演練日和 2注意事項
【ATTENTION!!】読む前に確認お願いします
・「刀剣乱舞」の二次創作作品です。
・原作登場刀剣男士の女体化があります。
・カップリングとして「くりんば」が含まれます。
・オリジナル主人公がかなり話します
・創作設定が多くでてきます
・文章は拙いです
・ご都合主義です
・書いたのが数年前なので極が実装していない表記があります。ご了承ください。
上記の点確認の上、自己回避よろしくお願いします
なんでも許せる方のみお楽しみくださいませ!
side 大倶利伽羅
「お!来た来た。こっちだ、こっち!」
演練会場の中を歩いていると、俺たちは大きく手を振る獅子王と隣に立つ骨喰を見つけ、合流した。
「きっちり予約はしといたぜ!相手もそろそろ来るんじゃねぇかな」
「すみません、遅れましたか?」
獅子王がそんな言葉を告げると背後から呼びかける声がする。どうやら、本当に相手がやって来たようだ。
「いいえ、こちらも今来たばかりですから。今日はよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします。……そちらが今日の部隊なのですか?」
「ええ、そうです。何かありましたか?」
「いえ、何でもないですよ。ではまた後で」
主が何やら微妙な顔をしていた相手を気にして問いかけるも、返事は濁らされてしまった。どうにも煮え切らない感じがしたので、主に目線を送ると、同様なことを思っていたのか口に指を当てて少々近づきながら演練場へ入ることにした。こういった不信感というのは意外と何かトラブルの元に働いていることが多い。つまり、警戒をなおさら疎かにできないというわけだが。
しかし、そこで聞こえて来たのは何とも愚かな推測だった。
あの審神者は自身の部隊の連中と話していた。もちろん、少し近付いて移動している俺たちにはその全てが聞こえていた。
そう、全てが。
「主、何であんなこと聞いたの?」
「あんなこと?」
「え、だって聞いてたじゃん。あの連中が今日の部隊なのかって。そんなの分かりきったことじゃん?」
加州清光が疑問を出すと、その審神者は、
「ああ、それか。いや、審神者の練度は似たようなものだったけど彼女は俺より上位の審神者だからさ、もっと強そうなレアとか連れてくると思ってたんだ。だけどあの連中ならレアいないし、勝てるかなって思ってさ。それに、あの山姥切って女の子だろ?めっちゃ可愛いし。でも、絶対男の山姥切より弱いだろ。まあ、極修行は行ってたみたいだけどな」
と答えたのだ。俺は、腹の底から怒りが沸き上がるのを感じた。
「ちょ、ちょっと主くん。それ、聞こえちゃうよ!」
「聞こえねぇよ。こんくらい。周りも大分うるさいんだしさ。それに、みっちゃんだって思っただろ?」
「うっ。そりゃあ、伽羅ちゃんがなんだか普通より近くにいたから、大事にしてるのかなって思ったけど。それに女の子なら、傷付けたら可哀想かな、って」
「ほれみろ、お前だって思ってんじゃん」
なおも会話は続いているが、そんなもの耳にしようとも思わなかった。少し前を歩いていたひろの横顔には、先程まではなかった陰りが見える。
きっと、先程の発言を気にしているのだろう。修行を終え、己が写しであることには一定の区切りをつけられたひろだが、女の体であることへの劣等感は払拭したとは言い切れない。また、俺と言う恋刀の馴染みである刀に、それを肯定するように言われたことがまたひろの心に傷を付けたのだ。
俺はいくら馴染みとは言え、他所の本丸の刀であるアイツを徹底的に潰すことを決めた。決めたったら、決めた。
だが、俺は大事なことを忘れていたのだ。今日の部隊に誰がいたのかということを。背後から並々ならぬ殺意を感じて思わず振り返ると、俺は見たことを後悔した。
獅子王と乱は笑いながら視線は絶対零度の眼差しだし、骨喰は無表情でじっと相手を見つめている。普段温厚な蜻蛉切や五虎退でさえ、眉間にしわを寄せ、五虎退の虎は尻尾を激しく叩きつけている。
何より最も怖いのは、主だった。その表情に感情は見えず、まさしくガチギレといった様子だった。なお、さすがのひろも気付いたのか、後ろを振り向き皆に呼びかけているが、怒りが収まる様子はない。
——このままでは埒が明かない
そう思った俺は一度注目を俺に集めることにした。
——こういうのは柄ではないのだがな
パンッ
「「「「?!」」」」
「どうせ皆同じ気持ちなんだ。さっさと作戦を練って相手を叩き潰さなくていいのか?」
「……ふぅ。伽羅のいう通りね。ちょっと怒りのあまり冷静さを失っていたわ。ありがとう」
