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    第四章:非法制裁 ― Death Setence ―静岡県富士宮市 二〇一X年八月二〇日近く(ⅰ)(1)福岡県久留米市 高良山付近の団地 23時ごろ(ⅱ)(ⅲ)(2)(ⅳ)(3)(4)(5)(ⅴ)(ⅵ)(6)(ⅶ)The End of Summerエピローグ:狂怒 ― Fury ―静岡県富士宮市 二〇一X年八月二〇日近く 一九〇㎝を超えるあいつと、一六〇㎝台前半のおいら、そして小学1年生ぐらいの女の子。見事なまでの凸凹トリオだ。
     富士宮市の……おそらく中心部……市役所の近辺には、いくつものテントが並んでいる。
     日本政府そのものが、まだ無事か不明な中、地方自治体や一般市民が自発的に災害対策本部・司令部のようなものを作っていた。しかし、もちろん、手慣れているようにも見えず、人手も足りていない。そもそも、何をすべきか、こんな場合、どうするのが教科書通りで、何をしてはいけないかさえ判っていないようだった。
     もちろん、俺達も他人ひとの事をとやかく言えた義理では無い。全てが手探り状態のまま、1つでも多く救える命を救い、1人でも多く助けられる人を助ける……。それが、今、俺達がやっている事だ。
    「よう……」
     そう声をかけたのは、この辺りで活動している「同業」だった。
    「そっちは……大丈夫か……」
    「子供は無事だが……カミさんが死んじまった……。俺の親とも、カミさんの親とも連絡が取れない」
    「余計な事だが……その子……お前の子供か?」
     そいつの横には……俺達が連れてる女の子と同じ位の齢の女の子が居た。
    「いや……俺が救助した子だ……。一応、この子の名前と、親の名前が判ってる……。どうも、東京に『おばさん』だか『おねえちゃん』だが居るらしいが……」
    「東京も、ほぼ壊滅だ」
     九州から、こちらに救助活動に来た仲間の1人、コードネーム「水天ヴァルナ」は、横浜に居る兄一家の安否を確かめるべく、俺達と共に居る子供を見付けた後は、別行動をする事になった。
    「先に言っておくが……すまん……この騒ぎが一段落したら……組織ネットワークから抜ける」
     こちらの「同業」が、そう言い出した。
    「どうした?」
    「顔と名前が一般人にバレた。もう、この稼業を続ける訳にはいかない」
    「そうか……まぁ、いい。ここで、少し、休めるか?」
    「ああ……」

    「どうしたんだ、その頭……?」
    「坊主になった……」
     俺の連れがそう答える。
    「この齢で、坊主の修行を始めようとしたが……ウチの宗派の総本山も、こんな状況では無事では済みそうにないな……」
    「坊主って、どうして?」
    「一〇年近く……ずっと考えていた。この稼業に必要はモノは何かをな……」
    「それで坊主か? 意味が判らん」
    「悪人を殺すなら……殺し屋でも出来る。人を助けるなら……他の手段も有る……。俺達は……宗教家みたいなモノじゃないかと思うようになってな」
    「はぁ?」
    「いざと云う時に……他人の命や幸せの為に、自分の大事なものを捨てる決断をする。俺に、それが出来ないなら……俺がこの稼業を続ける意味は無いような気がしてきてな」
    「それで坊主か……」
    「あと……相談だが……しばらく、あの子を預かってもらえないか?」
     俺達が連れて来た女の子は、もう1人の子と遊んでいた。
    「判った。それ位なら……」
    「いずれ……児童擁護施設を作るつもりだ……。その内に、そこに引き取る」
    「ところでよぉ……」
     俺は、ふと口を挟んだ。
    「この稼業から足を洗うんだったら……本名ぐらい教えてもらえねぇか?」
     俺達の組織ネットワークでは、他のチームのヤツの個人情報を知るのは御法度だった。

     それから、ヤツ……石川智志さとしと、ヤツの家族、そして俺達がヤツに預けた女の子は……「関東難民」の避難場所として作られた、1つ目の「Neo Tokyo」に移り住んだ。
     しかし、それからすぐ、俺達と石川智志さとしは、事実上、袂を分かつ事になった。
     ヤツは、1つ目の「Neo Tokyo」の通称「秋葉原」地区で、よりにもよって顔と名前を晒して「ヒーロー」活動を始めた。逆に、同じ「ヒーロー」稼業であっても、顔や名前を隠し活動している俺達とヤツが下手に接触する事は……俺達の身を危うくする事に繋がる。
     そして、その女の子は……ヤツ……石川智志さとし……が親代わりに育てる事になったが……。しかし、ヤツは5年後、「自警団」同士の抗争で、あっさり死んでしまった。
    (ⅰ)「見えてるか?」
    「はい……トラックが2台。……大きさは、両方とも、このトラックと同じ位です」
     メガネっ娘は、「使い魔」を猫に憑依させて、「九段」の港の周囲を探っていた。
    「あれっ?」
    「どうした?」
    「じ……地震?」
    「待て……この『島』が地震って……ここって、要は……」
    「ええ、ここは人工の浮島で……そして、こっちでは何も感じない以上……局地的に重いモノが通ったか……」
     嫌な予感がする……。あの晩も同じ事が起きた……。
    「うそ……そんな……」
    「まさか……」
    「おい、何が見えてる?」
     そう声をかけたのは「ニワトリ」男。
    「パワーローダー……」
    「えっ?」
    「やっぱりか……」
    「多分……4m級のパワーローダー。それが……2台、トラックの護衛に……」
    「武器は判るか?」
    「銃である事以外は……」
    「どうする? 中止するか?」
    「待て……人が乗ってるか……無線操縦かは判るか?」
     俺は、そうメガネっ娘に聞いた。
    「どうやって?」
    「例えば……人間の生命力を感知する魔法とか無いか?」
    「え……えっと、やってみます」
    「お前、案外、頭が回るな」
     「ニワトリ」男が感心したように言う。
    「あと、そのパワーローダーに防御魔法がかけられてないか調べてくれ。もし……有人で、防御魔法がかけられてないなら……操縦者を魔法で殺すか気絶させるか出来る筈だ」
    (1)『あの……こちら、「アルジュナ」。地上用のドローンの映像にブレが起きてて……変だと思って調べて……』
    『すまん、手短に頼む』
    『は……はい……。トラックが2台と、その護衛らしい戦闘用パワーローダー2台が……港に近付いて来てます』
    『そ……そんな……3月のアレに続いて……』
     「ハヌマン」から無線が入る。
    『こちら「ダークファルコン」。一番近いのは、私達だ……中を探った。有人だ』
    『こちら「ルチア」。じゃあ、「ダークファルコン」の能力で、操縦士を……』
