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    2023/05/10 21:35:31

    ボーイ・フレンド

    ⚠️年齢操作、飲酒描写

    #彰冬

    more...
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    ボーイ・フレンド その夜は大きめのハコでのライブ後で4人、興奮冷めやらぬまま浴びる様に呑んだ日だった。成人してから何度目かになるWEEKEND GARAGE貸切での勝利の祝杯で、明日は全員オフともなればハメも外れるわけで。

     今晩のライブのどこが良かったかを肴に呑んでたハズの杏とオレが、どちらの相棒が最高だったかでヒートアップして結局ショットガンで潰し合ったり(今回はオレの勝ちだった)。
     少し離れたテーブルでは、顔を真っ赤にしながらもグラスを手離さずにチビチビと酒を舐め続ける冬弥を見て、酔って真っ赤なこはねが変な方向に気を利かせて延々と冬弥の分の酒を注文し続けるという地獄絵図だったが、もっと息抜きの仕方も4人で覚えてけって事なのか謙さんは楽しそうに見守ってくれていた。

     カウンターに突っ伏した杏(泥酔)にヨロヨロと近付いて来たこはね(完全に出来上がってる)が、プルプルと小刻みに震えながら「あんちゃんがぁ…あんちゃんがぁ…」とさめざめと泣き出したのを見て、ヘラヘラとライムを齧りながらひとしきり謙さんと笑った後に、そういえばこはねと呑んでた冬弥は?と姿を探して振り返ると、大切な相棒が雑にソファに転がされているのが視界に入りギョッとする。

     「と、冬弥っ!!?」

     こちらからはアームレストからはみ出す長い足しか見えず、椅子から転げ落ちる様に慌てて駆け寄ると、すーすーと幸せそうに眠りこける姿。
     顔は真っ赤だが表情は辛くなさそうなのでひとまずホッとしていると

     「彰人も嬢ちゃんの事笑えないなァ!」

     ——後ろから謙さんの茶化す声が響く。
     「うっせ!」と上擦った声で咄嗟に言い返すと、アッハッハッと鷹揚な笑い声が返ってきた。
     これでは本当にこはねのことを笑えやしないなと、取り乱した恥ずかしさを誤魔化す為にも、目の前で寝こける冬弥の鼻を腹いせに摘むが、眉間にシワを寄せるだけで起きる気配はない。
     心を掻き乱してきた相棒本人は「あず…さわ…も……のめない…」などと呑気に寝言を呟いていた。



     2人ダウンしたのでお開きの流れになり、こはねは白石家に泊まるらしいので、杏とこはねを残してそのまま冬弥と店を後にする。肩を貸し夜風にあたりながら歩くが、足元がおぼつかない冬弥が1人で家に帰れるとも思えない。
     お互い今はひとり暮らしで一晩家に帰らなかった所で心配をかける相手も居ないので、とりあえずオレの家に連れて帰るからなーと声をかけるが、生返事しか寄越さない力の抜けた重たい相棒。

     ここまで冬弥が潰れる事もなかなかないので、はしゃげる様になったんだなと、珍しい姿につい嬉しくなってしまって。
     ライブ後の酒で焼けた喉を使って掠れた歌(選曲は何故かト●ロの某曲だった)を小声で口ずさみながら帰り路を進んでいると

     「ふっ………ふふ……ずいぶん、じょーずな歌だな…」

     冬弥が小刻みに震えだし、水分の溜まった目でオレの顔を覗き込む。
     いや聞いてたのかよ、恥ずかしーわ。

     「ったりめーだろーが。オレを誰だと思ってんだ」
     「ふはっ…そうだな……俺の、あいぼーの、しののめあきとさんだ」
     「そうだぞー。こんな良い男の肩借りといて、子守唄まで歌って貰う気分ってのはどうなんだ、とーやさん」
     「くっ…ふ………そ、そうだな……」

     照れを隠す為の戯れに投げた言葉に返される、最高だな、と呟く言葉が酒気の帯びた呼気と共に白い息となってふわりと消えていく。
     少しだけ酔いの覚めたらしい冬弥がひとつ咳払いをすると、ブレた声色でさっきの続きを歌い始めたモンだからおかしくなっちまって、千鳥足の男2人、肩を組んで歌いながらしばらく夜のさんぽと洒落込む事になった。



     玄関の鍵を差し込む頃にはもう1人でしっかりと立っていた冬弥が、思い出した様に「急に泊まりにきてすまない」とかしこまり始めたので思わず笑ってしまう。

     「ンなコト良いって。散らかってるけど、ホラ」
     「……そうか、おじゃまします」

     嬉しそうに家主より先に部屋に入った冬弥は、靴を揃えると勝手知ったるといった様子でズンズンと中へ入っていく。

     「風呂沸かしてくるけど、適当にしてていいから」
     「あぁ。ありがとう」

     リビングに背を向けて廊下に戻るとカチャカチャと音が聞こえ始めたので、水でも呑むのだろう——
     ……と思っていたのだが。
     風呂の準備と軽い家事をせっせとして、いざ相棒の元へ戻ると、いつかメイコさんから貰ったウイスキーを片手に、グラスの氷をカラリと鳴らして大層ご機嫌になっていた。