「ふん。さっさと指示を出せ。俺も怒っていない訳ではない」
「わかってるわ。むしろ一番怒ってるでしょ。……さあ、あの愚か者たちにうちの強さを見せつけましょう。そして、うちの最高な初期刀の力もね」
「「「「「おー!」」」」」
「お、おう?」
約一名よくわかっていない者もいたが、頭に手を乗せ少し撫でると落ち着いたようなので良しとする。
——さて、潰すか
side 相手方 堀川国広
「あれ?相手の部隊、獅子王さんじゃなくて蜻蛉切さんが入るんですね。てっきりあの人は審神者さんの護衛なのかと思ってたんですけど」
「ホントだ。でも、問題はないよね?こっちも岩融さんや太郎さんがいるし」
「がっはっは。任せておけ!」
「……」
演練が始まる直前、僕が相手の隊員を確認していると、先程まで審神者のそばで控えていた蜻蛉切さんが隊員として演練の場へ並んでいた。同じく燭台切さんも確認したみたいだけど、薙刀と大太刀がいる僕達の部隊なら大丈夫だと判断したのか、みんなには余裕があった。でも、そんな中一人だけ何やら考え込む刀が一振り。我が本丸の初期刀加州清光だった。
「加州さん、何か気になることでも?」
「うーん、あの審神者さんさ。俺、どっかで見たことあるんだよね……。どこだったかわからないんだけどさ」
そう話す彼の顔は未だに疑問が脳内に残っているようだった。だが、演練開始一分前の放送を聞くと、思いっきりその頬を叩いた。
「え、加州さん⁈」
「よしっ。これで切り替えっと。堀川もごめんね。もう大丈夫」
ほんの少し赤い顔で告げる加州さんは既に隊長の顔へと戻っていた。
「それならいいんですけど……。演練、頑張りましょうね!」
そう言って自分も開始指定場所に着く。一つ深呼吸をすると、演練開始を告げる放送が流れた。
『双方、演練開始!』
「よぉーし。偵察開始。頼んだよ、堀川」
「はい。………………敵陣形、鶴翼陣みたいです!」
「おっけー。じゃあ、遠戦いくよ、準備いい?」
「「「おう!」」」
「んじゃ行くよ。放て!」
加州さんの声に合わせて展開された刀装は敵部隊に向かって投石や弓を放つ。もちろんこちらにも攻撃はされているわけだから、石や弓は飛んでくる。でも、こちらには大太刀太刀に薙刀といるわけだから、盾兵の充実もあり損害は少ない。相手の陣のあたりには土煙が立ち込めた。
「これで刀装剥げてくれてたらいいんだけど。堀川、もっかい様子見できる?」
「任せてください。………………え?」
加州さんに頼まれて僕はもう一度相手の部隊を偵察する。土煙がいまだに舞っていて確認しづらい。しかし、そんなかでも感じ取れたのは二振りの気配のみ。そう、二振りしか己の目には映っていなかった。
「加州さん!敵、陣に二振りしかいない!」
「はぁ⁈まさかもう移動したっての?全員、警戒して散開!どこからくるかわかんないけど、向かって行くよ!堀川は継続して偵察!何か気づいたら報告よろしく!」
まさかの事態に加州さんの伝令が次々と飛ぶ。走り出した僕はわずかな気配を探すために周囲に目を凝らした。しかし、聞こえてくるのはみんなが走って土を巻き上げる音と風を切る音のみ。
「ん?風を切る音?あっ!」
僕はすぐさま頭上を見上げた。そこにあるのは太陽を背にまっすぐこちらに向かってくる二つの影だった。
「みんな上だっ!!」
「「「「「は⁈」」」」」
僕の警告に一番早く反応したのはやっぱり加州さんだった。でも、それでも。気づくには遅すぎた。
「今更遅い!」
「フッ!」
「くそっ!おらぁぁぁ!」
ニつの影は落ちている速度そのままに加州さんのところに飛び込んでいった。あまりの衝撃に僕たちのところまで砂が舞い散る。
衝撃で舞った砂埃が消える頃、そこに立っていたのは二振りの刀剣男士だった。いや、男士だけではない。
「隊長をやられておいてボーッと見ているだけとは、随分余裕なんだな」
「……そうだな」
そこに立つのは脇差と打刀。男士である骨喰藤四郎、そして女士であり同じ刀派の兄弟でもある山姥切国広だった。
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side 相手方 鯰尾藤四郎
「こちらよろしいですか?」
そういって近づいてきたのは獅子王を引き連れた今日の対戦相手だった。
「どうぞどうぞ」
「失礼します」
主さんの隣に座る所作は、きっと一兄や歌仙さんが見ても文句をつけないだろう丁寧なものだった。身につけている着物も綺麗で、めちゃくちゃ美人なんだと思う。
——あ、人としてはってことね。俺らの基準だとあれじゃん?
