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    【とうらぶ】真実は隣の神のみぞ知る【へしさに】真実は隣の神のみぞ知る私は最近、とても寝不足だ。
    その理由は……

    真実は隣の神のみぞ知る

    「誰かに見られているような気がする……?」

    長谷部さんの問い掛けに、私はこくりと頷いた。
    私の寝不足の原因……それは、就寝中に誰かに見られているような視線を感じることだった。
    個人的な問題なので1人で解決したかったのだけれど、執務中に眠そうにしていた私に近侍の長谷部さんが声をかけてきたのである。
    聞かれたからには正直に答えないと納得しそうにないので、私は視線を感じて眠れないことを打ち明けた。
    長谷部さんは少し驚いたような表情を見せ、それから少し考え込んでからこう答えた。

    「……こんのすけでは?」
    「こんのすけ?」
    「奴は政府の犬なのでしょう? 主の一挙手一投足を監視して政府に報告しているのやもしれません。」
    「そうなのかなぁ……でもこんのすけは狐だし……。」
    「いえ、そういう意味では……。」
    「冗談だよ~。」

    そう言ってへらっと笑って見せると、長谷部さんは少し困惑気味な表情を浮かべた。

    「……冗談が言えるようならそこまで気を揉む必要もないでしょう。」
    「ごめんなさい。冗談でも言わないとやってられなくて……。」

    多分これは言うべきことではない。
    けれど、言わずにはいられないくらい私の精神は追い詰められていた。

    「ならば、俺が寝ずの番をいたしましょう。」
    「いや、それは遠慮しておこうかな。」
    「……何故?」

    私が即答すると、長谷部さんは不服そうな顔で疑問を呈した。

    「個人的な問題で振り回すわけにはいかないよ。」
    「俺は主の臣下なのですよ? 思う存分振り回してください。」
    「うーん、でも長谷部さんまで寝不足になったら困るし……。」
    「そのような心配は無用です。」

    長谷部さんの主命くださいオーラが凄い。
    しかし、やはり戦闘以外で振り回すのは良くないと思うのだ。

    「もしかしたら長谷部さんの言う通りこんのすけが監視してるのかもしれないし、もう少し様子を見てみるよ。」
    「ですが……」
    「どうしても助けてほしい時はちゃんと頼るから……ね?」
    「……はい。」

    半ば強引に納得させて、私は進めていた執務を再開した。


    (う~ん、でも本当にこんのすけなのかなぁ……。)

    執務後、長谷部さんと別れ1人廊下を歩きながら考える。
    すると……

    「何かお悩みですか?」

    足元から声がした。
    見ると、そこには疑惑の張本人がちょこんと座っていた。

    「こんのすけ、丁度いいところに!」
    「どうしましたか?」

    小首を傾げるこんのすけに、私はかくかくしかじかと事のあらましを説明した。
    すると……

    「それは僕ではありません。」
    「そうなの?」
    「主さまがお気付きになられるということは、つまり政府の仕業ではないということです。」
    「……ん?」

    何か今物凄く不穏なことを言われたような……。

    「それって私が気付いてないだけで実は政府に監視されてるってこと……?」
    「さぁ、どうでしょう。」

    はぐらかされた……!!
    いや、でも私が感じている視線とは別なのか……。
    なんだか余計に悩みが増えたような……。

    「侵入者でお悩みなのでしたら監視カメラを使用してみては?」
    「監視カメラ……!!」

    その手があったか!
    こんのすけの提案に私はすっかり感心しきりだった。

    「あ、でもすぐには手配できないよね……?」
    「業務用に貸し出されているパソコンにはカメラが内蔵されています。そちらを駆使すれば一時的に使用する分には充分かと。」
    「なるほど! こんのすけ凄い! さすが政府の狐!!」

    そう言ってワシャワシャと撫でると、こんのすけも満更でもない様子に見えた。

    「じゃあ今すぐにでも使いたいから手伝ってもらえる?」
    「承知しました。」

    私はこんのすけを連れてパソコンのある部屋に向かった。




    「出来た~!」

    こんのすけに手伝ってもらい、パソコンのwebカメラを使った簡易的な防犯カメラのセッティングが終わった。
    長時間録画するため、なるべくパソコンに負荷がかからないよう色はモノクロで音声はなしにした。

