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  • しじま🥃 Link 人気作品アーカイブ入り (2023/05/10)
    2023/05/10 21:26:29

    jam

    ⚠️設定捏造過多🐯ジャムパロ、事故・バイオレンスな喧嘩描写、呼称の変更

    #彰冬

    more...
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    jam 「あ〜〜〜…やっとかよ……イチ、ニー、サン…」

     歪んだボンネットに胡座をかいた同僚がボヤき、バインダーにペン先をあてがいながら本日の業務の最終確認に入る。

     忙しなく車が行き交う夜の高速道路の玉突き事故。よくある不幸な話だろう。死亡人数は5名の予定であったが、今し方最後の1人の絶命が確認され、魂の回収人数も予定通りだ。

     うっし、と掛け声と共に立ち上がった同僚が空中で手を煽ると、ペンを挟んだバインダーが空間に吸い込まれる。どうやら本部へのレポートの提出が完了したようだ。

     「何でまともに使えもしねぇモンに乗りたがるのか理解出来ねえな」

     ハッと鼻で笑うと軽い足取りでボンネットから飛び降りてくる。横顔を照らすパトランプが彼の目鼻立ちのくっきりとした顔の陰影を濃くする。

    「今日は終わりだよアオヤギクン、お疲れ様」

     眩しさを感じていない表情、そして言葉の冷たさとは裏腹に目の色に嘲笑は伺えない、奇妙な笑みを湛えた同僚がこちらに足を向ける。

     いつもこうだ。
     その声、その表情。
     取り繕う気もない癖に目の前で被る猫の皮。

     「……シノノメ。いつも言っているが死者にはもう少し敬意を払え。お前の言動は、少し、目に余る」

     居心地の悪さに耐えかねて、目を逸らし濡れたアスファルトを眺めながら、出てくる苦言をつい投げかけてしまう。

     「…お優しいよなぁ、アオヤギクンは」

     ぬるくて柔らかい口調とどこか表情を読ませてくれないこの男……シノノメ アキトと組んで仕事をする様になってもう何年も経つ。

     「腹立つくらい、真面目だよなぁ」

     いつの間にかシノノメは俺の目の前で立っていた。
     眼前で目尻を緩ませ微笑んだかと思うと、おもむろに俺の右手の人差し指を取った。
     爪先から第二関節を少し過ぎる辺り、カサついた親指で円を描いていくように、形を確かめる様に。

     (また、だ。)

     何度目かの予感、避けられる筈のその行為。
     今なら間に合うのに何故か俺の意思では身体を動かせない。
     動悸がして、喉が絞られ、息が詰まる。
     静かに浅くなる息を殺してシノノメの表情を伺うが、今回もまたボンヤリと微笑んでいる。

     (お前は、いつも)

     シノノメは数度節くれた指を滑らせると、そのまま俺の人差し指を柔らかく握り込み、そして、

     (何を想うんだ)






     捻り折った。









    jam









     「え〜〜〜!!そんでまたアキトに指折られた訳!?」
     「シノノメ君、どうしてそんな事するんだろうね…」

     本日は前回の仕事でシノノメに折られた指もとうに元通りになったオフの日。
     気心しれた同僚(彼女達も死神だ)と出先で会い、せっかくならと人間の集まるカフェでお茶をする事になった。
     彼女達とは数年前の現場で、シノノメと血で血を洗う大喧嘩した際に鉄拳仲裁をして貰い、それから続く仲だ。

     「で、その後どうしたの?まさかやられっぱなしじゃないよね?」

     グラデーションのかかった長髪を揺らしながら、身を乗り出して目を爛々とさせている彼女、シライシは俺達の喧嘩をどこか楽しんでいる節がある。

     「あぁ。今回は鼻っ柱を叩き折る事に成功したぞ」
     「アッハッハ!!何それサイコー!!見たかった!」
     「あ、あはは……」

     苦笑いを浮かべながらカフェオレの入ったコップを手放さないアズサワは、オドオドとしている様に見えるが、その実かなり肝が据わっている。この話をすると彼女は申し訳なさそうに小さな身体をさらに縮こめるのだが、喧嘩の仲裁に駆け付けてくれた際に、既に満身創痍だった俺達の頭蓋骨を大きな槌でかち割ってK.O.したのは他でもない彼女だ。