    『それをやるには……いささか以上の問題が有る。手短に言うと、私は生命力を検知する事で……えっと……その……ああ、長くなるから、もっと手短に言うぞ。あのパワーローダーの操縦士は……おそらくだが……両方とも、中学生ぐらいの女の子だ。ちなみに健康状態は、両方共に、結構、良好』
    「あ……あの……すいません……アレ……」
     その時、近くに居た今村君が声をかけた。
     あたし達が見張っていた不審なトラックのコンテナから3人の人間が出て来た。
     1人は……見覚えが無い。あたしより、少し年下ぐらいの眼鏡の女の子。
     次の1人には……見覚えが有る。
     あの夜の会った「神保町」の自警団の一員。
     そして、もう1人には……もっと見覚えが有る。いや、正確には、見覚えが有るのは、その外側で、中身が誰かは、推測だけど。
     強化服「水城みずき」。それも、左肩と口元だけ、明らかに装甲の素材が違う一〇年以上前の型式のものだった。
    「あ……あの馬鹿……」
    「えっと……まさか……あれが……」
     「小坊主」さんも事態を察したようだった。
    「確か……何か有ったら、貴方の指示に従えと……」
    「すいません、『おっちゃん』。ちょっと大変な事に……今から、映像を送ります……あっ‼」
    「どうしたの?」
    「あの……『水城みずき』が持ってる武器……かなり強力な呪物です」
    「えっ……じゃあ、あの馬鹿が、ここに居る事は……」
    「どうやってかは不明ですが、さっきまでは……魔力の気配みたいなモノを消してたみたいですが……ここから先は……どうなるか……」
     その時、荒木田さんから無線通信が入る。
    『こちら「ダークファルコン」。子供を移送してるトラックも変だ……。トラックの中の生きた人間の中に……大人が居ない』
    福岡県久留米市 高良山付近の団地 23時ごろ『すいません、「おっちゃん」。ちょっと大変な事に……今から、映像を送ります……あっ‼』
     「小坊主」こと青円さんの慌てた声。
    「あ……あの馬鹿……」
     送られてきた画像を見て、私は、思わずそう言ってしまった。そこには、私が壊した筈のあの「水城みずき」が映っている。
    「めずらしいね……瀾ちゃんが動揺して……平常心に戻るまで2分以上かかった」
     双子の妹の治水おさみがそう言った。治水おさみには、他人の心や体の状態を見る能力が有るので、この手の事はすぐにバレる。
    「今村君と、瀾ちゃんの元彼女カノが付き合ってるのを知った時より、動揺してるね」
    「すまん、ちょっと黙っててくれ、こちら『スーちゃん』、駄目元で聞くが、そっちにモバイルPCを持ってってる人は居ないか?」
    『こちら「ファットマン」。何なら、俺が、今から……ざっと2㎞強だから』
    「いや、駄目元で聞いたんだ。行かなくていい」
     「水城みずき」の制御コンピュータに搭載されてる無線LAN経由で、制御コンピュータにログインし、強制停止コマンドを打ち込む手は、当然の如く使える筈も無かった。
    『こちら「ルチア」……今村く……じゃなかった「早太郎」が……』
     「ルチア」チームの一番近くに有る地上型ドローンを移動させ、カメラを向ける。
    「あの……瀾ちゃん……冗談抜きで大丈夫?」
     横で見ていた治水おさみが、そう言った。
    「冗談抜きで大丈夫じゃない」
     くそ……あの時、せめて、制御コンピュータのOSが入っている記憶媒体ストレージを破壊しておくべきだった。
     いかすかない底抜けの馬鹿とは判っていたが、流石に、あいつの目の前で、あいつの父親の形見を完全な粗大ゴミにするなんて悪趣味な真似をやるのは気が引けた。
     そのせいで、中途半端にしか制御コンピュータを壊さなかった。
     しかし、私のその甘さが……この混乱した事態を生んでしまった。
     ……そう言えば、高専の生徒とか言ってたな……。なら、中途半端に制御コンピュータを壊しても、修理なおせる可能性を思い付いておくべきだった……。
    (ⅱ)「あんたッ‼ 何してんだッ⁉」
     トラックから出た途端に聞き覚えの有る声。
     こっちに走って来ているのは……。
     いや、バイク用のヘルメットをしてるから、誰か判んない……。
     と思った次の瞬間、そいつは、ヘルメットを脱ぎ捨て。
     今村?
     と思った更に次の瞬間、今村が着ていた服が、大昔のマンガ「北斗の拳」みたいに弾け散り……。
    「何だ、ありゃあ?」
    「えっと……あの変身は……魔法的なモノじゃないです」
     メガネっ娘が、ビミョ〜に的外れな助言。
     ああ、「早太郎」ってコードネーム。そして、望月の「そのコードネームだと能力がバレるだろ」と云う指摘。
     今村の体は「人間態」の時より一回り大きくなり、そして、白い狼男に変貌していた。
     そうか……「早太郎」って……何かの昔話の……人喰い狒狒を倒した白い犬……。
    「うわああああッ」
     俺は、手にしていた武器の「斧」の方を今村の体に叩き込み……。
    「えっ?」
     俺の足が地面から浮き上がる。
    「おい、これ、魔法の武器だろッ⁉ 何で効かないッ⁉」
    「す……すまん……そいつの……物理的な……防御力が……もし仮に……超チート級だったら……普通にこうなる」
    「あの……ここまで来ると……超チート級なんて……生易しいモノじゃ……」
     斧は……今村の「毛皮」にあっさり弾き返された。
     あ……そう言や、こいつ「ライフル弾は無理だが、拳銃弾やナイフなら防げる」とか言ってたな……。
     って、斬り裂け無かったとは言え、こんな重いモノを叩き付けられて、ほぼノーダメージなら、ライフル弾が命中しても、こいつを何とか出来るのかッ⁉ こいつ、絶対、自分の能力を過小評価してるだろッ‼
     今村は、俺の「斧」の柄を持って、俺を持ち上げ……。
    「こんちくしょうが……」
     その一言は……あの時のライダースーツの男と同じだ……。俺にではなく、自分自身に言い聞かせているようだった。
     まさか、あのチビのメスガキが言ってた「火事場の馬鹿力を引き出す自己暗示」なのか? おい、待て、ただでさえ無茶苦茶なヤツが、更に……。
     そして……今村の目の色が変った……。黒っぽい茶色から、金色に……。
    「待ちなよッ‼ 冷静になってッ‼」
     だが、次の瞬間、レナの声が響く。
    「う……うわぁッ‼」
     混乱したメガネっ娘の声。その時……。あれが現われた……。
     俺の親父を殺した「使い魔」。
     黄緑色の光に包まれた……雄ライオンの頭、人間の女の胴体、足が有るべき場所には蛇の尻尾……そして天使の翼。全長およそ6m。
     異形の「天使」は、手にした弓矢でレナを狙い……。
    「妙・法・蓮・華・経・序・品・第・一」
