【ポセイドン×パーシー】父親以上、恋人未満【腐向け】こちらの作品には女装、父×息子のカップリング要素が含まれます。
好みの方は読んでみてね。
作者が書いてる途中恥ずかしさのあまり悶えた作品です。(?)
嘘ついた。大抵いちゃこらしてる小説書いてるとき恥のあまり悶え死してるからどれも同じです。
次のページから本編どうぞ。
おれの今の気持ちを表すなら「惨め」だ。
おれは誘拐されたハーフを助けるためにゼウスからの任務を受けたが、ゼウスはなぜか父さんを同伴するようにといった。普通、神々がハーフの任務に同伴、なんてことはありえないはずだ。けど、ゼウスが許可したって事は相当やばいのかな、なんて思っていた。
父さんに促され付いていくと、おれに渡されたものは女物の服。
「すまないが、パーシーには今回それを着て手伝ってもらう必要がある」
はい?
おれは父さんに言いたいことはたくさんあったが、時間がないからと押し切られ、しぶしぶ、本当にしかたなく、女物の服を着た。辛い。サイズはぴったりだった。辛い。ドレスの背中の紐を締められないので、父さんに恥を忍んで頼み結んでもらった。辛い。そしてどこからともなく現れたアフロディテに化粧をされた。とても辛い。
しかし美の女神の技術たるや恐ろしいもので、少なからずそれなりに男らしさがあったはずの顔は、まるで女性のようになっていた。心なしか母さんのように見えなくもない。
知らぬ間につけられたウィッグで髪も長くなり、ヘアゴムの上から花の髪留めで飾られてしまえばもはやおれの面影はほとんどなくなった。化粧とアクセサリーって凄い。出来上がりに満足したアフロディテは父さんにおれを押し付けてうきうきと帰っていってしまった。
「……父さん」
「驚いた。一瞬サリーと見間違えたぞ、パーシー。やはり母さんに似ているな」
顔をほころばせ、頭を軽くぽんぽんと撫でられる。
「あの、いい加減おれがこれを着せられた理由を教えてもらってもいいですか?」
少し嬉しかったがそれは隠して話を進める。おれはまだ何でこんな格好をしなくちゃいけないのかという理由を聞いていない。
「そうだったな。今回、ハーフを誘拐した犯人は美少女を好事家達に売るオークションに参加している。お前が選ばれた理由は服装を変えれば一見少女のようにも見えるし、いざ戦いになった場合でも戦力になる者を、ということでお前に決まった。……まあ、大半の神々は自分の子を危険にさらしたくないから代わりにお前を推したといったところだろうがな」
「……父さんもおれを?」
おれの言葉を聞くと、父さんは眉を寄せた。
「推すわけがない。わしだってお前を危険な目に遭わせたくないからな。しかし、多数決で決まってしまった以上、妥協ということで同伴を申し出た。ゼウスも場合が場合だからな。わしがお前を会場へ連れ込むため、そしてオークション参加者の振りをしてお前を支援するために協力することを許可したわけだ」
父さんがおれのことを心配してくれたという事に、思わず少し緩みそうになる口をぎゅっと引き締めた。
「まあ、まさかパーシーがこんなに綺麗になった姿を見られるとは思わなかったから、役得だな」
父さんの言葉に、顔が熱くなった。おれに女装癖はないし、綺麗、なんて女性を褒めるような言葉を言われても嬉しくないはずなのに、父さんに言われるとなんだか嬉しい。どんな形でアレ、親に褒められて喜ばない子供はあまりいないだろう。
そう思い、改めて話の内容に集中することにした。
「じゃあ、おれは囮になって犯人の気を引けばいいんですね?」
「大体そんな感じだな。緊急時には話しかける」
「わかりました」