    「早速お使いになられますか?」
    「そうだね。」
    「では、録画ボタンを押してください。」

    言われた通りに録画ボタンを押すと、画面に録画中のマークが表示された。

    「これで録画されているはずです。侵入者がいることを前提にするなら、録画ソフトの表示は最小化で隠しておいた方が良いでしょう。最小化で録画が止まることはありませんので。」
    「わかった。そうしておくね。」
    「この後はいつも通りに過ごして、就寝前に1度止めて確認してみると良いでしょう。」
    「うん、そうするよ。手伝ってくれてありがとうこんのすけ!」
    「いえいえ、主さまに何かあれば僕も困ってしまいますので。」

    淡々としているこんのすけをまたこれでもかとなで回した。
    これで原因がわかって安眠出来ればいいなぁ……。


    「あ~、いいお湯だった。」

    就寝前、お風呂に入って部屋に戻る。

    「さてと……。」

    私はパソコンの前に座り、早速録画された映像の確認を始めた。

    (何か原因がわかればいいんだけど……でも何か映ってたら怖いなぁ……。)

    そんなことを考えながら画面を見ていると……

    「!」

    奥の方に映っているこの部屋の入口である障子が少しだけ開いた。
    障子には人影が映っていて、中に入っては来ないが誰かが部屋の中の様子を伺っているのがわかる。

    (誰なんだろう……。)

    そう思っているうちに障子が段々と開いていく。
    そして現れたのは……

    (ごっ……)


    (五虎退ちゃん……!?)


    映像はモノクロではあるものの鮮明ではある。
    この愛らしさに髪の毛のふわふわ感……間違いなく五虎退ちゃんである。

    (何してるんだろう……?)

    五虎退ちゃんは障子を開いたものの、中に入ろうとはせずに部屋をキョロキョロと見回している。
    何か探しているのかなと考えたとき、映像に別の人影が現れた。

    (これは……大倶利伽羅さんだな。)

    流石にくっきりとはいかないが、左腕の龍が見て取れた。
    五虎退ちゃんの肩を叩いて、何かを手渡している。
    それを見て、私は五虎退ちゃんが何をしていたのかようやっと理解した。

    (虎を探してたのね……!!)

    大倶利伽羅さんが手渡していたのは五虎退ちゃんの連れている虎だったのである。
    大倶利伽羅さんはたまたま虎に出会したのか、それとも……?
    何にせよ五虎退ちゃんに引き合わせる辺り律儀だな~と思う。
    2人は少し言葉を交わし、障子を閉めて去っていった。

    (不審者じゃなくて良かった~。)

    心の中で安堵したがまだ油断は出来ない。
    最後までしっかり確認しなくてはと意気込んだ。
    けれど、五虎退ちゃんたちが去った後は特に誰かが部屋に来た様子はなかった。
    暫く早送りで見ていると、映像の終盤より少し手前辺りで誰かが部屋に入ってきた。

    (私……と、長谷部さん。)

    それは、お風呂に向かう前に着替えを取りに来た私と、布団を敷きに来た長谷部さんの姿だった。
    長谷部さんは私が入浴中に布団を敷いてくれる。
    初めはそんなことさせるなんて申し訳ないからと断ったのだけど、例のごとく主命くださいオーラが凄くて結局断りきれず、今や当たり前のようになっていた。
    映像の中の私がお風呂に向かうと、長谷部さんは押し入れから布団を取り出して敷き始めた。

    (やっぱり申し訳ないなぁ……。)

    布団を敷いてくれている長谷部さんの映像を見ながら思う。
    しかし、長谷部さんの気配りは絶妙なのだ。
    初めて布団を敷いてくれた日、もしかしたら私が戻るまで部屋で待っているのではとカラスの行水で部屋に戻ると、そこに長谷部さんの姿はなかった。
    いなくて良かったけれど、何かモヤモヤしたのを覚えている。
    次の日、気になったので尋ねてみると長谷部さんはこう言った。

    『湯浴み中に待たれていると思うと、主は寛げないでしょう?』

    正直驚いた。
    終始ベッタリだと思っていた長谷部さんが、私のことを考えて距離を置いてくれるなんて。

    (長谷部さんは何だかんだで紳士なんだよなぁ……。)

    感慨に耽ってふと映像に目をやると、いつの間にか止まっていた。
    終わったのかと思いきや、まだ長谷部さんが映っている。
    どうやら映像が止まったのではなく長谷部さんが静止しているようだ。
    足元の方から枕を見詰めるように布団の上で正座している。
    どうかしたのかと思った次の瞬間だった。

    (!?)

