7「Hope」 あの後、俺とセリーナは遅刻し、怒られるのかと思ったが、俺の顔面に残った傷跡を見て、大方察してくれたので怒られることはなかった。
だが、周りが全く構わないから誰にも知られていないが、1年生の時からずっと続く無遅刻無欠席記録が今日で途絶えてしまった。
あの不良グループの奴ら、末代まで呪ってやるからな。
とまあ……不良グループに絡まれて遅刻したこと以外は昨日と一緒なので、放課後まで何があったかは割愛させていただく。
放課後。
俺はセリーナを屋上まで連れて行った。
屋上は開放されてるけど、周りは有刺鉄線にフェンス。
名目上は転落防止用に張ってあるけど、真の意味を俺は知っている……しかし、何でかは言いたくない。
俺はセリーナを目の前にして、緊張してしまっている。
いつも一緒に帰ってるじゃないか。何でその相手と話すのに緊張しなければならない?
セリーナの告白に答えるだけなのに、何故緊張している?
あーもうらしくない! 俺は意を決する。
「セリーナ……これから俺が話すことは、首を外して聞いてくれないか? 首と身体、両方の本心を聞いておく必要があるからな」
セリーナも意を決したように長い金髪を整えると、無言で首を外し、両手で自分の生首を持って俺を見つめる。
本人は身体に意思はなく首の考えている通りに動くと言っていたが、もしかしたら身体にも意思があって、もしかすると身体の意思は俺を拒絶するかもしれないと思ったからだ。
「俺、考えたんだよ。このまま俺に優しくしてくれるセリーナを、受け入れるべきかって。でも、俺と一緒にいることでセリーナを不幸にしてしまうかもしれない。そういう思いも、俺のどこかでは感じているみたいなんだ」
セリーナの身体は動かない。首もこちらを無言で見つめるだけだ。
「そして、セリーナも、首では俺に好意を抱いていても、身体の方が拒絶するかもしれないだろ? 俺はわかってたはずだ……俺は恋人とか友達とか作るべきじゃないって」
セリーナはふるふると首を横に振る。首だけなのに器用に首を横に振っていた。
続けて、身体が首を小脇に抱えるように持ち方を変えると、空いた片手を”そんなことない”と言うように動かした。
セリーナは首では何も語ろうとせず、片手だけで何かを伝えようとする。
身体も俺に好意を持ってると伝えたいのだろうか。
「だけど……こうも思ってるんだよ、もしセリーナと出会わなかったら、俺はこのままずっと1人で生き続けて、誰にも看取られないで1人で死ぬかもしれなかったって」
身体の片手が何を伝えたいのかわからないが、多分”そうはさせたくない”と伝えたいのだろう。
首が何も語らないせいで、身体が何を伝えたいかをうかがい知ることはできない。
「だから……俺は……セリーナと……」
顔が期待と不安の入り混じったような表情になる。
身体も精神的なショックに備えるためか、再び首を両手で持ったため、身体の表情はもうわからない。
「一緒にいたい……でも……これが正しい選択かはわからない……だが! 恋仲になれるなら! これは好機だと思った! だから俺はセリーナと付き合いたい!」
言い切った……相手から告白されているのに、多分緊張しているのは俺の方だ。
その時。
「間違ってなんか……いませんよ! あなたはとてもいい人ではありませんか! でも、私に気を使って告白を断られたら、あなたと付き合って不幸になるよりも悲しいです! あなたが思ってるほど、あなたは他人を不幸にはしてません!」
今までずっと無言を貫いていた首が涙目で話し始める。
「仮に私を不幸にするからって断られたら、無理にでも付き合うよう仕向けるつもりでした! 私はすでに死ぬという最大の不幸を味わって、こんな形ですけど戻ってこれたんです! ですからあなたと付き合って不幸になったって、怖くありません! それに……今日怖いグループに襲われて、あなたを護りたいと本気で思った! ですから……私を不幸にするかもしれないことは気にしなくていいですからね! いいですか!」
セリーナに押され気味で言葉を返せない……が!
「わかった! わかったから! セリーナって控えめな性格だと思ってたけど、大胆なところもあるんだな……」
首が外れるけど美少女。席が隣。自分に好意を持っている。隣人。現時点で付き合うことを狙っている人はいない。
ここまでの好条件を逃すような、ちっぽけなプライドなどもう捨てた。
これから、俺は変わるんだ。
セリーナを幸せにするために、俺は生まれ変わるんだ!