時代の狭間で青の男女は 4月30日23時50分。
季節外れのカウントダウンに町が盛り上がる中、住宅街にそびえ立つ豪邸のとある部屋に2人はいた。
男は青髪青眼で、その豪邸の部屋にいるにはとても合わないラフな青いシャツを着ている。
女は男と同じく青髪青眼で、青いネグリジェを着て大きな胸を強調する開いた胸元が美しい姿をしているが、男に甘えているようで顔は男にだけ見せる笑顔だ。
「まさか私達が若いうちにこの瞬間に立ち会えるなんてね」
「ああ……不安も大きいがレイチェルちゃんがいれば俺は安心していられるよ」
男も男で女に甘えているようだ。
2人は9年前に恋が実った。
更に10年前、合わせること19年前から男は女に片想いしている……と思い込んでいた。
女は男を想い、更に男の片想いを見抜いていたので、実質的に両想いだったが、男だけが片想いしていると思い込んで先に進めないでいたのだ。
9年の交際を経て、あとはほぼゴールイン秒読みという状態。
だが、そこから先に進めないでいるのは、2人には気恥ずかしさのようなものがあるのだろう。
2人は抱き合って、服越しではあるがお互いの体温を感じていた。
男が愛の言葉を囁くと、女はそれに応える。
また、女が愛の言葉を囁やけば、男はそれに応えた。
「約束……だったわね、日が変わった瞬間にキスするって」
現在時刻は23時59分。約束の時刻まで秒読みだ。
男は黙っている。
女は呪文のように「せいちゃん……」と呟いていた。
男の顔は少し赤い。
男の方も何か言いたそうではあったが、その時が来るまで黙るつもりなのだろう。
55秒……56秒……57秒……
2人は覚悟を決め、口づけをする準備をした。
58秒……59秒……
2人は口づけを交わす。2人は目を閉じたまま。
5月1日、午前0時0分0秒。
その接吻は長い時間に渡った。それは、2人の息ができなくなるまでだった。
口づけを終えると、女は捨てられた子犬のような顔をした。
その顔を見て、男は、
「安心しろ。俺はレイチェルちゃんとずっといる。護られることが多かったかもしれないが……俺はレイチェルちゃんを護ってやりたい」
女の表情が明るくなった。
そして、2人は再び抱き合って、服越しにお互いの体温を感じ始める。
2人の顔は、お互いが相手だけにしか見せないような、特別な笑顔であった。