     若い男の声が響く。
    「えっ?」
     空中に突如出現した輝く格子模様は、異形の「天使」が放った矢を防いだ。
    (ⅲ)「『小坊主』さんッ‼ どうしたのッ⁉」
     レナは、横で倒れかかっているライダースーツにヘルメットの男に声をかける。格好は似てるが……多分、昼間の男じゃない。
    「その人を離しなさいッ‼」
     メガネっ娘が声をあげた。あ……まずい……こいつらに離せとか言うと……。
    「これでいいのかッ‼」
     今村の叫びと共に、もの凄い勢いで「斧」が回転しながら宙を飛び、そして……。
    「うわっ‼」
    「えっ?」
     メガネっ娘と、「ニワトリ」男は、身を屈めて、何とか「斧」を避けたが、「斧」の刃の部分は、俺達が乗って来たトラックのコンテナに突き刺さった。
     その一瞬前に、俺は、「斧」の柄から手を離していた。
     そして、あの異形の「天使」の姿は消えていた。
    「これが、あんたの実力だ……。その『水城みずき』を着装つけてても、その程度だ。何をしに来たんだ? 死にに来たのか?」
    「おい、そっちが年下だろ‼ その口のきき方は……」
    「あのなぁ、あんたの妹と弟を助けられても、肝心のあんたが死んだら、何にもならないだろッ‼ あんたの妹や弟が、折角、家に帰った途端に、あんたの葬式かッ⁉ そうなりたくないなら、家に帰って寝てろッ‼」
    「だから、年上に『あんた』って……そんな口の聞き方じゃ……どんな正論でも、誰も説得出来な……」
    「生きるか死ぬかの話なのに、何、くだらない事にこだわってんだよッ‼ あと、SNS上の間抜けがやるような反論しか出来ないのか、あんたはッ‼ アイツが言ってた通りだ。あんたは、底抜けの馬鹿だ。アイツがあんたにキツい事言った時に、少々、同情した俺も同じ位の馬鹿かも知れないけどな。あんたが馬鹿だと見抜けなかった」
    「いい加減にしろッ‼」
    「いい加減にして下さいッ‼」
     レナとメガネっ娘の意見が偶然にも一致した。
     その時、レナや今村達に、何かの無線連絡が入ったようだった。レナ、今村、もう1人の男は、口々に「えっ?」「何?」「どう言う事?」とか言っている。
    「とりあえず、俺が応援に行きます」
    「判った。お願い」
     今村は、レナにそう言うと、狼男の姿のまま近くに有ったバイクに飛び乗り走り去っていった。
    「……おい……何で、俺にはタメ口で、レナには敬語なんだ?」
    「それよりも……何をするつもりなの?『靖国神社』が……」
    「パワーローダーを出して来た事は知ってる。でも、今度のは有人なら……操縦士を呪殺出来る筈だ」
    「はぁ、知ってたんだ……。だけど……操縦士が何者かは知らないでしょ」
    「えっ?」
    「何?」
    「どう云う事ですか?」
     俺と「ニワトリ」男、そして、メガネっ娘は、ほぼ同時にそう言った。
    「あのパワーローダーを操縦してるのは……おそらく中学生ぐらいの女の子……。仁愛にあちゃんぐらいの齢を子を呪殺するつもり?」
     えっ? おいおい……待て……流石に……それは……。
    「なら……可哀そうだが……殺してやるのが情けだ」
     ちょっと待て、おい、「ニワトリ」男、何を言ってる。
    「もし、その操縦士が……女の子をパワーローダーに乗せて戦わせる見世物に使われてる子供なら……ロボトミー手術をされている可能性が高い……。助けても、元の生活には絶対に戻れんぞ……。自分の意志を奪われている以上な……。仮に、助け出して、家族の元に返しても……家族がツラい想いをするだけで……その後も家族の負担になるだけだ」
     そ……そう言えば……あのチビのメスガキが……そんな事を言っていた……。いや……待て……仁愛にあも、その「見世物」の操縦士の候補なら……。
    「行くぞ……2人とも……。俺達の手で……哀れな子供を……楽にしてやろう」
    (2)「ふ……ふざけんなッ‼」
     あたしは、「神保町」の自警団の男の一言を聞いて、流石にブチ切れそうになった。
     この馬鹿どもは、確実に、死ぬべきじゃない人間、死なずに済む人間を殺した挙句、あとで、ケロっとした顔して「仕方なかった」「あの時は、あれしか方法が無かった」とかヌかすに決ってる。
    「うわっ⁉」
    「これ……一体?」
    「おい、レナ、やめろ‼」
     あたしは、馬鹿3人の周囲を取り囲むように炎を発生させた。
    「ちょ……ちょっとっ……」
     息も絶え絶えな「小坊主」さんの声。
    『こちら「スーちゃん」。その辺りの地面は……コンクリか?』
    「そうだけど、どうしたの?」
    『なら、この手は使えないか……でも……』
    「だから、何?」
    『「靖国神社」のパワーローダーを無力化する方法を思い付いた。必要なのは「ルチア」の能力だ。もし、「ルチア」に何か有ったら、「ダークファルコン」が代りにやってくれ』
    了解Confirm。じゃあ、手順を説明して」
     馬鹿3人の内の「魔法使い」2人が何か呪文を唱えていたので、大人しくさせる為に、死なない程度に火炎弾を放つ。
    『まず、パワーローダーの武器を持ってる方の腕の中の機関部を熱で破壊しろ。続いて、頭を狙え。あのタイプのパワーローダーは、頭にセンサが集中している。頭を破壊すれば、目を塞いだも同じだ』
    了解Affirm
    『こちら「ダークファルコン」。了解Affirm
    『狙ってはいけないのは、足。そして、背中の「ランドセル」だ。もし、パワーローダーがコケたりしたら、操縦士も、ただじゃ済まない。そして、操縦士が居るのは……背中の「ランドセル」だ。そこを熱で攻撃するな』
    了解Affirm
    了解Affirm
    『気を付けろ……。あれは、操縦士の動きをトレースして……それをAIで補正している。素人でもそこそこ程度は動かせるし、銃を撃てば、かなり命中あたる』
    『AIで補正って、具体的には?』
     荒木田さんから質問。
    『基本的には操縦士の動きをなぞってるが……例えば、操縦士が恐怖で震え出したとしても、その動きまでは再現しないし、操縦士がわざとコケようとした場合も含めて、機関部や姿勢制御用のセンサが壊れていない限りコケる事はそうそう無い。逆に言えば、足を壊しちゃいけない理由はそこだ』
    了解Confirm
    なるほどConfirm
     あたしは、バイクに飛び乗る。
    「『小坊主』さん、大丈夫?」
     背後うしろから付いて来ている「小坊主」さんに、そう声をかけた。
    「なんとか……さっきので、法力ちからが一気に残り半分以下になってしまいましたが……」
    「どうしたの?」
    「ああ、見えないんでしたね……。かなり強力な『使い魔』が現われて……」
    「ちょっと、待って、それ……」
