シャウバリ短文ログ■いたちごっこ ──ここはどこだろう。
暗い暗い、何も見えない真っ暗闇。そこに一人バリスタモンはいた。
「よう、バリスタモン」
「オ前ハ……ダークボリューモン!?」
目の前にいるのは消えてしまったはずのもう一人の自分。
「ナンデオ前ガココニイル?」
「ここはバリスタモン、そしてダークボリューモンであったものの心の中だ。だから俺はまた現れた」
「ナンデ……オ前ハモウイナクナッタンジャナイノカ?」
「俺は消えない。例えお前が俺を否定しようが、俺は消えない」
確かにあのときバリスタモンの精神が強くて、バリスタモンとしての自分で生きることを決めた。でも、認めたわけじゃない。
俺も、ダークボリューモンとして生きたかった。でも駄目だった。
でもでもでも。
諦められない。
俺も生きたい。
自分の意志でいきたい。
影はいやだ。
ダークボリューモンの声が闇に響く。バリスタモンの頭にぐわんぐわん響く。
無念、悲しみ、悔しさ、怒り。そんな感情が響き渡る。
「なんで俺は駄目なんだ。俺だってダークボリューモンとして生きてたかった!」
「デモ…デモ俺モソノ気持チハ一緒ダ!」
「そんなこと知らない!」
いつまでも続くいたちごっこ。
確かに自分はバリスタモンとして生きることを決めた。でもそれは、バリスタモンというものの勝手な考え?もう一人の自分はこの決定を望んでいなかった?
なら、自分は一体どうすれば?
「……おいバリスタモン!」
「…………!!」
自分の名前を呼ぶ声で目が覚める。
そこには心配そうに自分を見つめるシャウトモンがいた。
「大丈夫かよ?うなされてたぜ?」
どうやら自分は夢を見ていたらしい。
でも、夢にしては生々しくて。
「ネエ、シャウトモン、俺ハ俺トシテ生キテイイノカナ?」
「……!急にどうしたんだよ!」
夢 の中であった確かに存在していたもう一人の自分を思い出す。
「俺ハ、バリスタモントシテ生キテイイノカナ?ダークボリューモンモキット生キタカッタハズナノニ。俺ハソレヲ無視シテイイノカナ」
「……それは俺にも分からねえよ。でもさ、俺はお前に生きててほしいと思う」
「ヘ?」
「お前の中のことは俺にはよく分からねえよ。きっとそれはお前しか解決できない問題なんだ。俺には手出しできねえよ。でもさ、俺はお前に生きててほしいと思ったんだ。お前が生きる理由、それだけじゃ駄目か?」
「シャウトモン……」
「俺はお前が好きだ!だから生きててほしい。例え独りよがりな願いでもだ。だからさ、生きてていいのかなんて悲しいこと言うなよな」
「ウ……ウン、ゴメン」
「例え世界の誰もがお前を否定しても俺はお前に生きててほしい!命懸けで守ってやるよ!だからさ、安心しな!」
そう言って手を握ってくれる。
その言葉が、その体温がどれだけ心強いか。俺はいつも君に助けられてばかりだ。
どの選択が正しかったのかは分からない。けど、きっと君が指し示してくれた道に間違いはないはず。
だから、生きよう。そう決めたんだ。
■強さ ある晴れた昼下がり。折角の天気だからとバリスタモンは外に出てみることにした。
「今日モトテモ平和。ダイブ落チ着イテキタ」
バグラ軍との戦いから月日は経ち、王であるシャウトモンの努力のかいあってデジタルワールドも昔と比べ住みやすい世界になってきた。
誰も悲しまない良い世界。そんな世界の王の相棒ってことがちょっと誇らしい。
ゆっくり景色を見渡しながら散歩していたら遠くから声が。
「ああ!お前王様の相棒のバリスタモンだろっ!」
そう言って駆け寄って来るのは最近シャウトモンが気にかけているちょっとした問題児、ガムドラモンだった。
「ガムドラモン、ドウシタ?俺ニナンカ用?」
「聞きたい事があるんだっ!」
息をゼーハーさせながらガムドラモンは答える。
「あんた王様の相棒なんだろうっ!?」
「ウ……ウン、ソウダケド」
「なら教えてくれよ!王様の強さの秘密!!」
そういえばガムドラモンはシャウトモンに対して熱い対抗心を燃やしていたのだっけ。なるほどそれで王様の強さの秘密を。
「王様ノ強サノ秘密……ソレハ……絆ノ強サダト思ウ」
「絆の強さ?」
「ソウ、シャウトモンハ仲間ヲ大切ニスル。自分ヲ投ゲ打ッテデモ仲間ヲ見捨テナイ」
かつて自分が過去の姿に戻り敵として対峙したとき、シャウトモンは絶対に自分を見捨てたりはしなかった。絶対戻ってきてくれると信じてくれた。命懸けで俺の気持ちを守ってくれると言ってくれた。
だから俺はシャウトモンに付いていくのだ、例えどんなに危なく苦難な道のりだとしても。
「うーん……つまりは戦力の多さってことか?」
「ソレトハチョット違ウ。絆ノ強サはタダノ戦力ジャナイ。足シ算ジャナクテ掛ケ算」
「……よく分かんねえよ」
ガムドラモンは頭を抱えて悩み出した。
確かにこればかりは実際に経験してみないと分からないかもしれない。でも……
「大丈夫、ガムドラモンナラキット分カル」
どことなく鉄砲玉のように突っ走る自分の相棒に似てるから。
きっとすぐ分かるはず。大切な仲間が、掛け替えのない相棒が見つかる。そう思うのだ。
「そっか!良くわかんなかったけどありがとよ!」
そう言って走りだしたガムドラモンの背中を見送る。
さあ、俺も大事な相棒のとこに帰ろう。
■■■「ウウウウウ……」
バリスタモンは頭を捻り唸っていた。目の前には大きな画板、手には絵筆。ついでに頭にベレー帽。横に置いてある紙には沢山のシャウトモンが描かれている。格好いいキング、笑っているキング、凛々しいキング。
「ウウン、ナンカ物足リナイ……」
今の絵にはシャウトモンのよさを最大限に出す何かが足りない、そう思いバリスタモンは悩み続けているのだ。
「バリスタモン何してんだよー…って俺描いてんのかよ?」
「シャウトモン!暇ダカラオ絵カキシテタ。実ハ……」
ひょこと現れたシャウトモン本人に今の悩みをバリスタモンは告げる。シャウトモンは俺様ってば格好いいからなーと言いながらうーんと目を閉じ考えだした。暫く時が経つとポンッと手を打つ。
「バリスタモン、ちょっと筆を貸せ!」
すると没にした絵に何かを描きだす。筆の色は、青。
「ワ、ソレハ俺?」
笑っているシャウトモンの横に描かれたのはヨロヨロの線のバリスタモンであった。
「ふふん、やっぱ隣に相棒は大切だろっ!物足りなかったのはきっとこれだな!」
何か違うような……と思わないでもないが、とても嬉しいバリスタモンなのであった。