父さんの言う緊急時がいったいどういう事態かなんて想像したくないが、背筋を正して気合を入れる。
そんなおれに気付いたのか、父さんがなだめるような声で言った。
「ああ、あまり気負い過ぎなくていいぞ、パーシー。お前はいつも通りにしていていい。何かあればわしが護るからな」
「なんだかまるでお姫様を護る騎士みたい」
おれがそういうと、父さんはいたずらっ子のような笑みを浮かべた。
「そうだな。ずいぶんと戦いに慣れた機転の利くお姫様だが、護り通してみせよう」
父さんはおれの手を取り、手の甲に口付けそういった。
冗談と本気が混じった言葉だったが、父さんなら本当に護ってくれそうだ。
「それじゃあ、会場まで連れて行ってくださいな、騎士様」
こらえきれず笑ってそう返すと、父さんも声を出して笑って言った。
「姫君の仰せのままに」
少女たちを売買しているというオークション会場に入る少し手前でヘルメスと合流し、父さんは先に客として会場内へ潜入した。ヘルメスがおれを会場内の主催に売り渡す役をこなし、晴れておれは売買品として会場へ。
逃げられないようにと首輪と手枷をつけられ、檻の中に閉じ込められた。
あたりを見回せば、別の檻には高校生や大学生ほどの女の子や年端もいかない少女たちが十人ほどいた。怯えて震えている子もいれば喚きながら檻を手枷でガンガンと叩きつけたり、蹴ったりしている子もいる。
その中でおれの隣の檻に入れられていた女の子と目が合い、おれを同情の眼差しで見てきた。
「あなたも大人に売られてきたの?」
「え? ええ……」
「可哀想に。きっと攫われてきたんでしょう? わたしも家に帰っている途中に急に車に連れ込まれて、気が付いた時にはここにいたの……」
「あなたも?」
入り込んだものの、特にどういった流れでここに来たなどということを考えていなかったので、彼女の話に合わせることにした。
「私、アメリアっていうの。あなたの名前は?」
「わたしはパ……、ぺ、ペリドットっていうの」
「ペリドット? 花の名前を付ける人も普通にいるしおかしくはないと思うけれど、珍しい名前ね」
「そ、そうでしょ? わたしの誕生石から名づけられたの」
取ってつけたような設定をあとで忘れて本名ばらさなければいいけど、なんて思いながら会話を続ける。
けれど今名前を聞いて確信した。出る前にもらった資料の中に彼女の名前が載っていた――彼女がアフロディテの娘だ。
どのタイミングで助けるか、といったことは詳しく教えられなかったのでまだ動けないのがもどかしくはあるが、今のうちに彼女の警戒を解いておけばあとあと連れ出すのが容易になるかもしれない。そう思い彼女と異変が起こるまでしばらく檻越しに話し込んだ。
しばらくすると、檻に入れられた子たちが一人ずつ連れ出されていく。みた所年長の者から連れ出されているようだ。これならおれの方がアメリアよりも先に出られそうかな。自由に動ける時間が増えるし最高だ。
ふいに目的はアメリアを誘拐した犯人を捕まえる事だったのを思い出し、彼女に聞いてみる。
「アメリアはどんな奴に誘拐されたか覚えてる?」
「え? そうねぇ……確か、私の記憶が正しければだけれど、細身で目が細くて茶髪の男だったと思うわ」
「細身で目が細くて茶髪、ね。わかった」
「でもどうして急に?」
「あ、いや、わたしを誘拐した人と同じ人がしたのかなって思ったんだけど、別の人だったみたい」
「そう……。それはそうと、皆連れて行かれてる。私たちももうすぐ連れて行かれてしまうのかしら?」
アメリアが自身を抱きしめながらそう言った。
怯えて当然だ、これから自分がわけのわからない大人たちに売られてしまうのだから。