    「ええ、ヤツらのじゃない。遠くに居るあいつらより強い誰かの『使い魔』を『借りた』ものでしょう」
     そして、あたし達は、パワーローダーが見える位置にまで辿り着いた。
     物陰に隠れて港の方を見ると、今村君と「ハヌマン」さんが、トラックの中から出て来たらしい……人間サイズのロボット達と戦っていた。
     今村君達は、巧く、トラックとパワーローダーの間に入り込んでいる。
     この状況で、パワーローダーが、下手に今村君達を攻撃すると「商品」を傷付けてしまいかねない。そのせいか、パワーローダーは下手に「ロボット」達を支援出来ないようだ。
    「ちくしょう……この手で来やがったか……」
     背後からは、「おっちゃん」の声。
    「普通の『魔法』は、人間や霊体相手に特化してるので、あんなのには効かない」
     「小坊主」さんがそう言った。
    「そして、おいらみたいな……『人間の急所を攻撃する』戦闘法が得意なヤツとも相性が悪い……。純粋に身体能力フィジカルが強いヤツが対応するしか無い」
     続いて、「おっちゃん」の説明……。
    「前回、私がやった事のせいだ」
     「ダークファルコン」がそう言った。
    「えっ?」
    「多分、私の能力ちからを『魔法』の一種だと思ったんだろう……。だから、今回は、『魔法』が効かないヤツを使った」
    (ⅳ)「何ですか……これっ⁉」
     メガネっ娘が恐怖の叫びを上げる。
    「わ……わからん……」
     次は、「ニワトリ」男。
     レナがブチ切れて叫んだと同時に、俺達の周囲の地面を円形に炎が囲んだ。
    「何か知ってるか、これ?」
    「い……いや……もう1人から、色々と聞いたけど……何度、聞いてもよく判んない説明だった」
    「もう1人?」
    「あ……もう1人居る、『本土』から来た、こんな能力のヤツが……」
    「はぁッ⁉」
    「どうなってんですかッ⁉」
    「えっと……もう1人の方は……熱量自体は……本人が言ってた所では……あいつより下らしいけど……」
     その時、レナ達に、また無線で連絡が入ったようで、何かを話している。
    「よし……今だ……」
     メガネっ娘と「ニワトリ」男は呪文を唱えるが……。
     続いて、何発もの炎の弾丸が飛んで来た。
     警告のつもりらしく、わざと外しているようだが、ふと、背後うしろに有る俺達が乗って来たトラックを見ると、表面のあちこちが黒く焼け焦げている。
     そして、レナと、もう1人は、バイクで走り去った。
    「どう云う事ですか? 何の魔力も……検知出来ませんでした」
    「それ以前に……こんな『魔法』なんて……聞いた事が無い。有り得るとすれば……火薬や可燃性の液体・気体と『魔法』の併用だろうが……その手の臭いもしなかった」
     メガネっ娘と「ニワトリ」男は、俺の方を見る。
    「すまん……後ででいいんで……その……『もう1人』とやらから聞いた話を、なるべく正確に、そいつが言った通りに教えてくれ」
    「待ってくれ、思い出した。更に、もう1人居るかも知れない」
    「おいおい、『待ってくれ』は、こっちのセリフだ……。どうなってる?」
    「よく知らないが……『本土』から来た方の知り合いで……『ちょっとポカしただけで、この島ごと沈めてしまう』ようなヤツが居るらしい……」
    「一体、どうなってる? そんなヤツ、本当に居たとしても、人間じゃなくて怪獣だろ」
    「あの……『本土』って……どんな地獄なんですか?」
    「『靖国神社』が『本土』に進出しないのは正しかったのかもな……。ああ……そう言や、昔のマンガで『北斗の拳』って知ってるか?」
    「それが?」
    「そのマンガに『修羅の国』ってのが出て来てな……。俺達が知らない内に『本土』は『修羅の国』になってたのか?」
    「そう言えば……3月にも……福岡の久留米で大騒動が有りましたね……」
    「で……どうすんだ、作戦続行か?」
     俺達を囲んでいた炎の輪は消えていた。
     俺は、トラックに刺さった「斧」を抜きながらそう言った。
    (3)「こちら『ルチア』。まずは、パワーローダーを何とかする」
    『こちら『スーちゃん』。可能なら、熱や炎を当てるんじゃなくて、パワーローダーの腕や頭の中に熱を発生させてくれ』
    了解Affirm
     ボンっ‼ ボンっ‼
     2機のパワーローダーの右腕から破裂音。あたしが発生させた熱によって、中の空気が膨張した音だ。
     パワーローダーは両方共、自分の腕を見る。そして、動かしてみようとしているようだが……。
     ボンっ‼ ボンっ‼
     続いて、頭から破裂音。
     パワーローダー達は、とまどったような動きをする。しかし、『スーちゃん』が言っていた『AIによる補正』のお蔭か、転んで倒れるような事は無く、やがて、ゆっくりと地面に膝を付き、そして、動きを止めた。
    「こちら『ルチア』。パワーローダーをやっつけたのと同じ方法で、ロボット達を何とかする。ちょっと、ロボットから離れて」
    『「ハヌマン」了解』
    『「早太郎」了解』
     「ハヌマン」さんは物凄いスピードで走って、今村君はロボット達を力づくで投げ飛ばして、ロボット達と距離を取る。
    「『スーちゃん』。どこを狙ったら、一番効率が良いか判る?」
    『あのタイプのロボットは、制御用コンピュータは胸、遠隔操作用のアンテナは頭だ。その2箇所が急所だ。腹に有るバッテリーに、熱を加えると爆発の危険が有る。熱量は電子機器を壊す程度で十分だ』
    了解Affirm
    『こちら「ファットマン」。そろそろ、こっちのトラックが、港に到着します』
     ロボット達は、瞬時に粗大ゴミと化した。
     今村君は、2機のパワーローダーの背中の「ランドセル」を抉じ開けた。
     海の方から異変を察知して「漁船に偽装した輸送船」の乗員らしいのが、拳銃を手に駆け付けたが……「おっちゃん」と「ハヌマン」さんの手で数分後には1人残らず死体と化していた。
     そして、子供達を「輸送」していたトラックのコンテナが開き……。
     遠隔操縦されたトラック3台が到着。
    『言うまでもねぇが……最後まで油断すんなよ』
     「おっちゃん」の声。
     全くその通りで……これで話が終っていれば、絵に描いたようなハッピーエンドだったんだけど……。
    (4) 誘拐されていた子供達は、こっちのトラックに移されていく。
    「気を付けて降せよ」
     パワーローダーの操縦士も、救出済みだった。
    「えっ? 仁愛にあちゃん?」
    「その……声は……レナ姉?」
    「どう云うこ……」
    「このトラックの護衛をすれば、弟は返してやると言われて……嘘だと思ったけど、逆らえば……」
    「ロボトミー?」
    「そう云う事」
    「お……お姉ちゃん?」
    「正義?……やっぱりか……」
