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    第二章:未来昔日 ― Days of Future Past ―(1)(2)(3)佐賀県鳥栖市某寺 二〇二X年八月一五日(4)(5)(6)(7)(8)(9)(10)(11)(ⅰ)(ⅱ)(1) 結局、あたし達は解放され、勇気の自宅に帰り付いた。何故か、「靖国神社」の「従業員」から奪った銃器をお土産にもらって。
    「私達だ」
    「次のいちご狩りは?」
    「来年の2月」
     部屋の中に居た「香港のクソ金持ちの子供」が玄関のドアを開ける。
    「正義くん達は?」
     荒木田さんは首を横に振った。
    「そう……」
    「すまん……お前のモバイルPCを使わせてもらえるか? その事でらんと相談したい事が有る」
    「まだ……正義くん達が助かる可能性が有るの?」
    「まぁ……何とかな」
    「ところで、聞くの忘れてたけど……何で、ここが判ったの?」
    「お前が、ここに置いてった鞄」
    「えっ?」
    「あれに瀾からもらったヌイグルミを入れてただろ……万が一の為に、あの中にGPSを入れてた」
    「……ええッ? ちょっと待ってよ……」
    「お前のせいで博多で、どんだけの騷ぎが起きたか忘れたのか? その位の用心はするに決ってるだろ」
     部屋の中に入ると、「香港のクソ金持ちの子供」は、モバイルPCを鞄から出して立ち上げ、更にビデオ・チャットを起動。
    『その顔だと、うまく行かなかったようだな……』
    「えっ? こいつが……さっきの電話の相手? どう見ても……中学生……」
     勇気が率直かつ喧嘩売ってるようにしか思えない感想を述べる。
     たしかに、画面に映っている女の子のは、中学生かまでは不明だけど、少なくとも、あたしより年下っぽい。
    『その馬鹿は無視していいか? ともかく、あの後、何が起きた?』
    「馬鹿ってなんだよ⁉」
    「馬鹿でしょ」
     勇気のツッコミに更にツッコミを入れるあたし。
     荒木田さんは、これまでの経緯を説明した。今度は、嘘も隠し事も無しで。ただし、「担当弁護士のスタン・ガンさん」は省略。
    『その「魔導師」の情報は丸っ切りの嘘とも思えんが……多分、その情報を元に行動すれば、結果として、そいつは、自分の手を汚さずに、利益だけを得る事になるだろうな。「利益」が何かまでは判らんが……』
    「だが、手掛かりは……それしか無い。で……私達は、どうやるのが正解だったと思う?」
    『すぐに行動した事は正解。でも、考え得る限り巧くやっても合格点ギリギリだっただろう。そもそも、メンバーが……』
    『あ〜、光さん、どうしたの?』
     妙にニヤニヤしながら画面に手を振る荒木田さん。やれやれと云う顔の「香港のクソ金持ちの子供」。
     画面の中には、もう1人女の子。先に映ってた方より若干、年齢は高そう。
    「いや、ちょっと……面倒事に……」
    ヒゥ君が、また、何かやったの?』
    「なぁ、その、応援に……」
    治水おさみを、そっちに送れって? すまん、ウチは、今年、初盆で、明日が法事だ。あと、もう1つ』
    「何だ?」
    『海の真ん中に有る人工の浮島に「水の神」の力を使える奴を送るのか……。治水おさみが何かポカやったら、島ごと沈む』
    「じゃあ、そっちの……その……」
    『下関と筑豊の「正統日本政府」のシンパに変な動きが有って、使えそうなのは出払ってる……らしい』
    「じゃあ、攫われた子供が少年兵として『出荷』されるのも……」
    『それと関係が有るかもな……。あと、そっちの港で手荷物検査が有る以上、銃も刃物も無しで、そこそこ戦える人間じゃないと……』
    「銃なら有るよ」
     あたしは、モバイルPCの画面に映ってる女の子に、「靖国神社」の従業員から奪った銃を見せる。
    「これで、ほんの一部」
    『なら、心当りを探してみるが……期待はするな。で、話を元に戻そう……。少年兵にされそうな子供は、漁船に偽装した船で「出荷」されると言ったな……。なら、「出荷」日は……明後日……一六日の夜まで延びる可能性が有る』
    「どう云う事だ?」
    『近隣の海産物の卸売市場は盆の間休みで、一七日から営業。卸し先が営業してないのに、漁船が海に居たら、あからさまに怪しまれる』
    「じゃあ……まだ……取り戻すチャンスは有る訳か……」
    『ああ。だが、もしやる気なら、その時に、必要なモノが有る。それも、こっちで手配出来なかったら、あと1日2日じゃ入手困難なモノがな……』
    「何だ?」
    『さっき、当のあんたが言ってたモノだよ。応援だ。あんた達に協力してくれる「そこそこに強いが化物級チートって程じゃない誰か」だ』
    「私達だけじゃ、やっぱり無理か……」
    『そうだ。あんた達はゴジラみたいなモノだ。「強い誰か」と戦う事には向いてても、「弱い誰か」を護る事には向いてない。ゴジラには平気でも、人間には致命的な「何か」を見落してしまう危険性が有る』
     そうだ……それこそが、この数時間で何度も起きた事だ……。
    「なら、方法が有る」
    『ちょっと待って、心当りが有るから、今、電話する』
     モバイルPCのこっちと向こうで、同時に声。
     こっちの声は勇気で……向こうの声は2人目の女の子だった。
    『待て‼ 今、誰に電話してる⁉』
    『望月君と今村君が、今、「千代田区」の中古電子部品の即売イベントに行ってるでしょ』
    「ええっと……あと……こっちには……強化服パードスーツが1つ有るんだけど……」
    『見せてみろ……待て……それ……{\bf 富士の噴火より前の骨董品だろ》‼』