「大丈夫。何とか逃げ出しましょう」
おれの言葉に驚き一瞬期待するような視線を向けてきたが、すぐにあきらめた様子を見せる。
「……無理よ、誰も私たちの事助けてくれる人なんていないもの」
「わたしが助ける」
「あなたが? あなたも今捕まっているのに、どうやって?」
「少しこっちに寄って。いい? 私が――」
出口付近に居る見張りの男に聞こえないように小声で伝える。
そうこうしている内におれが出される番が回ってきた。
「おら、さっさと出ろ。客がお待ちかねだ」
怪我をさせると売れない為か、言葉づかいは荒いがおれを掴む腕の力はそれほどでもなかった。
手枷を外され首輪をひっぱられた瞬間、おれは男の股間を蹴り上げた。
「――っがぁ! このくそアマ! やりやがったなてめぇ!」
おれを掴もうとする男のみぞおちを思い切り蹴り、最後におれの首輪につけられていたひもを引きちぎり男の首に巻き付ける。
「暴れるなよ、あんたが抵抗するならこっちもそれなりの手段をとらなきゃいけなくなる」
「ぁっ…ぐ…! おまえ、男か……っ!?」
男の質問には答えず、おれにはめられていた手枷を男につけ、首に巻き付けていたひもを猿轡代わりに巻き付け頭の後ろで結ぶ。檻を開ける際に使われた鍵を使い、檻の中に閉じ込めると見張りの男に目をやる。
しかし男は扉の前から動く事もなくおれの方をじっと見ている。違和感にまじまじと見ると、それは見覚えのある人物だった。
「アポロン!」
「やぁ。普段と違いすぎて気づかなかったかい?」
サングラスをずらしおれにウィンクをするアポロンに、思わず胸をなでおろした。
改めてアメリアの方へ向き直り檻の鍵を開ける。他の檻に閉じ込められた子たちも出してまわっていると、アメリアがおれの傍まで来た。
「あなた、男の子だったのね! 私、てっきり女の子かと――」
「うん、実は訳あって君を助けに来たんだけど……思ったよりも捕まってる子が多かったから、全員助けるのに時間がかかりそうかも。扉の前に立っている男はおれのいとこで、君を助ける手助けをしてくれる人の一人。他にも数人、協力してくれる人がいるから全員無事に助けるから安心してくれ」
そういいながら最後の一人の檻を開け、皆の手枷と首輪をはずした。
「アポロン、終わらせるまでこの子たちが安全に帰れるように護衛頼んでもいい?」
「もちろん! 可愛い子達のお世話なら大歓迎だよ」
本気でそういってるんだろうな、と思えるほど生き生きとしていて苦笑した。
おれはわざと首輪と目隠しをつけて、扉を出て少しした所で待っていると、少しして野太い男の声が聞こえた。
「おい、お前。なぜこんな所にいる?」
「えっ……あ、あの、わたしを連れ出した男の人が、ちょっとトイレに行くって言って……それで、ど、どうすればいいのかわからなくって、わたし……」
適当に作った嘘だったが相手の男は以前同じ事があったのか、素直に信じたようだ。
「チッ、あの馬鹿、またこんな無責任なことしやがって。……おい、女。客がお呼びだからさっさと行くぞ」
左手首を掴まれ、歩かされる。これで会場までいけば、父さんに会えるかな。そう思いながら男に連れられて歩く。
歩き続け、次第に賑やかな音が聞こえてくる方へ近づいていく。男が扉を開ける音がした途端、フィルター越しに聞いていたような騒音がクリアになった。少なくとも二十人以上はいるであろう人間たちの声が、あちらこちらから聞こえる。
目的の場所へ着いたのか、座らされ目隠しを外された。
今までずっと暗い状態だったせいか、急激なまばゆさに目がしっかりと開けられない。
会場は静まり返り、司会と思われる男が声を上げる。
