団地に孔雀(現パロ)行ってくる、と短く伝えれば、ん、と短く返事がある。無愛想なのではない、合理的なのだ。行ってらっしゃい、おかえりなさいも妻はあまり積極的には言わない。それはまあ、そうだろう。自分の母より年上のジジイに嫁いだのだから。だが憎まれている訳でもなく、嫌な顔1つせず淡々と家事をこなす。私の稼ぎでは古い団地住まいがやっとであるのに、それにも文句は言わない。…豪邸暮らしと比べるとコンパクトではある故の物珍しさもあるのだろうと推測する。本心を確かめる勇気はない。聞いて不興を買い、彼が手の中からいなくなるのは、ひどくおそろしいことに思えた。
事の始まりは、妻の母君が、長年仕えた私に褒美をと言った時だ。お互い酩酊を楽しむ程度の、理性ある酒の席。多少の非礼は流され、会話は弾み、若かり頃のやんちゃを笑って話す程には、私は酔っていた。
それにしてもよく仕えてくれた、感謝してもしきれない。故に欲しいものを与えよう。金で解決と言ってくれるな、あって困るものでもなかろう。
上機嫌で言うあるじも、同じように酔っていたのだと思う。
では、金では解決できぬものを望んでみせましょう。
私は、愚かだったのだ。
ほう、言うてみよ。
ご長男を、妻に迎えたく存じます。
おいぼれが夢を見た。
輝く美貌、美しい肌、均整の取れた身体、若く聡明な、バラーラデーヴァ殿。