    「駄目元で聞くけど……修理する方法なんて……」
    『制御コンピュータは生きてるか? あと、3Dプリンタは有るか?』
    「えっ?」
    『なら、セルフ・チェック・プログラムを走らせて、そのログを送れ。あと、欠けてる装甲がどこか洗い出せ。一〇〇%の性能は望めんし、思いっ切り暴れた後に完全にブッ壊れてる事になる可能性が高いが、それでもいいなら……方法が有るかも知れん』
    「そもそも……この……偉そうなチビ……誰なんですか?」
     勇気は荒木田さんに聞いた。
    「えっと……その……色々とややこしくて……」
    (2)「ええっと、まず……必要なモノはLANケーブル……と有線LANの口が有るPC」
     荒木田さんは、メッセージアプリMaeveに送られてきた手順を読み上げていた。
    「ケーブルは、あたしんから持って来る」
    「PCは僕のを使って」
    「次に、すまん……こっから先が良く意味が判んないんだが、PCにはSSH2対応のSSHコマンドか、SSH2対応のリモート・ログオン・クライアントとSFTP2対応の……」
    「両方とも僕のPCに入ってる」
    「おい、何で、小学生のPCにそんなのが入ってる?」
     勇気がツッコミを入れる。うん、あたしも、それ思った。
    「プログラミングが趣味なんで……」
    「で、強化服パードスーツの制御コンピュータのLANの設定と、メンテナンス用ユーザーのユーザーIDとパスワードは判ってるか? って事だけど……」
    「取説に書いて有った初期設定デフォルトのままの筈」
    「続いて、充電だけど……電動車EV用の電気スタンドが有ったら、そっちを使えだとさ。家庭用だと、良くて充電出来ない。そこそこ悪い場合でブレーカーが落ちる。最悪は配線ごと焼き切れる、だって……」
    「ちょっと待って……。充電出来そうな場所に心当りは有るけど……これ……どうやって下に運べばいいの? 何十㎏も有るよね?」
    「ここに運んだ時は……分解して何回かに分けて……」
    「専用の充電器が有れば、バッテリーだけ取り外せとさ。あと、充電率は……バッテリーが古くなってる事を考えても……一〇%で十分だとさ」
    「あ……確か、そんなのが有った」
    「でも、一〇%って、それだけで……」
    「『まずは、動かせそうかだけ確認する。話はそれからだ』だってさ」
    「ところで……あいつ……どこに電話して、何話してるんだ? レナさぁ……オマエ、第2外国語は中国語取ってたよなぁ?」
     勇気がヒゥ君を指差して言った。
    「うん、何となく判る」
    「何て言ってる?」
    「言ってる事は良く判んないけど、広東語だって事は判る……」
    「おいッ‼」
    「いや、だって、学校で習ってる『中国語』は『北京語』だよ」
    「親に……今日の騷ぎで……2〜3日帰れないって、連絡しといた」
    「おい」
    「待て」
    「ちょっと……」
     荒木田さん、勇気、あたしは同時にツッコミを入れる。
    「でも、正義くんを助けに行くんなら……必要でしょ……『椅子の人』が」
    (3) 携帯電話Nフォンの通知音。でも、あたしのでも勇気のでもない。
    「はい……あ……着いたの? どこだ?」
     荒木田さんの声。
    「誰?」
     自分の携帯電話Nフォンを見ると朝の7時前。強化服パワード・スーツのセルフ・チェック・プログラムのログを送った後、いつの間にか4人とも寝ていた。
    「味方だ……。2人……ただし、1人は『椅子の人』」
    「昨日も言ってたけど『椅子の人』って?」
    「後方支援要員。例えば、偵察用のドローンを操作したりとか……」
    「もう1人は……?」
    「前に出て喧嘩出来るヤツ。流石にライフルは無理だそうだが……拳銃弾や普通の刃物なら何とか防げる体の持ち主だ」
    「へ?」
    「はぁ?」
     同時に声を出すあたしと勇気。
    「あ、もっとも、刃物や拳銃弾は防げるって言っても……変身前に不意打ちされると流石に無理みたいだけど、まぁ、怪我しても骨や内臓までいってなければ、すぐに治癒するらしいんで、それほどの違いは無いけどさ」
    「へ……変身?」
    「『本土』には、そんなヤツが結構居るんですか?」
    「いや、この近所にだって、そこまで無茶苦茶なのは別だけど、そこそこの異能力を持ってるヤツが、その事を隠して住んでてもおかしくないだろ」
     まぁ、言われてみれば、あたしなんか、ご近所から見れば「規格外の化物が一般人のフリして近所に住んでた」だよなぁ……。
    「どんなヤツなんですか、そいつら?」
    「会った事有るけど、変な能力と経験を除いては……まぁ、普通だ」
     一方、ヒゥ君はモバイルPCを操作していた。
    「修理の手順が届いてた。手順書を2部印刷して、2チームに分れて、片方が作業、もう片方がチェックをしろって。あと、光さんが言ってたのと別に、明日の朝、応援が2人来るって」
    「え……もう、どこをどう修理すれば良いか判ったの?」
    「徹夜したって。あと、欠けてる装甲の3Dプリンタ用のデータ。ただし、普通の3Dプリンタ用の素材だと、1回暴れる間、ギリギリ持つぐらいだから気を付けろ、って」
     そう言って、ヒゥ君は、USBメモリを勇気に渡す。
    「あの中学生、一体何者だよ?」
    「中学生じゃないよ、高校1年。で……あれの製造元の創業者の親類で、将来の夢は、あれの後継モデルの設計だって」
     ヒゥ君は、勇気のお父さんの形見、強化服パワード・スーツの「水城みずき」を指差していた。
    「おい、味方でも下手に身元を明かすな」
    「あ……」