「あれ、獅子王が部隊の一員じゃなかったんですか?てっきり蜻蛉切が護衛なのかと思っていましたよ」
「交代してもらったんです。そっちの方がいいと思ったので」
「ああ、俺の部隊太刀に大太刀、薙刀もいますもんね」
そういって笑いながら会話をする二人はやがて演練の場に出ている自身の刀剣たちのことへ話題を変えた。
「そちらは加州清光が初期刀ですか?」
相手に問われた主さんは、今まさに戦おうとしているうちの部隊に目を向けて質問に答え始める。
「そうですよ。最初は川の下の子とか言ってたあいつに意味わからんってキレたこともあったんですけど、今や俺の一番頼りになる刀剣です!」
「そうなんですか。とても頼りにされているんですね」
「はい。あいつを馬鹿にしたり傷つけるやつがいたら、ガチでキレちゃいますよ!なーんて……」
その言葉を発した時、俺はなぜだか急に悪寒を感じた。別に今日は冬ってわけでもないし、そもそも演練場内の室温は適温に保たれているはずだ。だから、悪寒なんて感じるはずないのに。
その時、俺は気付けなかった。なんで突然悪寒がしたのか、そしてなんであんな質問をしたのか。
「それにしても、そっちの部隊って初期に来やすいやつらが多いですよね?あ、すいません。別にレア自慢とかしようと思ったわけではなくて」
「いいですよ。確かにそう見える刃選ですから。今日は五虎退のお願いであのメンバーなんですよ」
「あ、誉のご褒美ってやつですか?俺のところもやってますよ!だいぶ審神者業も慣れてきたとこだし、余裕が出てきたんで。俺、これでも上位者会議に呼ばれる程度には成績残してるんですよね。お姉さんもですよね?」
先ほど自分より上位者だとか言っていたくせに、この聞きようだ。多分、自分より順位が高い審神者の割に刃選が平凡だったから、いつもの悪い癖で探りでも入れようとしているのだろうが、あまりにもあけすけすぎる。あの会話が聞かれていないとは言え、失礼すぎるだろう。俺は頭を抱えたくなった。
「主さん!それめっちゃ失礼!」
「え、いや!そんなつもりは!」
「ごめんなさい。これ、主さんの悪い癖なんだよ。気になることすぐ口に出しちゃうんだから」
「いいですよ。確かに上位者会議には呼ばれますけど、まだまだ若輩者ですよ」
そう言ってにこやかに返してくれるから、俺もちょびっと安心して息をはいた。すると、そこで演練開始1分前の放送があった。徐々に臨戦態勢になっていく仲間の姿に主も俺も身を乗り出す。
「そう言えば、お姉さんの所の山姥切って女の子の姿でしたよね。めっちゃ可愛くて、俺一瞬見惚れちゃいましたもん。肌も白くて細いし、すぐ折れちゃいそうで鶴丸とは違う意味で儚げ系美少女でしたよね」
和やかな空気はそこまでだった。俺を襲ったのはさっきより濃密な刀気。それを発しているのは、俺じゃない。そして俺じゃなきゃここにいる刀は一振りしかいない。俺はそいつの方に振り返ると、ビシッと体が固まる音が聞こえた気がした。そんな俺の様子も知らずに主さんは相手の審神者と会話を続ける。
「……そう言えば私は初期刀を誰か言っていませんでしたよね。知りたいですか?」
「え、知りたいです!誰にしたんですか?お姉さん、雅とかめっちゃわかってそうですし、歌仙ですか?」
「いいえ。歌仙さんじゃないですよ。……私の初期刀は、いつも優しくて、辛い時には傍にいてくれて、私のせいで普通と違う姿に顕現してしまったのに責めることもなくずっと支えてくれた、私にとって何にも変えられない一の刀」
そこまで言うと彼女は一度言葉を切った。ようやく何かおかしいことに気づいた主さんが俺と同じように彼女の方を向き、動きを止めた。そこには目が笑っていない獅子王とまるで空に浮かぶ月のように静かで冷たい微笑みを浮かべた美しい審神者がいた。
「そう、私の初期刀は山姥切国広。あなたたちが弱そうなどとおっしゃった刀は、我が本丸を支える要の一振りです」
静かに語る彼女はそれ以上何かをするでもなく演練場に視線を向けた。いつの間にか獅子王の刀気も収まり俺たちは動ける状態になっていた。でも、俺も主もすぐには動けそうになかった。
