青の女神と護る者
こんな神話がある。
――――全てを司ったとされる4女神、その長である青の女神と、彼女を護った騎士の話。
「今日も世界は均衡が保たれていますね」
「わかりづらい言い方ですね、平和であると言ったほうがわかりやすいですよ」
「私を筆頭に赤の女神、緑の女神に黄の女神の4人が全てを司るのです、だから"均衡が保たれる"で正しいです」
「そうなんですか、無学な私にはわかりませんが」
「いえいえ、あなたは私を守るだけの力と、私の心のたがが外れたとき私を止めてくれるだけの知識をお持ちです。そんなに謙遜なさらず」
青の女神と騎士は今でいう「幼馴染み」。幼いころから、女は全てを司る4女神の長になることを、男は彼女を護る騎士になることを約束されていた。
青の女神は他のどの神にも引けを取らぬほど美しい姿をしており、騎士も神たちと遜色ない容姿を備えていた。
他の3人の女神からも、「いずれこの女神と騎士は永遠の愛を誓うことになる」ことを予見しているが、未だそれが実現しないのは、お互い何か恥ずかしさのようなものを感じていたのだろう。
全てを司るが故に、青の女神には気苦労が絶えなかった。
その度に、騎士は青の女神をいたわる。
世界の均衡が保たれているその様子を、天界から青の女神と騎士が見守る。
これが天界での2人の日常だった。
……ところが、4女神が守ってきた世界の均衡は、ある日突然崩れることになる。
世界は戦火に燃えた。
一方天界でも、赤の女神が突然青の女神を裏切り、青の女神を打倒せんと軍勢を率いて迫ってきていた。
……正確には、赤の女神が青の女神を裏切ったことで、下界の民の心が穢れ、何かを奪い合い争う、阿鼻叫喚の世界が広がっていたのである。
緑の女神、黄の女神は敗北し、既に殺されてしまった。
唯一残された青の女神と騎士。しかし、青の女神はほとんどの力を使ってしまい、既に命の灯火は消えかかっていたのである。
騎士は青の女神に迫る軍勢を倒し、最後まで「青の女神を守る」という使命を果たそうとしていた。
しかし、命の灯火が消えかかっているのは、騎士も同じだった。
そして2人が限界を迎えようとしていたとき、2人は4女神が話し合っていた場所にいた。
「……どうしてこんなことになってしまったのでしょう」
「わかりません、赤の女神が突然あのような裏切りをするとは」
「ここには私が結界を張っておきました、赤の女神でもなければここに来ることはできないはず」
「青の女神殿、私はもうあなたのことをお護りできないかもしれません、私に死神が囁いてくるのです」
「だめです! 私を護るという使命をおいて、先に逝くことは私が許しません」
「それは承知しております、ですが……私は……もう……」
その言葉を残し、騎士の命の灯火は消えた。
「――! 聞いているのですか! ――! ……嘘、本当に、本当に……!」
すでに屍と化した騎士に青の女神は呼びかけるが、返事はない。
青の女神は涙をこぼしながら、騎士に呼びかける。それでも返事はない。
「――ー!!」
騎士の名を叫び、しばらく泣き続けた後、青の女神は最後にある手段を選んだ。
「私と――は永遠に2人でいます! 例えどんな形であろうとも!」
そう言って彼女が何かを唱え、騎士の魂を呼び戻すと、青の女神からも魂が抜け、2人の魂はどこかに消えていった。
そこには、抱き合う青の女神と騎士の姿しか残っていなかった。
その後、赤の女神がすべてを支配し、暗黒の世となる。
それは、赤の女神を倒し、後に再び全てを司ることになる"英雄"が現れるまで続くことになる。
一方の青の女神、そして騎士の魂は転生し、"永遠の愛"を手に入れたという。
転生した後も、「青の女神と騎士」という関係の時と同じような仲にありつづけたというが……
彼女の力で、今後何度転生しても、同じように愛を誓い合うのだろう。
神話はここで終わっている。