蜜の実薄紅色に色づいた丸い果実の柔い皮をそっとつまみ、するすると剥いでゆく器用な指を見ていた。持ち替えた小刀は音もなく熟れた実に沈み、バラーが食べやすい大きさへと切り取ってくれる。この果実特有の甘い香りは好きだ。
「はい」
皮を剥いでいた指が今度はその実をつまみ、バラーの口元へと運んでくれる。雛鳥のようだと思ったが、いやではなかったので、素直に口を開ける。
「ん」
冷たく甘く、瑞々しい果肉が口の中で溶けるようになくなってゆく。
「はい、どうぞ」
絶妙なタイミングで差し出される次。三つ連続では食い意地が張っているようで、その次は軽く辞退した。
「あなたも食べてくれねば」
こんなに美味しいものを一人で食べるのは寂しい、と感じる。あなたが剥いているのに。
「私も、剥こう」
あなたが剥いたものは私が食べ、私が剥いたものはあなたが食べればよい。そう考えての提案だった。
が、これが意外に難しい。熟れると特に柔らかくなる種類だと言うそれは持ち上げるだけで指の形に凹んでしまうし、それでいてナイフのひとさしで皮に切れ込みが入るかと言うとそうでもない。
「……」
「最初は私もそうだったよ」
クマラにしか分からないが、バラーはひどく落胆していた。
確かにこの果実に触れるのは初めてだったが。きれいに剥いてあなたに食べてもらいたいだけなのにここまで惨敗するとは思わなかった。
だいたいこれくらいを物語っていると理解できるクマラはよれよれになってしまってなお潤い転がる果実を鷲掴んだ。
「お行儀が、悪いかな」
にっこりと笑い、大きく口を開けて頬張った。
「あなたも、反対側からどうぞ」
そうだ、行儀が悪くてもいい。このひとはそんなことで想いを損なったりしない。
向かい側でかぶりついてみる。歯を立てると果肉は崩れてしまうから、途中から吸い上げるかたちになった。まるで、深いくちづけをしているように果汁が溢れて、唇からひげを伝って喉を濡らす。目ざとく見つけた伴侶が果実から離れ、肌の上の滴を吸う。心地よい。
もっとそうして欲しくて、バラーは果実を掴む手に少しだけ力を入れた。溢れた蜜は唇を過ぎ肌へと流れてゆく。啄ばむように吸っていたクマラだったが、不意に、
「ア」
べろりと獣のように大きく舌を出して蜜を、肌を舐めた。
「お行儀が、悪いね」
「…叱るか?」
「もっと、とお願いしてもいいかな」
「承知した」
二人でいたずらを思いついた子供のように視線を絡めて笑い、もつれるように床に転がった。