    「友達は無事だよ」
    『正義君と……正義君のお姉ちゃんに……代って……』
     通信機から、ヒゥ君の声。
    『ごめん……その……』
    「謝る事ないよ。……小さい頃、死んだ父さんから言われてたんだ……。『ヒーローってのは、友達や見ず知らずの誰かを助ける為に、自分を犠牲に出来るヤツの事だ』って……。ボクは……父さんに言われた事をしただけだ……って格好付け過ぎかな?」
    「父さんも、そのセリフ、知り合いから聞いたって言ってたんで……お礼を言うなら、どこかに居る、その父さんの知り合いかな?」
     その時、いくつかの足音が聞こえてきた。
    「あ……遅かったね……。仁愛にあちゃんと正義君は無事だよ」
     あたしは足音の主が何者かを確認すると、やれやれと言った感じで声をかけた……。
     3馬鹿は、しばしの間、何かを話していたが……。
    「あ……あぶねぇっ‼ 何やってるッ‼」
     あたしの目の前で、斧とハンマーを合せたような武器を振り上げ、絶叫しながら突撃してきた勇気と、その勇気からあたし達を護ろうとした今村君が激突した。
    (5)「あんた、何をするつもりだっ⁉」
     今村君の怒号。
     勇気は、あっさり跳ね飛ばされ尻餅をつく。
    「ちょっと……まって……あの強化服パワードスーツ……」
     マズい……仁愛にあちゃんが気付いてしまった。いや、多分、正義君も気付いている。
     重大問題発生。この「作戦」が無事に終了しても……明日からは、仁愛にあちゃんと正義君を、2人の馬鹿な兄貴と一緒に暮させる訳にはいかない。
    「あ……あと……で……詳しい事を……」
    「猿丸‼ あの『水城みずき』を拘束出来るか?」
     おっちゃんの声。
     「猿丸」さんの猿の方はうなづき、呪文を唱え(いや、お猿さんの鳴声にしか聞こえないけど)、空中に印を描く。
     勇気の馬鹿には、あたしに見えない「何か」が見えてるようで、斧(?)を振り回す。
     どうやら、それで「猿丸」さんの猿の方がかけようとした「魔法」は破られたようだ。
     猿丸さんの猿の方は、人間のあたしからしても、驚いてるのが判る表情になったけど……。どうも、術を破られたせいじゃないようだ……。
     どう見ても、あたしと荒木田さん以外のほぼ全員が……勇気を助けようと(多分)近付いてきた「神保町」の「魔法使い」の背後あたりに出現した……あたしには見えない何か……例えば、「魔法使い」の「使い魔」が見える人達の頭の角度などから推測するに……無茶苦茶デカい「何か」を見ているようだ。
    「おい、ガキども、すぐに全員、このトラックに乗れっ‼」
     「おっちゃん」の絶叫。
    「イデビ・イデビン・イデビ・アデビ……」
     「小坊主」さんが呪文を唱える。右手には木片と数珠を持ち、「小坊主」さんが手を振る度に、数珠と木片が打ち合う音が響く。
     「猿丸」さんの猿の方も呪文を唱えながら、指で空中に文字のようなモノを描いている。
    「妙・法・蓮・華・経・序・品・第・一」
     「小坊主」さんの叫び。
     「猿丸」さんの猿の方も……大きな鳴声にしか聞こえないけど、多分、呪文の終りの部分であろう何かを唱える。
    『ねぇ、何か、あんたの見せ場みたいだから、いつものアレを……あ……ごめん、今度でいいや……えっ? 何? どう云う事?』
     荒木田さんに取り憑いてる「神様」の声。
     何が起きたかは判らない。しかし、「猿丸」さんの猿の方と「小坊主」さんが、ほぼ同時に崩れ落ちる。
     「おっちゃん」と「ハヌマン」さんが2人(?)を支えた。
     そして、夜明けの東の空のような色の光が、夜の闇を払った。
    「悪しき……力に魅入られし者達よ……。恐れよ、我が力を……天照大神の光を……」
     フザけたセリフ……。しかし、荒木田さんの静かな細い声は怒りに満ちていた。
    「正しき行ないを阻む者どもよ……。燃え尽きよ……我が力で……大禍津日神の炎で……」
     上空に出現した炎の鳥は、3馬鹿に向って、無数の炎を矢を放った。
    「やったか?」
    「駄目です。一瞬だけ早く、『使い魔』が引っ込みました」
     「小坊主」さんの息も絶え絶えな声。
     そして、再び勇気が突撃してきた。
    「子供は、全部、乗った。子供の安全が優先だ。ここから退避させろ」
     「おっちゃん」の指示。
    『こちらファットマン、了解Affirm
    (ⅴ)「えっ?」
     俺達がレナ達の後を追い掛けていると、横を3台のトラックが通り過ぎた。
    「い……今のトラック……運転席に人居たか?」
    「えっと……魔力は感じなかったので……魔法によるものじゃないと思います……」
     メガネっ娘による的外れな補足。
    「にゃあ……」
     その時、足下で鳴声がした。
    「あ……大丈夫でしたか?」
     メガネっ娘は座って鳴声の主に声をかける。
    「そいつは……?」
    「あたしの『使い魔』を憑依させてた猫さんです」
     鳴声の主は虎縞の猫だった。一応、首輪が有るので、野良猫では無いらしい。
    「じゃあ、今は向こうの様子は『使い魔』を通して見てる訳じゃないのか?」
    「え……ええ、結構な精神集中が必要なので……歩きながらは無理です」
    「そ……それじゃ向こうの様子は……」
    「判りません」
    「どうせ、あと1分かそこらの距離……嘘だろ……マズい」
    「えっ? そ……そんな……馬鹿な」
     2台の戦闘用パワーローダーは地面に膝を付いていた。
     子供達は助け出され……そして、さっき横を通った無人トラックに乗っている最中だった。
    「あ……遅かったね……。仁愛にあちゃんと正義君は無事だよ」
     レナの冷たい声。
    「いいか……良く考えろ……。このままじゃ……『英雄』になるのは、あいつらだ。だけど、あいつらは、所詮は他所者よそものだ……。ずっと、この『島』やお前の町を護ってくれる訳じゃない。いいか、お前の町には、他所者よそものじゃない『英雄』が必要だ。……いいか……
     「ニワトリ」男は俺の目を見ながら、そう言った。
    「あ……駄目ですっ‼」
     すぐそばに居る筈のメガネっ娘の叫びが、何故か、何百mも離れた所に居るみたいに、か細く響く。
     そして……「ニワトリ」男の目が光ったような気がして……。
    (ⅵ)「うわぁぁぁっ‼」
     俺は、ヤツらに向って走っていく。
     「ニワトリ」男がメガネっ娘に「ちゃんと撮影してるか?」と言ってるのが聞こえたような気がしたが……狼男と化した今村の怒号にかき消された。
    「あんた、何をするつもりだっ⁉」
     俺が「斧」を振り落すより、今村が俺に体当りするのが一瞬だけ早かった。
     俺は弾き飛され、尻餅を付いた。