    「どっちみち、やっぱり、俺より年下じゃね〜か……」
    「なに、しょ〜もない事でカッカしてんの? つか、年下って言っても、たった1学年でしょ」
    「まぁ、いいや、朝飯のついでに今日来た仲間と打ち合わせをやるか」
    「じゃあ、いい店知ってるから……」
    「いや……向こうは、さっき、『銀座』の港に着いたばかりだってさ」
    佐賀県鳥栖市某寺 二〇二X年八月一五日「仏の平等の説は一味の雨の如し。衆生の性に随って受くる所不同なること、彼の草木の稟くる所各異るが如し」
     三月に死んだみちる姉さんの初盆の法事が、伯父さんが副住職をやっているお寺で行なわれていた。
    「おい、治水おさみちゃん……瀾とウチのバカ娘に……居眠りするのはいいから、せめて、いびきだけは何とかしろ、と言ってくれ」
     うしろに座ってる門司もじの伯父さん……正確には父さんと伯父さんの従兄弟いとこが、そう言った。
    「そもそも……徹夜で何やってたんだ、あの2人?」
    「……た……多分……あっちの伯父さんにバレたら……怒られるような事……」

     そして、法事と昼食が終り、お開きになった後……。
    「瀾、苹采ほつみ、ちょっと来い」
     伯父さんが、瀾ちゃんと又従兄弟の苹采ほつみ姉さんを呼び止めた。
     良く有る「良い報せと悪い報せが有る」ってヤツだ。良い報せは、伯父さんは不機嫌そうだが、怒ってるようには見えない事。悪い報せは……伯父さんが、身長一九〇㎝以上、体重は瀾ちゃん3人分以上の筋肉の塊だって事。
    「元さんから全部、聞いた」
    「ら……瀾、お前、何か余計な事を……」
    「孔井のおっちゃんに応援を頼みました」
    「何、考えてんだ? そんな事をしたらバレるに決って……」
    「マズい事は早くバレた方が傷口は小さいでしょ。それに……素人で何とかなる話じゃない。誘拐された2人の内、女の子の方は特に……」
    「お前の判断については、合格点ギリギリと言った所だな」
    「ギリギリ?」
    「ギリギリでアウトと云う意味だがな。緊急を要する事態だったのは判る。だが、助けを求められた時点で大人に相談しろ。治水おさみさんに連絡をしてもらうなど、手は有った筈だ」
    「……はい……」
    「次に言いたい事は判ってるな?」
    「……概ねは……」
    「破門を解くのは、{\bf またしても》延期だ」
    「……は……はい……」
    「ウチの一族の連中と元さん以外に、誰でもいい、お前にとっての『こう成りたい大人』を見付けろ。そうしない限り、また、お前は同じ事をやらかす」
    「えっ?」
    「お前は、俺達のやり方を見習ってるつもりだろうが……俺達がやってきた事が必ずしも正解とは限らん。見習うべき手本となる誰かが1人しか居ない奴は危なっかしい。例え、俺が自分で思っているよりも立派な人間だとしてもだ」
    (4) あたし達は地下鉄で「銀座」に向っていた。この「島」は「人工の浮島」である以上、島の「地下」は空洞になっていて、その一部が建物の地下室や、町の地下街、電力・水道・通信その他のインフラ、そして、地下鉄に使われている。
    「なぁ……来た時から気になってたんだが……この下にも……人が住んでるのか?」
    「えっ?」
    「いや……噂は有るけど……多分、都市伝説ってヤツ……」
     荒木田さんは、首を傾げる。そう言えば、この人は「人間の生命力」みたいなモノを感知出来るんだったっけか……。って、ちょっと待ってよッ‼ マジで、「島」の最下層に「『関東難民』の中の更に『知られざる難民』」が住んでるって話、本当なのッ⁉
     そして、地下鉄を降りて地上へ。正義くんと仁愛ちゃんの事が心配な上に、怪談めいた事を聞いて、朝の青空が全然さわやかに見えない。
     コンビニでヒゥ君に送られてきた「手順書」を印刷した後、待ち合わせの場所であるおしゃれ系のカフェへ。本社は沖縄で、「本土」では全国展開してるみたいだけど、この「島」では、「有楽町」と「神保町」にしか支店が無い。もちろん、あたしは、めったに行かない。
     お盆の筈なのに、店内には、朝っぱらからモバイルPCで作業してるビジネスマン風の人がチラホラ。
    「あ〜、こっちです」
    「ど〜も」
     イマイチダサくてイケてない感じの、あたしや勇気と同じ位の齢の男の子2人組。
     1人は、短めの髪で、背は高めで、結構マッチョ。でも、いわゆる「体育会系」っぽくも「ヤンキー系」っぽくも無い顔。
     もう1人は、背は中ぐらい、ガリガリ気味、気が弱そうな顔。
     ガタイが良い方は、名物の焼き立てパン複数個に、多分、一番大きいサイズのカフェラテかカフェオレ、そして更にケーキ。ガリガリの方は朝食セット。
     言っちゃ悪いが、この2人より、勇気の方が女の子にモてそうな気がする。ただし、外見だけなら……。勇気と付き合いたい、って女の子の友達が言い出したら、全力で止めるけど。
    「今村です。今村亮介」
     まずガタイがいい方が自己紹介。
    「望月です。望月敏行」
     続いて小柄な方。
    「確か、何かのついでみたいだけど、何しに来たんだ?」
    「『有楽町』と『神保町』の間あたりで開催される中古の電子部品の即売会に……」
    「じゃあ、そこで、カメラ付きのドローンを何台かと、通信機を人数分買って来てもらえるか?」
    「通信機は暗号化されてるヤツですよね?」
    「もちろん」
    「距離は?」
    「この『島』内だけど……出来れば、端から端まで」
    「距離は……最大で5㎞ぐらいですか? 厳しいなぁ……」
    「ちょっと、高木と話して手を考えます」
     どうやら、その「高木」と云うのが昨日の女の子の事らしい……。待て……「高木」?