     「お前なぁ…」
     「あきと」

     ちょいちょいと手招きをした冬弥の向かいへ呆れながら座ると、物言いたげな瞳でジト…と見つめられ、こっちだと言わんばかりに隣をポンポンと叩いて移動を催促してくる。

     「わぁーったよ」

     酔っ払いめ、と渋々の体で隣へにじり寄ると、ん、と頭を差し出してくる相棒。
     いつかのライブの後に頭を思いっきり撫でられたのが嬉しかったんだと吐露されたのは成人してからで、それこそ初めて酔った時だったと思う。

     「お疲れさん、とーや」

     ふざけ半分、だが労りは十分に込めて頭を両手で思いっきり撫で回す。くすぐったそうに目をつぶる相棒から漏れてくるくふくふという笑い声と、ウイスキーに溶け始めた氷がカラカラとたてる音が耳に楽しい。
     サラサラと髪が指先を通る感覚を楽しんでいると、

     「あぁ、ありがとう」

     じゃあ今度は俺の番だなと、グラスをテーブルに置いた冬弥の腕が伸ばされてくる。
    これもいつからか始まった冬弥からの労いで、最初は小っ恥ずかしかった筈なのだが、今となっては吸い寄せられる様に相棒の肩に額を預けられる。

     「今日もありがとう、彰人」

     大切なモノを囲う様にそっと頭を抱きしめられ、冬弥の腕の中で長く息を吐く。
     拘束とは言えない相棒の用意した軽すぎる檻の中で、外面用のスイッチだったりパフォーマンス時の思考回路のスイッチだったりが一気にブレーカーダウンして、意識が1日の終わりへ向かっていく。安心感と心地良さをもっと感じていたくて、のそりと細腰に腕を回して触れ合う面積を増やしていく。

     「今日は甘えたさんだな」

     アルコールでふわふわした様子の冬弥が頬擦りしてくるのが、ワックスで固めた髪がゴワゴワと動く感覚で伝わってくる。自分からやっておいて「ちくちくする」と他人事の様に呟いたのが面白くてフッと小さく噴き出す。

     ホラおしまいだと言わんばかりに呆気なく冬弥の腕が離れていこうとするが—その夜はもっと近くにいて欲しい気分だったので。

     無言で体重を移動させながら回した腕を持ち上げて、腰から背中に掌をゆるりと這わせる。

     「こら、こそばゆいぞ」

     なんだか小さい子を嗜める様な声色にくすぐったくなって、誤魔化す様に身を震わせた冬弥の脇腹をくすぐる。

     「こらっふふっあきと!」

     血流が良くなって敏感になっているのか、ふにゃふにゃと脱力してすぐに床に横になった冬弥に追撃をかけていく。

     「なんだ、酔っ払いの、とーやさん!」

     ばかやめろとペシペシと軽く手を叩いてくるが構わずにくすぐっていると、身を捩った際に捲れたシャツの下に手が滑り込む。

     「んぁっ……!」

     冷たい手の侵入に驚いた冬弥から聞いた事がない高い声が上がったのに固まっていると、本人も目を白黒させていた。
     朱に染まった目元の銀を潤ませて、口元を咄嗟に抑えた冬弥の表情が、酔っ払いの目にはどうにも煽情的に映り—悪戯を辞めるタイミングをなくした不埒な手を、そのまま肌触りの良い皮膚の上に滑らせていく。

     「なぁ、今の声」
     「っこら……ぁ……っ」

     指を這わせる度にピクピクと反応する冬弥の先程とは明らかに違う、色のついた掠れ声が部屋の湿度を上げていくのに堪らなくなって、もっと聞かせろと思わず出てきた濡れた声を耳に直接吹き込む。

     「あきとっ…!んぅ……っほんと………ぁっだ、めだ…」

     みっともなく大きく捲られちまったシャツ、可哀想に寒いだろうな、息もあがって、泣きそうな顔して、ほんとうに、誰のせいだろうな。

     「ふぁ………や、めろ…も…っ……こらっ…も、いい子だからっ……!」

     先程の子供扱いがまだ抜けきっていないのも今は煽られている様にしか感じなくて、まだ引き返せる筈なのに、抑えるほどに欲がどんどんと流れ出して、歯止めが効かなくなっていく。
     これ以上はダメだと警鐘を鳴らす理性と睨み合いながらも、動きを止められない汗ばんだ手が冬弥の決して膨らみのある訳ではない胸を湿りを纏わせながら撫でる。