「もし伽羅が止めてくれなかったら、私はこのままあなたに詰め寄っていたでしょう。ですが、彼に言われて思い出しました。私は審神者で、ここには演練で来ているのだと」
「「え……」」
「演練の目的は審神者同士の技術向上の演習です。だったら、実力を誤解されているような私たちの本丸はちゃんとした実力を示せばいい」
背後で演練開始のブザーが鳴る。それでも、俺と主さんは彼女から顔を背けることができなかった。
「だから、私たちはあなたたちを完膚なきまでに叩きのめすことにしました。だからよく、見ていてくださいね?」
にっこりと笑った彼女の顔に先ほどの冷たさはなかった。それでも俺たちにはそろっと今まさに始まってしまった演練を見るしか選択は残されていない気がした。
それから一分後、主さんと俺は驚くべき方法でうちの自陣にやってくるや、瞬く間に一振りを戦線崩壊に持っていった彼女の初期刀の姿に、揃って言葉を失うことになる。
side 相手方 堀川国広
僕は一瞬何が起こっているかわからなかった。でも、敵とはいえその発言は最もなことで僕らはすぐさま乱入者に己を向けた。僕は骨喰くん、長曾根さんは兄弟を相手にする。太郎さんや燭台切さんたちがどうしているのか気になったけれど、司令塔であった加州さんを失い、目の前に敵がいる今、確認などする余裕はなかった。
「くっ!はぁ!」
キンッ
「……」
ギンッ ザシュッ
「ぅあ」
僕と骨喰くんは同じく修行済みのようだけれど、練度に差があるのか相手の方が強い。でも、練度差を感じるなか、僕はどこかその戦い方に違和感を覚えていた。
「ねぇ、骨喰くん。んっ!ハァッ!、君たちの目的は何なのっ!」
僕の質問に彼は少し目を見開いた。まぁ、それもほんのわずかな間で僕はすでに中傷を負う状態だった。
「聞いてどうするんだ」
僕と彼は少し距離を置いて向かい合った。多分、これで最後だ。この攻撃でせめて軽傷にはしたい。
「それはもちろん、阻止させてもらうよ!」
ほんと、
「困ったな……怒らないようにしたかったのに!」
「悪いが、……策はなった」
キンッ
その瞬間、僕の視界は暗闇に包まれた。
side 相手方 燭台切光忠
加州くんが倒された。それも、あの昔馴染みと仲が良さそうな彼女によって。
その事実は僕の体を止めるのに十分だった。頭の中で彼女の言葉が何回もぐるぐると回って、十周したくらいでようやく僕の頭は理解したみたいだった。応戦する堀川くんたちを助けに行こうと足を踏み出そうとした時、嫌な予感がして自身を大きく振った。
「あれ?まさか気づいちゃうとは思わなかったな」
トンッ
近くの木に軽い調子で飛び乗ったのは相手の乱くんだった。その顔は口調とは裏腹に機嫌が良さそうでニコニコと笑っている。
「……そこまで殺気が出てたら、さすがの短刀の隠蔽値でもわかるよ」
「あ、やっぱりそれかぁ〜。でも、今はちょっと抑えられない、かな?」
小首を傾げた仕草は愛らしいとしか言いようがない。その背後にとんでもない殺気を忍ばせていなければ。
「だからさ、ボクと一緒に乱れちゃお?」
そう言って突っ込んでくる極短刀の姿に、僕は当分援軍に行けないことを悟った。
side 相手方 長曽祢虎徹
——何が起こっている
それが加州が倒れてすぐ俺が心の中で思ったことだった。目の前では通常個体よりわずかに小さく、華奢な見た目の山姥切と切り結んでいる。その力は演練前に話していたような弱さは感じられず、同じ極であるのに押されている。しかも、その戦い方はまさに鋼のような冷たさで、ギラつく眼差しには理性の光が見える。ほら、今だって、
「刃を交えているというのに、随分余裕なんだな」
時折こうやって俺を煽ってきやがる。しかしこの煽りに乗ってしまえば、待っているのは己を容赦なく切り裂く冷たい刃だ。俺は焦る己をなんとか押さえつけ、山姥切と相対した。
〜***~
キンッギンッ ッギィン
今までで一番大きな音を上げて俺と山姥切が距離をとって離れる。息も乱れていないあいつに比べて、俺は軽傷止まりなものの数多くの小さな傷を負い、息も乱れていた。