    「高木製作所の『高木』? あの……強化服パードスーツ水城みずきを作ってる……?」
     勇気も、同じ事を思ったようだ。
    「黙秘していいですか?」
     「本土」から来た2人の男の子は、一瞬だけ顔を見合せると同時にそう言った。
     どうやら、ヒゥ君が口を滑らせた事は本当だったようだ。
    「あの……修理に使うネジは……普通のホームセンターで売ってるヤツでいいんですか?」
     手順書を見た勇気が質問。
     送られてきた手順書には、水城みずきの部品や装甲を止める為のネジの規格も書いてあった。
    「1回だけ大暴れするなら、ギリギリだけど、普通の素材で作られたネジでも持つって。あと、どうしても、最大出力の六〜七〇%のパワーしか出せないんで、ネジなんかにかかる負荷も小さくなるって……メールに書いてあった」
    「じゃあ、俺達がドローンとか通信機を買って来ます」
     「本土」から来た2人のガリガリの方がそう言った。
    「なら、私が小物類を買いに行こう。え〜っと、安全靴持ってる人」
     あたしと勇気が手を上げる。
    「作業用の防御ゴーグル持ってる人」
     続いて、またしても、あたしと勇気が手を上げる。
    「色付き? それとも透明?」
    「透明です」
    「同じく」
    「顔バレ防止の為に色付きのヤツが良いな……。あと、原付や自転車用のヤツで良いんで、ヘルメット持ってる人?」
     なし。
    「じゃあ、俺達が装甲の欠けた部分を作ります。高専学校の実習室に3Dプリンタが有るんで」
     続けて勇気がそう言った。
    「で、肝心の軍資金は?」
     「本土」から来た2人のガタイの良い方がそう言ったので、あたしは「靖国神社」の「従業員」から奪った現金が入った袋を渡した。
    「な……なに……この大金?」
    「お金の出所については黙秘していい?」
    「むしろ、何も知らずに『善意の第三者』のままでいたい……。金額が金額なんで……」
    (5) そして、午後4時ごろ、勇気の部屋には、様々なモノが持ち込まれていた。
     あたしと勇気が、高専学校の実習室に3Dプリンタで作った強化服パワード・スーツ水城みずき」の装甲。
     原チャリ用のヘルメットと作業用の手袋と防塵マスクとミラーグラスの作業用ゴーグルと作業着が各2つ。安全靴足が1つ。ネジその他のホームセンターでも買える「水城みずき」の補修に必要な物品。
    「作業着だったら、高専学校のを持ってるけど……制服代りのヤツ」
    「まさか、その作業着、学校名とか入ってないよな?」
    「あっ……」
    「身元をバラす気か? 当日は、動き易くて、どこでも売ってるような服でやる。下も長ズボンだ。出来れば厚めのヤツ」
     そして、小型の無線通信機が4つ。
    「えっ? これ、普通の無線機じゃないですよね?」
     勇気が無線機を手に取って眺めながら、「本土」から来た2人に聞く。
    「ええ、早い話がWi−Fi接続型の小型のIP電話みたいなタイプです」
    「それなら、島の端から端まで通じるだろうけど……Wi−Fiはどうするの?」
    「明日、本土から来る応援が衛星回線経由のモバイル・ルーターを持って来てくれる事になってます」
     続いて、四〇㎝×四〇㎝×二〇㎝ぐらいのドローンが3つ。
    「あのさぁ……その……何て言うか……大きくない?」
    「小さいと、ちょっとした風でコントロールを失なうんで」
     ん……ちょっと待てよ……。
    「えっと……去年あたりに、小型ドローンをJRの線路に墜落させて電車を止めた馬鹿な高校生が居た、ってニュース見たんだけど……たしか……久留米のM学園の……」
     何故か望月君が今村君の方を見る。
    「……こっちでもニュースになってたのか……」
     ボソリとつぶやく今村君。
    「一応、言っとくと、やらかしたの、こいつじゃなくて、こいつの部活の先輩です」
     フォローっぽい事を言う望月君。
     どうやら、心当りが有ったようだ。なるほど、そう云う知り合いが入れば、風の影響を気にするよね……。
    「じゃあ、後は……コードネームを決めるか……」
     荒木田さんがそう言った。
    「コードネーム?」
    「身元がバレないように、作戦中は本名は使わない」
    「作戦?」
    「他に何て呼ぶんだよ? 喧嘩か?」
    「まぁ、確かに……」
    「じゃあ、ボクはアルジュナで、光さんはダーク・ファルコン」
     ヒゥ君が、そう言った。
    「やめろ」
    「……な……何、それ?」
    「オンラインRPGのキャラ。ボクのキャラが聖戦士パラディンのアルジュナで、光さんが闇のオーラを使う武闘家モンクのダーク・ファルコン」
    「だから、やめ……」
    「さっさと決めましょ。俺は『ファットマン』で」
     続いて望月君。
    「何で痩せてんのにデブファットマン?」
    「あと、何、さらっとヤバい名前付けてんだよ? 差別用語言ってウキャウキャ喜んでる中学生か、オマエは?」
     あたしと今村君が同時にツッコミを入れる。
    「デブ……ガリガリ……じゃあ、俺は路地裏の男ガリーボーイで」
     続いて勇気。
    「インドかどっかのラッパーに、そんな名前の居なかった?」
    「そうだっけ?」
    「じゃあ、俺は『早太郎』で」
     今度は今村君。
    「早太郎って、何かの昔話に出て来る白犬だろ。能力がバレバレじゃないのか?」
     そこに、望月君のツッコミ返し。
    「どうせ、変身しないと使えないけど、変身したらバレるような能力なんで関係ない」
    「で、レナは?」
    「じゃあ、ルチア」
    「何それ?」
    「あたしのクリスチャン・ネーム」
    「クリスチャンだったの?」
    「一応、先祖代々の由緒正しいカトリック」
    「し……知らなかった」
    「まぁ、日曜日に教会に行きたくても、この辺りには無いし」
    (6) そして、勇気のお父さんの形見である「水城みずき」が置いてある部屋から、卓袱台その他の家具が運び出され、続いて、ブルーシートが床に広げられる。
    「おらよっ……と」
    「うおっ……」
     勇気と今村君は2人で水城みずきを床に寝かせる。続いて、全員で、装甲を取り外す。もちろん、後で付ける場所を間違えないように、取り外す毎に、装甲と本体には油性マジックでどこの装甲かを識別する為の番号を書き入れる。