    突然、長谷部さんが布団の上に倒れ込んだ。
    布団の位置がパソコンに近く、目元の辺りがギリギリ画面の外になっていて目を瞑っているのかわからない。
    意識を失ったのか、はたまた寝てしまったのか……。
    とにかく心配になって様子を伺っていると、画面内に何とか収まっている口元が動いているのが見て取れた。

    (寝言……かな……?)

    それにしては長く動かしている……まるで喋っているようなくらいに。
    もしかしてうなされているのだろうか?
    考えているうちに長谷部さんの口の動きは止まり、一呼吸置いてむくりと起き上がった。
    大丈夫なのかと思っているとゆっくりと立ち上がる。
    自分の部屋に戻るのかと思いきや、長谷部さんは障子の方ではなく押し入れの方に向かって画面から消えた。

    (自分が寝ちゃったから布団敷き直そうとしてるのかな?)

    押し入れに向かった理由はそれしか思い当たらない。
    布団は気にしないから早く部屋に戻って休んでほしいと思いながら画面を見詰める……が、一向に長谷部さんが画面に映らない。

    (まさか画面外で倒れて……!?)

    そう思ったときだった。
    部屋の障子に人影が映る。
    誰かが部屋の中に入ってきた。
    それは……


    (私だ……。)


    映像の中の私は、真っ直ぐにパソコンに向かって来る。
    そしてパソコンの前に座ると、少し操作したところで映像は終わった。
    私は混乱した。
    だって今のは映像を見始める前の私の姿だ。
    それ自体が問題な訳ではない。
    問題なのは、私がお風呂から部屋に戻るまでに長谷部さんが部屋から出て行った形跡がないという事実だ。
    この部屋の出入り口は障子しかない。
    障子は映像で見切れないように撮ってある。
    でも長谷部さんの姿はない。
    それは、つまり……

    (押し入れの中にいる……ってこと……?)

    部屋の中にいるはずなのに姿が見えないのは隠れているということ。
    この部屋で隠れるとしたら押し入れしかない。
    映像でも長谷部さんは押し入れの方に向かっていたし……多分間違いない。

    (でもどうして……?)

    徐々に心音が速まっていく。
    もし……もしこれが毎日のように行われているのだとしたら……。
    私に気付かれないように出入りしていたのだとしたら……。
    長谷部さんは私が眠るまでずっと……


    ずっと、押し入れの中で私を見て……!?


    と、その時だった。

    (!?)

    突然、パソコンの画面が真っ暗になった。
    驚いたけれど、どうやら暫く操作していなかったのでスリープモードになったらしい。
    私は安堵した。
    ……けれど、すぐさま凍りついた。
    艶のあるディスプレイに映り込む自分自身。


    そして、もう1人……。


    映り込んでいるのは足元だけだけれど、振り返らなくてもわかる。
    私の後ろにいるのはきっと……。
    そのまま大人しくしていれば何も起こらないのかもしれない。
    それでも、私は振り向かずにいられなかった。
    恐る恐る、ゆっくりと振り返る。
    そこにいたのは案の定……


    「はっ……はせべ……さ、ん……?」


    名前を呼ぶ声が震える。
    彼は何も言わず、ただ真っ直ぐに私を見下ろしていた。
    沈黙に息を呑む。
    すると、長谷部さんがおもむろに両手を振りかざした。

    (殺される……!!)

    咄嗟にそう思った。
    あまりの恐怖に声も出せず、悲鳴をあげるどころではない。
    足も竦んで動けない私は、顔の前で腕をクロスしてギュッと目を瞑り、来る衝撃をただ待つしかなかった。
    けれど……

    「……?」

    一向に痛みがやって来ない。
    長谷部さんの機動力をもってすれば私なんてあっという間にやられていてもおかしくないはずなのに。
    いや、もしかしたらあまりの速業に痛みも感じないまま……!?
    とにかく、このままでは埒が明かない。
    私は意を決してゆっくりと目蓋を押し上げた。

    (死んではない……のかな?)

    下を向いているので足元しか見えないが、変わらず部屋にいるようだし、斬られて血塗れということもなさそうだ。

    (長谷部さんは……?)

