時間時は砂のように手から零れ落ちるものである。
ロイファの朝は早い。
朝日の出ぬ間に目覚め、ベッドの温もりを惜しみつつも水場へと足を進め顔を洗い一日を始める。
朝食を賢人パンで手早く済ませ書斎へと足を運ばせた。
昨日纏めておいた治療記録を確認するためだ。
イディルシャイアに腰を落ち着けてから早幾年、ロイファは賢者としての責務を務めている。記録を読み取る彼の口からほう、と一息漏れた。
先日運び込まれた患者の容態が快方に向かいつつあること。
救われる命があると言う事実がロイファの頬を緩ませた。そこへ。
「ロイファさん〜!お邪魔するクポ」
開けた窓から一体の白き毛玉が現れた。
彼のもとに手紙を届けるレターモーグリだ。
なに?と首を傾げる彼にモーグリが一通の封筒が渡し、差出人の名を告げるとあっという間に飛び去っていった。いつもこうだ。
ロイファは手の中の封筒を開け便箋に記された言葉を読み、苦々しげに呟いた。
「あのアホ」
手紙を握りつぶすとロイファは立ち上がり、部屋を横切ると外へとあるき出した。
足並みは苛立しげだった。
イディルシャイアの片隅に二対の石塔が建っている。それぞれ過ぎた年月からか所々苔むしていた。
二対の石塔には名が刻まれている。
マホードとアンセル、ロイファの大事な仲間たちのものであった。
「なかなか来れなくてすまない二人とも」
石塔を撫でるロイファの手付きは優しい。
事が決してからもう100年近く。
時の流れは残酷なものですヒューランである二人はロイファのもとで生を終えていた。
ララーも既に世を去っている。
残るのは同じ賢者であるアホことアルマである。
種を同じくするアホ‥ロイファはいつも彼をこう呼ぶ‥アルマもまた‥
「あのアホを迎える勇気をくれ‥」
石塔の前からロイファはしばし動けないでいた
家に帰るとアルマが来ていた。
居間のソファに腰掛け俯いている。
力なく項垂れる様子からロイファはああ、またかと悟りアルマの隣に座った。
彼の口から失われたものの名を聞き取るのにしばらくの時間がかかり、泣くことを忘れた彼から涙を絞り出させるのに更に数倍の時間がかかることとなる。
「このドアホが」
泣き疲れて膝に頭を預けて眠るアルマの髪をすきながらこぼすロイファの声にはなんの感情が込められていたのであろうか‥?