「……驚いたな。さすが新撰組隊長の刀と言ったところか」
「お褒めに預かり光栄だな。そちらこそ、女の身とは思えないほど重く鋭い攻撃だった」
そう返すと、山姥切は困ったように一瞬微笑んだ。しかし本当に一瞬だけで、すぐにその顔からは表情が消えた。
「こちらこそ。と言いたいところだが、これもそろそろ終わりにしなければならない」
「そう簡単に終わってやるつもりはないぞ?」
こちとら怪我を負っているとはいえ、まだ軽傷なのだ。そうすぐにやられるつもりはない。
しかし、刀をこちらに向けた山姥切の口から出た言葉は、この立ち合いの終わりにを告げるのに十分だった。
「いや、これで終わりだ。俺たちの策は今この時をもって、条件を満たしたのだから」
「どういうこっ!」
「「はぁ⁈なんでここにいるの/おる!?」」
各方向から仲間たちの驚きの声があがる。
そこで、俺はあんなに気をつけていたこいつの存在への警戒を解いてしまった。こいつがそれを見逃すはずがないのに。
「グアッ。あ」
「だからここで終わりだと言ったんだ。……仲間思いはあんたの長所なのだろう。だが、敵を目の前で気を抜くとこうなるんだ。覚えておくといい」
ザシュッ
俺は山姥切に腹を切られていた。きっとあの一瞬で距離を詰めたのだろう。彼女の言い分は最もで、納得すると同時にそれをわざわざ伝えてくれるのがきっと彼女の優しさなのだ。俺は暗闇に包まれつつある視界で走り去る金色をじっと見つめていた。
相手方 燭台切光忠
僕と乱くんの戦いはあれからずっと続いていた。攻撃してきては跳びのき、また攻撃。体力的には辛い戦法のはずなのに乱くんはずっとそれを続けている。
カンッ
「はぁはぁっ。な、んでその戦い方を続けるんだい?君にとっても辛いだろ」
「ふー、はぁっ。まあね。でも、これがボクの役割だもの。まあ、もうそろそろ終わるけど、ねっ!」
キンッ
「僕はまだ倒れないよ?それに君だってわかっているだろう。いくら極とはいえ君は短刀で、僕は太刀だ。短刀と比べれば体力もある。このまま続けていたら、倒れるのは君の方だろ!」
そういいながら刀を横になぐけれど、案の定乱くんはひらりと避けて僕と距離をとった。
「もー燭台切さんってば。ボクの話聞いてなかったでしょ!ちゃーんとこの役割はもうすぐ終わるって言ったでしょ?」
「何言っ!?」
ギンッ
「チッ。押さえたか」
話している途中、急に後方から伸びてきた刃に思わず体をずらして対応すると、聞こえたのは馴染みのある声だった。
「伽羅ちゃん⁉︎はぁ⁉︎なんでここにいるの⁉︎」
「うるさい」
ブンッ
「うわぁ!」
「……さっきはよくもまぁご高説を語っていたな。そら、望み通り短刀じゃなく俺が来てやったんだ。心配などする暇もなく叩き潰してやろう」
普段通りの仏頂面で、いつにも増して饒舌な時の彼は基本的にかなり怒っていて。つまり、今の伽羅ちゃんはとんでもなくキレている。そして、彼は刀種変更を経て打刀となった元太刀。そして極済みとなれば、いくら太刀とはいえ僕も無事では済まないだろう。
「は、はは」
——これはこれは、
「ここで華麗に決めてこそ……だよね!」
「ふんっ。………行くぞ」
僕と伽羅ちゃんは刃を交えた。
side 相手方 太郎太刀
初期刀殿が倒れてすぐ、傍らから飛び込んできた相手の五虎退と応戦してしばらく経ちました。私の方は五虎退本刃、岩融の方は大虎を相手してくれています。
元々長ものである私たちと、短刀の相性は悪い。大振りになりがちな攻撃の隙を突かれてしまえば、相手にとって有利であるし、生存が低い短刀にとっては大太刀や薙刀の攻撃力は油断できない。
ブンッ キンッ
「ふぅ。あなたもしつこいですね。短刀一振りで大太刀を相手に勝てるわけがないでしょう!」
「っ!いいえ!これでいいんです!」
「何が良いと言うのでしょう。大太刀の極である私はそうやすやすと倒れはしませんよ!」
攻めにくい相手ではあるが、攻められない訳ではない。私は五虎退をお供の虎から離すように距離をあけました。
大分、岩融からも離れ協力することが難しい位置に来た時、五虎退が打ち合わせた反動を利用して大きく飛び退きました。