「さぁ! 次は水を操るという特殊な能力を持つ少女! 高くつきますが値段の価値はありますよ~! 十万ドルからスタートです!」
なぜ水を操れる事を知っているのか、と思っていたがヘルメスがおれを質に入れる際に説明していた気がする……わざと教えていたのか。
ようやく目を開く事ができるようになると、五十人は超える大人たちが次々と信じられない額を上げていく状態を目にしてしまい眩暈がした。現実にこんな事がありえるのか、なんて思っていたが怪物や神々が存在するならこのくらいあってもおかしくないよなぁ、なんてぼんやり考えていると二十七億ドルあたりになったところで次第に声が上がらなくなってきた。
「二十七億ドル! これ以上はいませんか? いないのでしたら――」
「百億ドル」
司会の男の声に被せるように聞きなれた声が聞こえる――父さんだ。
「百億ドル! 他に居ませんか?」
「ひゃ、百一億ドル!」
「二百億ドル」
競りにかかる男の追随を許さないように、まさかの百億単位で上げていく父さんに思わず唖然とした。
「二百五十億ドル!」
「五百億ドル」
容赦がない。いや、神だから金銭面では大丈夫なんだろうけど、とても想像がつかない金額だ。
茫然と唯一父さんに負けじと金額を上げていく男と父さんのやり取りを見ながら事の成り行きを見守る。
「六百億ドル!」
「千億ドル」
父さんがそこまで言うと男は悔しそうにしながらもそれ以上金額を上げる事はなかった。
「千億ドル! 二十七番、千億ドルで落札!」
司会の男が声を上げガヴェルを叩き下ろそうとした時、父さんが言葉を続ける。
「まだわかっていないのならば教えてやろう。その子はいくら金を積もうとも価値のつけられない代物なのだ。お前たち人間にはなおさらな」
父さんはおれの元へ歩いてくると軽々と抱え上げ、トライデントを取り出した。鉾で地面を打ち鳴らすと同時に、出入り口や窓という窓すべてから水が入り込み会場に居た者たちを拘束していく。
皆が混乱した様子で声をあげている中、他の場所に居たのか、おれが連れてこられたと思われる方から縛られた男たちが一人の男によって引きずられてくる。
引きずってきた男は入る時に協力してくれたヘルメスだった。
「おじさーん、こっちの方も制圧完了だよー!」
アポロンが三人ほど男たちを縛りあげて台車に乗せて連れてくる。その後ろには先ほど解放した少女たちが全員揃っていた。
「これで全員かな?」
ヘルメスの言葉にアポロンが頷く。
「ここにいるやつらは警察にでも引き渡すとして、彼女たちを家に帰さなきゃね」
喋りながらテキパキと二人が水で拘束された会場の人たちを縛っていく。父さんはもう大丈夫だろう、とおれがしていた首輪をはずした。少ししたらケイロンも来るというので、アメリアに関しては安心かな。
あまりの出来事に少女たちは驚いていたが、アメリアはおれの方へ歩いてきた。
「あの、この方たちもあなたの知り合い?」
「おれの父さんと、こっちもおれのいとこ」
父さんとヘルメスをそれぞれ紹介する。
「で、君もおれの親戚みたいなものかな」
「え?」
「アメリアって本当の母親にあったことないだろ?」
「なんでその事知っているの?」
「やっぱり。今回君のお母さんから君を助けるように言われたから来たんだ」
「お母さん……から?」
信じてもらえないだろうけど事情を話して、彼女にはケイロンについて行ってもらう事にした。
アポロンがおれと父さんに先に帰っていいよ、というので会場から外へ出ようとすると、アメリアに呼び止められた。
「あの、また会えるかしら?」
「もちろん。おれもハーフ訓練所へ毎年行ってるから、すぐに会えるよ」