     「でも本当に何でだろうね。シノノメくん、意味のない事はしなさそうなんだけどな」
     「んー。そこなんだよねー。なぁんか私達の知ってるアキトのイメージと違うっていうかぁ」
     「そう、なんだろうか」

     シライシは俺よりもシノノメとの付き合いが長いが、シノノメは悪戯に誰かを痛めつけて喜ぶ様な輩ではないらしい。何度めかになるこの相談も、解決の糸口は今回も見つからない…はずだった。

     「一度本人に聞いてみるのが良いんじゃないかな」

     アズサワが控えめに提示してきたソレは、あまりにも簡単なのに、今まで出来ないと決めつけていた物だった。
     なぜならいつも柔く指先を包まれただけで、いつも自分の身体が言う事を聞かなくなって、動けなくなってしまうから。

     「……そう思うか」
     「いや聞いてなかったの???」

     ウケる!!!とシライシが仰け反り笑い、アンちゃん笑いすぎだよとアズサワが窘める。

     「私だったら、アンちゃんにそういう事されたら、悲しいけどまず何でだろうって、理由が知りたいなって思うかなって……」
     「わ、私はコハネにそんな事し〜な〜い〜よ〜〜〜」

     目の前でシライシがアズサワに戯れ付き、アズサワが苦しいよと言いつつも、嬉しそうにそれを享受し、微笑んでいる。相変わらず仲の良い事だ。
     俺もここまでとは言わずとも、シノノメと普通に話せる様にはなりたいものだと、つい届かない眩しいモノを見る目つきになってしまう。

     死神にはモデルとなる実在した人間が居り、その人間の魂を核として人間のカタチを取るらしい。
     言い換えてしまえば、元人間と言っても差し支えない。
     基本的にその頃の記憶は継承されないのだが、アズサワやシライシの様に元々鮮明である者もいれば、無意識に生前の行動をなぞった際に思い出したりする死神達もいるという。

     目の前の彼女達と違って、俺達はとんでもなく仲の悪い人間同士だったのか。
     もしかするといじめっ子といじめられっ子だったのかもしれないな。
     ——シノノメ、お前はいつも何を想っているんだ。

     人間のフリをする穏やかな昼下がり。笑い合う同僚達の向かいの席で、冷めかけの珈琲を口に含む。俺が珈琲を好むのも、人間だった頃の影響だったりしてな。
     しかし慣れ親しんだ苦味が何故か強く舌に残り、僅かに首を傾げた。






     その日は棺に魂を導いて入れてやるという任務だった。回収した魂を正しく死後へ導いてやる手続き。
     時刻は真夜中、田舎の山中、ポツポツとしかない街灯には頻りに蚊だか蝿だかがたかっている。

     火葬場のがらんとした駐車場の空には、本部から送られてきた数多の灯籠と、大小様々なゴンドラが月明かりを浴びながら漂っている。見慣れている俺達死神から見ても幻想的なそれらを、生者は知る由もない。
     ゴンドラには死者達の名前の入った棺が鎮座しており、寂しくないように寒くないようにと生者達の想いで象られた花が敷き詰められている。

     想いに応える様に丁寧に死者の魂を導いてやる。夜に迷い出してしまいそうな不安定な死者達に、もう安心して眠れと、死出の旅路は俺達に任せておけと、少しでも伝わる様に。

     予備用の空の棺の入ったゴンドラをいくつか残して、最後の棺に施錠をし、どうか安らかにと蓋をひと撫でする。

     「アオヤギクン」

     その声に振り返るとシノノメが、柔和な笑みを浮かべながら俺が乗っているゴンドラの外から声を掛けてくる。

     「どうした」

     何かあったのかと少し浮いているゴンドラから降りようとすると、手を差し伸べられた。

     (これ、は)

     反射で手を取ろうと伸ばしかけた腕を寸での所で引き戻す。
     手を取ってしまいそうになる腕を抱きとめる。
     触れられてもいないのに何故だか硬直しそうになる身体を叱咤して、はやくも裏返りそうになる声を絞り出す。

     「……シノノメ」

     手をこちらに伸ばしたままのシノノメが応える。
     表情は先ほどと何一つ、変わらない。

     「なに」

     シノノメ、お前は何を見ているんだ?
     ……お前の目の前に居るのは誰なんだ?