     数十分後、前面の装甲は全て取られ、再び、勇気と今村君が水城みずきを引っくり返す。
     更に数十分後、背面の装甲も全て取り外された。
     次に、装甲と機関部の間の特殊繊維製の「皮膚」を剥す。関節には何本もの太いケーブルのような機器が有った。
    「こいつが『人工筋肉』か……」
     通電により伸び縮みをする部品。瀾って云う女の子から送られてきた手順書に書かれてる通り、暗い青とピンクに近い明い赤の2色。
     人間の筋肉は、力を入れると必ず縮んでしまうモノらしい。つまり、例えば肘を曲げようとすると、肘の内側の筋肉が縮み、その結果、肘関節が曲る。
     それに対して、この「人工筋肉」は、「通電すると延びる」性質を持つ青いのと、「通電すると縮む」性質を持つ赤いのの2種類が有る。そして、肘や膝なら、曲げた時に外側になる方に有る「通電すると延びる」青と、内側に有る「通電すると縮む」赤いのに電流が流れ、その結果、関節が曲る。逆に関節を伸ばす場合は、曲げた時に外側になる方に有る赤と、内側に有る青に電流が流れ関節を伸ばす……らしい。
    「じゃあ、ブッ壊れてる人工筋肉を取り外すぞ」
    「足首L青1」
    「はいOK」
     あたしと勇気が取り外し作業をして、望月君と今村君が、手順書通りにやったかを確認。
    「ブッ壊れてたのは、全体の1〜2割ってとこか……」
     1時間ほど後、部屋の隅には取り外した人工筋肉の山が出来ていた。
    「続いて、まず、膝R赤2を膝L赤1に移植」
    「はい、OK」
     次は、壊れてる人工筋肉が多い関節に、他の関節の人工筋肉を移植する。
    「マズい……そろそろ、この辺りで飯食える店、ほとんど閉まる」
     勇気がボソっとつぶやく。
     人工筋肉移植作業が終る頃には、そんな時間になっていた。
    「じゃあ、続きは、飯食って、一眠りしてからにする?」
    「じゃあ、寝る前にシャワー貸してもらえます?」
    「ついでに洗濯機も……私とヒゥの着替えが、そろそろ……」
    (7) そして、男性陣は勇気の部屋に泊まり、荒木田さんはあたしの部屋に泊まる事になった。
     部屋の外からは、荒木田さんとヒゥ君の着替えを洗う洗濯機の音。
    「ずっと1人で住んでるのか?」
    「勇気のお父さんが生きてた頃は……勇気のお父さんが親代わりだった。それ以降は、ずっと1人」
    「気を悪くする質問かもしれないけど……生活費なんかは?」
    「国連機関だか外国のNGOだがやってる生活保護と高専学校の奨学金……あとはバイト」
    「就職先は有るのか?」
    「『本土』か……さもなくば外国かのどっちかだと思う」
     話す事もなくなり、荒木田さんが洗濯物をベランダに干した後、私達は眠りについた。
     TVも無い。本は学校の教科書だけ。主に高専学校で使ってるモバイルPCが一台。何もする事が無い帰ったらシャワー浴びて寝るだけの殺風景な部屋。
     夜中に目が覚めて、ふと、枕元の目覚まし時計を見る。日付は八月一六日。
     そうだ……。丁度、今日で、一〇年目だ……。
     富士山が爆発してから……。
     一応の故郷が無くなってから……。
     かつての「首都圏」が壊滅してから……。
     そして……あたしが「富士山の女神」を名乗る存在に取り憑かれてから……。
     この「神様」が、前に取り憑いていた「お姉ちゃん」が殺されてから……。
    (8) 翌朝、荒木田さんは、「本土」から来る追加の応援を迎えに「銀座」に向かった。
     一方、あたし達、残った5人は、「水城みずき」の改修作業の続きを開始した。
     一度剥した「皮膚」や装甲を再び取り付ける。
     そして、もう一度、制御用のコンピュータを起動。
    「セルフチェック・プログラムを起動して、今度は結果をセーブと……」
     これで今の状態……人工筋肉のいくつかが欠けた状態を制御用コンピュータが「覚え」るらしい。
    「正常な時の約七〇%の出力だって」
     ヒゥ君がモバイルPC上で起動しているターミナルエミュレーターに表示されるメッセージを見ながら、そう言った。
    「次は、設定の書き換えか」
     ファイル転送ソフトを起動。「水城みずき」の制御コンピュータ上の設定ファイルをモバイルPCに転送する。
    「まずは、筋電位センサと予備動作検知センサと先読み機能と先読み学習機能をfalseにする」
    「OK」
     勇気が手順書通りにファイルを書き換え、望月君がそれを確認。
     瀾って女の子から送られてきた手順書によれば、「水城みずき」には、着装者の癖なんかを学習する事で、着装者の次の動きを予想する機能が有るらしい。つまり、この強化服パードスーツ水城みずき」は、使えば使うほど、なめらかで自然な動きが可能になる……らしいのだが、今、制御コンピュータ上に有る学習データは、本来の持ち主である勇気のお父さんのモノだ。
     当然ながら、親子と言っても勇気と勇気のお父さんでは動きの「癖」は違う。「先読み」と言われるこの機能はOFFにせざるを得ない。
    「次は無線LAN接続をON」
    「OK」
     そして、書き換えた設定ファイルを今度は制御コンピュータに転送。
    「次に設定ファイルを読み込ませる、と」
    「エラーなし。メッセージを見る限り、想定通りの設定になってる」
    「そして、無線LANのIPアドレスを変更」
    「はい、OK」
    「制御コンピュータのユーザのパスワードも変更」
    「はい、OK。これで全作業終了」
    「じゃあ、下で最後の動作確認をしますか。電源OFFにして……。おらよっと」
     今村君が、数十㎏は有る筈の「水城みずき」を軽々と背負う。
     そして、みんなで下に降りる。古びた「テラハウス」の錆び付いた階段がギシギシときしむ。
    「大丈夫? 重くない?」
    「まぁ……何とか……」
     そして、下まで降りて……。
    「しまった……」
    「えっ?」
    「これ、ほぼ裸にならないと着れない」
     望月君が取説を見ながらそう言った。
    「大丈夫、今は人通り少ないから、早く脱いで」
    「おい、待て、レナ、何を言ってる?」
    「まぁ、あたしは、あんたの裸見ても平気だから、さっさと着替えて」
