蒸気都市
古い街並みに、そびえ立つ階層状の都市。手が入った50年ほどの間に街は大きく様変わりした。文明と科学者の叡智によって生まれる数々の蒸気動力を備えた機械。空を飛び、地を繋ぎ、各階層を行き来する。
街は豊かだった。それは故に、街の近くで採れる希少な好物による財であった。
都市の産業を支えていたのは、蒸気にあらず。機械を操る者達は、その心臓部に収められた鉱物の存在を知っていた。街を見下ろす丘の、地下深くに眠る星と宇宙を閉じ込めたような暗黒色。割ると無数の光が天に幾重にも昇っていく。断面は波のように揺らぐ色とりどりの星雲の様だった。暗黒色の鉱物は殻に覆われた内部で星や星雲が耐えず動いており、削り出した中身の乳白色の石を媒介としエネルギーに変えることができた。
機械のプロペラを回し、蒸気を発生させる動力補助にも使われた。
ただし鉱物には限りがある。
丘の地下深くに穿たれた穴が崩れ落ち、巨大な闇が現れた。
丘に巨大な闇が現れ、人々は初めて過ちに気が付いた。そして、一層蒸気の科学に発展と夢を巡らせる。
そんな時だった。数多の鉱物を動力としていた機械が途切れるように動かなくなったのは。暗黒色を割ると其処には星雲も回る星もなく、乳白色の輝きだけが僅な光を放つのみだった。
例えば、街を巡るモノレールや階層を上下する昇降機が突然止まる。大きな飛行船や飛行機が浮力をなくして落ちてくる。人の命が失われた。鉱物の輝きは限りあるものだと、科学者の言葉を聴かずに使い続けた慢心が招く災い。数年の後に鉱物の動力は姿を消し、資料として博物館に陳列された。
蒸気の街に汽笛の音が響く。通り過ぎる車と、街を覆う水蒸気。光が乱反射して、人影を大きく映し出す。商店の立ち並ぶ銀の橋通りを歩く男の手にはトランクが一つ。年季の入った旧い革は飴色に輝き揺れる。厚手のジャケットに手袋、ブーツの音を響かせる。肩にはきらびやかな蝶が舞う。
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冒頭部分です。
仕上がりは11月。記念日の予定です^^