    まだ少し怖いけれど確認しない訳にもいかず、恐る恐る顔を上げる。
    すると、そこには深々と頭を下げて土下座している長谷部さんの姿があった。
    訳がわからず混乱している間も、長谷部さんは土下座したまま動かない。

    (これは声をかけるしかないのか……?)

    長谷部さんが何を考えているのか分からない以上、油断は禁物。
    私は唾を飲み込むと、蚊の鳴くような声で彼に話しかけた。

    「は……長谷部、さん……?」

    私の呼び掛けに長谷部さんがピクリと肩を揺らす。
    そしてそのままの姿勢で彼は言った。


    「申し訳……ございません。」


    謝罪……ということは、やはり長谷部さんが……?
    そう思うと、口から勝手に言葉が零れた。

    「どうして……?」

    正直、聞くのは怖い。
    でも、理由が分からないままの方がもっと怖い。
    返事を待っていると、相変わらずそのままの姿勢で長谷部さんが口を開いた。

    「……何を言っても、言い訳にしかなりません。」
    「いいから、聞かせて。」

    答えるように促すと、長谷部さんが頭を上げてこちらを見た。
    その表情はとても辛そうに見える。
    そして言った。

    「主が……」


    「主のことが、心配だったのです……!!」


    「え……?」
    「今朝、仰っていたでしょう?『誰かに見られているような気がする』と……。」
    「確かに言ったけど……。」
    「寝ずの番の申し出を断られてしまいましたが、やはり居ても立っても居られず……。」
    「それで何故押し入れに……?」
    「……主に気付かれぬように見守ればよいと……。しかし、浅はかでした。よもや主をここまで怯えさせてしまう結果になろうとは……!!」

    そこまで言うと、長谷部さんは先程よりも更に深く頭を下げた。
    そして……

    「誠に……」


    「誠に申し訳ございませんでした……!!」


    もう畳にめり込むのではないかという勢い。
    そんな長谷部さんをじっと見詰めながらことの顛末を整理した。
    長谷部さんが押し入れに入っていたのは、今朝私が『誰かに見られているような気がする』と言ったから。
    つまり、私を心配して押し入れに隠れて見守っていたのは今日だけということだ。
    ということは、私は物凄く失礼な勘違いを……!!
    いや、でもこれは誰だって勘違いするんじゃないだろうか……。
    かと言って、やり方に問題があったにしろ私のことを心配してくれたのは事実。
    そんな長谷部さんを無下に扱うわけにも……!!
    私は悩みに悩んだ末、長谷部さんに罰を与えることにした。
    頭を下げている長谷部さんにそっと近付き、片手を振り上げる。
    そして……


    トスッ


    私は長谷部さんの頭をチョップした。
    チョップしたと言っても本当に軽く、頭に手を置いたぐらいの勢いだ。

    「あ、主……?」

    頭を下げたままなので顔は見えないけれど、明らかに困惑した声色で長谷部さんが私を呼んだ。

    「……怖かったんですからね?」

    そう言いながら軽いチョップを繰り返す。

    「……如何様な罰もお受けいたします。」

    その言葉にチョップする手を止めた。

    「では、罰を言い渡します。」
    「はっ……。」

    小さく返事をする長谷部さんに私はこう告げた。

    「へし切長谷部、貴方には……」


    「今から私と添い寝をしてもらいます。」


    「……は?」

    素っ頓狂な声を出して、長谷部さんは漸く頭を上げた。
    私は苦笑しながら続けた。

    「長谷部さんのことだから、刀解処分でも仕方がないなんて考えてたんじゃないですか?」
    「それは……。」
    「だから、その考えをぶち壊すのも罰になりますよね?」
    「で、ですが……!!」
    「それに!」

    食い下がろうとする長谷部さんを遮るように割って入る。

    「長谷部さん、寝不足なんじゃないんですか?」
    「そんなことは……。」
    「じゃあさっきまで私の布団で寝転がっていたのは?」

    押し入れに隠れる前の行動について指摘すると、長谷部さんは押し黙った。

    「……見られていたのでしたね。」
    「観念してください。」
    「主を恐怖に陥れた挙げ句、あのような醜態を晒してのうのうとなど俺には……!!」
    「……もうっ!」