「そう。……ねぇ! あなたの本当の名前、教えて」
「おれはパーシー・ジャクソン。ポセイドンの息子だ」
おれがそう言った時、父さんが微笑んだ気がした。
アメリアは笑顔でおれたちに手を振る。
「パーシー! またね!」
「またね、アメリア」
手を振りながら会場から出た。
新しくできた友達との別れを惜しんでいると、父さんが少し歩いた所で止まった。
「……? 父さん、どうしたんですか?」
父さんは何も言わずおれの方を見てくる……どうしたんだろう。
「父さん? あとは帰るだけですよね?」
おれがそう言うと、父さんは急におれを抱き寄せた。
「今日はこの姿のまま、一緒に夜まで過ごさないか」
「へ?」
思わず間抜けな声をもらしてしまった。
父さんはきっちりとしたスーツ姿で問題ないかもしれないが、おれは女装だしこんな格好で外を歩き回るなんて恥ずかしくてできやしない。
父さんにその事を伝えるがさらに抱きしめられる。
「今日だけだ、頼む」
普段と違う格好で雰囲気が違うせいか、強く否定する事も出来ず……結局流されるように了承してしまった。
「それで、どこにいくんですか?」
「そうだな……ここしばらく映画を見ていない。なにか見に行かないか?」
「映画? いいけど……父さんでも映画を見るんですね。なんか意外」
「これでもそれなりに現代を謳歌しているぞ」
父さんの言葉に思わず笑ってしまう。
話しをしながら、映画館まで歩いていった。
映画を見終わりそのまま夕食を食べに行く事になった。
既に日は暮れていたが、街明かりのせいでそれほど暗くはない。
「さっきの映画、思ってた以上に面白かったですね」
「冒頭が退屈でハズレかと思っていたが、あれは見て正解だったな」
上機嫌で語る父さんにおれも頬が緩む。
父さんの案内の元、行きついた先は高いビルだった。
ロビーに入るとシャンデリアによる上品な明るさでフロア一帯が照らされており、静かな曲が流れている。エレベーターに乗り、父さんが三十一階のボタンを押す。ここでもロビーと同じような曲が流れていた。
「おれこんな高級そうな所で食べた事ほとんどないんだけど、大丈夫かな」
「はははっ、大丈夫だ。もし作法がわからなくなったならわしに聞くといい。聞くのが恥ずかしいのなら見よう見まねでするのもいいだろう」
「うー……こんなことになるならちゃんと練習しとけばよかった……」
「そうだな。今後お前がわしの宮殿に遊びに来た時などにちゃんとした作法ができないと、アムピトリテ辺りにきつくしつけられそうだからな」
「え?」
父さんの宮殿へ遊びに行く時、と聞いて思わず父さんを凝視する。
おれの視線に気づいたのか父さんはおれの方を向いて微笑んだ。
「わしもお前と会える時間が少ないのは寂しくてな。今、アムピトリテとトリトンに相談している所なのだ。お前が来るとなったらタイソンも喜ぶしな」
優しくおれの頭を撫でる父さんの表情は柔らかくて、なんだか嬉しくなった。
「……本当に父さんの宮殿に行けるようになったら、いいな」
呟くと、父さんは目を細めて頷いた。
途端、エレベーターが到着を告げる音を鳴らし扉が開く。エレベーターから降りると、そこには想像していた通り高級レストランがあった。
「ひぇ……」
おれの小さくもらした言葉に父さんは声を殺して笑っていた。
父さんの予約していた席へ案内される。予約していたってことは、最初からおれと来る前提だったのかな。嬉しさで思わず歩き方がぴょこぴょこしてしまった。
父さんは不思議そうにしながらおれの手を引いて歩いていく。ウェイターが案内した席は窓際で外の景色が見渡せる席だった。
良くテレビとかで見るやつだこれ……!