「何をっ」
「ぼ、ぼくの役割は太郎太刀さんを岩融さんから離すことでした。それに、もう一つの役割もたった今終わったんです!」
そう言うと口笛を吹き、私たちから離れて行く。私はすぐに岩融と合流しようと振り返った。しかしそこには、想像もしていない景色が広がっていました。
「貴殿の相手はこの蜻蛉切が受けもった。さあ、かかってくるが良い」
そこに立っていたのは、相手の蜻蛉切だったのです。
遠くからは岩融の驚きの声が聞こえていて、そこでようやく私は五虎退の狙いに気づいたのです。
「なるほど、彼の役目とは時間稼ぎだったのですねっ!」
「左様。某は足が遅いからな。ここまで来るための時間を稼いでもらったのだっ!」
刀と槍が打ち合う中、私は彼と答え合わせをして納得しました。いや、理解したと言った方が適当でしょう。我が部隊は彼らの策にまんまとはまったのだと。
極の私とおそらく練度限界にある彼では実力が拮抗するのか、打ち合いは止まりませんでした。ですが、先に短刀を相手にし、小さな傷を受けていた私の方が側から見たら不利と言えるでしょう。
「どうした!御神刀とはその程度か!」
相手に煽られた私は思わず刀を大きく振りかぶりました。しかし、これが油断だったのです。
「あの、痛いなら言ってください。手加減、今回はできませんけど!」
「本気で行く」
背後からの二連撃。おそらく声からして相手の五虎退と骨喰藤四郎でしょう。私は一気に中傷なり、目の前には蜻蛉切の槍が迫っていました。
「貴殿との戦い、良きものであった」
私は、離れて戦う仲間達に謝りながら目を閉じました。
side 大倶利伽羅
「チッ」
「ふふっ。伽羅ちゃんってば疲れたの?なら負けてくれても良いんだよっ!」
「黙れ」
ギンッ ガッ ギィィン
刀を交えて数分。俺はあいつへの怒りがまた蘇ってきていた。何が楽しいのか、顔に笑みを浮かべて戦うこいつを見ていると、無性に腹立たしい。
——おそらく、昔馴染みである俺が相手だから気持ちが高揚でもしているのだろう。ふざけるな、
「お前は何をしたかもわかっていないくせに」
ギンッ
「僕が何をしたかだって?」
「……」
「答えてくれないとわからないんだけどな」
「……潰す」
俺はそのまま刀を振り上げた。あいつは俺が怒りに任せて隙を見せたと思ったのだろう。刀を腰だめに構え、一つしかない金目を光らせた。
——だが、俺がそんな隙を見せる筈が無いだろう?
「やれ、乱」
「待ちくたびれちゃったよ、伽羅兄!」
俺の背後から飛び出したのは、先程から戦いの場から姿を消していた乱だ。上から落ちる勢いそのまま、あいつの背に己を刺す。
無論、俺への攻撃のため体勢を低くしていたあいつに避けることは叶わない。
「な、なんで……」
驚愕の表情のまま重傷となったあいつ、光忠はもう少しすれば転送されるだろう。だからこそ、このわずかな待機時間の分だけは、あいつの疑問に答えてやることにした。
「確かに俺はキレている。だが、それは俺だけの話じゃないんでね」
「そういうことっ!だから伽羅兄には、悪いけど共闘って事で許してね?」
「わかっている。ん?行ったか」
目の前にもう光忠の姿はない。俺は乱と視線を交わし、残りの敵を倒しに向かった。
——きっとそこに、俺の恋刀がいることだろう
side 相手方 岩融
「なんなんだお前らは!」
俺は目の前の虎に向かって叫んだ。もちろん虎に答えを返せるわけもなく、自前の鋭い爪で襲いかかってくる。
ガァッ
「くっ!効かぬ!」
ガンッ
さっきから始まった虎との戦いは正直もどかしくて仕方がない。襲いかかっては来るものの、こちらから仕掛ければすぐに距離を取るため決定的な攻撃が出来ないのだ。太郎の方も同じようで、先程から同じような打ち合いの音が聞こえてくる。
「ガッハッハ。しかし、虎よ。俺もそろそろこのやり取りには飽きてしまった。決着をつけようぞ!」
俺は虎との間に開いていた距離を飛び上がることで詰め、その大きな体に己を振り下ろそうとした。
しかし、それは二つの刃によって阻まれることになった。
ギッギィィィン
「それは困る」