     「っん、ぅ……ぁっ」

     勃った飾りを気まぐれに摘むとびくりと大袈裟に肩を震わせて、更に顔を赤らめてみせた。

     「かわいー声だな」

     とーや、と蜜を煮詰めた様な声が口からとろとろと、組み敷いた男に垂れて耳介を侵していく。

     もっと冬弥を感じたくて顔を寄せると、グッと不意打ちで力一杯抱きしめられる。

     「……なんてかおしてるんだ」

     先程までの蕩けた声の余韻が抜けないまま、まろい呂律で紡がれる音に耳を傾ける。

     「……どんな顔」

     さぞかしギラついたみっともない顔を晒しているんだろうなと、笑えれば良いのだが、今は決してそんな余裕はなくて、だってオレは、

     「待て、してる顔だ」
     「………」

     至近距離で見つめ合っていると腕の拘束が緩んだので、ゆったりと今にものしかかろうとしていた上体を持ち上げると、目を伏せて言葉を紡ごうとしている冬弥の姿。

     「彰人は……その…」
     「…うん」
     「俺と…」

     ………シたいのか…?と控えめに続いたセリフに頭を殴られた様な衝撃を受ける。
     じゃれあいのつもりが相棒を押し倒して、盛ろうとして、でも踏み込みきれない、そんなもどかしさを確かに抱えていて。
     というか、オレ、冬弥の事そういう目で???
     本能に突き動かされていた事実を思い知り、今更ながら思い当たる節々。
     —堪らず顔へ急速に熱が集まっていく。

     「えっ…と…」
     「…………おう」

     くしゃくしゃのシャツをそろそろと戻しながら起き上がった冬弥が、様子のおかしい情けないオレにつられる様にしどろもどろになっている。

     「さ、流石に、そんな顔をされると……それが答え、というかだな」
     「…………………………ハイ」

     ダッッッッセェ………………!!!!!
     思わず頭を抱えたくなるが、これ以上は失態を晒したくないので奥歯を噛んで黙るしかない。

     「彰人にそういう対象として見れられているのは、その、知らなかったな…」

     花が綻ぶ様にと言った表現がしっくりくる様に微笑み、どこか恥じらいの表情を浮かべる冬弥から目が離せず、ドクドクと血流がまたやかましくなるのを感じる。……というか、

     「嫌じゃねぇの………?」
     「あっ…いや、あの、それ…は」

     矢庭にパッと思い切り後ろを向いて顔を背ける冬弥が、うなじも耳も真っ赤にしながら小声で爆弾を落とす。

     「………ウレシイ、かもしれない」
     「〜〜〜ッッ」

     今度こそオレは顔を覆ってデカデカとため息を吐いた。
     部屋には真っ赤になった大の男がふたりきり、桃色の空気の中黙りこくっている。
     誰かいっそ指差して笑ってくれと、今まで感じた事のないどこか浮ついた落ち着かない空気の中で言い出しにくそうに、でもダンマリを辞めたのは冬弥の方で。

     「あ、彰人」
     「……………………な、に」
     「……………その……しない、のか?」

     続き、という言葉が出たタイミングと同時に勢いよく待ってくれのハンドサインを送る。
     タイムだ!タイムを要求する!

     「……なんなんだ」
     「いや、お前」

     オレに身を委ねる事に抵抗のない相棒に愛しい気持ちが込み上げてきて、口元がニヤけそうになるがそれをグッと堪える努力をする。

     「筋は通す……今更だけど」

     改まった様子で見つめると、何やらオレが真剣だという事が伝わったらしく、冬弥も畏まった様子で向かい合ってくれる。
     声が情けなく上擦らない様に、深呼吸をひとつ。

     「好きだ、冬弥。オレと」

     ——火照った顔のまま続けようと思った言葉は、飛び付いて来た相棒に打ち消される。
     最後まで言わせろよと出てきかけた文句も「俺もだ」とじんわり肩口を濡らす相棒の頭を撫でている内に溶けて消えていった。

     手持ち無沙汰を装って冬弥の入れたウイスキーを煽ってみせるが、心臓は痛いほど喚いているし、指先は震えちゃいないだろうか。

     「とーや、そろそろ顔あげて………あー…明日腫れるぞコレ」

     濡れそぼった目元をするり撫でると気持ち良さそうに目を瞑るものだから、誘われる様にそのまま唇を奪う。しっとりと重ねるだけのキスがどうにも名残惜しくて、もっと味わいたい。柔らかいだけの感触じゃあ物足りなくて、チロリと冬弥の唇を控えめに舐めてから、離れる。

     「……手がはやいな」

     余韻に溺れる様な吐息だけの文句と、隠しきれちゃいない瞳の奥の期待感に、一旦は消えたはずの欲求がまたチラチラと腹の中に灯りだす。

     ——オレの知らないコイツがいなくなるまで、もっと暴いて、余すとこなく喰っちまいたい。

     「全部、見せろ」

     余裕なく掠れた言葉を吐き出すと共に引き寄せられ、ぶつかる様に喉元に噛みつかれたのが答えだった。



     その夜、オレ達が初めて歌以外で交わった夜。
     1度目のキスはウイスキーの味。
     2度目のキスは噛み付く様なキスを。










    ボーイ・フレンド
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