですけど」
藤沢先輩の言葉に力が戻りました。
「じゃあ、さすがに衣笠くんも分かってるよね」
田辺先輩の声も調子が上がります。
「律もさすがにそこまで鈍くはないよな」
「で、反応は?」
藤沢先輩の問いに答えます。
『そう言ってもらえるのは嬉しいけど、
草津さんには絶対『運命の人』が現れるから』
衣笠先輩の言葉はそうでした。
「はぁ? 律、そこまで鈍いか?」
「これ、もうどうしようもないね」
田辺先輩と藤沢先輩にまたあきれられました。
もちろん私だって簡単にはあきらめてません。
「えっと、でも、もう何回も言ってます。
衣笠先輩は絶対に私の気持ちに気づいてくれています」
田辺先輩。
「んー、どうかなー……」
藤沢先輩。
「ここまで鈍いと……、
どうしようもないね。
てか、衣笠くんって女の子の気持ち、分かんないのかな?」
また田辺先輩。
「分かってるけど、
自分には関係ないこと、って思ってる、たぶん」
「「「……」」」
3人、何も言いません。……言えません?
藤沢先輩が静寂を破りました。
「もう、ストレートに『好き』って言ってしまうしかない?」
田辺先輩が疑問半分、否定半分。
「『好き』くらいで分かってくれるかな?」
「怪しいね」
田辺先輩も藤沢先輩もあきれて、あきらめそう。
そんな感じです。
私は『好き』まで行かなくても、妥協、と言うか、満足はできます。
「あの、私は衣笠先輩と一緒に居られれば、それで十分なので……」
「「それはだめ」」
否定のタイミングがぴったり合っていました。
藤沢先輩と田辺先輩の言葉が続きます。
「もうさ、逃げられないようにして、
衣笠くんから草津ちゃんに『好き』って言わせるしかないね」
「どうやって?」
!
藤沢先輩の言葉で、私はひらめきました。
『逃げられないようにして』
どうしてこんな簡単な方法に気がつかなかったのか、すごく簡単なことです。
衣笠先輩だったら、絶対に上手く行きます。
「あの、すっごく良い方法で、絶対に上手く行く方法、ひらめきました!」
私は自信満々で言いました。
田辺先輩と藤沢先輩の頭の上に『?』が浮かびます。
藤沢先輩に尋ねられます。
「?
どんな方法?」
「えっと、今はまだ秘密です。
でも、私、がんばって、できるだけのこと、します!」
田辺先輩と藤沢先輩は顔を見合わせました。
それから、私に言ってくれました。
「でもさ、命ちゃんが決めたんだったら、絶対に上手く行く」
「だね、がんばって衣笠くんを捕まえちゃえ!」
私の『作戦』は完璧です。
『作戦』を始めて成功するまで、ちょっと時間がかかります。
でも、絶対に上手く行きます。
今はまだ、『作戦を始めるべき時』ではありません。
今はまだ、衣笠先輩と一緒に居るだけで十分です。
でも、『作戦を始めるべき時』が来たら、衣笠先輩を『私の衣笠先輩』に、私を『衣笠先輩の私』にする『作戦開始』です!
了