     聞きたい筈の言葉が喉の中で絡まって出てきてくれない。

     「高い所、ダメだったよね?」

     だから、ホラ、と手を差し伸ばしてくる。人好きのする善人の顔を貼りつけて。

     「……ッこれ位は、平気だ」

     咄嗟にシノノメから視線を外して、シノノメの居る反対側からゴンドラを降りる。

     俺が地面に降り立った瞬間、死者の魂を乗せたゴンドラ達はゆるりと高度を徐々に上げ始め、灯籠と共に空へと舞い上がり吸い込まれるようにやがて小さくなっていく。

     何度も見てきたその光景なのに、目を奪われた俺はほぅと息を吐く。
     やっと喉につっかえていた透明な栓が無くなって、肺に冷たい夜風を送り込む事が出来た。久々に呼吸が出来た心地さえする。

     「へぇ、あれ位なら大丈夫なんだ」

     同じくゴンドラを見送ったシノノメがこちらに顔を向ける。

     「あぁ……なぁ、」
     「そっか。面白くねぇな」

     一瞬何を言われているのか分からず、必死に言葉をリフレインする。
     オモシロクナイ、おもしろくない、
     脳が言葉を理解したのと同時に、腹を蹴り上げられる。

     「がっ……ァ………ッ」

     内臓が幾つかイカれた。破裂した。
    逆流してきた胃液やら血液やらで顔をベタベタにしながら、地面に腹を抱えて倒れ込む。
     ピー…ピー…となるおかしな鼻呼吸をふぅふぅと必死で繰り返していると、肩を蹴られて仰向けに転がされる。

     「ははっ!かわいー顔になったな、アオヤギクン」

     嗜虐心を隠し切れないご機嫌なシノノメが良い夜だなァとしゃがんで顔を覗き込んでくる。

     「なぁ、」

     臓器が回復するまでどうにも動けそうにない。今はただ黙って目の前の男をどうしてやろうかと睨み付ける。

     「デートしようぜ」

     ふざけるなと紡ぎたかった音は、はく…と唇が呼気を震わせるだけに留まった。どの口でと思いつつも、声が出てこない。
     ならばと、やっとの事で持ち上げた右手の中指を立て、ぎこちなくとも嘲笑をくれてやる。

     「そうか、嬉しいよ」

     するり、と中指が囚われた。
     いつもはカサついているのに、珍しく気分が高揚しているせいか、しっとりとしたシノノメの掌の中へ。

     (……ま、た)

     それだけ、それだけの接触で俺はまた動けなくなってしまう。

     シノノメは先程のギラついた瞳が嘘の様に、またボンヤリとした微笑みを浮かべて俺の指先を見つめている。付け根から爪先を愛おしむ様に、慈しむ様にそっと撫でる。

     キュッとまた、喉が締まる感覚。
     その頃には俺が力一杯立てた中指なんてとっくに覇気を無くしていて、握り拳は解け、シノノメにされるがままだ。
     一頻り撫でて満足したのか、シノノメが手の動きを止める。

     (く、る…!)

     俺は痛みに耐える為に目を瞑ったが、来たのは別の衝撃で。
     爪先に柔らかいリップ音。
     何が起こったのか信じられず、驚いて目を見開くとそこにはニヤリとこちらを見て笑うシノノメが居て。ガパリと口を開いたかと思うと、そのまま中指の骨を噛み砕かれた。

     「ッ…ぐ………っ」

     俺が痛みに顔を歪めていると、シノノメが見せつける様に舌を出し、己がつけた傷から滴る血をべろりと舐めてみせた。

     「ハッ……っいぬ……みたい、だな……ッ」

     やっと出てきた悪態をつく言葉は息絶え絶えだったが、シノノメが露骨に顔を顰めたので少し溜飲が下がった。しかし、

     「じゃあ散歩してもらおっかな、」

     わん。と可愛らしさのカケラもない鳴き声を寄越したシノノメに担ぎ上げられ、予備のゴンドラの棺へ投げ入れられる。

     「ま、待ってくれ!」
     「じゃあ行こうか」

     これから歌い出すのでは無いかというほど楽しそうなシノノメがそう言うと、俺達を乗せたゴンドラが高度を上げていく。

     …………最悪だ。

     高所の浮遊感、地面がゆっくりと遠ざかっていく感覚があるのに、逃げ出したいのに、仰向けになったままの身体が動かせない。せめてもと目元をカタカタと震え始める両腕で必死に覆い隠すが、根本的な解決に至る訳もなく。

