<さんかく窓の外側の怪物>その時のことを、薄ぼんやりといまだに覚えている。
血塗れの己と凄惨な事件現場、必死に声を上げるスーツ姿の
おじさんたち。
なにが起こったのかも、自分が何者なのかもわからず、呆然としたまま保護された。
記憶もない。血縁者などもいない。常識も情緒もろくに育まれていない。
奇妙な事件の被害者らしく、しかし奇妙な力を扱う不気味な少年の面倒をわざわざ積極的にみようとする人間などいなかった。
だから、忘れられない、忘れることができないほどの強烈な出会いだった。
その人は、自分の変な力よりもずっとずっとすごい力を持っていてそれにすごく圧倒されて。怖くて。
ーーそれなのに、
自分と同じなのに、
白くて、
きれいで…。
笑って不器用に優しく僕の手を握ってくれた。
だから、"これは運命だったのかもね"と言った
その人の手を握り返したんだ。
「君は僕の運命だ」「僕といれば怖くなくなりますよ」
そう彼はーー" 冷川 理人"は俺に言い、まるで運命に導かれたかのように流されるまま彼の助手となった。
幼い頃から自分だけにしか見えない存在が怖かった。
周りから白い目で見られ、気味悪がられるのが苦しかった。
なんでこんなもの、俺は要らなかった…!欲しくなんてなかった…!!
普通に生きて、普通にビクビクせずに、周りのみんなとそれこそ平凡な日常を心から望んでいた。
ただ、それだけを願っていた。
だから、だから初めて俺と同じような世界を見ていて、俺にはない特別な力を持っていた彼の手を、自ら取ったのだ。
彼なら守ってくれる。彼なら分かってくれる。
彼なら否定しないでくれる。
けれど…それをちょっと、いや、かなり後悔している。
「な、なんですか?!?あの依頼!!さ、最っっ悪だ…!!」
「確かに池に入ることになったのは少々不快でしょうね。それはすみません。ですが、あれは君の力が必要な適切な処置だったので」
「そこじゃないですよ!!!?れ、霊に引き摺り込まれて、ほ、本当に死ぬかと思いましたよ?!?!」
「大丈夫ですよ。本来そこまでタチの悪い霊はいません。あの霊もそうでした。あと、あれは単純に君がただ滑っただけではーー「もういいです!!!!」
「なんなんだ…あの人はっ!!!」
泥水に全身浸かりきった体をシャワーで入念に洗い流した後、俺はドサっと寝台に倒れ込んだ。
確かに彼に救われたところは沢山ある。
母さんには清掃会社のバイトと偽ってるが、実際はそこらでよく聞く所詮拝み屋みたいなオカルトな仕事内容だ。
まぁ、けれど、俺が勤めている事務所は正真正銘ホンモノの拝み屋だったのだが…。
何か起こっても絶対に彼の特殊な力に守ってもらえる、と頭では理解している。
けれどーーこれまで生きてきた人生、ずっと霊を恐怖し見ないフリ気づかないフリをして必死にやり過ごしてきた俺には、仕事内容があまりにもハード過ぎた。
霊と真正面に直接対面の上、近距離での、除霊作業。
おまけに彼の力の影響からか、その霊の生前や思念が自分にまで脳裏へとありありと伝わってきて、生々しすぎてダイレクトに胸を抉ってくる。
仕事中、一体何度過呼吸や吐瀉したことか…。
正直言ってかなりメンタルにキツい仕事だ。
けれど、彼の存在がなければそれはそれで不安で…。
ーーどうしようもない板挟みに頭を抱えるしかなかった。