そんな間抜け丸出しな感想を抱いていると、おれの考えている事がわかったのか父さんがまた笑っている。
「百億ドルの夜景、だな」
「ヒュ~! 父さんかっこいい~!」
小声ながらも思わず悪乗りしてしまった。
おれの反応に笑顔になり、またくしゃりと頭を撫でられた。
雑談しながら順に出てくるフルコースを堪能していると、父さんの指がおれの指を撫でた。
「どうしたんです?」
「うん? ああ、お前の手はこんなに細いのに様々な危機から皆を守ったのだと思うと愛おしくてな……」
おれの左手を持ち上げ、父さんが指に口付けを落とす。
「とっ、父さん! 何して……」
「今夜だけはわしの事をポセイドンと呼ばないか?」
「はぇ?」
「そうすれば、まるで恋人とデートをしているような心地を味わえるだろう?」
「こっ……!」
父さんの言葉に顔が熱くなる。茹でダコのようになっているであろうおれの事をにこにこしながら見つめる父さんに、思わず少しだけ男性として意識してしまった。
「どうだ? 今日だけでいいんだが……」
少し寂しそうにそう言うので、おれの返事は言うまでもなかった。
「わ、わかったから、ポセイドン……手、放して……」
父さんはまた笑顔になり、一度手を強く握ってから放した。
どぎまぎしながら食事を終えると、店を出てそのまま帰路へ着く。ゆっくりと二人で人が少なくなってきた道を歩いていく。
いい加減慣れないハイヒールで歩くのに疲れてきた。その事に気付いたのか、父さんが立ち止まりおれの方を向く。
「パーシー、そこのベンチに座りなさい」
「? うん」
言われるがまま大人しくベンチに座ると、父さんがおれの靴を脱がせた。そのまま靴をおれに手渡すとおれの事を抱き上げた。
「これなら辛くないだろう?」
「た、確かにそうだけど、これは恥ずかしい……!」
父さんは気にせず抱えたまま歩き始めた。
降ろしてもらおうと身じろぐが、放してもらえる様子はなく、仕方なく落とされないように首に腕を回す。
「もっと早くに気付くべきだったな……。靴ずれしている」
片腕で抱えたまま、父さんがおれの足首をそっと撫でた。ひりひりとした痛みに、父さんの首に回していた腕に力を込めてしまう。
「もうしばらくの辛抱だ。家に着いたら軟膏を塗ると良い」
「ネクタルじゃだめですか?」
「構わないが、もったいなくないか?」
そう言われると確かにもったいない。たかだか靴ずれだけでネクタルを使い、いざという時にない、なんて事態もあり得る。
「最近珊瑚を使用した軟膏を作ってもらったからそれを使うといい。意外と治りが早いぞ」
「珊瑚を軟膏に……?」
想像もつかないが、父さんがそう言うのならそうなのだろうと納得した。
「靴を履くときは絆創膏で傷口を覆って、靴を履く必要のない時は軟膏を塗るといい」
「あ、結局は一般的な靴ずれ処置になるんですね」
「まあな。一瞬で治してやることも可能だが」
「え? じゃあ――」
「だが、じっくり直していくことで今日の事が忘れ難くなると思わないか?」
父さんがにやりと笑っておれを見る。おれはというと何も言えず、父さんの背中を力なく叩くしか抵抗する事が出来なかった。
家に着くと、ポールと母さんはまだいなかった。そういえば二人は旅行に出かけていたんだと思い出し、ぼんやりとする。
父さんはおれの部屋につくと、おれをベッドに降ろしさっそく脚先を持ち上げた。右手には既に軟膏が取り出されてあり、指に少し掬い取られている。
父さんが足首の傷に軟膏を塗り込む仕草をただただ見ながら、塗られている場所の心地良さに息を吐いた。あったかい大きな手でゆっくりと馴染むように丁寧に塗られていく。
「痛くないか?」
「うん……不思議。今少し気持ちいい」
「そうか。それならよかった」
そういうともう片方の足にも軟膏を塗ってくれた。
「さて、そろそろ帰るが……」
「うん……」
「そう寂しそうな顔をするな。すぐにまた会えるさ」
父さんはすぐに会えると言ったが、またしばらくは会えないのだろう。神々に頻繁に会う機会なんてないだろうから。
「忘れていた。お前の変装を解かねばな」
「……はっ! そういえばそうだ! あぶなっ」
危うく本気で女装したまま寝るところだった。こんな所母さんたちに見られでもしたらたまったもんじゃない。今旅行中で良かった……。父さんが指をならすと、おれの格好は朝着ていたTシャツと短パン姿に戻っていた。
父さんが立ち上がり扉の方へ向かおうとするのを、無意識のうちに袖を掴んで引きとめてしまった。
「あ、とう、……ポセイドン」
「どうした?」
「あの、次会えるのって、いつ?」
おれの言葉に父さんは考える素振りをし、おれの方へ向き直る。
「いつ会いたい?」
「いつって――」
いつも会いたい、そう言おうとしたがおれの言葉は父さんによって遮られてしまった。
抱きしめられ口付けられる。
唐突な出来事に硬直していると、口付けは激しいものになっていく。舌が絡められ、ぬるりとした感触にゾクゾクする。
おれはどうすればいいのか分からず、父さんにされるがままだった。父さんの舌の動きに合わせるのに精一杯で、息をするのもやっとだ。
ようやく解放されると、父さんが幸せそうに微笑んでいる。ぼうっと父さんを見つめると、再度軽く触れるだけのキスをされた。
「寂しい思いをさせてすまない、パーシー。近々迎えに来る」
そう言うと父さんは最後におれを抱きしめて「おやすみ」とだけ告げて、暖かな潮風の香りを残して帰っていった。
一人残されたおれは何も考えられず、その日はそのまま眠りについてしまった。
翌日、目が覚めるとおれは寝ぼけた頭のまま、キッチンへ向かった。母さんが買っておいてくれたパンを引っ張り出し、コップに牛乳を注いで黙々と食べる。
不意に昨晩の事を思い出して顔が熱くなってきた。おれ、父さんと何してたんだ?