     立ち上がろうとしたら、あまりに妙なモノが目に入る。
     魔法使いのように、指で空中に何かを描きながら、口を動かしてるヤツが居る。
     だが、それをやってるのは……一匹の猿だった。
    「何っ?」
     猿から、俺の方に「光の縄」のようなモノが飛んで来て……待て、たしか、この「斧」は……。
     「光の縄」を「斧」の刃で受けると、一瞬だけ「斧」が黄緑色に輝いた。俺の親父を呪殺した異形の天使と同じ色……。そして、「光の縄」が消える。
     ほぼ同時に背後うしろから何かの気配を感じる。そこには、あの……異形の天使が出現していた。
     雄ライオンの顔、人間の女の体、足の代りに蛇の尾……そして……天使の翼。
    「くたばれっ‼」
     「ニワトリ」男の叫び。
     異形の天使はヤツらに向けて何本もの矢を放つ。しかし、またしても空中に光る格子模様と……そして、今度は光る梵字のような紋章まで現われて矢を防いだ。
     次の瞬間、何故か辺りが急に明るくなる。
    「え……あれ……は?」
    「違う……俺の……『使い魔』じゃ……ない……。まさか……」
     空には、鳥は鳥でも、「ニワトリ」男の「使い魔」より何倍も巨大な炎の鳥が出現していた。
     炎の鳥の翼がはばたくと、無数の炎を矢が俺達目掛けて降り注ぐ。
     だが、異形の天使は、それより、ほんの一瞬だけ早く姿を消した。
    「いい加減にしろっ‼」
     レナが叫びながら俺に駆け出そうとしたが、横に居た誰かがレナを押し止める。
    「なぁ……こう云う魔法は有るか? 他人の『火事場の馬鹿力』を引き出す魔法」
    「ま……待って……下さい……。そんな事をしたら……」
    「あぁっ? あいつらが俺の代りに『英雄』になるのを阻止しろ……そう言ったのは……そいつだぞ」
     俺は、「ニワトリ」男を指差した。
    「判った……でも、責任は取れんぞ……。お前の意志でやった事だ……。確実に……1〜2週間は入院する羽目になるぞ」
    「大丈夫だ……俺は……冷静だ……。
     「ニワトリ」男の顔が青冷める。
     薄々は判っていた。さっき、「ニワトリ」男は、俺の心に何かをしたらしい。だが……そのせいか、俺の心は極めて冷静だ。自分でも、事だけは判っている。
    「あと……あんた達の親分の『使い魔』を、あんた達が使えたのは、どうしてだ?」
    「それは……俺達の中に……総帥グランドマスターとの魔法的な『つながり』が有るからだ……。一回の『処置』につき一度だけ総帥グランドマスターの『使い魔』を借りる事が出来る『つながり』がな」
    「それ、ひょっとして、俺も、その『処置』をされてる? もし、あんた達が……あの晩、既に、俺を『英雄』に仕立て上げるつもりだったら、だけど」
     俺は、そう言って、あの晩、「ニワトリ」男が俺に埋め込んだ「GPS」の辺りを指差した。
    「ああ……」
    「じゃあ、頼むわ……。今すぐ、俺の『火事場の馬鹿力』を……引き出してくれ……」
    (6) 何かがおかしい。
     今度は今村君が苦戦している。勇気の力もスピードも、さっきより上がってるようだ。
    「お……おい……まさか……」
     「ハヌマン」さんが何かに気付いたようだった。
     勇気は両腕で今村君の首を締め上げる。
     今村君の右手の爪が延び……そして、勇気の「水城みずき」の左肩……純正品の装甲より強度で劣る3Dプリンタ製の装甲を貫いた。
     それでも、勇気は意に介していないようだった。
     「ハヌマン」さんが、横から高速移動能力を使って2人に横から突撃。2人を引き離す。
     もう既に、子供達を乗せたトラックは、望月君の遠隔操作により動き出していた。
     勇気の顔が、トラックの方を向く。
    「お……おい……」
     「おっちゃん」が「猿丸」さんの猿の方と、「小坊主」さんを見る。
    「もう……法力ちからが……」
     そう言いながら「小坊主」さんが首を横に振る。「猿丸」さんの猿の方も、かなりグロッキー気味。
     何が起きているのか、あたしには見えない……。
    「止めろ‼ トラックを止めろ‼」
     「おっちゃん」の悲痛な叫び。
     「神保町」の2人の「魔法使い」の表情からして、この馬鹿達にも予想外の事が起きたようだった。
    「う……嘘だ……」
     荒木田さんが何かに気付いたようだった……。しかし……荒木田さんは、あたしと同じく、「魔力」みたいなモノは感じられないし、「魔法使い」の「使い魔」なんかも見えない筈。それでも、何かに気付いた……。
     ちょっと待って……荒木田さんには有って、あたしには無い能力は……。「生命力」の検知……。いや、だから……待って……まさか……。
     止まったトラックのコンテナの扉を「おっちゃん」が開ける……。この中で、最も経験豊富な筈の「おっちゃん」の手が……自分で「人を殺すしか能がえ」と言っていた人の手が震えていた。
     ……助け出した子供達は、全て死んでいた。仁愛にあちゃんと正義君も含めて……。
    (ⅶ) どうやら、この時、俺の心には、魔法だか催眠術だかで俺の心を操作した「ニワトリ」男にとっても想定外の事態が起きていたらしい。
     しかし、俺は、自分が普段より冷静で頭も冴えている、と云う「実感」だけで、自分の心が、どれだけおかしな事になっているか気付いていなかった。
    「うおおおっ‼」
     俺は再び「斧」を振り上げて今村に突撃。
     今村は、頭上でクロスさせた腕を「斧」の柄にブツける。しかし、次の瞬間、俺は、今村の腹に蹴りを叩き込む。
     今村は驚いたような表情で、後に下る。
    「くたばれぇっ‼」
     俺は「斧」を捨て、今村に飛びかかり……。腹の辺りに違和感。今村の伸びた手の爪に、「水城みずき」の腹部の表面素材と……血が付いている。しかし、俺は、かまわず今村の首に腕を回し、思いっ切り締め上げる。
     続いて、左肩に違和感。3Dプリンタで作った左肩の装甲が、あっさりと今村の手の爪で貫かれている。しかし、構わず絞め続け……。
     何かが、俺と今村の体にブツかる。跳ね飛ばされ、俺は、思わず、今村を離してしまう。
     俺と今村に体当りしたのが誰かは判らなかった。そいつが、他のヤツらと同じく、ライダースーツとヘルメットをしていたせいだ。
     だが、想像は付く……。「寛永寺僧伽」のアジトに現われた……高速移動能力の持ち主。あれだけの速さで体当たりをすれば……運動エネルギーは相当なモノになる……。
     ヤツらは、助けた子供達をトラックに乗せる。その中には、正義と仁愛にあも居た。
     そして、トラックは走り出した。
     ……。
     俺は……俺の町の為に「英雄」になる必要が有る。
     では、ここに居る中で、俺が「石川智志さとしの息子」として「英雄」になるのを阻みかねない最大の障害は誰か?