「ああ」
俺の攻撃を受け止めたのは美しい金髪を翻す山姥切と、白銀の髪をなびかせる骨喰だった。
二振りの刀によって守られた虎は、すぐさま彼女達の元へ近寄る。何度か頭を撫でられていたが、どこからか口笛が聞こえると颯爽と去っていった。
「さて、あんたの相手は俺がしよう。ばみ、あんたは蜻蛉切の方を頼む」
「いいのか?」
「ああ。心配しなくてもすぐに問題なくなる」
「そうか」
ふた振りは短い会話をして骨喰の方が離れていった。方向が太郎太刀がいる方だったが、俺は目の前の刀から目を逸らすことができず、そのまま行かせてしまった。
「では行くぞ」
言葉少なに駆け出した美しい刀は驚くべき速さで俺に近づいた。
いや、速さはそこまでではない。それこそ、さっきまで戦っていた五虎退の方が速かった筈だし、俺は今剣で短刀の速さも見慣れているはずだった。
それでも俺は、その刀の動きを『速い』と思ってしまった。
「くっ!」
その鋭い眼差しと、冷たく研ぎ澄まされた刀気は動くたびにヒヤリとした圧を感じさせた。
「何を呆けている。舐めているのか?…ああ、舐めているんだったな」
そこで俺は初めてこの刀の顔をしっかりと目に写した。その表情は、なんとも表現しにくい、壮絶な笑みだった。
「その目、気に入らないな」
俺はその時背筋に電流が走った。悪寒などではなく、この刀と切り結ぶことへの歓喜の痺れだった。
「さあ決闘だ!貴様の命貰い受ける!」
「それは俺が許さない」
ガァン
自身に満ちる戦いへの歓喜そのままに美しい刀に薙ぎ払った一撃は、低い声と共に重い音を立てて弾かれてしまった。
「来たか」
「遅くなった」
「いや、いい」
其奴が来ることを予期していたのか、自身はこちらに向けたままでも、動くことは無かった美しい刀は、今攻撃を跳ね返した龍の刀の側に立った。
「俺も共に戦う。異論はないな」
「なぜそんなことをする?それでなくてもそこのおなごは強いだろう?」
——いいや、俺は気づいていた。気づかされていた。それもそうだ。この二つの刀は先程までの雰囲気とは違う。そう、これではまるで、
「こいつの力を一番引き出せるのは俺だ。こいつの全力を見たくないのか?弁慶の薙刀よ」
ニヤリと笑う顔は先程の山姥切とよく似ていた。それだけで、悩む時など要らなかった。
「がっはっはっ!面白い!受けて立とう!」
「はぁ。伽羅」
「ん」
「「「参る!」」」
side 山姥切国広
俺は伽羅と共に岩融の相手をしながら、この演練が始まる前のことを思い出していた。今回の演練における作戦を決めた、あの会議のことを。
「蜻蛉と伽羅。あなたたち、ひろとばみを投げてくれませんか?」
「「は?」」
主が言った案は、思っていた以上にぶっ飛んでいた。
「あ、投げるって言っても自分たちの刀と槍を使って空中に投げ飛ばして欲しいってことです。伽羅はちょっとキツイと思うけれど、自陣と敵陣の間くらいのところに落ちるくらいでいいので。だから、申し訳ないんだけど今回は獅子王には私の護衛にまわってもらうことになります。ごめんなさい、あんなに楽しみにしていたのに」
「あ、いや。それがあいつらを叩き潰すための策だって言うなら、護衛になるのはいいんだけどさ?」
「それはおそらく出来るが……」
急な隊員変更を告げられた獅子王は戸惑い、伽羅も困惑が顔に出ている。俺は主にまず一通り考えを言ってもらうことにした。
「主、まずは一通り説明してくれないか。何度も疑問や質問で止まっていれば時間の無駄だ」
「そうね、じゃあ説明するわ。質問は後でね?」
そうして、主は策を語り始めた。
「ひろとばみにはまず隊長格を倒してもらいます。大抵の場合、指揮官となる隊長は陣の真ん中にいます。それが囮のこともありますが、あの雰囲気ではおそらく定石通りに動いてくるでしょう。先ほど見ていた関係性においてそれに当たるのは加州清光、もしくは燭台切光忠でしょうね。でも、十中八九加州清光だろうと推測できます。それは、皆さんもわかりますよね?彼と審神者の絆はどの刀よりも強い縁で結ばれていました。きっと彼の初期刀なのでしょう。……だからこそ、最初に討つことに意味がある」