生々しく思い出される感触に、触れられているわけでもないのにまたゾクリとした。
そんな思考を振り払うように頭を振ると、さっさと食事を済ませ大学へ行く準備に取り掛かった。
意識しないようにしても、ふとした時に父さんとのあの夜の出来事を思い出してしまい、しまいには大学の友人にまで「大丈夫か?」と心配される始末。眠れば夢であの日のように口付けられる夢を見、次第に口付け以上の事をしようとしている事に気づき慌ててとび起きる、の繰り返し。
満足に眠れない事と地味に積もり積もった性的欲求不満でとうとう限界が来ていたのか、おれは誰もいない公園で霧を作り出しイリスメッセージを送っていた。
「父さん――ポセイドンに繋いでください」
場所まで指定していなかったが、問題ないだろう。少しして映像が映し出された。
一度だけ見た事がある、珊瑚やホタテ貝などで装飾された美しい宮殿。そこに父さんが一人で椅子に腰かけていた。
「父さん」
おれの声に驚いた表情で父さんが振り向く。
「パーシー? どうしたんだ?」
「父さん、いつ会いに来てくれるの?」
「え?」
「父さん、あの日すぐに会えるって、言ったじゃないですか。なのに全然会いに来てくれない」
「確かにそうは言ったが――」
一度本音を吐きだし始めたら、堰を切ったようにぼろぼろとこぼれていく。
「おれ、もう我慢できない……父さん、今すぐ会いに来て。またあの日みたいに父さんと一緒に色んな所回りたいし、父さんに……」
父さんは黙っておれの言葉の続きを待っている。
「……ポセイドンに、キスして、欲しい」
おれが言い終わると同時に、暖かなものに抱きしめられた。潮とオレンジの香りが混ざった不思議で甘い香り。
「ポセイドン」
「悪かった。中々宮殿の仕事が片付かなくてな……まさかお前をそこまで待たせてしまっていたとは」
「ポセイドン」
嬉しくなり背中に腕を回ししっかりと抱きしめる。暖かくて落ち着く。厚い胸板に頬ずりすると、ポセイドンの手が頭の後ろに添えられる。
顔を上げるとすぐ近くにポセイドンの顔があった。思わず自分から口付けると、優しく応えてくれる。
「もっと、もっとポセイドンの好きにして。めちゃくちゃにして」
その言葉を皮切りに、先ほどまでとはうって変わって貪るようなキスをされる。あの日のように一方的に口腔を嬲られる感覚に興奮する。
今まで我慢していた分、積極的に口付けに応えた。酸素が次第に薄れていっているのか頭がくらくらする。
けれどそれも気にせず互いを求め続け、ようやく唇を離した時には、おれの額には汗がジワリと浮かんでいた。
「ぽせいどん、すき」
つたない口調になっているのも気にせず、そう告げると、ポセイドンが嬉しそうに笑った。
「わしもお前の事を愛している、パーシー」
「……ほんと?」
「本当だとも」
嬉しくって、これ以上ないほど幸せな気分だった。抱きしめる腕と体温に安心したからなのか、思わずあくびをした。
「大丈夫か?」
「だいじょぶ……さいきん、ちゃんとねむれてなかったから……」
ここ最近の不眠の原因も解決した為、急激に眠気が襲ってきたのだろう。
「眠るといい。わしはお前が目を覚ますまで傍に居る」
「それなら……おやすみなさい」
「ああ、おやすみ、パーシー」
暖かな体温とまどろみに身を任せる。おれは眠る間際に聞こえた言葉を、次に目が覚めた時には忘れていた。
「ヒュプノスに協力させた甲斐があった。あとで礼をしなければな」