     「はっ……はっ……」

     生理的な恐怖が身体全体に伝播して、どんどんと冷たくなる指先、浅くなる呼吸、吹き出す冷や汗。

     「ふっ……ぐぅ……ぃや、だ…」

     助けを求める声を聞き届けてくれる相手が、此処には奴しか居ない事実が、絶望を加速させる。

     「なぁ見てみろよアオヤギクン、星空、綺麗だよ」

     ヒョイとこちらを覗き込む気配がするが、それどころではない。周りの景色など目に入れようモノなら正気を失ってしまう。

     「っう………お、ろして…くれ……っ」
     「嫌だよ、勿体ない」

     その勿体ないは俺が怖がっているのを面白がる意図なのか、はたまた星空の美しさへの純粋な賛辞なのか。どちらにせよ、きっと簡単には、降ろしてくれないんだろう。
     状況を楽しむ男を恨めしく思いながら、高所に滞在しているという事実から必死に意識を逸らす。

     「な、ら」
     「ん?」
     「気の、紛れる話を、してくれ」

     チラリと腕の間からシノノメを垣間見ると、ばっちりと目があった。
     うーん、と思案するフリをする彼を滲み出した視界で捉え続ける。

     「気が紛れる話の持ち合わせはないけど、ストレス軽減の方法ならあるな」

     ホラ、と言ってシノノメは俺を無理やり棺の中から引っ張り起こし膝立ちさせたかと思うと、正面から抱きしめる様な体勢になった。

     そして俺はシノノメの肩越しに、現在地がかなりの高度だという事を思い知る羽目になる。

     「ぁ…っ!!!」

     己を抱く恨めしい男の首に必死で縋り付く。
     目を強く瞑って、既に視界に収めてしまったイメージを払拭する様にかぶりを振る。

     「も、もう、いやだ……!シノノメ、なんてっ…キライだ……っ」
     「同僚にそんな事言うんだアオヤギクンは」

     傷付いたなーと言いながら背中に回していた腕をシノノメが離す。
     触れ合って熱を感じていた所が外気に晒されて、余計に冷たく感じ、一層恐怖が脳を支配する。

     「ぁっ、腕離すのいやだっ…!」
     「ふぅーん……じゃあ仲直りしよ?」

     茶化すようにシノノメが提案してくる言葉を、脳で処理する余裕もなく肯定する。

     「する、するから…っ」

     そう言うや否や、棺に押し倒された。見えるのは満点の星空と、ギラついたシノノメの顔。

     あ、喰われる。

     そう感じた瞬間に、高所への恐怖がスッとナリを潜ませる。
     何故だか恐怖から解放され急に全身の筋肉が弛緩し、ポカンとした表情を浮かべる俺の顔を見て、これまたキョトンとしたシノノメ。
     次いでぶっと噴き出したかと思うと、くくく…と喉奥で声を殺しながら笑い始めた。

     初めて見る屈託のない笑顔だった。
     シノノメ、そんな顔するんだな。
     俺はこの数年間、お前の笑顔は見た事なかったんだな。

    「アオヤギクン、そんな顔もするんだな」
    「いや、お前こそ、笑うんだな」
    「はぁ?オレはいつでも笑顔だろーが。お前はいつも鍍金でも貼ってあんのかって位、おキレーなツラ、動かないけど」

     そうか…?と思案し始めた俺を他所に、まぁいいけどよと前置きしたシノノメが、すっと悪い顔になってじゃあこれから仲直りなと顔を近付けてくる。
     仲直りって、なんだ。

     しっとりと唇同士が重なり、離れる。
     真剣な顔つきのシノノメに、目ぇ閉じろよと少し掠れた声で告げられ、今度は唇を優しく食まれる。
     俺はこれからついに喰べられるのか?
     なぁ、シノノメ、

     「しの、」
     「アキトって呼べよ」
     「……アキト」
     「ん、なぁにトーヤ」
     「ぁ……ぅ……ん……」

     耳元で吹き込まれた声に背中がゾクゾクして、変な声が漏れる。
     シノノメ……アキトはその度に可愛い可愛いとキスを降らせてくるので、恥ずかしくて堪らない。
     顔が火照って情けない様相になっていると思うが、取り繕う余裕がない。

     「舌出して」

     両手で耳を塞がれ、言われるがままに舌をチロリと出すと、アキトの肉厚な舌を這わされる。口内に割り入ってきたアキトの舌が、上顎や歯列をなぞる。たまに吸われる舌や、好き勝手に口腔を犯される水音がダイレクトに脳内に響き渡る。