その言葉に俺とばみはうなづいた。主の言うことは戦の定石であるから文句はない。それに、切り込み役を任されることに肌がざわついた。
「まぁ二振りには落ちながら敵を狙う、という今までしたことのない方法で動いてもらいますから、失敗は想定内です。出来るだけすぐに倒して欲しいとは思いますけどね。そんな二振りの保険として動いてもらうのは乱とごこです。あなたたちには時間稼ぎを任せたいの。それは、もしもひろたちが失敗した時の為でもあるし、蜻蛉たちが相手陣へ向かうためのためでもある。だからできるだけ頑張って欲しい」
主の視線を向けられてふた振りは大きくうなづく。短刀が時間稼ぎ、と言うのはなかなか骨が折れるだろうがあいつらなら問題なくやり遂げる。そう確信できるだけの信頼が俺にはあった。
「伽羅と蜻蛉はひろ達を投げた後は少しの間は自陣にいてもらいます。多分、それでこちらの思うように動いてくれると思うから。遠戦の土煙が落ち着いたら敵陣へ移動を開始してください。伽羅は燭台切光忠、蜻蛉は太郎太刀の相手を頼みます。……そうなると、乱たちの担当も決まりますね。太郎太刀のところにはおそらく岩融も近くにいる気がするから、そっちはごこ。乱は燭台切光忠の方をよろしくお願いします」
こちらも静かにうなづく。伽羅はともかく、蜻蛉切の方は護衛のために金盾のみの装備だから機動は聞くまでもないだろう。そのための時間稼ぎなのだから問題はない。少々、自陣に残る意味が不明だが、主の考えることだ。何か思惑があるのだろう。
「加州清光を倒せば、ひろには長曾根虎徹、ばみは堀川を相手にしてもらいます。堀川は練度がばみより低いようなのでおそらく大丈夫でしょう。ですが、長曾根虎徹の方は練度が低いとはいえ、新撰組の刀として加州清光が倒れたことでより冷静に動こうとするでしょうから、そこは気をつけて」
そこまで語ったところで主は言葉を切った。そして、俺たちの方をまっすぐな瞳で見つめてくる。
「以上で私の考えた策の説明は終わりです。あとは今策を練っていても、その通りに行く可能性は低いと思いますから。だからこそ、戦いの終幕までの判断は各自に任せますし、作戦指揮は隊長であるひろに一任したいと思います」
すると、待っていましたとばかりに乱が手を上げて疑問を投げかける。
「なんで、燭台切さんと太郎太刀さんは分かれてるってわかるの?」
「勘、と言うと根拠としては弱いですが、彼の部隊が前を歩いていた時の距離感からの推測ですかね」
そっか、と言って乱は上げていた手を下ろした。それ以上の質問がないと思ったのか、主は再び口を開いた。
「いつも通り、私があなたたちに求めるのはたった一つ。『私たちにとって最上の結果』。それだけです。……期待していますよ?」
~***~
頭では過去を振り返っていても、己の体は戦いに身を任せていった。切って薙いで、避けてはまた相手に向かっていく。何度も何度も共に戦った伽羅の太刀筋など、空気の動きで自然とわかる。力強い龍の腕が相手の体を切り裂いていく。負けじと俺も持ち前の速さで鋭く切り込む。
相手だって負けてはいない。薙刀特有の広い攻撃範囲で、俺と伽羅を同時に攻撃してくる。それを上と下に避けてまた切り込んでいく。この上なく楽しく、そして刀の本能をむき出しにできる時間だった。
しかし、そんな時間には終わりがつきものだ。度重なる打ち合いにより相手は中傷、俺らも中傷よりの軽傷だ。俺たちは一度距離を取り、改めて相対した。
「がっはっは。ここまで心踊るのはいつぶりか!お前たち、強いな!」
「それはこちらも同じだ」
「ああ」
双方ともに笑みを浮かべながら交わす言葉には隠しれない喜色が見えた。だからこそ、この時間が終わることが惜しくて仕方がなかった。
「さて、次が最後といこうぞ」
「異論ない」
「そうだな」
俺たちは同時に飛び出した。
「どおりゃああ!」
「斬る!」「死ね」
交差した三振りの剣尖。剣風で土埃が盛大に舞った。
土煙が晴れた時、倒れていたのは岩融だった。
『勝負あり!勝者、白蓮 勝利A!』
広い演練場に勝者を伝える放送が響いた。