【緑高】入学式・卒業式「……今年は泣かないと思っていたんだが」
そう声をかけると最後のひとつのゴミ袋の口を閉めている相手がズズッと鼻をすすり上げた。
「うるせぇ、今年も去年も泣いてねぇ」
そんな事を言っているが、口を開いたら又感情が高ぶったのか俺達二人しかいないシンとした部室の中、ゴミ袋に水滴の落ちるパタパタという小さな音が響く。
「……そうか」
今年は取り敢えず背中を向けるだけの余裕があるようだけれど、去年の卒業式は大坪さん達三年生の前でも泣くのを堪えていたのがバレバレだったし、俺と教室で二人だけになった途端にボロボロと泣き始めた挙句に「大坪さんも宮地さんも木村さんも留年すればもう一年一緒に部活出来たのに」などと本人達に聞かれたらパイナップルの嵐が巻き起こりそうな事を言っていた。
まるで子供が駄々をこねているようだと思いはしたものの、正直を言うとその時にほんの少しだけ貰い泣きしてしまいそうになったのだが、自分の感情をどうにかするのに手一杯だったこいつにはバレていない事だろう。
ベンチに腰掛けたまま暫くの間グスグス言いながら肩を震わせる姿を目の端に留めて眺めていると「あー!!」と言う叫び声と共にバッと俯いていた顔を天井に向けて勢い良く腕で目を擦り始めた。
「制服の硬い生地でそんな風にしたら目を傷めるぞ」
襟首と肩を引っつかんで少し強引にこちらを向かせると、案の定目元も瞳も赤くなっている。
「こんな腫れた目では暫く帰れそうに無いな。まったく……良く泣いたものだ」
「うるせぇ泣いてねぇって言ってんだろ」
今更何をと思うが、そんな風に嘯くともそもそと緩慢な動きでベンチの隣に腰掛けてくる。意識してかどうなのか寄り添うような距離になって厚い制服の上からでもじんわりと体温が伝わってきて心地好い。
他人と触れ合う事で身体だけで無く心も暖かくなるのだと気づいたのはいつだっただろう。出会った頃はベタベタと引っ付いてきて鬱陶しいと思っていた筈のこいつの体温が、好ましいものだと感じるようになったのは。
そんな事を考えていると高尾が肩の辺りにグリグリと顔を押し付けてきた。
「……人の制服で涙を拭くな」
「泣いてねぇ」
まだ言うか、と思わず溜息が漏れるが溜息をつかせた当人は特に気にしていないようだ。
「……真ちゃん」
「何だ」
俺の肩に顔を押し付けたままの所為でくぐもった声で呼ばれて返事をすると、ぎゅっと左手を掴まれた。
「俺はぜってー優勝したって笑って卒業するかんな」
「……当然なのだよ」
果たしてさっきまでの涙は先輩達が卒業する事への悲しみの涙だったのか、それとも共に優勝を果たせなかった悔し涙だったのか。
そのどちらもなのかもしれないと思いながら空いている右手でいまだに肩に凭れたままの頭を撫でるとグーと言う情けない音と共に「はらへった」と情緒も何も無い声が聞こえた。