    痺れを切らした私は、長谷部さんに詰め寄って手を握った。
    そして、目を真っ直ぐに見詰めて言った。

    「長谷部さんのせいで怖くなっちゃったから一緒に寝てくださいって言ってるんです! ……察してください。」

    すると、長谷部さんは目を丸くした後、慌てた様子で握った手を握り返してきた。

    「察しの悪い臣下で申し訳ございません……!!」
    「……それで、添い寝してくれるんですか?」
    「……主命とあらば。」

    長谷部さんの返事に満足して私は思わず微笑んだ。

    「じゃあ早速寝ましょう。」
    「はっ!」

    元気よく返事をしたと思うと、長谷部さんは立ち上がって押し入れに向かった。

    「何してるんですか?」
    「? 寝るために布団を……。」

    どうやら長谷部さんはもう1組布団を用意しようとしているらしい。

    「長谷部さん、添い寝ですよ?」
    「はい……?」

    分かっていないような素振り。
    私は自分の布団に潜り込むと、掛け布団を捲って敷き布団をポンポンと叩いた。

    「……はっ!?」

    今度は理解したのか、困惑した様子を見せる。

    「眠いので早くしてくださ~い!」
    「で、ですが……!!」
    「……主命。」

    私がそう言えば、彼はやはりこう言うのだ。


    「……主命とあらば。」


    「じゃあ左腕伸ばして寝転がって~。」

    おずおずと私の左隣に入ってきた長谷部さんに体勢を指示する。

    「こう……ですか?」
    「うん、そうそう!……では♪」

    私は長谷部さんの伸ばした腕に頭を乗せて寝転がった。

    「あ、主……これは……。」
    「腕が痛くなるかもしれませんが……これは罰なので。」
    「……承知しました。」

    お互いがお互いの方に顔を向けると、自然と目が合う。

    「今夜はぐっすり眠れそう。」

    私がそう言うと、長谷部さんは驚いたような顔をした。
    その表情がなんだかおかしくて、私がクスリと笑うと、長谷部さんも戸惑った様子ながらもほんの少し口角を上げて笑った。

    「おやすみなさい、長谷部さん。」
    「おやすみなさいませ、我が主……。」

    おやすみの挨拶をして、私はゆっくり目を閉じた。


    目を閉じてからどれくらい経った頃だろう。
    ふと目が覚めて自分が眠っていたのだと自覚したと同時に視線を感じる。
    少し見上げると、腕枕をしてくれている長谷部さんと目が合った。
    優しく微笑んでいる長谷部さんにちゃんと眠ってほしいと伝えたいのに、このところ眠れていなかった分の眠気が押し寄せて来るようで、重くなる瞼に堪えきれずに私は再び眠りについた。


    次に目が覚めたときにはもう朝だった。

    「おはようございます、主。」

    長谷部さんは相変わらず微笑みをたたえている。

    「長谷部さん……ちゃんと寝ましたか?」
    「えぇ、もちろん。」
    「……本当に?」
    「……本当に、です。」

    なんだか怪しい……。
    そう思いながら眉間に皺を寄せていると、そんなことより起きてくださいと長谷部さんに促された。
    私が起き上がると長谷部さんも続いて起き上がる。

    「寝巻のままでは身が入りませんので着替えても?」
    「あ、うん。」

    長谷部さんは特にふらつく様子もなく、なんなら私より意識がハッキリしているようだ。
    もしかしたら朝に強いのかもしれない。

    「では、失礼いたします。」
    「あっ、待って!」

    そう言って一旦自室に戻ろうとする長谷部さんを私は慌てて呼び止めた。

    「何か?」
    「えっと、あの……一緒に寝てくれてありがとうございました!」

    頭を下げ終えて長谷部さんの顔を見ると、少し驚いたような顔をしていた。
    なんだか昨日から長谷部さんのそんな表情ばかり見ている気がする。
    そんなことを思っていると、長谷部さんの口角が上がった。

    「言ったでしょう? 俺はあなたの臣下です。なんなら今夜も……」
    「いや、それは大丈夫!」

    言い終える前に断ると、やはり長谷部さんは不服そうな顔をした。

    「長谷部さんのおかげでぐっすり眠れたので。」
    「もう俺は用済みだ、と……?」
    「どうしてそういう言い方するんですか……。」

    卑屈な言い回しにため息を吐きつつ、私は長谷部さんの手を取った。

    「長谷部さんが私を心配してくれるように、私は長谷部さんのことが心配なんです。」
    「主……。」
    「だから長谷部さんもしっかり休んでください。」
    「ですが……!!」
    「どうしても助けてほしい時はちゃんと頼るからって、前にも言いましたよね?」
    「……はい。」
    「また押し入れに入られてても困るし、本当にちゃんと言いますから!」
    「……承知しました。」