いっそこんな碌でもないくそったれなバイト辞めてやる…っ!という踏ん切りが着けばいいのに、だからといって以前のように霊に無力でビクビク怯え続けるような生活になんて二度と戻りたくもなかった。
(結局怖い思いしてるのは同じなんだけどな…)
冷静になって考えてみれば、むしろ精神面へのダメージは彼と出会う前より悪化している気がする。
だが、"冷川さんがいるなら絶対に大丈夫だ"という安心感もどうしようもなく手放し難いのだ。
はぁ…と溜息をつき、もういっそなるようになれと思考を放り投げて三角 康介は眠りについた。
その人を見た最初の印象は、とてもきれいな人だなぁとありきたりな、それでもどこか神聖さを、あたたかいなにかを感じた。
ぼぉ…っと、しばらく男を眺め、彼がまばたきをしたのを見てからハッっと正気を取り戻して慌ててケトルと食器を用意しお茶をテーブルに差し出した。
こんな殺風景極まり無いコンクリート剥き出しの薄暗い事務所に似つかない、その人外の美貌と長身で細身のルックスに、
つい、じぃと見入ってしまっていたのに気づいたのか、その男は目を細めて笑った。
「なになに?もしかして見惚れちゃった?」
カラカラと柔らかな口調でそう笑った男に慌てて頭を下げて、視線を床にずらす。
「す、すみません。じっと見てしまって」
「いいよいいよ、気にしないで〜。僕、慣れてるから」
(慣れてるんだ。でも、そりゃそうだよな。こんだけイケメンだしすごいモテてそう…)
音もなくきれいな所作で茶を啜る姿はとても絵になっていた。
なんだか、だんだん自分が惨めで場違いなうじうじした気持ちになりかけていた頃、ゆっくりと男は告げた。
「君、ここのバイト?くんだよね?冷川は居ないの?」
「あ、すこし出かけてくると…。たぶんもう少ししたら帰ってくると思います…」
「おっけー、おっけー!ありがとう。じゃあ、それまで待たせてもらおっかな〜」
一旦、不思議な間が空いて。
それからじぃと今度はこちらを見つめ返される。
目の奥を、心の奥底をすべて覗き見るかのように。
「ーーっっいだ…!!!」
途端に急に右腰付近に強烈な痛みが走る。
思わず立っていられず床に蹲るように倒れ込んだ俺を、ゆったりとした足取りで男は平然と見下ろしてへぇ〜とまるで何事もなかったように観察しているようだった。
目の前がチカチカする。
意識が、感覚が、どんどん遠くなって…。
「ーーそうなんだ。君、随分と苦労してきたんだねぇ、三角くん」
気がつけば、事務所のソファに横たえられていた。
(ーーあれ、俺、一体なにが…?)
朧げな記憶を思い出そうとするも、どうにも頭がはっきりしない。
「うちの助手にちょっかいをかけるのはやめてください、五条さん」
ふと、ソファの向こう側から、冷川さんが冷めたけんのある口調で誰かと会話しているのが聞こえた。
「だって、だって〜!!
遂にやっと誰かとバディ組む気になったんだな〜って知ったらさ、そりゃあお前の"親代わり"としては一度はじっくり相手を見極めなきゃ!!って思うじゃん?普通は」
「余計なお世話ですよ。確かに貴方には多大な恩があります。…けれど、"それ"と"これ"とでは全く別の問題です。
さぁ、要は済んだでしょう?早く僕の事務所から出ていってください」
