邪竜の城に響く悲鳴黒雲が垂れこめ雷鳴がとどろく空の下。
それにピッタリなイメージの邪竜の城。
たまには晴天でもいいと思うけど悪の城ってなぜかいつも天気が悪い。こうジメジメが続くとカビが生えやすくて困るな。
邪悪なレッドドラゴンが住むこの城の中で、何かを急ぐ足音が奥へと向かっていく。
ワーウルフ(以下ワ)「た、大変です!ドラゴン様っ!」
毛むくじゃらの小男が城の主、ドラゴンのいる広間へと駆け込んでいく。
ドラゴン(以下ド)「フム…こんな夜更けにどうしたのか?ワーウルフよ。」
広間の中にはワゴン車ほどもあるレッドドラゴン!この城の主である邪竜が鎮座している。
その尊大かつ他を圧倒するオーラは悪のカリスマという言葉がふさわしい(自筆のプロフィールより)。
ワ「そ…それが…」
ワーウルフの表情は恐怖にこわばっている。
そして息を整えながらの報告は恐ろしいものだった!
ワ「だ…台所で怪しい物音がっ…!変な音がします!!!」
その報告にドラゴンさんはハエタタキを取り出して、ワーウルフの頭に振り下ろした。
ペチリ!
ド「おまえここ邪竜の城だぞ?大変のレベル低すぎるだろ!新婚家庭の若妻かよ!」
ペチペチ!
ドラゴンさんは不機嫌そうにハエタタキを振り続ける。
そりゃあ、そんなことで騒いでたら邪竜の権威ガタ落ちだよな。
ワ「だ…だって、なんか気持ち悪いじゃないですか!化け物だったらどうするんです!」
いや、おまえ自身化け物じゃん?
ド「まあよかろう…余も小腹が空いたのでちょうど台所でカップ麺でも作ろうかと思っていたところだ…ついでに見てくるわ。」
ドラゴンさんが巨体をゆすりながら部屋を出る。夜食は太るぞ。
それを見送るワーウルフ。
ド「む!ワーウルフよ!何をそこで突っ立っておるか?ついて来るがよい。」
ついてこようとしないワーウルフをドラゴンさんが睨みつける。
ワ「え!あっしも行くんですかぁ~?」
すっかり及び腰のワーウルフにドラゴンさんは一言ボソッとつぶやいた。
ド「…とんでもない怪物がいたらイヤだろ…。」
真っ暗な通路をヒタヒタと歩くモンスター二体。
所々ゆらゆらと揺れるランタンの明かりが不気味さを演出し、吹き込んでくる風の音が通路に響き渡って悲鳴のようにも聞こえる。
ド「うむ…邪竜の城だから当然の演出と思っていたが…正直言って住んでる我らも少し気味悪いよなここ。隙間風入るし、不便だし。」
なぜ世の中の悪党はもっとコンフォートな住環境を求めないのだろう?
ドラゴンさんの声もどこか心細げだ。
ワ「できたら壁紙だけでも花柄とか明るい雰囲気にできませんかねえ…。」
ぺチリ!
ドラゴンさんの怒りのハエタタキが再び叩きつけられる。
ド「改築案はともかく…毛深い中年男の感性が若妻っぽいのは許せん…。」
ワーウルフのビジュアルはほぼ「ウォーでがんす」のあの料理人。
確かにそれは許せない。
超くだらない会話をしながら二体のモンスターは台所前へとやってきた。
ド「酒臭いな…なるほど、わかったぞ。ネコでも入って酒瓶を転がしたんだろう。間違いない。」
真っ暗な台所前で伺うように中をのぞきながらドラゴンさんが呟く。
確かに中で時折カタカタと何かなる音がするが…。
ワ「だといいんですけど…ギャーッ!!!!?」
絹を裂くような悲鳴にドラゴンさんの巨体が一瞬揺れる。
それにしても毛深い中年男がそんな悲鳴あげるなよ。
ド「どうした!?何があった!」
ワーウルフは床に尻もちをついて壁の一点を指さして震えている!
ワ「ゴ…ゴキブリ…!」
ぺぺぺぺぺぺぺ!!!
ドラゴンさん怒りのハエタタキ連打!
ペペーン!
ワ「ちょ…痛い痛い!叩くのあっちでしょ!あっち!」
無論叩かれたのは黒い悪魔ではなくワーウルフのほう。
うん。そりゃそうなるわ。
ワ「ほら…逃げられた…。」
ド「逃げられた!じゃねーよ。女みたいな悲鳴上げやがって!さっさと台所の中を見てこい!」
ドラゴンさんがハエタタキで台所の奥を指ししめす。
ワ「わかりましたよ…せめて電気だけでも…。」
ワーウルフが壁のスイッチを押すと台所の中が明るくなった。
二人とも暗視能力あるんだけどな…暗闇怖いのか。
台所は広く雑然としていて食材や食器、調理器具の他にも読みかけの雑誌や菓子袋などが散らかっていて、いかにも男所帯といった感じ。
奥の方が見渡せないので見に行くしかない。
ド「安心しろ。ぶっちゃけこのシリーズに登場人物まだ3人しかいないんだから、予想外の相手に出くわすことはほぼない。」
ぶ、ぶっちゃけすぎ!