    長谷部さんは渋々といった様子で返事をして、着替えるために部屋を後にした。


    それから特に何事もなく時は過ぎ、1日の業務を終えてそろそろお風呂の時間。
    着替えを取りに行くといつものように長谷部さんが布団を敷きにやって来た。

    (布団を敷き終わったら、長谷部さんは自分の部屋に戻っちゃうんだよな……。)

    当然のことなのに何故か心がざわつく。

    「どうかなされましたか?」

    一向にお風呂場に向かおうとしない私を訝しんでか、長谷部さんが問いかけてきた。
    何でもないと誤魔化そうか?
    でもそれは嘘だ。
    本当はわかっている。
    私は怖いんだ。
    1人で寝るのが……


    長谷部さんのいない、この部屋で寝るのが……。


    「主……?」

    黙っている私に呼び掛けるその声は憂いを帯びているようだった。
    しかしどうしたものだろう。
    今朝方自ら断っておいて、今更虫がよすぎやしないだろうか?
    散々逡巡し、私は図々しくも長谷部さんにお願いすることにした。

    「あのね、長谷部さん。」
    「はい。」
    「その、今朝は断っちゃったんだけど……」
    「添い寝……ですか?」
    「!」

    ば、バレてる……!!

    「今夜も俺をご所望で?」
    「……ダメ?」

    ばつが悪くてソワソワしている私とは対照的に、長谷部さんはご満悦な様子だ。

    「もちろん拝命いたしましょう。」

    長谷部さんなら引き受けてくれるだろうとは思っていたけれど、了承の返事を聞いて心底安堵した。

    「じゃあさっさとお風呂入っちゃいますね!」
    「急がずとも俺は逃げたりしませんよ。」
    「そうなんですけど~……。あっ、部屋で待ってなくても寝るときに来てくれればいいですからね?」
    「承知しました。」
    「じゃあまた後で~。」

    長谷部さんに見送られながら、私はお風呂場に向かった。
    長谷部さんは急がなくてもいいと言ってくれたけど、やはり待たせるのは申し訳ない。
    私は最低限で入浴を済ませ、せっせと髪を乾かして小走りで部屋に戻った。

    「お早いお戻りですね。」

    戻った私を見て長谷部さんが言った。

    「急がずとも良いと申しましたのに……。」
    「髪乾かしたりしてたしそんなに早くないですよ。それに長谷部さんだってずっと部屋で待ってたんじゃないですか?」
    「そのようなこと、主が気に病むことではありません。」

    そんなことより、と長谷部さんは先に布団に寝そべって腕を差し出した。
    そして傍らに来るようにと掛け布団を捲って私に促している。
    その様子を見て、何故か鼓動が速まった。
    昨日は怖かったのもあったし、自分が先に寝転がって長谷部さんに添い寝するように促したからあんまり何とも思ってなかったけど、改めて考えると私はとんでもなく恥ずかしいことをしていたのでは……!?

    「どうかなされましたか?」
    「あ、ううん!何でもない!!」

    長谷部さんの声で我に返る。
    今のは悟られてはいけないような気がして、平然を装って長谷部さんの隣に潜り込んだ。
    横を向いたら端整な顔立ち。

    (ダメダメ! 何急に意識してるんだ! しっかりしろ私!!)

    私は心の中で自分に言い聞かせ、ギュッと目を瞑った。

    「お、おやすみなさい……。」
    「はい。おやすみなさいませ、我が主。」

    優しい口調。
    きっと微笑みながらこちらを見ているんだろうな。
    あ~寝られるかな……なんて思ったのも束の間。
    ぐっすり眠れたと言っても昨日1日だけではまだ足りなかったようで、私はあっさりと眠りについたのだった。