(珍しい…いつも飄々としていて強引で常に他者に冷ややかな側面をみせるマイペースな"あの"冷川さんが、ペースを崩されてその上良いようにあしらわれている場面なんて初めて見た)
ぼんやりと、しかし徐々にはっきりしてゆく意識の中、"痛む"腰を摩りながら、そう思った。
「ーーおや、起きたみたいだよ。彼」
ぶん、と勢いよくこっちを振り返って全身を隈なく確認したあと冷川さんはようやく心底ホッとしたように僅かに顔を緩めた。
そしてーー
「余計なことを、本当になにもしていないでしょうね?」
じっとりと、横目で五条さん?を忌々しそうに睨みつけた。
「あはっ、わざわざ"術式で魂を保護して"までーーお前、そこの猿のこと気に入ってるんだ?」
そうケラケラと笑いながら発した五条さんの言葉に、次の瞬間冷川さんは一切の表情を削ぎ落とし、今にも怒声と浴びせようと口を開いた瞬間ーー
「おーい、冷川いるかー?」
依頼者がやってきた。
刑事さんがーー半澤 日路輝さんが依頼してきた内容を簡単に纏めればこうだった。
"横浜市で起こった三者連続バラバラ殺人事件への捜査協力"
ーー被害者女性三人の死体にはそれぞれまだ発見されていない遺体の一部があり、それらを合わせるとちょうど一人分の人間ができあがるらしく。
ーー犯人はすでに捕まえていた、が残りの死体遺棄場所を自供させる前に自殺してしまった。
ーーそれで、半澤さんは冷川さんに"その残りの遺体の部位を探してほしい"と頼んできたのだ。
「本当はこんなことしてる暇はねぇし、俺はオカルトなんざ全くこれっぽっちも信じちゃいねぇんだけどよ」
半澤さんはとことんリアリストなようで、胡散臭そうな、なんとも言えぬ微妙な表情を俺たちに隠そうともせずに向けつつも、資料をテーブルいっぱいに広げそう語った。
けれども、その声には熱が籠り、1人の善良なる人間としての強い想いがこれ以上ないくらいありありと伝わってきた。
「どうにかぜんぶ見つけてやってやりてぇんだ。残りの部位を」
どこまでも真剣に、被害者のことを第一に考えての言葉。行き詰まった捜査に、それでもどうにかしてやりたいという半澤さん。
リアリストにも関わらず、不思議とその目にはどこか冷川さんへの確かな信頼が宿っているように見えた。
その目を静かに見つめ返した冷川さんが了承しようとして「ーーわざわざ毎回ご足労ご苦労さま〜、刑事さん(笑)。
だけどさぁ、…こ〜んなしょうもない依頼、冷川が出張るまでもないよね?」
途中で遮ったのは、月の光のような美しい銀髪と人智を超えた美貌とどこまでも碧く澄んだ瞳の持ち主。
これまで半澤さんが語った凄惨で生々しい事件の概要やその願いを聞いた上での"軽い言葉"。
どこまでも他人を見下し、半澤さんや俺たち一般人を嘲笑するような口調に、即座に空気が凍った。
「…お前にゃ、一切聞いちゃいねぇんだよ。すっ込んでろ、クソガキ」
「それ、酷くない〜??僕、もうアラフォーなんだけど。と、いうかさ、逆にあんたが言えた口?」
「この人のことは無視してくださって大丈夫ですよ、半澤さん。時間の無駄ですから。勿論、このご依頼僕の全力で持ってお受け致します」
「…おぅ、頼んだわ。じゃあな、なんか分かったら連絡くれや。多少の融通は利かすからよ」
「え、えー、えぇ〜無視?まじで?酷くない??