     「本土」の御当地ヒーローども? 違う……。ヤツらはいずれ「本土」に帰る。
     レナ? 違う……。もし、あいつに「英雄」になるつもりが有ったとしても、俺の想像通り、あいつが一〇年前の富士の噴火を引き起した原因なら……「英雄」の座から追い落す手段はいくらでも有る。
     「神保町」の魔法使いども? 違う……。あいつらは少なくとも今は、俺の「協力者」だ。
     排除すべき者は……あのトラックの中に居る。俺と同じく、親父の血を継ぎ……俺にないモノを持っているヤツが2人……。
     友達の為に、平然と自分を危険に晒す事が出来る2人が……。
     兄貴である俺の代りに……親父から……「英雄の素質」を受け継ぎやがった2人が……。
     トラックが俺達から十分離れたのを見計らって……俺は……「神保町」の魔法使い達の親分の「使い魔」を呼び出した……。
     そして……「使い魔」はトラック目掛けて無数の矢を放った。
    The End of Summer自作小説挿絵用便所のドア
    「1時間後に、映像や音声の中継に使っていた仮想サーバは消える。それまでに必要なデータが有ればコピーしておいてくれ」
     「千代田区」に居る7人の撤退が完了した後、瀾ちゃんは……疲れ切った顔と声で、そう言うと、ベッドに向かった。そして、2段ベッドの下段で、あたしに背を向けて横になった。
     この夜だけは……瀾ちゃんがいつも抱いて寝てる恐竜のヌイグルミ達は、ベッドの外に置かれていた。

     総帥グランドマスターは、あたしが眼鏡型の端末で撮影した映像を見ていた。
     その顔に浮かんでいるのは……冷静なようにも、感情が麻痺したようにも見える表情だ。
    「編集すれば……石川智志さとしの息子を『英雄』に……この狼男を誘拐犯の一味に見せ掛けられるな」
    「あ……あの……叔母さん……さすがにそれは……」
    「ここでは、総帥グランドマスターだろ。とりあえず、編集が終ったら……適当な動画サイトにUPしろ。なるべく複数のサイトにな」
    「は……はい……」
    「で……問題の2人は何者なんだ?」
    「判りません……。あの2人が……『力』を使った時、何の魔力も検知出来ませんでした」
    「まさかな……」
    「何がですか?」
    「まさか……今、私達『魔法使い』は……二十何年か前の科学者達みたいな立場に置かれてるのか? そうか……あの晩の……『本土』から来たヤツのあの私達を舐め切っていた様子……。あいつがやろうと思えば私達など簡単に全滅させる事が出来て……そして、その事をあいつ自身が知っていたなら……嫌でも、それが態度に出る」
    「どう云う事ですか?」
    「二〇〇一年の9・11で、科学者達が『魔法』や『超能力』の存在を認めざるを得なくなったように……私達も……『魔法使いを超えた魔法使い』『超能力者にとっての超能力者』みたいな連中が居る事を認め……そいつらと戦わねばいけない時代に来てるのかも知れん」
     そして数年後、あたしは知る事になった。
     この世界は「科学技術の時代である近代」と「魔法の時代である中世」が同居しているだけでは無かった。
     更にそこに「神々の戦いが続く神話の時代」も重なっている事を。
     あたし達「魔法使い」や、その「使い魔」、あたし達に力を与えてくれている「精霊」「天使」「魔物」「霊的世界の導師」たちとは、全く異質で、天と地ほどの力の差が有る「神々」としか呼べぬ存在モノが実在し、この世界に大きな影響を与え続けている事を。

    「お前は、たまたまクソ金持ちの息子に生まれて……まぁ、頭もかなりいい。私は……たまたま、死んだ姉さんから変な力を受け継いだ。私に出来て、お前に出来ない事も有れば、お前に出来て、私に出来ない事も有る」
     香港から来た金持ちの子供は、昨日の晩から泣き続けていた。
    「大人になってクソ金持ちになってからも……お前の友達みたいな目に遭う子供を減らす為に……お前に何が出来るかを考え続けろ……。そして……。お前も、お前の友達みたいな事が出来るヤツになれ……」
     荒木田さんは、ヒゥの肩に手を置いて、そう言った。
    「いい事うね、あの人も……」
     横でその様子を見ていた今村がそう言った。
     フェリーの甲板からは、博多の港と町が見えてきていた。

     「千代田区Site01」から1㎞ほど離れた「小島」……正確には半径三〇〇mほどの人工浮島。そこには「千代田区Site01」の火葬場と墓地が有った。
     あれから1ヶ月以上。今日は秋分の日だった。
    「私達の罪をお許し下さい。私達も人を許します。私達を誘惑に陥らせず、悪よりお救い下さい……」
     あたしは、正義君と仁愛にあちゃんの墓の前で十字を切った。
    『それが……人間が「宗教」とやらを必要としている理由なのですね……。わたくし達は……どうやら、人間の心の傷を癒す事は出来ない』
     「お姫様」はどこか寂しげに、そう言った。
    「あ……あの……」
     声の主は、あの晩に出会った「神保町」の見習い魔導師。
    「なんで……あんたは来てるのに、勇気のヤツは来ないのかな?」
     あたしの声は、自分でも判るほど苛立っていた。
    「す……すいません」
    「あんたが謝る事じゃないよ」
    じかに会うのは初めてだったな……」
     その時、別の声。
    「え……まさか……」
     荒木田さん。高木瀾。そして、もう1人の女の子……あんまり似てないけど、確か瀾の双子の妹。
     荒木田さんと瀾の妹は、正義君と仁愛にあちゃんの墓に向かって手を合わせ、瀾は深々と頭を下げた。
    「これ……来年か再来年に受けてみる気は無いか?」
     瀾は、そう言うと、あたしに封筒を渡した。
    「何、これ?」
    「『千代田区Site01』に居続けるのがツラいなら、出る手が有る。私の親戚が作った会社の研修員インターン制度だ。研修員インターンとして働きながら、『本土』の……何なら、外国の大学にも通える。学費と給料と住宅補助が出る」
    「考えとくよ。ところでさ……この前さ、何となく推測が付く、って言ってたよね、その……」
    「あの馬鹿が、あの時、あんな事をした理由か?」
    「それが……勇気さんも……勇気さんに魔法をかけた、あたしの先輩も、さっぱり判らないって……言ってました。だって、あの時、あたしの先輩がかけたのは……むしろ、感情を押える魔法で……」
     「神保町」の見習い魔導師は、いつの間にか、勇気の事を「石川さん」じゃなくて「勇気さん」と呼ぶようになっていた。
     よりにもよって、最悪のヤツと付き合い出したらしい。
    「他人の精神を操れる異能力持ちが自滅や失敗するパターンで多いのは……自分が操ったヤツに何かを判断・選択させた時だ。それも、『自分の意志で判断・選択したような錯覚を与える』んじゃなくて、本当に、相手が自分でよく考えなきゃいけない判断・選択をしないといけない場合だ」
    「えっ?」