…って、それってネタバレじゃん?
登場キャラが口にしていい言葉なのか?それ!?
ワ「まったく…人遣いが荒いんだから…」
恐る恐る台所の中へと入っていくワーウルフ。
転がった酒瓶、一つ、二つ、奥の方にはもっとあるのが見える。
どれも空っぽだ。
ワ(やっぱ猫じゃないよな…猫が酒瓶を空けるわけないっしょ…)
そして台所の中ほどまで来た時、冷蔵庫の扉にぼんやり誰かが写っているのを見て息をのんだ。
壁にもたれかかり、何かを手にして両足を投げ出す人影。
テーブルの向こうに誰かがいる!
ワ(…怖い人ではありませんように…)
そっと覗き込んだワーウルフが見たもの…
片手に酒瓶をもって時々それを口に運んでいる…。
スラリと伸びた美脚に明るいオレンジのパンプス。
同じくオレンジの短めのスカート、白いスーツに白い手袋…胸には青い、頭には赤いリボン…。
読者はおそらく見たことがある。
果たしてドラゴンさんや読者の予想は当たるのか?
ワーウルフは相手を確認すると、ドラゴンさんのほうに向きなおった。
ワ「ドラゴン様、台所の奥でセーラー戦士が酒飲んでます。」
ワーウルフの肩に支えられるようにして台所から出てきたセーラー戦士!
とっても衣装が似合ってはいるが、耳が尖っているのが本物とは違うね。
片手に酒瓶をもち、かなり飲んだ後なのか目が座っている。
美少女戦士というより、酔っ払い戦士。
ド「ネコはいなかったがトラがいた…。」
渥美清のことではないよ。酔っ払いのことをトラって言うんだ。
ワ「エルフさん…なんなんですか?その格好?」
セーラー戦士を台所の椅子に座らせながらワーウルフは気がついた。
ドラゴンさんの身も蓋もない予想的中!
この美少女戦士はこのシリーズのわずか3人の登場人物のうちの1人、エルフさんだ!
…やめろよなネタバレ。
過去作未読の読者のために紹介しておくと、エルフさんはドラゴンに拉致された姫を助けにきて、姫に拉致されたかわいい冒険者。
一応シリーズのヒロインポジションにいる男の子だ。
意味がわからねえ?
俺だってそう思うけど本当にそうなんだよ!
ド「そういや、姫からエルフを等身大着せかえ人形にして遊んでるってメール来てたな…その格好で脱走してきたのか…。」
それにしてもこのエルフ、男なのに美少女戦士が似合いすぎ。
エルフの細くて繊細な体格が少女漫画系キャラと相性バッチリ。
その上足が長くてきれいだから足の露出が多いセーラー戦士の似合うこと…。
でも、そんな格好してたら大喜びする変態さんがこの城にはいるんだぞ?
ド「フッフッフッ…。まさしく飛んで火にいるなんとやら…。」
ほらw
すでに満面の笑顔。
セーラー戦士コスプレの男の娘をグッチョグッチョに虐めてヒーヒー言わせたいって顔に出ちゃってる。
早速ワーウルフに小声で耳打ち。
ド「…お前、3番通路の落とし穴の安全装置外して触手モンスター入れとけ。後でこいつ連れて行って落とすから。」
ワ「ヘッヘッヘッ…ドラゴン様もそういうの大好きですよね~。」
ようやくできた悪党らしい会話に喜ぶ二体のモンスター。
さっきまで台所の物音にビビっていたことは忘れてあげよう。
ド「うむ。準備ができたら戻ってくるがよい。それまで時間を稼いでおく。」
エルフさん(以下エ)「うぃー。僕の服と装備どこやったんだよ…ヒック。」
なるほど、前の話でここで着替えてから出て行ったよね…それを取りに来たのか。
ド「あ~。わかったわかった。余がそのあたりを探しておくから、君はそこで酒でも飲んでなさい。」
男の娘コスプレ触手変態プレイができるとあって、ドラゴンさんは上機嫌のウッキウキ♪
マジ邪悪(変態とも言う)な竜だよな。
時間を稼ぐため、台所でゴソゴソと探すフリを始めるドラゴンさん。
ド(見ておれ…もうすぐそのかわいい顔を恐怖に歪ませ、悲鳴をあげさせてくれるわ。フッフッフッ。)
ド「ぎゃああああっ!?」
顔を恐怖に歪ませ、悲鳴をあげるドラゴンさん。
ド「…これは先月、部下への差し入れに買ってきたミスド!台所においたまま忘れてたわ。ぐおおおお…カビで全部抹茶味みたいな色になっとる…。」
それは想像するだけでも恐ろしい。
エ「…でさあ…姫がエルフなんて近頃普通で珍しくないとか言うんだよぉ…」
エルフさんは出来上がって愚痴垂れ流し状態。恐ろしい。
ド「…いやいや、おまえは結構特別だと思うぞ?だって今の余はセーラー戦士に酔って愚痴られるドラゴンという、たぶん世界初の体験してると思うし…。」
嫌な世界初もあったもんだ…。
ド(…あいつ、飲むと面倒くさいタイプだったのか…ワーウルフよ、はやく戻ってきてくれ…。)
適当な返しでいつまでしのげるのか?酔っぱらいの相手は恐ろしい。
ド「ぐぬおおおおっ!?」
再び台所の探索のフリをはじめたものの、また顔を恐怖に歪ませ、悲鳴をあげるドラゴンさん。
ド「3ヶ月前が返却期限のレンタルビデオ…何故ここに!?」
それは…延滞金えげつないな。恐ろしいにも程がある。
その時、ダン!という音を立てて、エルフさんがテーブルを叩く!