冷川はともかくさぁーー、
見えも信じもしない猿風情が随分図に乗ってるじゃん(笑)」
「っ悟さん、いい加減に「ーーいい、気にすんな冷川。…それに事実だしな。まっ、また出直すわ。厄介な過保護親が居ない時にでもなぁ」
「うっっわぁ、厚顔無恥〜」
「勝手にほざいてろ、クソガキ」
「」
…
…
傷つくな〜とケラケラ笑いながら言うその男の異常さに、遅ればせながらようやく"格が違うと"気がついて全身が総毛立った。
この人は、この綺麗な男は、人を人となんてまったくもって思っていない。考えてもいない。
冷川さんに対しての言動と半澤さんや俺への態度。被害者たちへの興味関心のなさ。
なにより、なによりも話が進むにつれて、まるでこの空間すべてが圧迫されるような、押し潰されそうな威圧感と
今にも本当に殺されてしまいそうな"殺意"とも表現するべき悪寒や絶望感にーー呼吸もろくに出来なくなってきて。
そんな俺に気づいてか、冷川さんは真っ青になってなにも違和感を覚えていない様子と五条さんを焦ったように無理やり事務所の扉の向こうへと力づくで追い出した。
ーー…はァっと、よくやく止めていた息を肺に吸い出せるようになって。動悸がひどい。足と手指は完全に震えていた。
ーー初対面とはまるで真逆の印象。
あの男はすでに去っていったというのに、身体が、全身の筋肉が強張っていうことをきかない。
今まで散々、幽霊関係や除霊の仕事上、恐ろしい目にあってきたというのに、ただのひとりの人間に対しこんなにも恐怖を味わったのは初めての経験だった。
どんな怖い霊よりもとてつもなく恐ろくて。
恐怖と危機感を、なによりーー"死"の存在をまじまじと間近に感じさせられた。
「大丈夫」
冷川さんがそっと左肩を掴んで、身体を密着させる様に、俺の心臓の真上に右手を乗せ耳元で囁いた。
ーーいつもの除霊の時のスタイルだった。
「大丈夫ですよ、三角くん」
「さぁ、息を吸って…吐いて…吸って…」
「僕がいます。僕がいますから。安心してください」
「"怖いもの"は、"もう"いなくなりました」
自分でも随分とひどい顔色をしていたと思う。
冷川さんは俺が十分に落ち着くのを待ってから、ソファに座らせて、普段お茶なんか出しもしない癖に慣れた手つきで俺の前のテーブルに差し出した。
そして、また俺の横に座って背中を摩る。
「あれは"通り魔みたいなもの"ですから」
「必ず出禁にしてやります。ですから、今は、安心してください」
「"僕"がいます。"僕"が絶対に"三角くん"を守ります」
「もう大丈夫ですよ」
ーーその声に、スコン、と意識が落ちた。
夜のギラギラとしたネオンの光が窓の隙間から差し込む頃合い。
音もなく闇に紛れて立っていた長身の不審者に、冷川はふと気づきオフィスの書類から顔を上げた。
黒々とした服装は一層闇の中に溶け込み、昼間は下ろしていた髪と瞳を隠すようにして黒い目隠しを引き上げている。
両者とも何を言うまでもない。
方や、「やぁ、遊びにきーたよ!」みたいなルンルンとした手軽さで瞬間移動の上空間浮遊という気が遠くなるような驚異的な術式を軽々と行い、
方や、頭痛と胃痛とそのストレスの最たる原因がやってきた…みたいな重だるい億劫さと煮えたぎる怒りのまま霊力でそこら辺のパイプ椅子を飛ばした(投げつけた)。
ま、当然弾かれ、ご丁寧に元あった場所にまで移動させた。
ーー冷川は、普通にブチキレた。
「以前から、やめてくださいって言いましたよね?」
怒気を込め、強く、溜めて言葉(思念)をぶつける。
「確かに貴方方(ソチラ側)からすれば、見えるだけの一般的やそもそも見えない人間たちは何の価値もない、人(術師)以下の存在だと、
ーーただ利を生むだけの猿(生贄)とだけしか認識していないのだと、僕は理解はして(知って)います」
「だけれど、それは僕たちーーコチラ側(・・・・)からすれば、それはただの傲慢な選民思想でしかなくて、ただ異常者で破綻者なだけだ」
「僕の大切な人に一切手を出さないでください。…貴方がその気なら、差し違えても呪います」
男は、自分を下から睨め付けるお気に入り(・・・・・)を眺め口角を上げた。
冷川が言っていることは事実だ。現に莫大な霊力が呪力へと変化して今にも爆発しようと冷川の体内に渦巻いている。
別に五条を呪うのは構わない。
五条にとっては、そんなちっぽけな呪いなど容易く祓える。
問題は、祓われた呪いが呪った側の冷川に跳ね返ることだ。
別に冷川の呪い(呪力)を自分の霊力で中和して呪い返しを起こさないのは欠伸をする程も造作もなくできるくらい簡単だが、それだけの本気なのだと、それこそ全身全霊をもって冷川は脅してきている。
ーーそう、これは脅しだ(・・・)。
呪い返しが起こっても死ぬ。
たとえ呪いすら届かなくとも、体内に渦巻く呪力の指向性をなくし無差別に爆発させれば自爆する(死ぬ)。
つまり、冷川は自分の命を賭けて五条に脅しをかけている。
"約束を契らなければ僕は死ぬ(自殺)が、それでも貴方はいいのか?"と。
とてつもなく、傲慢で、術師らしい考え方だ。
それが好ましく感じるし、愉快極まりないほど面白い。本人にその自覚がなくとも、とっくに冷川は術師的な(・・・・)思考に骨の髄までどっぷりと染まっている。
それなのに、いつの間にそんな真っ当な(非術師的な)性格に育っちゃったんだろうか?もしかして、ちょっと遅れた反抗期とかかな?