「はっ!?」
勢いよく体を起こすと同時に、辺りが見覚えのある部屋に変わっていた。
「おはよう、パーシー。よく眠れたか?」
「えっ……と、父さん……?」
「うん?」
「おれ、部屋……」
そう、よくよく思い出してみればおれが眠りについてしまったとき、明らかに外にいたのだ。父さんにもたれ掛ったまま眠ってしまって、今は部屋にいるということは……。
「わしのせいであんなに眠そうにしていたのに起こしてしまうのは忍びなかったからな。そのまま抱えて連れてきた」
「ご、ごめん父さん。重かったでしょ」
恥ずかしさと申し訳なさで思わず頭を抱え込む。
「わしにとってはその重さこそがお前が生きていると実感させるものなのだから、恥じることはない。もっとわしに全てを委ねればいい」
腕をつかみ自分の方へひっぱるとそのまま父さんはおれを抱え込んでしまった。触れ合った肌から自分の脈が伝わってしまうのではないかと思いながらも、温かい手にそっと頭を撫でられ、とろけてしまう。言葉の通り、体の力を抜きぐたりと父さんへ委ねた。
「さて、もうひと眠りしよう。今度は二人で同じ夢が見られるかもしれないな」
小さく、それでいていたずらをする子供のように楽しそうに笑いながら指が絡められる。指を絡め返して、そのまま再びおれは深いまどろみの中へ落ちていった。
父さんと同じ夢を見られる事を願いながら。
【あとがき】
ここまで読んでくださった方はありがとうございます。
恥のあまり封印しておいていいじゃん?と思うような作品ですがまあなんだかんだ書いた作品全てに愛着があるのでついでにうpしておきますね!(自分の作品大好きマン)
元々は色鉛筆で書いてた落書きからなんか女装して潜入捜査してる定番(?)のネタをしてもらいたいよな、っていう気持ちがあふれてきた為書き殴られました。元絵は多分パーシー・ジャクソンイラストまとめのどこかに入れたような気もしますがまだ入れてなかったような気もしますね。絵多すぎてまとめきれねぇんじゃ。
そしてタイトルセンスが微塵もないのでこんなポセパシならどの作品にも当てはまりそうな作品名でうpしてるの本当お前…って感じ~!センス欲しいね^q^
今回の話では女体化ではなく女装にしたところがミソですね。途中からオンナになってたけども。そういうのが好みの性的趣向だから許してクレメンス。
この話ではBL定番の一つである闇オークションネタを一度は書いてみたいというのもあり、書き始めたんだけどそれと同時期にツイッターの方で闇オークションネタが盛り上がってたので影響されたみたいで微妙な心境になってたっていうあとがきを本のほうで書いててわろてる。数年前までミーハー扱いされることにたいしてなぜか拒否感あったんだよな。今では最新のものにも興味関心を持てない老人のようでいけないと思ってはいる。しかし飛びつけるかどうかは謎である。
とまあここまで本のほうで書いてたあとがきの大体の内容です。
本を作ったのは…2018年2月10日…。早く次のPJO本作りたいねぇ。頑張ろうねぇ。地道に書いてるちいちゃな話ばっか詰め合わせたアンソロジー作るのもいいかもしれないねぇ。
中身のないあとがきですがあとがきなんてそんなモン。(お前だけ~~~~!)
また気力がわいたときに本にした作品の中から引っ張り出してうpします。ポセパシのタグに作品増やしたいのでぇ!!!!!!!(本音はこれ)