エ「…だから料理ネタはすでにダンジョン飯があるから…って言うんだよ!」
どんどん面倒くさくなっていくエルフさん、恐ろしい…。
ド「あの…探すのに気が散るから、もそっと静かにしててもらえると余は嬉しいんだけど…お腹へったでしょ?なにか食べる?」
酔っぱらい対策で食べ物で口を塞ぐのはおすすめしないぞ。
後で戻しちゃう可能性があるし。
エ「あ~。そこにあったバナナもらって探索中食べてたからお腹はイッパイ~。サカヅキ上げてもうイッパイなんちて…ハハハ!」
エルフさん、前も頭に衝撃受けて少し変になってたし…シリーズ通して正気を保っていることが少ない気がする。
こんなのがヒロインポジションでいいんだろうか?
ド(ワーウルフよ…一体何をモタモタしておるのだ!)
イライラを募らせながら探索のフリをするドラゴンさんが今度は郵便物に目を留める。
消印が今日のところを見るとこれは午前中の配達だろうか?
勝手口が近いからって、なんでも台所に持ち込むのはやめたほうがいいぞ。
ド「何やら姫のサークルから同人誌の見本っぽいのが来ておるな。」
ドラゴンさんが拉致してきた姫はやおいサークルを主催している腐女子でもある。
多種多様な性的趣味を持つドラゴンさんは今や読者の一人。
ド「エルフよ、これ読ませてやるから少し静かにせい。」
その少し前、ワーウルフは奈落のような深さの落とし穴の縁に手をついて、その中で蠢く不気味な触手モンスターを見下ろしていた。
ワ「いつ見ても不気味なヤツですねぇ…あんなのに絡まれるなんて御免被りたいです。さて、落とし穴の床を戻さないと…。」
立ち上がろうとしたワーウルフは、なぜかそこに落ちていたバナナの皮を踏んだ。
あとはもうお約束の展開!
ワ「ぬおおおおおっ!?」
足を滑らせたワーウルフは悲鳴とともに触手モンスターの穴へと落ちていった。
いったい誰がこんなところにバナナの皮を?
皆は食べ終わったバナナの皮はきちんとゴミ箱へ入れような!
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舞台は再び台所。
ガチャアアアン!
ドラゴンさんが尻尾でひっかけた何かが床に落っこちて、派手な音を立てる。
まあその巨体で片付けてない台所をウロウロするとそうなるよな。
ド「あ~やっちまった…。」
床でバラバラに砕けた土鍋を見てドラゴンさんはちょっと落ち込んだ顔をする。
そしてその破片を手に取って青ざめる。赤竜だから紫色?
ド「こ…これは…確か…7万8000円もした伊賀焼きの超高級土鍋では!?」
一方のエルフさん。
冊子小包を開けて中身を取り出してみる。
中身はビニールで包まれた薄い本。早速袋を破いて表紙を見る。
初めて見る本なのに表紙の人物にはなんとなく見覚えが…。
エ「アハハハ…なんだこれぇ…?え~と…男の娘エルフ恥ずかしコスプレ写真集…?」
すごい勢いで酔いが覚めていくのは何故だろう?
パラリと一枚めくると…そこにはバニーガール姿の自分の写真。
思わず椅子から転げ落ちるセーラーヴィーナス…姿のエルフさん(男)。
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ワ「ふぎゃああ…おほぉぉぉぉ!そこはダメぇぇぇ!!!」
ド「ぐぬおぉぉぉぉぉっ!!!」
エ「な……っ!?なんにゃこりゃぁぁぁぁぁ!!!」
今日もドラゴンさんの城は賑やかです♪(悲鳴で)
-----終了-----
ピコン!(通知音)ワーウルフは新しい性癖に目覚めた!