そんなことを考える。
だが、これ以上無駄に突っついて教え子に拗ねられて(憎悪されて)嫌われてしまっては困るしちょこっと嫌だな〜と思った。
だから、契りを結んで"あげる"ことにした。
ーー結局は、五条 悟にとっては"自分が絶対(唯一)であり"、"他人なぞ興味のかけらも無く(どうでもいい)"、"どこまでも傲慢(最強)で"、"決して誰も手の届かない強者(化物)"なのだ。
「いいよ。そこまで大事なんだね、お前にとってそいつら(猿ども)は」
「…はい。そう教えてくれたのは貴方でしょう?」
「えっっ???ぜんっぜん記憶にないんだけど???確かに霊力の扱い方やら、霊や術の知識やら、多少頭や身体を弄ったりしたけどそんなこと教えたことあったかなぁ〜??」
「…はぁ、もういいですよ。さっさとお願いしますーー」
冷川は、肌の、肉の下に渦巻いていたぐちゃぐちゃな負の渦を丁寧に紐解いて、
またまた丁寧に正しく編み直した正の霊力を、慎重に喉と舌の上に乗せる(言霊)。
同じく、五条も。
「"僕の大切な人には絶対に手を出さないこと"、"あとこの事務所には出禁です"」
「えっっっ、出禁はひどすぎない?!!
…まぁ、いいけどさぁ〜。外ならいいってわけね。
はいはい、"僕ーー五条 悟は、冷川 理人の条件をのむと誓う"。これで満足?」
「今のところは…」
「今のところはって!!!(笑)」
そんなやり取りがあったとか、なかったとか。
けれども、その後五条が冷川の事務所の扉を叩くことは一度もなかったし、
出禁にしたことをなにやらビクビクしていた三角くん(助手)に報告したところ心底安堵した様子だった。
あの時のことは、なんとなくずっと覚えている。
たまたま任務帰りに立ち寄ったスイーツ店で、
たまたま強い呪力が暴走しているのを感じ、
たまたまその時の気分で遠隔透視と念視の合わせ技によってだいたいの事柄を把握したのだ。
別にどうだってよかったし、コチラ側ではよくある類いの事件だ。些事にもならない。わざわざ一族の者を使って手間をかけてまで自滅した野良呪詛師の面倒なぞ見る気にはさらさらならなかった。
けれどーーたまたまその時は、違った。
ふと少しだけ興味を持った。それだけ。
なので、さっさと金と権力でその子どもの身元引受人の地位を無理やり奪い取った。
"これは運命だったのかもね"と、その幼い未熟な呪詛師未満の子どもの手を極力優しく握って、五条は広大な日本武家屋敷の敷居を跨いだ。
冷川
・・・物件鑑定・特種清掃COOLEANの社長。清掃会社の名目で除霊を行っている。
除霊の手法は五条手解きの元独自に会得した術式で、失敗したことはほぼない。
しかし、人間関係に必要なもろもろは多少欠如気味。
三角
・・・冷川にスカウトされる前は書店で働く地味で真面目な店員だった。
幼い頃から幽霊が見え、それを理由に周囲から孤立していた過去がある。
その為、極度に霊に対し敏感で過激反応してしまう。霊感があることは家族にも秘密にしている。
その場の雰囲気や相手の勢いに流されやすい性格。
半澤
・・・殺人課の刑事。