     結局、外で着装するまでの二〇分近くの間、幸いにも通りがかったのは知らない人達だけで、写真も撮られた様子は無かった。他人に関心が無い人が多い町だった事は勇気にとって幸いだったようだ。
    「じゃあ、起動するよ」
     今度は無線LAN経由でヒゥ君のモバイルPCと「水城みずき」の制御コンピュータを接続。ヒゥ君が、ターミナルエミュレータに起動コマンドを打ち込んだ。
    「今んとこエラーメッセージなし」
    「えっ?」
    「どうしたの?」
    「何か有った?」
    「軽い……」
     勇気はラジオ体操みたいな動きを何度かやった。
    「中は暑いけど……動きは……普通だ……普通の服を着てるのと変り無い」
     そう言って勇気は、「テラハウス」の前に止めている自分の自転車の所に行く。
    「本当に……これで七〇%しか出せてないのか?」
     「水城みずき」を着装した勇気は、ママチャリを片手で軽々と持ち上げていた。
    「おい、高木、動いたぞ」
     望月君が電話をかけていた。
    『上出来だ。あと、着脱を一〇分以内に出来るようになれば理想的だ。その後、八〇%以上充電しておいてくれ』
     望月君の携帯電話Nフォンから、瀾って女の子の声。
    「判った……ちょっと待て、脱装も?」
    『ああ、一緒に行く奴は脱装の手順を覚えろ。最悪は、現場に捨てて来ないといけない可能性が有る。現場に捨てる場合は、レナさんだっけ? その人の能力で「水城みずき」を焼き払え。焼き払うと言っても、制御コンピュータの記憶媒体ストレージがブッ壊れて、あと、装甲に何箇所かシリアル番号の刻印が有っただろ、それも読み取れないように出来れば十分だ。そうすれば、現場に捨てて来ても足が付く確率はかなり減らせる。消し炭にする必要は無い』
    「あ……あの……ちょっと代ってくれる?」
    「あ……はい……」
    「おい、待て、この『水城みずき』、俺の親父の形見なんだけど……現場に捨てる、って何だよ?」
    『……』
     しばしの沈黙。
    『何だって?』
    「いや、だから、親父の形見なんだよ、これ」
    『待て、それは……あんたにとっては……大事なモノだったのか?』
    「ああ、傍から見りゃ、新品より2桁は安く買える壊れかけの中古品だとしてもだ」
    『あんた……底抜けの馬鹿か?』
    「何だと? 喧嘩売ってんのか?」
    『あんたは残れ。残って後方支援だ。その「水城みずき」が無ければ、あんたは戦力外なんだろ?』
    「何、偉そうに決めてんだよ、年下のクセに」
    『あのなぁ……どこの世界に折れたら困る家宝の刀を担いで、のこのこ戦場に行く阿呆が居る? あんたがやろうとしてるのは、そう云う事だ』
    「えっ……?」
    『あんた、妹と弟を助けたいと言ってたな……。じゃあ聞くが、父親の形見と、妹や弟の命、どっちかを選ばないといけない状況になった場合……すぐに的確な判断が出来る自信は有るか?』
    「あ……」
    『もしもの時は平然と捨てられるんだろうな? 今、生きてる妹や弟の命の為に、もう死んでしまった父親の形見を』
    (9)「あれ? 勇ちゃんか? それ、親父さんのか? 動くようになったのか?」
     一同が暗ぁ〜い雰囲気になってる時に、そう声をかけたのは、近所に住んでる五〇ぐらいのおじさんだった。
    「え……ええ……」
    「そっか……」
     おじさんの顔は妙に明るい。
    「でも、一回思いっ切り動けば、それでおしまいみたいっす……」
     勇気は、そう答える。
    「そりゃ、残念だな……。勇ちゃんの親父さんが生きてた頃みたいに、少しは『秋葉原』もマシになるかと思ったんだが……」
    「やめてよ、おじさん……。あたし達、まだ子供だよ。何で子供が町の為に危険な目に遭わなきゃいけないの?」
    「でも……誰かがやんなきゃ……。そいつの修理費用なら、何とかなるかも知れねぇぞ」
    「えっ?」
    「ええ?」
    「勇ちゃんの親父さんが生きてた頃を懐しがってるヤツなら、この町に山程居る。勇ちゃんに、その気が有るなら……」
    「やめて、せめて、勇気が高専学校を卒業してから……」
    「おい、レナ、勝手に決めるな、お前は、俺のオフクロか?」
    「あの……まずは、目先の事から決めない?」
     やれやれと云う感じで、望月君がそう言った。その足下には……。
    「ええ?」
    「何だよ、そいつ?」
     リュックサックを背負った日本猿が1匹。腰にはベルトをしていて、そのベルトの左右には短刀がブラ下っている。
    「何か有ったようだけど、詳しい事は上で話そう」
     声の主は荒木田さんだった。
    (10)「なるほどね、そう云う事か……」
    「でも……」
    「勇気君が残るのは合理的な判断かもな……」
    「あの……荒木田さん……」
     経緯を説明し終ると、荒木田さんは、そう言った。もちろん、勇気の反応は……。
    「だって、おそらく、前線に出る予定だった人間の中で、勇気君が、総合的に一番……その……何と言うか」
    「役立たず?」
    「お……おい、レナ……」
    「他に言い方は有ると思うが、端的に言えば、そうだ」
    「でも、折角、こいつを再生出来たのに……」
    「その強化服パワードスーツを着装したとしても、戦力・経験その他全てで、君が、その……」
    「ドンケツ?」
    「レナ、いいかげんに……」
    「他に言い方は有ると思うが……端的に言えば……」
    「レナさん、高木と気が合いそうだな……」
     ボソっと今村君が呟く。
     望月君とヒゥ君も、それにうなづく。
    「あの……ところで、あの猿は?」
     問題の猿は、勇気の部屋まで付いて来たが、妙にお行儀がいい。
    「助っ人の1人目だ……。正確には1人目の半分」
    「半分?」
    「人間1人と猿1匹で1組の『魔法使い』だ。ちなみに、魔法が使えるのは猿の方」
    「は……はぁ」
    「あと、これを預かって来た」
     そう言って荒木田さんが鞄から出したのは……。
     モバイル型のWi−Fiルータが5つ。
     モバイルPC1つ。
     モバイルPC用の増設モニタが4つ。
     お寺や神社で売ってそうなお守りが2つ。
    「音声と映像を中継する仮想サーバーは既に出来てる。ただし、作戦終了後1時間で消える。あと、このルーターも、その時点で回線に繋らなくなる」
    「何をもって作戦終了なの?」
