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    7%と失楽 2 observation named Meal この忌まわしき事件が依頼人の訪問によって始まりを告げたのは私が2度目の結婚の後、ベイカー街で再びホームズと共に下宿で暮らし始めた年(1894)の夏のことだった。二ヶ月近くこれと言った事件もなく、その日も私達は共に予定もなかったので私は読書、ホームズは血液から年齢や性別を特定する薬品の研究にそれぞれ没頭していた。午前の日差しがベーカー街の霧と混ざって不快な蒸し暑さが部屋を満たしていた。
    「そうでもないさ」
    おもむろにホームズが口を開いた。私はてっきりホームズの独り言と思って(薬の副作用を差し引いても彼には脳内にいる誰かと会話しているかのように一人で喋っていることがままあった)そのままページを繰る手を止めなかった。
    「ワトソンくん、僕が事件を解く以外に脳のない人間だと思ったことがあるかい?」
    今度は視線こそ此方に向いていないものの私に話しかけているとわかった。
    「まさか、君はその卓越した推理力を無視しても常人が持ち得ない沢山の才能を持っているじゃないか。」
    私の応えを聞いて彼は満足そうに一つ頷いて続けた。
    「しかし君は危惧している。事件が起こらなければ僕の精神状態が乱れ、君の忌むコカインに手を出すのではないかとね。」
    鷲のような鋭い目を細めてビーカーのメモリを見て、また別の薬品を足しながら告げられた言葉に私は目を見開いた。
    「どうしたことだいホームズ。君の観察の素晴らしさは十分に理解していたつもりだったが、今回君はずっと実験をしていて僕のことを観察していないはずだ。君はついに人の頭の中を除く術でも習得したのかい。」
    「何。造作ないことだよ。」
    彼はついと此方に向くと次々に指摘し始めた。
    「観察とは見ることだけでのみ完成するものではない。丁度君が食事に視覚と嗅覚と味覚を同時に使うようなもので僕は同時に複数の感覚を作動させて観察をする。君は本を読む前に新聞を読んでいた。新聞をめくる音は特徴的だから聴覚だけで判断できる。そしてめくった音の回数と間隔からここ数日で起きた事件の一覧が記載してあるページに丁寧に目を通していたことは明白だ。次に君の腰掛けている椅子の背もたれの軋む音、これは君が背を反らして僕の腕と僕の書き物机を見たからだ。新しいコカインの注射跡がないかの確認だろうがこのとおり僕は実験のときは肌に触れないほうが良い様々な薬品を使うからシャツの袖は下ろしたままだ。もちろん書き物机の上に注射器を置いたりもしていない。」
     周囲から聞こえる音のみで思考を読み取るなんて人間のできる所業ではない。私はいつもながら彼の人間離れした観察力に唸った。一方のホームズは子供が飽きた玩具を投げ捨てるように両の手にはめていた実験用の手袋をポイと放って窓辺に歩み寄った。
    「そして君の心配はすべて杞憂に終わる。」
    窓から外の道を見下ろした後、顔を戻して上機嫌で言った。
    「依頼人だ。」
    K乙(cake) Link Message Mute
    2018/07/09 23:56:50

    7%と失楽 2 observation named Meal

    #ホームズ  #シャーロック・ホームズ

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