冷川とは少々昔から縁があり、どうやっても人間の仕業でないような、不可解な事件があった際などに捜査の協力を依頼してくる程度の仲。
霊などのオカルトの類いをまったく信じていないリアリスト故か、霊障や術式などの作用をほぼ受けない体質。
既婚者。
五条
・・・高専が存在しない世界線。
故にバリバリの禪院家気質で術師界隈の現状トップ。
狭い業界の中でも名の知れた御三家の中の一つ『五条家』の実質、時期当主。
この世界線では、国や警察からの大きな要請のみ請け負うことがもっぱら多く、やはり命懸けの任務。
あくまで、緊急度と脅威度、利益を最優先に仕事を請け負い、任務時には一族の実力者総出・またはバディ・五条悟だけの特例で当たっている。
御三家の中でも、一族相伝の術式の存続はもちろんのこと、別系統の独自術式の開発や生来の生得能力の人材確保・後進の育成などを積極的に行っている。
<蛇足>
ーー"ヒウラ エリカ"の保護と半澤 冴子の呪いの侵攻遅延。
そして、ヒウラエリカが属する"謎の新興宗教団体の教祖"についての情報提供ーー
それが、わざわざ養い子が五条家本邸に出向き、上座の特級術師に畳に額を付け深々と頭を下げてまで依頼してきた内容だった。
あくまで、自身の身元引受人に対してではなく、公式に五条 悟という国家認定術師に対し依頼をした。
あいつなりに考えてぬいての行動なのだとは分かるが、"コレ"がどれほどの"意味合い"をはらんでいるのかが分からない馬鹿ではない。
ーーあいつは、五条家への莫大な貸しと高額な依頼料を払ってまで、五条 悟と冷川 理人がはっきりと袂を分けたことを周囲に知らしめたのだ。
依頼内容についても同様に。
眼下で滝のように冷汗を浮かべ、茫然と怯えきって哀れにも座り込んで動けない小娘。
バディに選んだあのバイトくん。
あいつは、あいつ自身の出自からか、
自身の境遇に近しい者達へはとことん甘いきらいがある。
大人しく五条 悟のお気に入りを利用して"特級術師"や五条家を顎で使えばよいものを。
それが許され、それを可能とする立場にあった…にも関わらず。
しかし、養い子はもたらされた調査報告書を手にした途端、飛び込むように敵地へと走っていった。
ご丁寧にも、後尾のフォローを"仕事“として"五条家"に依頼する万全の構えで。
さすがの五条であっても、養い子の頭の中まで全て覗き見ることはできない。
しかし、あいつは"自分自身で自分の過去にケリをつける"ことを選んだ。
それに、つまんないなぁ〜とか、やっぱり五条家比護下から出すんじゃなかったなぁ〜とか片方で思いつつ、
もう片方で面白い方向に育ったなぁ〜とか、やっぱりあの時拾っておいてよかったなぁ〜とか考えている、己も己だが…。
非浦 英莉可の処遇は自分付きの部下に丸投げし、
静かに医療用ベッドに横たわり、濁った血液を両目から流し続ける半澤 冴子の呪いを死なない程度に中和しつつ、
病室で1人、まるでTVでスポーツ観戦をするかのようなノリで五条は"遠隔透視"を見守っていた。
うんうん、いいね〜!大健闘してるね〜!!
そんな、たかが、一級相当の呪詛師相手に簡単にくたばるんじゃないぞ〜、一級術師。
仮にも"僕の養い子"なんだからーー。