     「はぁっ……ちゅ……ン……」

     急所を晒す恐怖などではなく、支配される心地よさにひたすら身を委ねる。半身が戻ってきた様な感覚に恍惚し、夢中で涎を分け合う。
     俺は今まで寂しかったのか、と冷静な部分が熱に浮かされた事実を突きつけてくる。
     初めての感覚に囚われながらも、息が苦しくなってアキトの胸元をドンと叩くと、名残惜しそうに絡まりあった舌同士がゆっくりと解かれていき、最後に空気をフッと吹き入れる悪戯をされたかと思うと、唇が離れた。
     糸を引いて離れていったアキトの濡れた唇をうっそりと見つめ、物欲しくて堪らなくなり、そして、

     ゴトリ、と船底が何かにぶつかる音がして、ハッと我に帰る。
     棺から上半身を起こすとゴンドラは元の駐車場に着陸していた。
     ……いきなり現実に引き戻された感覚と、仕事中に同僚と盛り上がってしまった気まずさを見て見ぬ振りする為に、アキトへ声をかける。

     「これで、仲直り、出来ただろうか」
     「……え、あぁ、おう……?」

     ジト……とアキトを睨み付けると、悪かったって、とさして反省していない謝罪を投げられる。
     口元を手で覆って眉間にしわを寄せて、努力して緩みきった表情筋を元に戻そうとしているのが、なんだか可愛いらしい。
     ——今なら、聞けるだろうか。

     「アキト」
     「なんだよ」
     「ずっと気にはなっていたんだが」
     「おう」
     「何で俺の指を傷付けるんだ?」
     「………」

     アキトは黙り込んだ。
     しかしそれはダンマリを決め込みたい様子などではなく、言葉を探しているようだった。

     「オレは、お前が」

     アキトはそこで言葉を止めて、目を瞑る。
     スッと息を吸い込み、こちらを見据える。

     「望んでいる様な、気がして」

     目を見開いて固まった俺を見たアキトは、いや、忘れてくれ、だかなんだかモゴモゴと話していた。堂々と飄々としていない彼はどうも、らしくない。

     しかし同時に腑に落ちる感覚があった。
     そうか、だから拒めなかったのか。
     そもそも根本から思い違っていた。
     動けなかったんじゃない、いつもアキトを口実に『動かなかった』。
     俺が…アキトに求めていたのか、でもそれは、なぜ?

     「いつも痛そうな顔しながらお前、なんかホッとした顔してんだよ」

     黙り込んだ俺にアキトが言葉を続ける。

     「初めて気付いたのは、荒れかけた魂おっかけて、片腕持って行かれてた時だな。」

     覚えている。焼ける様な痛みと、全身にびっしりと滲む脂汗の感覚を、今でも。まだ組んで間もない頃にやらかした大きな仕事だったから。でもそれだけじゃない、あの時、片腕を飛ばした以上に衝撃だったのは。

     痛みに薄れそうな意識の中、確かに脳裏で、
     「これでもうひかなくていい。」と幼い自分が膝を抱えて静かに泣いていた事。

     ——アキト、ずっとお前だけがこの子を見つめ続けてくれていたんだな。

     「何背負ってんのか分かんねぇけど。お前が安心できる時まで、オレが居るから」

     相棒だからな。
     俺の前で繕うのは辞めた、彼の力強い言葉がそのまま心臓を鷲掴む。

     「相、棒…………」

     口の中で彼の言葉を噛み砕き、咀嚼する。アキトから初めて聞かされたその言葉、関係性。そのはずなのに酷く耳馴染みが良くて。

     アキトが、俺を、掬い上げてくれるのか?
     ——出会ったあの時みたいに
     何が原因か分からないのに?
     ——逃げてきた中途半端な俺を、お前は
     時間も痛みも全部無駄になるのかもしれないのに?
     ——でもあの頃みたいに最高の

     次々と記憶が、意識が、混濁してくる。それでもアキトの射抜く様な視線が、もう逃すものかと雄弁に伝えてくる。これでは俺が諦めてもアキトがきっと離してくれないんだろう。

     なぁアキト、もし俺がこの心地よい呪いから解かれる時がくれば、それからは、ずっと。


     棺の中で交わっていよう。
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