    「そして、私は……自分の感情の一部を一時的に押える自己暗示を使えるが……師匠に言われてるのが……『決断は自己暗示をかける前にやれ。自己暗示をかけた後に何かを決断すると……その決断は確実に狂ったものになる』」
    「どう云う事?」
    「す……すいません、あたしも良く判りません……」
    「その魔導師は……人の心を操る術も使えるが……数有る『使える術』の1つで、人の心を操る術が専門って訳じゃないんだろ?」
    「え……え〜っと、そうです」
    「だとしたら……心を操作する技術のイロハを知らなかった可能性が有る」
    「つ……つまり?」
    「えっと……あたしの先輩は、何を見落してたんですか?」
    「本当は理性的でも合理的でもないのに、自分を理性的で合理的な人間だと勘違いしてるマヌケは、安易に『感情を押えろ』『感情的になるな』なんて言うだろう。だが、感情の暴走が危険なら、理性の暴走も危険な筈だ」
    「だから、どう言う事?」
    「感情も人間の判断能力の一部だ。生まれ付き感情が無い人間や、何年も感情が麻痺し続けてる人間が居るなら、後天的にその状態に対応した判断が出来るようになっているかも知れない……。しかし、普段、感情が正常に機能している人間が、一時的に感情を無理矢理抑制された状態で……マトモな判断が出来ると思うか?」
    「そ……それって……まさか……」
    「正確さより判り易さを優先した言い方をすれば……あの馬鹿は、一時的・擬似的なサイコパスに変えられた挙句、自分でもその事に気付いていない状態で、他人を殺傷するかどうかを自分で決めろ、と言われた訳だ……。あの馬鹿を『魔法』で操ろうとしたヤツにとってさえ予想外の事が起きてもおかしくない」
     瀾は、見習い魔導師の方を厳しい表情で見た。
    「念の為、確認するが……あの馬鹿にかけた心を操作する魔法は……あの後、ちゃんと解いたんだろうな?」
    エピローグ:狂怒 ― Fury ― あれから一〇年以上が過ぎた。
     勇気は高専5年生の時に、韓国の工科大学の編入試験に合格し、韓国の釜山に本社機能を移していた「水城みずき」の製造元である高木製作所の子会社・高木研究所の研修生インターンとして働く傍ら、大学に通い、そして、修士号を取り、設計部門のエンジニアになった。
     しかし、もう、勇気は、かつての職場にも、「秋葉原」にも居ない。テロ組織「神の怒りフューリー」に引き抜かれ、その一員となったのだ。
    『敵の「鎧」は一体だが、支援用のロボットが確認出来ただけでも5つ。全て下の階。1つは「シルバー・ローニン」のほぼ真下だ』
     両眼立体視型のモニタに「敵」の位置・方向・距離が表示される。声の主は、かつて、あたしと勇気を助けてくれた高木瀾。彼女は、「正義の味方」として戦う中で大怪我を負い、一線を退き、開発と後方支援を担当している。
     そして、瀾がかつて使っていた白銀の鎧「対神鬼動外殻『護国軍鬼4号鬼・改』」を受け継いだ少女が、手にしていたレールガンの銃口を床に向ける。
    『「シルバー・ローニン」、ここがどう云う場所か判っているな?』
    はいConfirm。「島」ではなく、㎞単位の巨大な「船舶」と認識しています』
    そうだConfirm。レールガンの威力は2に落してある。威力を上げる必要が有る場合は、こちらの判断を仰げ。くれぐれも「島の底」をブチ抜いたり、「島」の下層の住民に危害を加えないように注意しろ』
    了解Affirm
     徹甲弾が「神の怒りフューリー」のロボットを床ごと撃ち抜く。
     続いて、こちらの偵察用の小型の8足歩行ロボットが、床に空いた穴より下の階に入る。そして、「シルバー・ローニン」が下降用のザイルを設置後、今回のメンバーの中のリーダー格である「緑の護り手ヴァージャー・ウォーデン」がハンドサインで突入指示を出した。
     下の階に降りると、鉄屑と化したロボットが有った。弟と妹を死なせてしまい、長生きを望めない体になってしまったアイツが、自分が生きていたあかしとして、そして、失なった家族が、かつて、この世に在ったあかしとして、必死でこの世に残そうとしているモノが、また一体、「死んで」しまっていた。
     今回の敵が使っている戦闘用ロボットを設計したのは勇気だ。
     勇気は、あの日、「神保町」の魔導師にかけられた精神支配……と言うよりも「呪い」によって、いつしか戦闘依存症とでも呼ぶべき状態になっていた。
     1年未満の間とは言え、喜びも悲しみも怒りも感じる事が出来なくなったアイツにとって、普通の人間が「感情」によって得ている「何か」の代用品は……死の危険に伴なう緊張感だった。それだけが……灰色の世界に放り込まれ、自分の意志で、そこに留まったアイツが感じる事が出来る数少ない鮮烈な刺激だったらしい。
     その結果、「自警団活動」の最中に無茶をやって、大量の放射性物質を全身に浴びてしまった。
     そして、瀾が引退する事になった戦いの際に大破した白銀の「鎧」の再設計・修理には、あたしも関わっている。
     今、目の前で起きた事……それは、見方によっては、あたしの子供が勇気の子供を殺したようなものかも知れない。
     この「任務」の為に、何年かぶりに、第2の故郷である「秋葉原」に戻って来た。
     十数年……ある意味で、たった十数年……子供と大人の中間ぐらいだったあたし達が、おじさん・おばさんの入口ぐらいの齢になる程度の歳月で……世界も、あたし達「正義の味方」「御当地ヒーロー」も在り方を変えた。
     変り続ける世界に対応出来ず、警察も軍隊も形骸化し、その代りを「正義の味方」「御当地ヒーロー」が担うようになっていったが、あたし達「正義の味方」「御当地ヒーロー」のやり方も、合格点には程遠く、そして、今も変り続けている。あと五年後・一〇年後には、あたし達も、時代に追い付けなくなっているだろう。今のあたし達に出来る事は、次の世代に、あたし達の経験を伝える事……。それを、次の世代が、新しい時代で、活かしてくれれば……。
     今の「本土」の状況は、もう、あの頃の「Neo Tokyo」の状況に近い。他の国も似たようなモノだ。「正義」「悪」「一般人」の垣根は曖昧になってしまっている。
     ふと、かつての正義君と仁愛ちゃんの様子を思い出そうとしたが……何故か……あの頃の2人の顔を思い浮かべる事が出来なかった。
    便所のドア Link Message Mute
    2021/05/12 19:40:36

    第四章:非法制裁 ― Death Setence ―

    誘拐された子供達の奪還作戦は、目的が全く異なる2チームによって行なわれようとしていた。
    純粋に子供を助けようとする者達と、この事件を利用して守護者無き町に新しい「英雄」を生み出そうとする者達と。
    「作られた英雄」への第一歩を踏み出してしまった少年の足下に有る冥府魔道の正体は、苦難と気高さが表裏一体の「英雄への旅路」か、それとも栄光と破滅が表裏一体の「堕落への旅路」か??
    #異能力バトル #ヒーロー #ディストピア #パワードスーツ

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