    「前線に出てるヤツの半分以上が死亡または行動不能・行方不明になるか、現場指揮官の『おっちゃん』が、作戦が失敗または成功と判断した時だ」
    「ごめん……みんな……出てってくれ」
     その時、勇気が悲痛な声で言った。
    (11)「ねぇ、あれで良かったんですか?」
     望月君がそう聞いた。
     小型ドローンにモバイル型のルータを取り付け、通信機やドローンの設定を変更。全て、あたしの部屋で行なわれている。
    「素人にドツキ合いさせる訳にはいかねぇだろ」
     今度は今村君。
    「お前も素人みたいなモノだろ」
     今村君が溜息をつきながら言った。
    「実は……残念ながら……ヤー公やってる俺の親父と色々有ってな……」
    「色々?……おい、まさか……」
    「高木も巻き込まれた……」
    「ちょっと待て、聞いてないぞ」
    「後で話す」
    「あの……中継用のサーバに繋ったんだけど……」
     ヒゥ君が自分のモバイルPCを指差す。そのPCには増設モニタが2つ繋がれていた。そして、それに映っているのは……。
    「ここ、一体どこ?」
     一見、漁港風だけど、良く良く見ると、周囲は妙に人工的な感じがする小さめの港の映像がいくつか。誰も居ない。少し離れた所には、直線的で、しっかりコンクリで舗装された海岸に沿って羽根無しファンレス型の風力発電機が並んでいる。
     そして、あたしはその光景に見覚えが有った。
    「ここ、『九段』の港だ……」
    「既にいくつか地上型のドローンを撒いてるそうだ」
     その時、ヒゥ君のモバイルPCでビデオ・チャットが立ち上がる。
    『おい、何か私達の知らない所で、話がデカくなってる可能性が有るんだが、心当りは無いか?』
     画面に映ってるのは瀾って女の子だった。
    「どうした?」
    『そっちの「有楽町」の警察が街頭監視カメラの映像をWebで公開してるのは知ってるか?』
    「えっ? それがどうした?」
    『そのカメラに、とんでもないのが映ってた。そっちと関係の無い偶然だと思いたいが……』
    「あ〜、夜中にカメラ目線の露出狂の変態が映ってたなら、良く有る話」
    『違う。ちゃんと服を着てたし、ついさっきの話だ』
    「何?」
    台東区Site04の「自警団」の1つ「寛永寺僧伽」のメンバーらしき連中が「有楽町」の港に居た。少なくとも1人はヤクザで云うなら『二次団体の組長』クラスのヤツだ。二〜三〇人の部下を好きに動かせる権限を持ってる』
     Neo Tokyo Site 04……通称「台東区」。この「島」以外に3つ存在し、5つ目と6つ目が建設中の「東京」の中でも、この「島」に一番近い別の「東京」。壱岐と対馬の間に有る、かつて存在した「本当の台東区」内の地名にちなんだ名で呼ばれる4つの地区からなる「島」だ。
    『今、そっちの「島」に来た「寛永寺」のリーダー格の画像を光に送った。そいつに注意しろ』
    「待て、一緒に映ってるこの女は……」
     荒木田さんは、携帯電話Nフォンを見て、そう言った。
    (ⅰ) 尿意と空腹が、俺を現実に引き戻した。
     俺は、レナ達を追い出してから、ずっと、親父の形見の強化服「水城みずき」を見つめ続けていた。
     何をすべきか、当の俺が何を望んでいるか俺自身にも判らないまま、結構な時間が過ぎた。
     ヒーローごっこは、あっけなく終った。いや、俺が、その「ヒーローごっこ」から、あっさりハブられた。
     多分、レナ達は、正義と仁愛にあを取り戻すのに成功するだろう。そして、その後は、また、いつもと同じ日々が続く。
     それで何も問題ない筈なのに、何故か、俺はモヤモヤした気持ちを抱えていた。
     トイレに行って、そして、昼飯を喰う為に外に出る。
     車のエンジンは全開なのに、どこへ行くべきか判らない。折角、得た「力」の使い道が無くなったのに、「力」だけは残っている。そんな中途半端な状態。下品な言い方をすれば、チンコがギンギンにおっ勃ってるのに、自分が何に興奮してるかも判らず、オナニーのやり方も知らないような、そんな感じだ。
     表通りまで出て、一番安い牛丼屋に入り、さっさと飯を済ませようとしたが……俺が店に入ってから、ほんの五分かそこらの間に、外で「何か」が起きたようだ。
     外では銃弾と……そして、「魔法使い」達が使う「式神」だか「使い魔」だかが飛び交っていた。
     まぁ、年に3〜4回は有る事なので、驚く程では無いが……。
    「はい、牛丼大盛りね」
    「おい、あの『使い魔』、『神保町』の連中が使ってるのとも、『靖国神社』の連中のとも違くねぇか?」
     近くの席の客が、外を見ながら、そう話していた。
    「どっちみち、魔法使い相手だと『サラマンダーズ』の方が不利だな」
    「しっかし、よりにもよって、『慰霊祭』の日に騷ぎを起すかね?」
     親父が死んだ時の事を思い出した。「魔法」を防げるのは、基本的に「魔法」だけらしいので、魔法使いが相手だと、強化服だろうと、パワーローダーだろうと、戦車や装甲車だろうと、基本的に「人が乗ったり着装したりする武器」は不利になる……らしい。
     そのせいで、最近は、無線操作が可能なパワーローダーや戦車・装甲車が軍隊や警察だけじゃなくて、犯罪組織や自警団でも使われるようになってるらしいが……。
     そして、もちろん、俺の親父も……「神保町」の自警団のトップに、「水城みずき」を着て殴りかかろうとして……あっさり呪い殺された。
     騒ぎが収まった頃を見計らって、俺は牛丼屋を出る。
     丁度、俺の居る辺りを挟んで、後方には、倒れてる「サラマンダーズ」の連中や動かなくなってる防弾SUVや4足歩行ヴィーグルが有った。そして……前方には……。
    「おい……居たぞ……あのガキだ」
     やたらとガタイのいい連中が二〇人弱。男女問わず、スキンヘッドか、長くても五分刈り位の髪。服は動き易そうな普段着で、女でもスカートをはいてるのは居ない。そして、全員が数珠のようなモノを首にかけている。
    「おめぇが、石川智志さとしの息子か?」
     リーダー格らしい三〇過ぎのマッチョなスキンヘッドが、俺にそう言った。
     スキンヘッドの魔法使い……まさか……。何故、台東区Site04の自警団「寛永寺僧伽」の連中が「秋葉原」に居るんだ?
     船で片道1時間はかかる、この千代田区Site01に?
     そして、何故、俺と親父の事を知っている?