    気が付いたらもう朝だった。
    目を擦って重い瞼を上げると、長谷部さんと目が合った。

    「おはようございます、主。」
    「ん、おはよう……。」
    「眠いかもしれませんが、そろそろ起きてください。」

    促されて、何故だか寂しく感じた。
    長谷部さんの腕の中は心地が良くて、まだ眠っていたいのかもしれない。
    でも、私が言わなかったら……もう……。

    「……あのね、長谷部さん。」
    「何でしょう?」
    「あのね、その……もし嫌じゃなかったら……今夜も一緒に寝てほしいなって……。」

    そう言ってチラリと長谷部さんを見やると、彼はクスリと笑って言った。

    「もちろん。あなたが望むのなら毎日だって構いませんよ。」
    「そこまでは……でも、もう何日かお願いしたいかな。」
    「承知しました。」

    長谷部さんが快諾してくれて安堵し、私は心置き無く仕事に励んだ。
    夜になると布団を敷きに来てそのまま待機してくれている長谷部さんと一緒に眠る日が続いた。
    そして、気が付けば初めて添い寝をした日から1週間が経過していた。

    (さすがに不味いよね……。)

    もう毎日の習慣のように長谷部さんと同じ布団に入りながら思う。
    いい加減1人で寝なければと思うのに、長谷部さんがいなくなったらまたあの正体不明の視線を感じてしまうのではないかと思うと怖くなる。

    (やっぱり迷惑かな……でも毎日でも良いって言ってくれてたし……)

    もんもんと考えていると、長谷部さんが話しかけてきた。

    「眠れませんか?」
    「え、あ、ううん! そういう訳じゃないんだけど……。」

    えぇい、ままよ!
    私は話しかけられた勢いで長谷部さんに聞いてみることにした。

    「あ、あのね、長谷部さん!」
    「何でしょう?」
    「あのね……その……。」
    「はい。」
    「もし……もしも、長谷部さんが本当に嫌じゃなかったらこれからも……」


    「これからも、ずっとこうして私のこと見守ってくれる……?」


    言った……言ってしまった……!!
    長谷部さんは目を丸くしている。
    ずっとなんて、やっぱり甘えすぎだったかな?
    不甲斐ない主だと思われた……?
    そんな考えが脳裏を過る。
    けれども長谷部さんは優しくて。
    長く感じられた沈黙を帳消しにするような微笑みを浮かべると私の願いに答えてくれた。

    「あなたが望むのなら、俺は一向に構いませんよ。」
    「本当に!?」
    「えぇ、もちろん。」
    「ありがとう長谷部さん!」

    あまりの嬉しさに満面の笑みを浮かべて長谷部さんを見詰めた。
    長谷部さんも微笑みを絶やさずこちらを見ている。
    視線が絡んで、また沈黙が訪れた。
    妖しく輝くような紫色の瞳を見詰めていると心臓が高鳴り、私は慌てて視線を逸らした。

    「ね、寝ようか……。」
    「はい。おやすみなさいませ、我が主。」

    目を閉じても、まだ心臓はうるさかった。
    この気持ちは何なのだろう?
    考えているうちに段々と意識が遠のいていく。
    そんな中、夢か現か誰かの声が聞こえた。

    「言われずとも見守っておりますよ……」


    「ずっと……ずっと……ね。」
    ショコラ Link Message Mute
    2018/08/11 19:00:00

    【とうらぶ】真実は隣の神のみぞ知る【へしさに】

    女審神者視点。よくあるホラー?都市伝説?をへしさに風にしてみた話。そんなに怖くはない。でもストーカー系嫌いな人は読まないことをオススメする。
    webカメラの設定の下りは『こまけぇこたぁいいんだよ!!』の精神で受け流していただければ幸いです……!!
    #刀剣乱舞 #とうらぶ #へしさに #へし切長谷部 #女審神者 #刀剣乱夢

    more...
    作者が共有を許可していません Love ステキと思ったらハートを送ろう!ログイン不要です。ログインするとハートをカスタマイズできます。
    2018/08/26 22:51:47
    ホラー可愛い(?)長谷部ありがとうございました!審神者さんの優しさも素敵ですし、虎を一緒に探していたのも可愛かったです。
    > ゆずもち
    2018/08/27 0:58:23
    コメントありがとうございます! この作品は受け入れてもらえるものなのかなぁと不安に思っていたので、コメント頂けて嬉しいです♪ 一言も発していない大倶利伽羅さんにまで言及していただけて有難い限りで……!! コメントを活力にこれからも頑張ります!
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