父の日を祝おう！家族で祝おう！　父の日くらいはお父様を思いきり構い倒そうと思ったのだ、私は親孝行だから。あとついでに喜んだお父様がお小遣いを弾んでくれるかもしれない、そんな打算もないわけではないが、スマホでちょちょいと招待状をRINEし、起き抜けから大パーティーの準備に取り掛かったわけである。ちなみに母の日は、多忙なあの人にプレゼントと手紙を送ったのだ。
　ドラルクキャッスルマークⅡ（またの名をロナルド吸血鬼退治人事務所という）はウサギ小屋並のせまっ苦しさだが、私の尽力でキッチン用品は充実しつつある。愛しの使い魔ジョンの手助けを借りつつ、私は料理に取り掛かった。
「ただいまー、うおっなんだこのご馳走！！！」
　退治人の仕事から、同居人のロナルドくんが涎を垂らしつつ帰ってきた。手を洗ってこいゴリラ、というと私を殺しもせずに素直に洗面所に向かった。
「で、これ何？なんのパーティーなんだよ？」
　私服に着替えたわくわくゴリラが顔を輝かせている。
「今日は父の日だろ？だからお父様を招待したんだ、パーティーするぞパーティー」
　ご馳走をテーブルに配膳している私の言葉に、すとんとロナルドくんの表情が抜け落ちた。
「ちちの、ひ」
「なんだ日本語も分からなくなったか益々ゴリラへの一本道だな、いいか父の日というのは父親に感謝する日だ、覚えておきたまえ」
　最後のプレートを配膳したタイミングで、静かにロナルドくんは私を殴り殺した。すかさず砂から復帰する。
「こらバカ造！今なんで殺した！まあ食器持ってないタイミングを図れたのはグッジョブだが！」
「うっせえ！そういうパーティーやるなら事前に言えよ家主だぞ俺！」
「言うタイミングなかったし今日思いついたんだもーん。あ、RINE返事来た、もう来るってお父様。ジョーン、窓開けといて！思ったより早いな、この場合は絶対窓からくるぞ気をつけろ！」
「ヌン！」
事務所の窓を開けに行くジョンを見送り、若造を振り返る。若造は何とも言えない顔をしていた。
「どうしたロナルドくん。ご馳走が君のためでないのがショックだったかね？安心したまえ、君とジョンが楽しめるようにたくさん作ったんだよ。私、やさしいので！」
「いや、うん、ありがとな」
いやに素直な言葉に、拍子抜けだ。どうした、熱でもあるのか、と額に手をやろうとすると、すかさず殺された。
「ホギャー！心配してやったのに何すんだ！！！」
「俺さ、」復活しかけた私をもう一度砂にしながら若造がこぼす。
「父の日、やったことねえんだわ。兄貴も親代わりだからっつってもやらしてくんなかったし」
私は、砂から戻るのをやめた。普段、彼のアレコレに関してはおちょくりのネタとして半田君などを介して収集しているが、こういうのはだめだ。まったく面白くない。湿っぽいのも嫌だし、何より彼は大口開けて笑っている方が幾分ましなゴリラなのだ。今更人間の子供みたいな顔をされると、調子が狂ってしまう。
「じゃあさ」私は、ひと際道化のような顔と声音を吐きながら復活する。
「うちのお父様を代わりに祝ってあげてよ。ポールだなんだって言いながら、あの人ロナルドくんのこと結構気に入ってるよ」
請け負おう、と胸を張ると、お前に請け負われてもな、と鼻で笑われた。馬鹿にするな、我が高貴なるロードヴァンパイアの次期当主を父親代わりにしてやろうと言うのだぞ光栄に思え青二才、と叫んだところで再びパンチの風圧で死んだ。
だが、効果はあったようだ。ゆっくりと復活しながら盗み見た若造の口の端や目元には、笑顔の萌芽が見えたのだから。
案の定窓から現れたお父様は、私とジョンへのプレゼントとお小遣いとついでにポールことロナルドくんへのお土産を持って現れた。父の日の行事にひどく喜んでくれたお父様は終始上機嫌で、ロナルドくんにうざ絡みをして辟易されていた。
安心してほしい、バカ造。君はもうとっくに私の家族だ。君が拒否しようが何しようが、私がそう決めたのだから諦めてほしい。息子をもう一人増やしてやるのも親孝行かな、と私は無責任に考えたのだった。