    「訳が判んねぇ、ってつらぁしてんな……。ちょいと借りが有るヤツに頼まれてな……お前がやろうとしてる事を手助けする事になった」
    「えっ?」
    「早く準備をしろ。『靖国神社』に誘拐ぶっさらわれたガキどもを取り戻しに行くぞ」
    「ま……待ってくれ……あんた達は……その……『本土』から来る『御当地ヒーロー』と何か関係が有るのか?」
    「……はぁ? そっちこそ待て、何の事だ?」
    「いや……その……誘拐された俺の弟と妹を取り戻す為に……『本土』から御当地ヒーローを呼んだヤツが居るんだ」
    「誰が、どうやって、そんな真似をした? どうなってんだ、一体?」
    「ええっと……その……たまたま、この件に巻き込まれた『本土』から来た大学生が、『本土』の『御当地ヒーロー』にツテが有ったみたいで……」
     スキンヘッドの一団は、俺の話を聞いて……ポカ〜ンとした顔をした。
    「冗談抜きで……何がどうなってる?」
    (ⅱ)「おい、レナ……あの……さっきの事、謝りたくて……ええっと……居るか?」
     レナの部屋の中からは返事が無く、電話にも出ない。
    「居ません。この部屋の中には誰も。余程、とんでもない隠形術の使い手なら話は別ですが」
     俺に付いて来た2人のスキンヘッドの片方が、携帯電話Nフォンで連絡する。
    「ええっと……『魔法使い』も、こう言う時には携帯電話Nフォンを使うの?」
    「当り前だろ。あと、この辺りに結界が張られてるが、どう云う事だ?」
     返事と質問をやったのは、もう1人のスキンヘッド。
    「え?……いや待って、たしか、『本土』から来た『御当地ヒーロー』の中に、その手の『魔法使い』が……。ところで結界って、どんなの?」
    「『魔法使い』や強力な呪物を持ったヤツが出入りした事を検知するタイプのヤツだ。多分、俺達がここに来た事はバレてる。で、その『本土』から来た『魔法使い』は、どんな奴だ? 流派なんかは判るか?」
    「ええっと……猿の方しか見てない……」
    「猿?」
    「なんか、猿と人間の1人と1匹で1組の『魔法使い』で……人間の方は見てない。で、魔法が使えるのは猿の方だとか……」
    「聞いた事有るか、そんな流派?」
     もう片方のスキンヘッドは首を傾げる。
    「あと、他の 『本土』から来た他の連中って、どんなヤツらなんだ?」
    「後方支援が2人」
    「後方支援?」
    「よく判んないけど、ドローンの操作とかみたい」
    「他には?」
    「変身能力者が1人、よく判んないけど魔法みたいな力を使えるのが、ええっと……『本土』から来たのが1人で、元から『秋葉原』に居たのが1人。あと1人は、どんなのか聞いてない」
    「何だ、その『魔法みたいな力』って?」
    「良く判んない。本当に魔法みたいにしか見えないけど、魔法とは別だとか言ってた」
    「具体的には、どんな真似が出来るんだ?」
    「爆発を起したり、監視カメラなんかを熱で壊したり、人間の体温を上げて気絶させたり……」
    「待て。それって、元から燃えてる炎を操ったとか、火薬やガソリンなんかを燃やしたり爆発させた火種だけが『魔法』だったとかじゃなくて、何も無い所で爆発を起したのか?」
    「え……ああ、そうだけど……」
    「それ、本当に『魔法』か? 爆発の規模にも依るが、普通の魔法使いは……物理現象を起す『魔法』より、何て云うかな……普通の人間からすると『呪い』みたいに見える魔法の方を覚えようとするモンなんだが……」
    「どう云う事?」
    「つまり、人を殺したりするだけなら、物理現象を起こす魔法は効率がクソ悪いんだ。例えば、同じ程度の素質の奴が、2人居て、片方が人を呪い殺す『魔法』を、もう1人が熱を操る『魔法』を覚えようとしたとする。そして、両方が同じ位の努力をして、何年か経つ……。人を呪い殺す『魔法』を学んだ方は、一般人を簡単に呪い殺せるようになってるが、熱を操る『魔法』を学んだ方は、ようやくライターの火ぐらいの熱量を生み出せるようになっただけ……。こう云う感じが普通だ」
    「威力は良く判んないけど……爆発は、結構大きい爆音と爆風が起きてた。……どうも、生まれ付きか……ある日突然使えるようになったみたい……いや……あいつらが言ってた事から推測すると、だけど」
    「普通の『超能力』だとしても変だな……。俗に言う『超能力』も『魔法』の一種みたいなモノだ。生まれ付きだとしても、魔法と同じ原理に基く能力の筈なんで、そこまで強力な物理現象を起せるとは考えにくいんだが……」
    「あの……まさか……アレじゃ?」
    「『アレ』? 何の話だ?」
    「一〇年前の富士山の噴火の原因だとか言われてる……その『魔法使いにとっての魔法使い』みたいな連中じゃ……?」
     さっきまで、電話でリーダー格と話してたスキンヘッドがそう言った。
    「……いや……流石に都市伝説だろ……」
    「でも、『靖国神社』が『本土』に進出しないのは、博多かどっかに、その手の『御当地ヒーロー』が居るからだ、って噂が有りませんでしたっけ? 何でも、他の『死霊使い』が呼び出した『死霊』の支配権を無条件で奪う能力ちからが有る『他の全ての死霊使いにとっての天敵』みたいな『死霊使い』が居るって話ですよ」
    「それが?」
    「だから、その博多の『死霊使い』が、言うなれば『魔法使い』にとっての『魔法使い』みたいなヤツだとしたら……」
    「いや、そりゃ、その噂が本当だったらの話だろ」
    「でも……その……3月に久留米で起きたアレも……」
    「あれも……ヤクザ同士の抗争じゃないのか? 迫撃砲やガトリング砲や国防戦機特務憲兵用パワーローダーまで使った馬鹿が居たらしいだろ」
     どう云う事なんだ? 話は半分ぐらいしか理解出来ないが……おい……待て……まさか……一〇年前の富士の噴火の原因は……レナなのか?
    便所のドア Link Message Mute
    2021/05/06 10:03:34

    第二章:未来昔日 ― Days of Future Past ―

    「チート級と役立たずの両極端しか居ないチーム」なんて上手く機能する筈が無い……ならば……。
    だが、武器と仲間が揃ったその時に、暗雲が立ち籠め始めた……。
    「なろう」「カクヨム」「アルファポリス」「pixiv」「Novel Days」「ノベルアップ+」に同じモノを投稿しています。

    #異能力バトル #ヒーロー #ディストピア #パワードスーツ

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